訪問
「ご、ごめんなさい!私、他に好きな人いるの。」
と、これでオレの恋は終わった。
二年時から同じサークルにいる楓さんに俺は恋を抱いていた。
しかし、その恋は今こうして終わったのだ。
バイトで忙しく、たまにしかサークルに顔を出さない俺なんかより、もっとなかよくなった男が彼女にはいっぱいいるのだろう。
でも、これで踏ん切りがついた。
俺はもう大学4年になったのだ。ちゃんと就活しなければならない。
(よし!これから就活に集中するぞ!)
と、自分に言い聞かす。
だが、やはり好きな子にふられるのは悲しいことだ。
俺の名前は佐川竜也。大学4年になったばかりだ。
生憎、さっき好きな子に思いを伝えたが、その思いは散ってしまった。
気を落としながらも、下宿のアパートへ帰ってきた。
そして、玄関の棚に飾ってある家族写真に「ただいま」と声をかける。
写真には俺と両親が笑顔で写っている。
母さんは俺が大学入学する直前に癌で亡くなった。
俺は母さんになにもしてやれなかった。小さい頃は自分勝手に遊びほうけ、思春期には日に一度も話さない日があるようになった。
しかし、高校3年の時に母さんが癌で入院してからは目が覚めたようで、毎日お見舞いに行き、今まで話してなかった分を取り戻すくらいに話をした。
その時間はとても心地よい時間だった。
だが、母さんの容態はどんどん悪化していき・・・
亡くなってしまった。
俺は母さんがこの世からいなくなって、やっと愛情を感じることができた。あまりにも遅かった。もっともっと早く、母さんのこの優しさに気付いてあげれば、自分でもなにかできたはずなのに!
そう悔みに悔んでも止まらない涙を流す俺の肩に父さんの手がおかれる。
「竜也、母さんは死ぬ間際でもこんな家族をもてて幸せだったって言ってくれてたんだ。そんなに泣くな。俺だってホントは悲しくて悲しくて仕方ない。だがな、母さんが言ってたろ?幸せに生きてくれって。そんな母さんの最後の願いを俺たちで叶えてやろうじゃないか。」
「う、うぅぅ」
父さんは町の工場で働いている。
けっして給料がよいわけでもなかったため、母さんもパートで家を支えてくれていた。
しかし、その母さんを失ったとき、家計を支えるため俺は大学へ行くのをあきらめ就職しようとしたが父さんが反対した。
「ど、どうしてだよ!?俺も働けば、家も父さんも助かるじゃんか!!?」
父さんはそんな俺の言い分も聞かず、
「お前は本当にそれが望みなのか?ずっといきたかった大学に受かった時、あんなに喜んでたじゃないか。」
「あ、あれは母さんがまだ生きていて、家計的にもぜんぜん安心できてたからだよ。今はちがう!母さんはもういない・・・。だから、俺がその母さんの穴埋めを」
そう言いきる前に、父さんは
「ばかやろう!!お前はほんとに母さんの気持ちがわかってるのか!?母さんの代わりとなってお前の人生が変わってしまうことを彼女が望んでいると思うのか!!?」
「そ、それはもちろん、母さんはそうなってほしくないと望んでると思うけど・・・
やっぱ経済的に・・」
また、俺が言いきる前に父さんが
「俺が全部がんばってやる。」
「えっ、そんなの母さんは望んでないんじゃ・・」
「バカだなぁ。母さんの穴埋めなんかじゃね~よ。もっと俺の体が働きたいってゾクゾクしてるからだ。俺の欲求を満たせられて金が手に入るなんて、一石二鳥じゃないか」
そういって、笑いを見せる。それに付け加え、
「もうすこしだけ親に甘えてろ。母さんから授かった大事な体なんだからな。親孝行はもっと後でいいから・・・」
「と、父さんっ!!・・・」
俺は父さんが見栄を張ってるは承知していたが、真剣な目で言ってきたため言い返せず、自分の道を選ぶことにした。
ま、といっても奨学金とバイト代でこっそり学費は自分で賄っているけど。
そう昔を顧みながら、写真をしばらく眺めて、部屋へいった。
俺の部屋は1LDKと下宿する学生にとって、十分なほどだ。
それに、大学や駅から離れているということもあり、人気がないわけか家賃もそれなりに安い。
夕日も沈み、小腹を満たすためカップ麺の湯を沸かし始める。
湯が沸くまで、今日のことを思い返す。
(はぁ~、やっぱ告白するのって身にしみるなぁ。しかも、ふられたとなると、なおさら心に響く。いっそ、しなかったほうが良かったのかな・・・。いいや、これでいいんだ!これで俺は就活まっしぐ・・・ら・・。)
と思うも、やっぱり気が乗らない。
プシュゥーーッ!!
