6話(最終話)
カァー・・・カァー・・・
鴉の声が何処からとも無く響く、時刻は夕方を過ぎ夜を迎えようとしていた。
俺とレイナがどうなったかというと
「・・・。」「・・・。」
互いに向かい合って地面に正座し放心している。
というか正気に戻ったのである。
結局あれから・・・え〜と・・・何回だっけ?
・・・まあ、いっぱい頑張ってたら段々と頭が冷えてきて、この状況に至ったのである。
辺りを見渡してみると激しい戦闘と性交の残骸が散らばっている。
薙ぎ倒された木々に抉られた大地、散乱した俺たちの防具と衣類。
俺が持ってきていた食料なんかは何時の間にか現われた動物達が一生懸命がっついてる真っ最中だったりする。
なに、この状況。
燃え尽きた・・・燃え尽きたぜ・・・今日一日でどんだけイベント起きたんだよ。
途中から完全に置いてけぼりの展開だったぞ。
挙句の果てが今、全裸で正座だし。
ビクンッ!ビクンッ!
・・・しかもさ、何で未だにマイサンは健在なんだよ。
頭はすっかり賢者モードなのに、反り返って脈打ってるんですけど。
何なのだろうか、このなんとも言えない気持ちは。
とりあえず我ながら、ちょっとキモイわぁ・・・。
レイナはというと・・・完全に魂が抜けてる。
目線は在らぬ彼方を見つめて、脱力した両腕はブラ〜ンと垂れ下がっている。
その体は・・・・・・ドロッドロ。
もう新種のスライムかしら?と思うレベル。
もちろん原因は俺。
俺から放たれた情熱の旋律が彼女を染め上げてる。
しかしギンギラギンな股間も摩訶不思議だけど、この量も一体なんなんだ?
質量保存の法則は何処いった?
人類を新たに作りなおせるぐらいの量だぞ。
あー・・・
どうすればいいのだろう
・・・とりあえず近くに散らばっていた俺の荷物から、毛布を引き寄せる。
「レイナ、これ使ってくれ」
「・・・・・・」
毛布を差し出すと、暫く間を取ってから気だるそうに毛布を受け取ってくれた。
毛布でゴシゴシと体を擦るレイナ。
正しい擬音としては『ぬらぁ〜べちょぉ』だけど、嫌悪感が込上げてくるから耳を手で塞ぐことにしよう。
「・・・・・・ん、ありがと」
「うぐっ!?・・・・・・あ、あぁ」
体を拭き終わったレイナが毛布を返してくれた。
いや、いらねぇよ!
でもお礼言われたら、受け取らないと気まずいよね!
だから受け取る俺まじ紳士!
・・・。
うわぁ、重たい。
この毛布、今世界で一番禍々しい毛布だわ。
あとで聖水で手を洗おう・・・。
毛布をそっと視界に入らないところに置くってか捨ててレイナと向かいあう。
さて、山積みの疑問を崩しにかかってみるか。
「なぁレイナ」
「なんだ?」
おっ、調子が戻ったのか、その口調も久しぶりに感じる。
全裸で何威張ってんだとツッコミを入れたいが、話が進まないのでやめておこう。
「まずは教えてくれ、何で俺は生きてる?
そこに広がってる血の海じゃあ確実に一度あの世を見ている筈なんだが・・・」
「う・・・む、さっきも言った大事な話の事になるんだけど・・・」
レイナが言いよどんでいる。
え、何なの、ここ実は死後の世界とか言わないでよ?
「まあ・・・薬の効果だ」
「薬?除草剤じゃ無いだろうな!?」
「当たり前だ、馬鹿か?人魚の血を使ってやったんだから感謝するんだな」
ひでぇ。
除草剤の恐怖を俺に植え付けたのアンタだろ!
