読切小説
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罪人と地獄の犬
 男は荒れ地を走っていた。辺りは岩と丈の低い草が生えるばかりで、曇り空の下に荒涼とした光景が広がる。男は、岩と岩の間をくぐりながら足を動かし続けている。
 男はまだ若いが痩せて無精ひげを生やし、着ている粗末な服は土と泥で汚れていた。乱れた髪の下から険しい視線を辺りに突き立て、汚れた体から汗を飛ばして走っている。男は唾を飛ばしながら、不明瞭な声で呪詛の言葉をまき散らしていた。
 男の後ろを複数の者が走っていた。全員制服の様な黒服を着ており、槍や剣を持っている。中には犬を連れて走っている者もいる。追跡者達は、余裕のある表情で逃げる男を追っていた。
 法の番人気どりかよ、犬の分際でつけあがるな!逃げる男は、荒い息をつきながら吐き捨てる。男は、唾を唇の端からこぼしながら呪詛を続ける。法も正義も糞なんだよ!金と権力のある奴を守るためにあるんだよ!飼い主に媚びへつらう駄犬どもめ!男は呪い、罵り続ける。
 男は嗤う。俺の人生は駄犬に殺されて終わりかよ、下らねえ。男は、苦しさのあまり鼻水を流しながら嗤う。男は駄犬を、飼い主を、法を、自分の人生を、世界を、全てを嗤いながら逃げ続けた。

 男は、追跡者の気配が変わった事に気が付いた。先ほどまでの追跡者の気配は依然としてある。別の者が加わったようなのだ。今までとは数段上の獰猛さと力強さ、そして獣じみた気配がする。犬を連れて自分を追跡しているのかと思ったが、犬とは存在感が違いすぎる。狼よりも強大な存在感を感じる。
 なんだこれは?俺を追っている奴は何だ?男は、肌が泡立つ事を自覚する。猛獣、いや怪物に追われているのではないかと言う気がしてくる。馬鹿な、そんなわけ無いだろ!男は妄想を振り払い、必死に逃げ続けた。だが、怪物の気配は後ろから確実に迫ってくる。男の体を悪寒が繰り返し走る。
 男は、後ろを振り返る気が無かった。圧倒的な存在が自分の背に迫っている。しかも人間の気配では無く、野獣とも怪物ともつかない存在の気配だ。男は、子供のころ夜道で感じた恐怖を思い出す。男は憶病であり、子供時代に背後の闇に恐怖を感じた。その時の事が実感を持って、今迫って来た。
 男は懐から小刀を取り出す。男の凶行により幾度も血に濡れた小刀だ。男は、震えながらも激しい身振りと共に後ろを振り返る。男は、背後の「それ」を見た時、眼が裏返りそうになった。男の口からかすれた呻き声が上がる。
 男が見た物は炎だ。意志を持った炎が、男を見据えて心の中へと突き刺さってくる。男は炎から目を逸らすと、歯を食いしばって再び炎を見る。炎だと思った物は赤い眼だ。黒い獣毛と暗灰色の肌を持った獣が、眼から炎を迸らせて男を見据えている。灰色の空の下、暗灰色の岩の上で、黒い怪物が業火の眼で男に視線を突き刺していた。
 男の体は痺れたように、男の思う通りには動かなくなった。頭の中が空転するような感覚が有り、まともに考える事が出来ない。ただ、馬鹿の様に怪物の炎の眼を見続ける。
 背に鋭い痛みが走った。無意識に後退る男の背に、尖った岩肌がぶつかったのだ。男の体に自由が戻り、頭が働き始める。男は弾かれた様に怪物に背を向け、岩の間をくぐって走り出した。
 男が走り出した瞬間に怪物は飛び跳ね、男の背に飛び掛かった。男は地面に叩き付けられ、怪物の手足に抑えつけられる。男はもがくが、怪物の人間離れした力をはねつける事が出来ない。石で覆われた地面の上で体を傷付けながらもがくばかりだ。
 怪物は男を腋に抱え込むと、そのまま地を蹴立て岩の間を走り抜けていった。

