読切小説
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這いつくばる悪魔
 暗い教会の中は静かだ。礼拝と説教の時には人が集まるが、普段は人の気配はない。私は椅子に座りながら、礼拝堂の中を見回す。ステンドグラスから七色の光が差し込む。既に外は夕暮れだ。
 羽ばたく音と共に、黒い影が舞い降りる。硬い靴音を響かせて礼拝堂の床に降り立つ。黒い翼を広げた青い肌の女が、私に向かって嫣然と微笑む。一目で人間では無いと分かる女だ。その女は、胸や下腹部を辛うじて覆う革製の黒服を身に付け、官能的な体を私にひけらかしている。
 人ならざる女は私の前に這いつくばり、犬のように私に向かって歩いてくる。私の所まで来ると、赤い瞳で上目づかいに見上げる。そうして柔らかい体を私の足にすり寄せた。悪魔女の体からは、重い甘さのある香水の香りが立ち上って来る。
 私は、体をすり寄せてくる女の頭を愛撫した。硬い角の感触と柔らかい髪の感触が、私の手の平に感じられる。女は、艶麗な顔に微笑みを浮かべながら愛撫を受けている。堕落した神父である私は、悪魔女の体を愛撫し続けた。

 私の堕落の過程を説明しよう。もしかしたら、あなた達の参考になるかも知れない。
 前述した通り、私は神父だ。この国の南部にある地方都市にある教会を任されている。名はアンリという。
 私が神父になった理由は、私の家の生業である騎士が落ち目であるためだ。魔物に対する「聖戦」の失敗と王の権力の拡大は、騎士の没落を招いた。父の代には、すでに騎士の先は見えていた。私の物心がついたころは、私の家は衰退が露わとなっていたのだ。
 父は、そんな状況に必死に抗った。王や諸侯と昔ながらの契約を結び、戦で役立とうとした。それが上手く行かないと、自家の独立を捨てて王や諸侯の直属軍に入ろうとした。これも上手く行かないと知ると、私と兄を騎士として鍛えようとしたのだ。
 私は、幼いころから父に武術を叩きこまれた。父の教育は、暴力と共に行われた。父は七歳の子供である私を、毎日のように握りこぶしで殴り飛ばした。私の鼻はひしゃげているが、それは子供の時に受けた父の暴力の結果だ。父は、多分狂っていたのだろう。教育と虐待の区別がつかなくなっていたのだ。
 父の暴力は、私と兄以外にも向けられた。父は、機嫌が悪くなると母を平手で殴った。鼻から血を流し頬の腫れた母の姿は、子供の私の目に焼き付いた。家族ですらこの有様なのだから、父の支配下にある者達がどのような目にあったか分かるだろう。家で働く下男、下女、そして父の領地の農奴は、青あざと鞭の跡で体が覆われていた。
 父は、暴力に狂っていただけでは無い。色にも狂っていた。私は、十一歳の時の光景を忘れられない。便所に行くために夜中に起きると、物置部屋の方から物音がするので覗いてみた。物置の中にはランプが置いてあり、薄明りで照らされていた。その中で、裸になった下女が這いつくばっていたのだ。
 私は、目の前の光景の意味が分からなかった。なぜ下女が裸で這いつくばっているのか?部屋の中を見回すと、鞭を持った父が裸で立っていた。父は、下女の尻を鞭で打ち始めた。物置の中に乾いた音が鳴り響く。明りに照らされた尻は、汗で濡れて鈍く光っている。その尻に、次々と鞭の跡が出来ていく。父は繰り返し打ち据えると、自分の腰をすすり泣く下女の尻に押し付けた。父と下女は、獣じみた声を上げて交わり始めたのだ。
 この光景は、私の性を目覚めさせた。退廃と倒錯、暴力に彩られた光景が、私の獣性に火を付けたのだ。この光景が、その後の私の人生に狂った影響を与え続けることになる。
 やがて下女は子を孕んだ。その子供は下男との間の子供とされ、下女は下男と夫婦にさせられた。この子供、ジャンが私の人生を操ることとなる。
 私は十四歳になると、父の友人である騎士の従騎士となった。私は、父の次にこの人から騎士の技術と知識について教わったのだ。アントワヌという名のこの騎士は、厳しい人だったが父の様に理不尽に暴力をふるうことは無かった。落ち着いた人であり、私を辛抱強く育ててくれた。アントワヌの誠実な教育を受けることで、私は騎士となれると思った。
