アンデッドの盆踊り
今日は、盆踊りが有る。私は、市の広報誌のために取材をしなくてはならない。カメラとレコーダー、取材ノートの用意をする。そして、ノートに書いてあるスケジュールとインタビュー項目をチェックする。
私の隣では、妻が浴衣を着てはしゃいでいる。こちらは、遊びのために行くのだ。妻は、友人たちと一緒に行く約束をしている。
私は、妻の浴衣姿を見る。青地に赤い牡丹の花柄の浴衣だ。その浴衣は、妻の白銀の髪と合っている。
浴衣姿で踊る妻は優雅だろう。腹から内臓がずり落ちなければ。
私の暮らしている市は、現在「アンデッドシティ」として売り出している。ゾンビを初めとするアンデッド系の魔物娘を市民として迎え入れようと試みているのだ。ゾンビ好きの市長が音頭を取っている。
市は、アンデッド系の魔物娘に就職先を紹介し、住居の世話をしている。また彼女達に対して、交通機関を初めとする公共機関を利用するための優遇処置をしている。アンデッド専用の商品券の分配も行っている。そして、アンデッド系の魔物娘の起こした企業に対して、土地の取得や施設の整備、公共施設の利用に便宜をはかった。
この政策は、初めは市民の反発が起こった。特定の者を優遇すれば、当然のことながら反発される。まして人ならざる魔物娘、しかもゾンビなどを優遇しようと言うのだ。反発が出るのは当然だ。
だが、市長は断行した。全国の自治体が呆れる中、市長は政策を進めていく。結果から言えば、「アンデッドシティ」計画は成功した。アンデッド系の魔物娘と共に、彼女達の起こした企業が移転してきたからだ。
私達の市は、過疎と雇用の劣化、財政難に苦しんでいた。それがアンデッド達の企業により雇用が改善し、市町村法人税が増収したために財政が改善したのだ。そして、それらの企業は市に根付く施策を始めた。優遇処置をしなければ他の自治体や海外に移転すると恫喝する人間の企業とは対照的だ。
人間の常識から外れているアンデッド達を、市民は初め嫌悪した。だが、アンデッド達は友好的であり、温厚な者が多いことが分かり、市民達は徐々に受け入れていった。第一、アンデッド達を受け入れなければ、市は遠からず衰退し、破たんする事は市民達も分かっていた。
私の妻であるティサは、ゾンビだ。去年結婚した。出会ったきっかけは、車にひかれそうになった私をティサが助けてくれたことだ。広報誌のための取材が難航し、残業で疲れていたために車に気が付かなかった。気が付くと、目の前に車が迫っていた。
私はティサに突き飛ばされ、車にひかれずに済んだ。代わりにティサが車にひかれた。手足が不自然な方向に折れ曲がり、頭からは血が溢れ出していた。顔はつぶれていて、赤黒く染まっている。
私は愕然としながら、震える手で携帯電話をかけて救急車を呼び出そうとした。その時、赤黒い物体となった顔が持ち上がり、眼球を滴らせながら彼女の口の辺りが開いた。濁音混じりで意味は分からない。
彼女は軽く首を振ると、私の方に這いずりながら近づいてくる。私は携帯電話を手からすべり落とし、そのまま動くことも出来ずに彼女を見つめた。彼女は、私に触れそうになるほど近づく。そして指を血に浸し、道路に指を這わせる。
「けがは無いかな」そう血文字で書いてあった。私は、馬鹿みたいに頷く。彼女の顔が動く。後になって、彼女が笑ったのだと分かった。「よかった」そう彼女は血文字で書いた。
ティサはゾンビであり、車にひかれても大丈夫だ。痛みも感じないらしい。ただ、修復するためには治療が必要であり、傷が残る場合もある。ティサは救急車で運ばれ、アンデッド専門の診療科で手術と治療を受けた。眼球が落ちやすくなった以外は、後遺症は無い。
このことをきっかけに、私とティサは付き合い初め、結婚へとたどり着いた。
「さあ、盆踊りに行こうね」
ティサが私を促す。私は、取材の準備を終えており、いつでも出ることが出来る状態だ。広報課の他の職員とは、会場で落ち合うことになっている。
ティサは盆踊りを喜んでいるが、私は不安が有る。彼女達アンデッド系の魔物娘は、とんでもないことをやらかすことが有るからだ。
市には川沿いに桜並木があり、そこは花見会場となる。今年の春に、彼女達は騒動を起こしてくれた。数十人のゾンビとスケルトンが桜の木の下に埋まり、夜になると花見の客の前にはい出て来たのだ。「桜の木の下には死体が埋まっている」を実演したそうだ。花見をしていた酔客達は、腰を抜かしながら失禁したそうだ。
