俺は、ドアをノックすると部屋の中へ入った。妻は、机の前でパソコンに向かって仕事をしている。妻であるウージェニーは、黒いジャージの上に黒い半纏をはおり、銀髪を振り乱してパソコンで絵を描いている。
　妻の職業は漫画家だ。締め切り間際になると、こうして髪を振り乱して絵を描いている。机の横の台には、コーヒーのカップと栄養ドリンクの瓶が重なって置いてある。夫の俺が言うのもなんだが、ウージェニーは整った顔立ちをしている。だが、こうして身だしなみを気にせずに仕事をしている時は、美人が台無しだ。
　俺は、台の上に辛うじて空いているスペースに、持ってきたサンドイッチとコーヒーを置く。そして盆の上に、空になったコーヒーカップと瓶を載せる。その際にパソコンの画面をのぞき込む。
　画面には二人の男が描かれている。一人はナチスの親衛隊の制服を着た青年将校、もう一人はヒトラーユーゲントの制服を着た少年だ。青年は、少年の体に手をかけて服をはだけさせ、むき出しになっている少年の胸に口を押し当てている。少年は、喘ぐように口を半開きにしている。
　俺は、ウージェニーの仕事部屋を見回す。部屋の中には何枚ものポスターが貼ってある。黒いスーツを着た男が、紺のスーツに眼鏡姿の男を抱きしめている姿を描いている物。中世ヨーロッパの騎士の格好をした金髪の男が、従騎士の格好をした茶色い髪の少年を押し倒している姿を描いている物。そういう物がズラリと貼ってあるのだ。
　妻は、いわゆるボーイズラブを描く漫画家だ。妻のような者は、腐女子と呼ばれるそうだ。ついでに言うと、妻はゾンビだ。心身共に腐っている。

　ウージェニーはようやく仕事を終え、締め切りに間に合わせることが出来た。彼女は仕事部屋から出て、居間のソファーの上で弛緩している。呆けた表情で口を半開きにしており、今にも涎がこぼれそうだ。
「ヒトラーユーゲントの少年のお尻は開発済みなんだよー」
　ウージェニーは、血色の悪い顔を緩ませて戯言を呟いている。
　現在のウージェニーは、ナチスを題材とした作品を書いている。ナチスと言えば男向けの漫画で書かれることが多いが、腐女子たちもナチスが好きなのだそうだ。親衛隊の将校たちが、男どうしてやる姿に燃えて、萌えるのだそうだ。俺には良く分からない。
　ウージェニーは、以前は日本の歴史を題材とした漫画を描いていた。そのせいか、日本史関連のボーイズラブについて俺に話すことが多かった。もっとも、こちらも俺には良く分からない。
「昔は、厩戸王子と蘇我蝦夷のカップリングが常識だったね。でも今は、中大兄皇子と大海人皇子のカップリングだよね。そこに中臣鎌足が絡むんだよー」
　俺のイメージする聖徳太子は、ひげを生やしたおっさんだ。蘇我蝦夷もそうだ。ひげ面のおっさん同士で絡むのが面白いのだろうか？それとも、腐女子の中では別のイメージが有るのだろうか？
　ウージェニーの話は、俺には狂人の戯言としか思えないものばかりだ。「攻めと受けで神羅万象は説明できる」とはどういう事だ？
　ただ、彼女が勧める漫画の中には、男の俺が読んでも面白い物がある。たとえば、不老不死の吸血鬼の少年たちの時代を超えた遍歴を描いた物語は、上質な映画を見たような読後感を味わえる。未来の管理社会で戦う少年たちの微妙な関係を描いた物語は、そのテーマの描き方と敏感な心情の描き方が上手く合わさっていた。現代を舞台に少年や青年の行き違いを描いた短編物語は、同性愛者のコミュニケーションの難しさを教えてくれるものだ。これらの作品を、俺は感嘆しながら読んだものだ。
　ただ、それでも俺には受け入れられない事も多い。
「やっぱり入れる前には、ワセリンを塗らないとねー」
「お尻の毛を描くことは、ボーイズラブのリアリズムだよー」
　俺は、妻の口からこれらの言葉を聞いた時、泣きそうになった。もし、あなたの妻が男の尻の毛の描写について嬉々として話したら、あなたはどうするのだろうか？
　まあ、単なる妄想にとどまっているうちは良い。ウージェニーの場合は、現実にまで話が及ぶのだ。例えば、以前はコンタクトレンズを使っていたが、現在では俺は眼鏡をかけている。彼女に強制的に変えさせられたのだ。また、彼女はクールビーズに反対している。俺をスーツメガネ姿にしたいのだ。
