傍らに、犬を置いて。
魔術師という生業に就く者は、時に深い失望に襲われる。
なまじ魔法によって他人に出来ないことが出来るばかりに、己の力量を超えた事態を前にして打ちのめされるのだ。
正に息絶える寸前の愛犬を前に、僕は天を仰いだ。自分に叶う限りの手立ては尽くした。
回復魔法、ポーション、祈祷。だが、もう限界だ。寿命には逆らいきれない。
命そのものを贖う術もあるとは聞く。しかし、独り立ちしたばかりの駆け出し魔術師には
到底、無理な相談だ。
「モノ・・・・・・」
目を開けずゆっくり呼吸する彼を撫でる。羊飼いの相棒として名高い犬種のモノトーンの毛皮は、老いのためにバサバサになっていた。
親が仔犬を連れて来たのは４，５歳のころだった。以来十数年、兄弟のように育った。人懐こい弟のようなモノ。しかし、自分が魔法の修練を行っていた数年は、犬にとっては長すぎたのだ。こんな時、獣でありながら途方もない生命力を持つという魔界獣が羨ましくなる。
-------魔界獣。ぼやけた頭にアイデアが生まれた。急いで薬棚に向かい、目当ての小瓶を手に取る。それはしばらく前、東方から来たという狸の獣人から買ったものだった。魔界のブドウ酒、と商人は言っていたように記憶している。曰く、一瓶でも数年分の稼ぎを飛ばすほどのとびきりの上物らしいが、特別に量り売りに応じるとのことだった。（それでも、大枚はたいて買えたのは大匙一杯にも満たなかったが、貴重な魔界の産物の魅力には敵わなかった）
月明かりに透かした瓶の中身は、禍々しいほどの魔力を帯びていた。人間の魔術師からしてみれば、これを口にするなど狂気の沙汰である。魔界ではこれが飲料だというのだから、まったく人智を超えている。
しかし僕は、これからその狂気の沙汰に手を染める。これを薬として投与すれば、モノを「魔界獣のようなもの」に出来るかもしれない。上手くいけば、今より遥かに強い生命を得られるはずだ。しかし失敗したら…その時にはモノの命は尽きるだろう。
モノの前に戻ると、俄かに躊躇いが首をもたげた。僕は目を閉じる。脳裏に、モノと過ごした日々が去来した。いつだって賢く、遊び好きのモノ。失いたくない兄弟。
「モノ、僕は最後の賭けをやってみるよ。力を貸してくれ。」
全ての処置を終え、モノの横に寝そべった。ひとまず経過を見る。
５分・・・・変化なし。
３０分・・・変化なし。
１時間・・・変化なし。
成功か失敗か、煮え切らない時間が続く。ただ、相変わらずゆっくりと呼吸をしているだけだ。どうか、どうか。祈りながら夜は更けた。
「おーい、にいちゃん、起きてよーっ！」
跳ね起きる。見れば、辺りはもう明るい。あろうことか、居眠りに落ちてしまったのだ。しまった、モノは、どうなった！？
「にいちゃん、こっち。」
頭上から声が降る。背筋に緊張が走り、反射的に見上げる。いったい誰だ？
「おはよ、いい朝だね。」
怒鳴りつけようとした声が引っ込んだ。僕の前に立っているのは、・・・人間ではない。
白い毛皮に薄く覆われた体。黒い髪。頭上に動く耳。
これは「獣人」だ。なぜ、そんな奴がにっこり笑って僕の前に立っている？
「お前は・・・一体・・・？」
喉からはかすれた声しか出なかった。
「えーっ、分かんない？ひどいや。ボクだよ、ボク。モノだよっ」
獣人は、馴れ馴れしい口調で僕の愛犬を自称した。余りにも突飛な言い分だ。しかし、その様子は自然なものでもあった。
「昨日さ、ボクに何かお薬くれたでしょ、そしたらさ、だんだん気分が良くなってさ、気が付いたらこんな風になってたんだ。」
二の句を継ぎかねている僕に、興奮気味に話す獣人。
--------お薬。まさか。
魔術師の直感が一つの答えを導いた。モノは、「魔界獣のようなもの」ではなく、「魔物」になってしまったのではあるまいか。
