後の、とある夜。
間違いない。
この子は、きっと悪魔か何かだ。
もはや真っ白く焼けついてしまった頭で、そんなことを思った。
そして程無く、暴力的に甘い、甘い蜜の大波がやってきて。
髪の毛の一本に至るまで、抗う力を失ったあたしは。
これでもう何度目になるのか、考えることもままならず、身体の奥の奥まで、それに深々と犯されてゆく。
大波に、あたしは空のてっぺんまで放りあげられ、
大地に向かって、まっさかさま。
恐怖のはずなのに、それは歓喜でしかなくて。
泣き叫ぶ自分の声が、何だか遠くに聞こえた。
だってそのときはもう、そんなこと覚えている場合じゃない。
あたしの頭はものを覚えるためにあるんじゃなくて、
体のすべてを開かせて、蜜の味と、大地に叩きつけられる悦びを味わいつくすために、あるのだから。
あたしの上で強張っていたルネの体が、弛緩する。
くたっと、あたしの上半身に体重をあずけてくる。
汗を含んだお互いの肌同士が、しっとりと重なって溶けあうようだった。
ルネの重みを感じたことで、あたしの意識はよろよろと自分の元へ帰ってきた。
あたしのおなかの中が、まだ受け入れて包み込んだままのルネを、切なげに優しく握るように動いている。
蛇の下半身は、ルネを外側から同じく優しく巻いて、ルネのお尻のあたりをそっと押したりしてる。
最後の最後まで、全部、あたしの中に注いでもらおうとしているのだ。
それまでにもう、体の中と言わず外と言わず、あふれかえりそうなくらいに浴びて、受け止めているというのに。
……しょうがないのよ。だって、
もっと、あたしの中に、入ってきて。
だなんて、口に出してなんか言えるわけないもん。
ほっぺたを、さらさらとルネの髪が撫でている。
ふたりとも、嵐のように大きな息をついている。
ふたりの呼吸の他に、聞こえる音とてない。
匂いを感じることを、やがてあたしの鼻が思い出した。
髪の毛の匂い。汗の匂い。ルネの匂い。あたしの匂い。
部屋中にこもった、男と、女の匂い。
…………あつい。
ようやっと、ぽつりと一言だけ、声になれない言葉が小さく灯った。
何があついのか、考えるだけの力はまだないみたい。
お部屋の空気のことかもしれないし、自分の体温でもいいし、まだあたしの中に残るルネのことでも、もうなんでもよかった。
ここがどこか、あたしが誰か、この子が誰か、少しずつ頭が再認識を始める。
……また、こうなってしまった。相変わらず、体の自由は効かないので、あたしは荒い息の一つを溜息のつもりにした。
理想の時間を過ごせなかったことの、後悔……ではなく、自分への不甲斐なさ、かしら。
今夜こそ、今夜こそ、と思ってはいるんだけどなぁ。
お姉ちゃんらしい余裕で、ルネを優しく導いて。
「眼」で見つめて、苦しくない程度に力を抜いてあげて。
ルネが我慢できなくなるまで、焦らすように高めてあげて。
痕が残らないように、そっと巻きついてあげて。
あたしが上になって、ゆっくりとひとつになって。
少しでも長く、たくさん、気持ちよくしてあげられるように、動いてあげる。
ルネの爆発を体の中に感じ、あたしもその後を追う。
……つもりでは、いるのよ。最初のうちは。
ベッドに並んで腰かけて、お互い話すこともなくなって、その……手をつないだり、キスとか、始めたあたりから、だんだん怪しくなってくるんだけど。
(……それ、ずいぶん序盤からダメになってるわよね?)
(過程とかどうでもいーじゃない、ねぇ?
結果的に、死んじゃうかと思うくらい気持ちいいことずくめの毎日なんだから)
という頭の蛇のつっこみが聞こえてきたけど、無視。
もういつの間にやらとしか言いようがないんだけど。
最後にはきまって、なぜかあたしの方がとろっとろに力が抜けてて。
あたしの体をまたいでるルネの顔とか、これからあたしがどういう風になってしまうかを雄々しく告げているルネの男の子だとかの記憶はぼんやりあるのに。
ふたり分の指がもつれた、あたしの手の甲が、シーツに押し付けられた辺りで、あたしの頭は白く焼き付いてしまう。
しょ、しょうがないわよ。あたしの上で、夢中で動いてるルネのいじらしい顔とかいっぺん見てみたらいいのよ。
いや、誰にも見せてあげないんだけどね。
ただでさえルネの、……あんな、大きくなったのが、あたしの中にいて。
普段はなんだかぽわぽわして、目が離せない弟みたいにしてるくせに、どうしてああいう時だけ、あんなに……。
あーもう、だからさ。
ああ、あたしでこんなに感じてくれてるんだとか、何もなくったって考えちゃうでしょうよ。
その上あの子、あたしに向かって何て言うと思う?
