解放軍手記抜粋〜馴れ初め〜
「・・・何をしている。」
ヒスイ色の髪の毛に黒い瞳の青年が、とぼとぼと歩いてくる茶髪のロングヘアーに緑の長いローブを着た女性を呼ぶ。
これで何度目か。彼は遅れてくる彼女をみてため息をつく。金さえもらわなければこんな依頼から逃げ出したい気分だ。
「レクシス・・・だって疲れたんです。もう歩きたくないです・・・」
「あと集落1つを越えればいい。黙って歩け、シージュ。」
レクシスと呼ばれた、剣を背に抱えた鋭い雰囲気の青年がシージュを呼んでいる。歩く遅さに業を煮やしているようだ。
多少起伏があるが平地にあり整地された街道を歩くなど、傭兵である彼にとってはなんでもないことだがシージュはそうでもなくすぐに疲れたと連呼する。
「護衛なら私のペースに合わせるです・・・」
「こっちは計画を綿密に練っている。後1日で依頼は達成だ。こんな長旅を悠々と続けているほどこちらにも都合はない。」
すでに空が朱色に染まっているが、レクシスはシージュに急ぐように言う。もっともシージュを見失わないように追いつくまで待っている。
見通しのいい平原に作られた街道、彼女を狙う襲撃者くらいは一通り目に付く。遮蔽物はない。
「ねぇ、次の集落で休むです・・・」
「ダメだ。それなら野宿で勘弁してもらう。」
弱音を吐くシージュの提案をレクシスが強い口調で断る。彼にしてみれば、次の集落で休むことだけは控えたかった。
傭兵部隊に討伐以来が出ていると前の集落で聞いていた。最近旅の男女問わず襲われ、非常に迷惑しているというのだ。
ごたごたに巻き込まれればそれだけ行動も遅くなる。レクシスはこれまでの旅路でシージュのペースにあわせた結果、携行してきた予算もぎりぎりの状態だ。
食料もわずかであり、無駄に使いたくないのが本音・・・だが、シージュはレクシスの事情などまったく意に介していない。
「割高の護衛料金でなければとっとと引き上げるところだ・・・」
レクシスが忌々しげにぼやく。彼は傭兵でありシージュと言う少女を旧ナーウィシア領の町へと護衛しろという依頼を受けていた。
通常受ける依頼の4倍近い資金があり、依頼主は旧ナーウィシアの騎士団が使った偽名。レクシスのお得意様でもあったため依頼を受けたのだ。
「あぁもう、嫌です・・・魔物は襲ってくるし、正規軍に襲われて・・・」
「死ぬよりはましだろう。まったく。」
レクシスは苛ついた様子でシージュを待つ。数度戦場を潜り抜けて体力のついているレクシスには、すぐ疲れたと言って休憩を要求するシージュは理解できないらしい。
「・・・本当に休みたいです。」
「集落は次まで待て。あるいは野宿だ。」
「ここ3日間、体すら洗ってないです!ベッドにも入らないですし・・・」
「3日程度で・・・俺など10日も野宿のこともあった。それも真冬でだ。」
とっとと黙らせたいとレクシスが思い、シージュの弱音を一蹴したが・・・シージュはレクシスから一定の距離を置いている。
「どうした。」
「不潔です。嫌です。」
「いきなりか。今までは平然と近づいていただろう。」
「せめて今日だけは体を洗いたいです。」
「なら川で洗えばいい。」
シージュは首を振る・・・今は冬、自分が水を浴びただけで凍傷を受けるか一瞬で凍り付いてしまいそうだ。
平然とレクシスが冷水で体を洗っているのを見てシージュも真似したら酷い目にあったこともある。風邪を免れたのが奇跡的だ。
「だったら急ぐ・・・待て、敵だ。」
「敵、ですか?」
「速いな。だが姿は見えない・・・」
気配をすでにレクシスが読み取っている。そして周囲の感覚や乱れなどに集中力のすべてを注ぎ込む。
目標は2方向、街道脇の草原を一気に駆け抜けてくる。姿が見えないが陰だけははっきりと見える。
「ステルスケープの刺客か・・・シージュ、構えろ。」
「わ、わかってるです!」
乱世ゆえに武器を持たずして誰も生き延びられない。シージュは腰につけていた棒を両手で構えると180cm程度の細身の槍に棒が変化する。
それを構え、シージュはレクシスと背中合わせにして緊張感を高め陰に動きを集中する。人の姿はないが、高速で陰が動いている。
「・・・来た!」
半透明の人型の物体が空中に躍り出ると同時に、レクシスは腰につけた長い剣の柄に手をかけると、飛び上がると同時に引き抜く。
相手の脇をすり抜けつつ、華麗に一閃し着地・・・ケープが破れ、血を流した黒装束の人物がショートソードを片手に倒れこむ。
「れ、レクシス!支援願うです!」
シージュがすばやく槍を構え、ショートソードを受け止めるがさすがに力が弱く抑えられている。
それを見てレクシスがすばやく剣を構え、黒い気を収束させると真一文字に振り下ろす。
刺客めがけ黒い闇の刃が襲い掛かり、貫通する・・・この世界では普遍化した術の一種。レクシスも単純に刃を出す程度なら扱える。
「ぐ・・・!」
呻き声を上げ、刺客が倒れこむ・・・闇属性の刃を真っ向から受けたため切り裂かれ、致命傷を負っている。
ステルスケープとも呼ばれるケープの形をした光学迷彩で姿を隠し、闇討ちを得意とする刺客だったらしいが接近戦の腕前はそれほどでもないらしい。
レクシスが周囲を見て安心するが、とたんに短いナイフが真上からレクシスの肩に突き刺さる!