先月もやらかしてくれた。市には海水浴場があり、そこで百人以上のゾンビ達がプカプカ浮かんでいたそうだ。土左衛門ごっこをしていたそうだ。海水浴場はパニックに陥った。混乱のあまり溺れる海水浴客もいたが、ゾンビ達が助けた。もっとも、ゾンビに恐怖し、心臓マヒを起こしそうになった人もいたが。
この二つの件で、アンデッド達は県警、市役所、市議会、医療関係者から大目玉をくらった。地元マスコミもがなり立てた。これで懲りてくれればよいのだが、不安は残る。私は、無事に盆踊りが進むことを願いながら車を出した。
会場に着くと、さっそく広報課員と落ち合った。彼らと、取材のための最終打ち合わせをする。それが済むと、私は開催者のインタビューを始める。市長や市議会議員、協賛企業の経営者などだ。質問と答えは、事前にほとんど決まっている。
ただ、予想外だったことは、「不死の貴族」と呼ばれるワイトにインタビューをした時だ。彼女は、市にあるアンデッド達の企業の大株主だ。市のアンデッド達の指導者であり、市長と共にこの盆踊りの主催者である。薄紫の地に柴紺の菖蒲の浴衣を着たワイトは、事前に決めたこととは別の答えをしたのだ。
内心焦りながらインタビューを終えると、盆踊り会場の中を歩き回る。参加者にインタビューをし、写真を撮る場所をだいたい決めるためだ。その最中に、ティサを見つけた。ティサは、ゾンビ仲間と話している。彼女達は、私を見つけると話しかけて来た。
彼女達は、盆踊りがにぎわうだろうと話している。確かに、千人以上の人間が会場に集まっている。田舎の盆踊りでこれほど集まることは、珍しいだろう。その過半数が、アンデッド系の魔物娘だ。ある意味、壮観かもしれない。
ただ、騒動が起こることを私は危惧している。前述したように、アンデッド達はおかしなことをしでかすことが有るのだ。私は、遠回しな言い方で、彼女達にそのことを言う。
「大丈夫だよ。アンデッドのことを警戒しすぎだよ。そんなに警戒するなんて、ゾンビ映画の悪影響じゃないの?」
ティサは笑いながら言う。
「ロ○ロもフ○チもひどいよ。私達は、人間にあんなことはしないよ」
ゾンビ達は、人間の創るゾンビ映画に怒っている。ゾンビ達が人間を殺す描写があるからだ。去年、一万人のゾンビ達がハリウッドで抗議のデモ行進する事件があった。この映像は世界中に配信され、各国のクリエイターを震撼させた。
このデモの後、ジョー○・A・ロ○ロ、サ○・ラ○ミ達は記者会見を行い、「表現の自由に対する侵害だ」とする抗議声明を出した。
魔物娘が住み暮らすようになってからは、ホラー映画が差別問題となり糾弾されることが有る。仕方の無いことなのだろう。魔物娘には、人間同様の権利があるのだから。
まあ、ゾンビ映画関係者はまだマシな方だろう。ゾンビ達は温厚な者が多い。それに比べると、ハエの魔物娘ベルゼブブは面倒だ。デヴ○ッド・クロー○ンバーグは、ベルゼブブに追いかけ回されて、現在行方をくらませている。
私は、ゾンビ映画の影響でアンデッド達を警戒している訳では無い。アンデッド達がおかしなことをしでかす前科があるから心配しているのだ。だが、それがティサ達に伝わった様子は無い。
盆踊り開催を告げる放送が始まった。私はティサ達と別れ、不安を胸に仕事を再開した。
市長の号令と共に盆踊りが始まった。私は、被写体にことわりながら写真を撮り、彼らの中から選んでインタビューを行う。
盆踊りは順調に進んでいた。混乱や停滞することは無く、参加者達は楽しんでいる。県の民謡を元にした音頭や、昔のアニメソングを元にした音頭が流れる。県には昔、鉱山があったことから、炭坑節も流れる。マイケル・ジャクソンの「スリラー」が流れるところは、アンデッド達の盆踊りらしいと言えるだろう。
踊りは独特のものだ。アンデッド達の姿が目を引くためだ。顔につぎはぎの有るゾンビ、顔の半分が白骨化しているスケルトン、顔の大半を包帯で巻いているマミーなどが踊っている。彼女達が、赤や青、白地に花の紋様が有る浴衣で踊る姿には、独特の趣がある。
髪が金色であること以外は目立つところの無い女性が、ふとした拍子に首が転げ落ちる様には驚いてしまう。どうやらデュラハンらしい。彼女は、慌てた様子で首を拾っていた。
ふと、私は疑問が頭に浮かんだ。盆踊りは、死者を供養するためのものだ。生者が死者のためにやるものだ。死者が盆踊りを踊ることは、おかしいのではないだろうか?
