ごぉん、ごぉん、と、日没を告げる鐘が響いていました。
　今日のお仕事はおしまい。みんなお家に帰って、ご飯を食べたり、お話をしたり、眠るまでの時間を好きなように過ごしはじめます。
　でも、町の裏手にある木こりのお家の裏庭では、まだ夕方だというのに、一人の女の子がもう眠っていました。
　ふわふわの茶色い髪に、ひらひらのワンピースを着た、まだまだ子どもな女の子は、木こりのお仕事のお手伝いはできません。だから、お母さんがお洗濯をするお手伝いをしてからは、木陰に座ってお兄ちゃんが薪を割る姿を見ていたのですが、こーん、こーん、と言う斧の音を聞いている内に、眠くなってしまったのです。

「ほら、起きて。もう鐘が鳴っているよ」

　お兄ちゃんは斧を置き、妹の肩をそっと揺すってみるものの、女の子が起きる気配はありません。
　しょうがないな、と、お兄ちゃんがひょいと女の子を担ぎ上げると、ちょうど山から帰ってきたお父さんは、呆れたように言いました。

「こらこら、妹だからって、あんまり甘やかすものじゃないぞ」
「でも、こんなに気持ちよさそうに眠っているのに、起こすのはかわいそうじゃないか」
「それはそうかもしれないが、前は鐘の音で起きていたものだがなあ。きっと、お前に抱えてもらえると分かったから、安心して眠りこけるようになってしまったんだろう。まったく、困ったものだな」

　抱き上げられた拍子に目を覚ましかけていた女の子は、まどろみの中でお父さんとお兄ちゃんの声を聞きながら、だって仕方ないわ、と思っていました。
　もっと小さかった頃は、お兄ちゃんはいつもおんぶや肩車をしてくれたのに、お家のお手伝いをするようになってからは、ろくに遊んでもくれないんだもの。
　だから、妹として甘える時間がちょっとくらいあってもいいじゃない。
　お兄ちゃんにぎゅうとしがみついて心地よく揺られている女の子に、お家で夕ご飯の支度をしていたお母さんも、「あらあら」と、ちょっと困った様子です。

「お父さんもお兄ちゃんも、おつかれさま。この子は、また眠ってしまったのね。一日中だって眠っていそうだわ」
「でも、薪を縛るのは手伝ってくれたんだよ」

　妹をかばうお兄ちゃんの隣で、やっぱり、お父さんはちょっとだけ厳しそうな顔をして言いました。

「母さんからも何か言ってやってくれ、いくらお兄ちゃんだからと言って、妹を甘やかすのはどうなんだ、って」
「なあに大丈夫ですよ。確かにいっつも寝てばっかりですが、起きて洗濯や料理を手伝ってくれる時は、いっつもきびきび働いてくれるんですから。それに、寝る子は育つと言うではありませんか」

　ほら、お母さんだってこう言っている。
　こっそりと、得意気に微笑んでいた女の子でしたが、お兄ちゃんにベッドまで運んでもらうと、たちまち、すやすやと寝息を立て始めてしまいました。




　さてさて、こんな眠たがりの女の子は、その日もぐっすり眠っていたはずでした。
　時に浅く、時に深く、眠りの中にあった女の子でしたが、ふと、気が付きました。
　どうしたことだろう。今日は、朝の鐘も、昼の鐘も、夕の鐘も聞こえない。
　いつまでだって眠っていたいのはやまやまでしたが、この時ばかりはなんだか不安になって、そおっと目を開けてみれば、そこは、よく知っている自分のお家ではありませんでした。
　寝ぼけ眼に映るのは、ねじ曲がった草木に覆われた森のような場所。木々の隙間から見える空は、紫色のような、ピンク色のような、不思議な色合いをしています。
　女の子は、首を傾げました。
　いつも通り、お兄ちゃんの隣のベッドで眠っていたはずなのに。
　不思議には思いましたが、怖くはありませんでした。だって、女の子は、そこがあんまりへんてこだから、「そうだわ、ここはきっと夢の中なのね」と思ったのです。
　そうなれば、せっかくの夢の中。もっと不思議で楽しいことがあるかもしれないのだから、探検してみない理由はありません。ベッドから飛び降りてみれば、土と草の地面はやわらかくて、ふかふかの絨毯を踏んでいるようでした。靴は履いていないのに、うっかり小石を踏んでしまっても、ちっとも痛くありません。
　さあ、私はいったい、どうしてこんな夢をみているのかしら。
　空も花も地面も、お日様ですらも、見るものすべてが妙ちくりんでめまぐるしくて、女の子は、自分の夢であるはずなのに、目を回してしまいそうです。
　そんな場所をしばらく歩き回っていると、やがて、女の子は人の声を聞きました。
　声は、きれいに並んだ、背の高い尖った草の向こうから聞こえるようです。
　へんてこな夢の中には、どんなへんてこな人がいるのかしら。どきどきしながら行ってみれば、そこでは思ったとおり、不思議な格好をした女の人たちがお茶会をしていました。
　キノコ付きの帽子をかぶっていたり、丸っこいネズミの耳が生えていたり、細長いウサギの耳が生えていたり、みんな、普通の格好はしていません。