 だがこの人の影響によって、私は騎士では無く神父となった。私が二十歳の時に、彼は修道院に入った。騎士の没落に失望し、神の元で修行することを望んだのだ。私の騎士教育が終わるまで待っていたのだ。
 彼は私に最後の訓示を与えると、「お前も神の道を歩んだほうが良いかもしれぬ」と呟くように言った。
 私はこの言葉に従った。私は、騎士と言うものに幻想は抱いていなかった。衰退と父の暴力が、私にとって騎士を象徴していた。私が十八歳の時に父は死んでいたので、父から反対される恐れは無かった。後で知ったことだが、農奴の娘を犯すために父は冬の夜に出歩いたのだ。その帰りにみぞれ交じりの雨を浴びて、父は肺炎となって死んだのだ。
 騎士の叙勲を受けた兄が家を継いでいた。私が神父になることを兄と母に相談すると、彼らはあっさりと認めた。彼らも、騎士の将来に大した望みを持っていなかったのだ。
 私は神学校に入り、神父になるための教育を受けた。私は神学校の他の生徒よりも年上だったが、たいして苦痛では無かった。父の暴力教育に比べれば、他の生徒よりも年上であることによる羞恥は、たいしたものでは無い。
 こうして私は神父となった。

 世界は残酷で醜悪だ。陳腐な言葉だが、これは真実だ。私は、神父となってからそのことを思い知らされた。
 時代は転換期にあった。古い秩序が否定され、新しい秩序が確立されようとしていた。教団、騎士、諸侯と言った者達は衰退し、王や官僚、商人と言った者達が新しく台頭していた。実力のある者達は、その力をふるうことが出来るようになってきたのだ。
 こう言うと、良いことのように思えるだろう。だが、実力がものを言う状況とは、弱肉強食を意味する。新しく台頭してきた者達は、手段を択ばずに富と権力を手にしていった。彼らによって、数多くの者が踏みにじられている。貧困と格差は急速に拡大していた。
 そして、時代の変化は混乱をもたらしてもいた。権力を拡大しようとする王は、諸侯を次々と滅ぼしていた。その為に内戦状態となっている所もある。また、古い秩序が否定されたことから、人々の不安が拡大している。その不安から、異端審問や魔女狩りが行われていた。私は、魔女と見なされた女が火刑にかけられた姿を目の当たりにしている。
 本来ならば、この様な状況に対峙するのが教団の役目だろう。だが、教団そのものが腐敗と混乱の直中にあるのだ。「聖戦」の失敗により、教団は弱体化している。この凋落により、聖職者は腐敗や独善に走っていたのだ。ある「聖職者」は、貧者を食い物にしている商人と結びついていた。また別の「聖職者」は、愚民を扇動して魔女狩りを行っていた。
 私は、初め人々の心の安寧を得る手助けをしようとした。それが聖職者の本来の役割だ。人々が安寧を得ることで、私も安寧を得られると考えたのだ。
 だが私は、醜悪な状況に耐えられなくなっていった。神の教えに背く者が幸福を堪能し、罪の無い者達が塗炭の苦しみを味わう。私は、この状況下で安寧を得られるほど器用では無い。私は、自分のためにも状況に抗わなくてはならない。
 私は、剣を初めとする武術の訓練を再開した。私にとって状況と対峙することの出来る手段は、武術だけだ。狂った父と誠実な師によって教え込まれた武術だけが、私の戦う術なのだ。
 私は夜陰に紛れて、収奪と収賄に励む役人を襲撃した。貧者を食い物とする商人ども、農奴から収奪する領主どもを襲撃した。この者達と手を組む堕落した「聖職者」共を襲撃した。そして連中から奪い取った金を貧者にばらまいたのだ。つまり、義賊もどきのことを始めたわけだ。
 また異端審問や魔女狩りに励む「聖職者」や愚民どもを始末した。この連中は、狂犬よりも始末が悪い。放置すれば、どれだけの無実の者が拷問や火刑で虐殺されるか分からない。私は神父だが、この狂った「信仰厚き者」達を喜んで始末した。
 私の行為は、いずれ露見するだろう。そして待ち受けるのは破滅だ。だが、それでもかまわない。状況に這いつくばるよりは、命を失う覚悟で状況に抗いたい。露見するまで、私は暴力をふるうつもりだ。
 意外な者に、私の行為は露見した。私の腹違いの弟であるジャンにばれたのだ。

 私が教会の一つを任されると、ジャンは私の面倒を見るためにやってきた。母と兄が送り付けて来たのだ。
