幸福な食事
肉の焼ける匂いが漂っていた。洞窟の入り口で、火が燃えていた。焚き火だった。その焚き火で、串にさした肉が炙られていた。
肉を焼いているのは少年だった。痩せて、汚いなりの少年だった。少年は、生焼けのまま肉にかぶりついた。少年にとって、久しぶりの獲物の肉だった。
洞窟の中を見ると、獲物が何であるかわかった。兎や鹿ではない。血みどろの少女の体が横たえていた。胸、尻、太ももがえぐられていた。洞窟の中は、生臭いにおいで充満していた。
「おいしそうね。私も相伴してもいいかしら?」
女の声が響いた。いつの間にか、若い女が少年のそばに立っていた。
少年は、無言のまま小刀を抜いた。小刀を突き出しながら、女にぶつかっていった。
女は、少年の突きをかわした。
少年は振り返り、女を睨みつけた。まともな顔つき、目つきではなかった。獣人なるものがいるとすれば、少年の顔つき、目つきは当てはまるだろう。ただし、狂った獣人だ。
少年は、再び女に小刀を突き出した。女はかわした。かわしざま、少年に足をかけた。少年は、地に倒れた。女は、少年の体に馬乗りになった。小刀を叩き落した。そして腕を背に捻りあげ、紐で縛り上げた。
少年は、獣じみた咆哮をあげた。その少年の姿を、女は顔を歪めながら見下ろした。
「この国の収奪は、報告以上にひどいらしいな」
指揮官を勤める女が言った。女は人間ではなかった。頭から角が生えていた。背には翼が生えていた。尻からは尻尾が生えていた。
女は、サキュバスであった。魔王軍の指揮官だった。
魔王軍は、大陸中央部にある国を侵攻していた。この国は、肥沃な土地に恵まれていることで知られた。同時に、権力者によって激しく収奪されていることでも知られていた。
「人肉食が起こるとは」
指揮官は、嫌悪を露にして言った。
「あの者はいかがいたしますか?」
少年を捕らえた女が言った。女は、褐色の肌をしていた。そして手足は赤かった。
女はグールであった。旧魔王時代は、人肉を食したことで知られる魔物だ。
「夢から過去を探る。この国の実態を知りたい。」
指揮官は答えた。サキュバスは夢に入り込める。そこから過去を探ることが出来る。
「ですが閣下が夢を探るのは」
グールは反対した。夢を見ることは、見るものに負担をかける。まして、凄惨な過去を持つものの夢を見れば、下手をすれば気が狂ってしまう。指揮官として重責を担うものがすることではなかった。
「コンスタンスにやらせる」
指揮官は、不機嫌そうに答えた。
コンスタンスは、実力のあるサキュバスだ。その力量から、指揮官の側近を勤めていた。そして、グールの同僚にして友人だった。
「承知いたしました。用意をします」
グールは、一礼して指揮官の元を辞した。
「あなたも見るの、マリー?」
コンスタンスは、不満げに言った。
「ええ、私にとって必要だから」
少年を捕らえたグールは、平板な声で言った。
コンスタンスは、無言のままマリーを見た。マリーも、それ以上言わなかった。沈黙が場を覆った。
「わかったわ」
コンスタンスは短く言った。マリーの事情は知っている。強く反対できなかった。
少年は眠っていた。サキュバスの術で眠らされていた。
「目を閉じて。私の魔力に合わせて」
コンスタンスは、低く落ち着いた声で言った。
マリーは、コンスタンスの声に従った。
マリーは、少年の夢の中に沈んでいった。深く深く沈んでいった。
一面に麦畑が広がっていた。豊かな実りだった。
だが、この地の者は飢えていた。
この地の者の大半は農奴だ。この国の大半の者が農奴だった。
収穫したものは、すべて領主が奪った。領主は、その収穫から国税と主神教会の取り分を分けた。残りの分を自分の物とした。領主は、自分の取り分の中から、農奴が食する分を農奴に与えた。
農奴に与えられるものは、生きることが出来るぎりぎりの量であった。働きが悪いとみなされた農奴は、量を減らされた。そして餓死していった。餓死した農奴は、見せしめとなった。
少年は、農奴の一家に生まれた。生まれた時から満足に食べたことはなかった。
少年は、一家の中でも弱者だった。父と母、そして姉より少ない食糧しか与えられなかった。
