第一話
「はあ!? そんな理由でまだヤッてなかったの!?」
「うう……大きな声で言わないでぇ……」
「いや、だってねぇ……」
友人の羽奈ちゃんが驚いた声で叫ぶ。
放課後の空き教室に、その呆れ声が大きく響いた。
私はサキュバスの紗希。
最近ある悩みを抱えており、同じくサキュバスの羽奈ちゃんにたった今思い切って打ち明けたところだ。
羽奈ちゃんは引っ込み思案な私と違って、イケイケな雰囲気を漂わせるサキュバスらしいサキュバスなの。
だから、私の悩みも解決してくれるかもしれないと思って、意を決して相談したんだけど……。
四六時中彼氏と愛し合ってるこの子には、信じられない話だったみたい。
まあ、そうだよね。
だって……。
「膣が狭すぎてエッチできません。なんて、アンタそれでもサキュバス?」
「ううう……」
そう、それが私の悩みだ。
最近お付き合いを始めた幼馴染の裕二くん。
柔道部に入ってる彼は、背が高くて筋肉質で、とっても私好みのカッコいい身体をしている。
もちろんそれだけじゃなくて、一緒に歩いている時に照れながら肩を寄せてきたり、スイーツが好きだったりと可愛いところもある。
そんなところも大好きで、私は幼い頃から完全に彼にベタ惚れだった。
告白の時だって「小さい頃からずっと好きだった」と堂々と伝えてくれた。
あの時のキスは最高だったなぁ……。
理性を抑えるのが大変だったよ。
そんな、普通の魔物娘なら即ベッドイン間違いなしのシチュエーションにいるのが今の私だ。
それにも拘らず、未だに積極的になれないでいるのは、この膣のせいだった。
「だって、小指が一本入るくらいの幅しかないんだもん……。長さだって第2関節までしかないし……」
種族柄、たまに私は悶々としてしまう日がある。
そんな時に一人で慰めていると、どうしても彼のおちんちんを考えてしまう。
あの大きな身体なら、きっとおちんちんだって凶悪なんだろうな。
そう思うと、指に伝わる膣内の感触が途端に頼りなく感じられて、本番の時にちゃんと彼のを受け入れられるか怖くなっちゃうの。
そんな私の話を言い訳がましく思ったのか、羽奈ちゃんはハァと大きくため息をつく。
「あのねえ、紗希。アタシたち魔物娘は好きな人のちんちんに勝手に合わせられるような身体になってんの。だから、そんなの気にしないで襲っちゃえばいいんだって」
「分かってるよお……分かってるんだけど……」
「ならいいじゃない、今日にでも押し倒してきちゃえば」
「でも裕二くん。そういう雰囲気になったら、あからさまに私から逃げようとするんだもん」
「揃いも揃ってヘタレかおどれらは!!」
私だって伊達に魔物娘に生まれたわけではない。
慣れないながらに雰囲気を作ろうとしてきたし、お誘いもしてきた。
でも、その度に裕二くんは何かと理由をつけて私を避けてしまう。
彼の方から襲ってきてくれるなら、私だって覚悟を決められるのになあ……きっと。
「どうして逃げちゃうんだろ。やっぱり私の身体が好みじゃないのかな」
「そんな凶悪なものぶら下げて何言ってんのよアンタは」
「んん……! つつかないでぇ……」
「お、いい顔できるじゃん。その顔と乳で誘えばあのヘタレも絶対オチるって」
「そうかなあ」
「そうそう、紗希は可愛いんだから自信持ちな」
そう言うと、羽奈ちゃんはにひひと笑う。
悪戯っぽいその表情は、とても淫魔らしい魅力に溢れている。
いいなあ。
羨ましいなあ……。
━キーンコーンカーンコーン
その時、夕日の差す教室にチャイムの音が響く。
部活動の終わりを知らせる予鈴だ。
「あ、ほら。そろそろ部活終わる頃じゃない? 紗希も行ってあげな」
「うん、行ってくる。相談に乗ってくれてありがとう、羽奈ちゃん」
「いいのいいの。カレ待ちしてる間の暇つぶしみたいなもんだから、バイバーイ」
バイバイと手を振り返して、私は彼の待つ体育館へと向かう。
嬉しいな。もうすぐ裕二君に会えるんだ。
「表情……表情……」
彼を待つ間、私は羽奈ちゃんからのアドバイスを小さく繰り返す。
今日はできるだけエッチな表情で迫ってみなくちゃ。
◇