「にいちゃんはすごいねぇ。ボクもう死ぬんだと思ってたよ。」
両手を頬に当て、うっとりと言う。
いや、しかし。
「ちょっと待て。モノは・・・オスだったはずだぞ！？」
くびれた腰。毛皮の上からでもそれと分かる胸のふくらみ。どう見ても獣人の姿は女性だった。
「ねーっ、びっくりだよね。チンチンも無くなっちゃってさ、股のあたりがスースーするんだ。」
賭けはどうやら、あらぬ方向に事態を動かしたらしい。
それから数日、僕は資料集めに没頭した。母校の先生に問い合わせたいのは山々だったが、魔物を生み出してしまった事が人に知れるのはあらぬ誤解を生みかねない。全て、一人でやらねばならなかった。
その結果。モノはどうやら、「クー・シー」という魔物に変容した可能性が最も高いと考えられることが分かった。猫が変化する「ケット・シー」と対のような感じだろう。性転換の件については残念ながら確たる事は分からなかったが、現在の魔物は全て女性形であることと、稀ながら人間の男性が魔物と化す例が確認されていることなどから、恐らく類似のケースであろうと思われた。
「ねぇにいちゃん、そろっと寝ようよ。」
ベッドの上に陣取ったモノが呼びかける。あの日以来、モノは一緒の寝床で眠っている。人型を得てから、モノはほとんど人間と同じ生活様式を取っていた。もともと水遊びを好んでいたせいか、特に入浴が気に入っているようだ。
「ああ、もう遅いな。」
明かりを消して、横に潜り込む。隣からは石鹸の香りがした。
「おやすみ、にいちゃん」
「おやすみ」
しかし、僕は寝付けない。ほどなく寝息を立てるモノを横目に見る。確かに彼、いや、いまや彼女は、犬なのだ。だがその姿はごく人間に近い。結果、ほぼ全裸の女性が隣にいるような事態になってしまっている。かつて仔犬だったモノと添い寝した時とは違う感情があった。
--------「違う感情」？
（僕は、何考えてるんだ。この子は、モノで、犬なんだぞ！）
白状しよう。僕は、モノに劣情を抱いてしまっていた。それを自覚し、男の性に囚われた自分に愕然とした。こんな感情は今すぐ放棄しなくてはならない。
「・・・・ん〰・・・・・・」
こちらにモノが寝返りを打つ。腕に、乳房が押し付けられた。柔らかな感触に思わず身震いする。恐る恐る見ると、膨らみが２つ、目の前にあった。
それは無意識なのだろうか？僕は指を胸に当ててしまっていた。押せば沈み、反発する弾力。母を除けば一度として触れることのなかった部分に、触れた。生唾が溢れた。一瞬前の決意にヒビが入る音がした。
僕の手は熱に浮かされたように、モノの胸を掌で包んだ。その感触は、磁石のように手を張り付けた。暖かく、柔らかく。脂肪の塊がなぜ、こうまで心地よいのだろう？
ところが、幸せな時間は僅かだった。
「にいちゃ〰ん？」
我に返る。ニヤリと笑うモノの顔が僕をのぞき込んでいた。一気に背筋が凍る。
「すっすまん！ほんの、そう、好奇心だなんだ！忘れてくれ！」
思い切り寝返りを打ち、布団に潜り込む。
「もう、にいちゃんったら、むっつりスケベなんだから。ボクと交尾したいなら言ってくれればよかったのに。」
恐ろしい声が響いた。
明くる日、僕は安物のベッドを買った。寝床を分ければ、昨夜のような無様はもう起きないだろう。
当然、モノの機嫌はあまりよくなかった。犬は概して、主人との距離感が開くことを嫌うが、人型を得て、思考力が付いた分余計にそれが分かるのだろうか。
「にいちゃん、ボクのこと、嫌いになった？」
「いや、違う。断じて。」
それから日に日に、モノの様子が変わっていった。常に、僕のほうに視線を送っているのだ。それも、明らかに物欲しげな様子で。この目つきには覚えがあった。これは、発情したメス犬の視線だ。
