キマイラ作家は今日もエキセントリック
俺は、会社の仕事を終えて家に帰って来た。家には同棲相手がいる。俺は、その女の事を思って溜息をつきそうになる。
別に、俺はその女が嫌いなわけでは無い。ケンカしている訳でも倦怠期を迎えている訳でも無い。ノロケになるが、仲はいいと思う。問題なのは、その女の頭がアレなことだ。
俺は、家の鍵を開けて二階へと上がる。その女の部屋の前に着くと、ノックをしながらただいまと言う。
「お帰りなのじゃ、わしも今起きた所じゃ」
言って置くが、今はもう日が暮れている。にもかかわらず、部屋の中にいる女は「今起きた」と言った。そして、これは毎日の事だ。
部屋の中には、俺の同棲相手が寝転がっていた。ノートパソコンを熱心に相手している。これが執筆だったら文句は無いが、この女がしていることはゲームだ。旧日本海軍の軍艦を擬人化したキャラクターが登場するブラウザゲームをやっている。
この女の格好は、見事なまでにだらしない。よれたシャツの上に大きめのパーカーを羽おり、穴の開いたスウェットパンツをはいている。女の周りには、スナック菓子の袋やカップ麺の容器、ジュースのペットボトルが散乱している。
見事なまでにダメ女の姿だ。だが、この女の姿は異様な迫力がある。寝ぐせの付いた金色の髪からは、茶色と黒色のねじれた角が生えている。シャツの肩部分は空いており、右肩からは山羊の顔が、左肩からはドラゴンの顔が覗いている。パーカーの背の部分には穴が開いており、そこから黒い翼が生えている。そして尻の部分からは、紫色の蛇がのぞいていた。
俺の同棲相手は、キマイラと言う魔物娘だ。見るからに人間とは違う体をしている。同時に、人間の女と同じ体の部分も持っているのだ。弛緩している顔は、若い女の顔だ。たるんだシャツの胸元からは、女の白い胸の谷間が見える。
人間離れした姿と力を持ったこの魔物娘は、普通の人間よりもだらしのない生活をしている。一応小説家だが、ほとんど頭のアレな引きこもりだ。
「頼んだ物は買って来てくれたか?」
俺は、スーパーの袋を渡す。キマイラは、袋の中からカップの焼そばを見つけると嬉しそうに笑う。
「おお、ちゃんとわしの主食を買って来てくれたな」
引きこもりキマイラの嬉しそうな声に、俺はため息をついた。
俺は、豚肉のしょうが焼きとサラダを作り、キマイラに渡した。いくら何でも、カップ焼きそばと菓子だけでは栄養がかたよる。仕事から帰って来て、なぜ家でゴロゴロしている奴の飯を作らなければならないんだという思いはある。そうは言っても、作らなければキマイラの飯はかたよってしまう。
キマイラはしょうが焼きは喜んで食べたが、サラダは嫌がった。俺は、無理やりキマイラに食わせる。カップの焼そばを買って来てやらないぞと言うと、キマイラはしぶしぶ食べた。
キマイラは、ほとんど家から出無い。食料や日用品は俺に買わせる。衣料品は通販で買う。本は、ネット通販で買ったり電子書籍を買う。ゲームは、ダウンロード販売している物を買ったり、ブラウザゲームをやる。あとはテレビでやっているアニメを見ていれば、引きこもるためには不便な事は無い。
見事なまでのダメ女だが、仕事はしている。前述したように、こいつは小説を書いて金を稼いでいるのだ。どのような小説を書いているのかと言えば、一言で言う事は出来ない。何故なら、こいつは四重人格だからだ。獅子、山羊、竜、蛇の人格が有る。それぞれの人格が作風の違う小説を書いているのだ。
今出ているのは山羊の人格であり、バフォ君という名前だ。本名はアイカテリニと言うが、四つの人格はその名を嫌っている。それぞれが勝手に自分の付けた名を名乗っている。山羊の人格が自分に付けた名は、バフォ君という訳だ。何でも、山羊の体を持つ大悪魔バフォメットから取ったらしい。わざわざ自分の名前に自分で「君」を付ける辺り、良く分からないネーミングセンスだ。
バフォ君の書く小説は、SF小説やファンタジー小説だ。ライトノベルと言われる、主に十代が読むジャンルの小説を書いている。アニメ風の挿絵が付き、やたらと擬音が多い文体の小説を書いている。登場人物の言動は非現実的なものが多く、小説の登場人物としてもエキセントリックだ。その一方で、政治学、経済学、歴史学、文化人類学、宗教学、情報学、工学、脳科学などの専門的な話しが出てくる。
最近書いている物は、中世ヨーロッパ風の異世界を舞台としたファンタジー小説だ。ネコミミ娘、イヌミミ娘、魔法少女、ビキニアーマーの女戦士、メイドが出て来て、主人公は彼女達とハーレムを築く。そのかたわらに、オークや触手と戦うという内容だ。主人公は、女の子達とエロい事ばかりしているかと思うと、触手と政治思想について激しい論争を繰り広げたりする。
俺の言っている事が分からないという人が多いだろう。俺自身、何を言っているのか分からない。バフォ君の書く物がよく分からないのだ。このわけの分からない物が、きちんと出版されているのだ。そして原稿料と印税をそれなりに稼いでいた。
飯を食い終わったバフォ君は、ゴロゴロ転がりながらブラウザゲームをやっていた。食器は、俺に洗わせている。たまりかねて、仕事は進んでいるのかと聞いてみた。
「働けば負けた気がする」
などとほざいて下さる。素晴らしいまでのダメっぷりだ。
「仕事をして金を稼ぎ、家事もしてくれる肉奴隷が欲しいのじゃ」
と言いながら、俺を見上げてくる。
俺は何も言わず、バフォ君の背中を踏みつけた。
「何をするのじゃ!高位の魔物であるわしを踏みつけるとは無礼じゃぞ!」
俺は、わめき散らすバフォ君を踏みつけ続ける。その時、俺は独特の甘い匂いを嗅いだ。匂いはバフォ君からする。俺は、何日間風呂に入っていないのか尋ねる。
「三日間風呂に入っていないが、それがどうした?」
俺は、バフォ君を抱えて風呂に連行しようとする。
「風呂に入るのはめんどくさい。風呂に入らなくても死にはしないのじゃ」
確かに死にはしないかもしれないが、それを言ったら女として終わりだ。俺は、バフォ君を無理やり風呂へ入れようとする。バフォ君と取っ組み合いをしている内に、俺は押し倒されてしまう。
バフォ君からは、甘い匂いが漂って来る。風呂に入っていない為に濃さがある匂いだ。匂いと共に、バフォ君の柔らかい体を感じる。
「ほう、わしを汚いと言って置きながら、欲情しておるではないか」
バフォ君はニンマリと笑う。俺のチンポは、バフォ君の匂いと感触で勃起していた。バフォ君がゲームに夢中なため、三日ほどセックスをしていないのだ。
「わしも、肉奴隷と性欲処理をしたいところだったのじゃ」
そう言うと、バフォ君は俺に覆いかぶさってきた。
バフォ君は俺の口に吸い付いた。そのまま音を立てて口を吸い、舌を口の中に潜り込ませてくる。バフォ君のディープキスは、焼きそばとしょうが焼きの味がする。
俺達は互いの体を愛撫した。俺はバフォ君の胸を揉み、バフォ君は俺の尻をなで回す。バフォ君の豊かな胸は、俺の手の中で形を変える。バフォ君の山羊の毛で覆われた右手は、柔らかくて滑らかだ。
俺は、バフォ君の顔を見上げた。締まりのない表情だが、彫りの深い整った顔立ちをしている。バフォ君の眼は、左右の色が違う。右眼は青で左目は赤だ。その深い青と赤の眼が、じっと自分を見つめてくる。
バフォ君は俺のシャツを脱がし、スラックスとトランクスを引き下ろす。そのままむき出しになった胸をなめ回し、腹を愛撫する。バフォ君は俺の股間に顔を寄せ、音を立てて臭いをかぐ。
