連載小説
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前編 出会い
今月の“あの機体にロックオン”は反魔物国家群が航空技術の粋を凝らせて作り上げた超音速戦略爆撃機XB-70ヴァルキリーだ。本雑誌の読者諸兄であれば一度は耳にしたことがあるかと思われるこの機体は当時のより速く、より高く、より遠くを体現した爆撃機であり、その性能はオーパーツとも言えるものだった。しかし、この空前絶後の性能を誇る爆撃機は軍官僚のパワーゲームに翻弄され続け、最後の試験飛行で消息を絶つという不遇の一生を送ることになった。国境と機密の壁で未だ判明していない部分もたくさんあるが、編集部が集められるだけ集めた資料を元にこの爆撃機を紹介していこう。

さて、飛行機のおさらいも兼ねてヴァルキリーの登場背景を紹介しよう。第十三紀1903年にレフト兄弟が作り上げた飛行機により、人は長年の夢であった高い操縦性を持つ飛行方法の完成に大きく近づいた。しかし、誕生からまだ間もない飛行機は魔物との戦闘にとても耐えられる代物でなかった。当時の魔王軍所属の魔物たちは飛行機とパイロットを指して「手の込んだ婿入り」とか「空飛ぶお婿さん(候補)」などと呼び、一風変わったカモ扱いしていた。このまま消えるかに見えた飛行機だったが、熱烈で有能な航空主義者たちの手によりなんとか生き延びることに成功する。そして、飛行機そのものとそれを支える基盤のたゆまぬ改良により飛行機は魔王軍相手にも有効な兵器へと進化していった。そのかいあってカモ扱いしていた魔王軍ももはや飛行機を軽視できなくなり、飛行機の発展に邁進しだした。こうして飛行機は現在では考えられない速度で進化し始めた。速度、到達高度、航続距離、搭載量などの最高記録が毎年のように塗り替えられた。やがて限界が見えてきたかにみえた進化はジェットエンジンの実用化により再び加速しだした。人も魔物も音を置き去りにし、目視できない高度を悠然と飛べるようになったのである。
 さて、このころに今回の特集に欠かせないものがもうひとつ登場する。連鎖式魔力反応爆弾である。細かな原理は紙面の都合で省くが、連鎖式魔力反応爆弾は大気中の魔物の魔力(闇の元素)を天界の魔力(光の元素)と反応させることでエネルギーに変換し、反応エリア内を熱と爆風で徹底的に破壊する大量破壊兵器である。読者諸兄もご存じのとおり、この兵器は1952年にエルゲラブタウンの戦いに投入された。投入された新型爆弾は開発者の意図どおり作動し、危害半径内に破滅的な結果をもたらした。闇の元素と光の元素の反応により元素量が極端に減少した大地は塩の地と化し、反応エリア周辺や立ち入ったあらゆる生物に悪影響を与えた。この暴挙に魔王は直ちに反応し、今後魔力反応弾が用いられたなら、魔王夫妻・高位のリリム・ダークマターなどの空間転移による無差別魔界化を行うと宣言。魔物および反魔物国家軍は終末に最も近い場所で奇妙なこう着状態に入ることになった。
 このこう着状態を打破するために、反魔物国家群が出した結論は最初の一撃で魔王を抹殺することであった。魔王を抹殺すれば魔王と魔物のネットワークが崩壊し魔物はかつての姿に戻り反魔物国家群に攻め込むことすらままならなくなるだろうと予測されたからである。しかも魔王は最も魔力の充満している王魔界に居を構えており、極大出力の魔力反応弾を用いれば魔物の中枢世界もろとも魔王を抹殺できると見込まれた。このことは魔物側も予測していると思われていたので、魔力反応弾を魔王に届ける機体の要求性能は過酷を極めた。魔王軍の防空戦闘機や地対空ミサイルが到達できない高度をそれらが追い付けない速度でしかも20t近い反応弾を搭載して飛ぶ必要があったからである。開発は難航を極め、障害を乗り越えるため膨大な資金と最新の機材・技術が惜しげもなく投入された。しかし、あまりのコスト高のため量産しようとすれば、空軍のみならず他の軍の予算を食いつぶす必要があった。これに対する他の軍の反発は強烈であり、熾烈な論争と予算の奪い合いが生じた。ここで発生した論争の経過は興味深いものであるが、本誌の趣旨からはずれるので割愛する。そして数年に亘る暗闘の結果、極少数の試験機を製造し量産はしないという妥協がなされた。こうして構想から10年を経て、ついに究極の爆撃機が完成したのであった。XB-70ヴァルキリーの誕生である。