一方の僕も、抜き差しならない事態に陥っていた。どうしたことか、モノと一緒にいるとそれだけで息が荒くなってしまう「症状」がでていた。音に聞く、魔物の誘惑というやつなのだろう。はっきり言ってしまえば、頭の中で本能がオスとしての行動を要求していた。目の前のメスを手に入れろ、と。このままではマズイ。何か対処を取らなくては・・・・・
ある夜のことだった。隣のベッドから呻き声が聞こえた。見れば、モノが布団にくるまり身悶えしている。
「モノ！どうした、具合が悪いのか？」
慌てて布団を引きはがすと、そこには。
「へぁ・・・にいちゃん・・・？」
両手の指で秘所をまさぐるモノの姿があった。期せず、痴態を暴いてしまった焦燥に僕の身は固まった。
「ねぇ・・・にいちゃん、交尾、あぅっ・・したいようぅ・・・お願い・・・」
喋りながらも、指は止まらない。じゅぶじゅぶと濡れた股が音を立てた。
モノは、犬なりに我慢を重ねていたのだ。ここで断っても、そのまま自慰を続けるだけだろう。しかし。
健気だ、可愛い、といった人間的な判断の以前に。僕の体は反応していた。下着の中では一物が暴れていた。どうやら、我慢比べはモノの勝ちのようだ。僕は、オス犬になることを決めた。
僕は無言で裸になると、布団を払い落としてモノに抱き着く。両手で乳房を鷲掴み、思い切り揉みしだいた。遠慮も気配りも無い愛撫。煮えたぎる脳裏で、自分の獣性に一抹の慄きを覚えたが、そんなことはもう、どうでも良かった。オス犬の仕事は、目の前のメス犬を犯すだけだ。おもむろに、股間を見る。ついさっきまで指でほぐされていた秘所は、ぱくぱくと呼吸と共にひくついていた。目当ては、間違えようがなかった。僕は一物をあてがうと、予告もなしに腰を突き上げた。
「きゃうんっ！！！」
モノが甲高い声をあげる。胸中にぞわり、と快感がこみ上げた。今まさに、メスを征服していると、本能が歓喜していた。僕は、夢中で腰を振った。
「きゃんっ・・わうっにいちゃ・・ボク・・これじゃ・・まるで女の子っだよぅ」
「まるで」？ 僕はギリギリまで一物を引き抜くと、一気に最奥まで突進した。モノは仰け反り、腰を痙攣させた。
「違うぞ、モノ。まるで、じゃない。今のお前は女の子、れっきとしたメスなんだ。」
激しくピストン運動を行いながら語り掛ける。オス犬になると決めた以上。目の前の相手はメスでしかないのだ。
「はっはっ・・はっ・・にいちゃん・・・」
股間にこみ上げるものを感じた。短い呼吸を繰り返すモノ。熱い膣肉の締め付けが強まった。
「・・・くっ・・・出すぞ・・・！」
腰を密着させ、僕は射精する。
「きてる・・・きてるよぅ・・にいちゃんの、いっぱい・・・」
モノの声は喜びに上ずっていた。
一度射精すると、幾らか僕の頭は冷静さを取り戻した。下には蕩けた顔のモノが居る。しかし、モノはまだ絶頂していなかった。僕は、自分だけが勝手に動いていた。今更な後悔がのしかかる。モノは僕の劣情を受け止めてくれた。だったら僕は、飼い主としてそれに報いてやる必要がある。
「モノ、ちょっとひっくり返って、腰を上げて。」
「え・・・・・・あ、うんっ！」
モノはすぐに僕の意図を理解し、ご褒美の予感に目を細めた。
腹ばいになり、両手で尻肉を広げるモノ。ピンク色の秘書からは混ざり合った愛液が零れ落ちた。淫らな光景に、僕の一物はふたたび立ち上がる。犬にはやはり、ドッグスタイルが一番だろう。
ゆっくりとモノの上に覆いかぶさると、今度は優しく、モノの中に一物を挿入した。
「くぅぅぅぅぅぅ・・・ん」
表情こそ見えないが、モノは明らかにさっきよりも深く感じている。僕は僕で、先ほどは分からなかった性器の感触を味わっていた。
膣内は熱くうねり、締め付けに強弱を与えて刺激的な快感を生み出していた。これも魔物の体がなせる技なのだろう。一度射精していなければ、またすぐに絶頂していたはずだ。