 男は、薄暗い空間の中で気が付いた。辺りは濃い影で覆われている。灯りが見えたので目を移すと、火が焚かれている。火の側に黒い影がうずくまっていた。男はまなじりを開く。黒い影は自分を襲った怪物だ。
「気が付いたようだな」
 低い女の声がした。男は辺りを見回すが、女の姿は無い。
「何を探している?」
 再び女の声が響く。男は黒い影を凝視する。その黒い怪物が女の声を発したのだ。
「あたしの名はメガイラ。お前の名は?」
 男は、メガイラと名乗る怪物を見た。焚き火に照らされているが、黒い獣毛と肌の為に暗黒の化身に見える。その暗黒の中で炎の瞳が燃え盛っている。
「クレイグだ」
 男は吐き捨てるように言う。
 クレイグがいるのは洞窟の中だ。クレイグの体にはマントが掛けられている。洞窟の入り口の所に焚き火が有り、メガイラと名乗る怪物がその傍らにいる。既に夜になっているらしく、洞窟の外は闇だ。
 クレイグは、怯えながらも怪物の姿を観察した。怪物は、人間の体に犬の特徴を備えていた。手足は黒い獣毛に覆われ、紫色の大型の爪が生えている。耳や尻尾も犬のものであり、黒い毛に覆われている。体の大半は人間の特徴を持っており、大柄で肉感的な若い女の体をしていた。胸と股間を黒鉄の覆いでわずかに隠した姿であり、官能的な肢体をさらけ出している。ただし肌は暗灰色であり、女が人間では無い事を示している。南の大陸に住むと言う「黒い肌」の人々も、このような色合いの肌はしていないだろう。だが、女が魔性である事を最も示しているのは目だ。人ならざる炎の様な目をしており、地獄の業火が宿っているように見える。
「俺をどうするつもりだ?」
 クレイグは、震えを抑えながらメガイラに問う。
「犯すのさ」
 メガイラは低く笑いながら応える。
「お前は人を殺した事が有るな、罪の臭いがする。そそる臭いだ」
 クレイグは小刀を取り出そうとするが、見つからない。
「こんな物であたしを殺せるとでも思っているのか?」
 メガイラは右手で小刀を玩ぶ。小刀を放り出すと、メガイラはクレイグに飛び掛かって取り押さえる。
「お前もせいぜい楽しむ事だ」
 怪物らしく無い整った顔に笑みを浮かべ、メガイラは言い放った。

 メガイラは、クレイグを取り押さえながら伸し掛かって来た。メガイラはクレイグの服を荒々しく脱がし、肌をむき出しにしていく。クレイグの胸に鼻を押し付けて音を立てて臭いを嗅ぐ。
「きつい男の臭いがするぞ。どれだけ体を洗っていないんだよ?臭いを嗅いでいると濡れてくるじゃないか」
 メガイラは、喉を鳴らしながら笑う。赤い舌を出してクレイグの胸を舐める。
「寝ている間に泥は落としたが、お前の体はまだ洗っていない。おかげで臭いも味も濃いぞ」
 クレイグも、メガイラの濃厚な匂いに包まれていた。メガイラの肉感的な体からは、汗で濡れた肉の強い匂いがする。
 メガイラは胸から腹へ、そして下腹部へと舌を這わせていく。メガイラの髪と腕の獣毛が、クレイグの胸と腹をこする。メガイラはからかう様な表情をすると、クレイグのペニスに鼻を押し付けて臭いを嗅ぐ音を立てる。
「臭いな、鼻が曲がるじゃないか。汚いチンポだ」
 メガイラは、笑いながらペニスに舌を這わせる。赤く滑る舌が赤黒いペニスを貪っていく。舐められているうちにペニスはそそり立ち、メガイラの顔にぶつかった。メガイラは、自分からペニスに顔を押し付けて舐めしゃぶる。メガイラの舌は、くびれの所を繰り返しこそぎ取る。そして白い物が粘り付く舌先をクレイグに突き出す。
「お前のチンポにはこんなに付いていたぞ。恥ずかしくないのかよ」
 メガイラは、舌を引っ込めると白い汚物を飲み込む。その光景に、クレイグは恥ずかしさと共に異常なまでの興奮を覚える。ペニスは震えながら怒張し、先走り汁を迸らせた。
「お前は変態野郎だな。あたしにチンポの臭いを嗅がせ、チンカスを食べさせて喜んでいるんだろ。つくづく恥さらしな野郎だな」