「臭いチンポじゃ。わしの事を不潔呼ばわりできるのか?」
ニヤニヤ笑うと、俺のチンポをなめ回す。亀頭を舌で愛撫し、くびれをこそぎ取るように舐め、裏筋をなぞる。そして袋を口に含んで玉を舌ではじく。
「味も濃いぞ。きちんと洗っておるのか?」
昨日シャワーを浴びたが、出勤時と退勤時に汗をかいた。その上、職場で蒸れてしまったのだろう。バフォ君は臭いと言いながら、嬉しそうに臭いをかいでなめ回す。そのままチンポを口に含み、激しく吸い上げる。
俺は、そのままバフォ君の口の中に出した。激流のような射精をしてしまう。バフォ君は飲み込もうとするが、激しくせき込み始める。山羊の右手を口に当ててせき込んでいる。顔を上げると、口と鼻が精液で汚れていた。
「溜まっていたのだな。多い上に濃いぞ。鼻に逆流してしまったではないか。臭いで頭がおかしくなる」
バフォ君の言う通り、バフォ君の鼻の穴から白い精液が出ていた。バフォ君の顔からは、強烈な刺激臭がする。
バフォ君達と交わり続けたせいで、俺は男の淫魔であるインキュバスとなった。人間離れした精力を持つようになったのだ。その俺が、三日間精液を出さなかったのだ。量が多くて濃いのは当たり前だ。
「今度は、わしを気持ち良くしてくれ」
そう言うと、バフォ君はパーカーとシャツ、ブラを脱ぎ捨てる。引きこもり生活をしているくせに、太ってはいない。豊かな胸が目立つ上半身だ。ズボンとショーツも脱ぎ捨てた。金色の毛に覆われたヴァギナがあらわとなる。バフォ君は、座り込んで股を広げる。
俺はバフォ君の所に行き、身を屈めた。バフォ君のヴァギナに顔を近づけると、濃厚な匂いが鼻を覆う。三日間熟成された雌の匂いだ。俺は金色の恥毛をかき分け、ヴァギナに舌を這わせる。濡れたヴァギナは、濃い性の味がする。俺は味わいながら、ピンク色の襞を丁寧になめていく。
「肉奴隷がわしの汚れたマンコをなめている。燃える、燃えるのじゃ!」
バフォ君は、よだれを垂らしながら恍惚としていた。この変態雌山羊は、俺に汚れをなめさせることで快感を得ているのだろう。よだれどころか涙と鼻水まで流して喜んでいる。よだれと鼻水には精液が混ざっている。とても高位の魔物であるキマイラには見えない。
俺は身を起こし、回復したチンポをヴァギナに当てた。そのまま熱いぬかるみの中へチンポを沈めていく。俺の怒張が、熱い肉の渦へ引き込まれて行く。肉と蜜の渦の奥に、硬い部分がある。そこを繰り返し突いてやる。
俺は、バフォ君の姿をじっくりと見た。バフォ君は、涎を垂らしながら喘いでいる。上気した美貌は、汗で濡れ光っていた。白い胸はピンク色に染まり、汗で濡れている。右腋と左腋も汗で濡れて、濃い匂いが漂って来る。
俺は、バフォ君の右腋に顔を埋めた。濃密な匂いを嗅ぎながら、濡れ光る腋をなめ回す。風呂に入っていないバフォ君の匂いと味を貪る。股間に力が湧いてきて、バフォ君の奥へ奥へと突き上げてしまう。
「相変わらず、匂いのこもったわしの腋をなめ回すのが好きなのじゃな。この変態肉奴隷め。」
不意に、俺の左頬に柔らかい感触がした。バフォ君の右肩に付いている山羊の顔が、俺の顔に頬ずりをして来たのだ。なめらかな毛の生えた顔は温かい。俺は頬をすり返す。
俺は、再び限界を迎えようとしていた。出そうだと伝えると、中出ししろとバフォ君は言う。俺はバフォ君の言葉に従い、たまった精液をバフォ君の中にぶちまけた。
二度目にもかかわらず激しい射精だ。インキュバスの射精は、人間とは段違いの激しさだ。他の女はあまり知らないから比べにくいが、バフォ君のものは名器だ。射精を促され、精液を搾り取られる。腰の奥から、体の奥底から精液が吸い出される。
俺は、バフォ君の胸に顔を埋めながら寄りかかった。バフォ君の胸は、どんなクッションよりも柔らかくなめらかだ。胸の谷間は、肉の匂いと汗の匂いが混ざり合い、その匂いは俺の顔を包み込む。俺は、深呼吸しながら匂いを堪能する。
いきなり俺は押し倒された。バフォ君は、眼をぎらつかせながら俺の上にまたがる。俺の顔に自分の顔を寄せると、激しくなめ回し始める。
「バフォ君ばかり相手にするんじゃねえ!次はあたしが相手だ!」
この喋り方は、獅子の人格である勇次郎だ。勇次郎は、俺の体をなめ回しながら腰を動かしてチンポを締め上げる。俺のチンポは勃起し始める。
「そうだ、チンポを勃起させろ。あたしとの戦いは始まったばかりだ!」
勇次郎は、よだれを振りまきながら喚く。仕事で疲れているのに、ますます疲れる事になりそうだ。
俺は、勇次郎と一緒にベッドに横たわっていた。勇次郎は、俺に腕枕をしながら寝息を立てている。勇次郎らしい姿だ。
勇次郎は、獅子の人格である事から小説には縁が無いように見える。だが、勇次郎もまた小説家だ。格闘を題材とした小説を書いている。と言ってもまともな格闘小説では無い。訳の分からない変態格闘家が次々と出て来て、主人公と意味不明な戦いを繰り広げる。
勇次郎の言う事も良く分からない。「百キログラムのカマキリと脳内で戦う」だの「三千の英霊と共に戦う」だの意味不明な事を口走る。
俺は、横たわりながら辺りに立ち込めた性臭をかぐ。精液と愛液、汗、女肉の匂いが混ざり合っていた。俺を腕枕してくれるキマイラの右腕は、山羊の毛で覆われている。汗で濡れた毛の匂いと女肉の匂いが混じっている。汗と唾液で濡れたキマイラの右腋からは、相変わらず濃い匂いがただよってくる。俺は、混ざり合った匂いを楽しみながらかぐ。
バフォ君の言う通り、俺は変態かもしれない。普通なら嫌がる匂いをこうして楽しんでいるのだから。ただ、付け加えると、バフォ君や勇次郎の匂いだから好きなのだ。
俺は、バフォ君たちとの生活を楽しんでいる。たとえバフォ君達がダメ魔物であっても、変態魔物娘であっても、頭がアレな女でも、俺は好きなのだ。
俺とキマイラとの生活は、エキセントリックでも穏やかなものだ。ただ、少し波紋が起こる事もある。
その日、俺とキマイラは、キマイラの母に呼び出された。話があるそうだ。具体的にどういう話なのかは伝えられていない。俺達は、さっそくキマイラの母の元に向かった。俺達の住んでいる家は、キマイラの母の館の離れ家だ。同じ敷地内にキマイラの母は住んでいる。
キマイラの格好は、いつにも増してすごかった。黒地に銀糸の縫い取りのあるドレスを着ているのだ。そのドレスは、レース、フリル、リボンが目立ち、スカートはパニエで膨らませている。耳や首、手や指には繊細な造りの銀製の装飾品を付けている。足には黒皮の編上げのブーツをはいている。中世か近世のヨーロッパ宮廷で似合いそうな格好なのだ。
蛇の人格であるリュネットが出ているのだ。リュネットは、退廃とか耽美と言う世界にあこがれ、浸ろうとする。この黒いドレスは、リュネットの美意識の表れだ。
もっとも、リュネットには似合わないドレスだ。小柄な少女なら似合うだろうが、リュネットは大柄な女だ。しかも右肩に山羊の頭、左肩に竜の頭が付いている。背には竜の翼が広がっている。右手は山羊の手、左手は龍の手だ。足には獅子の毛が生えている。フリルやレースの多いドレスが似合うはずが無い。
このドレスは、蜘蛛の魔物娘アラクネの仕立て屋にオーダーメイドで作ってもらったのだ。アラクネは、服飾の分野では優れた才能を示す。それは分かるのだが、客に対して似合っているか否か伝えないのだろうか?
