読切小説
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あかなめVSベルゼブブ 臭い喪男はあたしのものだ!
 宮代悟は溜息をついていた。自分の体から発している臭いに辟易しているのだ。自分が辟易しているのだから、他の者は嫌悪を通り越して憎悪しているだろう。
 悟は、生まれつき体臭がきつい。加えて、太っている為に汗を掻きやすい。昨日の夜にきちんと風呂に入ったが、朝には臭いがしていた。朝起きたらボディーシートで体を拭き、下着を変える。それにも関わらず、昼頃には耐えがたい臭いがするようになる。放課後である現在では、歩く公害だ。
 ただ、悟の臭いを愛する魔物娘もいる。突然、一人の少女が悟の背に飛びついて来た。
「悟は相変わらず臭いねえ。そそるじゃないの」
 悟に飛びついた少女は、鼻を鳴らしながら悟の右腋に顔を埋めて臭いを嗅いでいる。そばかすの浮いた可愛らしい顔に、歓喜の表情を浮かべている。小柄な体を、悟の太った体に張り付けていた。
 今いる場所は、校舎と木の影だ。人に見られる事はあまりないが、それでも少し恥ずかしい。第一、前触れも無く飛び付かれたら危ない。
「里中、いきなり飛びつかないでくれよ」
 里中と言われた少女は、ふくれっ面になる。
「二人だけの時は、朱音と呼んでよ」
 少女は、悟の肩に軽くかみつく。そして舌を伸ばして、服の隙間から悟の腋をなめ回す。その舌は人間ではありえないほど長い。悟は振り払おうとした所、新たな衝撃に体をよろめかせた。
「臭うぜぇ、喪男の臭いがプンプンするぜぇ」
 悟の背に、新たな少女が飛びついていた。朱音と同様に制服を着た小柄な少女だ。だが、背からは薄い紫色の羽が生え、スカートの尻からは昆虫のような黒い尻が出ている。羽の生えた少女は、悟の左腋を嬉しそうにかいでいる。
「ちょっと、エディッタ。人の男に手を出すんじゃないよ!」
 朱音は、眉を吊り上げて怒鳴る。
「うるさいね、あんたこそ引っ込んでな!」
 エディッタと呼ばれた少女は、可愛らしい顔にふてぶてしそうな表情を浮かべて言い放つ。
 二人は睨み合いながら、悟の腋の臭いを嗅ぎ、なめ回す。
 悟は、溜息をつきながら天を仰ぐ。いつもの事だが、疲れる事は変わらないのだ。

 悟は、幼いころから体臭のために他人から馬鹿にされ、嫌われてきた。悟は大柄であり力が有るために、いじめられる事はあまり無い。小学生の時に蹴りを入れて来た同級生の男子生徒を、壁に向かって突き飛ばした。突き飛ばされた生徒は、脳震盪を起こして白目をむいていた。それ以来いじめられる事は無いが、馬鹿にされ嫌われている。
 人間だけでは無く、魔物娘の生徒からも避けられていた。魔物娘の生徒は、人間のように馬鹿にしたり嫌ったりはしない。それでも、臭いのために悟を避けていた。ワーウルフや稲荷などのウルフ種の魔物娘は、マスクをして臭いを防いでいる。彼女達の優れた嗅覚には、悟の臭いはきついものだろう。
 悟としては、やれるだけの事はやっていた。毎日風呂に入り、汗をかいたらボディーシートで体を拭いている。親は悟に毎日着替えさせ、まめに服を洗濯してくれる。悟も、服に消臭、除菌スプレーをかけている。
 だが、生まれつきの体臭はどうにもならない。おまけに、悟は太りやすい体質、汗を掻きやすい体質だ。悟としては、諦めるしかない。
 体臭のために人から嫌われ、その事から悟は人付き合いを嫌うようになった。極力人には近づかず、話す言葉も必要最小限だ。悟に近づこうという者もほとんどいない。こうして悟は、小学校時代まで孤独な日々を過ごした。