 メガイラは、クレイグのペニスを胸の谷間に挟み込む。暗灰色の肉の山の間から突き出ている赤い亀頭に、赤い舌を這わせる。胸の谷間は汗で濡れており、唾液と先走り汁が混ざり合って滑っている。メガイラの胸の谷間からは、クレイグの鼻にまで届く濃厚な臭いがした。
「ひでえ臭いだ、あたしの胸と顔に臭いが染み付くじゃないか。こんな臭いが染み込んだら、いつも濡れっぱなしになるじゃねえか」
 メガイラの体は怪物じみているが、同時に女としての魅力もあった。豊かで張りのある胸と肉厚の舌は、クレイグのペニスに強い快楽を与える。彫りの深い美貌の持ち主が自分の汚いペニスを舐め回しているかと思うと、腰の奥から力が湧きあがってきた。首の下から胸の上部にかけて赤黒い獣毛が生え、クレイグのペニスを強く愛撫する。メガイラの体から放たれる濃厚な臭いも、クレイグの官能を高めた。
 クレイグは、呻き声と共に精液をぶちまけた。メガイラの暗灰色の肌と黒い獣毛を、濃厚な白濁液が汚していく。汚液が鼻を覆い、唇と舌を汚し、胸の谷間に白い模様を作っていく。辺りにはむせ返る様な臭いが漂う。
 メガイラは鼻の下と唇の白濁液を舐め取り、にやにや笑いだす。
「これじゃあ、本当に臭いが染み付くぞ。あたしに臭いを付けて、自分の物だと言うつもりなのか?ふざけた野郎だ」
 メガイラは立ち上がり、クレイグの頭を掴む。そのままクレイグの顔に自分の股間を押し付けた。濃い陰毛に覆われたメガイラの股間は、濃密な液で濡れそぼっている。クレイグの顔は強い臭いに覆われ、口と鼻に濃い液が入り込んでくる。
「さあ、今度はあたしのマンコを舐めろ。舌で丁寧に舐め取れ。汁もマンカスもきちんと舐め取るんだ。言う通りにしないと一晩中股間を押し付けてやるぞ」
 クレイグは、ゆっくりと舌を動かし始めた。舌が塩味の液で犯されていく事が分かる。臭いにむせ返り、味に咳き込みながら舌を這わせ続ける。陰毛をかき分けてヴァギナの中に舌を這わせると、ねっとりした感触の物が舌に触れた。濃厚な臭いと味のする固形物を舐め取り、飲み込んでいく。クレイグは、頭の中が臭いと味で充満しているような気がしていた。
 メガイラは股間からクレイグの顔を離し、クレイグを地に押し倒す。クレイグの股間を見ると舌なめずりをしながら笑った。
「何だよ、しっかりと回復しているじゃないか。あたしの汁とマンカスに興奮したのかよ。やっぱり変態だな」
 メガイラはクレイグの上に伸し掛かり、愛液を溢れ出し続けるヴァギナにペニスを飲み込んだ。ペニスは奥へと引きずり込まれて行き、柔らかい肉で覆われた蜜壺に包まれる。メガイラは激しく腰を振り、ペニスを蹂躙した。厚い肉がペニスを締め付け、渦を巻いて引き絞る。
 腰を揺すり動かし体を振るメガイラから、汗の玉が飛び散りクレイグの体にかかった。クレイグの体に、メガイラの匂いが染み込んでいく。クレイグの腰と太腿に、メガイラの足の獣毛が擦り付けられる。クレイグはペニスを渦に締めあげられながら、汗で濡れて炎を反射するメガイラの肌を見つめる。光るメガイラの肌の輪舞と絶えず発散される濃い匂いに、クレイグは上り詰めていく。
 クレイグは、メガイラの肉と液の渦の中心に精を放った。クレイグのペニスは、痙攣しながら射精を繰り返す。精を受けるメガイラは、クレイグ同様に痙攣しながら潮を噴出させる。二人は、体を震わせながら快楽に翻弄されている。
 メガイラは痙攣を収めると、クレイグに伸し掛かり顔を舐め始めた。メガイラの顔からは、クレイグの生渇きの精液の突き刺すような臭いがする。
「お前の顔には、あたしの臭いと味が染み込んでいるな。他の雌が近づく事が出来ない臭いだ。これでお前はあたしの雄だ」
 メガイラは喉を鳴らして笑うと、再び腰を動かし始める。
「さあ、お前も腰を動かせ。まだ終わりではないぞ」