私は首を振る。野暮なことを言っても仕方が無い。アンデッド達は楽しんでいるのだ。
写真を撮っているうちに、踊るティサの姿が見えた。櫓の近くで、ゆったりとした動作で踊っている。照明に照らされた青い浴衣の袖が、弧を描く。大きな縫い目があるものの、ティサの顔は整っている。私には、踊るティサの姿は優雅に見えた。
この調子だと、盆踊りは問題なく成功の裡に終わるだろうと、私は思っていた。
急に、曲調が激しくなった。曲そのものは民謡として登録されている音頭なのだが、やけにテンポが速くアレンジされている。それに伴い、アンデッド達の踊りが慌ただしくなる。
私は、思わず主催者席を見る。何を考えているのか分からない。予定では無かったはずだ。市長が怪訝そうな顔をしている隣で、ワイトは意味ありげに微笑んでいる。
アンデッド達は急いで踊っているのだが、体がふらついて上手く踊れない。そのうちにぶつかり合う者達が出て来た。会場のあちらこちらで、アンデッド達が突き飛ばされ、折り重なって倒れている。
私は思わず目をむく。倒れて折り重なったゾンビ達から内臓が露出しているのだ。スケルトンは骨が外れて、地面の上をはっている。デュラハンが、転がっていく自分の首を追いかけている。
会場中で騒動が起こった。手足が外れたゾンビが男性の足をつかんでしまい、男性が派手に転んでいる。ぶつかったゾンビの内臓が絡まってしまい、男性が腰を抜かしている。マミーと衝突した男性が、包帯が絡まってマミーと折り重なっている。
開催者席から白衣を着た女性達が走り出してくる。医者であるアンデッドと看護師アンデッドだ。医者は、死霊魔術を使うことで知られる魔物娘リッチだ。彼女達は、次々と応急処置をしていく。だが、会場中で騒動が起こっているために手が回らない。
男性達と折り重なったアンデッド達は、男性を抱きしめ始めた。そのまま男性を愛撫し、唇を重ねる。浴衣をはだけ、男性の服を脱がしていく。私は呻き声を上げてしまう。乱交を始めるつもりだ。
私は、ティサを探して走り回る。この騒動でどうなっているのか分からない。地面を這いまわる手を避け、転がっている臓物を踏まないようにする。辺りには、血と臓物の臭いが夏の熱気の中に立ち上がっている。
ティサは、主催者席の近くにいた。そこで、友人ゾンビであるバレットさんと折り重なっている。互いに内臓が露出してしまい、絡まってしまっているのだ。私は、ティサを助けようと近寄る。
ティサは、私に手を伸ばす。そのまま引きずり込まれて、ティサと折り重なってしまう。
「みんなを見ていたら、冷たい身体がほてってきちゃった。ねえ、しましょう」
ティサは、私の服を脱がしていく。抵抗しようとすると、ティサ達の内臓が私に絡みついてくる。ティサは浴衣をはだけ、縫い目から臓物があふれた体を露出する。その体で私を抱きしめた。
私は容易く勃起する。普通ならば萎える状況だが、ティサと交わる続けた私は、勃起してしまうのだ。変態と言いたければ言ってくれ。
私はティサとキスを交わし、腸にペニスを押し付けた。そのとたんに、バレットさんが喘ぎ声を上げる。
「それは私のじゃないよ。もう、浮気しないでよ」
ティサは腸を寄せて、別の腸を私のペニスに巻き付ける。そのとたんにティサは喘ぎ始める。私は、ティサの腸に向かって腰をふる。そしてティサの口を吸う。ティサは、私の口の中に舌を入れてくる。私とティサの舌は絡み合う。
私に向かって叫び声を上げながら走り寄って来る者がいた。広報課の同僚である倉井さんだ。私を助けようとしているらしい。
私達のセックスをうらやましそうに見ていたバレットさんの目が輝く。私を引き起こそうとする倉井さんの手をつかみ、自分の方へ引きずり倒す。
「ねえ、私と楽しみましょうよ。あなた、彼女がいないんでしょ。匂いで分かるよ」
バレットさんは、倉井さんの体を自分の腸で縛ると、抱きしめながら繰り返しキスをする。その際に、私とティサは引っ張られる。ティサとバレットさんの腸が絡まっているのだ。私達は、綱引きをしながらセックスをする。