「よし、予鈴も鳴ったし今日はここまでだ! 解散!」
「お疲れ様でしたぁ!!」
俺達は、顧問の号令に対して一斉に答える。
今日の部活はこれで終わり。
あとは片付けと着替えをして帰るだけだ。
いつも体育館の入口で待っていてくれる彼女の姿を想像して、俺の表情は緩む。
最近付き合い始めた紗希は、俺の幼馴染でサキュバスだ。
サラサラとした黒髪ロングヘアに、制服の上からでもはっきりと分かる膨らみはとても魅力的だ。
サキュバスらしからぬ控えめな性格も、可愛らしくてたまらない。
思い切って俺が告白した時なんて、感極まったのか何度もキスをせがんできた。
後で真っ赤になってたけど、最高に可愛いかったなあ。
そんな普通の魔物娘のカップルなら即ハメ間違いなしの状況にも拘らず、未だ俺達にこれ以上の進展はない。
その原因は……。
「これだよなあ……」
部室で着替え中の俺は、周りの奴らにバレないようにそっとパンツの中を覗く。
そこにあるのは、信じられない程に粗末なペニスだ。
だらんと垂れたその姿はせいぜい小指くらいの大きさで、最大に勃起した時でさえ親指サイズまでしか膨張しない。
子供の頃はペニスの大きさなんて全く気にしていなかったが、紗希を意識するようになってからは、何とかサイズアップするために涙ぐましい努力をしてきた。
好色な魔物娘は粗チンでは満足しない、という恐ろしい噂を聞いたからだ。
まず、身体を鍛えればペニスも増大すると聞いて柔道部に入部した。
身体を鍛えまくれば大きなペニスが手に入る、という希望を支えに俺は部活に打ちこんだ。
その結果は、身長こそ伸びたが肝心な所は一向に伸びる気配がなく、失敗という他なかった。
正攻法ではダメだと気づいてからは化学を頼り、市販のペニス増大薬を飲んだが、これも効き目は全くなかった。
ただの薬では意味がないと悟った俺は、部活動としてやっているサバトを訪ね、ペニスを増大させる強力な薬効の薬を処方してもらった。
しかし、何度通い詰めても成果は上がらず、終いには「キミのカラダには粗チンの神が宿ってるよ」と部長からサジを投げられてしまった。
魔物娘の力を借りても、俺のペニスをどうにかすることはできなかったのだ。
それならばと、藁にもすがる思いで近所の社にお参りしたこともある。
その日の夜は、狐耳をした神様に「すまんが、お主の悩みは妾にもどうにもならんわ」と残酷なお告げを受ける夢を見た。
「はあ……」
こうして、俺が無駄な努力を重ねている間にも周りの奴らは次々と童貞を卒業していく。
デカチンで彼女をヒイヒイ泣かせる友人たちの自慢話を聞いていると、紗希のことを思って不安になってしまう。
もしペニスを見せた時にあいつに笑われたら。
それどころか、もしあいつを満足させられなかったらと思うと、俺の想像はどんどん恐ろしくなる。
『フフッ……。ゆーくんのおちんちん、すっごくお粗末さまだね』
『ごめんね、もう別れよっか。ゆーくんのおちんちんって全然気持ち良くないの』
「……っ!」
紗希がそんな事を言うはずがないと分かっていても、気分は重くなる一方だ。
たまに紗希は、慣れない様子で誘惑してくる事がある。
まあ、その内容はセクシーポーズと題して目の前でクネクネするだけだったり、ASMRと称して耳元でお菓子をかじるだけのどこかズレたものだったが……。
ただでさえ恥ずかしがり屋なあいつにとって、それは多くの勇気が必要だろうに、俺は鈍感で気づかないフリをしたり、予定があるからと言い訳をしたりして誤魔化している。
最低な行為を働いている自覚はあるが、どうかもう少しだけ待ってくれと、心の中で身勝手な告白をする。
せめてあと3センチ、いや2センチ大きくなるまでは……。
「おい、どうした裕二。早く着替えろよ」
「あ、ああ。わりい」
そんな事を考えていると、着替える手が止まっていたのか、友人から催促される。
俺は急いで道着をカバンに突っ込んだ。
「紗希さんの事でも考えてたんか? いいよなあ、あんな清楚な彼女がいて」
「まあな。お前こそ羽奈ちゃん大事にしろよ」
「へへ、分かってるよ」