 その後クレイグは、メガイラに繰り返し犯された。メガイラは性欲が旺盛であり、クレイグの全身を貪欲に貪ったのだ。その合間にクレイグは、メガイラがヘルハウンドと言う魔物の女だと分かった。ヘルハウンドとは「地獄の犬」とも言われる魔物であり、かつては罪人を追跡して処刑していたと言われる。メガイラも、クレイグの罪の臭いに惹かれたと言っていた。
 三日間洞窟の中にこもって性に耽溺した後、メガイラはクレイグを引き連れて出た。クレイグは、メガイラが自分を官憲に引き渡そうとしているのかと思ったが、いつまでも引き渡そうとしない。クレイグを追ってきた警吏と自警団がいるのに、彼らを避けている。メガイラはクレイグを引き連れ、犯すばかりだ。
 クレイグには、メガイラの目的が分からない。クレイグの居る国は四年前に中立国になり、魔物達が移住するようになった。警吏の中には魔物もおり、メガイラはクレイグを警吏に突き出すものだと思っていた。だが、いつまでも突き出さず、自分の目的も言おうとしない。
 クレイグは、目的の分からぬ者に囚われて歩き続けている。クレイグは、メガイラと共に荒れ地を彷徨いながら自分の過去を思い出していた。

 クレイグは農奴だった。幼いころから領主に酷使され、虐待されていた。領主は高潔と言われる騎士だが、それは貴族や騎士の間の話だ。農奴から見れば残忍で酷薄な男であり、農奴からいかに効率よく収奪できるか考え、実行に移す男だ。
 領主が取った手段は、「分断し統治する」と言う陳腐な方法だ。農奴を監督者、普通の農奴、「クズ」の三つに分けた。監督者には、ある程度の権限を与えて他の農奴を支配させる。暴力を振るう権限や収奪する権限も与え、「クズ」を選別する権限も与える。普通の農奴は監督者の暴力に怯え、自分が監督者になれるかも知れないという期待から働く。「クズ」は、普通の農奴に虐待されても逆らう事は許されず、普通の農奴の不満を解消するために存在する。領主は、自分の従者を使ってこれらの農奴を残酷に支配していた。
 クレイグとその両親は、普通の農奴と「クズ」を行ったり来たりした。彼らは領主から見ればたいして役に立たず、農奴の間で嬲り物にするのが適している存在だ。クレイグは他の農奴から毎日のように殴られ、足蹴にされていた。クレイグの一家は、領主から耕作物を奪われた後はたいして残る物は無く、辛うじて餓死を逃れていた。
 クレイグは、暴力と飢えの中で死を覚悟した。だが、ただ死ぬつもりは無い。クレイグは二十八の年に小刀を盗み出すと、自分を虐待し続けた監督者を刺殺した。監督者は、女好きな領主が農奴の娘を犯すのを手伝い、その功績として豚肉を貰っていた。豚肉にかぶりついている監督者を、後ろからめった刺しにしたのだ。
 クレイグはそのまま領地から逃げ出した。幸い、領主とその犬達は女を犯すのに忙しいため、クレイグを追跡する事は遅れた。クレイグの両親は、何も知らずに逃げ遅れて捕えられた。領主は、自分に逆らう農奴の腹を裂いて生きたまま腸を引き摺り出す事を好んでいる。自分の両親が嬲り殺しにされる事は分かっていたが、クレイグは痛痒を感じない。両親は、他の農奴に殴られる子供の頃のクレイグを庇ったりはせず、黙って見ていた。クレイグが家に帰ると、憂さ晴らしにクレイグを殴りつけた。クレイグは、両親に対して欠片ほどの愛情も持って無い。
 それからの日々は盗み、強盗、追剥で暮らす毎日だ。こん棒で殴って金や食料を奪い、場合によっては小刀で刺す。そうして食いつないできた。良心は痛まなかった。奪った金で、生まれて初めて腹いっぱい食う事が出来た。寒さを防ぐ事の出来る服も手に入れた。女を買って、二十八の年で初めて女の体を知った。その喜びに比べれば、良心など何の役にも立たない。クレイグは奪われ続け、何も手に入れる事は出来なかった。だったら力で奪い、手に入れるしかない。
 こうしてクレイグは、世の中に腐るほどいる罪人として生きて来た。

 クレイグとメガイラは岩陰にいた。追跡者と風を岩で防ぎ、地の上で抱き合いながらマントにくるまって寝ている。二人は激しい交わりの後であり、マントの下は裸だ。
 クレイグは、寝息を立てているメガイラを見ていた。寝ている隙に逃げだそうとしても無駄だ。メガイラは即座に起き上がり、クレイグを取り押さえてしまう。そして逃げる力が無くなるまで犯しぬく。
 メガイラからは肉と汗、それに精の臭いが漂って来る。激しい交わりの後の濃厚な臭いだ。クレイグは、メガイラの臭いに包まれながらメガイラと岩の多い土地を眺めていた。
 俺の人生はもう終わりかもしれないな。クレイグは、荒涼とした光景を眺めながら思った。役人や自警団の連中は、俺を追い詰めて来やがる。捕まるのは時間の問題だろう。この魔物が何を考えているのかは分からないが、俺は近いうちに奴らに殺される。法を振りかざす連中に。
 クレイグは声を出さずに笑う。クレイグにとっては、法も倫理も敵だ。法は、「持つ者」を守り「持たない者」を敵視する。法は、強者が利害調停の為に作った物だ。必然的に、強者の権利を弱者に奪われないように守る。倫理は「正論」を唱え、弱者が強者から奪う事を非難する。
 領主が農奴を酷使し、生産物を奪う事は合法的だ。領主が農奴に「罰」を与える事も合法的だ。領主が農奴の娘を凌辱しても、法は凌辱された事を立証する事を被害者に要求する。もちろんそんな事はほとんど不可能だ。領主の取り立てや「罰」の為に農奴が死んでも、それは農奴の自己責任となる。
 農奴が領主やその手下を殺したら違法だ。金の無い者が金持ちから金を奪えば違法だ。「法の番人」は、情熱を持って「罪人」を捕えて処刑する。倫理は「法の番人」を称賛し、「罪人」を非難する。
 俺に味方なんていない、生まれた時からいない。クレイグは憎悪と共に思い返す。全ての人間は俺の敵だ。奴らは俺を殴り、俺から奪い取り続けた。だったら、俺は奴らを殴り、奪うまでだ。法は俺の敵だ!国も俺の敵だ!人間という人間はすべて敵だ!神も俺の敵だ!神父どもは、領主を通して俺から奪い取りやがる。領主や神父が俺から奪う事は、神が認めていると言いやがる。だったら、神は俺の敵だ。罪を犯したら地獄へ落ちるだと?それがどうした!この世は地獄だ、別の地獄へ移るだけの事だ。
 クレイグは、眠っているメガイラに視線を突き立てる。こいつは地獄の番犬らしいな。俺を地獄から迎えに来たわけか、糞が!地獄の犬なんて気取っても、所詮は番犬じゃねえか。
 クレイグの住む国には、「地獄の犬」の伝説がある。地獄から死者を迎えに来る黒い魔犬の伝説だ。魔王の支配地域でも「地獄の犬」なる魔物がいるらしいが、両者は同一らしいと言われている。メガイラは、その「地獄の犬」という魔犬なのだそうだ。
 俺は、あの糞野郎を殺して逃げ出した時に地獄へ落ちる事は覚悟した。だが、地獄へ落ちるまでに足掻いてやろうと決めた。俺はまだ死んでいない。足掻くだけ足掻いて、それから地獄へ落ちてやる。
 クレイグは、メガイラに憎悪の視線を突き立て続けた。