引っ張られる腸の刺激で、私のペニスは弾けた。ピンク色の臓物に向かって白濁液を放つ。私とティサは、共に動物的な声を上げる。痙攣する私を、同様に体を震わせるティサが抱きしめる。私達は、喘ぎながら抱き合う。
私は、会場を見渡す。ダンテの「地獄篇」のような光景だ。臓物の露出したゾンビと男性が交わり合う。骨の露出した身体のスケルトンが、男性の上で腰をふる。生首の口にペニスを突っ込んだ男性が腰を振り、そばで首なしデュラハンがクリトリスを引っ張っている。血と臓物の臭いに、精液の臭いが混ざっている。
音楽はどんどん激しくなっている。これは何の音楽だろうか?デスメタルだろうか?何をとち狂ったのか、自分の腸で縄跳びをしているゾンビがいる。音楽に合わせて、自分の露出した頭蓋骨を鉢で叩きながら踊るスケルトンがいる。ホラー映画と言うよりは、シュールレアリズム絵画の世界だ。
主催者席にいるワイトの姿が目に入った。唖然として見ている市長の隣で、真紅の目を細めて楽しげに笑っている。おそらく彼女がこの騒動を仕組んだのだろう。
ティサは、私に赤黒い物を差し出した。赤黒い粘液の下から白っぽい物が見える。
「ねえ、私の子宮に直接入れてよ」
私は呻き声を上げる。ティサは、自分の子宮を私に差し出しているのだ。
私は向きを変えると、ペニスを子宮に向けた。私のペニスはもう回復している。変態と言いたければ好きなだけ言え。私は、子宮の入り口に先端を当て、ゆっくりと中へと進めていく。
ティサの体は弾かれたように跳ね、よだれを飛ばしながら奇声を上げた。私が突き進むたびに、ティサの体は電撃をくらったように跳ね踊る。ティサの右目がずり落ちてきて、右の頬にかかっている。
私は絶え間なく痙攣するティサの体を抱きしめ、ペニスを突き上げ続ける。ティサも私にしがみつくように抱き付く。
アンデッド達の性の踊りは、これからが本番だ。
予想通りに、アンデッド達は騒動を起こしてくれた。地元新聞や地元テレビ局が取材する中でやってくれたのだ。
ただ、彼らは騒動について報道しなかった。盆踊りの前半の無難な部分だけ報道した。後でテレビ局の人に聞いたのだが、残虐描写や性描写が放送コードに引っかかるためだそうだ。まあ、それは建前で、報道したところで特撮だと思われるから報道しなかったらしい。
盆踊り参加者の中には、ネットに画像をあげた人もいた。これらの画像は拡散されたが、特撮あるいは加工だと見なした人が多かった。まあ、無理も無いだろう。
これで話は無難に収まるかと思ったのだが、そうはいかなかった。市長は、広報誌に事実を書くことを命じたのだ。写真を載せることも命じた。元々市長は弾けた人だったが、盆踊りの件のために完全に弾けてしまったらしい。
私達広報課職員は、市長の命令に従った。盆踊りの事実を丹念に、客観的に書いた。その記事は、八月後半の広報誌の目玉として掲載した。市という公共団体が発行する広報誌に掲載したのだ。広報誌は、市内の全世帯に配布された。
その結果どうなったかは、皆さんの想像にお任せする。
私の隣では、妻が浴衣を着てはしゃいでいる。こちらは、遊びのために行くのだ。妻は、友人たちと一緒に行く約束をしている。
私は、妻の浴衣姿を見る。青地に赤い牡丹の花柄の浴衣だ。その浴衣は、妻の白銀の髪と合っている。
浴衣姿で踊る妻は優雅だろう。腹から内臓がずり落ちなければ。
私の暮らしている市は、現在「アンデッドシティ」として売り出している。ゾンビを初めとするアンデッド系の魔物娘を市民として迎え入れようと試みているのだ。ゾンビ好きの市長が音頭を取っている。
市は、アンデッド系の魔物娘に就職先を紹介し、住居の世話をしている。また彼女達に対して、交通機関を初めとする公共機関を利用するための優遇処置をしている。アンデッド専用の商品券の分配も行っている。そして、アンデッド系の魔物娘の起こした企業に対して、土地の取得や施設の整備、公共施設の利用に便宜をはかった。