 だが、中学校に入ると状況は変わった。二人の魔物娘が悟に近づいて来たのだ。一人はあかなめである朱音、もう一人は蠅の魔物娘ベルゼブブであるエディッタだ。
 朱音は同じクラスの生徒であり、一人でいる悟に積極的に話しかけて来た。他の者が嫌がる悟の体臭も、全く嫌がらない。それどころか熱心に嗅いでいる。
 あかなめは、その名の通り人間の垢を好む魔物娘だ。人間の体臭が好きな魔物娘でもある。あかなめの朱音にとっては、悟のように体臭がきつい人間男は大好物なのだ。朱音は、毎日のように悟の臭いを嗅ぎながらコミュニケーションを取った。
 初め悟は、朱音の存在を疎ましく思っていた。だが、自分のコンプレックスの元である体臭を好み、繰り返しコミュニケーションを取ろうとする朱音に好感を持つようになった。こうして二人は、徐々に恋人同士へと変わっていった。
 ところが、悟に執着する者がもう一人いた。それが、同じクラスの生徒であるベルゼブブのエディッタだ。エディッタも、悟に積極的にコミュニケーションを取ろうとし、悟の体臭を嬉しそうに嗅いでいる。
 ベルゼブブは蠅の魔物であり、人間の汗や垢、体臭を好む魔物娘だ。エディッタにとっても、悟はごちそうなのだ。エディッタは、朱音同様に悟の臭いを嗅ぎながらコミュニケーションを取った。
 こうして悟を巡り、朱音とエディッタの奪い合いが始まった。二人は、悟の臭いを嗅ぐだけにとどまらず、悟の体をなめ回すようになる。そして三人は、体を貪りあう関係へと突入していった。

 悟は、朱音とエディッタと交互にキスを繰り返した。朱音と舌を絡ませ合ったかと思うと、エディッタと口を吸い合う。エディッタと口を重ねていると、朱音の舌が割り込んでくる。朱音と舌を絡ませていると、エディッタの唇が割り込んでくる。三人は、唾液を混ぜあいながら口を汚し合う。
 朱音とエディッタは、悟の口を貪りながら悟の服を脱がしていった。制服のボタンを外し、シャツのボタンを外す。ベルトを外してスラックスを引き下ろす。そのとたんに悟の股間から濃密な臭いが立ち上った。股間が蒸れて体臭がこもっていたのだ。朱音とエディッタは、跪いて股間に顔を摺り寄せる。そして鼻を鳴らしながら臭いを嗅ぐ。
 二人は、汗の染み込んだトランクスに顔をすり付け、臭いを嗅いでいた。しばらく臭いを堪能すると、トランクスを下ろしてペニスをむき出しする。熱気と共に、さらにきつい臭いが立ち上る。二人は歓声を上げると、ペニスに、陰嚢に、陰毛に鼻を擦り付けながら臭いを嗅いだ。
 ペニスに感じる快感と二人の痴態への興奮から、悟のペニスは怒張していた。ただ、ペニスは皮をかぶっている。朱音は、皮とペニスの継ぎ目に舌を這わせて唾液を塗り込む。
「さあ、ゆっくりとむいてあげるからねえ」
 朱音は、皮の先を唇で挟んで少しずつ引き下ろしていく。エディッタも、唇で皮を挟んで引き下ろしていく。悟のペニスは皮がむけて、赤い亀頭とくびれがむき出しとなった。朱音はくびれに、エディッタは亀頭に舌を這わせる。
「チンカスがこんなに溜まっているじゃない。昨日なめ取ってあげたのに、溜まるのが早すぎるねえ」
 朱音は、嬉しそうに臭いを嗅ぎながら恥垢を舐め取っていく。悟は、人より新陳代謝が激しく、恥垢が溜まりやすい。普通の女にとっては、悟は汚らわしい存在だろう。だが、あかなめである朱音にとっては、天性のパートナーとも言える存在だ。朱音は、あかなめ特有の長い舌をペニスに這わせて、恥垢の味を堪能する。