　さすがに夏は暑さに耐えられないうえに、職場はクールビーズが半強制だ。だから俺は、夏にはネクタイを締めずにシャツ姿で職場に行っている。「汗の染み込んだスーツの尊さを分からないの」とウージェニーは文句を言うが、分かるわけ無いだろ！
　ウージェニーは、前述したとおりにゾンビだ。既に死んだ状態なのだが、魔力のおかげで腐乱することは無い。体からは甘い匂いがする。ただ、頭が腐っているのではないかと思うことが、しばしばある。
　ついでに言うと、アンデッド系の魔物娘の中には腐女子が多い。ウージェニーと同じ雑誌に連載している腐女子漫画家たちの中には、ウージェニーと同様のゾンビがいる。他にも体中に包帯を巻いたアンデットであるマミーや、食人鬼が変異したアンデットであるグールの漫画家もいる。雑誌を出版している企業グループの大株主は、不死の王と呼ばれるアンデットであるワイトと、ワイト同様に王であるアンデット魔物娘ファラオだ。
　いずれも見事なまでに頭が腐っているらしい。まあ、腐っていることは仕方が無い。その腐敗した頭で妄想すればよい。ただ、現実に妄想を持ち込まないで欲しい。
「首輪と手錠とデッキブラシは、ボーイズラブの必需品だよー」
　この言葉を妻の口から聞いた時、俺の全身に鳥肌が立った。そりゃあ、アンデットだったらデッキブラシを突っ込まれても大丈夫だろうが、生身の人間の男が突っ込まれたら内臓が破裂するかもしれない。幸いなことに、現実でデッキブラシを突っ込むことは、まだしていない。
「ハイドリッヒは悪い奴だなー。デッキブラシを突っ込んじゃえ」
　ウージェニーは、こう言って自分の漫画の中でデッキブラシを突っ込んだ。俺は、「金髪の野獣」はクソ以下だと思っているが、この時は少しばかり同情した。
　こうしてウージェニーを初めとする腐女子について述べてくると、腐女子とは何でも有りなのではないかと思ってしまう。だが、腐女子には断固として拒否するものも有るらしい。
　俺は、ある時に「真夏の世の○○」の画像と、田亀○○郎先生の作品を彼女に見せた。妻の顔からはあらゆる表情が消えた。妻は、素木の三方に短刀を乗せると「死んで詫びて」と迫ってきた。俺は、土下座して詫びなくてはならなかった。
　まあ、こんな事もあるが、俺は腐った妻との生活を楽しんでいる。趣味は人それぞれだ。理解できる趣味ではないが、それなりに楽しい趣味であることは確かなことだ。それに、趣味を楽しんでいる妻は面白い。

「私はもっと先に行きたいのよー」
　ウージェニーは、俺を見ながら言った。ウージェニーは、創作についてもっと突き詰めたいそうだ。それは立派な事だろう。俺に害が無ければ。
「私は実体験が必要なの。そうすれば貴腐人にだってなれるんだよー」
　良く知らないのだが、年季の入った濃い腐女子は「貴腐人」と呼ばれるらしい。貴腐人とやらになるのは結構だが、俺を犠牲にしないでほしい。俺は、男とやるつもりは無いと彼女に言った。同性愛者を嫌うつもりは無いが、俺は男と肉体関係を持つつもりは無い。男同士の愛を現実で見たかったら、他をあたって欲しい。
「大丈夫だよ、薫は男とエッチな事をしなくてもいいから」
　言い忘れたが、俺の名は薫だ。それはともかく、ウージェニーの言葉で少しは安心した。だが、まだ心配は残っている。
「私が男を演じるからねー」
　俺は即座に断った。俺はケツの穴を掘られる趣味は無い。
「違うよー。薫が攻めで、私が受けだよー」
　俺はそこで考え込んだ。俺が攻めならば、別にかまわないかもしれない。ケツの穴を掘られる心配はないし、俺がやる相手は女であるウージェニーだ。変わったプレイの一つとしてやってもいいだろう。
　こうして俺とウージェニーは、ボーイズラブごっこをする事にした。

　俺は、黒皮の乗馬鞭を弄びながら目の前にひざまずいている少年を見下ろした。少年は、カーキ色のシャツを着て、黒いネクタイを締めている。履いているのは黒の半ズボンだ。少年のなまめかしい足はむき出しになっている。
　少年の着ている服は、ヒトラーユーゲントの制服だ。金色の髪の下の青い瞳が、不安げに俺を見上げている。少年にとって俺の格好は、畏怖の対象だろう。俺は、黒い制服に白いシャツ、黒のネクタイを締めている。制帽には髑髏の徽章が付き、左腕にはハーケンクロイツの腕章を付けている。親衛隊の制服だ。
