第9話 本日は休日な件について
「はっ! ふっ! ほっ!」
俺は剣を振る。剣など実際に振ったことはないから以前テレビで見たのを見よう見真似でやっているだけだが、それだけでも筋力はつくだろう。弱肉強食(この世界では別の意味で取って喰われそうだ)、生き残るためには力をつけなくては。
目標はとりあえず三日坊主にならないこと。
「ヒロ、朝から精が出るな」
気がつけばマキアが見学している。
いつからいたんだろう。
「どれ、私が見てやろう」
「あ、いいの? 我流でやるのは無理があったから助かるよ」
〜一時間後〜
「ゲホッ、ゴホッ……ぜえ……ぜえ……」
俺は一時間前の自分の不用意な一言を軽く後悔している。
マキアは全く容赦しなかった。鉄製の剣を一時間休み無しで振り回すのはキツイ。
腕がプルプルしている。足腰もちょっとやばい。
立っているのも億劫になり仰向けに寝転んだ。
「筋は悪くないんだが……如何せん体力が問題だな。これからもビシバシ鍛えてやろう(……夜のほうも頑張って貰わないと)」
ある程度鍛えてたつもりだったけど、まだまだ甘かったな。
これから長旅も増えてきそうだし、体力作りを徹底的に頑張ろう。
そしてちょっと身の危険を感じたのは何故だ?
「そろそろ朝食ですよ〜ってヒロさん、大丈夫ですか?」
ブリジットが心配そうに見てきた。
そうか、もう朝飯か。
とりあえず水を一杯持ってきてもらおうか。
◆
今日の朝食は昨日食べられなかったサンドイッチを作って貰った。
サンドイッチも美味いが、この牛乳もまろやかでコクがあり美味い。
さっきまでの疲れが吹き飛んでしまった。
その様子をシェリルさんがニコニコしながら眺めている。
「ヒロ。お主は今日は休め」
朝飯を食べている最中にミリア様がそんなことを言ってきた。
周りもその言葉にピクリと反応する。
「……いきなり休めと言われても」
「たった二日でこれだけのメンバーが揃っておる。別に急ぐ必要もないじゃろうて。……そうじゃ、町にでも行って遊んできたらどうじゃ?」
急いだからって見つかるようなモンでもないだろうし。
あんまりハイペースでやっても持たないだろう。ガス抜きも必要か。
「だ、だったら!」
ミリア様との会話にブリジットが顔を赤くして割り込んでくる。
「私と行きませんか? 案内も出来ますし」
自慢じゃないが、俺は結構迷子になり易い。土地勘の無い所ならなお更だ。
この申し出はありがたいけど。
「ヒロッ! 私と一緒に行こう。剣もある事だし防具でも見繕ってやる!」
「あ〜ん、私もヒロさんと一緒に遊びに行きたいです〜!」
「あそぼ! あそぼ!」
マキア、シェリル、リルに誘われる。
ちなみにリルは俺の頭の上が気に入ったらしく、よく乗っかって昼寝している。
「あー先越されたー」
マルチダはテーブルの上でうな垂れている。
そんなマルチダを部下四人は励ましている。
そしてコルルは水が入ってる壺から顔を出してこちらをじっと見ている。
何か言いたげだ。
「わたしも……ヒロと遊びたい……」
何このカオス。
あれだ。ちょっと前までこんなに女性と関わることなんて無かったのに。
あれか? モテ期か?
俺、近いうちに死んだりしないよね?
「ふ〜む。ちょっと見ないうちに……やるではないか」
「私が最初に誘ったのに……一番最初に好きになったのに……」
ミリア様は面白そうな顔をしているが、ブリジットは悲壮感漂う顔をしている。
何かブリジットが可哀想になってきた。
結局全員で遊びに行くことになった。
ミリア様も町に用事があるとの事でギルドはもぬけの空になる。
勿論戸締りはしていった。
〜トラカパの町〜
「おい、アレ見ろよ」
「うわっ、スゲー!」
「てか、あいつ誰?」
「MO☆GE☆RO」
「URYYYYYY!」
「ウホッ! いい男」
めっちゃ注目されている。
当たり前か、俺を含めて計13人。注目されないほうがおかしい。
嫉妬の目で見るもの、羨望の目で見るもの、好奇の目で見るものと様々だ。
そして後半何だ!? 俺はノーマルだからな!