1964年 パームディール国営軍需工廠
「おお……。」
空軍中佐アルヴィン・ホワイトが発した言葉はそれだけだった。初めて対面した新型爆撃機はこれまでの爆撃機の常識を覆すものだった。異様に長い機首、巨大なデルタ翼とカナード、純白の機体、そして6基の巨大なエンジン。彼はこの機体の持つ能力を瞬時に悟った。そして、その存在意義も。
「どうだね、この機体は。」
「……随分速そうですな。」
「計画ではマッハ3を出すそうだ。」
「ほう。ところでこの機体の名前は?」
「XB-70ヴァルキリーだ。」
「戦乙女か、まさしくですな。」
「付いてきたまえ、副操縦士を紹介しておこう。」
上官に連れられブリーフィングルームに入った中佐を出迎えたのは戦略空軍士官用のジャケットを羽織った美女だった。ただ、纏っている雰囲気に甘さはなく、そのせいか見事な金髪碧眼もどこか非人間的な物にみえてしまう。
「紹介しよう。君の相棒となるグローリア・クロス少佐だ。」
「はじめまして、中佐。グローリア・クロス少佐です。あの新型機の副操縦士を拝命しました。」
声は凛としたやや低めで、雰囲気や見た目に妙に合致している。
「はじめまして、クロス少佐。アルヴィン・ホワイト空軍中佐だ。」
名乗り終えた後、中佐は早速疑問を口にすることにした。
「ところで、少佐。今のは教団の武装隊の敬礼のようだったが。」
「はい、中佐。私は武装隊から戦略空軍に出向しています。階級も正式には大隊指揮官となります。」
「教団の士官がなぜここに。」
「中佐、私から説明しよう。そもそもヴァルキリーの開発には教団も資金援助の形で一枚噛んでいる。何物も追いつけないヴァルキリーにかける教団の期待は大きくてね。言ってみれば強力なスポンサーだ。故に教団関係者を送ってきたわけだ。」
「はぁ。」
「飛ぶこと以外興味無いという顔をしているな。だが、ここからは君にも関係のある話だ。」
お偉いさんのパワーバランスのお話かと思いきや自分にも関係あると聞き、アルヴィンはやや面喰った。
「さっきも言ったが、教団があの機体にかける期待は大きいし、その分投資もしてきた。だから不安要素を少しでも減らしたがっている。」
「はい。」
「彼女の出向はそのためだ。具体的に言えば、君の護衛と監視だ。」
「は?」
「最新鋭の超音速爆撃機のパイロットたる君が魔物の手に渡れば、我々は魔物への切り札を失ってしまう。そこで、彼女が君の護衛兼監視として魔物から君を守る。無論、任務中だけでなく非番も、だ。」
「教団の士官とはいえ女性に守られるほど落ちぶれてはいません。」
「ふむ、少佐、中佐にアレを見せてやりなさい。」
「はい。」
クロス少佐が頷くと、背中から純白の翼が生え雰囲気も一層犯しがたい神聖なものに変わった。
「まさか。」
「はい、私はヴァルキリーです。」
「どうかね、中佐。」
「なんてこった。」
アルヴィン・ホワイト空軍中佐とヴァルキリー・グローリア・クロスはこうして出会った。
15/10/10 12:25更新 / 重航空巡洋艦
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■作者メッセージ
重航空巡洋艦です。

あやうく前編がクロビネガ世界航空機発達史になるところでしたが、
なんとか2000字以内におさまりました。
いやぁ、良かった。

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