幸せそうに笑う友人に、じゃあなと声をかけて部室を出る。
あいつの彼女も確かサキュバスだったはずだ。
今度相談してみるのもいいかもしれないな。
体育館の入口に着くと、そこには紗希がいつものように俺を待ってくれていた。
「わりぃ、待たせた。サキ」
「ううん、全然」
そう健気に答えた紗希は、にへらと嬉しそうに笑う。
ああ……可愛い……。
「じゃあ、帰ろっか」
「ああ」
スッと差し出された手を掴み、俺達は家路へと足を進める。
暖かなその手からは、紗希の多幸感がじんわりと滲み出ているようだった。
俺もお返しするつもりで、手の平をギュッと軽く握る。
「ふふふ」
そんな俺の思いは、確かに伝わっているようだ。
紗希の足取りが段々と軽くなり、スキップを踏むようなリズムを刻みだす。
ああ……。幸せだなあ。
「ねえ」
「ん?」
「今日もウチ寄ってくでしょ?」
「おお」
家も隣同士の俺達は、家族ぐるみの付き合いがあり、どちらかの家庭が多忙な時は助け合うのが当たり前だ。
だから紗希も、今日は俺の両親が出張で家を開けることを知っていて、こうして夕飯に誘ってくれるのだ。
「それでね」
思い詰めたような顔で紗希が立ち止まる。
少しだけ、周囲の雰囲気が変わった気がした。
「大事なお話があるの。お風呂上がったら、ゆーくんの部屋にお邪魔してもいいかな」
「い、いや。それは」
「……ダメかなぁ?」
いつもの暖かな笑顔とは明らかに違う、にへらあとした笑みが紗希の顔に浮かび上がる。
俺は思わず困惑する。
だって、その表情はまるで…
「あ、ああ。もちろんいいぞ」
「やったあ」
しまった、と思ったのは程なくしてだった。
紗希の見たこともない表情に気を取られて、つい誘いに乗ってしまったのだ。
心臓の鼓動が痛いくらいに鳴り始める。
それを鎮めるようと軽く息を吸い込むと、どこか甘ったるい匂いが鼻腔を刺激した。
「楽しみだね、今夜が」
再びスキップを始めた紗希に引かれるように、俺は慌てて足を進めた。
「うう……大きな声で言わないでぇ……」
「いや、だってねぇ……」
友人の羽奈ちゃんが驚いた声で叫ぶ。
放課後の空き教室に、その呆れ声が大きく響いた。
私はサキュバスの紗希。
最近ある悩みを抱えており、同じくサキュバスの羽奈ちゃんにたった今思い切って打ち明けたところだ。
羽奈ちゃんは引っ込み思案な私と違って、イケイケな雰囲気を漂わせるサキュバスらしいサキュバスなの。
だから、私の悩みも解決してくれるかもしれないと思って、意を決して相談したんだけど……。
四六時中彼氏と愛し合ってるこの子には、信じられない話だったみたい。
まあ、そうだよね。
だって……。
「膣が狭すぎてエッチできません。なんて、アンタそれでもサキュバス?」
「ううう……」
そう、それが私の悩みだ。
最近お付き合いを始めた幼馴染の裕二くん。
柔道部に入ってる彼は、背が高くて筋肉質で、とっても私好みのカッコいい身体をしている。
もちろんそれだけじゃなくて、一緒に歩いている時に照れながら肩を寄せてきたり、スイーツが好きだったりと可愛いところもある。
そんなところも大好きで、私は幼い頃から完全に彼にベタ惚れだった。
告白の時だって「小さい頃からずっと好きだった」と堂々と伝えてくれた。
あの時のキスは最高だったなぁ……。
理性を抑えるのが大変だったよ。
そんな、普通の魔物娘なら即ベッドイン間違いなしのシチュエーションにいるのが今の私だ。
それにも拘らず、未だに積極的になれないでいるのは、この膣のせいだった。
「だって、小指が一本入るくらいの幅しかないんだもん……。長さだって第2関節までしかないし……」
種族柄、たまに私は悶々としてしまう日がある。
そんな時に一人で慰めていると、どうしても彼のおちんちんを考えてしまう。
あの大きな身体なら、きっとおちんちんだって凶悪なんだろうな。
そう思うと、指に伝わる膣内の感触が途端に頼りなく感じられて、本番の時にちゃんと彼のを受け入れられるか怖くなっちゃうの。
そんな私の話を言い訳がましく思ったのか、羽奈ちゃんはハァと大きくため息をつく。