「な・・・!?」
「逃さないです!」
シージュが真上に居たブラックハーピーを見つけると、槍を構え光を収束させ・・・真上に光の太い閃光を放つ。彼女の使う「術」だろう。
一瞬で貫かれたハーピーが墜落する・・・彼女だけはステルスケープを装備していない。このメンバーに加わった新入りのようだ。
おそらくステルスケープ装備で襲撃した後、隙をついてナイフを投げつけ確実に殺す算段だったのだろう。狙いが甘かったのが幸いだ。
「れ・・・レクシス、大丈夫ですか!?」
「・・・予定変更だ・・・まったく、これではやむをえないな・・・」
肩のナイフが予想以上に深く突き刺さっているためとりあえず衛生上安全な場所で休む必要がある・・・レクシスはやむを得ないと判断し、集落に向かう決断をする。
「刺客万歳、です。」
「まったく・・・」
最初の頃は戦いにおびえていたシージュも、何度も襲撃を受けるうちに戦いに慣れてしまったらしい。
レクシスはため息が出る思いだが、自分が未熟なせいだとため息をつき予定になかった集落へと向かう。
「・・・まったく、神経が傷つかなくて幸いだ。」
改めてナイフの長さや傷跡などを見てレクシスがため息をつく。上着の右腕は血まみれになり、肩の部分は特に酷く血の跡がついている。
先ほど医者を呼び、ナイフを抜くついでに止血などを行った。予算の方は襲撃者の武装や所持品を売り払い、何とか工面できた感じだ。
ナイフは真っ直ぐで特にものめずらしいものもない。毒などの類は塗られていなくて幸いだとレクシスはベッドから上半身を起こしつぶやく。
「ですね。こっちはさっぱりです。」
久しぶりの風呂でシージュはさっぱりした様子で満面の笑みを浮かべる。久しぶりに着替えもして、すっきりした様子だ。
「じゃあ、ちょっと町を見てくるです。さっきのお金で買い物もしたいです。」
ステルスケープ(といっても血糊つきでボロボロだが)が案外高く売れたため、分け前は2人で分割しておいたのだ。
「気をつけろ。傭兵部隊の連中もそうだが・・・討伐対象である魔物にはな。」
「討伐対象、ですか?」
「俺も詳細は良く知らないが、前の酒屋で情報を聞いたところ人の姿をしているとしか聞いていない。」
それもせいぜい噂話、よりによってシージュが街中で襲撃されるということはないだろうとレクシスは思っていた。
だからこそ外出を許可していた・・・むざむざ傭兵部隊がうろつく街中で襲撃しようという刺客も居ないだろう。いざとなれば警備の傭兵部隊が助けるはずだ。
「せいぜい気をつけろ。お前の槍術は飾り物でもあるまい・・・油断はするな。」
「わかってるです。そんなへまなんかしないですよ。」
といっても、敵意などの気配に疎いから不安というのもレクシスにはあった・・・そんなことはまったく気にせずシージュは街へと出て行く。
「ふぅ、あんまり気に入らないです。」
服などを見ても気に入ったデザインがなく、相変わらずの緑色のローブで通したほうがいいなとシージュは思ってしまう。
都市部のデザインだが、やけに無骨だったり従者が着るような服装しかない。メイドとか言ったが、そういう服装が流行らしいのだ。
「・・・あれ?」
シージュが路地を見ると、うつむいて泣き崩れている女性がいる。紫色の髪の毛で年齢は20歳くらいだろうか?