 エディッタは朱音と共にペニスを舐め回していたが、同時にフェラチオをすると舌が短いぶん不利だ。朱音の舌が亀頭、くびれ、さおを覆い尽くしたので、エディッタは陰嚢を舐めほぐしていた。その陰嚢まで朱音の舌で覆われる。
 エディッタは、得意げな顔でペニスを舐めつくす朱音を睨み付けていた。だが、不敵な微笑みを浮かべると、悟の背後に回る。悟の尻に手を掛けて、割れ目を広げる。皺の寄ったアヌスを露わにすると、唾液を舌にのせて窄まりをなめ始めた。
「臭くて汚いケツの穴だな。あたし以外にはなめる事は出来ねえぞ」
 エディッタは、鼻を鳴らして臭いを嗅ぎながら皺を一本一本舐めていく。
 朱音は人間離れした長い舌を伸ばし、悟のアヌスを舐めようとする。だが、既にエディッタの舌が悟のアヌスに潜り込んでおり、朱音の舌は弾き出された。仕方なく、朱音はフェラチオに集中する。
 悟は、強烈な快楽に喘いでいた。朱音は、長い舌を駆使してペニスと陰嚢に快感を与えてくる。エディッタは、アヌスを解しただけでは無く、前立腺付近まで舌を潜り込ませて緻密な動きで刺激する。繰り返し二人の技を味わってきた悟でも、この快楽には耐えられない。
 悟は一声上げると、ゼリーのような白濁液をぶちまけた。悟は、魔物と繰り返し交わったためインキュバスになっている。悟の放つ精液は、量が多い上に勢いが激しい。その激流のような射精を、朱音は舌と口で受け止めていく。
 悟は、痙攣しながら精液を放ち続けた。まだ少年である悟には、インキュバスの射精時の快感は強すぎる。口から涎を垂らし、声を上げながら悦楽に溺れる。長い射精を終えたころには、白目をむきかけていた。
 やっと目の焦点があった時に悟が目にしたものは、朱音の口と顔を舐め回すエディッタの姿だ。朱音は口と舌で精液を堪能し、顔に付いた白濁液もなめ回していた。アヌスを舐めていた為に精液を浴びなかったエディッタは、朱音に飛びついて精液を舐め取っているのだ。
「この変態!あたしにそういう趣味は無いよ!」
「うるせえ!ザーメンなめる為じゃなけりゃ、誰があんたの汚い顔をなめるか!」
「これは私のザーメンだよ、返しなよ!」
 二人は、互いの口を吸い、顔をなめ回して精液を奪い合う。悟は、その刺激的な光景にペニスはすぐさま回復していく。悟の勃起を見て、二人はすぐさま悟の股間に飛びついてなめ回す。
 悟のペニスが完全に回復すると、二人は服をぬぎだした。制服やシャツを脱ぎ、スカートを下ろす。朱音は黒のシースルーの下着を、エディッタは紫のシースルーの下着をつけている。魔物娘らしい扇情的な下着だ。しかもショーツは既に濡れていて、陰毛とヴァギナがはっきりと透けて見える。
 二人は、ショーツを指でずらしてピンク色のヴァギナを露わにする。ヴァギナは濡れ光っており、甘酸っぱい匂いをまき散らしていた。
「さあ、あたしの中に来なよ。いくらでも楽しませてあげるからさ」
 朱音は、草の上に横たわって股を開いて誘う。
「そいつの締まりのないマンコより、あたしの方が気持ちいいぞ。尻の穴に入れたっていいんだぞ」
 エディッタは、地面に座り込みながら股を開いて誘う。
 悟はどちらで悦楽を味わおうか迷ったが、朱音に覆いかぶさっていった。歓喜の声を上げる朱音の口を吸いながら、痙攣するペニスをピンクの肉襞の中へ埋めていく。朱音の黒髪から漂う柑橘系のシャンプーの香りを嗅ぎながら、ペニスを愛撫する肉襞の感触を味わう。
 朱音と貪りあっている悟を、エディッタは不機嫌そうに見つめていた。だが、唇の端を釣り上げると、悟の尻に顔を近づける。激しく動かしている尻を掴むと、アヌスに舌を這わせ始めた。
