読切小説
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とある夏の一日
夏は嫌いだ。暑いし、汗かくし、蚊は出るし、かったりぃし。

住宅街の片隅にあるオンボロアパートの一角でふと思う。

市内で家賃が最安であり、オンボロというにふさわしいこの部屋にはクーラーなどあるはずもない。ただ、日当たりが悪いという低家賃にありがちなオプションを今はありがたく思ったりする。しかしここ数日ではそんなオプションはせいぜい慰め程度にしかなっていない。頼みの綱である扇風機君は常時稼働中だが、この暑さの中ではまるで歯が立たない。

世間では夏休みということもあり、外ではセミの鳴声と、子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。昔の自分もあの集団に混ざってはしゃいでいたと思うと不思議だ。

そんなことを考えていると、『ピンポーン』とインターホンが鳴る。
正直なところ、動きたくない。だって暑いし・・・どうせ新聞かなんかの勧誘だろう
つい、居留守を使ってもいいかなとか考えてしまう。しかし、数秒後また「ピンポーン」という音が鳴り響く。

(・・・かったりぃ)

そんなわけでドアを開けると、見知った顔が視界に入る。

「遅いよ、ダーリン♪」

「うるせぇし・・・だーりんじゃねぇ・・・」

開口一番で恥ずかしい言葉を躊躇いなく使ってくる彼女はミレ。見ての通りのラミアだ。

「あぁん、つれないなぁー全くぅ・・・でもでも、そんなとこも♥」

(・・・かったりぃ)

彼女は大学で偶々知り合った。何故か俺のことを『運命の人』と決めつけている。彼女が俺に好意を寄せているというのはわかっている。だが、俺には『運命の人』になった覚えもないし、彼女の接し方に真剣みを感じられず、イマイチ本気にはなれないというのが現状だ。

「それで、何の用?」

そう聞くと、モジモジと身体をうねらせながら

「もちろんだぁーりんに巻きついて熱い一日を過ごそうと♥」

「・・・カエレ」バタン

「ちょ、ま待って、なんで閉めるの!?ねぇ、開けてよ!!」


だって、聞いてるだけで暑苦しいし・・・暑いの嫌いだし・・・

「開けてよ!熱い夜はまだまだこれからだよ♥」

うるせぇ、まだ朝だ。

「ねぇ開けてよ、アケテッテバ!アケテヨアケテヨアケテヨアケテヨアケテヨアケテヨアケテヨアケテヨアケテヨ」

ラミア特有の病みモードに入っているが、気にせず無視を続ける。無論面倒だからだ

「アケテアケテアケテアケテ・・・・・・・・・・・・・・・・もういい!!、ダーリンのバカァ!!」

言いながら半泣きで去って行った。
やがて俺は扇風機の前に寝ころび、夢への中にダイブした・・・・



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

――ぽーん、ピンポーンピンポーン
またも、この音で目が覚める。
・・・今度こそ無視していいかなどと考える暇もなく、迷惑なことに来客者はインターホンを連打してやがる。挙句、待ちきれなくなったのか

「居るのはわかってるんだぞ!!さっさと出てこい!!!」

などと、どこぞの刑事ドラマみたいな台詞を叫んでいる。(あぁ、近所の注目を集めてそうだな・・・)などと考えながらも、玄関を開けると、いきなり木刀が振り下ろされる。

「遅いぞ、我が好敵手!!」

振り下ろされた木刀をかろうじて躱し、挨拶を返す。

「いきなりご挨拶だな、オイ!」

こいつはサラマンダーの静留。元剣道部の仲間である。言うまでもなく暑い、いや熱い人です。

「そんで、何の用?」

すると、再び剣先を俺に向け、「決闘だ、決闘!!」などと言い出す。

「・・・・」バタン!