にしても人魚の血だぁ?あの伝承とかに出てくるやつか。
「正確にはメロウの血だ、あんまりポックリと逝きそうだったんで哀れに思ってな。
調子は・・・聞くまでも無いか」
呟くと俺の股間を蔑む様に見ている。
うん、まだギンギンだ。
我ながらいい加減にしろよ。
もう恥は掻き捨てだ、この暴れん坊の鬼金棒の事も聞くか。
・・・なんかブツブツと愚痴ってらっしゃるけど、まあいっか。
「・・・せっかく・・・・・・のに・・・」
「なぁ」
「なんだ!!」
怖えぇぇぇ、でも負けない。
「聞くのも忍びないんだが・・・俺のこれ・・・どうなってんの?」
「しるか」
わぉ
機嫌悪いね、でもそれじゃ物事が解決しないのだよ。
なんか俺も調子が戻ってきたし、ちょっと揺さぶってみるか。
というか触れなきゃいけない話題がひとつあるんだよね。
「な、なぁ」
「・・・なんだよぅ」
あー・・・、ついにそっぽ向かれた。
てかキレ方かわいいな、おい。
もう勢いで突っ込むか、いくぜ!
「・・・なんで俺にキスしてたんだ?」
「!!!!!!」
一瞬でレイナの顔が紅く染まる。
そして聞いてる俺もちょっと恥ずかしい。
「そ、れは・・・あの・・・だから・・・」
あーなんて分かりやすい動揺なのでしょう。
我ながら野暮な事聞いたな・・・。
まあここで畳み掛けないと、問い詰めるの無理そうだしなぁ。
「結局の所、アンタは何がしたかったんだ?
回りくどい決闘挑んできて俺をぶちのめしたかと思えば
瀕死の俺にキスして・・・そのあと、やりまくって・・・」
・・・いやもう本当何したかったんだ、展開まとめてもさっぱりだ。
そういや人魚の血飲ませたんだよな?
俺が瀕死のときに治療をしてくれた訳か。
じゃあ瀕死にすんなや!!
決闘飛ばしてくれよ!!!
「あ、あ、あ・・・・・・・・・・・うぅ〜〜〜〜〜〜」
あ、やべ。
すっかりオーバーヒートしたレイナが俯きながらプルプルと肩を震わせている。
しまった、プライドの高い相手を一気に捲し立て過ぎたか。
様子を伺っていると、ガバッとレイナが顔をあげて・・・
キレた。
「だってだってだって!!!!ロザドが勝負に来いっていったんだもん!!
すっごく嬉しくて!どうすればいいか皆に相談して!!色々教えて貰って!
ロザドを探して貰えたし!迎えに行ったら・・・何か良い汗流して畑耕してるだもん!!!
私との事忘れちゃったのかなと思って・・・悲しくて・・・辛くて・・・
でもでもでも諦めたくなくて!!!
回りくどかったかもしれないけど、ちゃんと私達の掟に会うように準備したの!!
来てくれるか不安だったけど、皆が除草剤とか血とか準備してくれて励ましてくれて・・・!
そしたらロザドが来てくれて!!!!!
・・・でも来てくれたのに・・・・・・勝負に乗り気じゃないんだもん
決闘挑んだら勝たなくちゃ・・・できないのに・・・
だけど話したらロザド分かってくれて!ロザドの方から勝負挑んできてくれて!!!
戦ってたらロザド奥の手とか持ってたし!凄く楽しくて!!!
気がついたら私の首飛んじゃってて!そしたら・・・ぶわーって
止められなくなっちゃって・・・そこまでするつもりじゃ無かったんだけど・・・
謝らなくちゃ伝えなくちゃって思うのに・・・変な意地で意地悪なことしちゃって
どうしよどうしよ・・・って思ってたらロザドがよく分かんない昇天し始めて・・・
もう・・・!頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって・・・!
貰った血があったから!これで何とかしなきゃって・・・思って・・・
その・・・だから・・・・・・く、口移しで!!の、飲ませたの!!!
そしたら・・・首が取れた時から我慢してたんだけど・・・我慢してたんだよ?
がんばったんだけど・・・ロザドが・・・ほ、欲しいって気持ちが!?
抑えてたのに!?私は騎士だから!
他の皆みたいに浅ましい感情なんて見せちゃいけないって!!!
なのになのになのに!!!!!!!!!!!!
キスしたらもう我慢なんて出来る訳ないじゃない!!!!!!!!!!
だから血を飲ませたからおしまいだなんて!離れなきゃって思ったって!
足りない!!もう私の気持ちは!?それだけじゃ足りないの!!!!
だから!