父と母は、少年を殴り罵った。役立たず、無駄飯ぐらい、蚤たかりの犬。そう罵られた。姉は、殴られる少年を見て笑っていた。
弱いものは、自分より弱いものを虐げる。強いものに立ち向かわない。このことを、少年は体で覚えた。
農奴は、自分を虐げる領主に這いつくばった。領主の使用人になりたがった。そうすれば、他の農奴を虐げることが出来た。飯も多く食べられた。
領主の使用人たちは、威張り腐っていた。他の農奴たちに、労役を課した。そして気分しだいで殴った。
少年も、顔の形が変わるほど殴られた。
少年は、他の農奴に笑われていた。少年は、自分が不器用で、役立たずで、不恰好だから笑われると思っていた。だが、理由はそれだけではなかった。
ある日、他の農奴の話を盗み聞きして、自分が笑われる理由を知った。
自分は、父の種で生まれたものではない。領主の使用人の一人の種から生まれた。食い物ほしさに、母は使用人に体を売った。そして、自分が生まれた。
ある時、領内の主神教の教会が建て直されることとなった。領主は、そのための労役を農奴に課した。領主も、一部の費用を出すこととなった。領主は、働きの悪いとみなした農奴に与える食料を減らした。そこから費用を捻出した。
少年の一家に与えられる食料は減らされた。
少年は、まともな食事を取ることができなくなった。母に食事を頼むと、腐った人参を叩き付けられた。
少年が飢え死にすることは、時間の問題だった。
少年は、ひとつの決意をした。
少年は、村はずれの納屋で姉を殺した。
姉は、領主の使用人に体を売っていた。そして食料を手に入れていた。体を売る場所は、この納屋だった。
少年は納屋に潜み、姉を待ち構えた。姉は、使用人と一緒に入ってきた。
姉は、痴態の限りを尽くした。使用人の汚いペニスに頬ずりした。旨そうにしゃぶった。使用人に雌犬呼ばわりされると、四つんばいとなった。うれしそうに尻を振った。四つんばいのまま、前と後の穴を犯された。雌犬鳴けと使用人が言うと、尻を振りながら犬の鳴きまねをした。事が終わると、ひざまずいたまま口で使用人のペニスを清めた。自分の穴に入れたペニスを、笑顔でしゃぶった。
使用人は、パンや人参やジャガイモを地面にばら撒いた。姉は、這いつくばって拾い集めた。使用人は、笑いながら出て行った。
姉は、パンを貪り食った。犬ですら、ここまで汚い食べ方はしなかった。
少年は、後から姉に忍び寄った。手には鍬を構えていた。姉の頭に鍬を振り下ろした。何度も何度も振り下ろした。
少年は、姉の血で染まったパンを貪り食った。生のまま人参とジャガイモを貪り食った。その食い方は、人間のものとは思えなかった。
食い物を全部食っても、少年は満たされなかった。飢えは収まらなかった。
少年は、姉の屍を見つめた。納屋の壁際の棚の上を見た。棚の上には小刀があった。使用人の誰かが忘れたのだろう。
少年は小刀を取り、姉に近づいた。食い物ならここにあった。
少年は逃走した。領主の手のものが、少年を追っていた。領主の手のものは、少年以上に土地に詳しかった。少年は追い詰められ、がけから滑り落ちた。領主の手のものは、笑いながら引き上げた。少年は死んだものとみなした。
幸か不幸か、少年は助かった。途中の枝に引っかかった。
少年の放浪は始まった。
国の中を、行く当てもなくさ迷った。食い物を盗みながら、放浪した。人を殺し、その肉を喰らいながらさ迷った。
狙うのは自分より弱いものだった。年下の少年や少女を殺し、喰らった。生き延びたければ、自分より弱いものを狙うことを少年は学んできた。生まれた時から、体で学んできた。
マリーに捕らえられた時、少年は旧魔王時代のグールのようなものと成り果てていた。
二人は眠りから覚醒していった。
深いため息をついた。
「記録は魔水晶に保存したから。提出しておくわ」
コンスタンスは疲れたように言った。
少年は眠り続けていた。
「この子の記憶は、夢の中に忘却させましょう。閣下も承認してくださるでしょう」
マリーは、無言のままうなずいた。
「あなたの記憶も忘れさせましょうか?」
コンスタンスは静かに言った。
マリーは、何も言わず首を振った。
コンスタンスは、少しの間マリーを見つめた。
そして立ち去った。