 私は、ジャンが送られてきたことを迷惑に思った。私は、父とジャンを生んだ下女の交わりを見ている。ジャンは、私の腹違いの弟だろう。そんな者と、一緒にいることは苦痛だ。だが、母と兄が送り付けてきた以上、ぞんざいに追い払う訳にもいかない。
 ジャンは、父よりは下女に容姿が似ていた。細面で目が猫の様につり上がっている。どこか中性的な所がある。私は、この容姿に少し安心した。父に似ていると色々と面倒だからだ。
 ジャンは有能な下男だった。真面目な働き者であり、気が利く男でもあった。彼が来てすぐに、私の必要なものは常にそろっている状態となった。気が利く者にありがちなでしゃばることも無く、常に控えめな態度を取っていた。私は、口実を設けてジャンを追い返そうと考えていたが、ジャンは隙を見せなかった。
 ジャンを観察し続けて分かったことは、彼は対人能力が高いことだ。良く相手を観察し、人の話を上手に聞いている。そうして得た情報を元に、相手の望むものを見抜く。そして相手の望むものを手に入れようと尽力し、あるいは相手の望む姿を演じる。ジャンは、教育や訓練を受ければ、商人でも外交官でもなれただろう。あるいは密偵として活躍できたかもしれない。油断できない男だ。
 私は、神罰の代行である襲撃を夜に行っていた。ジャンには、信者を個人的に訪問するのだと話していた。ジャンが後を付けることを予想して、私は彼を撒くために手を尽くした。騎士の師であるアントワヌは、かつて戦場で斥候を行っていた。本来は騎士のやることではないが、騎士の没落によりやらざるを得なかったのだ。私は、師から斥候の技術も学んでいた。その技術を、ジャンを撒くのに使ったのだ。
 結局は、ジャンに私の行為はばれた。ジャンは、刃物、血の付いた服の切れ端、奪った金などの私の襲撃の証拠を見せつけると、私に協力することを申し出て来た。協力者を集めてもっと大掛かりにことを進めたいと言って来たのだ。既に三人ほど協力者を用意していると言ったのだ。
 私は、内心歯軋りをしていた。邪魔者であるジャンに、私の秘密を嗅ぎつけられて証拠を得られてしまったのだ。しかも、ジャンを口封じに始末しようにも、すでに三人の協力者を用意されてしまったのだ。これでは殺すことが出来ない。
 この時から、私はジャンの操り人形となった。ジャンは、次々と協力者を見つけて来て組織を作っていった。私を組織の指導者に祭り上げて、民衆を虐げる者達に鉄槌を下していった。ジャンはどこで学んだものか、組織造りの方法を知っていた。集めた人員、物資を適切に配置することが出来たのだ。
 ジャンの目的は何か?それは復讐だろう。自分を虐げた世界に対して、反逆したいのだ。その為に、私を利用して組織を造り上げているのだ。
 私は、ジャンに負けっ放しになるつもりは無かった。私は、ジャンを観察することでジャンの対人能力を学ぼうとした。私は神父であり、ジャンの怪しげな人脈よりはましな人脈に関わっている。ジャンよりも質の良い人材を集めようとしたのだ。
 だが、ジャンの方が上手だった。ジャンは、私が人を集めようとするとかぎつけた。そして、質の悪い者を見抜いて止めさせる。良さそうな人材を獲得する時は、強引に協力する。結局、ジャンが人材を獲得している様なものだ。
 私は、組織造りで力をふるおうとした。私は、騎士の訓練を受けたことから軍事組織については分かっている。教団に所属していることから、教団組織についても知っている。組織の構造については、ジャンよりも知っているのだ。
 こちらもジャンの方が上手だった。肝心の実践面ではジャンにかなわないのだ。結局、私の持つ組織の知識は、一つの参考意見として取り上げられただけだった。
 私は、ジャンの操り人形でしかないのだ。
 私は、ジャンに一矢報いたかった。その機会は、ジャンの思い上がりによって得られた。
 ジャンと共に神罰の代行を始めてから一年たった頃、ジャンは私に娼婦を紹介したことがあった。ジャンは、私を観察して性欲に苦しんでいることを見抜いていた。ジャンは、私が我慢できなくなるころを見計らい、自分の伝手を通して娼婦を抱かせようとしたのだ。
 私は、苛立ちと共に屈しそうになった。私は、自分の欲望を抑えられなくなっていたのだ。ジャンの手の平で踊ることになろうとも、女を抱かずにはいられなくなった。
 この時に、私は一つの考えが宿った。私は、ジャンに娼婦を用意することを命じた。ただし、二人用意することを命じたのだ。ジャンは心得顔で頷くと、さっそく娼婦を呼び寄せた。