リュネットは、退廃と耽美の世界を小説に描いていた。ジャンル分けすると、歴史ファンタジーを書く事が多い。もっとも、リュネットはファンタジーと言う言葉を嫌う。自分の書く物を歴史幻想小説と称している。この事から分かるように、リュネットの小説には古めかしい言葉が数多く出てくる。
母屋である館に向かいながら、俺はリュネットが出て来た事をいぶかしんだ。獅子の人格か竜の人格が出てくると思ったのだ。山羊の人格であるバフォ君は、怠け者だから出てこない。蛇の人格であるリュネットは、四つの人格の中では一番気難しい。何故、リュネットが出て来たのか、俺はいぶかしむ。
「また、前世の夢を見たわ」
リュネットは、唐突に言い出す。リュネットは前世の妄想にひたる事が多く、しばしば俺に話すのだ。俺に話した後は、それを小説に書く。
「私達は、少年十字軍の一員だったの。私の名はアンリ、あなたの名はフィリップ。二人とも十代の少年だったわ」
付け加えると、リュネットの語る前世では、俺達は二人とも男である事が多い。
「私達は、神とキリストの名を称えながら聖地へ旅をしていた。その道中で、私達は禁じられた関係となったの。聖なる軍の一員でありながら、私達は愛し合ったの」
俺は、リュネットから繰り返しBL話を聞かされて来た。大抵は、俺とリュネットが主人公のものだ。リュネットが「攻め」で、俺は「受け」だ。
「少年十字軍は失敗し、私達は破滅していった。あなたは、異端者として捕えられた。裸にされて鞭打たれ、最後は火炙りになった。あなたは焼かれながら、キリストを称えていた」
リュネットは、恍惚とした表情で語っている。おそらく俺の姿は目に映っていないだろう。映っているのは、火炙りにされている妄想の中の俺だ。
「私は、奴隷商人に異教徒へ売られた。私は異教徒に凌辱されながら、あなたと愛し合った記憶を壊れた心の中で反芻するの」
陶然と語るリュネットに、俺はため息をつく。俺は、こんな狂った話を何度聞かされたことか。しかも、この妄想を小説に書くのだ。
俺は、館に着いた時はすでに疲れていた。
館は、ゴシック様式を取り入れた時代がかった物だ。魔物娘にふさわしい館かもしれない。強い存在感を出している館だ。
このような館を建てる事が出来る事から分かるように、リュネットの母は富と権力を持っている。キマイラは高位の魔物だ。その力から、重要な地位についている事が多い。リュネットの母も、政界、財界、官界、マスコミにパイプを持つ実力者だ。
もっとも、キマイラは多重人格の魔物であり、エキセントリックな者が多い。リュネットの母も、頭がアレだ。それは、この館に入ればすぐに分かる。
館に着くと、使用人であるキキーモラが案内してくれた。キキーモラとは、狼の特徴を持つ魔物娘だ。イヌ科の耳と尻尾が特徴である。使用人として働く事が多く、メイド服がトレードマークとなっている。
だが、そのキキーモラの着ている服はメイド服では無い。ヴィスコンティの映画に出て来るような、宮廷服みたいな制服だ。この制服は、館の主であるリュネットの母の趣味だ。
ゴシック様式の館の中は、絵画や彫像が並んでいる。いずれも普通では無い。例えばある絵画は、上半身裸の男が槍を天空へ突き上げている。絵のタイトルは「力への意志」だ。また、ある彫像は、筋骨たくましい男と男が抱き合っている物だ。彫像のタイトルは「強者の友情」だ。リュネットの母の頭がアレである事がお分かりだろう。
俺達は、キキーモラに「謁見の間」に案内された。謁見の間をあけると、ワーグナーの「ニュルンベルグのマイスタージンガー」が大音量で流れて来た。謁見の間には、ヴィスコンティ映画の様な制服を着た魔物娘達が整列している。
謁見の間の奥には台座があり、その上に金箔を這った玉座がある。玉座には、ナチスの親衛隊のような黒い制服を着たキマイラが座っていた。彼女はブランデーグラスを揺すりながら、整列している魔物娘達を見下ろしている。このキマイラが、リュネットの母だ。
「我が娘よ、久しぶりだな!」
リュネットの母の声が、ワーグナーの音楽と共に響き渡る。
リュネットは、フリルとレースの多いドレスのスカートをつまんでお辞儀をする。
俺は、リュネットの母に会釈をする。後は、「地獄に堕ちた勇者ども」と「キャプテン・アメリカ」の混ざり合ったような空間を眺めていた。
もし、親子でエキセントリックな対決をしているだけならば、今回の事は穏便に済んだだろう。不愉快な事はあまり無かったはずだ。
リュネットが呼び出された理由は、リュネットに関する資料の整理だ。学校時代から会社務めしていた頃の資料が館にはある。それを整理する事を言い渡されたのだ。
俺はリュネットを手伝い、書類やノート、手帳、写真などを整理していた。リュネットの指示に従い、捨てる物と残しておく物を分けるのだ。リュネット一人では難しいだろう。
リュネット一人では難しいと言ったが、量が多いだけが理由では無い。一番の問題は、リュネットの精神状態だ。リュネットは、資料の整理を始めてから落ち着きがなくなっている。書類を同じ場所に戻したり、写真を見ながら微動すらしなくなったりしている。
俺はため息をこらえる。リュネットにとって一番つらい事は、「現実」と対峙する事だ。このリュネットの資料の中には、過去のリュネットの不快な現実がある。リュネットの情緒を不安定にする物ばかりだ。
リュネットは、上手く生きられなかった者だ。生まれながらの多重人格であり、しかも不器用な性質だ。不登校にはならなかったもの、学校ではかなり苦労したらしい。大学を出た後は、母が筆頭株主をしている会社に就職した。はたから見ればうらやましい事だが、リュネットの様に安定性の無い者には、会社務め自体が苦行なのだ。
俺は、リュネットと会社で出会った。俺は、先輩社員としてリュネットに仕事を教えたのだ。リュネットは必死に仕事を覚えて、仕事に取り組んだ。だが、それでも不器用さは目に付いた。働いているリュネットは、はたから見ても辛そうだった。
リュネットは、この苦行から自分の力で抜け出した。リュネットは読書家であり、自分でも小説を書いていた。リュネットの書いた小説が新人賞を取り、リュネットはプロの小説家になる事が出来たのだ。
リュネットは小説家になる事で、自分好みの世界を築き上げ、その世界に浸る事が出来るようになった。不愉快な外出も、あまりしなくて良くなった。小説家になってからのリュネットは生き生きとしている。
リュネットにとって過去の事は、不愉快な事なのだ。彼女は、学校時代の者とは合わないようにしている。会社務め時代の者も、俺以外には誰とも会わない。俺は、例外的に一緒にいる事を許された者なのだ。
八時間以上時間を使って、資料の整理は終わった。二人がかりならば、四時間で済んだだろう。リュネットの精神状態ゆえに、ここまで時間を必要としたのだ。
ちょっと外へ出てくると言い、リュネットは部屋から出た。声は消え入りそうであり、肩を落とした後ろ姿は心もとない。