見た感じ聖職者っぽい紺色の服装を着ている。ふとシージュはその姿が気になり駆け寄ってみる。
「あの、大丈夫ですか?」
「・・・ち、近寄らないでくれますか?急いで逃げてください。」
「え・・・?」
シージュが疑問符を浮かべていると、いきなりその女性が路地の奥に逃げ込む。彼女も後を追うとそこは廃屋が並ぶ場所だ。
「えっと、何があったんですか?教えてください・・・です。」
「一刻も早く逃げてください・・・私は・・・私はもう・・・・・」
木箱の裏にその女性が隠れていた・・・シージュはその顔を覗き込むが、やはり泣き崩れている。
だが、その下半身が溶けたな感じになっているのを見てシージュが固まってしまう・・・コカトリスでも見たかのように。
「・・・ま、まさか・・・」
「もう・・・遅いの。」
討伐対象・・・そんな言葉がシージュの脳裏を掠めた後、激痛が走り目の前が真っ白になってしまう。
「・・・・ん?」
「何をしていた。」
次にシージュが目覚めると、レクシスの顔がはっきりと見える・・・同じ高さからシージュを覗き込んでいるようだ。
「・・・ここ、って・・・?」
「宿だ。俺が寝ていた間に帰るとはよほど長い買い物だったらしいな。」
目をはっきりと開けてシージュが起き上がると、そこは自分たちが予約した宿の一室だ。ベッドが離れた場所に2つある、8畳くらいの木でできた部屋。
外はまだ暗い。月はまだ東にあるところを見ると真夜中といったところだろう。
「あ・・・ごめんです。」
「俺は外で修練をしてくる。お前はゆっくり寝ていろ。」
剣を持ってレクシスが外へと出る。残されたシージュはあの聖職者のような女性が何をしたのかが気になって眠れなかった。
おそらく、意識が朦朧としているところを本能的に宿へと帰ってきたのだろう。それとも単に夢を見ていただけなのだろうか。
レクシスの話からして出て行ったのは事実だが・・・夢遊病か何かの兆候かなとシージュは思い、シーツをかぶる。が・・・
「っ!?」
突然のように下半身に何かがしみこむような感覚を受ける。あの時かぶった冷水のような冷たい感覚が、股間から広がっていく。
「つ、つめた・・・レクシス、どこ・・・!?」
身を切るような冷たさが脚へと広がっていく・・・シージュは何が起こったのか確かめようと思い、シーツと布団を払いのける。
「な・・・と、溶けて・・・!?」
自分の緑色のローブがスライムのように溶けている。そして不気味にうごめいている・・・脚の感覚はあるのかないのかすら不安定だ。
冷たさが収まると、今度は服を突き破って長いピンク色の触手が出てくる・・・それも長く、何本も出てくるようなものだ。
「ま、待つです・・・何ですこれ・・・はぁぅ!?」
疑問を抱くまもなく、触手は自分の意思を無視して腕や体に絡み付いてくる。そして一部はローブの中身へと入り込む。
「ダメ、やめ・・・・」
胸へと入り込んだ触手が、先端を刺激しシージュは甘い喘ぎ声を出してしまう・・・口の内部も触手が入り込み、何度も出し入れを繰り返す。
「・・・何事だ、騒々しい。」
素振りを夜の日課としているレクシスにとっていきなり聞こえてくる喘ぎ声は邪魔以外の何ものでもなかった。
ましてあの声はシージュ・・・レクシスはシージュが何をされているんだと思い、剣を鞘に収めず、階段を上がっていく。
「シージュ、夜帰った原因は・・・!?」
レクシスは呆然として剣を取り落とす・・・触手にシージュが責められている。いや違う、下半身から伸びた触手がシージュの上半身を重点的に責めている。
立ち上がっているシージュを良く見るとローブの下半分が溶け、脚と一体化している・・・間違いなくローパーだ。レクシスは剣を持ちながら近づく。
「シージュ、何があった・・・どういうことだ!」
「わ、わか・・・ひゃぁ!ふぁぁ・・・!」
喘ぎ声に紛れシージュはまともに返答もできない・・・レクシスは邪魔だと思い触手を切り払うが、別の箇所から触手が伸びてくる。
再生能力は本物・・・レクシスが剣を構えて触手を切り落とすが3本目が剣を持つ腕に絡みついたあと、触手が別の箇所から伸びてレクシスを拘束する。
「・・・ローパーか!何をふざけた真似をした!」
「わ、わかんないです・・・・なんでか・・・・」
名前だけはレクシスは知っていた。下半身に卵を産み付けて種族を増やしていくローパーという魔物程度は。
だが、対処法は一介の傭兵に知るすべもない。この状態からどうするべきかなどほとんどの人が知らないのだから。
「く・・・誰か呼べ!誰でもんぐ!?」
いきなり触手が口へと入り込み、レクシスを黙らせるかのように入り込んでいく・・・そしてまとっていた粘液を塗りつけていく。
そうしてから、無理やり触手がシージュとレクシスを近づけさせ、そのまま口付けをさせる。
「・・・・!?」
「!?」
シージュとレクシスはその行為にびっくりする・・・互いにファーストキスだ。その相手がこんな形とは思っても見なかったらしい。
が、レクシスにはそんな疑問符を抱く猶予すらなかった。そのまま触手がズボンのベルトを器用に脱がせていくとそのままドロドロに溶けているシージュの下半身に無理に突き入れられる。
「・・・な・・・」
生暖かい。それも意外なほど気味悪い感覚ではない・・・レクシスがそんなことを思っていると、ローパーの部分が唐突に圧力をかけてくる。