この政策は、初めは市民の反発が起こった。特定の者を優遇すれば、当然のことながら反発される。まして人ならざる魔物娘、しかもゾンビなどを優遇しようと言うのだ。反発が出るのは当然だ。
だが、市長は断行した。全国の自治体が呆れる中、市長は政策を進めていく。結果から言えば、「アンデッドシティ」計画は成功した。アンデッド系の魔物娘と共に、彼女達の起こした企業が移転してきたからだ。
私達の市は、過疎と雇用の劣化、財政難に苦しんでいた。それがアンデッド達の企業により雇用が改善し、市町村法人税が増収したために財政が改善したのだ。そして、それらの企業は市に根付く施策を始めた。優遇処置をしなければ他の自治体や海外に移転すると恫喝する人間の企業とは対照的だ。
人間の常識から外れているアンデッド達を、市民は初め嫌悪した。だが、アンデッド達は友好的であり、温厚な者が多いことが分かり、市民達は徐々に受け入れていった。第一、アンデッド達を受け入れなければ、市は遠からず衰退し、破たんする事は市民達も分かっていた。
私の妻であるティサは、ゾンビだ。去年結婚した。出会ったきっかけは、車にひかれそうになった私をティサが助けてくれたことだ。広報誌のための取材が難航し、残業で疲れていたために車に気が付かなかった。気が付くと、目の前に車が迫っていた。
私はティサに突き飛ばされ、車にひかれずに済んだ。代わりにティサが車にひかれた。手足が不自然な方向に折れ曲がり、頭からは血が溢れ出していた。顔はつぶれていて、赤黒く染まっている。
私は愕然としながら、震える手で携帯電話をかけて救急車を呼び出そうとした。その時、赤黒い物体となった顔が持ち上がり、眼球を滴らせながら彼女の口の辺りが開いた。濁音混じりで意味は分からない。
彼女は軽く首を振ると、私の方に這いずりながら近づいてくる。私は携帯電話を手からすべり落とし、そのまま動くことも出来ずに彼女を見つめた。彼女は、私に触れそうになるほど近づく。そして指を血に浸し、道路に指を這わせる。
「けがは無いかな」そう血文字で書いてあった。私は、馬鹿みたいに頷く。彼女の顔が動く。後になって、彼女が笑ったのだと分かった。「よかった」そう彼女は血文字で書いた。
ティサはゾンビであり、車にひかれても大丈夫だ。痛みも感じないらしい。ただ、修復するためには治療が必要であり、傷が残る場合もある。ティサは救急車で運ばれ、アンデッド専門の診療科で手術と治療を受けた。眼球が落ちやすくなった以外は、後遺症は無い。
このことをきっかけに、私とティサは付き合い初め、結婚へとたどり着いた。
「さあ、盆踊りに行こうね」
ティサが私を促す。私は、取材の準備を終えており、いつでも出ることが出来る状態だ。広報課の他の職員とは、会場で落ち合うことになっている。
ティサは盆踊りを喜んでいるが、私は不安が有る。彼女達アンデッド系の魔物娘は、とんでもないことをやらかすことが有るからだ。
市には川沿いに桜並木があり、そこは花見会場となる。今年の春に、彼女達は騒動を起こしてくれた。数十人のゾンビとスケルトンが桜の木の下に埋まり、夜になると花見の客の前にはい出て来たのだ。「桜の木の下には死体が埋まっている」を実演したそうだ。花見をしていた酔客達は、腰を抜かしながら失禁したそうだ。
先月もやらかしてくれた。市には海水浴場があり、そこで百人以上のゾンビ達がプカプカ浮かんでいたそうだ。土左衛門ごっこをしていたそうだ。海水浴場はパニックに陥った。混乱のあまり溺れる海水浴客もいたが、ゾンビ達が助けた。もっとも、ゾンビに恐怖し、心臓マヒを起こしそうになった人もいたが。
この二つの件で、アンデッド達は県警、市役所、市議会、医療関係者から大目玉をくらった。地元マスコミもがなり立てた。これで懲りてくれればよいのだが、不安は残る。私は、無事に盆踊りが進むことを願いながら車を出した。