トラカパ町は人で大賑わい。
これでも町としては小規模だそうで、いつか大きな町にも行ってみたいものだ。
人だけでなく魔物も含まれていて、武器を持っているもの、商いをしているもの、様々だ。
あと、行く途中で男をナンパして路地裏に連れて行った魔物も見かけた。
これは別にいいか。
ミリア様について行ってたどり着いたのは『雑貨屋 伊予』と看板に書かれている大きな店。
まだ朝だからか人の入りは少ない。
「わしの目的地はここじゃが、お主はどうする?」
俺は興味があったので入ってみることにした。
店内は広く、武器、防具、薬品、衣類、道具、その他諸々沢山置いてある。
「いらっしゃ〜い。あ、ミリア様、お久しぶりです! それとこの辺では見かけん人やね」
関西弁口調の狸少女がそこにいた。
狸少女はすぐに隣にいた俺に目を向ける。
他のみんなは店の商品を眺めていた。
「こやつは最近この辺に来ての、一緒にギルドを立ち上げておるところじゃ。メンバーも増えてきたところじゃし、物資も足りなくなってここに買いに来たのじゃ」
ミリア様は何かが書かれた紙を狸少女に渡す。
狸少女はそれをじっと見て
「はい、承ります。お届けは明日の夕方頃になりますが、よろしいでっしゃろか?」
「相変わらず早いの。代金は振り込んでおくぞ」
「まいどありがとうございます」
俺も商品を見てみることにした。
これは……香水かな? ビンが何か怪しいから変な薬品かもしれない。
こっちは布? 手触りが良いな。シルクだろうか?
「お客さん。何ぞお探しやろか?」
いつの間にやら狸少女が俺の隣に立っている。
全く気がつかなかったな。
「申し遅れました。ここで店長やっとります伊予いいます。以後よろしゅう」
「ああ、どうも。御上宥、みんなからはヒロって呼ばれてます」
「何かご希望とかありますか? 基本何でも置いてありまっせ」
何でも? 何でもって言ったか?
「じゃあ異世界に行けるような道具は?」
「それは……流石に」
伊予さんは汗を垂らしながら目線を逸らす。
やっぱり無いか。言ってみただけだし。
というか売ってたらミリア様が教えてくれるだろうし。
「何これ?」
俺は、ふとゴツイガントレットに目を落とした。
全体的に銀色で、拳の部分はトゲつきのメリケンサックのようになっており、右横には銃口がついている男心がくすぐられそうな兵器だ。
「あー、アームドガンナーやな」
へー、そんな名前なんだ。格好いいじゃないか。
持ってみると結構重い。
「前に客が売ってきたのを買いとったんやけど、それからめっきり買い手が現へんのですよ」
「何で?」
「これ、銃弾をつくるのに装備したものの魔力を使うんですよ。それにガントレットとして使うにも重過ぎますし。だったら普通に魔法使ったほうが早かったり、剣で切ったが早かったり。……良かったら買います? お安くしときますよ」
う〜ん、どうしようかな。
何か運命を感じる。だけど金なんて持ってないし。
そう思ってたらミリア様にずっしり重い皮袋を渡された。
振るとジャラジャラ音がする。
「今日の活動資金じゃ。これで買えばいいじゃろう」
「……結構入ってるんですけど。いいの?」
「お祝いみたいなものじゃ。それとも要らんのか?」
「要ります。そして一生ついていきます!」
俺は思わずミリア様に抱きついて賛辞を送る。
あとドサクサに紛れて毛をモフモフさせて貰った。
「バフォッ!? 大げさなやつじゃのう」
アームドガンナー 10000Gのところを2000Gで購入した。
8割引とか、どんだけ売れなかったんだよ。
他にも店の中は見てまわったが、日用品は基本的に揃っているし、欲しい物は無かったので、貰ったお金でみんなに色々買ってあげた。
ブリジットには魔力の篭った指輪(意味深)、マキアには銀の腕輪、シェリルさんには新しい蹄鉄、リルには髪飾り、マルチダとゴブリン四人には新しい服、コルルには最新式の銛。
それでもまだ皮袋の中身は5分の3くらい残っている。
あ、アームドガンナーは明日注文した品と一緒に届くそうです。
「次どこ行く!? 次どこ行く!?」
リルが俺の頭に乗って急かしてきた。
店の中を見るのに飽きたのだろうか。
「次はどこに行こうかな〜っと」