だが、俺は一人にさせた。少し一人にさせた方がいいと思ったからだ。俺は、小さく震えるリュネットを見送った。
すでに日が暮れて、外は暗くなっている。そろそろリュネットを探し出した方がいいと考え、俺は外へ出た。
リュネットの館には大きな庭があり、そのどこかにリュネットはいるだろう。俺は、懐中電灯を借りて庭を歩き回る。花壇や噴水の辺りを懐中電灯で照らしていく。
リュネットは、庭の一角にあるあずまやにいた。椅子に座りながら、照明に照らされた花壇の花を眺めている。
俺は、リュネットに声をかけて近づく。リュネットはぼんやりとした表情で俺を見る。目付きは、どこか虚ろだ。俺はリュネットに家に帰ろうかと話すが、リュネットの反応は鈍い。仕方なく、俺はリュネットの隣に座る。
俺とリュネットは、しばらく無言のまま椅子に座り続けた。共に花壇の花を見つめ続ける。水仙の黄色い色は、照明の下で映えている。
俺は、小説の話を持ち出す。次の作品は、どういうものを書くつもりなのか聞く。
リュネットは、館に来る途中話した少年十字軍の物語を書くつもりだと話す。これから資料を集めて読み込み、その後でプロットを組み立てるつもりだそうだ。小説の話をしている内に、リュネットの言葉に力が戻ってくる。
俺は、一通り新作の予定について話を聞き出す。その後で、過去のリュネットの作品に対する好意的なレヴューについて話した。リュネットの作品を期待している人がいる事を話す。
そう、リュネットの作品を期待している人達がいるのだ。その人達がいる限り、リュネットは必要とされる存在だろう。例え、現実とうまくやっていけない引きこもりだとしてもだ。
リュネットは、俺の肩に頭を寄せて来た。リュネットの人間の頭が俺の肩に、山羊の頭が俺の腕に寄りかかる。
俺はリュネットの体の感触を感じながら、リュネットを受け止めていた。
俺は、リュネットと離れに戻ろうとした。だが、リュネットはまだ用があるらしい。仕方なく、俺は館の廊下で庭を見ていた。
広い庭の所々は、照明で照らされている。照明の明かりの下に、噴水や花壇、彫像が浮かび上がる。リュネットの母の富が分かる庭だ。
庭を見ている俺の後ろから、足音が聞こえて来た。窓ガラスに、リュネットの母が映っている。俺は、ふり返らずに庭を見続ける。
「なぜ、私がリュネットを呼びつけたのか分かるかしら?」
リュネットの母は、穏やかに聞いてくる。
説教臭い話だったら聞くつもりはありません、と振り返らずに俺は言う。
「それでは独り言を言う事にするわ」
リュネットの母は、俺の背に話しかけてくる。
「リュネットが小説を書く事はいい事よ。引きこもる事も仕方が無い事よ。でも、現実に触れる必要はあるわ」
リュネットの母は、諭すように話す。
「物語は、現実と触れた結果生まれる物よ。たとえファンタジーを描いたとしても、それもまた現実に触れなければ生まれない物だわ。今回の事は、あの子に必要な事なの」
俺は、何も答えずにその場を離れる。
俺の背後から、苦笑するような気配がした。
俺は、リュネットの母から離れた廊下で再び庭を見る。苛立ちを抑える事は出来ない。
現実を見ろ、か。陳腐な説教だ。「現実」を見る、見ないはリュネットの自由だ。リュネットは他人に迷惑をかけず、自分の食い扶持を稼いでいる。リュネットの書く小説は、人から必要とされている。「現実」を見る事を強要される筋合いはない。母親にも強要する権利は無い。
物語は、現実との対峙の結果生まれる。確かにその通りかもしれない。だが、物語をどのように書くかは、その人次第だ。不快な過去と対峙させられる筋合いはない。下らない説教で正当化しながら、「現実」を押し付ける事は見苦しい行為だ。
俺は、苛立ちを抑える事が出来ずに、その場を大股で離れた。さっさと、リュネットと共に離れに戻ろうとする。
その時、外から羽ばたきの音が聞こえた。同時に獣の咆哮のような物が聞こえる。
俺は、あわてて外を見る。月が輝く空で、翼を持った獣の様な者が二頭対峙している。
「娘よ、そなたの力を確かめてくれるわ!」
片方が高らかに宣言する。
「我が母よ、望む所だ!我の力を思い知るが良い!」
もう片方が、咆哮と共に答える。
二頭の獣は、空中で激しくぶつかり合う。風が巻き起こり、炎が交差する。
どうやら竜の人格であるファーブニルが出たらしい。ファーブニルもまた小説家だ。中世ヨーロッパ風の異世界を舞台としたファンタジー小説を書いている。ドラゴンと勇者が戦う物語や、ドラゴン同士が最強の座を巡って戦う物語を書いている。
作品の中で、「強敵と書いて友と呼ぶ」と言った登場人物の関係を描いていた。作品だけでは無く、ネットの対戦ゲームでもその関係を求めている。挙句の果ては、この様に母と戦い始める。「おやじ越え」ならぬ「おふくろ越え」をしたいらしい。
轟音や爆音が響き、怒号と咆哮が交差する。たいした騒ぎだが、もう、こんな騒動は珍しくは無い。使用人達は、すました顔で仕事を続けている。近所の人も、いちいち慌てない。
俺は、母と会う時にリュネットが出て来た理由を考えた。一番現実を嫌う人格はリュネットだ。そのリュネットが出て来た理由は、リュネットなりの覚悟があるからではないだろうか?リュネットは、今回何をされるのかを予測し、あえて出て来たのではないだろうか?
俺は、空で繰り広げられる派手な母娘のじゃれ合いを見つめる。何だかんだ言っても、あの二人は仲がいいのだろう。母も母なりに考えて、今回の事を仕向けたのだろう。もしかしたら、今回の事はいい結果になるかもしれない。俺が、腹を立てる必要は無いかもしれない。
俺はそう考え直しながら、親子の空中戦を眺めていた。
そう考えた事もあった。俺は、あの一件は完全な失敗だと、今確信している。リュネット達は、変な方向にこじれたのだ。
俺は、リュネットの部屋に裸でいる。鎖でつながれ、四つん這いにされているのだ。俺の後ろにはリュネットが立っている。リュネットはボンデージ・ファッションを着ていた。
「私は前世の夢を見たわ」
リュネットは、微笑みながら言う。
「私達は、ローマ帝国で生きていたのよ。私は青年貴族、あなたは少年奴隷。私は、鎖につながれたあなたと愛し合ったのよ」
それは愛と言えるのか?
「私達は、こうして再び巡り会えた。私達の愛の物語をまた描く事が出来るわ。でも」
リュネットは、優しい微笑みを浮かべる。
「描くだけでは物足りないわ。こうして出会えたのだから、現実に試してみるべきだわ」
リュネットは、双頭ディルドにローションを塗る。片方を自分のヴァギナに挿入していく。リュネットは、自分の中に入ってくるディルドの感触に恍惚としている。完全にディルドをくわえ込むと、もう片方を俺の尻に向ける。
「さあ、二千年ぶりに愛し合いましょう」
これは愛じゃない!仮に愛でも、俺の望む愛じゃない!現実を見なくてもいい、現実に試さなくてもいい!やめろ、やめろ、やめろ!
「私達は、何度でも転生するのよ。永遠に愛し合いましょう」
アッー!