会場に着くと、さっそく広報課員と落ち合った。彼らと、取材のための最終打ち合わせをする。それが済むと、私は開催者のインタビューを始める。市長や市議会議員、協賛企業の経営者などだ。質問と答えは、事前にほとんど決まっている。
ただ、予想外だったことは、「不死の貴族」と呼ばれるワイトにインタビューをした時だ。彼女は、市にあるアンデッド達の企業の大株主だ。市のアンデッド達の指導者であり、市長と共にこの盆踊りの主催者である。薄紫の地に柴紺の菖蒲の浴衣を着たワイトは、事前に決めたこととは別の答えをしたのだ。
内心焦りながらインタビューを終えると、盆踊り会場の中を歩き回る。参加者にインタビューをし、写真を撮る場所をだいたい決めるためだ。その最中に、ティサを見つけた。ティサは、ゾンビ仲間と話している。彼女達は、私を見つけると話しかけて来た。
彼女達は、盆踊りがにぎわうだろうと話している。確かに、千人以上の人間が会場に集まっている。田舎の盆踊りでこれほど集まることは、珍しいだろう。その過半数が、アンデッド系の魔物娘だ。ある意味、壮観かもしれない。
ただ、騒動が起こることを私は危惧している。前述したように、アンデッド達はおかしなことをしでかすことが有るのだ。私は、遠回しな言い方で、彼女達にそのことを言う。
「大丈夫だよ。アンデッドのことを警戒しすぎだよ。そんなに警戒するなんて、ゾンビ映画の悪影響じゃないの?」
ティサは笑いながら言う。
「ロ○ロもフ○チもひどいよ。私達は、人間にあんなことはしないよ」
ゾンビ達は、人間の創るゾンビ映画に怒っている。ゾンビ達が人間を殺す描写があるからだ。去年、一万人のゾンビ達がハリウッドで抗議のデモ行進する事件があった。この映像は世界中に配信され、各国のクリエイターを震撼させた。
このデモの後、ジョー○・A・ロ○ロ、サ○・ラ○ミ達は記者会見を行い、「表現の自由に対する侵害だ」とする抗議声明を出した。
魔物娘が住み暮らすようになってからは、ホラー映画が差別問題となり糾弾されることが有る。仕方の無いことなのだろう。魔物娘には、人間同様の権利があるのだから。
まあ、ゾンビ映画関係者はまだマシな方だろう。ゾンビ達は温厚な者が多い。それに比べると、ハエの魔物娘ベルゼブブは面倒だ。デヴ○ッド・クロー○ンバーグは、ベルゼブブに追いかけ回されて、現在行方をくらませている。
私は、ゾンビ映画の影響でアンデッド達を警戒している訳では無い。アンデッド達がおかしなことをしでかす前科があるから心配しているのだ。だが、それがティサ達に伝わった様子は無い。
盆踊り開催を告げる放送が始まった。私はティサ達と別れ、不安を胸に仕事を再開した。
市長の号令と共に盆踊りが始まった。私は、被写体にことわりながら写真を撮り、彼らの中から選んでインタビューを行う。
盆踊りは順調に進んでいた。混乱や停滞することは無く、参加者達は楽しんでいる。県の民謡を元にした音頭や、昔のアニメソングを元にした音頭が流れる。県には昔、鉱山があったことから、炭坑節も流れる。マイケル・ジャクソンの「スリラー」が流れるところは、アンデッド達の盆踊りらしいと言えるだろう。
踊りは独特のものだ。アンデッド達の姿が目を引くためだ。顔につぎはぎの有るゾンビ、顔の半分が白骨化しているスケルトン、顔の大半を包帯で巻いているマミーなどが踊っている。彼女達が、赤や青、白地に花の紋様が有る浴衣で踊る姿には、独特の趣がある。
髪が金色であること以外は目立つところの無い女性が、ふとした拍子に首が転げ落ちる様には驚いてしまう。どうやらデュラハンらしい。彼女は、慌てた様子で首を拾っていた。
ふと、私は疑問が頭に浮かんだ。盆踊りは、死者を供養するためのものだ。生者が死者のためにやるものだ。死者が盆踊りを踊ることは、おかしいのではないだろうか?