 悟は、後ろから襲いかかってくる快感に体を震わせた。エディッタの舌は中へと潜り込み、前立腺を巧みに刺激する。悟のペニスは、膨れ上がり痙攣し始めた。快感に突き動かされて、悟は猛然と腰をふって朱音を攻め立てる。
 すぐに限界が訪れて、悟はペニスを抜こうとした。だが朱音は、悟のペニスを締め付けて逃がさない。悟は、耐えられずに朱音の中にぶちまけた。
 二度目にもかかわらず、激流のような射精だ。インキュバスのみがなしえる精の檄射に、子宮を打ち抜かれたあかなめ少女は、激しく痙攣しながら上り詰める。悟は、精を撃ちながら朱音を突き上げる。
 悟は、ゆっくりと朱音の中からペニスを引き抜いた。悟のペニスは、白く滑り光っている。朱音のヴァギナからは、白濁液が音を立てて溢れ出している。辺りには、精液特有の刺激臭が漂う。
 エディッタは、悟のアヌスから軽快な音を立てて舌を引き抜いた。そして悟を地面に座らせて、悟の股間に顔を埋める。精液と愛液の混合物で汚れたペニスを、おいしそうに舐め回す。初めは優しくいたわるようになめ、次第に激しくしゃぶる。
 悟のペニスを回復させると、エディッタは銀色の毛が薄く覆っているヴァギナに飲み込んだ。エディッタの中からは熱い蜜が湧き上がり、肉襞を滑らせて悟のペニスを愛撫する。悟は、エディッタを座りながら抱きしめながら腰を動かす。エディッタの青みがかった銀髪からは、ミントの香りが漂う。蠅の魔物娘なのに、エディッタの体の匂いは心地良い。
 悟の尻が掴まれ、持ち上げられた。悟は後ろを向くと、自分の尻を掴んでいる朱音と眼があう。朱音はいやらしい笑いを浮かべると、舌を伸ばして悟のアヌスに潜り込ませてきた。朱音の舌はエディッタの舌よりも長く、直腸の奥へと進んでいく。悟は、衝撃のあまり体が絶え間なく痙攣する。朱音は、陰嚢も手でくすぐって快感を与える。
 悟のペニスにも衝撃が走った。エディッタが、締め上げながら激しく腰を動かしているのだ。エディッタは、笑いながら悟の口を貪り吸う。
 悟は、前後から襲い掛かる快楽と衝撃に翻弄され続けた。

 悟は、服を着終えて木に寄りかかっていた。朱音とエディッタとやりまくった快感を反芻している。インキュバスになった身でも、二人の魔物娘を相手にする事は大変だ。だが、喜びも大きい。悟は、セックスの後の心地良さに浸りながら夕陽を見ていた。
 事後の汚れは、朱音とエディッタに全てなめ取られた。ボディーシートで体を拭こうとしたが、二人に止められた。二人にとって、悟の汚れを舐め取る事は楽しみの一つなのだ。特に、腋とペニス、アヌス、足の指はふやけるほど舐めしゃぶられた。
 なめられた為に、体はすっきりしている。あかなめは、相手の体の老廃物と疲労を舐め取り、自分の栄養に変える。その為に、悟の体の調子は良くなっていた。
 朱音とエディッタも服を着ていた。二人は、悟の体の汚れはなめるが、自分の体の汚れをなめ取る事はしない。二人とも、ボディーシートで体を拭いてから服を着た。事後の始末を終えた二人は、左右から悟の体に寄り添っている。
「ねえ、悟は進路をどうするのさ」
 右側から寄り添っている朱音が、悟に尋ねてきた。
 悟は、黙り込んで答えない。三人とも三年生であり、進路について答えを出さなくてはいけない。その事は分かっているが、悟はまだ迷っている。
「だから、あたしと福祉学科のある学校へ進もうよ。介護福祉士の仕事はこれから必要とされるんだからさ」
 朱音は福祉学科のある学校に進み、介護の仕事に就くつもりだ。あかなめは人間を健康にさせる力があり、朱音には適しているだろう。
