侵食する触手と聖職者
「主よ、今日も一日の恵みに感謝を。そして我が生が無事にあることに感謝を・・・」
神々しいほどの陽光を受けてお祈りをする、これが修道院の日課であり修道士であるソレイユの一日の始まりでもあった。
両手を合わせて祈ると、寝巻きから修道士の服へと着替え自室から食堂へと向かう。朝食の準備も自分たちでしなくてはならない。
「おはよう、ソレイユ・・・今日も一日がんばらないと。」
「そうですね、シェーラ院長。」
修道院長であるシェーラが眠そうなまぶたをこすり、今日の分のコンソメスープを作っている。
彼女は長いこと修道院長を務めているはずだが、その外見は30代前半・・・下手をすると20代後半程度にすら見える。
すると、入り口のほうが騒がしくなってきたため何かと思ってソレイユが駆けつけると、2人ほどのシスターが担架に乗せて昨晩悪霊祓いに出かけたシスターを運んでいる。
「確か彼女は・・・」
「ようやく一人前と認められた・・・ルーチェですね。私が見てきます、シェーラ。」
「ええ・・・」
どうも苦しそうな様子を見せているルーチェが自室へと運ばれていくのを見て、ソレイユは後を追いかける。
近くに聖職者のいる場所が無いため、この修道院は悪霊祓いを行うことも多い・・・もっとも人に取り付いた亡霊を取り払うのが目的であり、魔物に関しての知識は薄い。
ソレイユは扉を開けてルーチェの様子を見るが、どうももだえているというよりおびえ手いるようだ。
「そ、ソレイユぅ・・・」
「1人にさせてください、とりあえず様子を見たいんです。」
はい、とシスター達がうなずいて出て行く・・・ソレイユは個人的に友達でもあったルーチェに近寄ると、そっと額に手を当てる。
特に熱は無い、だから熱病の類で幻覚を見ているわけでもないようだ。念のため軽く詠唱して術を唱えると、ルーチェの左胸に青い光が入り込んでいく。
「・・・少し落ち着いてくれます?」
入り込んだ後のルーチェはかなり精神が安定したようだ・・・ソレイユが術を使って精神を安定させたらしい。
「そ、ソレイユ・・・じ、実はね?あれ、悪霊じゃないの・・・」
「違う・・・?」
ソレイユが疑問符を浮かべた・・・以前から急激に人が変わった貴族令嬢がいたため依頼されたのだが、悪霊の類ではなかったらしい。
「娼婦の亡霊が乗り移った・・・のではなかったんですね?あれは。」
「うん・・・あ、あれは・・・お願い、ソレイユ!」
いきなりルーチェがソレイユの手をつかむと、自らの股間へと手をあてがう・・・一体何とソレイユが戸惑っているとルーチェが強く言う。
「はやくあれをとって!わ、私怖い!お願いだから取ってよ!!」
「あれ・・・な、何されたんですか?一体・・・」
「い、いきなり何か蛇みたいなのが出てきて入り込んで・・・あまり痛くて気絶したけど何か違和感が遭って・・・」
ソレイユは術式の類でもぶち込まれたかと思ってもう一度術を詠唱する・・・今度は白い光がソレイユの手に収束していく。
「汚らわしき術を清め、その害を滅ぼせ・・・洗礼「バテーム」。」
詠唱を終えると、そのままソレイユはルーチェの腹に手を当てる・・・呪術の類ならこれで一気に解除できるはずだ。
光がルーチェに吸い込まれていくのをみて、彼女も随分と落ち着いた表情になった・・・ソレイユの術は修道院でもかなり効果が高いほうだ。
「あ、ありがとう・・・」
「これで何事も無ければいいんですけど・・・とりあえず、この部屋で安静にしててくれますか?感染症とかの可能性も否定し切れません。」
「そ、そだね・・・」
ルーチェが落ち着いたところでソレイユは部屋から出る・・・一体あんな場所に何を植えつけたか気になってきてはいた。
まさか淫乱にするためか?それとも体の構造を作り変えるためだろうか?何にしても詳しく調べておかないと大変なことになりかねないと思ってしまう。
「・・・何でしょうね。といっても・・・」
書物庫に入っても膨大な量の蔵書をみてソレイユはため息をつく。これだけ多い本の中から探すのも一苦労だ。
が・・・仮にも友達だ。こんな本の多さにひるんで真相を知るのをあきらめるわけにも行かない。
「・・・と、とりあえず・・・」
仕事は休んでこの調査に集中し、友達が何をされたのかはっきりと確かめなければならない。ソレイユは記憶をたどりルーチェの様子を思い出す。
とりあえず、何かを挿入された。蛇のような何かを・・・それを調べるところからはじめる必要があった。
「・・・あれから、どんな気分?」
「うん、何とかね。」
翌日、ソレイユが着てみるとルーチェは昨日の出来事など忘れたように明るく振舞っている。本人にとってはかなり痛々しい出来事だったはずだが。
それでも曇りの無い笑顔を見せるルーチェにソレイユは疑問すら抱く。本人はかなり快調らしいが、大丈夫なのだろうか?