モノの尻を掴み、最奥を小突くように小刻みに腰を動かした。
にちゃっにちゃっにちゃっ・・・・・ぬち・・ぬちぬちぬち・・・・・
「あ♡あ♡あ♡・・・はっは・・ひゃふぅぅ♡」
言葉にならない声が漏れだし、肉球のついた手がシーツを握りしめた。しっぽがふさふさと揺れ、持ち主の喜びを表していた。そんな姿をずっと見ていたいような気がしたが、僕ももう２度目の限界が近づいていた。そろそろ時間切れだ。
「モノ、行くよ・・・！」
耳元で優しく声をかける。答えは返ってこなかったが、かすかに頷いたように見えた。
ストロークを少しだけ広げ、掻き揚げるように膣を犯す。どろどろの交接部からじゅぼじゅぼと淫猥な音が響いた。
「くっふっ・・・くぅぅぅぅぅぅぅぅぅん♡♡♡」
モノは布団に頭を埋め、くぐもった絶頂の声を発した。その控えめさとは裏腹に、持ち上げた腰がビクビクと盛大に震え、膣のうねりが激しくなった。僕はたまらず、２度目の精を放った。
交尾を終え、全裸で１つのベッドに横になった。モノは全身を時折びくんと震わせながら深い呼吸をしていた。
「にいちゃん、お帰り！ご飯できてるよ！」
あれ以来、モノは僕の家の家事の一切を仕切るようになっていった。犬種の性か、仕事をしていないとどうも落ち着かないらしい。エプロンを掛け、一日中せわしなく働いている。
「ボク特製、ローストビーフ！どう？」
流石に犬だけあって、肉への愛着は相当のものだ。今や、僕よりもずっと料理の腕前は上だと言えるだろう。
「ね、ね・・・おいしい？・・・」
腰をくねらせて感想を求める。こういう時は、発情のサインである。
「うん、良く出来ているよ。・・・あとでご褒美をあげようね。」
やったぁ、とそわそわしだした彼女を横目に、肉を噛みしめる。
かつての兄弟のような関係は失われてしまった。しかし、僕には断言できる。
たとえ魔物と化しても、犬は最高のパートナーである、と。
なまじ魔法によって他人に出来ないことが出来るばかりに、己の力量を超えた事態を前にして打ちのめされるのだ。
正に息絶える寸前の愛犬を前に、僕は天を仰いだ。自分に叶う限りの手立ては尽くした。
回復魔法、ポーション、祈祷。だが、もう限界だ。寿命には逆らいきれない。
命そのものを贖う術もあるとは聞く。しかし、独り立ちしたばかりの駆け出し魔術師には
到底、無理な相談だ。
「モノ・・・・・・」
目を開けずゆっくり呼吸する彼を撫でる。羊飼いの相棒として名高い犬種のモノトーンの毛皮は、老いのためにバサバサになっていた。
親が仔犬を連れて来たのは４，５歳のころだった。以来十数年、兄弟のように育った。人懐こい弟のようなモノ。しかし、自分が魔法の修練を行っていた数年は、犬にとっては長すぎたのだ。こんな時、獣でありながら途方もない生命力を持つという魔界獣が羨ましくなる。
-------魔界獣。ぼやけた頭にアイデアが生まれた。急いで薬棚に向かい、目当ての小瓶を手に取る。それはしばらく前、東方から来たという狸の獣人から買ったものだった。魔界のブドウ酒、と商人は言っていたように記憶している。曰く、一瓶でも数年分の稼ぎを飛ばすほどのとびきりの上物らしいが、特別に量り売りに応じるとのことだった。（それでも、大枚はたいて買えたのは大匙一杯にも満たなかったが、貴重な魔界の産物の魅力には敵わなかった）
月明かりに透かした瓶の中身は、禍々しいほどの魔力を帯びていた。人間の魔術師からしてみれば、これを口にするなど狂気の沙汰である。魔界ではこれが飲料だというのだから、まったく人智を超えている。
しかし僕は、これからその狂気の沙汰に手を染める。これを薬として投与すれば、モノを「魔界獣のようなもの」に出来るかもしれない。上手くいけば、今より遥かに強い生命を得られるはずだ。しかし失敗したら…その時にはモノの命は尽きるだろう。