「介護の仕事なんか止めとけよ。業界そのものがブラック企業みたいなものだぞ。それよりも、あたしと一緒に商業学科に進めよ」
 エディッタは、商業学科のある学校に進んで商業を学ぶつもりだ。ベルゼブブは、豊饒の力を持つ魔物娘として知られている。その為、農業や商業は適しているだろう。
「そんな銭ゲバと一緒になるのは止めときなよ。金しか信じられないみじめな人間になるよ」
 朱音は、いやらしい笑みを浮かべながら言う。
「金が無ければ生活出来ねえんだよ!金が有れば健康を買えるし、金が無ければ医者にも行けないんだよ!」
 エディッタは怒鳴る。
「ああ、そうかい。あんたは貧しい人から臓器を買って健康になるんだねえ。魔物娘失格だねえ」
 朱音は毒々しく笑う。
「現実を分かっていない馬鹿と一緒になっても苦労するだけだぞ。あたしと一緒になれば苦労はしないぞ。商業を学んで地に足の付いた生活をしよう」
 エディッタは、力を込めて悟を説得しようとする。
「紙幣と債権のベッドの上で最期を迎えるんだねえ。末期の言葉は『人生は虚しい』だろうねえ」
 朱音は悪意を込めて言う。
「福祉や介護の仕事は、つらい事は多いだろうさ。けれど、社会にも人にも必要とされるやりがいのある仕事だよ。虚しさは無いだろうね」
 朱音も、悟を説得しようとする。
「『やりがい』なんてごまかしの言葉でしかねえんだよ!人を食い物にする連中が好んで使う言葉なんだよ!」
 二人は、どんどんヒートアップしていく。悟は、溜息をつきながら二人から離れる。
「一人にさせてくれ。俺の事は俺が決める」
 そう言い放つと、悟は大股で二人から離れた。

 悟は、夕陽に照らされながら歩いていた。赤い光は、悟の気持ちをますます沈ませていく。
 悟は、選ばなくてはいけないのだ。自分の進路を、朱音とエディッタのどちらを選ぶか決めなくてはならないのだ。
 俺に出来る事は何だろうな。悟は、声に出さずに呟く。悟は、自分の体臭を気にする事から、コミュニケーション能力を身に着ける事が出来なかった。人から嫌がられるのに、コミュニケーション能力を身に付けろと言われても無理な相談だ。悟は、コミュニケーション能力が無い自分に出来る事が分からないのだ。
 単に体臭の事だけならば、香水をつけるなどの対策はある。だが、コミュニケーション能力の事となると簡単には済まない。
 介護の仕事では、コミュニケーション能力は必要不可欠だ。老人を注意深く観察して応対しなくてはならない。排泄物の始末をすれば良いと言う仕事では無い。
 政府は、失業対策として介護業界に失業者を移動させようとしている。だが、労働者は定着せずにすぐに離れる事が多い。
 「糞尿の始末が汚いから嫌なのだろ!失業者の分際で仕事の選り好みするな!」と非難する者もいる。これは実情を見ない者の戯言だ。失業者は覚悟を決めており、排せつ物の始末だったらやる事が出来る。コミュニケーション能力が不足しているためにつまずく事が多いのだ。コミュニケーションは、覚悟ではどうにもならない。
 商業を学ぶ道に進んでも、コミュニケーション能力の欠如はネックとなる。商業学科に進んだ者の進路は、販売、営業、事務が主だ。現在、事務は減ってきており、販売、営業の道に進む事が多いだろう。どちらもコミュニケーション能力が無ければ勤まらない仕事だ。事務の仕事に就けたとしても、やはりコミュニケーション能力は必要だ。
 では、介護福祉も商業もダメだとすればどうすればいい?俺に出来る事は有るのか?