「本当に?」
「大丈夫。明日あたりから仕事に復帰するよ。いい?」
「え、えぇ。」
ルーチェもそれなりに実力はあり、悪霊払いも十分こなせる。復帰してくれるのはありがたいがこの態度の違いは何だろうかとソレイユは疑問に思う。
だが、今は気にしても仕方ない。元に戻ったならいいのだが・・・躁鬱の可能性もありえるんじゃないかと思い、一応術をかけて精神状況を調べようとするが、もうルーチェは出て行った後だ。
「・・・はぁ。」
だが、一応調べる必要はある。ソレイユはやはり当面の除霊仕事は停止して自分でソレイユがされた行為などを調べる。
もっともそんな記述の書いていそうな本は少なく、その本を探すのだけでも結構苦労するのだが。
「熱心ね、ソレイユ。」
「いえ・・・友達ですので。」
仲間からそういわれてもソレイユは真剣に調べるしかない・・・友達を救う方法があるのかもしれないから。
が、真相は思わぬ結果で判明することになってしまう。きっかけはその1週間後の昼間から・・・
「・・・ルーチェの素行を調査してほしい、ソレイユ。」
「え?」
唐突にシェーラに呼び出され、ソレイユはどうしたのかとたずねる。ルーチェはここ1週間ほど元気に仕事をこなしている・・・それも人の倍は。
殆ど修道院に帰る気配も無いが、帰ってきた時は満足げな笑みを見せている。精神状況も調べれば健全そのものだったのだが。
「最近、除霊の依頼主から報告があった。「ほぼ無理に家族が犯されてた」という・・・それも男ばかりだ。」
「まさか!?」
依頼主と個人的な関係、それも交わるなどの行為は禁止されている。ソレイユは気が遠くなりそうなのを抑えてシェーラの話を訊く。
「本当だ・・・もう裏も取った。」
「・・・ルーチェに話を聞いてきます。間違いだと信じたいですが・・・」
「うむ・・・」
取り返しがつかなくなる前になんとしてもとめたい・・・人を犯すことに快感を覚えてはこの修道院にとっての恥でもある。
めまいを抑え、ソレイユは覚悟を決めてルーチェの部屋の扉を開くが・・・彼女の姿を見たとたんに気絶しそうなほどの衝撃を受けた。
仲間のシスター数名が倒れている・・・そしてルーチェは怪しげな笑みを浮かべながら触手を生やし、ソレイユを見据える。
「ソレイユ、こっちに来てよ・・・」
「な・・・なな何ですかそれは!?貴方は何故そんな物・・・そ、その姿って思いっきり・・・!」
そう・・・ローパーと呼ばれる魔物。触手で相手を捕まえ容赦なく犯し、特に女性は卵を植えつけられるとすぐにとらないと助かる道は無い。
ソレイユはとっさに右手に電撃を収束させる。ローパーは弱点として胴体下部の溶けた部分であり、そこに炎や雷などの術を叩き込んで気絶した隙に切断・・・手遅れなら殺される事も珍しくない。
「・・・ルーチェ・・・」
「ほら、貴方も仲間・・・」
一瞬だけ攻撃するのをためらった・・・その隙にルーチェが触手を絡ませてソレイユをそのまま捕まえると引き寄せる。
「い、いや!私は魔物なんか・・・!」
「こうなれば一緒よ、ソレイユ。安心して?痛みが無いようにぬらしてあげる。」
「い・・・や・・・っあぁ!?」
服の中に粘液滴らせた触手が入り込み、胸を刺激したためソレイユの体が一瞬だけ跳ね上がる・・・経験は全くといっていいほど無いのだろう。
初めてにも等しい感覚にソレイユはあえぎ声を出すが、ルーチェは笑みを浮かべたまま胸を弄り続ける。
「ソレイユ、結構感じるほうなんだ?ここの2人ね、いつも2人でヤってたから私がもっと気持ちよくさせてあげたの。」
「そ、そんな!?」
「だから恥ずかしいことじゃないんだよ?こうしてすることは・・・むしろこんな空間に閉じこもって制御することがおかしいの。」
「そんなこと・・・っああぁ!?」