モノの前に戻ると、俄かに躊躇いが首をもたげた。僕は目を閉じる。脳裏に、モノと過ごした日々が去来した。いつだって賢く、遊び好きのモノ。失いたくない兄弟。
「モノ、僕は最後の賭けをやってみるよ。力を貸してくれ。」
全ての処置を終え、モノの横に寝そべった。ひとまず経過を見る。
５分・・・・変化なし。
３０分・・・変化なし。
１時間・・・変化なし。
成功か失敗か、煮え切らない時間が続く。ただ、相変わらずゆっくりと呼吸をしているだけだ。どうか、どうか。祈りながら夜は更けた。
「おーい、にいちゃん、起きてよーっ！」
跳ね起きる。見れば、辺りはもう明るい。あろうことか、居眠りに落ちてしまったのだ。しまった、モノは、どうなった！？
「にいちゃん、こっち。」
頭上から声が降る。背筋に緊張が走り、反射的に見上げる。いったい誰だ？
「おはよ、いい朝だね。」
怒鳴りつけようとした声が引っ込んだ。僕の前に立っているのは、・・・人間ではない。
白い毛皮に薄く覆われた体。黒い髪。頭上に動く耳。
これは「獣人」だ。なぜ、そんな奴がにっこり笑って僕の前に立っている？
「お前は・・・一体・・・？」
喉からはかすれた声しか出なかった。
「えーっ、分かんない？ひどいや。ボクだよ、ボク。モノだよっ」
獣人は、馴れ馴れしい口調で僕の愛犬を自称した。余りにも突飛な言い分だ。しかし、その様子は自然なものでもあった。
「昨日さ、ボクに何かお薬くれたでしょ、そしたらさ、だんだん気分が良くなってさ、気が付いたらこんな風になってたんだ。」
二の句を継ぎかねている僕に、興奮気味に話す獣人。
--------お薬。まさか。
魔術師の直感が一つの答えを導いた。モノは、「魔界獣のようなもの」ではなく、「魔物」になってしまったのではあるまいか。
「にいちゃんはすごいねぇ。ボクもう死ぬんだと思ってたよ。」
両手を頬に当て、うっとりと言う。
いや、しかし。
「ちょっと待て。モノは・・・オスだったはずだぞ！？」
くびれた腰。毛皮の上からでもそれと分かる胸のふくらみ。どう見ても獣人の姿は女性だった。
「ねーっ、びっくりだよね。チンチンも無くなっちゃってさ、股のあたりがスースーするんだ。」
賭けはどうやら、あらぬ方向に事態を動かしたらしい。
それから数日、僕は資料集めに没頭した。母校の先生に問い合わせたいのは山々だったが、魔物を生み出してしまった事が人に知れるのはあらぬ誤解を生みかねない。全て、一人でやらねばならなかった。
その結果。モノはどうやら、「クー・シー」という魔物に変容した可能性が最も高いと考えられることが分かった。猫が変化する「ケット・シー」と対のような感じだろう。性転換の件については残念ながら確たる事は分からなかったが、現在の魔物は全て女性形であることと、稀ながら人間の男性が魔物と化す例が確認されていることなどから、恐らく類似のケースであろうと思われた。
「ねぇにいちゃん、そろっと寝ようよ。」
ベッドの上に陣取ったモノが呼びかける。あの日以来、モノは一緒の寝床で眠っている。人型を得てから、モノはほとんど人間と同じ生活様式を取っていた。もともと水遊びを好んでいたせいか、特に入浴が気に入っているようだ。
「ああ、もう遅いな。」
明かりを消して、横に潜り込む。隣からは石鹸の香りがした。
「おやすみ、にいちゃん」
「おやすみ」
しかし、僕は寝付けない。ほどなく寝息を立てるモノを横目に見る。確かに彼、いや、いまや彼女は、犬なのだ。だがその姿はごく人間に近い。結果、ほぼ全裸の女性が隣にいるような事態になってしまっている。かつて仔犬だったモノと添い寝した時とは違う感情があった。
--------「違う感情」？
（僕は、何考えてるんだ。この子は、モノで、犬なんだぞ！）