「あのねえ、紗希。アタシたち魔物娘は好きな人のちんちんに勝手に合わせられるような身体になってんの。だから、そんなの気にしないで襲っちゃえばいいんだって」
「分かってるよお……分かってるんだけど……」
「ならいいじゃない、今日にでも押し倒してきちゃえば」
「でも裕二くん。そういう雰囲気になったら、あからさまに私から逃げようとするんだもん」
「揃いも揃ってヘタレかおどれらは!!」
私だって伊達に魔物娘に生まれたわけではない。
慣れないながらに雰囲気を作ろうとしてきたし、お誘いもしてきた。
でも、その度に裕二くんは何かと理由をつけて私を避けてしまう。
彼の方から襲ってきてくれるなら、私だって覚悟を決められるのになあ……きっと。
「どうして逃げちゃうんだろ。やっぱり私の身体が好みじゃないのかな」
「そんな凶悪なものぶら下げて何言ってんのよアンタは」
「んん……! つつかないでぇ……」
「お、いい顔できるじゃん。その顔と乳で誘えばあのヘタレも絶対オチるって」
「そうかなあ」
「そうそう、紗希は可愛いんだから自信持ちな」
そう言うと、羽奈ちゃんはにひひと笑う。
悪戯っぽいその表情は、とても淫魔らしい魅力に溢れている。
いいなあ。
羨ましいなあ……。
━キーンコーンカーンコーン
その時、夕日の差す教室にチャイムの音が響く。
部活動の終わりを知らせる予鈴だ。
「あ、ほら。そろそろ部活終わる頃じゃない? 紗希も行ってあげな」
「うん、行ってくる。相談に乗ってくれてありがとう、羽奈ちゃん」
「いいのいいの。カレ待ちしてる間の暇つぶしみたいなもんだから、バイバーイ」
バイバイと手を振り返して、私は彼の待つ体育館へと向かう。
嬉しいな。もうすぐ裕二君に会えるんだ。
「表情……表情……」
彼を待つ間、私は羽奈ちゃんからのアドバイスを小さく繰り返す。
今日はできるだけエッチな表情で迫ってみなくちゃ。
◇
「よし、予鈴も鳴ったし今日はここまでだ! 解散!」
「お疲れ様でしたぁ!!」
俺達は、顧問の号令に対して一斉に答える。
今日の部活はこれで終わり。
あとは片付けと着替えをして帰るだけだ。
いつも体育館の入口で待っていてくれる彼女の姿を想像して、俺の表情は緩む。
最近付き合い始めた紗希は、俺の幼馴染でサキュバスだ。
サラサラとした黒髪ロングヘアに、制服の上からでもはっきりと分かる膨らみはとても魅力的だ。
サキュバスらしからぬ控えめな性格も、可愛らしくてたまらない。
思い切って俺が告白した時なんて、感極まったのか何度もキスをせがんできた。
後で真っ赤になってたけど、最高に可愛いかったなあ。
そんな普通の魔物娘のカップルなら即ハメ間違いなしの状況にも拘らず、未だ俺達にこれ以上の進展はない。
その原因は……。
「これだよなあ……」
部室で着替え中の俺は、周りの奴らにバレないようにそっとパンツの中を覗く。
そこにあるのは、信じられない程に粗末なペニスだ。
だらんと垂れたその姿はせいぜい小指くらいの大きさで、最大に勃起した時でさえ親指サイズまでしか膨張しない。
子供の頃はペニスの大きさなんて全く気にしていなかったが、紗希を意識するようになってからは、何とかサイズアップするために涙ぐましい努力をしてきた。
好色な魔物娘は粗チンでは満足しない、という恐ろしい噂を聞いたからだ。
まず、身体を鍛えればペニスも増大すると聞いて柔道部に入部した。
身体を鍛えまくれば大きなペニスが手に入る、という希望を支えに俺は部活に打ちこんだ。
その結果は、身長こそ伸びたが肝心な所は一向に伸びる気配がなく、失敗という他なかった。
正攻法ではダメだと気づいてからは化学を頼り、市販のペニス増大薬を飲んだが、これも効き目は全くなかった。
ただの薬では意味がないと悟った俺は、部活動としてやっているサバトを訪ね、ペニスを増大させる強力な薬効の薬を処方してもらった。
しかし、何度通い詰めても成果は上がらず、終いには「キミのカラダには粗チンの神が宿ってるよ」と部長からサジを投げられてしまった。
魔物娘の力を借りても、俺のペニスをどうにかすることはできなかったのだ。