 私は、ジャンと二人の娼婦だけになると、ジャンにこの場にとどまるように命じた。怪訝そうな顔をするジャンの前で、私は裸になるよう娼婦達に言った。そして這いつくばることを命じたのだ。
 ジャンの表情は変わった。いつもの控えめなすまし顔の仮面は剥がれた。顔は次第に赤黒くなり、小刻みに痙攣を始める。ジャンは、屈辱と憎悪に醜く顔をゆがめて私を睨み付けた。
 父の領地とその近隣では、父の醜行は広く知られていた。父が下女を犯してジャンを産ませたことも、公然の秘密なのだ。父が下女を這いつくばらせることが好きなことも、嘲弄を込めてささやかれていたのだ。当然のことながら、ジャンは自分の出生にまつわる話も知っているのだ。
 私は、這いつくばる娼婦の一人を後ろから責め立てた。後ろから貫きながら、娼婦の尻を叩いた。父と下女の行為を、ジャンの目の前で再現して見せたのだ。怪物じみた歪んだ顔をしているジャンに、私はもう一人の娼婦を犯すよう命じた。
 ジャンは、痙攣しながら目をむいた。意味の取れないことを喚くと、はぎ取るように服を脱いだ。そして獣じみたうなり声を上げると、娼婦を後ろから責め立てた。
 私は笑った。心の底から笑った。下男の分際で、弟の分際で私を操ろうとする者が醜態をさらす姿を見て、私は歓喜の直中にあったのだ。私は歓喜の渦の中で、四つん這いになった娼婦の尻を叩きながら犯したのだ。
 私はジャンを憎んでいる。ジャンも私を憎んでいる。私達は、憎み合いながら結びついているのだ。

 私とジャンは、破滅の時まで憎み合いながら手を組み続けるはずだった。その日も、いつも通りの襲撃に過ぎなかったはずだった。
 娼婦の件があってから三月ほどして、私とジャンは悪魔崇拝者達の情報を手にした。私の教会が存在する都市の有力者達が、その悪魔崇拝の集まりに参加しているそうだ。さっそく私とジャンは、その悪魔崇拝者達について調べ始めた。
 悪魔崇拝者達の大半は成り上がりだ。新しく台頭してきた官僚達や成金の商人達だ。彼らに対して秘儀を行う男は、同都市にある教会を管轄する神父だ。堕落したと言うよりは気が狂ってしまった神父らしい。彼らは、都市の南部にある保養地にある館で悪魔崇拝を行いながら乱交を楽しむのだ。
 私は、うんざりしながら彼らの情報を検証していた。新たに権力や富を手に入れた者達が、そのまともな使い方が分かっていないのだ。それで暇つぶしに悪魔崇拝に貴重な資源を費やしているのだ。その浪費に、狂った神父を利用している訳だ。馬鹿馬鹿しすぎる。
 私達は、その集会について調べた。私達の組織の参加者には、成り上がり共の使用人となっている者達がいる。彼らを使って動向を探った。さらに幸運なことがあった。館を所有している商人の帳簿係を抱きこむことが出来たのだ。その商人は自分の楽しみのためには惜しみなく金を使うが、使用人は低賃金で酷使した。それで帳簿係は、商人を憎んでいたのだ。帳簿係を通して悪魔崇拝者達の金の流れが分かり、集まりの全容が把握できたのだ。
 彼らは、新月の夜に集会を行う。私達は襲撃の用意を整え、その館の周囲に人員を配置した。彼らの会員は十三人、そのうちの十一人が参加する。彼らの護衛は合計で二十三人来る。館で働くために集められた使用人は二十一人だ。その他に、乱交に参加するために二十人の娼婦が集められている。私達は五十人で襲撃する。彼らを締めあげて金品を奪い、証拠となる物を押収して後日脅迫するのだ。

 新月の夜となった。館の外で待ち構えていた私達は、乱交が始まる刻限になると館に侵入を始めた。月も星もない暗い夜だ。侵入するためには都合が良い。
 館の周りには護衛達が警護している。闇を利用し、護衛達の不意を突いて襲いかかる。闇の中を打撃音や剣戟が響く。護衛達は声を上げて中に知らせようとするが、私達は直ぐに打ち倒す。呻き声を上げながら地に倒れる。私達は、この様な荒事にはすでに慣れているのだ。
 私達は、館の奥にある広間へ向かって走った。連中は、そこで悪魔を崇めながら性の歓楽を尽くしているだろう。私達は、腐った豚どもに天罰を与えるのだ。私は、暴力の期待に震える。金で装飾された扉が見えて来た。成金の悪趣味な装飾だ。この扉の向こうに豚どもがいる。
