読切小説
[TOP]
ある教区の陥落
「う〜む、これはなかなかどうして、手ごわい教区だ。他の教区は我ら魔王軍の攻めに7日も持たなかったのに、この教区だけは、一か月も持ちこたえるとは」
「私が見る限り、若さまの戦術は間違ってはいません。しかし、相手は若さまの戦術を読んで、その一歩先を行っています」
「HAHAHAHA! 行くのは戦術ではなく、魔王軍の腹の上でイ(ry」
「若さま、他の御姉妹の姫様たちの軍は次々に教区を陥落させています。我々だけ遅れを取ると、魔王陛下の覚えが悪くなるか、と」
「そんなことは、分かっていルービックキューブ!!」
「……」
「……」
「若さま、いい加減にしてください」
「すみませんでした!!」
「コホン。うむ、デュラハンよ。現在の我が軍の進行状況は?」
「はっ! 教会軍は教会区の中心地から東側に陣取っており、様々な妨害策を講じています。オーガやミノタウロス達にはふかふかのベッドやおいしいご飯のトラップがそこらかしこに用意されており、今ではすっかりミノタウロスは快眠、オーガは腹いっぱいで胸がいっぱいです。料理を用意した人間にお礼を兼ねて嫁に行きたいと言っております」
「結構なことではないか」
「……次にスライム部隊ですが、彼女たちへのトラップは塩です」
「塩? 潮じゃなく(ry」
ボグゥ!!!
「ぶへぇ!!」
「続けますが、塩を浴びた彼女たちは体から水分が抜け、粘り気が増し、そこらにある小石とか砂利とかが体に引っ付いてゴマ団子みたくなってしまっています」
「それは大変ではないか! ヒドイことをするなぁ」
「が、スライム部隊の話では意外と美肌効果があるじゃないか、という話になっていまして、このトラップを考えた人に金一封を差し上げたいと言っております」
「あの子らには皮膚という概念があったのか……」
「いかがいたしましょう?」
「……ふむ。相手は相当私達の習性や特徴を的確に把握しているようだ。工作兵を出そう」
「工作兵?」
「工作兵に教会区の東側の端までトンネルを作ってもらって彼らを挟撃する作戦だ」
「なるほど、ではさっそくジャイアントアントに作らせます」
「うむ」


娘作業中……
「エッサホイサ、エッサホイサ、エッサホイサ、エッサホイサ、エッサホイサ」
※ジャイアントアントの掛け声。太子が妹子用に落とし穴を掘っている時の声に非ず。


「若さま、完成しました」
「素晴らしい!」
「ではさっそく、部隊を出撃させます」
「待て、作戦は夜に決行しよう」
「それは、またどうして?」
「彼らはまだ自分たちの背後に敵が回るとは思ってもいないだろう。さらにそこに夜となっての視界の悪さが加われば、背後からの奇襲に間違いなくパニックを起こす。そうなればこっちのもんでごわす。挟撃の効果は二倍にも三倍にもなるでごわす。ごっつぁんです!!」
「……承知しました」(本当につくづく残念だよなこの人)


翌日

「何故だ、何故失敗したのだ!!」
「結果から言えば相手にトンネルのことを気取られていたようです」
「な……ん…だとッ!!」
「トンネルに横穴をあけられて、部隊はその横穴に誘導されました。そこに仕掛けてあった媚薬の罠に掛って、朝までずっと自慰に耽っていたそうです」
「汚い、さすが教会汚い。ところで今誘導と言ったが、それはどんな誘導だったのだ?」
「分かれ道にそれぞれ看板が掛かっていて、罠の道には『教区』と書いてあって、教区の道には『ブラジル』と書いてあったそうです。しかも毛筆で」
「おっかぁさま〜」
「ちなみに罠にはまった部隊は衛生兵に救助され、リッチ達医療班に「もどォーれー」とバリトンボイスな復活の呪文をかけてもらっているようです」
「何それ、怖い。よし、デュラハンよ。次は上空から攻撃をしかけるのだ!」
「なるほど、堅い防御も飛び越えれば意味がないというやつですね」
「そうだ。そうすれば彼らの堅い防御も崩せるやもしれん。すぐに部隊を編成して攻略させるのだ!!」
「はっ!!」