そう考え込んでいるうちに、湯が沸いた。
俺はカップ麺に湯を注ぎ、出来上がる時間までダイニングの椅子に座る。
一人暮らしだが、たまに父さんや友人が来るため向かい合うように椅子をもう一つ置いてある。
だが、そこが空席のままで飯を食うのはやはりさびしくかんじる・・・
もし、そこに楓さんが座っていたら・・・
はぁ~とため息をすると、ピンポーーンっとインターホンがなった。
「は~い。」といいながら、ドアを開けると、そこには・・・
背は俺より少し小さいくらいで、長い黒髪をして、大和ナデシコとでもいおうか、整った顔立ちに、胸は豊乳までとはいかないが俺の手でつかめるかつかめないかくらいの大きさの美しい女性の姿があった。
「あ、あなたは・・・
※
俺が大学に入学してから、大学に行く日は必ずと言ってもいいくらいに朝の挨拶をする女性がいた。
彼女はいつも俺が大学に行くとき、俺の下宿前のバス停のベンチに座っている。服装はどこかの会社員なのか、普通のOLの格好に見える。
初めて会ったときは、俺は目があっただけで緊張してしまいガチガチにかたまってしまった。すると、彼女の方から
「おはようございます。大学生ですか?」
と微笑みながら話しかけてくれた。
「お、おはようございます!。や、山渕大学に今日から、か、通い始めるんでしゅ!!」
俺は思わず緊張し、目をつむりながら言ったが、とうとう最後に噛んでしまった。
「ふふ、そうですか。山渕大学でしたら、ここからだとかなりの距離がありますが、その自転車でいかれるのですか?」
「あ、はい!バス停がせっかくあるというのに、自分の経済的な利用で!」
そう、俺は少しでも生活費を抑えるために、バスではなく自転車で通うことにしている。
「あら、ガンバリ屋さんね。偉い偉い。」
「い、いえ~そんなぁ」
「ふふ、時間の方は大丈夫なのかしら?」
「あーーーー!!す、すんません!!かなり危ないです!!いってきます!!」
「あらあら、あわてて飛びだすと危険よ。気をつけてくださいね。」
「は、はい!!」
そういって、名残惜しくも俺は必死に自転車をこいで大学へと向かった。
その日の帰り道、ふとあの女性が座っていたアパート前のバス停のベンチに目を向ける。
だが、彼女の姿はなかった。
(ハハッさすがにこんな時間にいないか・・・)
残念にも感じたが、その思いは翌日には安心へとかわった。
そう、あの女性がまた例のベンチに座っているのである。
俺はうほほ~いと思いながら、彼女に近づき、今日は自分から
「お、おはようございます」
「うふっ、おはようございます」
彼女は笑顔で返してくれた。
「えっと、その~いつもこの時間にここにいるのですか?」
「ええ、そうよ。バスの時間がちょうどこの時間なの。」
「そうですか!」
俺はこの女性をもしかしたら、日々目にできると思うと胸が高鳴った。
「お、俺も、この時間に家を出るんです!!」
「ふふっ、そうなんですか。じゃあ、あなたが学校へ行く日はお会いすることになりますね~。」
俺は思っていたことを彼女の口から言われ、顔を赤らめてしまった。
このまま、ここにいるとなにかがやばいと感じ俺は
「また挨拶します!!」
といって、学校へと向かい始める。
「ええ、よろしくおねがいします。おきをつけて。」
そんな朝のひと時をすませながら、大学生活をおくってたある日のこと
ゲホッゲホッ
「う、うぅ。風邪か?」
俺は激しい頭痛と脱力感に襲われていた。
時刻はいつも起きるくらいだった。
(今日は大学休んで、病院だな)
俺はすこし厚着をし、部屋を出た。
自分の自転車に手をかけると同時にめまいしてしまった。
(う、うへ~。こんな状態じゃ自転車にも乗れね~なぁ。バスつかうか。)
と考え、トボトボとバス停へと向かう。
「おはようございます。あら?どうされたのですか?そんなにぐったりとして。」
と、優しく女性が声をかけてくれた。
あまりの具合の悪さに、あの彼女の存在を忘れてしまっていた。
「おはよう・・ございます。ちょ、ちょっと、風邪をこじらせてしまって・・」
そう答えてから、彼女と少し距離を置き、俺はベンチにもたれかかった。
距離を置いたというのに、彼女は俺のすぐ横まで来て、
「あらあら、お気の毒に。無理してはダメですよ?」
そう言いつつ、彼女は俺の頭をなでる。すこしきもちいい。
「は、はぁ。できるだけ安静にはしますが、病院にはいったほうがいいとおもって・・・」
「そうですか、もうすぐバスがきますので安心して下さい」
「は、はい・・・」
プシューーー
バスが目の前で停車した。
俺は流れるようにバスに乗る。
朝早いのか、空席が目立つ。
俺は一番入り口に近い席に身を置いた。
彼女は俺のあとから乗りこんできた。
すると、俺の方に歩み寄ってきて
「お隣いいですか?」
と聞いてくる。内心嬉しかったが
「だ、ダメですよぉ。風邪がうつっちゃいます。」
俺は彼女の体を気遣い、そう答える。
「うふふ、大丈夫です。病気しない体ですから。」
そういいながら、彼女は強引にも俺の答えを無視し隣の席に座る。
「す、すみません。ご心配かけてしまい。」
「いえいえ、とんでもないです。困ってる方がいたら、助けるのが当たり前ですから。」
そして突然、彼女はスッと手を俺の額においてきた。なぜかヒンヤリと冷たくてきもちいい。
「やっぱり、熱があるみたいですね。私も病院に一緒にいきますね。」
「いえ、一人でいけますよ。あなたにはお仕事がありますし・・・」
「ふふ、仕事の方は大丈夫です。きにしないでください。それにあなたに何かあったら私の責任にもなりますし。」
次は山渕病院前~山渕病院前~
と車内アナウンスが響く。
俺がボタンを押す前に、彼女はもう押してくれていた。
「あ、ありがとうございます。」
「いえいえ。ふふ」
バスが停まった。どうやら病院前に着いたようだ。
「で、では、俺はここで降りるんで・・・。いろいろありがとうございました。」
そういいつつ、俺は立ち上がり支払機に向かおうとするが、
「私も行くっていいましたよね?」
そう言って彼女は俺の腕を掴んできた。
そのまま、彼女に引っ張られるように支払機に行き、俺はお代を出そうとするも、彼女はすでに二人分を払い終わっていた。
そこで、ふと俺は頭痛する頭で不思議な点に気づく。
(あれ?彼女は毎日このバスを利用しているのなら、定期券とか使わないのかな?ここで降りたら、使えないようなかんじなのかな?・・・イテテッ)
そうこう考えてると、また頭痛が襲う。
「はい、では、いきましょうか。」
「は、はぁ。すみません。イテテ」
「うふふ、ゆっくりいきましょうね。」
彼女は優しく俺の手を握り、一緒に歩いてくれた。