 ふと、私はジャンを見た。ジャンは、無表情で私についてきている。だが、据わった眼で私を見ている。
 私は心の中で笑った。奴は、私を殺したいほど憎んでいるのだ。おそらく、この活動の末路がはっきりしたら、私を殺すつもりだろう。だが、私も大人しく殺されるつもりは無い。襲撃の際の混乱を利用してジャンを殺すつもりだ。今までは隙が無かったが、この先もそうとは限らない。隙を見つけて始末してやる。
 私達は、扉を叩き破ってなだれ込んだ。金の燭台に照らされた広間が私達の前に広がる。悪魔を描いた巨大な絵が飾られているのがすぐに目に入った。広間の各所に悪魔の彫像が立っている。その絵には金糸が使われ、彫像には金箔が塗っていた。燭台は髑髏の形をした金製の物だ。悪趣味すぎる部屋だ。
 私は、充満する臭気に鼻を抑えたくなった。部屋の中には、香と性臭が混ざり合って満ちていたのだ。私は嫌悪を露わにして、豚どもを傷めつけようと武器を突き出す。
 私は、危うく目をこすりそうになった。男達と戯れている女達の姿が尋常ではない。女達はいずれも小柄であり、子供にしか見えない。それだけなら退廃者にありがちな倒錯した趣味だと分かる。だが、燭台に照らされた肌の色は青いのだ。そして、彼女達の背には黒い翼がある。
 私は気を引き締める。本当に悪魔のはずがない。この国は反魔物国であり、魔物の存在は認められていない。おそらく少女達の体に塗料を塗り、作り物の翼を付けているのだろう。香の香りもおかしい。嗅いでいると意識が鈍くなる。私は部下達を叱責し、性に溺れる男達を叩きのめそうと足を踏み出す。
 無数の蝙蝠が舞い降りるような音が聞こえた。私の頭上からも聞こえる。私は剣を握り直し、音の方へと向き直る。私の目に黒い翼が広がるのが見えた。剣を持つ手が抑えられる。
「駄目よ、こんな危ない物を向けないでね。一緒に楽しめないじゃない」
 低く柔らかな声が私の耳をくすぐる。青い肌をして黒い翼を広げた魔性の女が、私に微笑みかける。赤い瞳が私を見つめる。
 私は、女を突き飛ばして剣を握り直そうとする。だが、女の方の動きが速い。私は、女に抱きすくめられる。女の唇が私の口をふさぐ。私の口はこじ開けられ、甘い液体が流し込まれる。女を突き飛ばして距離を取る。だが、液体を飲んでしまった。
 香の香りが私の鼻を覆う。この香りは、私の意思を麻痺させるものだ。液体が体に染み込むにつれて力が抜けていく。女は、私から剣を取り上げる。そして、再び私を抱きしめる。
「いけない子ね。乱暴なことをしてはだめじゃない。あなた達に襲われた護衛の子達は怪我をしたのよ。インキュバスになっているから平気だけどね」
 私は辺りを見渡す。私の部下達は、いずれも女達に捕えられている。ジャンも青肌の少女に抱きしめられていた。私は女を振りほどこうとするが、力が入らない。
 私は、自分を捕えている女を見た。少女達と同じく青い肌をしており、背には黒い翼がある。だが、他の魔物達が少女であるのに対して、この女は大人だ。赤くつり上がった瞳と調和した端麗な細面は、妖艶な魅力をたたえている。紫色に塗った薄い唇は官能的であり、麗貌の魅力を増している。背が高く足が長い身体は、豊かな胸と引き締まった腰により性の魅力を放っている。その身体は、体の所々を露出させた黒皮の服を身に付けており、扇情的な姿だ。少女の形をした魔物達とは違う、熟成された艶麗さがあふれる魔物だ。
 女からは甘く重い香水の香りがする。その香りは、香や性臭と混ざり合って私の鼻を犯す。私の意識は朦朧となっていく。私は、次第に夢か現か分からなくなっていく。不確かな意識の中で、女が自分を抱きしめて愛撫する感触は体に染み込んでくる。女の温かい体温が私を包む。
「怖がらなくてもいいわ。私はあなたと抱き合いたいの。ほら、私の体は暖かいでしょ。もっと私の体を感じて」
 魔物女は、私を抱きしめ愛撫し続ける。そして、思い出したように軽く笑う。
「あなたには、こうしたほうがいいかしら?」
 女は私の体を離すと、私の前にひざまずいた。そして這いつくばりながら上目づかいに見上げる。
「あなたは、女が這いつくばる姿に興奮するのでしょ。ほら、私は犬のように四つん這いになっているのよ。私を犯したくないかしら」
 魔物女は、犬が尻尾を振るように腰と尻を振る。そして、私の足に体を擦り付けた。