触手が大事な部分にまで突き進み、突起をいじくる・・・ソレイユは快感にあえぎ声を出すが、一瞬で快感が痛みに変わる。
粘液と血が足を滴り落ちる・・・ソレイユは今ルーチェに挿れられたと感じたが、触手の先端から冷たいものが出てくる。
「っあ・・・ぁぁ・・・」
「植えつけたけど、貴方には快感を叩き込んであげたほうがいいみたい。イけないのはかわいそうだからね?」
「やめて、やめ・・・っあぁ!いやぁっ!」
触手がソレイユを犯すことを楽しむかのように何度も突き上げて引くを繰り返す・・・やがて、ソレイユの精神にも限界が来た。
「だめっ・・・も・・もぉ・・・いやあっああぁぁっ!!」
衣服がぐっしょりとぬれ、はじめてを奪われた上に達したソレイユは抵抗する気力すらなく、そのまま意識を手放してしまう。
「・・・う?」
目が覚めると自室の見慣れた光景が目に入り、時計はすでに午後の9時を示している。随分と長い間眠っていたらしい。
「ま、まずい・・・夕飯が・・・」
あんなことをされた後で素直に夕飯のことを考えた自分が恥ずかしく思ったが、それよりルーチェに事情を聞かなければならない。
まだ痛む下半身を押さえながらソレイユが外に出ると、食堂から悲鳴が聞こえてくる・・・あわててソレイユが出てくると、食堂へ向かう。
他のシスター達があわてて出てくる中をソレイユだけは単身向かっていく・・・そして術を収束させながら食堂に入ると触手で数名を絡め取っているルーチェの姿があった。
「やめなさい、ルーチェ・・・貴方はこれ以上犠牲者を増やさせたくない!」
「あいにくだけどそういうわけに行かないの。見てよ、後ろ。」
とたんに叫び声が聞こえてくる・・・ソレイユが一瞬だけ後ろを見たがルーチェが襲い掛からないように術で後ろを見る。
「遠方視界「イーグルアイ」・・・な!?」
片目で後ろの映像をみたソレイユは愕然とする・・・先ほどのシスター2人が他のシスターを捕まえると2人まとめて卵を入れていく。
おかしい・・・もともとローパーは人の精が無ければまっとうに活動も出来ないはず。すると察したのかルーチェが笑って答える。
「すでに地下室を占拠して男性数名を精力のつく食べ物を食べさせて監禁させてるのよ?あのシスター2人も満足げに食べて・・・もっと増えていくのよ。」
「ふざけないでください!そんなことをしたら・・・」
「私が殺されるのは嫌なの・・・確かに私のミスよ!けど、死にたくないの!ばれる前に・・・ここの修道院を・・・」
ソレイユはぎゅっと拳を握り締めるが、他のシスターは大あわてで外に逃げ出していく・・・しかし大半がつかまり、すでにローパーの卵を植えつけられた後だ。
「これが許されていいことですか・・・!?」
「もうそうするしかないじゃない!私だってなりたくてなったわけじゃない、けど皆受け入れてくれる!?ここはシェングラスよ、魔物の運命なんて・・・!」
討伐隊から逃げ続けるか、殺されるか。あるいはナーウィシアまで逃げ切るか。そんな運命しか待っていない。
しかしナーウィシアは敵国、この修道院はシェングラスとナーウィシアの戦乱で両親を殺された者も数多く居る。それに魔物への偏見もかなり強めだ。
「ですが・・・貴方の行為は・・・!神を信じるものとして恥ずべき行為ですよ・・・ルーチェ・・・!」
涙を流すルーチェに対してもソレイユは全く態度を変えないが、彼女は悲しげな様子で訴える。
「ソレイユならどうしたの!?1人で逃げ切るつもりだったの・・・外の世界も殆ど知らないのに!?恐ろしい場所の人たちを信用できるの!?」
「・・・」
ソレイユが黙ってしまう・・・外の人たちは信用できるはずが無い。仲間数人が捕まり、何度も犯されたが術で追い払ったことも数度会った。
まして今は魔物であり、容赦なく殺してしまう。少なくとも友達のルーチェまで人間によって殺されることだけは避けたかった。