もちろん全員ついてくるけどね。
右腕に抱きつくブリジット。左腕に自分の腕を絡めるマキア。
俺の背中に抱きつくシェリルさん。前の方に抱きつくマルチダ。
身動きがとれません。
そしてマルチダとシェリルさんの爆乳が当たって主にマイサンがちょっとやばい事に。
「あれ、ミリア様は? あとゴブリン四人もいないし」
「帰りましたよ」
「パルちゃん達はー、私にー、頑張れってー」
答えたのはブリジットとマルチダ。
あ、この状況に付き合うのが面倒になって帰りやがったなあの五人。
そして顔を赤らめながら俺の右足に抱きついてきたコルル。
何だか君が分からなくなりそうだよ。
説得の末、みんなに離れてもらうことに成功した。
その時、コルルが悲しそうな顔をしてたのが頭から離れない。
何かごめん。
◆
「占い師?」
「はい、と〜ってもよく当たるって評判なんです〜。もしかしたらヒロさんの知りたいことも分かるかもしれませんよ〜」
シェリルさんの提案でその占い師とやらに占ってもらうことになった。
占いなんて眉唾もの……なんて思っているが、バカにはできない。何せこの世界には魔法がある。
もしかしたら手掛かりくらい掴めるかもしれない。
そう思いながら辿り着いたのは人が二人、頑張れば三人くらい入れそうなテント。
それに周りには人っ子一人いない。
これはおかしい。
「評判の割には人がいないな……」
マキアも俺と同じ考えだったようだ。
「あれれ? いつも行列が出来てるんですけど〜」
いつもは違うんですか。
とりあえず入ってみよう。
「誰もいない?」
占いをするためのテーブルの上には水晶等の小道具はなく、代わりに場所に合わない大きな宝箱が置いてあった。それだけだ。
とりあえず宝箱を開けてみようかな。
「じゃーん! お宝だと思った? 残念、ミミックのポポロちゃんd」
聞き終わる前に回れ右してテントを出た。
何か後ろでギャーギャー言ってるような気がするが、それはきっと幻聴だ。
シェリルさんは俺が直ぐに出てきたことに首を傾げている。
「どうでした〜?」
「ごめん。全く参考にならなかった」
「ちょっと待ってよー!!」
テントから箱入り娘が出てきた。
箱入り娘っていうのは大事に育てられている女の子のことをいうけど、この子は文字通り箱に入っていてとっても動き辛そうだ。箱から出ればいいのに。
「何でリアクションしてくれないのさ!? 泣くよ? あたし泣いちゃうよ?」
「泣けばいいじゃないか。女の武器は涙って言うし」
「ビェェ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!! 青い空のバッキャローーー!!」
本当に泣き始めた。
まさか本当に泣き始めるとは思わなかった。
そして一頻り泣いた後、箱の中に閉じこもった。
「何でミミックがこんな所に?」
「ミミックって宝箱に化けてるアレだろ?」
即死の呪文とか硬さとか体力とかで結構やば目の魔物だよね。
主に嫌な思い出しかないのですよ。
俺は宝箱の蓋をドアをノックするように叩いてみた。
「……何?」
涙目のミミックが顔だけ出してきた。
「そこの店の占い師ってお前?」
「ううん、あたしはただの弟子。お師匠様は魔界に帰ってる」
「そのお師匠様はいつ頃帰ってくるか分かる?」
「さあ? 「しばらく帰ってこれないから店番しといて」って言われただけだから、あたしもいつ帰ってくるかわからない」
もしかして人がいないのはそのお師匠様がいないせいかも。というか絶対そうだ。
占いもあんまり宛てに出来無そうだな。
「バイバーイ!」
ミミックと別れて、また町中の散策に出かけた。
今度はどこに行こうかな?
そういえばもう昼時だし、昼食にするのもいいかも。
考え事していたら誰かにぶつかってしまった。
「おっとごめんよ」
その子は急いでいたようで走り去ってしまった。
というか急ぎすぎでしょ。あんなに速く走ってたら、また誰かにぶつかるんじゃないか。
「今のって……ヒロさん、お金は大丈夫ですか?」
「ん? まだ相当合った……ない!!」
腰に括り付けておいた皮袋が無くなっている。
それだけじゃない。他の荷物も消えていた。
もしかしてさっきのやつがスッていったのか!?