 私は、欲情に支配されつつある。香の香り、性臭、魔物女の香水、女に飲まされた甘い液体、そして自分の前に這いつくばる雌犬の如き美女。私の脳裏にあの夜のことが蘇った。這いつくばる下女を父が鞭うち、犬のように犯す姿が蘇る。私のペニスは熱く怒張する。
 魔物女は、私の股間を愛撫し始めた。手で巧みに快楽を与えてくる。魔物女は、私の足を抱きしめると股間に頬をすり寄せた。私のズボンを手で脱がせ、口で下履きを脱がせる。たぎり立った私のペニスが、弾けるようにはね上がって露出した。
 魔物女は、私のペニスを陶然とした顔で見つめる。恭しい態度でさおを両手でさすり、先端に口付けをした。繰り返し先端に口付けると、ためらうこと無くペニスに頬ずりをする。
「ああ、硬くて熱いわ。それに濃い臭いがする」
 魔物女は熱っぽくささやくと、再びペニスに口付けを繰り返す。先端だけでは無く、くびれや裏筋、さお、そして陰嚢にも熱っぽい口付けをする。そして再び愛おし気に頬ずりをする。
 私は、ペニスに与えられる快楽と目の前の光景に狂おしいまでに興奮していた。ペニスの先端からは透明な液がほとばしるようにあふれ出る。私は、我慢出来ずに女の顔をペニスで嬲った。女は、自分から顔をすり付けてくる。艶麗な顔は、たちまち液で濡れ光っていく。
 女は、舌をペニスに這わせ始めた。ねっとりとした舌使いでペニスに奉仕する。先端の穴を悪戯っぽくほじり、くびれを丁寧に掃除する。裏筋に唇を吸いつかせ、さおに頬ずりをしながら陰嚢を舌で愛撫する。私のペニスは、この魔物女の支配下にあった。
 女はいったん離れると、自分の胸を少しばかり覆う皮の服に手をかけた。豊かな胸が弾けるように飛び出す。胸は汗でうっすらと濡れており、明かりを反射して輝いている。女は胸を捧げ持つようにすると、私のペニスをその深い谷間にはさみ込んだ。女は胸でゆっくりと、次第に早い動きで私のペニスを愛撫する。胸の谷間から突き出るペニスの先端に口付け、舌を這わせて唾液で濡らしていく。
 私は、登り詰めて行った。既に耐えることは出来ない。出そうだと呻くと、女は上目遣いに微笑み、ペニスの先端を口の中に含む。そして舌でくびれと裏筋を責めたてる。強く吸い上げるために、魔物女の頬はくぼんでいる。硬い乳首は、絶えずさおを刺激する。
 私は、魔物女の口の中で弾けた。精液が腰の奥からほとばしり出る。私は、呻き声を抑えることが出来ない。私は、これほどの快楽を味わったことは無い。腰が溶けて精液となり、魔物女の口に放出している様なものだ。私は、震えを抑えることは出来ない。
 女は舌を絶えず動かし、胸で愛撫しながら射精を促した。魔物女は、頬を膨らませて喉を鳴らしながら精液を飲み下していく。射精が終わっても女は口を離さない。管の中に残っている精液を残らず吸い取ろうと、下品な音を立てて吸い上げた。
 私は、意識がはっきりしなかった。自分がどこにいるのか、何をしているのかはっきりしなくなった。私は、無理やり意識を取り戻そうとする。私の見下ろす先に魔性の者の美貌がある。紫色に塗ってある唇は、白い液でぬめり光っている。魔物女は、見せつける様に唇を舐めて見せた。
 魔物女は再び私のペニスを胸で揉み初め、口に含んで舌による奉仕を再開した。射精したばかりなのにすぐにも回復していく。私のペニスは、女の口の中でそり返ろうとする。
 魔物女はペニスから口を離し、向きを変えて尻を私に向けた。そして這いつくばったまま私に尻を振って見せる。まるで雌犬が雄犬を誘っているようだ。私は魔物女の尻をつかみ、汗で濡れて光る尻をペニスで嬲る。滑らかでありながら弾力のある尻は、私のペニスに甘美な刺激を与える。私は、先走り汁を女の尻に塗りたくる。
 私はヴァギナにペニスを押し当てた。ヴァギナは既に濡れそぼって、熱い液を滴らせている。女の濡れた部分からは、甘酸っぱい匂いが漂ってくる。私は、ペニスを中へと沈めて行った。
 濡れた肉がペニスにまとわりついてきた。肉は、私のペニスを愛撫しながら奥へと引きずり込む。肉は渦を巻き始め、私のペニスに吸い付き、締め付け、揉みほぐした。ペニスから腰へ、背筋へ快楽が走り抜け、脳天まで突き抜ける。その悦楽は、口と胸での奉仕の時に輪をかけたものだ。私は、女性経験はあまりないが、この肉の穴は名器と言うものでは無いだろうか?