少年は眠り続けていた。
マリーは、少年の顔を見続けていた。
マリーは、自分の過去を思い出していた。
マリーは、元は人間であった。
少年の住む国の西にある国で生まれ育った。農民の娘だ。マリーの国は、少年の国のような苛烈な収奪は行っていなかった。だが、農民達は貧しかった。その貧しさは、飢饉の時に致命的なものとなった。
領主は、自分達が生き残るために必要な分を、農民達から奪った。そして城に閉じこもった。救済を求めて城に押しかけてくる人々に、矢を放った。
領内、そして国中に餓死者があふれた。人々は、生き残るために手段を選ばなかった。
殺人、強盗、詐欺といった犯罪が荒れ狂った。弱者は、より弱いものを標的とした。
その中で、マリーは体を売ることで生き延びようとした。
マリーは、様々な痴態を演じた。少年の姉と似たようなものであった。
胸や下半身を露出して男を誘った。男の前で笑いながらひざまずいた。洗ってない臭いペニスに口で奉仕した。四つんばいになって尻を振った。男の望むまま、雌犬や雌豚のまねをした。男のペニスから放たれる汚液を、体中で受け止めた。口の中で、顔で、胸で、股で、膣で、尻で、直腸で受け止めた。体に塗りたくられた汚液を、手で拭って舐めて見せた。
そしてわずかばかりの食料を手に入れた。食い物を貪り食った。ある男は、マリーの食い方を雌豚のほうがましだと笑った。
結局、マリーは生き残れなかった。
やせこけたマリーを買おうとするものは、少なくなっていった。手に入れたわずかな食料も、散々殴られた挙句奪われた。
マリーは、道端で倒れた。誰も見向きもしなかった。マリーを踏み越えていく者もあった。
マリーは、激しい苦痛の中で死んだ。
マリーの屍は、道から少しはなれたところに掘った穴へ放り込まれた。他の屍と一緒だった。
気がついた時、マリーは男の屍を貪り食っていた。
死んだはずの自分がなぜこうして動けるのか、そんなことはマリーにはどうでもよかった。ただ喰らいたかった。
それから先は、人を貪り続ける為に動き続けた。善悪など関係なかった。
後で知ったことだが、旧魔王の魔力が、マリーの飢えを満たそうとする欲望と結びついたらしい。魔王の魔力によって、マリーはグールとなった。
転機は、魔王の代替わりだった。
サキュバスが魔王となった。そして、魔物を人を愛するものへと変えた。
最初は、マリーにとってどうでもいいことだった。マリーにとって、人は喰らうものでしかなかった。
だが、マリーは否応無く気づかされた。
自分は、もう人を食えないと。
無理に食おうとすると、激しく嘔吐した。
マリーは、人を食うことを断念した。
マリーは、魔王軍に参加した。グールとなったマリーの身体能力ならば、軍務をこなすことが出来た。
マリーは、様々な国への侵攻に参加した。魔物娘たちは、侵攻しながら男を貪っていた。性的に貪っていた。貪りながら自分を与えていた。はじめは脅えていた男達も、やがて魔物娘を受け入れていった。
マリーは、魔物と人との親交を見続けた。長く見続けてきた。そのうち漠然とわかってきた。
罪を。
あたり一面黄金色だった。麦が豊かに実っていた。
少年は麦畑を見ていた。
少年は痛みを感じた。
なぜ痛みを感じたかわからなかった。麦畑を見ているうちに、ふと感じた。
「ここにいたのね、フランツ」
女が少年の背に声をかけた。少年は、微笑みながら振り返った。
「マリー、何か用があるのかな?」
マリーは包みを差し出した。
「ご飯を食べましょう」
マリーは笑いながら言った。
マリーは、少年の保護者だった。そして恋人だった。
マリーは、元は軍にいた。数年前除隊し、農業を始めた。
少年は、軍人時代のマリーに保護されていた。少年は、記憶が欠けていた。マリーに保護される前のことを、よく覚えていなかった。マリーに保護される前のことを聞いても、マリーはわからないと答えるばかりだった。
だが、大したことではなかった。マリーとの幸福な生活に比べれば、些細なことだった。今からマリーとの楽しい食事が始まるのだ。
また痛みを感じた。
少年は、麦畑を振り返った。
マリーは、少年をじっと見ていた。
「行こう、マリー」
