連載小説
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1話
「殺せ」



突きつけた剣先から凛々しい声が聞こえた。


「断る」
返答と同時に剣を引き、その場から去ろうと踵を返す。

「情けのつもりか人間、ここを何処だと思っている? 戦場で情けなど・・・無用だ」
嘲笑を含んだ問いではあるが、やはり凛々しく美しい声に戦闘の熱が冷めていく。

声の主に振り向くことなく答える。
「手負いを相手にした挙句、止めまで刺しちまったら男が廃るってもんだ」
まあ、反撃ができなくなるぐらい痛めつけたからすでにアウトな気もするが。

だがそうせざるをえなかった。
なんせ相手は魔王軍の先鋭たるデュラハン。

運悪くばったり出くわしたとき、強烈な魔法を受けたのか右手に深手を負っていたので何とか撃退できた。
左手一本の上、かなり疲弊している筈だろうに、苦戦を強いられた辺り流石というべきか。

「貴様の身なりからして教団の正規兵ではあるまい
 傭兵ならば私の首を持っていけばきっと大金が手に入るぞ?」
アンタの場合、首だけでも生きてるじゃん。
と思ったが相手のシリアスな口調に揚げ足を取るのは控えておこう。

それにしても魔王軍先鋭のプライドなのだろうか、やけに死にたがるなぁ。
生き恥より死を選ぶ高尚さには頭が下がるが、あまりここに長居はできない。
「残念ながら、今回の戦争は教団側の完敗だ。
 もう本隊も本国まで撤退済みだろうからな・・・
 いくらデュラハンの首を持ち帰った所で報奨金の当ては薄いね。」

俺も所属した傭兵部隊と撤退をしていたが、魔王軍の追撃を受けて部隊は壊滅。
一人で逃げたほうが追撃の手を撒けると踏んで逃げてきたんだ。
まあ結果がこの状況なので当ては思いっきり外れたけど。

おそらくこのデュラハンは教団の本隊を追撃していたのだろう。
本隊なら強力な魔法使いも居るだろうし、退路に仕掛けたトラップ魔法にでも掛かったのだろうな。
ドジめ、だけどそのドジのおかげで俺助かった、ナイスドジ。

「だ!誰がドジだと!!!貴様!!!」
しまった、声に出してたか。
後ろからガシャガシャと鎧が擦れる音と共に殺気を感じた俺は全力で走り出す。
「ま、まて!人間!!!!
 やはり勝負はまだついていない!たたっ切るからそこに直れ!!!!」
走りながら振り返ると顔を真っ赤にしてデュラハンが追ってきている。

負傷のために追いつかれることはなさそうだが、左手であの仰々しい剣を振りかざしてる。
こいつぁ待つわけにはいかねぇぜ。

しかし・・・あの剣さえなけりゃ、あの美貌だ。わざと捕まってもいいんdドゴォッッ!!
って、おお!!?ボケてる場合じゃない!
何今の衝撃波みたいなの!デュラハンってこんな事もできんのかよ!?

「避けるな貴様!おとなしく死ね!!」
「死ねと言われて死んでたら命がいくつあっても足りねーよ!
 あと『人間』だの『貴様』だのやかましいわ!俺はロザドという立派な名前があんだよ!!
 勝負したけりゃ怪我が治ってから来な!正々堂々相手してやらぁ!!!!」


はったりをかましつつ全力で逃げ回る間、もう傭兵家業は廃業したほうが身のためかな・・・と俺は思っていた。



「はぁ、はぁ、はぁ・・・
 ・・・逃げられたか・・・
 『ロザド』・・・・必ず・・・」













敗戦から半年後
俺ことロザドは路頭に困ってた。

知り合いの傭兵の殆どをあの戦争で失なった事と。
教団が魔物だけでなく親魔物派の人間も襲撃しているとの噂を聞いたため、傭兵家業から身を引くことにした。
そこで新規一新、中立派とされる町の郊外に住まいを構え細々と農業生活を行うことにしたのだが・・・。

「・・・枯れてる、見事に枯れてる」

小麦、大麦、その他野菜の苗を育てたのだが見事に全て枯れてしまった。
どうやら土壌が農作にむいて無かったらしい、断じて俺がヘタクソなんじゃない。断じてだ!