「これは・・・普通の風邪ですね~。栄養不足や寝不足がちょっと原因にあげられますね~。2,3日安静にしていれば、治るでしょう。念のため、お薬も出しておきます。」
「は、はぁ。おねがいします。」
そういって俺は診察室をあとにする。
ドアの前に彼女は待ってくれていた。
「どうでしたか?」
心配そうな顔つきで俺を覗き込みながら聞いてくる、
「ただの風邪ですって。2,3日寝てれば治るみたいです。」
「は~よかったです。」
彼女が両手を胸にあわせ、そう言う姿に心が包まれる。
結局、アパートの前まで見送ってくれた。
「大丈夫ですか?なんなら、私が治るまで看病しますけど?」
「いやいや。ここまでしてもらって、それはいけないです!」
俺はそういう思いもあったが、男一人、女一人で同じ部屋でしばらくいることを想像して・・・よからぬことが起きてしまってはいけないと思う方が強かった。
「そ、そう?じゃあ、絶対無理せず、安静にしているのよ?」
どこか母さんみたいな口調で言ってくる。
「は、はい!お世話になりました!!では、またです!!」
と、いって彼女に背を向けるが・・・重要なことを訊くのを忘れていたことに、ふと気付く
「お、お名前は?お名前を訊かせてもらっていいですか!!?」
彼女は微笑みながら。
「ええ。美雪よ。あなたは?」
「俺は佐川竜也です!あ、名字までいってしまいました。ははは」
「ふふっ、いい名前。竜君てよんでいいかしら?」
「は、はい。亡くなった母さんがつけ・・て・ゲホッ・・くれま・・ゲホツ・・した。」
「あらあら、早く横になった方が」
「そ、そうですね、ゲホッ。本当に今日はありがとうございました、美雪さん」
俺が彼女の名前をいうと、彼女はすこし驚いたのかすこし目を見開いてから微笑んだ。
「ふふ、ちゃんと寝てるのよ?そうしなきゃ、悪化するのだから」
「は~い」
そう言って、俺は彼女と別れ、部屋にもどった。
風邪は医者の言うとおり、2日も寝てれば治った。薬は苦かったが。
そして今日、3日ぶりに大学へ行く。
自転車に乗り、またバス停に行くと、やはり美雪さんが座っていた。
「美雪さん!!おはようございます!!先日は大変お世話になりました!!」
「おはようございます、竜君。体良くなってなによりよ。」
「お礼は後日、あらたまって渡したいと思います」
「い、いや~いいわよ、お礼だなんて。その気持ちだけで十分よ」
「ですが・・・」
「私がそれでいいっていってるのに、何かわたされちゃったら逆に迷惑だわ」
「そ、そうですか・・・すみません。」
「ふふっ、学校の時間は大丈夫?」
「あーーー!!すみません!いそぎまーーす!」
また、いつかのように必死で自転車をこぎ始める。
「うふふ、きをつけてね。」
※
そんなこんなで今まで毎朝会っていた美しい女性、美雪さんが目の前にいるのだ。
・・・美雪さん!!」
「こんばんは、竜君。」
微笑みながらそういう彼女にやはり心を奪われる。
俺は突然の彼女の訪問にすこし驚いたが、用件を訊かねばと気付き、
「どうしたのですか?こんな時間に?」
「ちょっと大切な話があって・・・」
「あ、そうですか。ここじゃなんですし、中へどうぞ。なにもありませんがね。」
「ごめんなさいね、お邪魔するわね。」
俺はダイニングの椅子へと彼女を案内した。
そこで、まな板に置いてあったカップ麺が目に入ったが、いまは美雪さんの大切な話とやらのほうが重要だ。
「どうぞ、こちらに座ってください。」
「ありがとう。」
俺も向かい側の椅子に座る。
だけど、彼女はなかなか口を開かなかったため、
「え、えっと・・・大切な話とは?」
俺から尋ねる。
「あ、はい。すみません。そうでしたねぇ、大切な話を・・・」
彼女はいいづらい内容なのか、口ごもる。
「なんでもいってくれて大丈夫ですよ。相談でも少しは力にはなれるかと・・・」
この俺の一言が彼女を安心させたのか、彼女は俺の顔を直視して話し始めた。
「じ、じつは、竜君に隠してることがあって・・・」
「隠してること?」
俺はなんだろ?とおもいつつ、問いかける。
「え、ええ。実は私は美香さんと知り合いなの。」
「!!」
俺は突然、母さんの名を出され驚く。ちなみに父の名前は大吾。
「え、えっと・・・美香って、俺の母さんのことですか?」
「そうです。そして、入院中の彼女に頼まれてたの。竜君のお世話をしてあげてって。だから、こうして挨拶に来ました。これからよろしくおねがいします。」
「母さんが!?え、えっと・・・いくら母さんの知り合いの方といっても、さすがにお金や身を貸してもらうなんて・・・できないですよ。」
「大丈夫です!お金は頼まれたときから今まででだいぶ余裕が持てましたし、私の身を貸すことだって別になんら問題ありません!!」
「し、しかし・・・」
俺は困り果てる。おそらく、このまま彼女の要求を断っても、延々と同じことが続くだろう。だけど、要求を承諾すれば彼女自身に迷惑がかかるし、何より男女ペアで同じ部屋で暮らすとなると・・・
そう思い悩んでた矢先、
「竜君は、私のこと嫌いですか?」
悲しげな顔をし、両手を胸にあてながらそう言ってくる彼女に、俺はこういうしかないっ
「い、いや!嫌いじゃないですよ!どっちかというと・・・その・・・好きな方ですよ!!」
俺がそう言うと、彼女は表情を一変し微笑みながら
「うふふ、じゃあお互いに困ることなんかないわよねぇ?」
「で、ですが・・・」
「見たところ、栄養のあるものをあまり食べてないように見えるけど。私が作ってあげます。」
彼女は言い終わると、俺の返事も待たずに冷蔵庫の中や調味料を確認し始めた。
「う~ん。今晩一食分くらいなんとかなりそうだわ。竜君、作るまでちょっと時間かかるから、シャワーでも浴びてきてください。」
「は、はぁ。」
彼女の言うとおりに、俺はシャワーを浴びることにする。彼女のいいなりになるっていうよりも、一人でこの状況を考える時間がほしかったのだ。
シャワーを浴びながら、
(やっぱり、彼女に世話をかけてはいけない。晩飯食べ終わったら、ちゃんとお礼して帰ってもらおう)
そう考え、シャワーを浴び終わり、いい臭いに誘われるように机と向かった。
そこには、俺が冷蔵庫に残していたものだけで作ったのかと思えるくらいの、料理がテーブルに置かれていた。
「あら?ちょうどよかったです。今出来上がったとこですよ~。」
腹が減ってたのもあり、俺は早速、椅子に座り
「いただきまーーす!!」
勢いよく食べ始める。彼女も向かい側の椅子に座る。
だが、彼女の前にはお茶しか置かれていなかった。
「あれ?美雪さんの分は?」
「うふふ、私はあまり食べない柄なんです。」
といい、お茶をすするだけだ。