俺は、この日からケツの穴にボラギ○―ルを塗る事となった。
別に、俺はその女が嫌いなわけでは無い。ケンカしている訳でも倦怠期を迎えている訳でも無い。ノロケになるが、仲はいいと思う。問題なのは、その女の頭がアレなことだ。
俺は、家の鍵を開けて二階へと上がる。その女の部屋の前に着くと、ノックをしながらただいまと言う。
「お帰りなのじゃ、わしも今起きた所じゃ」
言って置くが、今はもう日が暮れている。にもかかわらず、部屋の中にいる女は「今起きた」と言った。そして、これは毎日の事だ。
部屋の中には、俺の同棲相手が寝転がっていた。ノートパソコンを熱心に相手している。これが執筆だったら文句は無いが、この女がしていることはゲームだ。旧日本海軍の軍艦を擬人化したキャラクターが登場するブラウザゲームをやっている。
この女の格好は、見事なまでにだらしない。よれたシャツの上に大きめのパーカーを羽おり、穴の開いたスウェットパンツをはいている。女の周りには、スナック菓子の袋やカップ麺の容器、ジュースのペットボトルが散乱している。
見事なまでにダメ女の姿だ。だが、この女の姿は異様な迫力がある。寝ぐせの付いた金色の髪からは、茶色と黒色のねじれた角が生えている。シャツの肩部分は空いており、右肩からは山羊の顔が、左肩からはドラゴンの顔が覗いている。パーカーの背の部分には穴が開いており、そこから黒い翼が生えている。そして尻の部分からは、紫色の蛇がのぞいていた。
俺の同棲相手は、キマイラと言う魔物娘だ。見るからに人間とは違う体をしている。同時に、人間の女と同じ体の部分も持っているのだ。弛緩している顔は、若い女の顔だ。たるんだシャツの胸元からは、女の白い胸の谷間が見える。
人間離れした姿と力を持ったこの魔物娘は、普通の人間よりもだらしのない生活をしている。一応小説家だが、ほとんど頭のアレな引きこもりだ。
「頼んだ物は買って来てくれたか?」
俺は、スーパーの袋を渡す。キマイラは、袋の中からカップの焼そばを見つけると嬉しそうに笑う。
「おお、ちゃんとわしの主食を買って来てくれたな」
引きこもりキマイラの嬉しそうな声に、俺はため息をついた。
俺は、豚肉のしょうが焼きとサラダを作り、キマイラに渡した。いくら何でも、カップ焼きそばと菓子だけでは栄養がかたよる。仕事から帰って来て、なぜ家でゴロゴロしている奴の飯を作らなければならないんだという思いはある。そうは言っても、作らなければキマイラの飯はかたよってしまう。
キマイラはしょうが焼きは喜んで食べたが、サラダは嫌がった。俺は、無理やりキマイラに食わせる。カップの焼そばを買って来てやらないぞと言うと、キマイラはしぶしぶ食べた。
キマイラは、ほとんど家から出無い。食料や日用品は俺に買わせる。衣料品は通販で買う。本は、ネット通販で買ったり電子書籍を買う。ゲームは、ダウンロード販売している物を買ったり、ブラウザゲームをやる。あとはテレビでやっているアニメを見ていれば、引きこもるためには不便な事は無い。
見事なまでのダメ女だが、仕事はしている。前述したように、こいつは小説を書いて金を稼いでいるのだ。どのような小説を書いているのかと言えば、一言で言う事は出来ない。何故なら、こいつは四重人格だからだ。獅子、山羊、竜、蛇の人格が有る。それぞれの人格が作風の違う小説を書いているのだ。
今出ているのは山羊の人格であり、バフォ君という名前だ。本名はアイカテリニと言うが、四つの人格はその名を嫌っている。それぞれが勝手に自分の付けた名を名乗っている。山羊の人格が自分に付けた名は、バフォ君という訳だ。何でも、山羊の体を持つ大悪魔バフォメットから取ったらしい。わざわざ自分の名前に自分で「君」を付ける辺り、良く分からないネーミングセンスだ。
バフォ君の書く小説は、SF小説やファンタジー小説だ。ライトノベルと言われる、主に十代が読むジャンルの小説を書いている。アニメ風の挿絵が付き、やたらと擬音が多い文体の小説を書いている。登場人物の言動は非現実的なものが多く、小説の登場人物としてもエキセントリックだ。その一方で、政治学、経済学、歴史学、文化人類学、宗教学、情報学、工学、脳科学などの専門的な話しが出てくる。
最近書いている物は、中世ヨーロッパ風の異世界を舞台としたファンタジー小説だ。ネコミミ娘、イヌミミ娘、魔法少女、ビキニアーマーの女戦士、メイドが出て来て、主人公は彼女達とハーレムを築く。そのかたわらに、オークや触手と戦うという内容だ。主人公は、女の子達とエロい事ばかりしているかと思うと、触手と政治思想について激しい論争を繰り広げたりする。
俺の言っている事が分からないという人が多いだろう。俺自身、何を言っているのか分からない。バフォ君の書く物がよく分からないのだ。このわけの分からない物が、きちんと出版されているのだ。そして原稿料と印税をそれなりに稼いでいた。
飯を食い終わったバフォ君は、ゴロゴロ転がりながらブラウザゲームをやっていた。食器は、俺に洗わせている。たまりかねて、仕事は進んでいるのかと聞いてみた。
「働けば負けた気がする」
などとほざいて下さる。素晴らしいまでのダメっぷりだ。
「仕事をして金を稼ぎ、家事もしてくれる肉奴隷が欲しいのじゃ」
と言いながら、俺を見上げてくる。
俺は何も言わず、バフォ君の背中を踏みつけた。
「何をするのじゃ!高位の魔物であるわしを踏みつけるとは無礼じゃぞ!」
俺は、わめき散らすバフォ君を踏みつけ続ける。その時、俺は独特の甘い匂いを嗅いだ。匂いはバフォ君からする。俺は、何日間風呂に入っていないのか尋ねる。
「三日間風呂に入っていないが、それがどうした?」
俺は、バフォ君を抱えて風呂に連行しようとする。
「風呂に入るのはめんどくさい。風呂に入らなくても死にはしないのじゃ」
確かに死にはしないかもしれないが、それを言ったら女として終わりだ。俺は、バフォ君を無理やり風呂へ入れようとする。バフォ君と取っ組み合いをしている内に、俺は押し倒されてしまう。
バフォ君からは、甘い匂いが漂って来る。風呂に入っていない為に濃さがある匂いだ。匂いと共に、バフォ君の柔らかい体を感じる。
「ほう、わしを汚いと言って置きながら、欲情しておるではないか」
バフォ君はニンマリと笑う。俺のチンポは、バフォ君の匂いと感触で勃起していた。バフォ君がゲームに夢中なため、三日ほどセックスをしていないのだ。
「わしも、肉奴隷と性欲処理をしたいところだったのじゃ」
そう言うと、バフォ君は俺に覆いかぶさってきた。
バフォ君は俺の口に吸い付いた。そのまま音を立てて口を吸い、舌を口の中に潜り込ませてくる。バフォ君のディープキスは、焼きそばとしょうが焼きの味がする。
俺達は互いの体を愛撫した。俺はバフォ君の胸を揉み、バフォ君は俺の尻をなで回す。バフォ君の豊かな胸は、俺の手の中で形を変える。バフォ君の山羊の毛で覆われた右手は、柔らかくて滑らかだ。
俺は、バフォ君の顔を見上げた。締まりのない表情だが、彫りの深い整った顔立ちをしている。バフォ君の眼は、左右の色が違う。右眼は青で左目は赤だ。その深い青と赤の眼が、じっと自分を見つめてくる。
バフォ君は俺のシャツを脱がし、スラックスとトランクスを引き下ろす。そのままむき出しになった胸をなめ回し、腹を愛撫する。バフォ君は俺の股間に顔を寄せ、音を立てて臭いをかぐ。