「ああ、ようこそ迷い子さん。ふしぎの国のお茶会へ」

　最初に女の子に気付いたのは、細長いテーブルのさきっぽに席を取っている、帽子をかぶった女の人でした。帽子の人はさっと手を振り、女の子に椅子を勧めてくれました。
　柔らかくて赤い椅子に女の子が座ると、二つほど離れたところにいたティーカップが、てくてくと歩いて女の子の前までやってきました。いくら夢の中とはいえ女の子もこれには驚きましたが、おっかなびっくりカップを持つと、それはもう、動いたりしない普通のカップになっていました。
　飲んでいいのかしら、と、近くに座っていたネズミ耳をした女の子を見てみれば、その子は、半分眠ったような状態で、器用に紅茶を飲んでいました。このお茶会では、誰でも好きなように飲んで、食べていいのです。もちろん、寝ながらだって、誰も何にも言いません。
　ですので、女の子も両手でカップを持って、綺麗な琥珀色をしている紅茶を一口、こくりと飲んでみました。

「……おいしい」

　それは、思わずそう言ってしまうほど、今まで飲んだどんなものよりも甘くて美味しい飲み物でした。そうと分かってしまえば、もう、手を止めてはいられません。こくり、こくりとカップを空にするなり、女の子は思わず、「もう一杯くださいな」なんておねだりをしてしまいました。
　でも、帽子をかぶった女の人は、はしたないよ、なんて事は言いません。
　それどころか、なんだか嬉しそうに、にこにこしています。

「気に入ってもらえたのなら何よりだよ。さあ、マーチヘア、この素敵なお客さんに、たっぷり糖蜜を入れた紅茶をもう一杯」
「ええ、ええ。たぁくさん飲んでいいからね」

　いつの間に来ていたのでしょうか、女の子の後ろから可愛らしいトランプ柄のティーポットで紅茶を注いでくれたのは、頭の上にウサギの耳が生えた女の人でした。
　背丈は女の子よりちょっと高いくらいなのに、ピンクの服で包まれたとっても大きな胸はゆさゆさ揺れていて、子どもっぽいのに、大人みたいでもありました。
　ちょっとだけ羨ましいな、と思いながら、女の子はこくこくと紅茶を飲みました。
　でも、どうしたことでしょう。
　一口、二口と飲んでいくほどに、だんだん眠くなってくるのです。
　カップが空になった頃には、今にも眠ってしまいになっていて、帽子をかぶった女の人とウサギ耳の女の人が何かを話しているようですが、何を話しているのかも、分かりません。
　夢の中で眠くなるなんて、おかしいの。
　そう思いながらうとうとする女の子を見て、帽子をかぶった女の人が言いました。

「これはこれは。彼女はどうやら、良いドーマウスになれるようだね。さっそく、新たな我らの友人のために、最高のベッドを用意しなければ。さあさあキノコたち、ちょっと手を貸してくれたまえ。静かな場所に、素晴らしいベッドを一つ。念のため、二人で眠ってもいい大きさで頼むよ」



　用意してもらった大きなベッドで、女の子は、それはもうぐっすりと眠っていました。
　夢の中でまた眠るなんておかしいけれど、そんなことがどうでも良くなるくらい、今までよりずぅっと心地いい眠りを楽しんでいました。
　さて、みなさんはもうお分かりでしょう？女の子は、気付いていないだけなのです。ここは夢のようで夢じゃない場所。女の子は、夢を見ている間に連れてこられた不思議の国の中で、眠っているのです。
　キノコのベッドは温かいお日様に干したお布団よりもふかふかで、じんわりと温かく、いつまでだって眠っていられそうなくらいです。
　でも、女の子は知っています。
　こうやって幸せに眠っていると、いつも、お兄ちゃんが起こしに来るのです。
　こーん、こーん、と薪を割る音は聞こえないけれど、たとえ私がどこにいたって、お兄ちゃんは私を見つけてくれる。それは夢の中でも同じこと。
　さあ、草木をかき分けて、近づいてくる足音が聞こえる。
　高い高いキノコのベッドによじぼってくる声が聞こえる。
　もう少し、あと少し。私はここだよ。
――ああ、本当に、こんなところに……あれ、この耳は？
　ほら、やっぱり。
　起こそうと肩を揺する手は優しくて、目を閉じたままでも、女の子には、それが大好きなお兄ちゃんだってことが分かります。
　そんな優しさに甘えたくて、いつもは起きていないふりをして抱っこをしてもらっていますが、今日は特別。
　なにせ、ここはきっと夢の中。いつも以上にわがままを言っても、きっと大丈夫。