私は首を振る。野暮なことを言っても仕方が無い。アンデッド達は楽しんでいるのだ。
写真を撮っているうちに、踊るティサの姿が見えた。櫓の近くで、ゆったりとした動作で踊っている。照明に照らされた青い浴衣の袖が、弧を描く。大きな縫い目があるものの、ティサの顔は整っている。私には、踊るティサの姿は優雅に見えた。
この調子だと、盆踊りは問題なく成功の裡に終わるだろうと、私は思っていた。
急に、曲調が激しくなった。曲そのものは民謡として登録されている音頭なのだが、やけにテンポが速くアレンジされている。それに伴い、アンデッド達の踊りが慌ただしくなる。
私は、思わず主催者席を見る。何を考えているのか分からない。予定では無かったはずだ。市長が怪訝そうな顔をしている隣で、ワイトは意味ありげに微笑んでいる。
アンデッド達は急いで踊っているのだが、体がふらついて上手く踊れない。そのうちにぶつかり合う者達が出て来た。会場のあちらこちらで、アンデッド達が突き飛ばされ、折り重なって倒れている。
私は思わず目をむく。倒れて折り重なったゾンビ達から内臓が露出しているのだ。スケルトンは骨が外れて、地面の上をはっている。デュラハンが、転がっていく自分の首を追いかけている。
会場中で騒動が起こった。手足が外れたゾンビが男性の足をつかんでしまい、男性が派手に転んでいる。ぶつかったゾンビの内臓が絡まってしまい、男性が腰を抜かしている。マミーと衝突した男性が、包帯が絡まってマミーと折り重なっている。
開催者席から白衣を着た女性達が走り出してくる。医者であるアンデッドと看護師アンデッドだ。医者は、死霊魔術を使うことで知られる魔物娘リッチだ。彼女達は、次々と応急処置をしていく。だが、会場中で騒動が起こっているために手が回らない。
男性達と折り重なったアンデッド達は、男性を抱きしめ始めた。そのまま男性を愛撫し、唇を重ねる。浴衣をはだけ、男性の服を脱がしていく。私は呻き声を上げてしまう。乱交を始めるつもりだ。
私は、ティサを探して走り回る。この騒動でどうなっているのか分からない。地面を這いまわる手を避け、転がっている臓物を踏まないようにする。辺りには、血と臓物の臭いが夏の熱気の中に立ち上がっている。
ティサは、主催者席の近くにいた。そこで、友人ゾンビであるバレットさんと折り重なっている。互いに内臓が露出してしまい、絡まってしまっているのだ。私は、ティサを助けようと近寄る。
ティサは、私に手を伸ばす。そのまま引きずり込まれて、ティサと折り重なってしまう。
「みんなを見ていたら、冷たい身体がほてってきちゃった。ねえ、しましょう」
ティサは、私の服を脱がしていく。抵抗しようとすると、ティサ達の内臓が私に絡みついてくる。ティサは浴衣をはだけ、縫い目から臓物があふれた体を露出する。その体で私を抱きしめた。
私は容易く勃起する。普通ならば萎える状況だが、ティサと交わる続けた私は、勃起してしまうのだ。変態と言いたければ言ってくれ。
私はティサとキスを交わし、腸にペニスを押し付けた。そのとたんに、バレットさんが喘ぎ声を上げる。
「それは私のじゃないよ。もう、浮気しないでよ」
ティサは腸を寄せて、別の腸を私のペニスに巻き付ける。そのとたんにティサは喘ぎ始める。私は、ティサの腸に向かって腰をふる。そしてティサの口を吸う。ティサは、私の口の中に舌を入れてくる。私とティサの舌は絡み合う。
私に向かって叫び声を上げながら走り寄って来る者がいた。広報課の同僚である倉井さんだ。私を助けようとしているらしい。