・・・・・・もう一回・・・キスして・・・たら・・・
ロザドが目覚めて・・・目が・・・目が合って!!!???ああああぁ!もうっ!!!!!!!!?」
ボカッ!ボカッ!ボカッ!
「痛い!痛い!痛い!
すいません!!すいません!!すいません!!
分かりましたんで!!分かりましたんで!駄々っ子パンチやめてぇ!!!!
痛いの!アナタ強いからマジで痛いの!!!!!!」
ズゴォン!!!!!!!
「ぐぼはぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
2回目の昇天は妄想する暇も無かった。
地獄でナニをもぎ取られる拷問を受けていたら急に現世に呼び戻された。
目の前には一度脱ぎ払った絹の服を着直したレイナ。
俺の前髪からボタボタと水滴が落ちてる事から、水をぶっ掛けられたことがわかる。
・・・ひでぇ!?
しかも俺だけ全裸のまんまじゃん!!!
「ようやく起きたか・・・」
「スマン!まずは俺も服を着させてくれ」
何か言いたげなレイナを制して懇願する。
レイナが不満顔になりながらも了承してくれたので、慌てて周囲の服をかき集めて着用する。
・・・美女の前でいそいそとズボンを履く俺。
あまりに情けない状況で涙が出そうになってきた、でも耐える男の子だから。
そういや水をぶっ掛けられたおかげか、ようやく愚息がおねんねしてるな。
体も綺麗なってるし・・・でも荒いっすよレイナさん。
「おっ!・・・と」
左足をズボンに通そうとした所でふらついた。
なんやかんやで激しすぎる運動をしまくったからな、いい加減お疲れだぜ。
「・・・?」
同じ様にまたふらついた。
・・・・・・・・・・右足で体重が支えられないのか?
ふと視界に砕け散って柄だけになった哀れな愛剣の姿が入る。
・・・ああ、そういう事か。
「よっこいしょっと」
尻を地面に付けて子供の様にズボンを履く。
服を着終えてレイナの方へと対峙した。
普通に歩くぐらいなら支障はない、あとは訓練次第って所かね。
「どうした?」
すっかり黙りこくってしまった俺を怪訝そうにレイナが尋ねた。
表情が沈んでいたのかのしれない、ワザとらしいかもしれないが口元をにやっと歪めて答える。
「返事を考えてた。」
今度はレイナが怪訝そうな表情を浮かべる、何の?って感じだなぁ。
あんだけ激しい吐露をぶちかましといて・・・どっちが本当のレイナなんだろうな。
まあ、どっちでも・・・。
「君の告白に対する返事を。」
レイナがピシッと固まった。
・・・キザすぎたかな、まあレイナの顔に朱色が差してるので外しては無いと信じたい。
じゃあ続けて返事を、・・・言う前にもう一つ確かめたいことがある。
固まったレイナの右手首をすばやく掴んで引っ張る。
「きゃっ!?」
「・・・・・・・・・やっぱりか」
容易く俺の胸へと引き寄せられるレイナ。
その肩に手を添えながら、俺の目は節穴だったと確信した。
「ダメだったんだな、右手・・・」
レイナの肩がビクッっと震えた。
戦いの最中、悲しげに全力だと呟いたレイナ。
何があん時の戦いの再現だ、見当違いも甚だしい。
レイナの心中を想像して自分自身に対して怒りが湧いてくる。
原因は何だ。
出会った時に魔法で受けていた傷か?
それとも・・・・・・そこを狙って戦った俺か?
自責の念に押し潰されそうになったとき、ふわりと柔らかい感触を感じた。
レイナにキスをされていた。
優しく甘い香りに俺はただ呆然とするしかなかった。
「へ、返事は?」
・・・!
ああ、そうだ。
俺って一番肝心なときに詰めが甘いんだよな。
今は違うだろ、そんな事を考えてるときじゃない。
レイナの体が小さく震えている。
俺は肩にかけた両手を背中に回してレイナを抱きしめた。
「アンタに惚れた。
これからずっと傍に居させて欲しい。」
「はい・・・!
私も・・・・・・ロザドが好き!」
俺の胸にレイナが強くしがみ付く。
その銀髪を撫でながら、俺は幸福に包まれていた。
こんな良い女に出会えるとはね。
容姿の事は言うまでもないし、下賤な表現だが体の相性も極上だ。
そして何より・・・その強さ。
戦いに於いて、全身全霊の力をぶつけられる女が何処に居るってんだ?