「・・・私が植えつけたのは貴方と、外のシスター2人よ。それだけ・・・でも気づかれて、術を唱えたり剣を持ってきて殺そうとして・・・仕方なく・・・」
「・・・」
言葉無く剣を向けるものに死は必然の罰・・・話し合いの通じない相手には剣で殺してでも守れという、戦乱大陸ウィングルアの根幹を成す思想だ。
ましてシェングラス、ナーウィシア国境にあれば必然的にそのような風潮は強まる。ルーチェもその思想に従っただけでありソレイユ・・・いや、この修道院の人や宗教関係者にすら根付いている。
「どうして私に・・・」
「離れたくなかった!一番の友達だから・・・術とか字も、いろいろ教えてくれて仲良く話してくれたし、私の悩みも真剣に話してくれた!でも、こんな私を嫌ったから・・・」
確かに、一番最初に彼女の姿を見た時魔物として接し、害意を向けていた・・・ソレイユは呆然としてしまう。
自分はルーチェは嫌いじゃない。けどあの時何故彼女自身としてみることも出来なかったのだろう?そんな疑問を感じると、とたんに足が冷たくなっていくのに感じた。
力が入らず、ソレイユが倒れこむ・・・ルーチェはそっとソレイユを抱き、ひざがあるであろう場所にゆっくりと寝かせる。
少しだけ暖かく、やわらかい・・・心地よく、でも少し気味悪い感覚だがソレイユはそれよりも自分の変化に気が気ではないようだ。
「・・・何が起こったんです!?私に・・・」
「私と同じように発芽するしかないの・・・3時間くらいで卵は定着して、脚の形を変えてしまう。でも遅かったね・・・」
「嫌・・・っ!!」
ローブが溶けていく。次第に服の感覚が消えて冷たい石畳の感覚を感じるようになっていく・・・服を取り込んで脚が一体化しているらしい。
冷たい感覚が完璧につま先まで覆うと、ピンク色の触手が2本脚から映えてくる・・・ソレイユは声にならない叫び声をあげたが、ルーチェはそっとソレイユをなでる。
「怖くないよ。人の性格は元々のまま・・・ただあの2人はちょっと本能に忠実すぎるけど、私も・・・性格とか変わってないよね?」
「・・・ちょっと見境無く襲う以外は・・・ルーチェのまま、ですよね?」
「うん、少なくとも魔王やら何やらに支配されるということは無いもの。生きてるだけ・・・種族がちょっと変わったくらい。」
ソレイユはふぅ、とため息をつく・・・触手がやけに勝手に動き回ってきたが、脚に力を入れ深呼吸を繰り返していく。
が、それでも触手はうっとうしく動き続ける・・・頭に来たのかソレイユは雷を収束させるが、そっとルーチェが収める。
「体の一部なんだし、切ったらダメ。それよりもっといい方法があるの。」
「・・・予想できますけど、嫌です。大体・・・私ももう・・・」
「どうせ隔離された修道院なんだからいいじゃない。」
ルーチェが楽観的に言うと、ソレイユは首を振ってルーチェにつかみかかる。これから来ることに大体予想がついているようだ。
「ダメなんです!先ほど逃げ帰ったシスター・・・彼女たちが町に行ってここのことを知らせたらどうなります!?討伐軍が・・・!」
「あ・・・」
「私が出ます・・・っ!だ、だから早くこの触手を・・・っ!!」
自分の敏感な部分に絡みついたりして、無視するかのように触手が動き回る・・・本来をあえぎ声を出させて男性を引き寄せるための本能らしい。
ソレイユはなれない脚で何とか立ち上がるが、触手に絡みつかれ敏感な場所を攻められ、倒れこんでしまう。
「っあぁ・・・だ、だめっ・・・!」
「・・・討伐軍が来るまで1日はある。だから私達は帰って来たら院長に事情を知らせる・・・絶対犯さないから。ソレイユは・・・地下に行って。」
「地下・・やはり・・・男性を犯して・・・」
「もうそんなこと言ってられる場合じゃないよ!ソレイユが戦えないと私達全滅なのよ!?お願い、私達のためだと思って・・・!」
