狂った世界で淫乱メストカゲと戯れよう
ある日、僕は鏡の中の世界へ入り込んだ。猫の耳を生やした女の子とエプロンドレスを着た女の子が鏡の中に入り込み、それを追いかけたら僕も鏡の中へ入り込んだのだ。
別に僕は、寝ぼけているわけではない。夢から覚めたら猫と戯れていた、なんて事は無い。仮に夢を見ているのだとしたら、今も夢を見ているのだ。
僕は、その日は自室にいた。休みの日に自室に閉じこもって、陰鬱な考えに浸っていた。そこへいきなり、前述した二人の少女が飛び込んで来たのだ。猫の耳を生やした少女を、エプロンドレスの女の子が追いかけていた。そして二人は鏡に向かって突っ込んでいき、ぶつかるかと思うと鏡の中へ吸い込まれたのだ。
鏡の所へ行って触れてみると、僕は鏡の中へ吸い込まれてしまった。鏡の中は薄暗い屋敷の中であり、僕には覚えのない所だ。僕は混乱した状態でさ迷った後、やっとのことで屋敷から出る事が出来た。そして出た所は、七色に変化している空の下にある紫色の草の生えた庭だ。
僕は馬鹿みたいに立ち尽くしたが、それは当然の事ではないだろうか?
庭をさ迷い歩くと、オレンジ色のテーブルとイスがある場所に出た。テーブルの上にはティーセットが置かれており、お茶会が出来る状態となっている。テーブルの周りは花園となっており、青いバラや緑色のユリ、赤いスミレが咲き誇っていた。
椅子には、緑色の燕尾服を着て同色のシルクハットをかぶった若い女性がいた。彼女は静かにお茶を飲んでいたが、僕を見つけると微笑みながら話しかけて来た。
「やあ、僕はウィルマと言う者だ。よそから来た人には説明しないと分からないだろうが、僕はマッドハッターと言う種族の者さ。良かったらお茶を飲まないかね?」
僕は、彼女の誘いに乗った。状況を把握するためにも、誰かと話す必要があるからだ。僕が席に着こうとしたら、突然後ろから声がした。
「無粋そうな男だけど、お茶会に誘うのはよしたら」
僕は、振り返って話し手を確認しようとしたが、誰もいない。ただ花園があるだけだ。
「ほら、お馬鹿さん丸出しの顔をしているわ」
僕は、危うく飛び上がるところだった。バラの花が喋っているのだ。
「そんな事を言うものではないわ、失礼よ」
今度はユリが喋り出した。
「驚いているようだね。外の世界から来た人は、この世界の花には慣れない者が多い」
ウィルマと名乗ったシルクハットの女性は、面白がるように言った。
驚くなと言う方が無理な話だ。バラの花弁が青くユリの花弁が緑なのも驚くが、花が喋る事は異常事態だ。僕は、震える手でお茶の入ったカップを持つ。お茶はやけに甘ったるく、そして酒でも入っているかの様に酔う物だった。
「君は本を持っているね。良かったら見せてくれないか?」
ウィルマの言葉に、僕は本を持っている事に気が付く。僕は、屋敷の中をさ迷っているうちに本を持ち出して来たらしい。ウィルマに指摘されるまで気が付かなかった。僕は、言われるままにウィルマに本を差し出した。
「これはジャバウォックを詠んだ詩だね」
首をかしげる僕に、ウィルマは説明する。
「ジャバウォックと言うのは、この不思議の国に住むドラゴンさ。淫乱メストカゲと呼ぶ人もいるけどね。男を探して空を飛び回っているのさ」
ウィルマの説明を聞いている内に、僕は強い欲望を感じ始める。体が熱くなり、下半身に力が入る。目の前にいる女であるウィルマに襲い掛かりたくなる。もしかして、あのお茶には何か入っていたのか?