翌日

「結果報告ですが……」
「せんでも良い。見ればわかる」
 外はハーピー軍団がいたるところを無作為に飛行している。察するに彼女たちは完全に混乱していた。
「まさか、あんな原始的な方法で破られるとは……」
 教会側が用意したのはCDだった。「この時代にはねぇ!」とか「それに引っかかるハーピーか?」みたいな突っ込みはなしで、ハーピー達は本当にこの鳥よけのCDで見事によけられ混乱してしまっているのだ。
「目があぁ! 目があぁぁ!!!」
「君らの目じゃなくて、周りに目があるように見えてるだけだろ。落ちつけお前たち」
「若さまぁぁ、助けてくださいぃぃ!! 敵陣にたくさんおっきな目があったんですよ!! あいつら巨●兵とかバル●的なもの使って我々を攻撃するつもりなんですよ!! 怖くて進めません。おしっこちびっちゃいます」
「バカヤロウ!! ちびる位なら教会の連中にでもくれてやらんかい!! 聖水として崇めている奴がいるかもしれんというのに。もったいない」
「リリムなのにその発想はもったいないと思います」
「ふははは!! リリムだからこその発想よ。並みの魔物ではこうはいかんぞ。さて、もういい加減決定打を打ち込むか」
「何を呑気なこと言っているんですか。こっちも充分本気で掛っているじゃありませんか。まさか、若さまは今までふざけていたとほざく気じゃありませんよね? 軍費、人材の双方が既に多大な損害が出ているというのに?」

「……」
「……」

「That's Right!!」
ゴガス!!
「どぅへぇ〜!!」
「ま、待てデュラハン!! 剣を納めよ!! ちょ、ま、お前マジでキレてんじゃん。普段そんなキャラじゃないんじゃん。え、ちょっと待って何で出て行こうとしているの? え? ストレスフルすぎて最近では胃薬が常備だったんだけど、遂に10リットル瓶のやつがなくなったから補充してくるって、それ私初耳なんですけどォォ!! いや、待って、待ってくれ私を置いていかないでくれぇぇ!!」


「行ってしまった……ちょっと、ふざけ過ぎたな。まさかデュラハンがあんなにストレスを感じているとは。あいついつも真面目だからちょっと場を和ませようとしていただけなのになぁ」
「……」
「だが、ちょっとおふざけが過ぎたか……損害も結構シャレになっていないし。ふー。よし、ちょっと本気出すか」パキポキ

二日後

「はぁ〜、若さまがあまりにもおふざけになるから、ついカッとなって出てきてしまったが魔王陛下からお目付け役を命じられた身としてはお粗末なことです。自分が不甲斐ない。よし、胃薬もバフォメットから50リットル瓶を買ったし、戻って謝りましょう」
「おや? どうして教区の東側に魔王軍の旗が……」
「おぉ〜い! デュラハン〜」
「わ、若さま!! これは一体……」
「一体も何も、教区を落したのだ。ここはもう我ら魔王軍の領地だぞ」
「そ、そんなことが。あれだけ手こずった教会軍をどうやって?」
「ん? いや、単純に私が敵の作戦本部に乗り込んで相手の指揮官全員捕らえただけ、だけど」
「……」
「……」
「いやいやいやいやいやいや。嘘をおっしゃい」
「嘘じゃないぞ。おい、天の声。デュラハンに見せてやれ、私の交渉術(物理)を」

※二日前 教区東側
「うわぁぁぁ、何だ!? 何だあの白い悪魔は!?」
「ありえねぇ……あれだけの大軍をたった一人で……魔王軍の新兵器か?」
「待て、あいつは魔王の娘のリリムじゃないか?」
「何だって? あの魔王の娘だと。俺達なんかじゃ勝ち目がないじゃないか」
「でも……」
「なんで、攻撃が全部プロレス技なんだ?」