「ぐ!?な・・・ぁっ、ぁ・・・・!」
レクシスの逸物へとローパーの部分が周囲から不規則に圧力をかけてくる・・・シージュは呆然としてみていることしかできない。
まぁ、いきなり自分の体が魔物に変異してこんな感じで人を取り込んで犯しているなんて考えれば呆然としていても仕方ないだろうが。
「れ、レクシス・・・」
「・・・ダメ、だ・・・まったく・・・・」
まさか護衛対象に・・・しかも本人にその気がないのに犯されるなど誰も思わない結果だったはずだ。
内部で犯され、十分な刺激がたまったレクシスは耐えかねて精を放つ・・・そしてぐったりとしてしまう。
が・・・シージュにも変化が起こり始めている。少しずつローパーの感覚が自分にも直結していくようだ。
「あ・・・これも・・・」
触手があるのが極当然に感じられる。そして今の状況に疑問符を抱くことはなくなっていた。
とにかく、終わったらまずレクシスを寝かせる・・・が、シージュはどこか気持ちが変わったのかレクシスを抱き、下半身をそのままにベッドへと入る。
「・・・何やってたんだ・・・まったく・・・・・」
夢か現実かわからない・・・レクシスはシージュに犯されたことを受け入れられないまま目を開けて、さらに呆然とする。
笑顔のままシージュの顔がすぐ近くにあり、抱きつかれている。しかも下半身がどっぷりとシージュの中身に入っている。
「おはよーです、レクシス。」
まぶしいほどの笑顔でシージュが答えるが、すぐにレクシスは現実を理解して抜け出ると、服をすぐに着替える。
「・・・昨晩俺の身に何があった。」
「え、お楽しみですが何か?」
「待て、それはつまり・・・」
うれしそうにシージュもうなずく。ということは犯されたのは実際にあったことでありシージュもローパーに・・・
依頼主の言い訳などをレクシスが一瞬思い浮かべるがそれ以外に言うことがあるだろうとシージュを見つめる。
真正面から見てみるとなかなか可愛い所がある・・・その考えも一瞬で首を振って拭い去るとシージュに強い口調でたずねる。
「今のお前は・・・」
「ええ、このとおりです。」
相変わらず溶けている下半身・・・そこから無数の触手が伸びてくるが昨晩のような勢いはない。
本能というかそんなものに任せず、おとなしくレクシスの動きを伺っている。シージュの意思で動いているようだ。
「・・・変わらないな。」
「ですね。歩く感覚が微妙に違うですけど。」
「なら行くぞ。今日依頼主に送り届ければ依頼は完了だ。」
触手をしまったシージュが何か詰まらなさそうにレクシスを見つめるが、レクシスは仕方ないだろうという。
「傭兵だ。それ以上の権限はない・・・「どういう姿であろうと、生きている限りシージュを送り届けろ」、それが依頼だ。」
「レジスタンス、ですか?」
「そういうことだ。ナーウィシア復興のために戦力をかき集めている軍勢。その旗頭には王族が必要だ。どういう手段でもな。ま・・・お前しか居ないのかとは思うが。」
そればかりは変えられない。引き受けてしまった依頼、どうすることもできないだろう。どういう関係であろうとナーウィシア騎士団に引き渡せばそれで終わりだ。
レクシスは相変わらずのように淡々と荷物をまとめ始める。出立準備を整えて、今日中に到達するつもりだろう。
「終わったら・・・レクシス、どうするですか?」
「さてな。気ままに傭兵を続けるほうがいいだろう。お前を狙ってきたシェングラスの正規軍・・・まぁ、お前にとって見れば祖国の敵につくこともある。」
軽々とレクシスが言ってのけるが、シージュは首を振る。
「そんなの嫌です。」
「俺が縛られるのは依頼だけだ。間違っても触手にだけは勘弁してもらう。」
「・・・絶対人なんて襲わないです!だから・・・」
シージュがレクシスの胸元に抱きつくと、そっと涙を流して言う。
「・・・近くに居てください。ずっと。」
「まったく。何でそんな感じで頼むんだ。いいから離れろ。」
軽く腕をつかみ、レクシスはシージュをわずかに引き離すと真剣な顔で質問を始める。
「じゃあ聞くがお前の名前は?」
「シージュ・ウォリウム・ナーウィシア。」
「好きな色は?」
「緑色です。」
「好物は?」
「せ・・・・スウィーツです!」
今なんか怪しい言葉がでかかったぞとレクシスは思ったが、特に最初に聞いたときと何も変わっていない。
とりあえず、シージュがシージュを維持し続けることだけは何とかなりそうだ。なら断る理由はない。
「・・・二度と人を襲わないよう、一番近くで見守るとするか。それに責任も取らなくてはならないだろうな・・・こういうことをした。」
ぎゅっとレクシスがシージュを抱きとめる・・・シージュもうれしいのか、そのままレクシスを抱き留め返す。
「じゃあ、朝も・・・」
「夜だけだ。それ以上やるなら斬る。」
やはり微妙にローパー寄りに思考が傾いたかとレクシスはため息をつく。まぁ、それでもうまくやっていけそうな気もしたのだが。
「行くぞ・・・依頼主に事情を説明する。後他の連中を襲ったら即・・・わかっているな。」
「わかったです。私だってそれくらいの自制心はあるです。」
依頼主に半分ほど無事にシージュを送り届けたレクシスは、特に罪にも問われずシージュとともに解放戦線の一員に加わる。