あたしの中があったかくて気持ちいいとか、声が可愛いからもっと聞きたいとか、あたしにも気持ちよくなって欲しいとか、あたしの気持ちいいところ教えてほしいとか、……。
恥ずかしいにもほどがあるわよ!
こっちは別にね、どこ触られたからいいとかよくないとか、そういうんじゃないの。
あんたが触ったところ、キスしたところがことごとく火花が飛んだみたいに感じるようになってっちゃうんだから! 自分でもわけが分かんないわよ!
おまけにそんなこと、ぎゅぅっと抱きしめられたり、髪の毛を梳くように頭を撫でられたりしてるさなかに、言われてごらんなさいよ。
ちなみに上目遣いでよ?
教えるでしょう!?
そんなふうに責められながら、合間合間に大人がするみたいなキスされたり、耳とか首筋とか、顎のあたりとかをはむはむされたりするのよ!?
それは教えるでしょう!?
(ルネくんってさ、覚えるのすっごく早いよね)
(根が素直な子だから、吸収は早いわよ。
若木が雨水を吸ってすくすく育つようなもの。こちらとしても教え甲斐があるわね)
(あとさ、指にせよキスにせよ、上手なのよね。ぜったい爪とか歯が立たないようにしてくれるし)
(それだけ、こちらの体を気遣い、思いやってくれているということ。それに気付いてしまったら、もう堪りませんわね)
(同感。お口でぎこちなくしてあげるのがやっとのエシェルじゃ、もう敵わないんじゃない?)
あーうるさいうるさい。
お口も気持ちいいって、ルネ言ってくれたもん!
湿った音とほぼ同時に、あたしはお腹に物凄い切なさを感じて、反射的に声を出してしまった。
その声が、自分の予想をはるかに超えて淫らに色づいていたことに驚く。
あたしを穿っていた男の子の持つ楔は、その役目を終えて固さを失う。
お腹の中がルネを絞る強さに負け、押し出されるように抜け出ていったのだ。
後を追うように、ルネに愛された証があふれてこぼれ、体を伝うのを感じた。
あたしの声を合図にするかのように、ルネが頭をゆっくりと持ち上げる。
仰向くあたしと、顔が合う。
お互い、それはもう、蕩けて緩みきった顔をしてる。
瞳に映った顔同士を、見れば分かる。
まっすぐ見つめ合うには、余韻が大きすぎて。ぼんやりと見あっているうち、
「……エシェル」
ささやく声より、もっと小さい。出そうと思って出した声なのかも覚束ない、でも確かに、ルネはあたしの名前を呼んだ。
ここから、いつものパターンを思い出すのにワンテンポ遅れるあたし。それもいつものパターン。
だめ、待って、とあたしが思うより決まって一瞬だけ、ルネの方が早い。
満たされていたところが、抜け落ちた寂しさ。
その心の隙を突いてやってくるのは、小鳥が飼い主になついて、甘えるような、ルネの可愛らしいキス。
「僕のこと気持ちよくしてくれて、ありがとう」のキス……なんだって。
さっきまでしてた、舌どうしが溶けてバターになっちゃうみたいなのとは真逆。
あたしの唇を、それこそ小鳥がついばむみたいに。
これで、あたしは更に、幸せの川を流されてゆく。
どうせまた、あの海に流れ着く。
「すき。エシェルが好き。だいすき」
きもちよかった。うれしい。ありがとう。
キスの合間、頬ずりしながら、ルネは小さな小さな声で、こんなことをあたしの耳元に次々に流し込んでくる。
間違いない。
この子は、きっと悪魔か何かだ。
魅入られたあたしはもう、堕ちてゆくしかない。
あたしは、尻尾をルネに絡める。おねだりと思われても、どうでもいい。
体をすり寄せ、自分のそこが再び潤い始めたことを、押しつけて伝えようとする。
それを見透かしていたかのように、ルネのそこも、あたしが求める姿を取り戻していた。
見合わせた顔は、はにかんで目線をはぐらかすけれど、それも一瞬でしかない。
一晩中求めあい、重なり合ったことを飽きるどころか、早くも懐かしんでいるのか。
吸い寄せられるように、あたしたちは、男と女の、あるべき形に戻る。
溺れる。蜜の海に。
潮の流れに、あたしは沖の方にうねる大きな波頭の予感をとらえた。
あたしは、ルネの背にしがみつくように腕を回し、早くそこへ連れて行ってとせがむように、大きな悦びの声をあげ続けていた。
この子は、きっと悪魔か何かだ。
もはや真っ白く焼けついてしまった頭で、そんなことを思った。
そして程無く、暴力的に甘い、甘い蜜の大波がやってきて。