彼女はお茶を置き、頬杖をしながら
「おいしいですか?」
と優しい声で訊いてくる。そんな美雪さんを見ているとどこか艶めかしく感じる。
「お、おいしいです!!久しぶりにこんなおいしい料理食べました!!」
「ふふふ、それはよかったです。冷蔵庫にあった少しの野菜とまな板の上にあったのびきったカップ麺だけでしたので、少し上手く作れるか不安でした。」
「ほえ~あれだけでこんなのをつくれるのですか!!?ホント驚くばかりです。」
「私がいれば、いつも食べさせてあげますよ?」
彼女は艶めかしい表情と、誘うような声でそう言ってきて、俺はつい、
「それはぁ助かります~」
こういってしまったときは、あっと思い、すぐに訂正しようとしたが、
彼女はもう満面の笑みで
「ふふっ、これからがんばりますね。よろしくおねがいします。」
俺はそう喜んでる彼女をまた困らせたくないと思ってしまい、
「は、はい。」
と、あっさり承諾してしまった。
「ごちそうさまでした。」 「お粗末さまでした。」
おいしい料理を絶えらげ、彼女は皿を流し台に運んでいく。
「俺も手伝いますよ。」
「いえいえ。ゆっくりしててください。」
そう振り向きながら言う彼女に甘えてしまった。
「は、はあ。」
彼女は俺に背を向け、皿を次々と洗ってゆく。
俺はどうして断らなったんだろうと後悔しつつも、美雪さんという美しい女性がこれからそばにいることを考えると大いに幸せを感じた。
だが、やはり彼女には迷惑をかけないためにも
「あの~何点かおねがいがあるのですが・・・」
「はい、なんでしょうか?」
「生活費についてですが、全部うちの金でやりくりしてほしいです。美雪さんが稼いだ分は1円も俺の生活には使わないでください。」
「そ、そうですか・・・わかりました。ちゃんとその約束はお守りします。」
「どうもです。あと・・・もし、俺の面倒をみるのが嫌になったら、いつでも帰ってもらってかまいませんから。」
一瞬、彼女の手が止まったように見えた。
「い、いえ、私があなたを嫌いになるなんて・・・ありませんよ。それとも、竜君は早く私が目の前から消えてほしいと思ってるのですか?」
「い、いや~そんなつもりでいったわけじゃ・・・。これからいろいろ迷惑かけると思うんで・・・。その・・・こんな俺ですがよろしくおねがいします!」
ちょうど洗い物がおわったのか、美雪さんは俺の方に振り向き、最高の笑顔で
「はい!こちらこそよろしくおねがいします!」
どうやら、彼女は本当に世話好きのようだ。
これから、幾度彼女に迷惑かけるかわからないけど、なるべくかけないように努力しようと決心した。
「じゃあ、明日も早いんで、俺は寝ますね。」
と、俺は立ち上がり、ベッドのあるリビングへと足を運ぶ。
(って、こんなベッドじゃ二人で寝れねーじゃん!しかも、男女というのに)
と、いまさら気付く。
「あら?どうされました?」
立ち止まっている俺を見て美雪さんが尋ねてくる。
「い、いや~美雪さんがきてくれたのに、ベッドが一人用でしたので。
俺はそこのソファーで寝るんで、美雪さんはベッドで寝てください。」
「いえ、それはできません。」
「え?」
(まさか、こんな狭いベッドの上で俺と二人で寝ると?)
俺はそんなお得意のちょっとエロい発想をしたが、
「私がソファーで寝ますので、竜君はベッドで寝てください。」
そんな発想は見事に打ち砕かれた。
「い、いえ、そんな悪いですよ~。」
内心残念だったが、普通に返事を返す。
「私、人のベッドじゃあまり寝つけないんです。だ・か・ら」
「そ、そうですか。では、ベッドで寝かせてもらいます。」
「はい、どうぞ。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
俺はベッドに横になる。すると、美雪さんが布団をかぶせてくれた。
俺はそのまま目を閉じる。彼女は俺のおなかをゆっくりなテンポで軽く叩いてくれる。まるで、俺は幼児みたいに思えたが、その気持ちよさに「やめて」とは言えない。
「美雪さんは、寝ないのですか?」
「ふふっ、竜君が寝たら寝ますから。」
「そうですか、なんかすみません。」
「いえいえ。」
そう告げ終わり、俺はドンドン夢へと落ちていく。
目覚ましの音ではなく、なにかいい臭いがして目が覚める。
想像の通り、美雪さんが作ってくれた朝食のにおいだ。
「おはようございます。朝食できてますよ。」
「おはようございます。すみません、朝食まで」
「いえいえ、私が作らなきゃ、ちゃんとしたの食べないでしょうから。さあ、こっちにいらしてください。」
彼女は椅子を出し、俺をそこに座るよう促した。
俺はその椅子に座り、彼女も向かい側の椅子へと座る。そして
「いただきます!」
どんどんおいしい料理が口に入っていく。だけど、今回も俺の分だけ。
彼女はまた俺を艶めかしい表情で
「おいしいですか?」
「は、はい!もちろん。とーーってもおいしいですよ。」
「ふふっよかったです。材料が少なかったので、近くのコンビニで買ってきたかいがありました。」
そう言って彼女はお茶をすする。
「えっと、美雪さんの分は・・・?」
「昨夜も言ったように、私はあまり食べないので。もうすこししたら、食べますから気にしないでください。」
「は、はあ。」
そう話しているうちに、あっというまに食べ終わってしまった。
「ごちそうさまでした。」「お粗末さまでした。」
そのまま、彼女は皿を洗い始める。
俺は彼女の洗い物してる後ろ姿をうっとりと見てしまっていた。
時刻をみると、ちょうど大学へ行く時間くらいになっていた。
「美雪さん、そろそろ時間ですよ?」
「学校へ行くのですね、いってらっしゃいませ。おきをつけて。」
「え、えっと、美雪さん仕事は・・・?」
「あら?昨日いったじゃありませんか。竜君をお世話しにここに来たって。だから、いままで十分に稼ぐためにお仕事してましたが、昨日の時点でやめてますよ?仕事しながらだと、あなたのお世話が十分にできませんから。」
「あ、え、ええと。ホントいろいろすみません!!」
「お気になさらずに。」
「で、では、いってきます!!」
「は~い、いってらっしゃい。」
微笑みながら俺を見送ってくれる美雪さんは、母さんのようだ。いや、母さんとは違ったなにか胸に刺さるような気持ちがこみ上がってくる。
それからというもの、俺は朝は大学の講義、昼からはバイト、そして夕方に家に帰ってからは美雪さんの手厚いお世話が待ってくれているとういう生活が続いた。以前の生活と比べ、格段に幸せなのだが・・・ひとつ困ったことがあった。
それは・・・
一人の時ではできていたことがあまりできなくなってしまったことだ!