シージュは夜毎晩のようにレクシスを襲う以外は特に行動面での異常はなく、その後も解放軍の旗頭として戦い続けた・・・とされている。
ヒスイ色の髪の毛に黒い瞳の青年が、とぼとぼと歩いてくる茶髪のロングヘアーに緑の長いローブを着た女性を呼ぶ。
これで何度目か。彼は遅れてくる彼女をみてため息をつく。金さえもらわなければこんな依頼から逃げ出したい気分だ。
「レクシス・・・だって疲れたんです。もう歩きたくないです・・・」
「あと集落1つを越えればいい。黙って歩け、シージュ。」
レクシスと呼ばれた、剣を背に抱えた鋭い雰囲気の青年がシージュを呼んでいる。歩く遅さに業を煮やしているようだ。
多少起伏があるが平地にあり整地された街道を歩くなど、傭兵である彼にとってはなんでもないことだがシージュはそうでもなくすぐに疲れたと連呼する。
「護衛なら私のペースに合わせるです・・・」
「こっちは計画を綿密に練っている。後1日で依頼は達成だ。こんな長旅を悠々と続けているほどこちらにも都合はない。」
すでに空が朱色に染まっているが、レクシスはシージュに急ぐように言う。もっともシージュを見失わないように追いつくまで待っている。
見通しのいい平原に作られた街道、彼女を狙う襲撃者くらいは一通り目に付く。遮蔽物はない。
「ねぇ、次の集落で休むです・・・」
「ダメだ。それなら野宿で勘弁してもらう。」
弱音を吐くシージュの提案をレクシスが強い口調で断る。彼にしてみれば、次の集落で休むことだけは控えたかった。
傭兵部隊に討伐以来が出ていると前の集落で聞いていた。最近旅の男女問わず襲われ、非常に迷惑しているというのだ。
ごたごたに巻き込まれればそれだけ行動も遅くなる。レクシスはこれまでの旅路でシージュのペースにあわせた結果、携行してきた予算もぎりぎりの状態だ。
食料もわずかであり、無駄に使いたくないのが本音・・・だが、シージュはレクシスの事情などまったく意に介していない。
「割高の護衛料金でなければとっとと引き上げるところだ・・・」
レクシスが忌々しげにぼやく。彼は傭兵でありシージュと言う少女を旧ナーウィシア領の町へと護衛しろという依頼を受けていた。
通常受ける依頼の4倍近い資金があり、依頼主は旧ナーウィシアの騎士団が使った偽名。レクシスのお得意様でもあったため依頼を受けたのだ。
「あぁもう、嫌です・・・魔物は襲ってくるし、正規軍に襲われて・・・」
「死ぬよりはましだろう。まったく。」
レクシスは苛ついた様子でシージュを待つ。数度戦場を潜り抜けて体力のついているレクシスには、すぐ疲れたと言って休憩を要求するシージュは理解できないらしい。
「・・・本当に休みたいです。」
「集落は次まで待て。あるいは野宿だ。」
「ここ3日間、体すら洗ってないです!ベッドにも入らないですし・・・」
「3日程度で・・・俺など10日も野宿のこともあった。それも真冬でだ。」
とっとと黙らせたいとレクシスが思い、シージュの弱音を一蹴したが・・・シージュはレクシスから一定の距離を置いている。
「どうした。」
「不潔です。嫌です。」
「いきなりか。今までは平然と近づいていただろう。」
「せめて今日だけは体を洗いたいです。」
「なら川で洗えばいい。」
シージュは首を振る・・・今は冬、自分が水を浴びただけで凍傷を受けるか一瞬で凍り付いてしまいそうだ。
平然とレクシスが冷水で体を洗っているのを見てシージュも真似したら酷い目にあったこともある。風邪を免れたのが奇跡的だ。
「だったら急ぐ・・・待て、敵だ。」
「敵、ですか?」
「速いな。だが姿は見えない・・・」
気配をすでにレクシスが読み取っている。そして周囲の感覚や乱れなどに集中力のすべてを注ぎ込む。
目標は2方向、街道脇の草原を一気に駆け抜けてくる。姿が見えないが陰だけははっきりと見える。
「ステルスケープの刺客か・・・シージュ、構えろ。」
「わ、わかってるです!」
乱世ゆえに武器を持たずして誰も生き延びられない。シージュは腰につけていた棒を両手で構えると180cm程度の細身の槍に棒が変化する。
それを構え、シージュはレクシスと背中合わせにして緊張感を高め陰に動きを集中する。人の姿はないが、高速で陰が動いている。
「・・・来た!」
半透明の人型の物体が空中に躍り出ると同時に、レクシスは腰につけた長い剣の柄に手をかけると、飛び上がると同時に引き抜く。
相手の脇をすり抜けつつ、華麗に一閃し着地・・・ケープが破れ、血を流した黒装束の人物がショートソードを片手に倒れこむ。
「れ、レクシス!支援願うです!」
シージュがすばやく槍を構え、ショートソードを受け止めるがさすがに力が弱く抑えられている。
それを見てレクシスがすばやく剣を構え、黒い気を収束させると真一文字に振り下ろす。
刺客めがけ黒い闇の刃が襲い掛かり、貫通する・・・この世界では普遍化した術の一種。レクシスも単純に刃を出す程度なら扱える。
「ぐ・・・!」
呻き声を上げ、刺客が倒れこむ・・・闇属性の刃を真っ向から受けたため切り裂かれ、致命傷を負っている。
ステルスケープとも呼ばれるケープの形をした光学迷彩で姿を隠し、闇討ちを得意とする刺客だったらしいが接近戦の腕前はそれほどでもないらしい。
レクシスが周囲を見て安心するが、とたんに短いナイフが真上からレクシスの肩に突き刺さる!