 魔物女は、這いつくばりながら犬のように腰を振り、よだれを垂らしながらあえぎ声を上げる。私が突き進み、貫くたびに背を震わせてすすり泣く。涙と鼻水と涎を垂らして、麗貌を汚している。
 私は、魔物女の尻を平手で叩いた。乾いた音が響き渡り、女が背を震わせる。私は再び尻を叩き、音を響かせる。女は、かすれ声で泣きながら尻と腰を震わせる。私は繰り返し尻を叩いた。叩くたびに中の締め付けは強くなる。柔らかい肉がペニスに吸い付いてくる。
 私は、女の奥で弾けた。精液が激流の様にほとばしる。その放出は一度目に劣らぬほどだ。魔物女の中に、私の子種汁を繰り返しぶちまけた。ぶちまけるごとに快楽が腰を、背を、脳天を打ち抜く。私の目の前は真っ白になり、そして様々な色の光が走り抜ける。
 気が付くと、私は魔物女の背に倒れ込んでいた。女の背にある蝙蝠の様な翼が、ひんやりとした感触を頬に与えている。女の肌は汗で濡れ、甘い匂いを立てている。私は、魔物女の背から起き上がる。魔物女は、床に頬を付けて涎を垂らしている。その緩んだ顔は悦楽に犯されていた。
 私は辺りを見回した。広間のいたるところで性の饗宴が繰り広げられている。私の部下達は、魔物の少女相手に肉の交わりにのめり込んでいる。ジャンも魔物少女にのしかかり、狂ったように腰を動かしていた。
 私のペニスはしめ付けられた。魔物女は私の方を振り向き、誘うような表情を浮かべている。私のペニスを銜え込んでしめ付けながら、腰を振って煽っている。
 私は魔物女の腰をつかみ直し、再びペニスを突き入れ始めた。

 私の体に魔物女が寄りかかっている。性の歓楽を楽しんだ後で、こうして抱きついているのだ。人ならざる女は、微笑みながら私の胸に顔をすり付けている。
 部屋の中では私たち同様に交わりを止めて、抱き合っている者達がいる。その一方で、いまだ激しい交わりを行っている者達もいる。この魔物女によると、男の方が男の淫魔たるインキュバスになっているために、まだ精力が残っているのだそうだ。
 私は、この魔物女に抱きつかれながら話を聞かされた。彼女は上位の悪魔であるデーモンという種族の者で、アディナと言う名であるそうだ。彼女は、少女の様な外見の悪魔であるデビル達を率いているそうだ。
 アディナ達は、魔王軍の中でも過激派と言われる集団に属しており、この国を魔王領に併合するために潜入して来たそうだ。彼女は、悪魔崇拝をして遊ぶ富裕層に目をつけた。彼らの前に現れて誘惑し、協力者に仕立て上げているそうだ。
 その工作の最中に、私達の組織の活動を嗅ぎつけた。私達は放っておけば邪魔になるが、取り込むことが出来れば良い協力者になると判断したそうだ。そこで悪魔崇拝の情報を流し、私達が襲撃してくるのを待ち構えていたそうだ。つまり私は、まんまと彼女達の罠に飛び込んだわけだ。
 苦笑いする私を、アディナは愛撫しながら見上げてくる。
「あなた達と私達は、利害が一致するのではないかしら。あなたは、民衆が苦しむ現状に反逆しているのでしょう。私もそうよ。私達は、あなた達に資金や物資を提供できるわ」
 私は顔を背けて嗤う。魔王軍の工作員の手足となり、神と祖国を裏切れと言うのか。
「ねえ、政治にたずさわる上で重要なことは、ましなものを選択することよ。最善を求めても失敗するわ。そして、破滅することを覚悟で敵に突撃することは、政治の世界では下策よ。私達と手を組むことは、教団と国に対する裏切りかも知れないけれど、この国の状況は改善するわ」
 私は再び嗤う。改善する保証はどこにある?