 普通科に進み、大学に進学する時に将来就く仕事を決めると言うやり方は、悟には出来ない。悟の両親には、悟を大学に入れるだけの経済力が無いのだ。実業学科に進まなくてはならない。今、将来就く仕事を決めなくてはならないのだ。それなのに、自分に出来そうな事が無い。
 俺の様なダメ人間は、女と付き合ってはいけないかもしれないな。悟は、苦く笑う。魔物娘と付き合うという事は、一時的な恋愛では無い。たとえ少年、少女でも将来を左右する付き合いなのだ。共に歩む事の出来る者でなくてはだめなのだ。
 悟は、歩みを止めた。夕陽に照らされながら立ち尽くしていた。

 悟は、後ろから近づいてくる足音に気が付いた。ふり返らずに夕陽を見つめ続ける。足音の主は、悟の右側に寄り添った。
「一人にしてくれと言ったはずだぞ、朱音」
 顔をしかめる悟に、朱音は微笑みかける。
「言い忘れた事が有ったからねえ」
 朱音は、なだめる様に言う。振り向こうとしない悟を、穏やかな微笑みを浮かべながら見つめる。
「あんたが進路の事で悩んでいる事は分かっているよ。なんで悩んでいるかも分かっているつもりさ。あたしは、あんたを手助けできると思うよ」
 悟は、険しい表情のままだ。朱音は、悟を見つめながら穏やかに話し続ける。
「一緒に進んでいくという事はね、相手を手助けしていくという事でもあるんだよ。どうしても駄目な事もあるけれど、あんたの努力とあたしの手助けで何とかなる事だってあるんだよ。あんただって、あたしを手助けする事は出来るんだしさ」
 夕暮れの校舎の外には、穏やかな風が吹いている。朱音の甘い匂いが悟に届く。
「この事は、エディッタだって同じさ。あいつだって、あんたと助け合うつもりはあるだろうさ」
 言ってから、朱音は苦笑する。激しくののしり合った相手をフォローする事が恥ずかしいようだ。
「後はあんたが選ぶんだよ。あんたの言う通り、あんたの事はあんたが決めるんだからねえ。でも、あたしとあんたは、一緒にやっていけるという事は覚えておいてね」
 朱音は、微笑みを浮かべながら悟から歩み去っていった。
 悟は朱音に何も答えず、追う事もしない。だが、朱音の言葉を心の中で反芻していた。

「あたしの言いたい事を言いやがって、あの女郎」
 悟から少し離れた木の影で、エディッタは呟いていた。夕陽に照らされた顔は、少しふて腐れている。
「だけどあの女郎の言う通りさ。あたしは、あんたと助け合うつもりだよ。あたしとあいつ、どちらを選ぶかはあんた次第さ」
 エディッタは、小さく呟きながら微笑んだ。

 悟は、校舎の外を足早に歩いていた。授業が終わって疲れているが、早く家に帰って授業の予習、復習をしたい。彼の所属する福祉学科の授業は厳しく、家でもきちんと勉強しないと付いていけない。
 悟は、福祉学科に進学した。介護の仕事に就く事にしたのだ。自分が何を仕事として生活するかを考え、その結果、社会に必要とされている事をやる事で飯を食う事にしたのだ。金を手に入れる事だけを目的にして働く事も考えたが、悟は働く意味を切り捨てる事は出来なかった。販売、営業、事務にも社会的な意味はあるが、介護の仕事にはより意味がある様に悟には見えたのだ。
 介護業界は問題が多い。だが、魔物の業界進出でいくらか改善は進んでいた。業界を管理する厚生労働省にも、魔物の職員は増えている。魔物達は、介護に関わる政治家へのロビイスト活動も積極的に行っている。少しずつだが、介護業界は変わってきている。
 介護福祉の勉強は分量が多い。その為に、学ばなくてはならない事は多く、楽な学生生活は送れない。厳しい勉強生活をしても、得られるものは介護福祉初任者研修終了だ。介護福祉士の資格を取るためには、大学や専門学校に進むか、介護の現場で働きながら資格を取らなくてはならない。
 幸い、地元の専門学校だったら進学させる事は出来ると両親は言ってくれている。悟は、学校を卒業したら専門学校に進学して資格を取るつもりだ。