白状しよう。僕は、モノに劣情を抱いてしまっていた。それを自覚し、男の性に囚われた自分に愕然とした。こんな感情は今すぐ放棄しなくてはならない。
「・・・・ん〰・・・・・・」
こちらにモノが寝返りを打つ。腕に、乳房が押し付けられた。柔らかな感触に思わず身震いする。恐る恐る見ると、膨らみが２つ、目の前にあった。
それは無意識なのだろうか？僕は指を胸に当ててしまっていた。押せば沈み、反発する弾力。母を除けば一度として触れることのなかった部分に、触れた。生唾が溢れた。一瞬前の決意にヒビが入る音がした。
僕の手は熱に浮かされたように、モノの胸を掌で包んだ。その感触は、磁石のように手を張り付けた。暖かく、柔らかく。脂肪の塊がなぜ、こうまで心地よいのだろう？
ところが、幸せな時間は僅かだった。
「にいちゃ〰ん？」
我に返る。ニヤリと笑うモノの顔が僕をのぞき込んでいた。一気に背筋が凍る。
「すっすまん！ほんの、そう、好奇心だなんだ！忘れてくれ！」
思い切り寝返りを打ち、布団に潜り込む。
「もう、にいちゃんったら、むっつりスケベなんだから。ボクと交尾したいなら言ってくれればよかったのに。」
恐ろしい声が響いた。
明くる日、僕は安物のベッドを買った。寝床を分ければ、昨夜のような無様はもう起きないだろう。
当然、モノの機嫌はあまりよくなかった。犬は概して、主人との距離感が開くことを嫌うが、人型を得て、思考力が付いた分余計にそれが分かるのだろうか。
「にいちゃん、ボクのこと、嫌いになった？」
「いや、違う。断じて。」
それから日に日に、モノの様子が変わっていった。常に、僕のほうに視線を送っているのだ。それも、明らかに物欲しげな様子で。この目つきには覚えがあった。これは、発情したメス犬の視線だ。
一方の僕も、抜き差しならない事態に陥っていた。どうしたことか、モノと一緒にいるとそれだけで息が荒くなってしまう「症状」がでていた。音に聞く、魔物の誘惑というやつなのだろう。はっきり言ってしまえば、頭の中で本能がオスとしての行動を要求していた。目の前のメスを手に入れろ、と。このままではマズイ。何か対処を取らなくては・・・・・
ある夜のことだった。隣のベッドから呻き声が聞こえた。見れば、モノが布団にくるまり身悶えしている。
「モノ！どうした、具合が悪いのか？」
慌てて布団を引きはがすと、そこには。
「へぁ・・・にいちゃん・・・？」
両手の指で秘所をまさぐるモノの姿があった。期せず、痴態を暴いてしまった焦燥に僕の身は固まった。
「ねぇ・・・にいちゃん、交尾、あぅっ・・したいようぅ・・・お願い・・・」
喋りながらも、指は止まらない。じゅぶじゅぶと濡れた股が音を立てた。
モノは、犬なりに我慢を重ねていたのだ。ここで断っても、そのまま自慰を続けるだけだろう。しかし。
健気だ、可愛い、といった人間的な判断の以前に。僕の体は反応していた。下着の中では一物が暴れていた。どうやら、我慢比べはモノの勝ちのようだ。僕は、オス犬になることを決めた。
僕は無言で裸になると、布団を払い落としてモノに抱き着く。両手で乳房を鷲掴み、思い切り揉みしだいた。遠慮も気配りも無い愛撫。煮えたぎる脳裏で、自分の獣性に一抹の慄きを覚えたが、そんなことはもう、どうでも良かった。オス犬の仕事は、目の前のメス犬を犯すだけだ。おもむろに、股間を見る。ついさっきまで指でほぐされていた秘所は、ぱくぱくと呼吸と共にひくついていた。目当ては、間違えようがなかった。僕は一物をあてがうと、予告もなしに腰を突き上げた。
「きゃうんっ！！！」
モノが甲高い声をあげる。胸中にぞわり、と快感がこみ上げた。今まさに、メスを征服していると、本能が歓喜していた。僕は、夢中で腰を振った。
「きゃんっ・・わうっにいちゃ・・ボク・・これじゃ・・まるで女の子っだよぅ」