人間の女では居るはずもなかった。
ましてや、俺の全力が通用しない女だぞ?
儚い美しさに不屈の精神、そこに宿った不可侵の気品。
知らず知らずのうちに、剣を交わすうちに。
俺は彼女に魅了されてたんだ。
にしても本当に強いよね・・・。
振り返って冷静に考えたら、ハンディがあったのにレイナさんノーダメージじゃん。
武器に頼って首を飛ばしはしたけど、意味ないもんね!
にしても、この細い体のどこにそんな力あるんだろうか?
抱きしめてるレイナの体を見ても、さっぱり理解できない。
てか良い匂いがするなぁ・・・、絹の服が凄く艶しい。
・・・。
!!
いかん!
このままじゃ愚息が夜鳴きする!!!
流石に此処は空気を読んで良い子にさせねば!!!
名残惜しいがレイナから体を離す。
辺りは何時の間にかすっかり夜になってた。
「レイナ、とりあえず俺の家に行かないか?
ここから近いしさ」
そんで明日には大型犬を買いに行こうぜ。
やばい、夢が広がってきた。
「う・・・む、すまないんだが・・・」
ガチャガチャガチッ!
え?来ないんですか?
お、俺の夢が縮んでいく・・・って、いや待て。
「何で俺の両手が鎖で縛られてんの!!!!!!!!!!!!」
答え→レイナさんが縛ったからさ。
「デュラハンの由緒正しい掟でな。
お、夫となる男を自分の屋敷に連れ去るのが私達デュラハンなんだ
ただ私の屋敷は魔界にあるから、とりあえず私の所属する軍の拠点に連れて行く」
ま、魔界!?
魔王軍の拠点!!??
「い、嫌だぁ!!
せっかく夢を掴み始めたのに死にたくない!!!
てか俺の家はどうなんの!?帰れないの!!??」
冗談じゃねぇ、必死にもがいて脱走しようとする。
ガチャガチャ!!
あ、ダメだわ。
これ確実に外れないタイプだ。
なんか暴れるほど俺の手首がギリギリと締まるんですもの。
「あー・・・まだ私達の事、説明しきれてないからなぁ
教団が何ていってるか知らないけど、そんなに悪い所じゃないぞ?
あと家は・・・まあ、そのうち。」
そのうちどうなるの?
諦めがつくんじゃない、とか小声で聞こえた気がするんですけど。
「てか俺、まったくもって魔法も使えない人間ですよ?
そんなのが魔王軍にいったら邪魔になっちゃうと思うなぁ〜」
活路を!幾らなんでもいきなりこの展開は俺でも怖い!!!
だって、何かおどろおどろしい馬車が闇の彼方からこっちに向かって来てるんだもん!
蒼火の車輪と骸骨の馬が引く漆黒の馬車。
どう見たって地獄行きじゃねーか!!!!!!!!
「ああ、それなら心配いらない。
ロザドの剣の腕は私が保障するし、特に能力の無い人間も結構居るからな。
あとロザドの傭兵団のメンバーも殆どが今魔王軍に所属してるぞ。」
え、死んでないの皆。
団長も居んのか、俺の部下もか?
「それに・・・ロザドもう人間じゃないし」
「え」
「メロウの血飲んだしな、あと・・・・・・わ、私と、その・・・いっぱい・・・したから・・・・。
もう完璧にインキュバスになってる筈だ。」
・・・え?
ヒヒーン!!
「ほら、迎えが来たぞ。」
俺たちの前に止まった馬車に乗り込むレイナ。
鎖で繋がれた俺も引っ張られるまま、馬車に乗り込む。
馬って骸骨でも鳴けるんだなぁ、と思いながら動き出した馬車の窓から外を見つめる。
おれ、どうなるの?
窓一面に広がる真っ暗闇な情景に不安になった俺の太ももに、そっと手が添えられた。
小さい手。
気恥ずかしいのか、レイナは俺とは反対の方へ顔を背けてる。
・・・。
まあ何処行っても俺は俺か、どうにかなるか。
・・・なるよな、うん、多分。
レイナの手に自分の手を添える。
魔界にも野菜とかってあるのかなぁ。
〈完〉
鴉の声が何処からとも無く響く、時刻は夕方を過ぎ夜を迎えようとしていた。
俺とレイナがどうなったかというと
「・・・。」「・・・。」
互いに向かい合って地面に正座し放心している。
というか正気に戻ったのである。
結局あれから・・・え〜と・・・何回だっけ?