・・・やばい、どうしよう。
傭兵時代に稼いだ金はこの住まいのために殆ど使ってしまった。
折角、密かに夢見てた静かな郊外でやさしい妻と子供と大型犬に囲まれて、農作スローライフを送る第一歩を踏み出したと言うのに。

「結局これしかないよなぁ・・・」

ぼやきながら、壁にかけてあるものに手をかける。
数ヶ月ではあるが全く触れることの無くなった愛剣、抜き払ってみるとまだその刀身は眩いばかりだ。
壁にかける時は、《・・・もうこいつに頼ることもあるまい。》とか格好つけてたのに。
だけどまあ、しょうがない。どうしようもない。しかたがない。

とりあえず町へいってギルドを尋ねよう。
家を建てるとき懐の侘しさに不安を覚えて、一応いつでも稼げるようにギルドに登録はしてあるんだ。
傭兵みたいな依頼は御免だが、何かおつかい的な依頼で小金稼ぎをして当面を凌ごう。

そう決めるとさっそく昔の装備を引っ張りだし、点検をした後、町へと向かった。










「つーわけで、お仕事くださいな」
「貴方、もうちょっと人生設計を立てたほうがいいわよ・・・」
ギルドのカウンターで受付役の女性、エルザがため息混じりで呟いた。

依頼の紹介を頼むのは初めてだが、ギルドは酒場にもなっており、ちょくちょく通っていたのでそれなりの面識はお互いに持っている。
「そうはいってもさ・・・
 剣を振り回す以外の事なんて初めてのことばっかで上手くいかないんだよ」
反論にならない屁理屈をこねながら、手元のグラスを口に運ぶ。
中身は水だ。タダだ。装備品の修繕&補充にまたお金が飛んでっちゃったんだ。

「でもちょうどよかったわ。
 実は近いうちにこちらからでも連絡して、貴方に来て貰おうと思ってたのよ。」
「?」
どういうことだと、尋ねようとするとエルザはカウンターの上に一枚の依頼書を取り出した。
空になったグラスを机の脇に置き、その依頼書を手に取る。

内容は・・・



「なんだこれ?」



―戦闘の準備と体調を万全にし、指定の日時に地図に記された場所まで来られたし―



あとは地図が付属されてるだけで、なんとも曖昧な依頼だ。
しかも・・・
「俺を指名?」
「そうよ」
ますます訳が分からない。
以前の町なら俺のことを知ってるやつが居てもおかしくないが、俺はこの町では全くの無名だ。
しかも報酬が高い。
俺の家がもう一件建っちゃう金額なんですけど。夢の2世帯住宅になっちゃうぜ。
しかも前金まである、これは準備に使えってことか。

「しかし、何故俺なんだ?誰か他の奴と間違えてるんじゃないのか?」
俺はまだここで依頼を受けた事も無いのに。
「いえ、確かに貴方を指名されたわよ。それも念入りに特徴を伝えられながらね
 ・・・本当なら、内容がはっきりしない依頼は断るんだけど」
仲介料をはずまされてさ、とぼそっとエルザが呟く。

「俺に恨みがある奴の罠・・・にしちゃ効率悪いし、筋が通らないか
 これ依頼主の『レイナ』ってのはどんな奴か分かるか?」
流石に裏がありそうな話に俺は眉をしかめながら考え込む。

「本人かどうか分からないけど、依頼に来たのは若い女だったわよ」





なんだと?




「美人だったか?」
「え?
 そうね、何か独特の服装だったけど、とても美人だったわ
 心当たりがあるの?」
「いや、全然まったくない。聞いたことない名前だしな。」
「そう・・・じゃあ、やめておく?私も流石に胡散臭い依頼だと思ってるのよ」
依頼書を片付けようと手を伸ばしたエルザを手で制す。


「いや、引き受けるよ。
 高額な報酬で俺を指名されたのに、あれこれ憶測を働かせて断ったら俺は臆病者になっちまう。
 な〜に、いざとなればコイツで切り抜けるさ」
そう言いながら腰の剣を掲げてみせる。決まったな。












「ロザド」
 何だ?惚れたか?
「顔がにやけてるわよ」
 え


「見もしない美人に釣られるとか・・・
 あんた本当、人生見つめなおしたほうがいいわよ・・・」
11/03/14 01:01更新 / しそ
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■作者メッセージ
誤字脱字があったら、ふんわりとやさしく教えてくれると嬉しいです

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