少年は麦畑に背を向け、マリーのほうへ笑いながら歩いていった。
肉を焼いているのは少年だった。痩せて、汚いなりの少年だった。少年は、生焼けのまま肉にかぶりついた。少年にとって、久しぶりの獲物の肉だった。
洞窟の中を見ると、獲物が何であるかわかった。兎や鹿ではない。血みどろの少女の体が横たえていた。胸、尻、太ももがえぐられていた。洞窟の中は、生臭いにおいで充満していた。
「おいしそうね。私も相伴してもいいかしら?」
女の声が響いた。いつの間にか、若い女が少年のそばに立っていた。
少年は、無言のまま小刀を抜いた。小刀を突き出しながら、女にぶつかっていった。
女は、少年の突きをかわした。
少年は振り返り、女を睨みつけた。まともな顔つき、目つきではなかった。獣人なるものがいるとすれば、少年の顔つき、目つきは当てはまるだろう。ただし、狂った獣人だ。
少年は、再び女に小刀を突き出した。女はかわした。かわしざま、少年に足をかけた。少年は、地に倒れた。女は、少年の体に馬乗りになった。小刀を叩き落した。そして腕を背に捻りあげ、紐で縛り上げた。
少年は、獣じみた咆哮をあげた。その少年の姿を、女は顔を歪めながら見下ろした。
「この国の収奪は、報告以上にひどいらしいな」
指揮官を勤める女が言った。女は人間ではなかった。頭から角が生えていた。背には翼が生えていた。尻からは尻尾が生えていた。
女は、サキュバスであった。魔王軍の指揮官だった。
魔王軍は、大陸中央部にある国を侵攻していた。この国は、肥沃な土地に恵まれていることで知られた。同時に、権力者によって激しく収奪されていることでも知られていた。
「人肉食が起こるとは」
指揮官は、嫌悪を露にして言った。
「あの者はいかがいたしますか?」
少年を捕らえた女が言った。女は、褐色の肌をしていた。そして手足は赤かった。
女はグールであった。旧魔王時代は、人肉を食したことで知られる魔物だ。
「夢から過去を探る。この国の実態を知りたい。」
指揮官は答えた。サキュバスは夢に入り込める。そこから過去を探ることが出来る。
「ですが閣下が夢を探るのは」
グールは反対した。夢を見ることは、見るものに負担をかける。まして、凄惨な過去を持つものの夢を見れば、下手をすれば気が狂ってしまう。指揮官として重責を担うものがすることではなかった。
「コンスタンスにやらせる」
指揮官は、不機嫌そうに答えた。
コンスタンスは、実力のあるサキュバスだ。その力量から、指揮官の側近を勤めていた。そして、グールの同僚にして友人だった。
「承知いたしました。用意をします」
グールは、一礼して指揮官の元を辞した。
「あなたも見るの、マリー?」
コンスタンスは、不満げに言った。
「ええ、私にとって必要だから」
少年を捕らえたグールは、平板な声で言った。
コンスタンスは、無言のままマリーを見た。マリーも、それ以上言わなかった。沈黙が場を覆った。
「わかったわ」
コンスタンスは短く言った。マリーの事情は知っている。強く反対できなかった。
少年は眠っていた。サキュバスの術で眠らされていた。
「目を閉じて。私の魔力に合わせて」
コンスタンスは、低く落ち着いた声で言った。
マリーは、コンスタンスの声に従った。
マリーは、少年の夢の中に沈んでいった。深く深く沈んでいった。
一面に麦畑が広がっていた。豊かな実りだった。
だが、この地の者は飢えていた。
この地の者の大半は農奴だ。この国の大半の者が農奴だった。
収穫したものは、すべて領主が奪った。領主は、その収穫から国税と主神教会の取り分を分けた。残りの分を自分の物とした。領主は、自分の取り分の中から、農奴が食する分を農奴に与えた。
農奴に与えられるものは、生きることが出来るぎりぎりの量であった。働きが悪いとみなされた農奴は、量を減らされた。そして餓死していった。餓死した農奴は、見せしめとなった。
少年は、農奴の一家に生まれた。生まれた時から満足に食べたことはなかった。
少年は、一家の中でも弱者だった。父と母、そして姉より少ない食糧しか与えられなかった。
父と母は、少年を殴り罵った。役立たず、無駄飯ぐらい、蚤たかりの犬。そう罵られた。姉は、殴られる少年を見て笑っていた。