 クレイグとメガイラは、荒れ地から脱出して草原に出た。追跡している者達も草原に入って二人を追っている。二人は、追手を避けながら草原を逃げ続けた。
 二人の食糧は尽きたが、草原には村が点在している。クレイグは食料を盗み出そうとしたがメガイラに止められ、メガイラの金で食料を手に入れた。また、メガイラは狩りをする能力があり、兎や狐を捕えて食料にした。
 追手から逃れて食料を腹に入れると、二人は激しく交わり合った。互いの体を貪りあい、性欲をぶつけ合った。二人は互いの体の隅々まで味わい、相手の体を汚し続けるのだ。村に入る時は体を濡れた布でふいたが、それ以外の時は二人とも汚れている。クレイグは濃厚な匂いと味のするメガイラの体に欲情し、メガイラもきつい臭いと味のするクレイグの体を貪りながら股を濡らした。

 クレイグとメガイラは、草の影で欲望のまま体を貪りあっていた。二人の体は、汗と唾液で汚れている。クレイグの体にはメガイラの愛液が、メガイラの体にはクレイグの精液が体中に擦り付けられている。汗と愛液と精液の臭いが、草の匂いと交わり合って強く漂っていた。
 クレイグとメガイラは、お互いの体を舐め合っている。クレイグは胸に唾液を擦り付け、メガイラは首と肩に唾液を塗り重ねている。二人の体の所々は唾液で汚れ、その臭いが染み込んでいた。
 メガイラはクレイグの頭を掴むと、顔を右腋で挟んだ。クレイグの顔を嗅ぎなれた酸い臭いが覆い、鼻を突き刺す。クレイグはメガイラの右腕の獣毛に顔を擦り付けながら、汗まみれの腋に舌を這わせて唾液の臭いを刷り込む。メガイラは、笑い声を上げながら腋を強く押し付け、右腕の獣毛で愛撫し続けた。
 クレイグはメガイラを押しのけて立ち上がると、メガイラの後ろに回った。唾液や愛液、精液で滑る怒張したペニスを、メガイラの右腋に押し付けて扱いた。メガイラは自分から腋を強く押し付けて来て、そのままペニスを挟み込む。クレイグは、ペニスを激しく前後に動かす。右腕の獣毛がクレイグの陰嚢を下からくすぐる。メガイラの腋からは、汗で濡れた腋特有の臭いとペニスの臭い、それに精液と愛液、唾液の臭いの混じった臭気が放たれる。メガイラはペニスに蹂躙される腋に顔を寄せて、笑いながら臭いを嗅いだ。
 クレイグは腋からペニスを引き抜くと、メガイラの前に回って肉棒を顔に擦り付ける。彫りの深い美貌を、汚れた肉棒で嬲り、蹂躙した。メガイラはペニスに顔を強く押し付け、口を開いて肉棒にむしゃぶりつく。舌を這わせ、唇でしごき、口内の頬の肉を擦り付ける。そのまま激しい水音を立てて吸い上げた。
 クレイグは、メガイラを押し倒して四つん這いにさせた。メガイラの尻と尻尾をペニスで蹂躙し、あふれ出る先走り汁を塗り付ける。そのまま股を開かせると、尽きる事の無い愛液を漏らし続けるヴァギナにペニスを押し込んだ。クレイグは、熱い肉と蜜の渦を肉の棒で貫き、蹂躙する。激しく腰を叩き付け、肉の棒で奥の堅い部分を突き上げる。豊かな獣毛に覆われた尾に、腹を擦り付ける。這い蹲って喘ぎ声を上げる雌犬を、加虐心をむき出しにして攻め立てた。
 メガイラは、クレイグの下で勢いを付けて体を動かしてクレイグをから離れる。メガイラはクレイグに襲い掛かり、クレイグを地に押し倒す。クレイグの股間の上にまたがり、肉棒を蜜壺に飲み込む。そのまま円を描くように激しく腰を動かし始めた。
 クレイグは跳ね上がるように上半身を上げて、メガイラの体にぶつかっていく。メガイラは、クレイグの体を受け止めて強く抱きしめる。手足の漆黒の獣毛がクレイグを包む。クレイグは、自分を見つめる炎のような赤い目を覗き込んだ。クレイグはメガイラの口に吸いつき、メガイラはクレイグの口を激しく吸い返す。肉棒と蜜壺でつながった股間と腰を、共に激しく叩き付け揺すり動かす。
 クレイグが奥に肉棒を叩き付けた時、蜜壺の奥から熱い潮が噴き出した。熱流のほとばしりを受け、クレイグの肉棒は爆発する。精の塊が熱流を押し返し、子供を孕む部屋を打ち抜く。クレイグとメガイラは、痙攣しながら吠え声を上げた。
 快楽の渦の中で、雄と雌は痙攣し獣声を上げ続けた。