「今のはラージマウスか」
「ラージマウス? 今のも魔物なのか?」
「はい、狡賢くて食料を盗んで行ったりするんです。もしかしたら食料と間違えて盗んでいったのかも」
鼠小僧みたいなやつだな。
魔物だし女の子だと思うけど。
こうして俺たちとラージマウスの追いかけっこが始まった。
俺は剣を振る。剣など実際に振ったことはないから以前テレビで見たのを見よう見真似でやっているだけだが、それだけでも筋力はつくだろう。弱肉強食(この世界では別の意味で取って喰われそうだ)、生き残るためには力をつけなくては。
目標はとりあえず三日坊主にならないこと。
「ヒロ、朝から精が出るな」
気がつけばマキアが見学している。
いつからいたんだろう。
「どれ、私が見てやろう」
「あ、いいの? 我流でやるのは無理があったから助かるよ」
〜一時間後〜
「ゲホッ、ゴホッ……ぜえ……ぜえ……」
俺は一時間前の自分の不用意な一言を軽く後悔している。
マキアは全く容赦しなかった。鉄製の剣を一時間休み無しで振り回すのはキツイ。
腕がプルプルしている。足腰もちょっとやばい。
立っているのも億劫になり仰向けに寝転んだ。
「筋は悪くないんだが……如何せん体力が問題だな。これからもビシバシ鍛えてやろう(……夜のほうも頑張って貰わないと)」
ある程度鍛えてたつもりだったけど、まだまだ甘かったな。
これから長旅も増えてきそうだし、体力作りを徹底的に頑張ろう。
そしてちょっと身の危険を感じたのは何故だ?
「そろそろ朝食ですよ〜ってヒロさん、大丈夫ですか?」
ブリジットが心配そうに見てきた。
そうか、もう朝飯か。
とりあえず水を一杯持ってきてもらおうか。
◆
今日の朝食は昨日食べられなかったサンドイッチを作って貰った。
サンドイッチも美味いが、この牛乳もまろやかでコクがあり美味い。
さっきまでの疲れが吹き飛んでしまった。
その様子をシェリルさんがニコニコしながら眺めている。
「ヒロ。お主は今日は休め」
朝飯を食べている最中にミリア様がそんなことを言ってきた。
周りもその言葉にピクリと反応する。
「……いきなり休めと言われても」
「たった二日でこれだけのメンバーが揃っておる。別に急ぐ必要もないじゃろうて。……そうじゃ、町にでも行って遊んできたらどうじゃ?」
急いだからって見つかるようなモンでもないだろうし。
あんまりハイペースでやっても持たないだろう。ガス抜きも必要か。
「だ、だったら!」
ミリア様との会話にブリジットが顔を赤くして割り込んでくる。
「私と行きませんか? 案内も出来ますし」
自慢じゃないが、俺は結構迷子になり易い。土地勘の無い所ならなお更だ。
この申し出はありがたいけど。
「ヒロッ! 私と一緒に行こう。剣もある事だし防具でも見繕ってやる!」
「あ〜ん、私もヒロさんと一緒に遊びに行きたいです〜!」
「あそぼ! あそぼ!」
マキア、シェリル、リルに誘われる。
ちなみにリルは俺の頭の上が気に入ったらしく、よく乗っかって昼寝している。
「あー先越されたー」
マルチダはテーブルの上でうな垂れている。
そんなマルチダを部下四人は励ましている。
そしてコルルは水が入ってる壺から顔を出してこちらをじっと見ている。
何か言いたげだ。
「わたしも……ヒロと遊びたい……」
何このカオス。
あれだ。ちょっと前までこんなに女性と関わることなんて無かったのに。
あれか? モテ期か?
俺、近いうちに死んだりしないよね?
「ふ〜む。ちょっと見ないうちに……やるではないか」
「私が最初に誘ったのに……一番最初に好きになったのに……」
ミリア様は面白そうな顔をしているが、ブリジットは悲壮感漂う顔をしている。
何かブリジットが可哀想になってきた。
結局全員で遊びに行くことになった。
ミリア様も町に用事があるとの事でギルドはもぬけの空になる。
勿論戸締りはしていった。
〜トラカパの町〜
「おい、アレ見ろよ」
「うわっ、スゲー!」
「てか、あいつ誰?」
「MO☆GE☆RO」
「URYYYYYY!」
「ウホッ! いい男」
めっちゃ注目されている。
当たり前か、俺を含めて計13人。注目されないほうがおかしい。
嫉妬の目で見るもの、羨望の目で見るもの、好奇の目で見るものと様々だ。
そして後半何だ!? 俺はノーマルだからな!