髪の毛の一本に至るまで、抗う力を失ったあたしは。
これでもう何度目になるのか、考えることもままならず、身体の奥の奥まで、それに深々と犯されてゆく。
大波に、あたしは空のてっぺんまで放りあげられ、
大地に向かって、まっさかさま。
恐怖のはずなのに、それは歓喜でしかなくて。
泣き叫ぶ自分の声が、何だか遠くに聞こえた。
だってそのときはもう、そんなこと覚えている場合じゃない。
あたしの頭はものを覚えるためにあるんじゃなくて、
体のすべてを開かせて、蜜の味と、大地に叩きつけられる悦びを味わいつくすために、あるのだから。
あたしの上で強張っていたルネの体が、弛緩する。
くたっと、あたしの上半身に体重をあずけてくる。
汗を含んだお互いの肌同士が、しっとりと重なって溶けあうようだった。
ルネの重みを感じたことで、あたしの意識はよろよろと自分の元へ帰ってきた。
あたしのおなかの中が、まだ受け入れて包み込んだままのルネを、切なげに優しく握るように動いている。
蛇の下半身は、ルネを外側から同じく優しく巻いて、ルネのお尻のあたりをそっと押したりしてる。
最後の最後まで、全部、あたしの中に注いでもらおうとしているのだ。
それまでにもう、体の中と言わず外と言わず、あふれかえりそうなくらいに浴びて、受け止めているというのに。
……しょうがないのよ。だって、
もっと、あたしの中に、入ってきて。
だなんて、口に出してなんか言えるわけないもん。
ほっぺたを、さらさらとルネの髪が撫でている。
ふたりとも、嵐のように大きな息をついている。
ふたりの呼吸の他に、聞こえる音とてない。
匂いを感じることを、やがてあたしの鼻が思い出した。
髪の毛の匂い。汗の匂い。ルネの匂い。あたしの匂い。
部屋中にこもった、男と、女の匂い。
…………あつい。
ようやっと、ぽつりと一言だけ、声になれない言葉が小さく灯った。
何があついのか、考えるだけの力はまだないみたい。
お部屋の空気のことかもしれないし、自分の体温でもいいし、まだあたしの中に残るルネのことでも、もうなんでもよかった。
ここがどこか、あたしが誰か、この子が誰か、少しずつ頭が再認識を始める。
……また、こうなってしまった。相変わらず、体の自由は効かないので、あたしは荒い息の一つを溜息のつもりにした。
理想の時間を過ごせなかったことの、後悔……ではなく、自分への不甲斐なさ、かしら。
今夜こそ、今夜こそ、と思ってはいるんだけどなぁ。
お姉ちゃんらしい余裕で、ルネを優しく導いて。
「眼」で見つめて、苦しくない程度に力を抜いてあげて。
ルネが我慢できなくなるまで、焦らすように高めてあげて。
痕が残らないように、そっと巻きついてあげて。
あたしが上になって、ゆっくりとひとつになって。
少しでも長く、たくさん、気持ちよくしてあげられるように、動いてあげる。
ルネの爆発を体の中に感じ、あたしもその後を追う。
……つもりでは、いるのよ。最初のうちは。
ベッドに並んで腰かけて、お互い話すこともなくなって、その……手をつないだり、キスとか、始めたあたりから、だんだん怪しくなってくるんだけど。
(……それ、ずいぶん序盤からダメになってるわよね?)
(過程とかどうでもいーじゃない、ねぇ?
結果的に、死んじゃうかと思うくらい気持ちいいことずくめの毎日なんだから)
という頭の蛇のつっこみが聞こえてきたけど、無視。
もういつの間にやらとしか言いようがないんだけど。
最後にはきまって、なぜかあたしの方がとろっとろに力が抜けてて。
あたしの体をまたいでるルネの顔とか、これからあたしがどういう風になってしまうかを雄々しく告げているルネの男の子だとかの記憶はぼんやりあるのに。
ふたり分の指がもつれた、あたしの手の甲が、シーツに押し付けられた辺りで、あたしの頭は白く焼き付いてしまう。
しょ、しょうがないわよ。あたしの上で、夢中で動いてるルネのいじらしい顔とかいっぺん見てみたらいいのよ。
いや、誰にも見せてあげないんだけどね。
ただでさえルネの、……あんな、大きくなったのが、あたしの中にいて。
普段はなんだかぽわぽわして、目が離せない弟みたいにしてるくせに、どうしてああいう時だけ、あんなに……。
あーもう、だからさ。
ああ、あたしでこんなに感じてくれてるんだとか、何もなくったって考えちゃうでしょうよ。
その上あの子、あたしに向かって何て言うと思う?