「な・・・!?」
「逃さないです!」
シージュが真上に居たブラックハーピーを見つけると、槍を構え光を収束させ・・・真上に光の太い閃光を放つ。彼女の使う「術」だろう。
一瞬で貫かれたハーピーが墜落する・・・彼女だけはステルスケープを装備していない。このメンバーに加わった新入りのようだ。
おそらくステルスケープ装備で襲撃した後、隙をついてナイフを投げつけ確実に殺す算段だったのだろう。狙いが甘かったのが幸いだ。
「れ・・・レクシス、大丈夫ですか!?」
「・・・予定変更だ・・・まったく、これではやむをえないな・・・」
肩のナイフが予想以上に深く突き刺さっているためとりあえず衛生上安全な場所で休む必要がある・・・レクシスはやむを得ないと判断し、集落に向かう決断をする。
「刺客万歳、です。」
「まったく・・・」
最初の頃は戦いにおびえていたシージュも、何度も襲撃を受けるうちに戦いに慣れてしまったらしい。
レクシスはため息が出る思いだが、自分が未熟なせいだとため息をつき予定になかった集落へと向かう。
「・・・まったく、神経が傷つかなくて幸いだ。」
改めてナイフの長さや傷跡などを見てレクシスがため息をつく。上着の右腕は血まみれになり、肩の部分は特に酷く血の跡がついている。
先ほど医者を呼び、ナイフを抜くついでに止血などを行った。予算の方は襲撃者の武装や所持品を売り払い、何とか工面できた感じだ。
ナイフは真っ直ぐで特にものめずらしいものもない。毒などの類は塗られていなくて幸いだとレクシスはベッドから上半身を起こしつぶやく。
「ですね。こっちはさっぱりです。」
久しぶりの風呂でシージュはさっぱりした様子で満面の笑みを浮かべる。久しぶりに着替えもして、すっきりした様子だ。
「じゃあ、ちょっと町を見てくるです。さっきのお金で買い物もしたいです。」
ステルスケープ(といっても血糊つきでボロボロだが)が案外高く売れたため、分け前は2人で分割しておいたのだ。
「気をつけろ。傭兵部隊の連中もそうだが・・・討伐対象である魔物にはな。」
「討伐対象、ですか?」
「俺も詳細は良く知らないが、前の酒屋で情報を聞いたところ人の姿をしているとしか聞いていない。」
それもせいぜい噂話、よりによってシージュが街中で襲撃されるということはないだろうとレクシスは思っていた。
だからこそ外出を許可していた・・・むざむざ傭兵部隊がうろつく街中で襲撃しようという刺客も居ないだろう。いざとなれば警備の傭兵部隊が助けるはずだ。
「せいぜい気をつけろ。お前の槍術は飾り物でもあるまい・・・油断はするな。」
「わかってるです。そんなへまなんかしないですよ。」
といっても、敵意などの気配に疎いから不安というのもレクシスにはあった・・・そんなことはまったく気にせずシージュは街へと出て行く。
「ふぅ、あんまり気に入らないです。」
服などを見ても気に入ったデザインがなく、相変わらずの緑色のローブで通したほうがいいなとシージュは思ってしまう。
都市部のデザインだが、やけに無骨だったり従者が着るような服装しかない。メイドとか言ったが、そういう服装が流行らしいのだ。
「・・・あれ?」
シージュが路地を見ると、うつむいて泣き崩れている女性がいる。紫色の髪の毛で年齢は20歳くらいだろうか?