「臭いチンポじゃ。わしの事を不潔呼ばわりできるのか?」
ニヤニヤ笑うと、俺のチンポをなめ回す。亀頭を舌で愛撫し、くびれをこそぎ取るように舐め、裏筋をなぞる。そして袋を口に含んで玉を舌ではじく。
「味も濃いぞ。きちんと洗っておるのか?」
昨日シャワーを浴びたが、出勤時と退勤時に汗をかいた。その上、職場で蒸れてしまったのだろう。バフォ君は臭いと言いながら、嬉しそうに臭いをかいでなめ回す。そのままチンポを口に含み、激しく吸い上げる。
俺は、そのままバフォ君の口の中に出した。激流のような射精をしてしまう。バフォ君は飲み込もうとするが、激しくせき込み始める。山羊の右手を口に当ててせき込んでいる。顔を上げると、口と鼻が精液で汚れていた。
「溜まっていたのだな。多い上に濃いぞ。鼻に逆流してしまったではないか。臭いで頭がおかしくなる」
バフォ君の言う通り、バフォ君の鼻の穴から白い精液が出ていた。バフォ君の顔からは、強烈な刺激臭がする。
バフォ君達と交わり続けたせいで、俺は男の淫魔であるインキュバスとなった。人間離れした精力を持つようになったのだ。その俺が、三日間精液を出さなかったのだ。量が多くて濃いのは当たり前だ。
「今度は、わしを気持ち良くしてくれ」
そう言うと、バフォ君はパーカーとシャツ、ブラを脱ぎ捨てる。引きこもり生活をしているくせに、太ってはいない。豊かな胸が目立つ上半身だ。ズボンとショーツも脱ぎ捨てた。金色の毛に覆われたヴァギナがあらわとなる。バフォ君は、座り込んで股を広げる。
俺はバフォ君の所に行き、身を屈めた。バフォ君のヴァギナに顔を近づけると、濃厚な匂いが鼻を覆う。三日間熟成された雌の匂いだ。俺は金色の恥毛をかき分け、ヴァギナに舌を這わせる。濡れたヴァギナは、濃い性の味がする。俺は味わいながら、ピンク色の襞を丁寧になめていく。
「肉奴隷がわしの汚れたマンコをなめている。燃える、燃えるのじゃ!」
バフォ君は、よだれを垂らしながら恍惚としていた。この変態雌山羊は、俺に汚れをなめさせることで快感を得ているのだろう。よだれどころか涙と鼻水まで流して喜んでいる。よだれと鼻水には精液が混ざっている。とても高位の魔物であるキマイラには見えない。
俺は身を起こし、回復したチンポをヴァギナに当てた。そのまま熱いぬかるみの中へチンポを沈めていく。俺の怒張が、熱い肉の渦へ引き込まれて行く。肉と蜜の渦の奥に、硬い部分がある。そこを繰り返し突いてやる。
俺は、バフォ君の姿をじっくりと見た。バフォ君は、涎を垂らしながら喘いでいる。上気した美貌は、汗で濡れ光っていた。白い胸はピンク色に染まり、汗で濡れている。右腋と左腋も汗で濡れて、濃い匂いが漂って来る。
俺は、バフォ君の右腋に顔を埋めた。濃密な匂いを嗅ぎながら、濡れ光る腋をなめ回す。風呂に入っていないバフォ君の匂いと味を貪る。股間に力が湧いてきて、バフォ君の奥へ奥へと突き上げてしまう。
「相変わらず、匂いのこもったわしの腋をなめ回すのが好きなのじゃな。この変態肉奴隷め。」
不意に、俺の左頬に柔らかい感触がした。バフォ君の右肩に付いている山羊の顔が、俺の顔に頬ずりをして来たのだ。なめらかな毛の生えた顔は温かい。俺は頬をすり返す。
俺は、再び限界を迎えようとしていた。出そうだと伝えると、中出ししろとバフォ君は言う。俺はバフォ君の言葉に従い、たまった精液をバフォ君の中にぶちまけた。
二度目にもかかわらず激しい射精だ。インキュバスの射精は、人間とは段違いの激しさだ。他の女はあまり知らないから比べにくいが、バフォ君のものは名器だ。射精を促され、精液を搾り取られる。腰の奥から、体の奥底から精液が吸い出される。
俺は、バフォ君の胸に顔を埋めながら寄りかかった。バフォ君の胸は、どんなクッションよりも柔らかくなめらかだ。胸の谷間は、肉の匂いと汗の匂いが混ざり合い、その匂いは俺の顔を包み込む。俺は、深呼吸しながら匂いを堪能する。
いきなり俺は押し倒された。バフォ君は、眼をぎらつかせながら俺の上にまたがる。俺の顔に自分の顔を寄せると、激しくなめ回し始める。
「バフォ君ばかり相手にするんじゃねえ!次はあたしが相手だ!」
この喋り方は、獅子の人格である勇次郎だ。勇次郎は、俺の体をなめ回しながら腰を動かしてチンポを締め上げる。俺のチンポは勃起し始める。
「そうだ、チンポを勃起させろ。あたしとの戦いは始まったばかりだ!」
勇次郎は、よだれを振りまきながら喚く。仕事で疲れているのに、ますます疲れる事になりそうだ。
俺は、勇次郎と一緒にベッドに横たわっていた。勇次郎は、俺に腕枕をしながら寝息を立てている。勇次郎らしい姿だ。
勇次郎は、獅子の人格である事から小説には縁が無いように見える。だが、勇次郎もまた小説家だ。格闘を題材とした小説を書いている。と言ってもまともな格闘小説では無い。訳の分からない変態格闘家が次々と出て来て、主人公と意味不明な戦いを繰り広げる。
勇次郎の言う事も良く分からない。「百キログラムのカマキリと脳内で戦う」だの「三千の英霊と共に戦う」だの意味不明な事を口走る。
俺は、横たわりながら辺りに立ち込めた性臭をかぐ。精液と愛液、汗、女肉の匂いが混ざり合っていた。俺を腕枕してくれるキマイラの右腕は、山羊の毛で覆われている。汗で濡れた毛の匂いと女肉の匂いが混じっている。汗と唾液で濡れたキマイラの右腋からは、相変わらず濃い匂いがただよってくる。俺は、混ざり合った匂いを楽しみながらかぐ。
バフォ君の言う通り、俺は変態かもしれない。普通なら嫌がる匂いをこうして楽しんでいるのだから。ただ、付け加えると、バフォ君や勇次郎の匂いだから好きなのだ。
俺は、バフォ君たちとの生活を楽しんでいる。たとえバフォ君達がダメ魔物であっても、変態魔物娘であっても、頭がアレな女でも、俺は好きなのだ。
俺とキマイラとの生活は、エキセントリックでも穏やかなものだ。ただ、少し波紋が起こる事もある。
その日、俺とキマイラは、キマイラの母に呼び出された。話があるそうだ。具体的にどういう話なのかは伝えられていない。俺達は、さっそくキマイラの母の元に向かった。俺達の住んでいる家は、キマイラの母の館の離れ家だ。同じ敷地内にキマイラの母は住んでいる。
キマイラの格好は、いつにも増してすごかった。黒地に銀糸の縫い取りのあるドレスを着ているのだ。そのドレスは、レース、フリル、リボンが目立ち、スカートはパニエで膨らませている。耳や首、手や指には繊細な造りの銀製の装飾品を付けている。足には黒皮の編上げのブーツをはいている。中世か近世のヨーロッパ宮廷で似合いそうな格好なのだ。
蛇の人格であるリュネットが出ているのだ。リュネットは、退廃とか耽美と言う世界にあこがれ、浸ろうとする。この黒いドレスは、リュネットの美意識の表れだ。
もっとも、リュネットには似合わないドレスだ。小柄な少女なら似合うだろうが、リュネットは大柄な女だ。しかも右肩に山羊の頭、左肩に竜の頭が付いている。背には竜の翼が広がっている。右手は山羊の手、左手は龍の手だ。足には獅子の毛が生えている。フリルやレースの多いドレスが似合うはずが無い。
このドレスは、蜘蛛の魔物娘アラクネの仕立て屋にオーダーメイドで作ってもらったのだ。アラクネは、服飾の分野では優れた才能を示す。それは分かるのだが、客に対して似合っているか否か伝えないのだろうか?