　俺達のいる部屋は、石造りの古めかしい造りだ。暖炉には火が入っており、壁には天馬にまたがった戦乙女を描いた絵がかかっている。そしてハーケンクロイツの旗が壁にかかっている。室内には、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れている。
　俺は、乗馬用の鞭で少年のあごを上げさせた。少年の整った細面を俺は見下ろす。不安げに揺れ動く目や、震えるように半開きになった口は、俺の嗜虐心をかき立てる。
　俺は、少年に口での奉仕を命じた。少年は、無言のまま顔をそむける。俺は、鞭で少年の肩を打つ。室内に乾いた音が響き渡り、少年は弾かれたように震える。少年はゆっくりと俺のズボンのファスナーを下ろし、俺のペニスを露出させる。
　俺のペニスは、すでに天に向かってそり返っていた。少年は視線を彷徨わせるが、あきらめたようにペニスに口を付ける。そのまま俺のペニスに口付けを繰り返す。唇をペニスに押し付けると、舌を這わせて奉仕を続ける。奉仕を続ける少年のまつげが震える。
　俺は、鞭を弄びながら奉仕する少年を見下ろしていた。俺は、口の中に含んで奉仕する事を命ずる。少年はすでに逆らう気は無く、従順に俺のものを口の中に含む。そして口と舌で丹念な奉仕をする。その奉仕は、いかなる女よりも俺の弱点を心得ている。俺は直ぐに登り詰める。
　俺は、少年の口の中に精を放った。俺の欲望を濃縮した液体が、少年の口を、喉を、体の奥を犯す。少年は、目に涙を浮かべながら精液を飲み下していく。少年が震えながら喉を鳴らす姿に、俺は野獣のような喜びを感じる。
　荒い息を吐きながら這いつくばる少年に、俺は、ネクタイを外してシャツをはだける事を命じた。少年の肌が露わとなっていく。血色は悪いが、滑らかな肌が俺の目に映る。繊細さのある、凌辱されるためにあるような肌だ。細い体と肌の組み合わせは、狩りの獲物を思わせる。
　俺は、半ズボンと下着を脱ぐことも命じた。少年の隠された茂みが露わとなる。室内の明かりに照らされて、銀色の茂みが淡く輝く。少年にふさわしい儚げな茂みだ。恥辱に震える少年の頬を俺は鞭で撫でる。そうして、俺は少年に這い蹲って尻を向ける事を命じた。
　少年の尻が俺の目の前にさらされた。俺は息が荒くなる。少年の最も素晴らしい所は、この光を反射して淡く輝く尻だ。子犬のような丸みを帯びて、犬ではあり得ないなめらかさを持つ尻。俺の肉食獣としての力を呼び覚ます尻。俺は我慢が出来ず、俺の硬く張り詰めたペニスで尻を嬲る。
　俺は、ペニスにワセリンを塗り込む。そして、少年の尻の奥にある窄まりにもワセリンを塗り込む。少年は、冷たい感触に体を小さく震わせる。俺はペニスの先端を窄まりに押し当て、馴染ませるように動かす。そしてゆっくりと奥へと沈めていく。
　少年の背が弓なりになった。子犬が鞭で尻を打たれたかのように。か細い声を上げて、自分を凌辱する者から逃れようとする。だが、俺は獲物の腰を強くつかみ、自分の滾る下腹部を子犬の尻に押し付けた。震える小さな獣は、野獣に蹂躙される。
　……言うまでもないが、少年とはウージェニーの事だ。彼女は、ヒトラーユーゲントの制服を着て演じているのだ。俺も、ナチスの親衛隊の制服を着て演じている訳だ。この手の制服を手に入れる伝手が、ウージェニーにはあるらしい。腐女子仲間の伝手だそうだ。
　ウージェニーは、ご丁寧に髪を金色に染め、青いカラーコンタクトをはめている。俺は、勤めがあるために髪を染める訳にはいかない。まあ、身長は175センチあるから、その点では親衛隊員の資格を満たしている。それで勘弁してもらおう。
　俺達がいる所はラブホテルだ。ＳＭ愛好家の中ではちょっと知られた所であり、この部屋の様にナチス趣味の部屋も有るわけだ。そこを借りてプレイを楽しんでいるわけである。鞭はホテルから借りた物だ。
　バカらしいと言えばバカらしい。だが、楽しいことも確かだ。だったら、バカに徹して楽しんだ方が得だ。俺は、親衛隊の将校になり切ってヒトラーユーゲントの少年を犯す。
　……俺は、這いつくばる少年の尻の穴の中を犯し続ける。少年は、犯されるために自分の前にいるのだ。強者である俺は、弱者である少年を犯す権利がある。弱者は、蹂躙される事が義務であり、犯される事で存在意義を得る。這いつくばる事は弱者の義務だ。