 獣じみた交わりの後、二人は地の上に横たわっていた。二人の汚れた体は、焚き火に照らされ暖められている。二人の体からは、交わりの後の濃い臭いがする。
 クレイグの左側にメガイラが寄りかかっていた。メガイラは、クレイグの左肩に顔を寄せながら豊かな毛で覆われた腕で抱きしめている。メガイラの腕からは汗で濡れた獣毛の臭いが漂い、クレイグの鼻を覆う。メガイラの顔には生渇きの精液が付き、その臭いが獣毛の臭いと混じり合っていた。
 クレイグは、腰を中心に全身に広がる疲れの中、自分とメガイラから漂う性臭を嗅いでいた。疲れと臭いの中で意識が薄れていく。俺は何をしているのだ?グレイグは、ぼんやりと辺りに目を漂わせながら思う。俺は、訳の分からぬ雌獣と彷徨い歩き、交わり続けてどうするつもりだ?
「お前は、あたしが何を考えているのか知りたいのか?」
 メガイラは、クレイグを見つめながら低い声で言った。メガイラの赤い眼がクレイグの顔を見据えている。
「ああ、知りたいな」
 クレイグは、隠すつもりが無いから認める。この雌獣は地獄の犬であり、警吏と同じような者だ。魔物の中にはこの国の警吏になる者もおり、メガイラはその類だろうと思っている。だが、なぜかクレイグを警吏に引き渡すどころか、追ってくる警吏から逃げ回っている。
「言っただろ、あたしは罪の臭いのする男が欲しいと。お前を自分のものにしたかったのさ」
「この国の役人と法を敵に回してもか?」
「ああ、奴らがあたしの邪魔をするのならば、奴らは敵だ」
 メガイラは事もなげに言い放つ。
「お前は『地獄の犬』だ。罪人を狩るのが仕事だ」
「昔の話だ」
 メガイラは、クレイグの胸に顔をすり付けた。黒髪がクレイグの顔をくすぐり、メガイラの匂いが鼻の中へ入ってくる。クレイグの目の前で、黒い獣毛に覆われた犬の物とも狼の物とも言える耳が揺れる。
「あたしは狩りに飽きたのさ」
 メガイラのつぶやきは、クレイグには聞こえなかった。

 二人は、草原を抜けて北西の山地に出ようとした。山地には中央の権力は及んでおらず、地方勢力の力も弱い。そこに入り込めば追手から逃れる事が出来ると考えたのだ。クレイグは、以前この草原に来た事が有り、少しばかり土地を知っていた。メガイラもこの土地に来た事が有るらしく、クレイグよりも巧みに進んでいく。このまま追手を撒けるかと思われた。
 だが、追手の警吏には魔物がいた。一人のワーウルフが警吏として参加しており、狼の優れた嗅覚と追跡能力を武器にして二人を追っていた。追跡者達は土地には不慣れだが、二人の跡をたどる事が出来れば追跡の専門家として的確に追い詰める事が出来る。
 二人は臭いをごまかすための細工をし、通常通る道とは別の道をたどった。だがワーウルフと警吏も、職業として追跡する者達だ。ごまかされる事は無かった。メガイラだけならば追跡者を撒く事は出来るだろうが、メガイラはクレイグを手放そうとしない。
 二人は、山地の手前の草原で追いつかれた。