見た感じ聖職者っぽい紺色の服装を着ている。ふとシージュはその姿が気になり駆け寄ってみる。
「あの、大丈夫ですか?」
「・・・ち、近寄らないでくれますか?急いで逃げてください。」
「え・・・?」
シージュが疑問符を浮かべていると、いきなりその女性が路地の奥に逃げ込む。彼女も後を追うとそこは廃屋が並ぶ場所だ。
「えっと、何があったんですか?教えてください・・・です。」
「一刻も早く逃げてください・・・私は・・・私はもう・・・・・」
木箱の裏にその女性が隠れていた・・・シージュはその顔を覗き込むが、やはり泣き崩れている。
だが、その下半身が溶けたな感じになっているのを見てシージュが固まってしまう・・・コカトリスでも見たかのように。
「・・・ま、まさか・・・」
「もう・・・遅いの。」
討伐対象・・・そんな言葉がシージュの脳裏を掠めた後、激痛が走り目の前が真っ白になってしまう。
「・・・・ん?」
「何をしていた。」
次にシージュが目覚めると、レクシスの顔がはっきりと見える・・・同じ高さからシージュを覗き込んでいるようだ。
「・・・ここ、って・・・?」
「宿だ。俺が寝ていた間に帰るとはよほど長い買い物だったらしいな。」
目をはっきりと開けてシージュが起き上がると、そこは自分たちが予約した宿の一室だ。ベッドが離れた場所に2つある、8畳くらいの木でできた部屋。
外はまだ暗い。月はまだ東にあるところを見ると真夜中といったところだろう。
「あ・・・ごめんです。」
「俺は外で修練をしてくる。お前はゆっくり寝ていろ。」
剣を持ってレクシスが外へと出る。残されたシージュはあの聖職者のような女性が何をしたのかが気になって眠れなかった。
おそらく、意識が朦朧としているところを本能的に宿へと帰ってきたのだろう。それとも単に夢を見ていただけなのだろうか。
レクシスの話からして出て行ったのは事実だが・・・夢遊病か何かの兆候かなとシージュは思い、シーツをかぶる。が・・・
「っ!?」
突然のように下半身に何かがしみこむような感覚を受ける。あの時かぶった冷水のような冷たい感覚が、股間から広がっていく。
「つ、つめた・・・レクシス、どこ・・・!?」
身を切るような冷たさが脚へと広がっていく・・・シージュは何が起こったのか確かめようと思い、シーツと布団を払いのける。
「な・・・と、溶けて・・・!?」
自分の緑色のローブがスライムのように溶けている。そして不気味にうごめいている・・・脚の感覚はあるのかないのかすら不安定だ。
冷たさが収まると、今度は服を突き破って長いピンク色の触手が出てくる・・・それも長く、何本も出てくるようなものだ。
「ま、待つです・・・何ですこれ・・・はぁぅ!?」
疑問を抱くまもなく、触手は自分の意思を無視して腕や体に絡み付いてくる。そして一部はローブの中身へと入り込む。
「ダメ、やめ・・・・」
胸へと入り込んだ触手が、先端を刺激しシージュは甘い喘ぎ声を出してしまう・・・口の内部も触手が入り込み、何度も出し入れを繰り返す。
「・・・何事だ、騒々しい。」
素振りを夜の日課としているレクシスにとっていきなり聞こえてくる喘ぎ声は邪魔以外の何ものでもなかった。
ましてあの声はシージュ・・・レクシスはシージュが何をされているんだと思い、剣を鞘に収めず、階段を上がっていく。
「シージュ、夜帰った原因は・・・!?」
レクシスは呆然として剣を取り落とす・・・触手にシージュが責められている。いや違う、下半身から伸びた触手がシージュの上半身を重点的に責めている。
立ち上がっているシージュを良く見るとローブの下半分が溶け、脚と一体化している・・・間違いなくローパーだ。レクシスは剣を持ちながら近づく。
「シージュ、何があった・・・どういうことだ!」
「わ、わか・・・ひゃぁ!ふぁぁ・・・!」
喘ぎ声に紛れシージュはまともに返答もできない・・・レクシスは邪魔だと思い触手を切り払うが、別の箇所から触手が伸びてくる。
再生能力は本物・・・レクシスが剣を構えて触手を切り落とすが3本目が剣を持つ腕に絡みついたあと、触手が別の箇所から伸びてレクシスを拘束する。
「・・・ローパーか!何をふざけた真似をした!」
「わ、わかんないです・・・・なんでか・・・・」
名前だけはレクシスは知っていた。下半身に卵を産み付けて種族を増やしていくローパーという魔物程度は。
だが、対処法は一介の傭兵に知るすべもない。この状態からどうするべきかなどほとんどの人が知らないのだから。
「く・・・誰か呼べ!誰でもんぐ!?」
いきなり触手が口へと入り込み、レクシスを黙らせるかのように入り込んでいく・・・そしてまとっていた粘液を塗りつけていく。
そうしてから、無理やり触手がシージュとレクシスを近づけさせ、そのまま口付けをさせる。
「・・・・!?」
「!?」
シージュとレクシスはその行為にびっくりする・・・互いにファーストキスだ。その相手がこんな形とは思っても見なかったらしい。
が、レクシスにはそんな疑問符を抱く猶予すらなかった。そのまま触手がズボンのベルトを器用に脱がせていくとそのままドロドロに溶けているシージュの下半身に無理に突き入れられる。
「・・・な・・・」
生暖かい。それも意外なほど気味悪い感覚ではない・・・レクシスがそんなことを思っていると、ローパーの部分が唐突に圧力をかけてくる。
「ぐ!?な・・・ぁっ、ぁ・・・・!」