すこしソレイユはうつむくが、ルーチェのためだと思い意を決する。
「・・・わかりました。けど監禁していた人はこれで出してください。私を最後に・・・人の食べ物でも生きられるって訊いています。」
「う・・・うん。」
名残惜しそうな表情をしたがルーチェはしぶしぶうなずく・・・ソレイユは意を決して地下室へと向かう。
さすがにルーチェがすきそうな男性ばかりが集められていた・・・食事が終わり、寝ているところだ。
「・・・彼にしますか・・・」
手前にいる、少々美男子の人物・・・ソレイユは彼に決めると服の上部分を普通に脱ぎ去り胸を押し付け始める。
こうなったら半分ほど自棄でもある。青年は目を覚ますがソレイユは覚悟を決めて服を脱がせて行く。
「・・・そんなわけなんです!だから・・・」
ルーチェがシェーラに報告をするが、シェーラは落ち着き払っている・・・減っていたり、何かうめき声や涙を流しているシスターを見ても何も思っていないようだ。
むしろ、いつかこうなるんじゃないかと思っていた様子で冷静に訊くとルーチェに指示を出す。
「近い間に引き払う用意を・・・ここから別の場所に向かう。」
「で、でもここに来る討伐軍は!?」
「私が食い止めればすむ話。いえ・・・殲滅、かな。」
はぁ、とうなずいてルーチェが準備をしようとすると階段をソレイユがあがってくる・・・涙目で顔も赤いが、触手はすでに収納しているようだ。
「何だってこんな事しなくてはいけないんですか・・・触手はとまりましたが・・・」
「ソレイユ、お疲れ様。討伐軍は後4時間くらいで来るから待ってて。」
「・・・二度と男は嫌です!」
ソレイユは自室にこもり、そのまま泣き崩れてしまう・・・触手は出なくなったがこんな真似をするなんて今でも嫌だ。
最後のほうはむしろ嬉しかったが、それがもっとも嫌なことでもあった・・・あんな行為は正当化できるものでもなんでもない。
「・・・」
「ソレイユ・・・」
「ルーチェ・・・私・・・」
シーツを握り締めてソレイユが泣いている・・・ルーチェがベッドに座ると、そのままソレイユをなでる。
「・・・嫌と思ってれば、大丈夫よ・・・無理させないから・・・」
「でも、これは到底・・・」
「私たちを守るためにやってくれた・・・そうでしょ?ソレイユ・・・もう魔物に変わろうとしている仲間や私のために・・・だから、ソレイユはソレイユのままでいてよ?」
そっとルーチェがソレイユを抱きとめる・・・ソレイユは涙をぬぐうと、そっとルーチェにキスをする。
「・・・え?」
「ありがとう・・・ルーチェ。何か迷いが切れた・・・そうですね。私がその意志を保っていればいいんですよね。」
「・・・う、うん。」
今までは打って変わって、ソレイユは気力を取り戻したのか、そのまま階段を下りていくと落ちていた剣を手に取る。
白銀の剣に複雑な文様が描かれている・・・戦闘用だがどちらかといえば斬るより術使用の媒体に使いやすい材質で作られているし軽い。
それをもって外に出る・・・周辺の自警団が歩いてきたが、いっせいに殺気立っている。ローパーが人と同じように見えるため、襲い掛かってきそうな雰囲気だ。
「・・・自警団の皆様に言います・・・今すぐ立ち去ってください。私達は危害を加えるつもりは全くありません。」
自警団はソレイユの言葉は耳に入っているはずだが、一斉に武器を構えて向かってくる。
「さもなくば・・・」
ソレイユは剣を掲げ、天に掲げると雷が剣に降り注ぎ剣へと吸い込まれていく。
「裁きが・・・下りますよ。言葉無く剣を向けるものに死は必然の罰です・・・!原罪「ペシェオリジネル」!」
雷を帯びた剣を、ソレイユは勢い良く地面に突きつける・・・とたんに剣が放電し、相手の武器に一斉に襲い掛かる!