それならばと、藁にもすがる思いで近所の社にお参りしたこともある。
その日の夜は、狐耳をした神様に「すまんが、お主の悩みは妾にもどうにもならんわ」と残酷なお告げを受ける夢を見た。
「はあ……」
こうして、俺が無駄な努力を重ねている間にも周りの奴らは次々と童貞を卒業していく。
デカチンで彼女をヒイヒイ泣かせる友人たちの自慢話を聞いていると、紗希のことを思って不安になってしまう。
もしペニスを見せた時にあいつに笑われたら。
それどころか、もしあいつを満足させられなかったらと思うと、俺の想像はどんどん恐ろしくなる。
『フフッ……。ゆーくんのおちんちん、すっごくお粗末さまだね』
『ごめんね、もう別れよっか。ゆーくんのおちんちんって全然気持ち良くないの』
「……っ!」
紗希がそんな事を言うはずがないと分かっていても、気分は重くなる一方だ。
たまに紗希は、慣れない様子で誘惑してくる事がある。
まあ、その内容はセクシーポーズと題して目の前でクネクネするだけだったり、ASMRと称して耳元でお菓子をかじるだけのどこかズレたものだったが……。
ただでさえ恥ずかしがり屋なあいつにとって、それは多くの勇気が必要だろうに、俺は鈍感で気づかないフリをしたり、予定があるからと言い訳をしたりして誤魔化している。
最低な行為を働いている自覚はあるが、どうかもう少しだけ待ってくれと、心の中で身勝手な告白をする。
せめてあと3センチ、いや2センチ大きくなるまでは……。
「おい、どうした裕二。早く着替えろよ」
「あ、ああ。わりい」
そんな事を考えていると、着替える手が止まっていたのか、友人から催促される。
俺は急いで道着をカバンに突っ込んだ。
「紗希さんの事でも考えてたんか? いいよなあ、あんな清楚な彼女がいて」
「まあな。お前こそ羽奈ちゃん大事にしろよ」
「へへ、分かってるよ」
幸せそうに笑う友人に、じゃあなと声をかけて部室を出る。
あいつの彼女も確かサキュバスだったはずだ。
今度相談してみるのもいいかもしれないな。
体育館の入口に着くと、そこには紗希がいつものように俺を待ってくれていた。
「わりぃ、待たせた。サキ」
「ううん、全然」
そう健気に答えた紗希は、にへらと嬉しそうに笑う。
ああ……可愛い……。
「じゃあ、帰ろっか」
「ああ」
スッと差し出された手を掴み、俺達は家路へと足を進める。
暖かなその手からは、紗希の多幸感がじんわりと滲み出ているようだった。
俺もお返しするつもりで、手の平をギュッと軽く握る。
「ふふふ」
そんな俺の思いは、確かに伝わっているようだ。
紗希の足取りが段々と軽くなり、スキップを踏むようなリズムを刻みだす。
ああ……。幸せだなあ。
「ねえ」
「ん?」
「今日もウチ寄ってくでしょ?」
「おお」
家も隣同士の俺達は、家族ぐるみの付き合いがあり、どちらかの家庭が多忙な時は助け合うのが当たり前だ。
だから紗希も、今日は俺の両親が出張で家を開けることを知っていて、こうして夕飯に誘ってくれるのだ。
「それでね」
思い詰めたような顔で紗希が立ち止まる。
少しだけ、周囲の雰囲気が変わった気がした。
「大事なお話があるの。お風呂上がったら、ゆーくんの部屋にお邪魔してもいいかな」
「い、いや。それは」
「……ダメかなぁ?」
いつもの暖かな笑顔とは明らかに違う、にへらあとした笑みが紗希の顔に浮かび上がる。
俺は思わず困惑する。
だって、その表情はまるで…
「あ、ああ。もちろんいいぞ」
「やったあ」
しまった、と思ったのは程なくしてだった。
紗希の見たこともない表情に気を取られて、つい誘いに乗ってしまったのだ。
心臓の鼓動が痛いくらいに鳴り始める。
それを鎮めるようと軽く息を吸い込むと、どこか甘ったるい匂いが鼻腔を刺激した。
「楽しみだね、今夜が」
再びスキップを始めた紗希に引かれるように、俺は慌てて足を進めた。
23/10/23 15:08更新 / 大鑑
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