あたしの中があったかくて気持ちいいとか、声が可愛いからもっと聞きたいとか、あたしにも気持ちよくなって欲しいとか、あたしの気持ちいいところ教えてほしいとか、……。
恥ずかしいにもほどがあるわよ!
こっちは別にね、どこ触られたからいいとかよくないとか、そういうんじゃないの。
あんたが触ったところ、キスしたところがことごとく火花が飛んだみたいに感じるようになってっちゃうんだから! 自分でもわけが分かんないわよ!
おまけにそんなこと、ぎゅぅっと抱きしめられたり、髪の毛を梳くように頭を撫でられたりしてるさなかに、言われてごらんなさいよ。
ちなみに上目遣いでよ?
教えるでしょう!?
そんなふうに責められながら、合間合間に大人がするみたいなキスされたり、耳とか首筋とか、顎のあたりとかをはむはむされたりするのよ!?
それは教えるでしょう!?
(ルネくんってさ、覚えるのすっごく早いよね)
(根が素直な子だから、吸収は早いわよ。
若木が雨水を吸ってすくすく育つようなもの。こちらとしても教え甲斐があるわね)
(あとさ、指にせよキスにせよ、上手なのよね。ぜったい爪とか歯が立たないようにしてくれるし)
(それだけ、こちらの体を気遣い、思いやってくれているということ。それに気付いてしまったら、もう堪りませんわね)
(同感。お口でぎこちなくしてあげるのがやっとのエシェルじゃ、もう敵わないんじゃない?)
あーうるさいうるさい。
お口も気持ちいいって、ルネ言ってくれたもん!
湿った音とほぼ同時に、あたしはお腹に物凄い切なさを感じて、反射的に声を出してしまった。
その声が、自分の予想をはるかに超えて淫らに色づいていたことに驚く。
あたしを穿っていた男の子の持つ楔は、その役目を終えて固さを失う。
お腹の中がルネを絞る強さに負け、押し出されるように抜け出ていったのだ。
後を追うように、ルネに愛された証があふれてこぼれ、体を伝うのを感じた。
あたしの声を合図にするかのように、ルネが頭をゆっくりと持ち上げる。
仰向くあたしと、顔が合う。
お互い、それはもう、蕩けて緩みきった顔をしてる。
瞳に映った顔同士を、見れば分かる。
まっすぐ見つめ合うには、余韻が大きすぎて。ぼんやりと見あっているうち、
「……エシェル」
ささやく声より、もっと小さい。出そうと思って出した声なのかも覚束ない、でも確かに、ルネはあたしの名前を呼んだ。
ここから、いつものパターンを思い出すのにワンテンポ遅れるあたし。それもいつものパターン。
だめ、待って、とあたしが思うより決まって一瞬だけ、ルネの方が早い。
満たされていたところが、抜け落ちた寂しさ。
その心の隙を突いてやってくるのは、小鳥が飼い主になついて、甘えるような、ルネの可愛らしいキス。
「僕のこと気持ちよくしてくれて、ありがとう」のキス……なんだって。
さっきまでしてた、舌どうしが溶けてバターになっちゃうみたいなのとは真逆。
あたしの唇を、それこそ小鳥がついばむみたいに。
これで、あたしは更に、幸せの川を流されてゆく。
どうせまた、あの海に流れ着く。
「すき。エシェルが好き。だいすき」
きもちよかった。うれしい。ありがとう。
キスの合間、頬ずりしながら、ルネは小さな小さな声で、こんなことをあたしの耳元に次々に流し込んでくる。
間違いない。
この子は、きっと悪魔か何かだ。
魅入られたあたしはもう、堕ちてゆくしかない。
あたしは、尻尾をルネに絡める。おねだりと思われても、どうでもいい。
体をすり寄せ、自分のそこが再び潤い始めたことを、押しつけて伝えようとする。
それを見透かしていたかのように、ルネのそこも、あたしが求める姿を取り戻していた。
見合わせた顔は、はにかんで目線をはぐらかすけれど、それも一瞬でしかない。
一晩中求めあい、重なり合ったことを飽きるどころか、早くも懐かしんでいるのか。
吸い寄せられるように、あたしたちは、男と女の、あるべき形に戻る。
溺れる。蜜の海に。
潮の流れに、あたしは沖の方にうねる大きな波頭の予感をとらえた。
あたしは、ルネの背にしがみつくように腕を回し、早くそこへ連れて行ってとせがむように、大きな悦びの声をあげ続けていた。
13/08/29 01:15更新 / さきたま
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