「あなた達に魔王領や親魔物国の情報を与え、この国の実情と比べてもらうことにするわ。その上で、この国を改善する計画について説明するわ。時間のかかるやり方だけど、説得するための材料はあなたが思う以上に私達は持っているのよ」
 彼女は口の端を吊り上げて笑う。
「もっとも、あなた達は協力するしかないわ。あなた達と私達が愛し合った姿は、魔水晶に記録してあるのよ。教団とこの国は、許さない姿ね」
 アディナは這いつくばると、私の汚れたペニスに頬ずりをする。そして口と舌で奉仕し始める。
「今はもっと楽しみましょう。あなたにもっと快楽を教えてあげるわ」
 私は、この悪魔に逆らえなかった。

 こうして私は、悪魔達の手先となった。魔王軍の工作員として活動しているのだ。
 悪魔達は、私達に豊富な資金と物資、そして情報、知識、技術を与えてくれた。そのおかげで、私達の組織は急激に拡大している。彼女達は狡猾だ。論理と数字に基づいて行動する一方、人間心理の弱点を的確に突いてくる。
 アディナは、この国を乗っ取る計画について説明してくれた。まず、私達のような者達を見つけて弱みを握り、かつ利益を与えて自分達の協力者に仕立て上げる。そして、資金と物資を与えて勢力を拡大させる。拡大した親魔物派にこの国の実権を握らせ、この国を親魔物国へと変える。この国に傀儡政権を樹立させ、魔王軍が背後から操る。そして、時期を見計らって魔王領へ併合するのだ。
 陳腐な乗っ取り計画だ。だが、段取りが上手ければ成功するかもしれない。現時点では、乗っ取り計画は上手く行っている。
 私は、今では積極的に悪魔達に協力している。私は、この国を魔物達が乗っ取っても良いと考えているのだ。私はこの国を憎んでいる。結局は、天罰の代行など私の憎しみを正当化するための方便に過ぎない。私は、国賊、売国奴、非国民でかまわない。弱者を虐げるこの国など滅べばよいのだ。
 私は、教団も憎んでいる。しょせんは魔物に、国と国王に、世俗権力に、そして時代に敗れた負け犬どもに過ぎない。いじけた挙句堕落するか、独善に狂うしかない負け犬どもだ。弱者を救うどころか弱者を虐げるしか能の無い駄犬どもだ。
 そして、私は神も憎んでいる。今こそ認める。私は神を憎んでいるのだ。神は「平等」だ。強い者も弱い者も、平等に見ているだけで救わない。救いを求めて差し伸べられた手を振り払う。そんな神など死ねば良いのだ。
 私は堕落しよう。悪魔に魂を売ろう。私ごときの魂など、大した価値は無い。だがアディナは買うと言う。だったら売ってやろう。せいぜい私を利用するがいい。悪魔は、アディナは、私に快楽を与えてくれる。そうだ、快楽さえあれば良いのだ。堕落者たる私には、快楽こそ最も価値あるものなのだ。
 アディナは、「愛」などと寝言をほざく。愛のなど知ったことか。堕落者たる私に、愛などどうでもよい。神に対する愛を捨てた私に、愛が何の意味があるのだ。憎しみこそが意味がある。
 だが、私は人を殺すことは出来ない。私は、アディナと交わるうちにインキュバスとなった。インキュバスの身では、人を殺すことは難しい。殺そうとすると、激しい嫌悪感に襲われるのだ。
 私は、ジャンを見るたびにインキュバスになった身について考える。最早ジャンを殺すことは出来ない。私同様にインキュバスになったジャンも、私を殺すことは出来ない。だが、私もジャンも憎しみは残っている。アディナは、時折私達を沈んだ目で見る。憎み合う私達が気に食わないようだ。馬鹿馬鹿しいことだ。私とジャンは、生涯憎み合うのだ。
 アディナは、私の憎しみなど気にしなくて良い。私とアディナは、快楽を追求すれば良いのだ。快楽こそ最も価値あるものだ。快楽を味わっている時だけ、私は憎しみを忘れることが出来る。アディナは、私に惜しみなく快楽を与えてくれる。恥知らずな性技を駆使して私を堕落させるのだ。
 私は、ある時にアディナの尻の穴を舐めた。悪魔について書かれた本に、悪魔との契約の際に悪魔の尻に口付けをするという記述があった。そこでアディナとの交わりの際に、アディナの尻の穴に口付け、舐め回してやったのだ。アディナは泣きながら喜んだ。
 そのあと、アディナは私の尻の穴を繰り返し口付け、舐め回した。私の尻に向かってひざまずき、尻の穴奥に舌を潜り込ませて舐め回したのだ。この快楽は、筆舌に尽くしがたいものだ。堕落者だからこそ味わうことが出来る快楽だ。
 私は、アディナと快楽を貪り続ける。私にとって快楽は、醜悪な世界の中で数少ない価値あるものだ。快楽だけがあれば良いのだ。
16/04/28 00:55更新 / 鬼畜軍曹

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