美雪さんがたまに出かけている時にだけ与えられるその時間。
だけど、その効果もあってか、その一握りの時間で今までよりも興奮を覚えられている。
俺はそんな生活を続けていくのであった・・・
と、これでオレの恋は終わった。
二年時から同じサークルにいる楓さんに俺は恋を抱いていた。
しかし、その恋は今こうして終わったのだ。
バイトで忙しく、たまにしかサークルに顔を出さない俺なんかより、もっとなかよくなった男が彼女にはいっぱいいるのだろう。
でも、これで踏ん切りがついた。
俺はもう大学4年になったのだ。ちゃんと就活しなければならない。
(よし!これから就活に集中するぞ!)
と、自分に言い聞かす。
だが、やはり好きな子にふられるのは悲しいことだ。
俺の名前は佐川竜也。大学4年になったばかりだ。
生憎、さっき好きな子に思いを伝えたが、その思いは散ってしまった。
気を落としながらも、下宿のアパートへ帰ってきた。
そして、玄関の棚に飾ってある家族写真に「ただいま」と声をかける。
写真には俺と両親が笑顔で写っている。
母さんは俺が大学入学する直前に癌で亡くなった。
俺は母さんになにもしてやれなかった。小さい頃は自分勝手に遊びほうけ、思春期には日に一度も話さない日があるようになった。
しかし、高校3年の時に母さんが癌で入院してからは目が覚めたようで、毎日お見舞いに行き、今まで話してなかった分を取り戻すくらいに話をした。
その時間はとても心地よい時間だった。
だが、母さんの容態はどんどん悪化していき・・・
亡くなってしまった。
俺は母さんがこの世からいなくなって、やっと愛情を感じることができた。あまりにも遅かった。もっともっと早く、母さんのこの優しさに気付いてあげれば、自分でもなにかできたはずなのに!
そう悔みに悔んでも止まらない涙を流す俺の肩に父さんの手がおかれる。
「竜也、母さんは死ぬ間際でもこんな家族をもてて幸せだったって言ってくれてたんだ。そんなに泣くな。俺だってホントは悲しくて悲しくて仕方ない。だがな、母さんが言ってたろ?幸せに生きてくれって。そんな母さんの最後の願いを俺たちで叶えてやろうじゃないか。」
「う、うぅぅ」
父さんは町の工場で働いている。
けっして給料がよいわけでもなかったため、母さんもパートで家を支えてくれていた。
しかし、その母さんを失ったとき、家計を支えるため俺は大学へ行くのをあきらめ就職しようとしたが父さんが反対した。
「ど、どうしてだよ!?俺も働けば、家も父さんも助かるじゃんか!!?」
父さんはそんな俺の言い分も聞かず、
「お前は本当にそれが望みなのか?ずっといきたかった大学に受かった時、あんなに喜んでたじゃないか。」
「あ、あれは母さんがまだ生きていて、家計的にもぜんぜん安心できてたからだよ。今はちがう!母さんはもういない・・・。だから、俺がその母さんの穴埋めを」
そう言いきる前に、父さんは
「ばかやろう!!お前はほんとに母さんの気持ちがわかってるのか!?母さんの代わりとなってお前の人生が変わってしまうことを彼女が望んでいると思うのか!!?」
「そ、それはもちろん、母さんはそうなってほしくないと望んでると思うけど・・・
やっぱ経済的に・・」
また、俺が言いきる前に父さんが
「俺が全部がんばってやる。」
「えっ、そんなの母さんは望んでないんじゃ・・」
「バカだなぁ。母さんの穴埋めなんかじゃね~よ。もっと俺の体が働きたいってゾクゾクしてるからだ。俺の欲求を満たせられて金が手に入るなんて、一石二鳥じゃないか」
そういって、笑いを見せる。それに付け加え、
「もうすこしだけ親に甘えてろ。母さんから授かった大事な体なんだからな。親孝行はもっと後でいいから・・・」
「と、父さんっ!!・・・」
俺は父さんが見栄を張ってるは承知していたが、真剣な目で言ってきたため言い返せず、自分の道を選ぶことにした。
ま、といっても奨学金とバイト代でこっそり学費は自分で賄っているけど。
そう昔を顧みながら、写真をしばらく眺めて、部屋へいった。
俺の部屋は1LDKと下宿する学生にとって、十分なほどだ。
それに、大学や駅から離れているということもあり、人気がないわけか家賃もそれなりに安い。
夕日も沈み、小腹を満たすためカップ麺の湯を沸かし始める。
湯が沸くまで、今日のことを思い返す。
(はぁ~、やっぱ告白するのって身にしみるなぁ。しかも、ふられたとなると、なおさら心に響く。いっそ、しなかったほうが良かったのかな・・・。いいや、これでいいんだ!これで俺は就活まっしぐ・・・ら・・。)
と思うも、やっぱり気が乗らない。
プシュゥーーッ!!