・・・まあ、いっぱい頑張ってたら段々と頭が冷えてきて、この状況に至ったのである。
辺りを見渡してみると激しい戦闘と性交の残骸が散らばっている。
薙ぎ倒された木々に抉られた大地、散乱した俺たちの防具と衣類。
俺が持ってきていた食料なんかは何時の間にか現われた動物達が一生懸命がっついてる真っ最中だったりする。
なに、この状況。
燃え尽きた・・・燃え尽きたぜ・・・今日一日でどんだけイベント起きたんだよ。
途中から完全に置いてけぼりの展開だったぞ。
挙句の果てが今、全裸で正座だし。
ビクンッ!ビクンッ!
・・・しかもさ、何で未だにマイサンは健在なんだよ。
頭はすっかり賢者モードなのに、反り返って脈打ってるんですけど。
何なのだろうか、このなんとも言えない気持ちは。
とりあえず我ながら、ちょっとキモイわぁ・・・。
レイナはというと・・・完全に魂が抜けてる。
目線は在らぬ彼方を見つめて、脱力した両腕はブラ〜ンと垂れ下がっている。
その体は・・・・・・ドロッドロ。
もう新種のスライムかしら?と思うレベル。
もちろん原因は俺。
俺から放たれた情熱の旋律が彼女を染め上げてる。
しかしギンギラギンな股間も摩訶不思議だけど、この量も一体なんなんだ?
質量保存の法則は何処いった?
人類を新たに作りなおせるぐらいの量だぞ。
あー・・・
どうすればいいのだろう
・・・とりあえず近くに散らばっていた俺の荷物から、毛布を引き寄せる。
「レイナ、これ使ってくれ」
「・・・・・・」
毛布を差し出すと、暫く間を取ってから気だるそうに毛布を受け取ってくれた。
毛布でゴシゴシと体を擦るレイナ。
正しい擬音としては『ぬらぁ〜べちょぉ』だけど、嫌悪感が込上げてくるから耳を手で塞ぐことにしよう。
「・・・・・・ん、ありがと」
「うぐっ!?・・・・・・あ、あぁ」
体を拭き終わったレイナが毛布を返してくれた。
いや、いらねぇよ!
でもお礼言われたら、受け取らないと気まずいよね!
だから受け取る俺まじ紳士!
・・・。
うわぁ、重たい。
この毛布、今世界で一番禍々しい毛布だわ。
あとで聖水で手を洗おう・・・。
毛布をそっと視界に入らないところに置くってか捨ててレイナと向かいあう。
さて、山積みの疑問を崩しにかかってみるか。
「なぁレイナ」
「なんだ?」
おっ、調子が戻ったのか、その口調も久しぶりに感じる。
全裸で何威張ってんだとツッコミを入れたいが、話が進まないのでやめておこう。
「まずは教えてくれ、何で俺は生きてる?
そこに広がってる血の海じゃあ確実に一度あの世を見ている筈なんだが・・・」
「う・・・む、さっきも言った大事な話の事になるんだけど・・・」
レイナが言いよどんでいる。
え、何なの、ここ実は死後の世界とか言わないでよ?
「まあ・・・薬の効果だ」
「薬?除草剤じゃ無いだろうな!?」
「当たり前だ、馬鹿か?人魚の血を使ってやったんだから感謝するんだな」
ひでぇ。
除草剤の恐怖を俺に植え付けたのアンタだろ!