弱いものは、自分より弱いものを虐げる。強いものに立ち向かわない。このことを、少年は体で覚えた。
農奴は、自分を虐げる領主に這いつくばった。領主の使用人になりたがった。そうすれば、他の農奴を虐げることが出来た。飯も多く食べられた。
領主の使用人たちは、威張り腐っていた。他の農奴たちに、労役を課した。そして気分しだいで殴った。
少年も、顔の形が変わるほど殴られた。
少年は、他の農奴に笑われていた。少年は、自分が不器用で、役立たずで、不恰好だから笑われると思っていた。だが、理由はそれだけではなかった。
ある日、他の農奴の話を盗み聞きして、自分が笑われる理由を知った。
自分は、父の種で生まれたものではない。領主の使用人の一人の種から生まれた。食い物ほしさに、母は使用人に体を売った。そして、自分が生まれた。
ある時、領内の主神教の教会が建て直されることとなった。領主は、そのための労役を農奴に課した。領主も、一部の費用を出すこととなった。領主は、働きの悪いとみなした農奴に与える食料を減らした。そこから費用を捻出した。
少年の一家に与えられる食料は減らされた。
少年は、まともな食事を取ることができなくなった。母に食事を頼むと、腐った人参を叩き付けられた。
少年が飢え死にすることは、時間の問題だった。
少年は、ひとつの決意をした。
少年は、村はずれの納屋で姉を殺した。
姉は、領主の使用人に体を売っていた。そして食料を手に入れていた。体を売る場所は、この納屋だった。
少年は納屋に潜み、姉を待ち構えた。姉は、使用人と一緒に入ってきた。
姉は、痴態の限りを尽くした。使用人の汚いペニスに頬ずりした。旨そうにしゃぶった。使用人に雌犬呼ばわりされると、四つんばいとなった。うれしそうに尻を振った。四つんばいのまま、前と後の穴を犯された。雌犬鳴けと使用人が言うと、尻を振りながら犬の鳴きまねをした。事が終わると、ひざまずいたまま口で使用人のペニスを清めた。自分の穴に入れたペニスを、笑顔でしゃぶった。
使用人は、パンや人参やジャガイモを地面にばら撒いた。姉は、這いつくばって拾い集めた。使用人は、笑いながら出て行った。
姉は、パンを貪り食った。犬ですら、ここまで汚い食べ方はしなかった。
少年は、後から姉に忍び寄った。手には鍬を構えていた。姉の頭に鍬を振り下ろした。何度も何度も振り下ろした。
少年は、姉の血で染まったパンを貪り食った。生のまま人参とジャガイモを貪り食った。その食い方は、人間のものとは思えなかった。
食い物を全部食っても、少年は満たされなかった。飢えは収まらなかった。
少年は、姉の屍を見つめた。納屋の壁際の棚の上を見た。棚の上には小刀があった。使用人の誰かが忘れたのだろう。
少年は小刀を取り、姉に近づいた。食い物ならここにあった。
少年は逃走した。領主の手のものが、少年を追っていた。領主の手のものは、少年以上に土地に詳しかった。少年は追い詰められ、がけから滑り落ちた。領主の手のものは、笑いながら引き上げた。少年は死んだものとみなした。
幸か不幸か、少年は助かった。途中の枝に引っかかった。
少年の放浪は始まった。
国の中を、行く当てもなくさ迷った。食い物を盗みながら、放浪した。人を殺し、その肉を喰らいながらさ迷った。
狙うのは自分より弱いものだった。年下の少年や少女を殺し、喰らった。生き延びたければ、自分より弱いものを狙うことを少年は学んできた。生まれた時から、体で学んできた。
マリーに捕らえられた時、少年は旧魔王時代のグールのようなものと成り果てていた。
二人は眠りから覚醒していった。
深いため息をついた。
「記録は魔水晶に保存したから。提出しておくわ」
コンスタンスは疲れたように言った。
少年は眠り続けていた。
「この子の記憶は、夢の中に忘却させましょう。閣下も承認してくださるでしょう」
マリーは、無言のままうなずいた。
「あなたの記憶も忘れさせましょうか?」
コンスタンスは静かに言った。
マリーは、何も言わず首を振った。
コンスタンスは、少しの間マリーを見つめた。
そして立ち去った。
少年は眠り続けていた。
マリーは、少年の顔を見続けていた。