リュネットは、退廃と耽美の世界を小説に描いていた。ジャンル分けすると、歴史ファンタジーを書く事が多い。もっとも、リュネットはファンタジーと言う言葉を嫌う。自分の書く物を歴史幻想小説と称している。この事から分かるように、リュネットの小説には古めかしい言葉が数多く出てくる。
母屋である館に向かいながら、俺はリュネットが出て来た事をいぶかしんだ。獅子の人格か竜の人格が出てくると思ったのだ。山羊の人格であるバフォ君は、怠け者だから出てこない。蛇の人格であるリュネットは、四つの人格の中では一番気難しい。何故、リュネットが出て来たのか、俺はいぶかしむ。
「また、前世の夢を見たわ」
リュネットは、唐突に言い出す。リュネットは前世の妄想にひたる事が多く、しばしば俺に話すのだ。俺に話した後は、それを小説に書く。
「私達は、少年十字軍の一員だったの。私の名はアンリ、あなたの名はフィリップ。二人とも十代の少年だったわ」
付け加えると、リュネットの語る前世では、俺達は二人とも男である事が多い。
「私達は、神とキリストの名を称えながら聖地へ旅をしていた。その道中で、私達は禁じられた関係となったの。聖なる軍の一員でありながら、私達は愛し合ったの」
俺は、リュネットから繰り返しBL話を聞かされて来た。大抵は、俺とリュネットが主人公のものだ。リュネットが「攻め」で、俺は「受け」だ。
「少年十字軍は失敗し、私達は破滅していった。あなたは、異端者として捕えられた。裸にされて鞭打たれ、最後は火炙りになった。あなたは焼かれながら、キリストを称えていた」
リュネットは、恍惚とした表情で語っている。おそらく俺の姿は目に映っていないだろう。映っているのは、火炙りにされている妄想の中の俺だ。
「私は、奴隷商人に異教徒へ売られた。私は異教徒に凌辱されながら、あなたと愛し合った記憶を壊れた心の中で反芻するの」
陶然と語るリュネットに、俺はため息をつく。俺は、こんな狂った話を何度聞かされたことか。しかも、この妄想を小説に書くのだ。
俺は、館に着いた時はすでに疲れていた。
館は、ゴシック様式を取り入れた時代がかった物だ。魔物娘にふさわしい館かもしれない。強い存在感を出している館だ。
このような館を建てる事が出来る事から分かるように、リュネットの母は富と権力を持っている。キマイラは高位の魔物だ。その力から、重要な地位についている事が多い。リュネットの母も、政界、財界、官界、マスコミにパイプを持つ実力者だ。
もっとも、キマイラは多重人格の魔物であり、エキセントリックな者が多い。リュネットの母も、頭がアレだ。それは、この館に入ればすぐに分かる。
館に着くと、使用人であるキキーモラが案内してくれた。キキーモラとは、狼の特徴を持つ魔物娘だ。イヌ科の耳と尻尾が特徴である。使用人として働く事が多く、メイド服がトレードマークとなっている。
だが、そのキキーモラの着ている服はメイド服では無い。ヴィスコンティの映画に出て来るような、宮廷服みたいな制服だ。この制服は、館の主であるリュネットの母の趣味だ。
ゴシック様式の館の中は、絵画や彫像が並んでいる。いずれも普通では無い。例えばある絵画は、上半身裸の男が槍を天空へ突き上げている。絵のタイトルは「力への意志」だ。また、ある彫像は、筋骨たくましい男と男が抱き合っている物だ。彫像のタイトルは「強者の友情」だ。リュネットの母の頭がアレである事がお分かりだろう。
俺達は、キキーモラに「謁見の間」に案内された。謁見の間をあけると、ワーグナーの「ニュルンベルグのマイスタージンガー」が大音量で流れて来た。謁見の間には、ヴィスコンティ映画の様な制服を着た魔物娘達が整列している。
謁見の間の奥には台座があり、その上に金箔を這った玉座がある。玉座には、ナチスの親衛隊のような黒い制服を着たキマイラが座っていた。彼女はブランデーグラスを揺すりながら、整列している魔物娘達を見下ろしている。このキマイラが、リュネットの母だ。
「我が娘よ、久しぶりだな!」
リュネットの母の声が、ワーグナーの音楽と共に響き渡る。
リュネットは、フリルとレースの多いドレスのスカートをつまんでお辞儀をする。
俺は、リュネットの母に会釈をする。後は、「地獄に堕ちた勇者ども」と「キャプテン・アメリカ」の混ざり合ったような空間を眺めていた。
もし、親子でエキセントリックな対決をしているだけならば、今回の事は穏便に済んだだろう。不愉快な事はあまり無かったはずだ。
リュネットが呼び出された理由は、リュネットに関する資料の整理だ。学校時代から会社務めしていた頃の資料が館にはある。それを整理する事を言い渡されたのだ。
俺はリュネットを手伝い、書類やノート、手帳、写真などを整理していた。リュネットの指示に従い、捨てる物と残しておく物を分けるのだ。リュネット一人では難しいだろう。
リュネット一人では難しいと言ったが、量が多いだけが理由では無い。一番の問題は、リュネットの精神状態だ。リュネットは、資料の整理を始めてから落ち着きがなくなっている。書類を同じ場所に戻したり、写真を見ながら微動すらしなくなったりしている。
俺はため息をこらえる。リュネットにとって一番つらい事は、「現実」と対峙する事だ。このリュネットの資料の中には、過去のリュネットの不快な現実がある。リュネットの情緒を不安定にする物ばかりだ。
リュネットは、上手く生きられなかった者だ。生まれながらの多重人格であり、しかも不器用な性質だ。不登校にはならなかったもの、学校ではかなり苦労したらしい。大学を出た後は、母が筆頭株主をしている会社に就職した。はたから見ればうらやましい事だが、リュネットの様に安定性の無い者には、会社務め自体が苦行なのだ。
俺は、リュネットと会社で出会った。俺は、先輩社員としてリュネットに仕事を教えたのだ。リュネットは必死に仕事を覚えて、仕事に取り組んだ。だが、それでも不器用さは目に付いた。働いているリュネットは、はたから見ても辛そうだった。
リュネットは、この苦行から自分の力で抜け出した。リュネットは読書家であり、自分でも小説を書いていた。リュネットの書いた小説が新人賞を取り、リュネットはプロの小説家になる事が出来たのだ。
リュネットは小説家になる事で、自分好みの世界を築き上げ、その世界に浸る事が出来るようになった。不愉快な外出も、あまりしなくて良くなった。小説家になってからのリュネットは生き生きとしている。
リュネットにとって過去の事は、不愉快な事なのだ。彼女は、学校時代の者とは合わないようにしている。会社務め時代の者も、俺以外には誰とも会わない。俺は、例外的に一緒にいる事を許された者なのだ。
八時間以上時間を使って、資料の整理は終わった。二人がかりならば、四時間で済んだだろう。リュネットの精神状態ゆえに、ここまで時間を必要としたのだ。
ちょっと外へ出てくると言い、リュネットは部屋から出た。声は消え入りそうであり、肩を落とした後ろ姿は心もとない。
だが、俺は一人にさせた。少し一人にさせた方がいいと思ったからだ。俺は、小さく震えるリュネットを見送った。