私達のセックスをうらやましそうに見ていたバレットさんの目が輝く。私を引き起こそうとする倉井さんの手をつかみ、自分の方へ引きずり倒す。
「ねえ、私と楽しみましょうよ。あなた、彼女がいないんでしょ。匂いで分かるよ」
バレットさんは、倉井さんの体を自分の腸で縛ると、抱きしめながら繰り返しキスをする。その際に、私とティサは引っ張られる。ティサとバレットさんの腸が絡まっているのだ。私達は、綱引きをしながらセックスをする。
引っ張られる腸の刺激で、私のペニスは弾けた。ピンク色の臓物に向かって白濁液を放つ。私とティサは、共に動物的な声を上げる。痙攣する私を、同様に体を震わせるティサが抱きしめる。私達は、喘ぎながら抱き合う。
私は、会場を見渡す。ダンテの「地獄篇」のような光景だ。臓物の露出したゾンビと男性が交わり合う。骨の露出した身体のスケルトンが、男性の上で腰をふる。生首の口にペニスを突っ込んだ男性が腰を振り、そばで首なしデュラハンがクリトリスを引っ張っている。血と臓物の臭いに、精液の臭いが混ざっている。
音楽はどんどん激しくなっている。これは何の音楽だろうか?デスメタルだろうか?何をとち狂ったのか、自分の腸で縄跳びをしているゾンビがいる。音楽に合わせて、自分の露出した頭蓋骨を鉢で叩きながら踊るスケルトンがいる。ホラー映画と言うよりは、シュールレアリズム絵画の世界だ。
主催者席にいるワイトの姿が目に入った。唖然として見ている市長の隣で、真紅の目を細めて楽しげに笑っている。おそらく彼女がこの騒動を仕組んだのだろう。
ティサは、私に赤黒い物を差し出した。赤黒い粘液の下から白っぽい物が見える。
「ねえ、私の子宮に直接入れてよ」
私は呻き声を上げる。ティサは、自分の子宮を私に差し出しているのだ。
私は向きを変えると、ペニスを子宮に向けた。私のペニスはもう回復している。変態と言いたければ好きなだけ言え。私は、子宮の入り口に先端を当て、ゆっくりと中へと進めていく。
ティサの体は弾かれたように跳ね、よだれを飛ばしながら奇声を上げた。私が突き進むたびに、ティサの体は電撃をくらったように跳ね踊る。ティサの右目がずり落ちてきて、右の頬にかかっている。
私は絶え間なく痙攣するティサの体を抱きしめ、ペニスを突き上げ続ける。ティサも私にしがみつくように抱き付く。
アンデッド達の性の踊りは、これからが本番だ。
予想通りに、アンデッド達は騒動を起こしてくれた。地元新聞や地元テレビ局が取材する中でやってくれたのだ。
ただ、彼らは騒動について報道しなかった。盆踊りの前半の無難な部分だけ報道した。後でテレビ局の人に聞いたのだが、残虐描写や性描写が放送コードに引っかかるためだそうだ。まあ、それは建前で、報道したところで特撮だと思われるから報道しなかったらしい。
盆踊り参加者の中には、ネットに画像をあげた人もいた。これらの画像は拡散されたが、特撮あるいは加工だと見なした人が多かった。まあ、無理も無いだろう。
これで話は無難に収まるかと思ったのだが、そうはいかなかった。市長は、広報誌に事実を書くことを命じたのだ。写真を載せることも命じた。元々市長は弾けた人だったが、盆踊りの件のために完全に弾けてしまったらしい。
私達広報課職員は、市長の命令に従った。盆踊りの事実を丹念に、客観的に書いた。その記事は、八月後半の広報誌の目玉として掲載した。市という公共団体が発行する広報誌に掲載したのだ。広報誌は、市内の全世帯に配布された。
その結果どうなったかは、皆さんの想像にお任せする。
16/08/13 00:51更新 / 鬼畜軍曹