向けられた木刀をどかし、勢いよく扉を閉め、鍵をかける。

「む、無言で扉を閉めるな!!しかも鍵までかけるな!!」

扉を叩きながら、ゴタゴタと苦情の言葉を並べてくる。
・・・何かデジャブる気もするが。この際無視しよう。もちろん面倒だから

「貴様、私を、決闘を侮辱する気か!?それでも私の好敵手か!?」

(・・・・めんどくせぇ)と思いながらも、興奮状態の彼女を鎮めるため、冷静に一言

「あー、扉壊したら弁償な。また、大家さんに説教されるか?」

途端に、扉を叩くのをやめる彼女。それもそのはず、以前もこんなことがあり、扉を壊した彼女(と俺)は大家に小一時間説教をされた。ちなみ大家である稲荷の鮮華さんは怒ると非常に怖い、鬼怖い。静留も軽いトラウマになっていたりする。そういう訳で困ったときは『大家さん』という単語を出すようにしている。

「あと、あんまり騒ぐと大家さんが怒るぞ?」

「っく・・・貴様なんか・・・貴様なんか大嫌いだぁぁぁ!!」

よくわからない捨て台詞を残して去って行った。

・・・・かったりぃ

再び相棒(扇風機)の前まで戻ると、俺は眠りについた。
    
  





〜〜〜〜〜〜〜

・・・違和感がある
・・・暑い
・・・凄く、暑い、どこか息苦しい
・・・この感覚、前にも・・・

ハッとして目を開くと、もこもこした毛皮に包まれた顔が入ってくる。そこでようやく気が付いた

(どうりで暑いわけだ・・・)

俺の体に、抱きつきながら幸せそうな寝顔をしている彼女はワーシープの穏(のどか)
俺の隣の住人である彼女は、よくこんな風に勝手に俺の部屋に侵入し、添い寝をしてくる。
不法侵入なんだというのはわかるが、下手に警察ごとにしても
「何をされましたか?」⇒「添い寝されました」⇒嫉妬腹パン (友人に話した場合)
警察の方とこんな会話したくないし、腹パンなんてもらいたくもない。むしろ俺が捕まりそう。そもそもそんなことになれば鮮華さんが黙っていない。説教なんて御免である。
という訳で、未然に侵入を防ぎたいわけだが、この部屋と隣の部屋との壁には大きめの穴が開いている(低家賃オプションの一つ)。以前個々の住人であるオーガの方がやってしまったらしい。それについて鮮華さんに聞くと彼女の真っ黒な面が見えるが、それはまた別の話。兎に角、彼女の侵入ももはやこの部屋のオプションの一つと化しているため、防ぎようがない。彼女にはしつこく言っているが、効いたためしがない。

「・・・穏さん、起きてください。って言うか起きてますね」

肩を揺すると、わずかに口元が歪んだの見てを指摘する。やがて少し不服そうに唇を尖らせながら目を開く

「えへへ、おはよう♪」

「今、夕方ですよ。っていうか俺の部屋に勝手に来ないでください。それと自分の部屋で寝てください。」

「・・・はぁい♪」

わかってないと言わんばかりの眠そうな返事が返ってくる。さらに返事とは裏腹に両腕で、俺の頭を包だ抱き込んでくる。

「穏さん、暑いです。」

「・・・・・・・・zzz」

この人は相変わらずよくわからないタイミングで眠るな。腕の拘束を解き、彼女が目を覚まさないようゆっくりと身体を持ち上げ、彼女の部屋のベットまで運ぶ。もうかれこれ10回以上この行為は経験した気がする。





〜〜〜〜〜

穏さんを運び終え、部屋に戻ると、オレンジ色の光がわずかに見えた。
つけっぱなしのテレビからは、天気予報士の雪女が明日暑いと残念そうに言っている。

雪女をみてふと思った。
グラキエスとかスライムの知り合いが傍にいたら涼しくなれのかなとか。あるいはそういった種族の知り合いを作ってみるとか。でも、結局面倒だから自分はきっと行動に移さないと思い、そこで考えるのをやめた。

『ピンポーン♪』

もう今日だけでこの音を何度聞いたかわからない。(・・・かったりぃ)と思いつつ玄関に向かう。

暑い夏はまだまだ始まったばかりだ。
13/07/12 03:00更新 / shhs

■作者メッセージ
イイカ、オレハメンドウガキライナンダ
最近暑くて発狂しそうなレベルですね。そんな中、今回自分はこんな電波を受け取りました。
自分なら暑い中でもラミア種とイチャイチャしたいです。それで熱中症になってもそれもまた一興ってことで(`・ω・´)b
まぁ、水や氷の魔物と涼むのも羨ましいですがw
アンデット種の魔物も冷たいのかな?
皆さんはどう思いますか?

それではここまで読んで頂き、ありがとうございました!!

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