　さっそく、女の子はお兄ちゃんの手を掴み、ひょいと自分の隣へと寝かせてしまいました。
　そしてそのまま抱きついて、ぎゅうと抱きまくらに。
　お母さんには「この子もいつかはお兄ちゃん離れするのでしょうね」なんて言われていたけど、まだまだ、お兄ちゃんには甘えたいお年頃です。
――駄目だよ、起きて、帰らないと。
　お兄ちゃんは弱々しく言いますが、女の子は知っています。お兄ちゃんは力が強いから、無理やりだっこして連れて行くことだってできるのです。
　ううん、きっと、そうじゃない。だって、ここは私の夢の中。私がやりたいこと全部、お兄ちゃんは許してくれる。
　そう思うと、女の子はちょっとだけ、いつもとは違う事がしたくなりました。
　いつもはお兄ちゃんに甘えて、私が幸せになっている。でも、たまにはお兄ちゃんにも甘えてほしい。しあわせになってほしい。
　ふっと、さっきの、ウサギ耳の女の人を思い出しました。
　大きな胸は、きっと、赤ちゃんを甘えさせるためのものなのでしょう。
　自分の胸はぺったんこで、どうしようもなく子どもだけど、もしかしたら。
――うわっ。
　お兄ちゃんの頭を抱きしめて、ぎゅっと胸に寄せると、お兄ちゃんは驚いたような、困ったような顔をしました。
　女の子は、恥ずかしくなんてないわとばかりに薄いパジャマをぺろんとめくり、自分の少しも膨らんでいない胸をお兄ちゃんの口元に寄せてあげました。お兄ちゃんは、もう何がなんだか分からないと言った様子でしたが、胸に抱かれているうちに、赤ちゃんの頃を思い出してしまったのでしょうか。だんだんその目はとろんとしはじめ、ついには、妹のピンク色の膨らみを、ぱくりと咥えてしまいました。
　ちゅうちゅうと音を立てて吸う姿は、本当に赤ちゃんに戻ってしまったようです。
　女の子も、胸を愛されて感じる初めての快感に、甘い吐息をこぼして応えました。
　いつの間にやら生えていた丸くて平べったい耳は、気持ちいいのを我慢できずにぱたぱたと動き、お尻から生えた細い尻尾はゆらゆら揺れてしまいます。
　それもしょうがないでしょう。と言うのも、お兄ちゃんは、ときどき舌や歯を使って、甘えんぼうな妹を悦ばせてあげたのです。
　女の子がどうやったら気持ちよくなれるのか、この不思議な国の雰囲気が、教えてくれているようでした。もしかしたら、それは、男の子らしいちょっとしたイタズラだったのかもしれませんが。
　とにもかくにも、女の子は、ちっちゃなさきっぽを吸われているうちに、なんだかとても熱いものがお腹の奥に溜まっていくのを感じていました。
　さみしいような、もどかしいような気持ちは、きゅうと胸をしめつけます。どうしたらいいのか分からなくて、女の子はもっと強く、お兄ちゃんを抱きしめました。そうすれば、お兄ちゃんが治してくれると思ったからです。
　そして、お兄ちゃんの方も、同じような気持ちを抱えていました。
　違うのは、お兄ちゃんは、それがなんだか知っていたということ。
　知ってはいたけれど知らないふりをしていた気持ち、妹を大事に想う気持ちは、糖蜜の香りがする妹の胸に抱かれている内に、今にも溢れ出しそうなくらい、膨らんでしまっていました。