にしても人魚の血だぁ?あの伝承とかに出てくるやつか。
「正確にはメロウの血だ、あんまりポックリと逝きそうだったんで哀れに思ってな。
調子は・・・聞くまでも無いか」
呟くと俺の股間を蔑む様に見ている。
うん、まだギンギンだ。
我ながらいい加減にしろよ。
もう恥は掻き捨てだ、この暴れん坊の鬼金棒の事も聞くか。
・・・なんかブツブツと愚痴ってらっしゃるけど、まあいっか。
「・・・せっかく・・・・・・のに・・・」
「なぁ」
「なんだ!!」
怖えぇぇぇ、でも負けない。
「聞くのも忍びないんだが・・・俺のこれ・・・どうなってんの?」
「しるか」
わぉ
機嫌悪いね、でもそれじゃ物事が解決しないのだよ。
なんか俺も調子が戻ってきたし、ちょっと揺さぶってみるか。
というか触れなきゃいけない話題がひとつあるんだよね。
「な、なぁ」
「・・・なんだよぅ」
あー・・・、ついにそっぽ向かれた。
てかキレ方かわいいな、おい。
もう勢いで突っ込むか、いくぜ!
「・・・なんで俺にキスしてたんだ?」
「!!!!!!」
一瞬でレイナの顔が紅く染まる。
そして聞いてる俺もちょっと恥ずかしい。
「そ、れは・・・あの・・・だから・・・」
あーなんて分かりやすい動揺なのでしょう。
我ながら野暮な事聞いたな・・・。
まあここで畳み掛けないと、問い詰めるの無理そうだしなぁ。
「結局の所、アンタは何がしたかったんだ?
回りくどい決闘挑んできて俺をぶちのめしたかと思えば
瀕死の俺にキスして・・・そのあと、やりまくって・・・」
・・・いやもう本当何したかったんだ、展開まとめてもさっぱりだ。
そういや人魚の血飲ませたんだよな?
俺が瀕死のときに治療をしてくれた訳か。
じゃあ瀕死にすんなや!!
決闘飛ばしてくれよ!!!
「あ、あ、あ・・・・・・・・・・・うぅ〜〜〜〜〜〜」
あ、やべ。
すっかりオーバーヒートしたレイナが俯きながらプルプルと肩を震わせている。
しまった、プライドの高い相手を一気に捲し立て過ぎたか。
様子を伺っていると、ガバッとレイナが顔をあげて・・・
キレた。
「だってだってだって!!!!ロザドが勝負に来いっていったんだもん!!
すっごく嬉しくて!どうすればいいか皆に相談して!!色々教えて貰って!
ロザドを探して貰えたし!迎えに行ったら・・・何か良い汗流して畑耕してるだもん!!!
私との事忘れちゃったのかなと思って・・・悲しくて・・・辛くて・・・
でもでもでも諦めたくなくて!!!
回りくどかったかもしれないけど、ちゃんと私達の掟に会うように準備したの!!
来てくれるか不安だったけど、皆が除草剤とか血とか準備してくれて励ましてくれて・・・!
そしたらロザドが来てくれて!!!!!
・・・でも来てくれたのに・・・・・・勝負に乗り気じゃないんだもん
決闘挑んだら勝たなくちゃ・・・できないのに・・・
だけど話したらロザド分かってくれて!ロザドの方から勝負挑んできてくれて!!!
戦ってたらロザド奥の手とか持ってたし!凄く楽しくて!!!
気がついたら私の首飛んじゃってて!そしたら・・・ぶわーって
止められなくなっちゃって・・・そこまでするつもりじゃ無かったんだけど・・・
謝らなくちゃ伝えなくちゃって思うのに・・・変な意地で意地悪なことしちゃって
どうしよどうしよ・・・って思ってたらロザドがよく分かんない昇天し始めて・・・
もう・・・!頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって・・・!
貰った血があったから!これで何とかしなきゃって・・・思って・・・
その・・・だから・・・・・・く、口移しで!!の、飲ませたの!!!
そしたら・・・首が取れた時から我慢してたんだけど・・・我慢してたんだよ?
がんばったんだけど・・・ロザドが・・・ほ、欲しいって気持ちが!?
抑えてたのに!?私は騎士だから!
他の皆みたいに浅ましい感情なんて見せちゃいけないって!!!
なのになのになのに!!!!!!!!!!!!
キスしたらもう我慢なんて出来る訳ないじゃない!!!!!!!!!!
だから血を飲ませたからおしまいだなんて!離れなきゃって思ったって!
足りない!!もう私の気持ちは!?それだけじゃ足りないの!!!!
だから!
・・・・・・もう一回・・・キスして・・・たら・・・
ロザドが目覚めて・・・目が・・・目が合って!!!???ああああぁ!もうっ!!!!!!!!?」
ボカッ!ボカッ!ボカッ!