　俺は、少年に命令を発した。ヒムラー親衛隊全国指導者が演説した内容を唱える事を命じたのだ。
「第一忠誠、第二服従、だ、第三勇気、だ、第四せ、誠実…」
　少年は、喘ぎ声を上げながら唱え始める。
「第五正直、だ、第六ど、同志愛、…だ、第七…せ、責任の喜び…」
　俺は後ろから激しく責める。少年の中を俺のペニスでかき回す。少年は、震えと喘ぎ声を抑えられない。
「だ、第八き、勤勉、第九き、禁酒、第十…わ、我々が重視し義務とす、するものは…我々の総統であり、わ、我々の愛国心である。わ、我々は他のいかなるも、ものに対してもき、気を配るひ、必要はない」
　俺は興奮し、可憐な尻を責めたてる。蹂躙されるために存在する尻を犯す。そうする事で、犬として存在する少年を所有するのだ。俺は再び絶頂へと駆け上る。
　ジーク・ハイル！俺は叫び、精を放つ。少年の中へ自分の欲望をぶちまける。少年の体は弓なりになり痙攣する。
「ジーク・ハイル！」
　少年も絶叫する。彼も絶頂へと飲み込まれたのだ。
　俺は渦の中で叫んでいた。俺は誰だ？俺はどこにいる？俺は親衛隊の将校だ。総統と祖国に忠誠を誓い、世界をハーケンクロイツの旗の下に収める事を誓ったアーリア人だ。俺は選ばれた人間だ！他者を蹂躙する権利を与えられた存在だ！この少年は俺の奴隷だ！
　渦はゆっくりと収まった。視界が元に戻る。少年は、俺の前で這い蹲りながら床に倒れていた。顔を床に付けて犬のように喘いでいる。顔も尻も汗で濡れて光っている。情けない弱者の姿、奴隷の姿だ。
　俺は尻の穴からペニスを抜く。穴から白濁液が大量にあふれて、刺激臭をまき散らしながら床を汚す。俺のペニスは収まっていない。天に向かってそり返っている。
　俺は、少年のヴァギナへペニスを押し当て、中へと沈めていく。ヴァギナは既に濡れそぼっており、容易くペニスは埋まっていく。ヴァギナだと？少年にヴァギナは無い。やおい穴と言うのだろうか？どちらでも良い。俺は少年の中へと突き進む。少年はゆっくりと答え始める。
　俺と少年の交歓は、まだ始まったばかりだ。

　俺は、ウージェニーが連載している雑誌を読んでいた。親衛隊員とヒトラーユーゲントの少年の倒錯的な愛を描いた漫画が掲載されている。その漫画は、読者アンケートで一番の人気だそうだ。どうやら、俺とユージェニーのプレイの成果は有ったようだ。
　俺は、例のプレイはなかなか楽しかったと思っている。ウージェニーとのセックスは、俺にとっては大きな楽しみだ。ボーイズラブごっこもプレイの幅を広げてくれた。
　それに俺は、ウージェニーの漫画が好きなのだ。物語の展開や表現方法は、俺を引き付けるものだ。確かに、理解できない表現や受け入れがたいことを描くことはある。だが、それでも面白く感じることの方が多いのだ。
　何よりも、ウージェニーが楽しんで創作をしていることが、俺にはうれしい。
　俺は、腐女子の妻も良いものだと思っている。彼女の創作の幅が広がるのならば、現実で少しばかりプレイするのも良いだろう。

　そう思っていたこともあった。俺は、大きな間違いを犯していたのだ。
　俺は、今、這いつくばった格好で拘束されている。首輪をつけられ、手錠をかけられ、足に拘束具を付けられている。俺は、黒い親衛隊の制服を着ているが、ズボンと下着は下げられている。俺は、ケツをむき出しにした格好だ。
　俺の後ろにはウージェニーがいる。緑色の制服を着て赤軍将校の格好をしている。今やっているプレイは、赤軍将校が捕えた親衛隊将校を凌辱するプレイだ。
　ウージェニーは、プレイをエスカレートさせたのだ。「受け」だけでは無く「攻め」もやりたくなったのだ。「攻め」を実体験すれば、創作の幅が広がる気がするのだそうだ。
「私は、元々は内務人民委員部にいてね。お前たち人民の敵を粛正する技術は学んできたのだよ」
　ウージェニーは、ズボンと下着を下ろす。双頭ディルドーを取り出すと、ローションを塗る。そして片側を自分のヴァギナへ挿入する。もう片方を、俺の尻に向かって突き出す。
　やめろ、やめろ！現実と妄想を混同するな！ボーイズラブは、二次元だけで楽しめ。三次元に持ち出すな！頭まで腐りきるんじゃねえ！やめろ、やめろ！
「ファシストの豚め！人民の怒りを思い知れ！」
　アッー！

　俺は、この日からケツの穴にボラギ○ールを塗ることとなった。