 悟は、明日にあるコミュニケーションの授業を思い浮かべた。悟は、コミュニケーションの教師にさっそく劣等生として目を付けられている。悟のパートナーの手助けが無ければ、困難な授業だ。
 悟の体に柔らかい衝撃がぶつかった。嗅ぎなれた甘い匂いがただよってくる。その衝撃と匂いの元は、鼻を鳴らしながら悟の臭いを嗅いでいる。
「ああ、やっぱりあんたの体は臭いねえ。この臭いを毎日嗅がないと、あたしの体が持たないよ」
 悟のパートナーであるあかなめ少女は、悟の右腋に鼻を擦り付けていた。そこからは、悟ですら頭がふらつく臭いが出ている。
 悟と朱音は、進学後も付き合っている。進学した学校、学科は同じであり、共に勉学に励んでいる。そして悟は、朱音を恋人として選んだのだ。
 朱音は、人間ではありえない長い舌を伸ばし、服の隙間から悟の腋をなめ回す。恋人同士でも、この様な事をする者は少ないだろう。二人は、臭いと味を楽しみ合っている。その場は校舎の影ではあるが、人に見つからないとは限らない。だが、二人とも平然と楽しんでいる。
 変態じみた行為を楽しむ二人の所へ、一人の少女が乱入した。
「二人だけで楽しんでいるんじゃねえよ。あたしも混ぜな」
 ベルゼブブである少女は、悟の左腋に顔を摺り寄せて臭いを嗅ぐ。紫の羽を持つ少女は、あかなめ少女とは違う甘さのある匂いがする。
「人の男に手を出すんじゃないよ!」
 朱音は眉を吊り上げるが、エディッタは笑いながら悟の腋の臭いを嗅ぎ続ける。
「あたしの男でもあるんだよ、一人占めしなさんな」
 エディッタは、同じ学校の商業学科に進学した。校舎が隣接している為、放課後はこうして悟の所に来るのだ。
「悟は、あたしを選んだんだよ。いい加減にあきらめなよ!」
 朱音は噛みつくように言うが、エディッタは涼しい顔だ。
「法律が変わるんだよ。一夫一婦制は崩れるんだ。一人の男が複数の女と結婚しても構わないんだよ」
 エディッタの言う事は事実だ。重婚を認める法律が、現在国会に提出されている。成立する事は、ほぼ確実だ。
 なぜ、このような法律が可決されようとしているかと言うと、黒馬の魔物娘バイコーンの活動のためだ。バイコーンは、一人の男を中心にしてハーレムを築く魔物娘である。バイコーンにとっては、一人の男が複数の女と結婚する事が望ましい。そこでバイコーン達は、魔王の娘であるリリムに日本の民法を変える事を請願したのだ。
 リリムはこの請願を快諾し、魔物娘達に命じてロビイスト活動をさせた。魔物娘は日本に浸透しており、重婚禁止と言う近代日本の原則の一つを変えさえる事に成功しようとしているのだ。一人の男が複数の女と結婚する、逆に一人の女が複数の男と結婚する事が可能になるのだ。
 ただ実際には、バイコーン以外にはハーレムを作る者は少ないだろう。魔物娘は、一夫一婦が原則だ。もっとも、例外的な魔物娘もいる。
「あたしは、一度目を付けた男は逃さないんだよ。重婚してでも手に入れるのさ。それに、仕事の違う夫婦なんて当たり前だろ」
 エディッタは、ひざまずいて悟の股間に顔をすり付けた。たちまち悟の股間は固くなる。
「ほら、悟だってあたしが欲しいんだよ」
 エディッタは、悟のスラックスとトランクスを脱がす。怒張したペニスに顔を押し付けて臭いを嗅ぐ。
「悟が欲しがっているのはあたしだよ!あんたは引っ込んでいろ!」
 朱音もひざまずいて、悟のペニスに鼻を押し付けて深呼吸をする。そのまま二人は、濃厚な臭いと味のするペニスを競いながら舐めしゃぶり始めた。
 悟は、苦笑しながら快感に身を任せている。俺は一生の決断をしたつもりなのに、思わぬ結果になったな。まあ、楽しいからいいけれど。それにしても、俺に執着するなんて二人とも物好きだな。
 臭いのきつい男は、自分のペニスを貪る二人の少女の頭を撫でまわした。
 
15/05/02 20:17更新 / 鬼畜軍曹

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