トラカパ町は人で大賑わい。
これでも町としては小規模だそうで、いつか大きな町にも行ってみたいものだ。
人だけでなく魔物も含まれていて、武器を持っているもの、商いをしているもの、様々だ。
あと、行く途中で男をナンパして路地裏に連れて行った魔物も見かけた。
これは別にいいか。
ミリア様について行ってたどり着いたのは『雑貨屋 伊予』と看板に書かれている大きな店。
まだ朝だからか人の入りは少ない。
「わしの目的地はここじゃが、お主はどうする?」
俺は興味があったので入ってみることにした。
店内は広く、武器、防具、薬品、衣類、道具、その他諸々沢山置いてある。
「いらっしゃ〜い。あ、ミリア様、お久しぶりです! それとこの辺では見かけん人やね」
関西弁口調の狸少女がそこにいた。
狸少女はすぐに隣にいた俺に目を向ける。
他のみんなは店の商品を眺めていた。
「こやつは最近この辺に来ての、一緒にギルドを立ち上げておるところじゃ。メンバーも増えてきたところじゃし、物資も足りなくなってここに買いに来たのじゃ」
ミリア様は何かが書かれた紙を狸少女に渡す。
狸少女はそれをじっと見て
「はい、承ります。お届けは明日の夕方頃になりますが、よろしいでっしゃろか?」
「相変わらず早いの。代金は振り込んでおくぞ」
「まいどありがとうございます」
俺も商品を見てみることにした。
これは……香水かな? ビンが何か怪しいから変な薬品かもしれない。
こっちは布? 手触りが良いな。シルクだろうか?
「お客さん。何ぞお探しやろか?」
いつの間にやら狸少女が俺の隣に立っている。
全く気がつかなかったな。
「申し遅れました。ここで店長やっとります伊予いいます。以後よろしゅう」
「ああ、どうも。御上宥、みんなからはヒロって呼ばれてます」
「何かご希望とかありますか? 基本何でも置いてありまっせ」
何でも? 何でもって言ったか?
「じゃあ異世界に行けるような道具は?」
「それは……流石に」
伊予さんは汗を垂らしながら目線を逸らす。
やっぱり無いか。言ってみただけだし。
というか売ってたらミリア様が教えてくれるだろうし。
「何これ?」
俺は、ふとゴツイガントレットに目を落とした。
全体的に銀色で、拳の部分はトゲつきのメリケンサックのようになっており、右横には銃口がついている男心がくすぐられそうな兵器だ。
「あー、アームドガンナーやな」
へー、そんな名前なんだ。格好いいじゃないか。
持ってみると結構重い。
「前に客が売ってきたのを買いとったんやけど、それからめっきり買い手が現へんのですよ」
「何で?」
「これ、銃弾をつくるのに装備したものの魔力を使うんですよ。それにガントレットとして使うにも重過ぎますし。だったら普通に魔法使ったほうが早かったり、剣で切ったが早かったり。……良かったら買います? お安くしときますよ」
う〜ん、どうしようかな。
何か運命を感じる。だけど金なんて持ってないし。
そう思ってたらミリア様にずっしり重い皮袋を渡された。
振るとジャラジャラ音がする。
「今日の活動資金じゃ。これで買えばいいじゃろう」
「……結構入ってるんですけど。いいの?」
「お祝いみたいなものじゃ。それとも要らんのか?」
「要ります。そして一生ついていきます!」
俺は思わずミリア様に抱きついて賛辞を送る。
あとドサクサに紛れて毛をモフモフさせて貰った。
「バフォッ!? 大げさなやつじゃのう」
アームドガンナー 10000Gのところを2000Gで購入した。
8割引とか、どんだけ売れなかったんだよ。
他にも店の中は見てまわったが、日用品は基本的に揃っているし、欲しい物は無かったので、貰ったお金でみんなに色々買ってあげた。
ブリジットには魔力の篭った指輪(意味深)、マキアには銀の腕輪、シェリルさんには新しい蹄鉄、リルには髪飾り、マルチダとゴブリン四人には新しい服、コルルには最新式の銛。
それでもまだ皮袋の中身は5分の3くらい残っている。
あ、アームドガンナーは明日注文した品と一緒に届くそうです。
「次どこ行く!? 次どこ行く!?」
リルが俺の頭に乗って急かしてきた。
店の中を見るのに飽きたのだろうか。
「次はどこに行こうかな〜っと」
もちろん全員ついてくるけどね。
右腕に抱きつくブリジット。左腕に自分の腕を絡めるマキア。
俺の背中に抱きつくシェリルさん。前の方に抱きつくマルチダ。
身動きがとれません。
そしてマルチダとシェリルさんの爆乳が当たって主にマイサンがちょっとやばい事に。