そう考え込んでいるうちに、湯が沸いた。
俺はカップ麺に湯を注ぎ、出来上がる時間までダイニングの椅子に座る。
一人暮らしだが、たまに父さんや友人が来るため向かい合うように椅子をもう一つ置いてある。
だが、そこが空席のままで飯を食うのはやはりさびしくかんじる・・・
もし、そこに楓さんが座っていたら・・・
はぁ~とため息をすると、ピンポーーンっとインターホンがなった。
「は~い。」といいながら、ドアを開けると、そこには・・・
背は俺より少し小さいくらいで、長い黒髪をして、大和ナデシコとでもいおうか、整った顔立ちに、胸は豊乳までとはいかないが俺の手でつかめるかつかめないかくらいの大きさの美しい女性の姿があった。
「あ、あなたは・・・
※
俺が大学に入学してから、大学に行く日は必ずと言ってもいいくらいに朝の挨拶をする女性がいた。
彼女はいつも俺が大学に行くとき、俺の下宿前のバス停のベンチに座っている。服装はどこかの会社員なのか、普通のOLの格好に見える。
初めて会ったときは、俺は目があっただけで緊張してしまいガチガチにかたまってしまった。すると、彼女の方から
「おはようございます。大学生ですか?」
と微笑みながら話しかけてくれた。
「お、おはようございます!。や、山渕大学に今日から、か、通い始めるんでしゅ!!」
俺は思わず緊張し、目をつむりながら言ったが、とうとう最後に噛んでしまった。
「ふふ、そうですか。山渕大学でしたら、ここからだとかなりの距離がありますが、その自転車でいかれるのですか?」
「あ、はい!バス停がせっかくあるというのに、自分の経済的な利用で!」
そう、俺は少しでも生活費を抑えるために、バスではなく自転車で通うことにしている。
「あら、ガンバリ屋さんね。偉い偉い。」
「い、いえ~そんなぁ」
「ふふ、時間の方は大丈夫なのかしら?」
「あーーーー!!す、すんません!!かなり危ないです!!いってきます!!」
「あらあら、あわてて飛びだすと危険よ。気をつけてくださいね。」
「は、はい!!」
そういって、名残惜しくも俺は必死に自転車をこいで大学へと向かった。
その日の帰り道、ふとあの女性が座っていたアパート前のバス停のベンチに目を向ける。
だが、彼女の姿はなかった。
(ハハッさすがにこんな時間にいないか・・・)
残念にも感じたが、その思いは翌日には安心へとかわった。
そう、あの女性がまた例のベンチに座っているのである。
俺はうほほ~いと思いながら、彼女に近づき、今日は自分から
「お、おはようございます」
「うふっ、おはようございます」
彼女は笑顔で返してくれた。
「えっと、その~いつもこの時間にここにいるのですか?」
「ええ、そうよ。バスの時間がちょうどこの時間なの。」
「そうですか!」
俺はこの女性をもしかしたら、日々目にできると思うと胸が高鳴った。
「お、俺も、この時間に家を出るんです!!」
「ふふっ、そうなんですか。じゃあ、あなたが学校へ行く日はお会いすることになりますね~。」
俺は思っていたことを彼女の口から言われ、顔を赤らめてしまった。
このまま、ここにいるとなにかがやばいと感じ俺は
「また挨拶します!!」
といって、学校へと向かい始める。
「ええ、よろしくおねがいします。おきをつけて。」
そんな朝のひと時をすませながら、大学生活をおくってたある日のこと
ゲホッゲホッ
「う、うぅ。風邪か?」
俺は激しい頭痛と脱力感に襲われていた。
時刻はいつも起きるくらいだった。
(今日は大学休んで、病院だな)
俺はすこし厚着をし、部屋を出た。
自分の自転車に手をかけると同時にめまいしてしまった。
(う、うへ~。こんな状態じゃ自転車にも乗れね~なぁ。バスつかうか。)
と考え、トボトボとバス停へと向かう。
「おはようございます。あら?どうされたのですか?そんなにぐったりとして。」
と、優しく女性が声をかけてくれた。
あまりの具合の悪さに、あの彼女の存在を忘れてしまっていた。
「おはよう・・ございます。ちょ、ちょっと、風邪をこじらせてしまって・・」
そう答えてから、彼女と少し距離を置き、俺はベンチにもたれかかった。
距離を置いたというのに、彼女は俺のすぐ横まで来て、
「あらあら、お気の毒に。無理してはダメですよ?」
そう言いつつ、彼女は俺の頭をなでる。すこしきもちいい。
「は、はぁ。できるだけ安静にはしますが、病院にはいったほうがいいとおもって・・・」
「そうですか、もうすぐバスがきますので安心して下さい」
「は、はい・・・」
プシューーー
バスが目の前で停車した。
俺は流れるようにバスに乗る。
朝早いのか、空席が目立つ。
俺は一番入り口に近い席に身を置いた。
彼女は俺のあとから乗りこんできた。
すると、俺の方に歩み寄ってきて
「お隣いいですか?」
と聞いてくる。内心嬉しかったが
「だ、ダメですよぉ。風邪がうつっちゃいます。」
俺は彼女の体を気遣い、そう答える。
「うふふ、大丈夫です。病気しない体ですから。」
そういいながら、彼女は強引にも俺の答えを無視し隣の席に座る。
「す、すみません。ご心配かけてしまい。」
「いえいえ、とんでもないです。困ってる方がいたら、助けるのが当たり前ですから。」
そして突然、彼女はスッと手を俺の額においてきた。なぜかヒンヤリと冷たくてきもちいい。
「やっぱり、熱があるみたいですね。私も病院に一緒にいきますね。」
「いえ、一人でいけますよ。あなたにはお仕事がありますし・・・」
「ふふ、仕事の方は大丈夫です。きにしないでください。それにあなたに何かあったら私の責任にもなりますし。」
次は山渕病院前~山渕病院前~
と車内アナウンスが響く。
俺がボタンを押す前に、彼女はもう押してくれていた。
「あ、ありがとうございます。」
「いえいえ。ふふ」
バスが停まった。どうやら病院前に着いたようだ。
「で、では、俺はここで降りるんで・・・。いろいろありがとうございました。」
そういいつつ、俺は立ち上がり支払機に向かおうとするが、
「私も行くっていいましたよね?」
そう言って彼女は俺の腕を掴んできた。
そのまま、彼女に引っ張られるように支払機に行き、俺はお代を出そうとするも、彼女はすでに二人分を払い終わっていた。
そこで、ふと俺は頭痛する頭で不思議な点に気づく。
(あれ?彼女は毎日このバスを利用しているのなら、定期券とか使わないのかな?ここで降りたら、使えないようなかんじなのかな?・・・イテテッ)
そうこう考えてると、また頭痛が襲う。
「はい、では、いきましょうか。」
「は、はぁ。すみません。イテテ」
「うふふ、ゆっくりいきましょうね。」
彼女は優しく俺の手を握り、一緒に歩いてくれた。
「これは・・・普通の風邪ですね~。栄養不足や寝不足がちょっと原因にあげられますね~。2,3日安静にしていれば、治るでしょう。念のため、お薬も出しておきます。」