すでに日が暮れて、外は暗くなっている。そろそろリュネットを探し出した方がいいと考え、俺は外へ出た。
リュネットの館には大きな庭があり、そのどこかにリュネットはいるだろう。俺は、懐中電灯を借りて庭を歩き回る。花壇や噴水の辺りを懐中電灯で照らしていく。
リュネットは、庭の一角にあるあずまやにいた。椅子に座りながら、照明に照らされた花壇の花を眺めている。
俺は、リュネットに声をかけて近づく。リュネットはぼんやりとした表情で俺を見る。目付きは、どこか虚ろだ。俺はリュネットに家に帰ろうかと話すが、リュネットの反応は鈍い。仕方なく、俺はリュネットの隣に座る。
俺とリュネットは、しばらく無言のまま椅子に座り続けた。共に花壇の花を見つめ続ける。水仙の黄色い色は、照明の下で映えている。
俺は、小説の話を持ち出す。次の作品は、どういうものを書くつもりなのか聞く。
リュネットは、館に来る途中話した少年十字軍の物語を書くつもりだと話す。これから資料を集めて読み込み、その後でプロットを組み立てるつもりだそうだ。小説の話をしている内に、リュネットの言葉に力が戻ってくる。
俺は、一通り新作の予定について話を聞き出す。その後で、過去のリュネットの作品に対する好意的なレヴューについて話した。リュネットの作品を期待している人がいる事を話す。
そう、リュネットの作品を期待している人達がいるのだ。その人達がいる限り、リュネットは必要とされる存在だろう。例え、現実とうまくやっていけない引きこもりだとしてもだ。
リュネットは、俺の肩に頭を寄せて来た。リュネットの人間の頭が俺の肩に、山羊の頭が俺の腕に寄りかかる。
俺はリュネットの体の感触を感じながら、リュネットを受け止めていた。
俺は、リュネットと離れに戻ろうとした。だが、リュネットはまだ用があるらしい。仕方なく、俺は館の廊下で庭を見ていた。
広い庭の所々は、照明で照らされている。照明の明かりの下に、噴水や花壇、彫像が浮かび上がる。リュネットの母の富が分かる庭だ。
庭を見ている俺の後ろから、足音が聞こえて来た。窓ガラスに、リュネットの母が映っている。俺は、ふり返らずに庭を見続ける。
「なぜ、私がリュネットを呼びつけたのか分かるかしら?」
リュネットの母は、穏やかに聞いてくる。
説教臭い話だったら聞くつもりはありません、と振り返らずに俺は言う。
「それでは独り言を言う事にするわ」
リュネットの母は、俺の背に話しかけてくる。
「リュネットが小説を書く事はいい事よ。引きこもる事も仕方が無い事よ。でも、現実に触れる必要はあるわ」
リュネットの母は、諭すように話す。
「物語は、現実と触れた結果生まれる物よ。たとえファンタジーを描いたとしても、それもまた現実に触れなければ生まれない物だわ。今回の事は、あの子に必要な事なの」
俺は、何も答えずにその場を離れる。
俺の背後から、苦笑するような気配がした。
俺は、リュネットの母から離れた廊下で再び庭を見る。苛立ちを抑える事は出来ない。
現実を見ろ、か。陳腐な説教だ。「現実」を見る、見ないはリュネットの自由だ。リュネットは他人に迷惑をかけず、自分の食い扶持を稼いでいる。リュネットの書く小説は、人から必要とされている。「現実」を見る事を強要される筋合いはない。母親にも強要する権利は無い。
物語は、現実との対峙の結果生まれる。確かにその通りかもしれない。だが、物語をどのように書くかは、その人次第だ。不快な過去と対峙させられる筋合いはない。下らない説教で正当化しながら、「現実」を押し付ける事は見苦しい行為だ。
俺は、苛立ちを抑える事が出来ずに、その場を大股で離れた。さっさと、リュネットと共に離れに戻ろうとする。
その時、外から羽ばたきの音が聞こえた。同時に獣の咆哮のような物が聞こえる。
俺は、あわてて外を見る。月が輝く空で、翼を持った獣の様な者が二頭対峙している。
「娘よ、そなたの力を確かめてくれるわ!」
片方が高らかに宣言する。
「我が母よ、望む所だ!我の力を思い知るが良い!」
もう片方が、咆哮と共に答える。
二頭の獣は、空中で激しくぶつかり合う。風が巻き起こり、炎が交差する。
どうやら竜の人格であるファーブニルが出たらしい。ファーブニルもまた小説家だ。中世ヨーロッパ風の異世界を舞台としたファンタジー小説を書いている。ドラゴンと勇者が戦う物語や、ドラゴン同士が最強の座を巡って戦う物語を書いている。
作品の中で、「強敵と書いて友と呼ぶ」と言った登場人物の関係を描いていた。作品だけでは無く、ネットの対戦ゲームでもその関係を求めている。挙句の果ては、この様に母と戦い始める。「おやじ越え」ならぬ「おふくろ越え」をしたいらしい。
轟音や爆音が響き、怒号と咆哮が交差する。たいした騒ぎだが、もう、こんな騒動は珍しくは無い。使用人達は、すました顔で仕事を続けている。近所の人も、いちいち慌てない。
俺は、母と会う時にリュネットが出て来た理由を考えた。一番現実を嫌う人格はリュネットだ。そのリュネットが出て来た理由は、リュネットなりの覚悟があるからではないだろうか?リュネットは、今回何をされるのかを予測し、あえて出て来たのではないだろうか?
俺は、空で繰り広げられる派手な母娘のじゃれ合いを見つめる。何だかんだ言っても、あの二人は仲がいいのだろう。母も母なりに考えて、今回の事を仕向けたのだろう。もしかしたら、今回の事はいい結果になるかもしれない。俺が、腹を立てる必要は無いかもしれない。
俺はそう考え直しながら、親子の空中戦を眺めていた。
そう考えた事もあった。俺は、あの一件は完全な失敗だと、今確信している。リュネット達は、変な方向にこじれたのだ。
俺は、リュネットの部屋に裸でいる。鎖でつながれ、四つん這いにされているのだ。俺の後ろにはリュネットが立っている。リュネットはボンデージ・ファッションを着ていた。
「私は前世の夢を見たわ」
リュネットは、微笑みながら言う。
「私達は、ローマ帝国で生きていたのよ。私は青年貴族、あなたは少年奴隷。私は、鎖につながれたあなたと愛し合ったのよ」
それは愛と言えるのか?
「私達は、こうして再び巡り会えた。私達の愛の物語をまた描く事が出来るわ。でも」
リュネットは、優しい微笑みを浮かべる。
「描くだけでは物足りないわ。こうして出会えたのだから、現実に試してみるべきだわ」
リュネットは、双頭ディルドにローションを塗る。片方を自分のヴァギナに挿入していく。リュネットは、自分の中に入ってくるディルドの感触に恍惚としている。完全にディルドをくわえ込むと、もう片方を俺の尻に向ける。
「さあ、二千年ぶりに愛し合いましょう」
これは愛じゃない!仮に愛でも、俺の望む愛じゃない!現実を見なくてもいい、現実に試さなくてもいい!やめろ、やめろ、やめろ!
「私達は、何度でも転生するのよ。永遠に愛し合いましょう」
アッー!
俺は、この日からケツの穴にボラギ○―ルを塗る事となった。
15/04/12 22:33更新 / 鬼畜軍曹