「あれ、ミリア様は? あとゴブリン四人もいないし」
「帰りましたよ」
「パルちゃん達はー、私にー、頑張れってー」
答えたのはブリジットとマルチダ。
あ、この状況に付き合うのが面倒になって帰りやがったなあの五人。
そして顔を赤らめながら俺の右足に抱きついてきたコルル。
何だか君が分からなくなりそうだよ。
説得の末、みんなに離れてもらうことに成功した。
その時、コルルが悲しそうな顔をしてたのが頭から離れない。
何かごめん。
◆
「占い師?」
「はい、と〜ってもよく当たるって評判なんです〜。もしかしたらヒロさんの知りたいことも分かるかもしれませんよ〜」
シェリルさんの提案でその占い師とやらに占ってもらうことになった。
占いなんて眉唾もの……なんて思っているが、バカにはできない。何せこの世界には魔法がある。
もしかしたら手掛かりくらい掴めるかもしれない。
そう思いながら辿り着いたのは人が二人、頑張れば三人くらい入れそうなテント。
それに周りには人っ子一人いない。
これはおかしい。
「評判の割には人がいないな……」
マキアも俺と同じ考えだったようだ。
「あれれ? いつも行列が出来てるんですけど〜」
いつもは違うんですか。
とりあえず入ってみよう。
「誰もいない?」
占いをするためのテーブルの上には水晶等の小道具はなく、代わりに場所に合わない大きな宝箱が置いてあった。それだけだ。
とりあえず宝箱を開けてみようかな。
「じゃーん! お宝だと思った? 残念、ミミックのポポロちゃんd」
聞き終わる前に回れ右してテントを出た。
何か後ろでギャーギャー言ってるような気がするが、それはきっと幻聴だ。
シェリルさんは俺が直ぐに出てきたことに首を傾げている。
「どうでした〜?」
「ごめん。全く参考にならなかった」
「ちょっと待ってよー!!」
テントから箱入り娘が出てきた。
箱入り娘っていうのは大事に育てられている女の子のことをいうけど、この子は文字通り箱に入っていてとっても動き辛そうだ。箱から出ればいいのに。
「何でリアクションしてくれないのさ!? 泣くよ? あたし泣いちゃうよ?」
「泣けばいいじゃないか。女の武器は涙って言うし」
「ビェェ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!! 青い空のバッキャローーー!!」
本当に泣き始めた。
まさか本当に泣き始めるとは思わなかった。
そして一頻り泣いた後、箱の中に閉じこもった。
「何でミミックがこんな所に?」
「ミミックって宝箱に化けてるアレだろ?」
即死の呪文とか硬さとか体力とかで結構やば目の魔物だよね。
主に嫌な思い出しかないのですよ。
俺は宝箱の蓋をドアをノックするように叩いてみた。
「……何?」
涙目のミミックが顔だけ出してきた。
「そこの店の占い師ってお前?」
「ううん、あたしはただの弟子。お師匠様は魔界に帰ってる」
「そのお師匠様はいつ頃帰ってくるか分かる?」
「さあ? 「しばらく帰ってこれないから店番しといて」って言われただけだから、あたしもいつ帰ってくるかわからない」
もしかして人がいないのはそのお師匠様がいないせいかも。というか絶対そうだ。
占いもあんまり宛てに出来無そうだな。
「バイバーイ!」
ミミックと別れて、また町中の散策に出かけた。
今度はどこに行こうかな?
そういえばもう昼時だし、昼食にするのもいいかも。
考え事していたら誰かにぶつかってしまった。
「おっとごめんよ」
その子は急いでいたようで走り去ってしまった。
というか急ぎすぎでしょ。あんなに速く走ってたら、また誰かにぶつかるんじゃないか。
「今のって……ヒロさん、お金は大丈夫ですか?」
「ん? まだ相当合った……ない!!」
腰に括り付けておいた皮袋が無くなっている。
それだけじゃない。他の荷物も消えていた。
もしかしてさっきのやつがスッていったのか!?
「今のはラージマウスか」
「ラージマウス? 今のも魔物なのか?」
「はい、狡賢くて食料を盗んで行ったりするんです。もしかしたら食料と間違えて盗んでいったのかも」
鼠小僧みたいなやつだな。
魔物だし女の子だと思うけど。
こうして俺たちとラージマウスの追いかけっこが始まった。
12/08/30 20:20更新 / BBQ
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