「は、はぁ。おねがいします。」
そういって俺は診察室をあとにする。
ドアの前に彼女は待ってくれていた。
「どうでしたか?」
心配そうな顔つきで俺を覗き込みながら聞いてくる、
「ただの風邪ですって。2,3日寝てれば治るみたいです。」
「は~よかったです。」
彼女が両手を胸にあわせ、そう言う姿に心が包まれる。
結局、アパートの前まで見送ってくれた。
「大丈夫ですか?なんなら、私が治るまで看病しますけど?」
「いやいや。ここまでしてもらって、それはいけないです!」
俺はそういう思いもあったが、男一人、女一人で同じ部屋でしばらくいることを想像して・・・よからぬことが起きてしまってはいけないと思う方が強かった。
「そ、そう?じゃあ、絶対無理せず、安静にしているのよ?」
どこか母さんみたいな口調で言ってくる。
「は、はい!お世話になりました!!では、またです!!」
と、いって彼女に背を向けるが・・・重要なことを訊くのを忘れていたことに、ふと気付く
「お、お名前は?お名前を訊かせてもらっていいですか!!?」
彼女は微笑みながら。
「ええ。美雪よ。あなたは?」
「俺は佐川竜也です!あ、名字までいってしまいました。ははは」
「ふふっ、いい名前。竜君てよんでいいかしら?」
「は、はい。亡くなった母さんがつけ・・て・ゲホッ・・くれま・・ゲホツ・・した。」
「あらあら、早く横になった方が」
「そ、そうですね、ゲホッ。本当に今日はありがとうございました、美雪さん」
俺が彼女の名前をいうと、彼女はすこし驚いたのかすこし目を見開いてから微笑んだ。
「ふふ、ちゃんと寝てるのよ?そうしなきゃ、悪化するのだから」
「は~い」
そう言って、俺は彼女と別れ、部屋にもどった。
風邪は医者の言うとおり、2日も寝てれば治った。薬は苦かったが。
そして今日、3日ぶりに大学へ行く。
自転車に乗り、またバス停に行くと、やはり美雪さんが座っていた。
「美雪さん!!おはようございます!!先日は大変お世話になりました!!」
「おはようございます、竜君。体良くなってなによりよ。」
「お礼は後日、あらたまって渡したいと思います」
「い、いや~いいわよ、お礼だなんて。その気持ちだけで十分よ」
「ですが・・・」
「私がそれでいいっていってるのに、何かわたされちゃったら逆に迷惑だわ」
「そ、そうですか・・・すみません。」
「ふふっ、学校の時間は大丈夫?」
「あーーー!!すみません!いそぎまーーす!」
また、いつかのように必死で自転車をこぎ始める。
「うふふ、きをつけてね。」
※
そんなこんなで今まで毎朝会っていた美しい女性、美雪さんが目の前にいるのだ。
・・・美雪さん!!」
「こんばんは、竜君。」
微笑みながらそういう彼女にやはり心を奪われる。
俺は突然の彼女の訪問にすこし驚いたが、用件を訊かねばと気付き、
「どうしたのですか?こんな時間に?」
「ちょっと大切な話があって・・・」
「あ、そうですか。ここじゃなんですし、中へどうぞ。なにもありませんがね。」
「ごめんなさいね、お邪魔するわね。」
俺はダイニングの椅子へと彼女を案内した。
そこで、まな板に置いてあったカップ麺が目に入ったが、いまは美雪さんの大切な話とやらのほうが重要だ。
「どうぞ、こちらに座ってください。」
「ありがとう。」
俺も向かい側の椅子に座る。
だけど、彼女はなかなか口を開かなかったため、
「え、えっと・・・大切な話とは?」
俺から尋ねる。
「あ、はい。すみません。そうでしたねぇ、大切な話を・・・」
彼女はいいづらい内容なのか、口ごもる。
「なんでもいってくれて大丈夫ですよ。相談でも少しは力にはなれるかと・・・」
この俺の一言が彼女を安心させたのか、彼女は俺の顔を直視して話し始めた。
「じ、じつは、竜君に隠してることがあって・・・」
「隠してること?」
俺はなんだろ?とおもいつつ、問いかける。
「え、ええ。実は私は美香さんと知り合いなの。」
「!!」
俺は突然、母さんの名を出され驚く。ちなみに父の名前は大吾。
「え、えっと・・・美香って、俺の母さんのことですか?」
「そうです。そして、入院中の彼女に頼まれてたの。竜君のお世話をしてあげてって。だから、こうして挨拶に来ました。これからよろしくおねがいします。」
「母さんが!?え、えっと・・・いくら母さんの知り合いの方といっても、さすがにお金や身を貸してもらうなんて・・・できないですよ。」
「大丈夫です!お金は頼まれたときから今まででだいぶ余裕が持てましたし、私の身を貸すことだって別になんら問題ありません!!」
「し、しかし・・・」
俺は困り果てる。おそらく、このまま彼女の要求を断っても、延々と同じことが続くだろう。だけど、要求を承諾すれば彼女自身に迷惑がかかるし、何より男女ペアで同じ部屋で暮らすとなると・・・
そう思い悩んでた矢先、
「竜君は、私のこと嫌いですか?」
悲しげな顔をし、両手を胸にあてながらそう言ってくる彼女に、俺はこういうしかないっ
「い、いや!嫌いじゃないですよ!どっちかというと・・・その・・・好きな方ですよ!!」
俺がそう言うと、彼女は表情を一変し微笑みながら
「うふふ、じゃあお互いに困ることなんかないわよねぇ?」
「で、ですが・・・」
「見たところ、栄養のあるものをあまり食べてないように見えるけど。私が作ってあげます。」
彼女は言い終わると、俺の返事も待たずに冷蔵庫の中や調味料を確認し始めた。
「う~ん。今晩一食分くらいなんとかなりそうだわ。竜君、作るまでちょっと時間かかるから、シャワーでも浴びてきてください。」
「は、はぁ。」
彼女の言うとおりに、俺はシャワーを浴びることにする。彼女のいいなりになるっていうよりも、一人でこの状況を考える時間がほしかったのだ。
シャワーを浴びながら、
(やっぱり、彼女に世話をかけてはいけない。晩飯食べ終わったら、ちゃんとお礼して帰ってもらおう)
そう考え、シャワーを浴び終わり、いい臭いに誘われるように机と向かった。
そこには、俺が冷蔵庫に残していたものだけで作ったのかと思えるくらいの、料理がテーブルに置かれていた。
「あら?ちょうどよかったです。今出来上がったとこですよ~。」
腹が減ってたのもあり、俺は早速、椅子に座り
「いただきまーーす!!」
勢いよく食べ始める。彼女も向かい側の椅子に座る。
だが、彼女の前にはお茶しか置かれていなかった。
「あれ?美雪さんの分は?」
「うふふ、私はあまり食べない柄なんです。」
といい、お茶をすするだけだ。
彼女はお茶を置き、頬杖をしながら
「おいしいですか?」
と優しい声で訊いてくる。そんな美雪さんを見ているとどこか艶めかしく感じる。
「お、おいしいです!!久しぶりにこんなおいしい料理食べました!!」