金属に直撃した雷は持ち主を感電させ、そのまま気絶させていく・・・後ろに残った自警団員はおびえながらも剣を構える。
「な・・・い、雷の高位術者が・・・!?」
「威力は抑えましたよ。死なないほどに・・・記憶が飛んでいる可能性も捨て切れませんが、やむを得ませんね・・・」
自警団員は震えながら剣を構えている・・・恐れているのだろう。ソレイユは目を閉じて、静かに語りかける。
「先に言いました。危害を加えるつもりは全く無い・・・行方不明者は先ほど見つけました。犯人はすでに死んでいましたよ。私が激戦の末に倒しました。やむを得ず。」
「・・・」
「干渉しなければ・・・私達も戦いません。出て行けというなら応じましょう、ですが武器を持って殺すのであれば私達も身を守るために戦わざるを得ません。良く・・・考えてください。」
ソレイユは夜盗が襲撃してきたのと同じように落ち着いて語る・・・自警団員はどうするのか考えつつも、剣を鞘に収める。
「・・・本当だな。なら・・・出て行ってもらえるか?こちらも手出しはしない、倒したということにするが1週間が限度だ。」
「感謝します。その心遣いだけでも。」
「・・・魔物は許せん。ただ適わないから交渉を呑んだだけだ・・・勘違いするなよ。許したわけではない。退け。」
仲間などを引きずって、自警団が撤退を開始する・・・ソレイユはふぅと一息つくと修道院に戻り、その場にへたり込んでしまう。
疲労が一気に出た・・・先ほど犯してきたのと、強力な術を威力を抑えたといっても広範囲に放った、それと緊張によるものだろう。
「ソレイユ!?」
「あ・・・だ、誰か!」
ソレイユは意識を手放し、ぐっすりと眠りにつく。
「主よ、今日も一日の恵みに感謝を。そして我が生が無事にあることに感謝を・・・」
ナーウィシアとシェングラス国境に程近い修道院・・・以前より多少部屋が狭くなったがソレイユは日課であるお祈りを朝にささげる。
そして食堂へと向かうと、仲間のシスターが触手を何本も使って同時に料理をこなしている。仲間は減ったが彼女たちは説得してようやく今の生活に慣れた感じではある。
「しかしあっさりとついてきたね、皆。あれほど嫌がってたのに・・・魔物とか。」
「・・・自分がそうなって、ようやくわかるんですよ。居場所も得るのは難しいですし、ナーウィシアに行くにも抵抗感がある・・・シェングラスで安全圏はここ程度、集落も国境に近く偏見は薄いですし。」
ちょうどいい立地条件の場所をシェーラが探し、あっさりと放棄された城郭を修道院に改築したのだ。
ソレイユがそっと語ると、シェーラが入ってくる・・・が、その姿を見てほぼ全員が驚愕の色を浮かべる。服の下から触手が出てきている。
「・・・嘘!?院長が・・・!?」
「姿を隠さなくてよくなったから。私がここに来て2年ほどの時にルーチェのような原因で襲われ、それから必死にいろいろと押さえ込んできた。もっとも、ルーチェの行動は予想外だったけど。」
ほぼ全員が今更のように驚いたりしたが、ルーチェとソレイユはそれで冷静だったのかと大体納得する。
自分と同族になればもう自分を隠す必要も無く、むしろ喜びたかったが平静を保っていた。それでつじつまが合う。
シスター達は驚くが、シェーラはふっと微笑するとこういうのもありじゃないかとはっきりという。
「ローパーだけの修道院も悪くない。私達はいつもどおり悪霊を払ったりして生活を続ければいい。まぁ、生きていることに感謝しよう・・・これからも宜しく。」
「・・・はい!」
ソレイユが返事をして、少しだけ性質と空気は変わったもののいつもどおりの日常がまた過ぎ去ろうとしていく。
少し悩むところも、思うこともある。だがいずれ答えは出てくるはず・・・ソレイユはそう信じてやまなかった。
終わり
09/10/20 18:07更新 / スフィルナ