「まるで」？ 僕はギリギリまで一物を引き抜くと、一気に最奥まで突進した。モノは仰け反り、腰を痙攣させた。
「違うぞ、モノ。まるで、じゃない。今のお前は女の子、れっきとしたメスなんだ。」
激しくピストン運動を行いながら語り掛ける。オス犬になると決めた以上。目の前の相手はメスでしかないのだ。
「はっはっ・・はっ・・にいちゃん・・・」
股間にこみ上げるものを感じた。短い呼吸を繰り返すモノ。熱い膣肉の締め付けが強まった。
「・・・くっ・・・出すぞ・・・！」
腰を密着させ、僕は射精する。
「きてる・・・きてるよぅ・・にいちゃんの、いっぱい・・・」
モノの声は喜びに上ずっていた。
一度射精すると、幾らか僕の頭は冷静さを取り戻した。下には蕩けた顔のモノが居る。しかし、モノはまだ絶頂していなかった。僕は、自分だけが勝手に動いていた。今更な後悔がのしかかる。モノは僕の劣情を受け止めてくれた。だったら僕は、飼い主としてそれに報いてやる必要がある。
「モノ、ちょっとひっくり返って、腰を上げて。」
「え・・・・・・あ、うんっ！」
モノはすぐに僕の意図を理解し、ご褒美の予感に目を細めた。
腹ばいになり、両手で尻肉を広げるモノ。ピンク色の秘書からは混ざり合った愛液が零れ落ちた。淫らな光景に、僕の一物はふたたび立ち上がる。犬にはやはり、ドッグスタイルが一番だろう。
ゆっくりとモノの上に覆いかぶさると、今度は優しく、モノの中に一物を挿入した。
「くぅぅぅぅぅぅ・・・ん」
表情こそ見えないが、モノは明らかにさっきよりも深く感じている。僕は僕で、先ほどは分からなかった性器の感触を味わっていた。
膣内は熱くうねり、締め付けに強弱を与えて刺激的な快感を生み出していた。これも魔物の体がなせる技なのだろう。一度射精していなければ、またすぐに絶頂していたはずだ。
モノの尻を掴み、最奥を小突くように小刻みに腰を動かした。
にちゃっにちゃっにちゃっ・・・・・ぬち・・ぬちぬちぬち・・・・・
「あ♡あ♡あ♡・・・はっは・・ひゃふぅぅ♡」
言葉にならない声が漏れだし、肉球のついた手がシーツを握りしめた。しっぽがふさふさと揺れ、持ち主の喜びを表していた。そんな姿をずっと見ていたいような気がしたが、僕ももう２度目の限界が近づいていた。そろそろ時間切れだ。
「モノ、行くよ・・・！」
耳元で優しく声をかける。答えは返ってこなかったが、かすかに頷いたように見えた。
ストロークを少しだけ広げ、掻き揚げるように膣を犯す。どろどろの交接部からじゅぼじゅぼと淫猥な音が響いた。
「くっふっ・・・くぅぅぅぅぅぅぅぅぅん♡♡♡」
モノは布団に頭を埋め、くぐもった絶頂の声を発した。その控えめさとは裏腹に、持ち上げた腰がビクビクと盛大に震え、膣のうねりが激しくなった。僕はたまらず、２度目の精を放った。
交尾を終え、全裸で１つのベッドに横になった。モノは全身を時折びくんと震わせながら深い呼吸をしていた。
「にいちゃん、お帰り！ご飯できてるよ！」
あれ以来、モノは僕の家の家事の一切を仕切るようになっていった。犬種の性か、仕事をしていないとどうも落ち着かないらしい。エプロンを掛け、一日中せわしなく働いている。
「ボク特製、ローストビーフ！どう？」
流石に犬だけあって、肉への愛着は相当のものだ。今や、僕よりもずっと料理の腕前は上だと言えるだろう。
「ね、ね・・・おいしい？・・・」
腰をくねらせて感想を求める。こういう時は、発情のサインである。
「うん、良く出来ているよ。・・・あとでご褒美をあげようね。」
やったぁ、とそわそわしだした彼女を横目に、肉を噛みしめる。
かつての兄弟のような関係は失われてしまった。しかし、僕には断言できる。
たとえ魔物と化しても、犬は最高のパートナーである、と。
15/10/19 10:47更新 / ラッカシャ