「ふふふ、それはよかったです。冷蔵庫にあった少しの野菜とまな板の上にあったのびきったカップ麺だけでしたので、少し上手く作れるか不安でした。」
「ほえ~あれだけでこんなのをつくれるのですか!!?ホント驚くばかりです。」
「私がいれば、いつも食べさせてあげますよ?」
彼女は艶めかしい表情と、誘うような声でそう言ってきて、俺はつい、
「それはぁ助かります~」
こういってしまったときは、あっと思い、すぐに訂正しようとしたが、
彼女はもう満面の笑みで
「ふふっ、これからがんばりますね。よろしくおねがいします。」
俺はそう喜んでる彼女をまた困らせたくないと思ってしまい、
「は、はい。」
と、あっさり承諾してしまった。
「ごちそうさまでした。」 「お粗末さまでした。」
おいしい料理を絶えらげ、彼女は皿を流し台に運んでいく。
「俺も手伝いますよ。」
「いえいえ。ゆっくりしててください。」
そう振り向きながら言う彼女に甘えてしまった。
「は、はあ。」
彼女は俺に背を向け、皿を次々と洗ってゆく。
俺はどうして断らなったんだろうと後悔しつつも、美雪さんという美しい女性がこれからそばにいることを考えると大いに幸せを感じた。
だが、やはり彼女には迷惑をかけないためにも
「あの~何点かおねがいがあるのですが・・・」
「はい、なんでしょうか?」
「生活費についてですが、全部うちの金でやりくりしてほしいです。美雪さんが稼いだ分は1円も俺の生活には使わないでください。」
「そ、そうですか・・・わかりました。ちゃんとその約束はお守りします。」
「どうもです。あと・・・もし、俺の面倒をみるのが嫌になったら、いつでも帰ってもらってかまいませんから。」
一瞬、彼女の手が止まったように見えた。
「い、いえ、私があなたを嫌いになるなんて・・・ありませんよ。それとも、竜君は早く私が目の前から消えてほしいと思ってるのですか?」
「い、いや~そんなつもりでいったわけじゃ・・・。これからいろいろ迷惑かけると思うんで・・・。その・・・こんな俺ですがよろしくおねがいします!」
ちょうど洗い物がおわったのか、美雪さんは俺の方に振り向き、最高の笑顔で
「はい!こちらこそよろしくおねがいします!」
どうやら、彼女は本当に世話好きのようだ。
これから、幾度彼女に迷惑かけるかわからないけど、なるべくかけないように努力しようと決心した。
「じゃあ、明日も早いんで、俺は寝ますね。」
と、俺は立ち上がり、ベッドのあるリビングへと足を運ぶ。
(って、こんなベッドじゃ二人で寝れねーじゃん!しかも、男女というのに)
と、いまさら気付く。
「あら?どうされました?」
立ち止まっている俺を見て美雪さんが尋ねてくる。
「い、いや~美雪さんがきてくれたのに、ベッドが一人用でしたので。
俺はそこのソファーで寝るんで、美雪さんはベッドで寝てください。」
「いえ、それはできません。」
「え?」
(まさか、こんな狭いベッドの上で俺と二人で寝ると?)
俺はそんなお得意のちょっとエロい発想をしたが、
「私がソファーで寝ますので、竜君はベッドで寝てください。」
そんな発想は見事に打ち砕かれた。
「い、いえ、そんな悪いですよ~。」
内心残念だったが、普通に返事を返す。
「私、人のベッドじゃあまり寝つけないんです。だ・か・ら」
「そ、そうですか。では、ベッドで寝かせてもらいます。」
「はい、どうぞ。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
俺はベッドに横になる。すると、美雪さんが布団をかぶせてくれた。
俺はそのまま目を閉じる。彼女は俺のおなかをゆっくりなテンポで軽く叩いてくれる。まるで、俺は幼児みたいに思えたが、その気持ちよさに「やめて」とは言えない。
「美雪さんは、寝ないのですか?」
「ふふっ、竜君が寝たら寝ますから。」
「そうですか、なんかすみません。」
「いえいえ。」
そう告げ終わり、俺はドンドン夢へと落ちていく。
目覚ましの音ではなく、なにかいい臭いがして目が覚める。
想像の通り、美雪さんが作ってくれた朝食のにおいだ。
「おはようございます。朝食できてますよ。」
「おはようございます。すみません、朝食まで」
「いえいえ、私が作らなきゃ、ちゃんとしたの食べないでしょうから。さあ、こっちにいらしてください。」
彼女は椅子を出し、俺をそこに座るよう促した。
俺はその椅子に座り、彼女も向かい側の椅子へと座る。そして
「いただきます!」
どんどんおいしい料理が口に入っていく。だけど、今回も俺の分だけ。
彼女はまた俺を艶めかしい表情で
「おいしいですか?」
「は、はい!もちろん。とーーってもおいしいですよ。」
「ふふっよかったです。材料が少なかったので、近くのコンビニで買ってきたかいがありました。」
そう言って彼女はお茶をすする。
「えっと、美雪さんの分は・・・?」
「昨夜も言ったように、私はあまり食べないので。もうすこししたら、食べますから気にしないでください。」
「は、はあ。」
そう話しているうちに、あっというまに食べ終わってしまった。
「ごちそうさまでした。」「お粗末さまでした。」
そのまま、彼女は皿を洗い始める。
俺は彼女の洗い物してる後ろ姿をうっとりと見てしまっていた。
時刻をみると、ちょうど大学へ行く時間くらいになっていた。
「美雪さん、そろそろ時間ですよ?」
「学校へ行くのですね、いってらっしゃいませ。おきをつけて。」
「え、えっと、美雪さん仕事は・・・?」
「あら?昨日いったじゃありませんか。竜君をお世話しにここに来たって。だから、いままで十分に稼ぐためにお仕事してましたが、昨日の時点でやめてますよ?仕事しながらだと、あなたのお世話が十分にできませんから。」
「あ、え、ええと。ホントいろいろすみません!!」
「お気になさらずに。」
「で、では、いってきます!!」
「は~い、いってらっしゃい。」
微笑みながら俺を見送ってくれる美雪さんは、母さんのようだ。いや、母さんとは違ったなにか胸に刺さるような気持ちがこみ上がってくる。
それからというもの、俺は朝は大学の講義、昼からはバイト、そして夕方に家に帰ってからは美雪さんの手厚いお世話が待ってくれているとういう生活が続いた。以前の生活と比べ、格段に幸せなのだが・・・ひとつ困ったことがあった。
それは・・・
一人の時ではできていたことがあまりできなくなってしまったことだ!
美雪さんがたまに出かけている時にだけ与えられるその時間。
だけど、その効果もあってか、その一握りの時間で今までよりも興奮を覚えられている。
俺はそんな生活を続けていくのであった・・・
13/08/21 06:25更新 / sloth
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