 クレイグの左腕を矢が掠め、肉をえぐり取っていった。肉が弾け血を飛び散らせ、クレイグの左頬を濡らす。クレイグは、呻き声を上げながら地に倒れる。歯を食いしばりながら起き上り、右手で左腕を抑える。血は止まる事無くあふれて来て、左腕と抑えている右手を赤く汚す。
 メガイラは、クレイグの体を支え共に走る。メガイラも右肩を矢が掠めており、血が噴き出している。追跡者達は、二人が負傷するどころか死んでも構わないらしい。魔物娘の追跡者は二人を殺す気は無いようだが、大半の追跡者は人間だ。人間の追跡者にとっては、罪人を始末する事が大切なのだ。始末する場所は、捕えた所でも拷問部屋でも処刑台でも構わないのだ。裁判を重視するのは判事くらいだ。
「あのワーウルフには失望したな。結果として人殺しに加担しているじゃないか。これでは番犬呼ばわりされても文句は言えないな」
 メガイラは吐き捨てる。
 クレイグにとってはどちらでもいい事だ。クレイグは、初めから魔物娘を信用していない。ワーウルフもメガイラも「犬」に過ぎない。
 メガイラは、クレイグに小刀を渡す。重みのあるしっかりとした造りであり、メガイラがクレイグから取り上げた小刀よりも立派な物だ。
「奴らが襲い掛かってきたら、そいつで刺せ。あたしは奴らを引き付けるから、お前は先に逃げろ」
 メガイラはクレイグの答えを待たずに、後ろに向かって走り出した。黒い制服を着た追跡者の一人に襲い掛かり、地に打ち倒す。即座に別の追跡者の飛びかかり、腕を振るって跳ね飛ばす。
 クレイグは、後ろを見ずに走り出した。これでやっとあの雌犬を厄介払いできる。クレイグは笑いながら走り続ける。追跡して来た犬と共倒れになってくれればありがたい。俺は自由になれる。
 クレイグは、草原を駆け抜けながら解放感を味わう。まだ逃げ切っていないとは言え、やっと一人になれて喜びが湧きあがってくる。同時に、後ろめたさと空虚さもクレイグの中にあった。クレイグは頭を振り、逃げ切る事に集中しようとする。あの雌犬が暴れてくれているおかげで、俺を追って来る者はいない。このまま逃げ切るんだ!クレイグは肺と左腕の痛みを押さえつけて、必死に足を動かし続ける。後ろめたさも無理やり押さえつけた。

 クレイグは、窪地に座り込んだ。窪地の周りには草が生えており、人目から身を隠す事が出来る。肺は爆発しそうなほどの痛みが有り、心臓は異常なほど存在感を持って音を立てている。左腕は激しく脈打つ様が感じられ、激しい動きと傷の双方が左腕を攻め立てている事が分かる。クレイグは、唾液と共にかすれた息を吐き出した。
 クレイグの頭は血液が強く脈打ち、まともに考える事が出来ない。全身から痛みが湧きあがり、クレイグの心身を攻め立てる。それでも時間が経ってくると痛みは和らぎ、呼吸もまともな物となってくる。クレイグは、全身を濡らす汗を沈める風の心地良さを感じ始めた。
 不意に視界に黒い物が移る。瞬間的にクレイグは横に転がった。クレイグの右肩を焼け付くような痛みが走る。喚き声を上げて転がるクレイグの眼前の地面に、鈍い銀色の剣が付きたてられた。
「とんだ間抜け野郎だ、死にな!」
 黒い制服を着た男が、笑いながら剣を振りかざした。クレイグは、喚き声を上げながら滅茶苦茶に腕を振り回す。
 クレイグの目の前を黒い影が横切った。同時に、槍を構えていた男が弾き飛ばされる。その場にいたもう一人の黒服が、槍を突き出す。黒い影は槍を掻い潜り、黒服に飛び掛かって地面に叩き付ける。黒い影はメガイラだ。クレイグを殺そうとした男達を叩きのめし、地に這い蹲らせていく。
 クレイグに弾き飛ばされた黒服は、剣を持ちなおして後ろからメガイラを切ろうとする。クレイグは小刀を抜き、黒服の横腹にぶつかっていく。小刀を繰り返し突き立て、腹をえぐる。黒服は、意味の分からぬ事を喚き散らして倒れた。

 クレイグとメガイラの周りには、三人の黒服が倒れていた。この場にいる追跡者は、この者達だけだ。クレイグは、三人に止めを刺そうとして小刀を手に黒服にかがみこむ。
「止めとけ、殺しは好きじゃない。裸にひん剥いて縛って転がしておけばいい。第一、その小刀は魔界銀製だ。殺す事は出来ねえよ」
「魔界銀だと?」
 クレイグは、両手で小刀を持って荒い息をつく。
「ああ、衝撃を与えるが殺しはしない」
 クレイグは辺りを見回すと、大人の頭ほどの大きさの石を見つける。クレイグは小刀を捨てて、石を拾い上げようとする。この大きさなら、倒れている男達の頭を砕く事が出来るだろう。
 石を持ち上げようとした瞬間に、左腕と右肩に激しい痛みが走った。左腕は矢で抉られ、右肩は剣で切られているのだ。
「少し待っていろ、こいつらの始末が終わったら手当をしてやる」
 メガイラはそう言うと、言った通りに黒服達を裸に剥き、縛り上げた。そしてクレイグの傷口を酒で洗い、薬を塗り付けて布で縛る。その後で、肉の抉れた自分の右肩の治療をした。
「こいつらの仲間はどうなった?」
「掻き回した後、他の場所へ誘い込んだ。今ごろまだ彷徨っているだろう。ワーウルフの小娘はお仕置きしておいた。ただ、お前を追って行った奴が三人いてな。そいつらまで手は回らなかったわけだ」
「殺さなかったのだな」
「言っただろ、殺しは好きじゃない」
「殺さないといつまでも追いかけてくるぞ」
「その前に行方を暗ませればいいのさ。あたしは、昔『狩り』をしていたんだ。こいつらの手の内は分かる」
 メガイラは苦笑する。
「今回は少し危なかったがな」
 メガイラは立ち上がると、クレイグを怪我の無い左肩に担ぎ上げた。
「どういうつもりだ?」
「早くずらかったほうがいいだろ。お前は怪我人だ、ゆっくり歩いている余裕はない」
「下ろせよ!」
「じっとしていろ」
 クレイグの言う事に耳を貸さず、メガイラはクレイグを担ぎながら歩き出した。