「痛い!痛い!痛い!
すいません!!すいません!!すいません!!
分かりましたんで!!分かりましたんで!駄々っ子パンチやめてぇ!!!!
痛いの!アナタ強いからマジで痛いの!!!!!!」
ズゴォン!!!!!!!
「ぐぼはぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
2回目の昇天は妄想する暇も無かった。
地獄でナニをもぎ取られる拷問を受けていたら急に現世に呼び戻された。
目の前には一度脱ぎ払った絹の服を着直したレイナ。
俺の前髪からボタボタと水滴が落ちてる事から、水をぶっ掛けられたことがわかる。
・・・ひでぇ!?
しかも俺だけ全裸のまんまじゃん!!!
「ようやく起きたか・・・」
「スマン!まずは俺も服を着させてくれ」
何か言いたげなレイナを制して懇願する。
レイナが不満顔になりながらも了承してくれたので、慌てて周囲の服をかき集めて着用する。
・・・美女の前でいそいそとズボンを履く俺。
あまりに情けない状況で涙が出そうになってきた、でも耐える男の子だから。
そういや水をぶっ掛けられたおかげか、ようやく愚息がおねんねしてるな。
体も綺麗なってるし・・・でも荒いっすよレイナさん。
「おっ!・・・と」
左足をズボンに通そうとした所でふらついた。
なんやかんやで激しすぎる運動をしまくったからな、いい加減お疲れだぜ。
「・・・?」
同じ様にまたふらついた。
・・・・・・・・・・右足で体重が支えられないのか?
ふと視界に砕け散って柄だけになった哀れな愛剣の姿が入る。
・・・ああ、そういう事か。
「よっこいしょっと」
尻を地面に付けて子供の様にズボンを履く。
服を着終えてレイナの方へと対峙した。
普通に歩くぐらいなら支障はない、あとは訓練次第って所かね。
「どうした?」
すっかり黙りこくってしまった俺を怪訝そうにレイナが尋ねた。
表情が沈んでいたのかのしれない、ワザとらしいかもしれないが口元をにやっと歪めて答える。
「返事を考えてた。」
今度はレイナが怪訝そうな表情を浮かべる、何の?って感じだなぁ。
あんだけ激しい吐露をぶちかましといて・・・どっちが本当のレイナなんだろうな。
まあ、どっちでも・・・。
「君の告白に対する返事を。」
レイナがピシッと固まった。
・・・キザすぎたかな、まあレイナの顔に朱色が差してるので外しては無いと信じたい。
じゃあ続けて返事を、・・・言う前にもう一つ確かめたいことがある。
固まったレイナの右手首をすばやく掴んで引っ張る。
「きゃっ!?」
「・・・・・・・・・やっぱりか」
容易く俺の胸へと引き寄せられるレイナ。
その肩に手を添えながら、俺の目は節穴だったと確信した。
「ダメだったんだな、右手・・・」
レイナの肩がビクッっと震えた。
戦いの最中、悲しげに全力だと呟いたレイナ。
何があん時の戦いの再現だ、見当違いも甚だしい。
レイナの心中を想像して自分自身に対して怒りが湧いてくる。
原因は何だ。
出会った時に魔法で受けていた傷か?
それとも・・・・・・そこを狙って戦った俺か?
自責の念に押し潰されそうになったとき、ふわりと柔らかい感触を感じた。
レイナにキスをされていた。
優しく甘い香りに俺はただ呆然とするしかなかった。
「へ、返事は?」
・・・!
ああ、そうだ。
俺って一番肝心なときに詰めが甘いんだよな。
今は違うだろ、そんな事を考えてるときじゃない。
レイナの体が小さく震えている。
俺は肩にかけた両手を背中に回してレイナを抱きしめた。
「アンタに惚れた。
これからずっと傍に居させて欲しい。」
「はい・・・!
私も・・・・・・ロザドが好き!」
俺の胸にレイナが強くしがみ付く。
その銀髪を撫でながら、俺は幸福に包まれていた。
こんな良い女に出会えるとはね。
容姿の事は言うまでもないし、下賤な表現だが体の相性も極上だ。
そして何より・・・その強さ。
戦いに於いて、全身全霊の力をぶつけられる女が何処に居るってんだ?