 広場は騒然としていた。並みいる教会の聖騎士、勇者たちをリリムはバッタバッタとなぎ倒していた。

 彼女がモゴリアンチョップをかませば、伝説の鎧は紙細工のように壊れ、ジャイアントスイングを決めれば、某ゾンビパラダイスゲーム以上の規模で教会兵たちは倒れ伏していった。それでも倒れない強者は何とか一矢報いようとリリムに戦いを挑んでいくが、リリムはそんな者たちにも一切容赦しなかった。
「その意気やよし!!」
 自分よりもふた回り以上大きな教会重兵士にアルゼンチンバックブリッカーをかけ、半泣きの勇者にはサソリ固めをかけた。寝技に隙を見た弓兵が弓を引くと、次の瞬間にはその弓兵の顔面にフライングクロスチョップが飛んでくる有様である。挙句の果てには三人同時に吊り天井とか、作戦本部の建物を十六文キックで破壊するなど、物理法則などゴミ箱にポイしたかのような暴れっぷりである。まさに万夫不当の豪傑。天下無双の戦姫(残念)と呼ぶのにふさわしい活躍であった。


「はい。こんな感じね。天の声には後でいちご大福とこぶ茶の差し入れをしまーす」
いりません。
「いらないといっても、あげちゃう。ま、ざーっとこんなもんよ」
「……若さま」
「なんだい?」
「何で今まで本気を出さなかったんですか!! 若さまが本気を出せばこんなに時間も被害も被らなかったのに!! つーか若さまがまともに戦う姿始めてみましたけど、本当に残念ですね。というか無念です」
「……ま、私「明日から本気出す」って言って本気出すとそれなりにできちゃうタイプだから。それはそうと気付かなかったかデュラハン」
「え?」
「教会側は我々の戦術に対して、魔物娘の特徴を良く掴んだ対策をしていた。それは我々に対するきちんとした理解がされていることの証拠だ。少なくとも教会側の司令官はただ主神教を盲信するような輩ではないことは確かだ。そうでなくては、もっとまともな戦闘が行われることになって、双方が血を流す結果となっていたはずだ。そして何より、一か月侵略をしているのにも関わらず、我が軍には一人も死者が出ていない。これは何かあると踏んで少し様子を見ていたが……案の定だった」
「案の定?」
「ああ、案の定教会の参謀には奴がいた」
「奴というのは?」
「ふふふ、この世で恐らく唯一、私のテンションについてくることができる奴さ。まァ、逃げられてしまったがね。楽しみは後に取っておこうじゃないか。さぁ、無事教区も落としたことだし、軍も吸収して男たちも大量ゲットしたわけだから、早いところウチの子たちに配分してやらんとね」
「あ、はい。あの、その先日はすみま(ry」
「キミはどちらかと言えば剣より、頭を使う方が得意なようだ。こういう采配はキミの領分だ。まだまだ私のそばで私をツッコんでくれたまえよ。さもないと、罪もない教会の男たちに私がナニするかわからんぞぉ〜」
「……クスッ そうですね。出合い頭にシャイニングウィザードとかかましそうですもんね」
「そうそう。その調子だ。しかめっ面より、そっちの方がずっと可愛いぞデュラハン」
「そういう若さまこそ、イキイキと私達を振り回しているのが、らしいですよ」

 
 その後、このリリムは様々な戦場を渡り歩き、その変なギャグセンスで敵も味方も困惑させつつ、その天下無双のプロレス技で敵軍をねじ伏せ続けたとさ。そしてリリムは件の「奴」に出会えたのか、そしてその決着は。それはまだ、誰も知らない。
14/02/28 01:29更新 / ウモン

■作者メッセージ
 ここまで読んでくださってありがとうございました。文章を投稿するのが初めてですので、至らぬところ多々あったかとは思いますが、今後も精進していきたいです。ちなみにこの話を書いた後に、なんか髪の白いきれいな女の人にいちご大福をシャイニングウィザードで顔面にプレゼントされました。あと、首が取れるきれいな人にもこぶ茶をいただきました。そっちは普通でした。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33