 クレイグとメガイラは、草原を抜けて山地へ入り込んだ。山地は中央とは別の独自の共同体が有り、その地の者に危害を加えなければお尋ね者でも黙認した。追手は、山地までは入り込まなかった。中央の役人は、この地では歓迎されない。へたをすれば山陰のどこかに埋められてしまう。
 クレイグとメガイラは、この地に住み込もうとした。だが職を得ようとしても、季節労働などの短期の仕事は得られるが、長期の仕事は得られない。よそ者、特に訳ありの者は長居を許されない為だ。二人は鉱山の臨時雇いの仕事を終えると、稼いだ金で大陸へ渡る事にした。大陸は、クレイグの住んでいた島国とは別の国であり、クレイグの様なお尋ね者でも生きて行けると考えたからだ。
 だが大陸へ渡ると、希望は打ち砕かれた。大陸の諸国はクレイグの国と協定を結び、互いの国のお尋ね者を摘発し合う事になっていたのだ。現時点ではその協定は公表されておらず、その為にお尋ね者、「地獄の犬」として生きてきた二人にも分からなかったのだ。大陸で行われている他国から来たお尋ね者の摘発は、クレイグの国の摘発に比べれば緩かった。それでもクレイグ達は、安住を許されずに大陸を彷徨い続けるしかなかった。

 クレイグとメガイラは、荒れ地を眺めていた。岩ばかりの大地に枯れた草が落ちている荒涼とした所だ。激しい風が吹き、二人の体に土埃を叩き付ける。
 二人は、この荒れ地の近くにある町で暮らしていた。クレイグは薬売りを、メガイラは賞金稼ぎをしていた。クレイグは、農奴時代には食い物が無ければ食える草を食べていた。お尋ね者として彷徨っていた時には、怪しげな「薬屋」と付き合っていた事もある。その為に、薬草の知識は少しあった。メガイラは、「地獄の犬」としての経験から「狩り」の技術が有る。山に入って兎や狐、熊を狩る時も有れば、他所から来たごろつきを狩る事もある。町の者は、町の秩序を守るために怪しげなよそ者であるメガイラを使っていた。
 だがその生活も、もう終わりだ。町長の死により、町の権力者は変わった。新しい町長は怪しげなよそ者たちを追放する事に決め、その為にこの国の王都の役人を呼び寄せようとしていた。その中には魔物もいる。二人は町を出るしかなかった。
 俺は、どこへ行っても追い払われるか捕えられるのだな。クレイグは苦く笑う。俺にとっては、法と役人は敵だ。どこの町や村、国も敵だ。隠里の様な所や地下組織も有るが、そこの「掟」とやらも結局は敵に回る。人も魔物も俺の敵だ。神も俺を救ってはくれない、神も俺の敵だ。叩き付けてくる風の中で、クレイグは歯を噛みしめながら笑い続ける。
 クレイグの左腕に、温かい物がふれた。メガイラが体を摺り寄せて来ていた。メガイラの体は弾力が有り、クレイグの体を強く押して来る。クレイグはメガイラの獣毛に覆われた体を感じ、メガイラの匂いを嗅ぐ。死に絶えた様な風景の中で、メガイラの匂いは生きている事を感じさせてくれる。
 俺の人生は糞だ。クレイグは、何度も思い知らされて来た事を心の中で噛みしめる。俺はこのまま彷徨い続け、いずれ野垂れ死ぬのだろう。そして地獄へと落ちるのだろう。だが、
 クレイグは、傍らの地獄の犬を見る。地獄の犬は、不敵な笑いを浮かべながら罪人たるクレイグに身をすり寄せている。地獄の犬の体は温かい。
 死ぬ時にこいつが傍らにいてくれるのなら、それは悪くないかもしれない。こいつと一緒に地獄へ落ちるか。
 クレイグは声を立てずに笑った。クレイグは前へ足を進め、メガイラも共に足を進める。生の感じられない荒れた風景の中を、二人は叩き付けるような風に向かって歩き始めた。
14/12/16 21:56更新 / 鬼畜軍曹

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