人間の女では居るはずもなかった。
ましてや、俺の全力が通用しない女だぞ?
儚い美しさに不屈の精神、そこに宿った不可侵の気品。
知らず知らずのうちに、剣を交わすうちに。
俺は彼女に魅了されてたんだ。
にしても本当に強いよね・・・。
振り返って冷静に考えたら、ハンディがあったのにレイナさんノーダメージじゃん。
武器に頼って首を飛ばしはしたけど、意味ないもんね!
にしても、この細い体のどこにそんな力あるんだろうか?
抱きしめてるレイナの体を見ても、さっぱり理解できない。
てか良い匂いがするなぁ・・・、絹の服が凄く艶しい。
・・・。
!!
いかん!
このままじゃ愚息が夜鳴きする!!!
流石に此処は空気を読んで良い子にさせねば!!!
名残惜しいがレイナから体を離す。
辺りは何時の間にかすっかり夜になってた。
「レイナ、とりあえず俺の家に行かないか?
ここから近いしさ」
そんで明日には大型犬を買いに行こうぜ。
やばい、夢が広がってきた。
「う・・・む、すまないんだが・・・」
ガチャガチャガチッ!
え?来ないんですか?
お、俺の夢が縮んでいく・・・って、いや待て。
「何で俺の両手が鎖で縛られてんの!!!!!!!!!!!!」
答え→レイナさんが縛ったからさ。
「デュラハンの由緒正しい掟でな。
お、夫となる男を自分の屋敷に連れ去るのが私達デュラハンなんだ
ただ私の屋敷は魔界にあるから、とりあえず私の所属する軍の拠点に連れて行く」
ま、魔界!?
魔王軍の拠点!!??
「い、嫌だぁ!!
せっかく夢を掴み始めたのに死にたくない!!!
てか俺の家はどうなんの!?帰れないの!!??」
冗談じゃねぇ、必死にもがいて脱走しようとする。
ガチャガチャ!!
あ、ダメだわ。
これ確実に外れないタイプだ。
なんか暴れるほど俺の手首がギリギリと締まるんですもの。
「あー・・・まだ私達の事、説明しきれてないからなぁ
教団が何ていってるか知らないけど、そんなに悪い所じゃないぞ?
あと家は・・・まあ、そのうち。」
そのうちどうなるの?
諦めがつくんじゃない、とか小声で聞こえた気がするんですけど。
「てか俺、まったくもって魔法も使えない人間ですよ?
そんなのが魔王軍にいったら邪魔になっちゃうと思うなぁ〜」
活路を!幾らなんでもいきなりこの展開は俺でも怖い!!!
だって、何かおどろおどろしい馬車が闇の彼方からこっちに向かって来てるんだもん!
蒼火の車輪と骸骨の馬が引く漆黒の馬車。
どう見たって地獄行きじゃねーか!!!!!!!!
「ああ、それなら心配いらない。
ロザドの剣の腕は私が保障するし、特に能力の無い人間も結構居るからな。
あとロザドの傭兵団のメンバーも殆どが今魔王軍に所属してるぞ。」
え、死んでないの皆。
団長も居んのか、俺の部下もか?
「それに・・・ロザドもう人間じゃないし」
「え」
「メロウの血飲んだしな、あと・・・・・・わ、私と、その・・・いっぱい・・・したから・・・・。
もう完璧にインキュバスになってる筈だ。」
・・・え?
ヒヒーン!!
「ほら、迎えが来たぞ。」
俺たちの前に止まった馬車に乗り込むレイナ。
鎖で繋がれた俺も引っ張られるまま、馬車に乗り込む。
馬って骸骨でも鳴けるんだなぁ、と思いながら動き出した馬車の窓から外を見つめる。
おれ、どうなるの?
窓一面に広がる真っ暗闇な情景に不安になった俺の太ももに、そっと手が添えられた。
小さい手。
気恥ずかしいのか、レイナは俺とは反対の方へ顔を背けてる。
・・・。
まあ何処行っても俺は俺か、どうにかなるか。
・・・なるよな、うん、多分。
レイナの手に自分の手を添える。
魔界にも野菜とかってあるのかなぁ。
〈完〉
11/05/13 02:43更新 / しそ
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