　不意に、お兄ちゃんの口から悲鳴みたいな声が飛び出しました。
　ズボンの下で膨らんだ男の子にだけあるものが、ずるりと擦れてしまって、びっくりしたからです。
　その、痺れるような感覚は、男の子をちょっとだけおかしくしてしまいました。
　あるいは、我慢できなくしてしまった、と言ってもいいかもしれません。
――ごめん、でも、もう……。
　息遣いも荒くなった男の子は、起こしに来たはずの妹に謝りながら、彼女の履いていたパジャマのズボンを、ずるりと脱がしてしまいました。
　もこもこした子どもらしいパンツもぐいと脱がせば、女の子の足の付け根にある割れ目は、ぬるぬるした物ですっかり濡れています。
　なんにも知らない女の子ですが、ちゃんと、好きな人を受け入れる用意はできていたのです。
　すやすやと、未だまどろみに揺れながらも、あどけない寝顔には笑顔が浮かんでいます。
　どうして謝ったのかしら。分からないけれど、優しいお兄ちゃんが、私にひどいことなんてするはずないわ。
　そう思っていたから、とても熱いものが自分のあそこに押し付けられても、怖くなんてありませんでした。
　でも、ぴったり閉じていたそこに、熱くて太いものがずんと入ってきた時は、ちょっとだけ驚いてしまいました。
　ぬち、くちゅ、と、はじめは小さかった音ですが、それはだんだん大きくなって、たちまち、ぐちゅん、ぱちゅん、と、濡れてくぐもった音が響くようになりました。
　その中には、動物みたいな男の子の短い呼吸に、甘えるような女の子の声が混ざっています。
　まずは、一回。
　男の子が小さく苦しげにうめくと、甘えるようにきゅうきゅう締め付ける女の子の中に、赤ちゃんの素がどろどろと流れ込みました。
　それはそれは気持ちよくて、女の子も、男の子も、とても一回では満足なんてできません。
　起きているのか、いないのか。妹は、もっともっとと寝言を呟きながら、お兄ちゃんを抱きしめました。
　繋がったまま、もっと深くまで。抱きしめ返した男の子のもののさきっぽが、こつんと女の子の一番奥へぶつかると、強く、ぞくぞくとしてしまいました。そのぞくぞくは、おっぱいを吸われていた時にお腹の中に溜まっていたものを、はっきりとした、うれしいという気持ちに変えてくれているようでした。

　そうしてしばらく、二人は抱き合って、幼い悦びを与えあっていましたが、四回五回と気持ちよくなっていると、だんだん、男の子の方も眠くなってきてしまいました。
　妹の温かい体に、甘い香り。それに、柔らかいベッド。
　くたくたになったお兄ちゃんが眠くなってしまうのも、無理はありません。
　だんだん動きもゆっくりになって、でも、気持ちいいのはやめたくなくって、頭の中がどろどろしたものに曇っていくお兄ちゃんを、妹は、優しく抱きしめてあげました。
　それは、まだ、二人が一緒のベッドで眠っていた頃。お兄ちゃんが妹にしてあげたことと一緒でした。
　子守唄なんて歌えないし、読んであげる絵本だって無かったけれど、抱きしめてもらうだけでとてもよく眠れたものです。
　さあ、一緒に寝よう？
――少しだけなら……いい、かな。
　お兄ちゃんの声は、とても眠そうでした。そしてそれは、女の子がよく知っている、昔のお兄ちゃんの声にそっくりでした。
　お兄ちゃんはちゃんとお家のお手伝いをしていて、いつか大人になっていくから、私もいつまでも甘えてなんていられない。
　だけど、ここは私の夢の中。大人になんてならなくていいの。
　いつまでも、大好きなお兄ちゃんと一緒に、大好きなお昼寝をして、たまに、気持ちよくしてあげて、気持ちよくしてもらう。
　ああ、と、女の子は寝顔に笑みを浮かべました。
　なんて素敵なのかしら。こんな夢なら、ずっと覚めなければいいのに。


……………………


　さてさて、今日も今日とて、不思議の国は平和で賑やかなものです。
　へんてこな雨が降ったり、草木が歌ったり、チェシャ猫がイタズラをしたり、寝ぼけたドーマウスが糖蜜をこぼしたり。
　だけど、ちょっと前にこの国に落ちてきたお兄ちゃんと妹は、そんな事なんてお構いなしです。何が起こったって知らんぷり。二人で見つけた素敵なゆりかごの中で、ぴったりとくっついたまま、眠り続けています。
　お腹が空いたら、どこかの世話焼きなマーチヘアが用意したケーキやクッキーを半分寝たままで食べて、好きという気持ちでいっぱいになったら、キスをして、体を重ねて。
　もう、二人は、自分たちがいつ起きていて、いつ寝ているかなんて、よく分かりません。でも、ちっとも怖くなんてありませんでした。
　だって、目を覚ましても、眠っていても、そこにはいつでも、大好きな人がいるからです。
　ふと、お兄ちゃんが、妹をぎゅっと抱きしめました。
　妹も、お兄ちゃんをぎゅっと抱きしめました。更には、細長いしっぽで、お兄ちゃんの体をぐるぐる巻きにしてしまいました。
　だけど、どっちも、同じように、満足そうに笑っています。きっと、同じ夢を見ているのでしょう。
　そうして、仲の良い兄妹は、いつまでもいつまでも、不思議の国で幸せなまどろみを楽しみましたとさ。

　おしまい。