マリーは、自分の過去を思い出していた。
マリーは、元は人間であった。
少年の住む国の西にある国で生まれ育った。農民の娘だ。マリーの国は、少年の国のような苛烈な収奪は行っていなかった。だが、農民達は貧しかった。その貧しさは、飢饉の時に致命的なものとなった。
領主は、自分達が生き残るために必要な分を、農民達から奪った。そして城に閉じこもった。救済を求めて城に押しかけてくる人々に、矢を放った。
領内、そして国中に餓死者があふれた。人々は、生き残るために手段を選ばなかった。
殺人、強盗、詐欺といった犯罪が荒れ狂った。弱者は、より弱いものを標的とした。
その中で、マリーは体を売ることで生き延びようとした。
マリーは、様々な痴態を演じた。少年の姉と似たようなものであった。
胸や下半身を露出して男を誘った。男の前で笑いながらひざまずいた。洗ってない臭いペニスに口で奉仕した。四つんばいになって尻を振った。男の望むまま、雌犬や雌豚のまねをした。男のペニスから放たれる汚液を、体中で受け止めた。口の中で、顔で、胸で、股で、膣で、尻で、直腸で受け止めた。体に塗りたくられた汚液を、手で拭って舐めて見せた。
そしてわずかばかりの食料を手に入れた。食い物を貪り食った。ある男は、マリーの食い方を雌豚のほうがましだと笑った。
結局、マリーは生き残れなかった。
やせこけたマリーを買おうとするものは、少なくなっていった。手に入れたわずかな食料も、散々殴られた挙句奪われた。
マリーは、道端で倒れた。誰も見向きもしなかった。マリーを踏み越えていく者もあった。
マリーは、激しい苦痛の中で死んだ。
マリーの屍は、道から少しはなれたところに掘った穴へ放り込まれた。他の屍と一緒だった。
気がついた時、マリーは男の屍を貪り食っていた。
死んだはずの自分がなぜこうして動けるのか、そんなことはマリーにはどうでもよかった。ただ喰らいたかった。
それから先は、人を貪り続ける為に動き続けた。善悪など関係なかった。
後で知ったことだが、旧魔王の魔力が、マリーの飢えを満たそうとする欲望と結びついたらしい。魔王の魔力によって、マリーはグールとなった。
転機は、魔王の代替わりだった。
サキュバスが魔王となった。そして、魔物を人を愛するものへと変えた。
最初は、マリーにとってどうでもいいことだった。マリーにとって、人は喰らうものでしかなかった。
だが、マリーは否応無く気づかされた。
自分は、もう人を食えないと。
無理に食おうとすると、激しく嘔吐した。
マリーは、人を食うことを断念した。
マリーは、魔王軍に参加した。グールとなったマリーの身体能力ならば、軍務をこなすことが出来た。
マリーは、様々な国への侵攻に参加した。魔物娘たちは、侵攻しながら男を貪っていた。性的に貪っていた。貪りながら自分を与えていた。はじめは脅えていた男達も、やがて魔物娘を受け入れていった。
マリーは、魔物と人との親交を見続けた。長く見続けてきた。そのうち漠然とわかってきた。
罪を。
あたり一面黄金色だった。麦が豊かに実っていた。
少年は麦畑を見ていた。
少年は痛みを感じた。
なぜ痛みを感じたかわからなかった。麦畑を見ているうちに、ふと感じた。
「ここにいたのね、フランツ」
女が少年の背に声をかけた。少年は、微笑みながら振り返った。
「マリー、何か用があるのかな?」
マリーは包みを差し出した。
「ご飯を食べましょう」
マリーは笑いながら言った。
マリーは、少年の保護者だった。そして恋人だった。
マリーは、元は軍にいた。数年前除隊し、農業を始めた。
少年は、軍人時代のマリーに保護されていた。少年は、記憶が欠けていた。マリーに保護される前のことを、よく覚えていなかった。マリーに保護される前のことを聞いても、マリーはわからないと答えるばかりだった。
だが、大したことではなかった。マリーとの幸福な生活に比べれば、些細なことだった。今からマリーとの楽しい食事が始まるのだ。
また痛みを感じた。
少年は、麦畑を振り返った。
マリーは、少年をじっと見ていた。
「行こう、マリー」
少年は麦畑に背を向け、マリーのほうへ笑いながら歩いていった。
14/02/11 00:19更新 / 鬼畜軍曹