レクシスの逸物へとローパーの部分が周囲から不規則に圧力をかけてくる・・・シージュは呆然としてみていることしかできない。
まぁ、いきなり自分の体が魔物に変異してこんな感じで人を取り込んで犯しているなんて考えれば呆然としていても仕方ないだろうが。
「れ、レクシス・・・」
「・・・ダメ、だ・・・まったく・・・・」
まさか護衛対象に・・・しかも本人にその気がないのに犯されるなど誰も思わない結果だったはずだ。
内部で犯され、十分な刺激がたまったレクシスは耐えかねて精を放つ・・・そしてぐったりとしてしまう。
が・・・シージュにも変化が起こり始めている。少しずつローパーの感覚が自分にも直結していくようだ。
「あ・・・これも・・・」
触手があるのが極当然に感じられる。そして今の状況に疑問符を抱くことはなくなっていた。
とにかく、終わったらまずレクシスを寝かせる・・・が、シージュはどこか気持ちが変わったのかレクシスを抱き、下半身をそのままにベッドへと入る。
「・・・何やってたんだ・・・まったく・・・・・」
夢か現実かわからない・・・レクシスはシージュに犯されたことを受け入れられないまま目を開けて、さらに呆然とする。
笑顔のままシージュの顔がすぐ近くにあり、抱きつかれている。しかも下半身がどっぷりとシージュの中身に入っている。
「おはよーです、レクシス。」
まぶしいほどの笑顔でシージュが答えるが、すぐにレクシスは現実を理解して抜け出ると、服をすぐに着替える。
「・・・昨晩俺の身に何があった。」
「え、お楽しみですが何か?」
「待て、それはつまり・・・」
うれしそうにシージュもうなずく。ということは犯されたのは実際にあったことでありシージュもローパーに・・・
依頼主の言い訳などをレクシスが一瞬思い浮かべるがそれ以外に言うことがあるだろうとシージュを見つめる。
真正面から見てみるとなかなか可愛い所がある・・・その考えも一瞬で首を振って拭い去るとシージュに強い口調でたずねる。
「今のお前は・・・」
「ええ、このとおりです。」
相変わらず溶けている下半身・・・そこから無数の触手が伸びてくるが昨晩のような勢いはない。
本能というかそんなものに任せず、おとなしくレクシスの動きを伺っている。シージュの意思で動いているようだ。
「・・・変わらないな。」
「ですね。歩く感覚が微妙に違うですけど。」
「なら行くぞ。今日依頼主に送り届ければ依頼は完了だ。」
触手をしまったシージュが何か詰まらなさそうにレクシスを見つめるが、レクシスは仕方ないだろうという。
「傭兵だ。それ以上の権限はない・・・「どういう姿であろうと、生きている限りシージュを送り届けろ」、それが依頼だ。」
「レジスタンス、ですか?」
「そういうことだ。ナーウィシア復興のために戦力をかき集めている軍勢。その旗頭には王族が必要だ。どういう手段でもな。ま・・・お前しか居ないのかとは思うが。」
そればかりは変えられない。引き受けてしまった依頼、どうすることもできないだろう。どういう関係であろうとナーウィシア騎士団に引き渡せばそれで終わりだ。
レクシスは相変わらずのように淡々と荷物をまとめ始める。出立準備を整えて、今日中に到達するつもりだろう。
「終わったら・・・レクシス、どうするですか?」
「さてな。気ままに傭兵を続けるほうがいいだろう。お前を狙ってきたシェングラスの正規軍・・・まぁ、お前にとって見れば祖国の敵につくこともある。」
軽々とレクシスが言ってのけるが、シージュは首を振る。
「そんなの嫌です。」
「俺が縛られるのは依頼だけだ。間違っても触手にだけは勘弁してもらう。」
「・・・絶対人なんて襲わないです!だから・・・」
シージュがレクシスの胸元に抱きつくと、そっと涙を流して言う。
「・・・近くに居てください。ずっと。」
「まったく。何でそんな感じで頼むんだ。いいから離れろ。」
軽く腕をつかみ、レクシスはシージュをわずかに引き離すと真剣な顔で質問を始める。
「じゃあ聞くがお前の名前は?」
「シージュ・ウォリウム・ナーウィシア。」
「好きな色は?」
「緑色です。」
「好物は?」
「せ・・・・スウィーツです!」
今なんか怪しい言葉がでかかったぞとレクシスは思ったが、特に最初に聞いたときと何も変わっていない。
とりあえず、シージュがシージュを維持し続けることだけは何とかなりそうだ。なら断る理由はない。
「・・・二度と人を襲わないよう、一番近くで見守るとするか。それに責任も取らなくてはならないだろうな・・・こういうことをした。」
ぎゅっとレクシスがシージュを抱きとめる・・・シージュもうれしいのか、そのままレクシスを抱き留め返す。
「じゃあ、朝も・・・」
「夜だけだ。それ以上やるなら斬る。」
やはり微妙にローパー寄りに思考が傾いたかとレクシスはため息をつく。まぁ、それでもうまくやっていけそうな気もしたのだが。
「行くぞ・・・依頼主に事情を説明する。後他の連中を襲ったら即・・・わかっているな。」
「わかったです。私だってそれくらいの自制心はあるです。」
依頼主に半分ほど無事にシージュを送り届けたレクシスは、特に罪にも問われずシージュとともに解放戦線の一員に加わる。
シージュは夜毎晩のようにレクシスを襲う以外は特に行動面での異常はなく、その後も解放軍の旗頭として戦い続けた・・・とされている。
09/10/20 18:06更新 / スフィルナ