「発情したサルみたいね」
スミレが僕を嘲り笑う。
ウィルマは立ち上がり、優雅に一礼する。
「君の相手をしてあげたいけれど、僕にはパートナーがいるのでね。これで失礼するよ。心配せずとも君のパートナーはすぐに見つかるさ」
ウィルマは、素早く花園の中に身を躍らせて消える。
僕は、ウィルマを追いかけて駆け出した。
花園を抜けるとオレンジ色の葉の茂る森があった。僕は、その森の中を発情しながらさ迷い歩いた。発情するのは恥ずかしいと分かっているが、それでもこの時は自分を抑えられなかったのだ。
「おや、見事に出来上がっているねえ」
艶やかな女性の声に、僕は激しい身振りと共に女性の姿を探す。女性は、木の枝の上でニヤニヤしながら僕を見下ろしていた。女性の頭には猫のような耳があり、お尻からは猫のようなしっぽが生えている。僕が誰何すると、口の端を釣り上げながら答える。
「あたしはチェシャ猫さ。この国の、いやこの世界と言ったほうがいいかな?案内者さ」
僕は、このチェシャ猫と名乗る猫耳の生えた女性に襲い掛かりたくなっていた。僕のその時の状態は、発情したサルの様なものだ。
「でも、あんたを案内するのは私の役目じゃないねえ。まあ、森を抜けると案内人が見つかるさ」
チェシャ猫は、いやらしい笑いを浮かべると森の中へ消えた。
僕は、チェシャ猫を追いかけて森の中を駆け巡った。
森を抜けると、黄色い草の生えた草原に出た。空は、相変わらずせわしなく変化している。オレンジから赤へ、赤からピンクへと変わっている。
僕の欲情は限界に達しそうになり、狂ったように辺りを見回していた。すると、空の一角に黒いものが見える。その黒いものは次第に大きくなり、僕の方へ向ってくる。その黒いものは、翼を持った人の姿だと分かって来た。
多分、その時の僕の目は血走っていただろう。こちらへ向って来る翼を持ったものが女性だと分かったからだ。
その女性は、僕の目の前に風を巻き起こしながら降り立った。人間ではなく怪物だと一目で分かる姿だ。背には大きな黒い翼を広げ、爬虫類の様な黒い鱗の生えた手足を持っていた。頭からは赤と黒の角が生え、尻には黒いしっぽが生えている。それらの禍々しいものをその女性は持っていた。
ただ、同時にその女性は妖艶でもあった。ピンク色と紫色の輝く髪をしており、彫りの深い整った顔をしていた。人間の姿をしている体の部分は官能的な褐色の肌をしており、引き締まっていながら豊かな胸をしている。胸を初めとする魅力的な体を強調する露出度の高い服を、当たり前のように着こなしている。女性は、禍々しさと淫猥さの混じり合った体を堂々と晒して屹立していた。
「ほう、面白い獲物が見つかったな」
その女性は、面白がるように僕を見ていた。その表情は、獲物を前にした肉食の動物のものでありながら余裕を持っていた。
本来ならば僕は、おびえるか思考が止まるかのどちらかだろう。だが僕は、獣欲に支配されていてその時はまともな状態ではなかった。僕は、すぐさまその女性に飛び掛かった。
「貴様は正気か!この獣が!」
女性は叫びながら抵抗するが、僕は構わずに押し倒した。僕は女性の顔を舐め回し、髪に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。服を掴んで胸をさらけ出させて、胸に顔を押し付けて感触と匂い、味を貪る。その女性は大柄であり怪物の体を持っているから、僕よりも力が強いはずだ。だが、僕はその女性を押し倒して、その女性を貪る事が出来た。
女性の匂いを嗅いでいる内に、僕の腰の熱は高まり続ける。僕はズボンと下着をむしり取るように脱ぎ、ペニスを女性の顔の前にさらけ出した。そのまま怒張したペニスを、凛々しく整った顔に擦り付ける。目を、鼻を、口を、額を、頬を肉の凶器で蹂躙する。僕のやっている事は、凌辱以外の何でもない。
僕はすぐに上りつめて、女性の顔に精液をぶちまけた。自分でも驚くほどの量の白濁液が、褐色の麗貌を汚していく。長い睫のかかった瞼が、形の良い鼻が、滑らかな頬が汚液で汚れていく。僕は、射精を続けるペニスで精液を顔に塗りたくった。
僕は、刺激臭を嗅ぎながら汚れた顔を見下ろす。まだだ、まだ足りない。もっと、この褐色の肌を汚したい。僕は萎える事の無いペニスを、女性の張りのある胸の谷間に挟み込んだ。
僕は、ペニスで胸を蹂躙しながら快楽に呻き声を上げた。最早僕は、自分が強姦魔となっている事を気にしていない。胸を犯しながら、ペニスの先端で鼻や頬を突いていた。
ふと女性を見下ろすと、女性は微笑みを浮かべていた。強姦されている者とは思えないほど余裕のある表情だ。女性は口を開き、顔に付いた白濁液を舐め取る。そして胸の谷間から出たり引っ込んだりしているペニスに、ピンク色の息を吹きかけた。
その瞬間に、僕のペニスにしびれるような快感が走った。快感は腰を襲い、背を駆け上がり、頭に直撃する。僕は快感の嵐に翻弄されながら、より強烈な快感を求める。僕は女性の胸を揉みしだきながら、ペニスを激しく胸の谷間でしごき上げる。僕のその時の有様は、獣じみたといえば獣に失礼なほどだっただろう。
僕の獣以下の姿を見ながら、女性はペニスを舐め上げた。その女性の首飾りには舌が付いていて、口から伸ばした舌と共に僕の亀頭を、くびれを、竿を舐め上げる。僕の尻からも舐られる感触がする。女性の背からは尻尾のような、触手の様な物が二本生えていて、先端には口が付いている。その口に着いた二本の舌が、僕の尻の穴を舐め上げるのだ。
僕は、この常軌を逸した快楽に耐えられない。僕は、女性の胸と顔に精液を叩き付けた。二度目とは思えないほどの激しい射精だ。褐色の肌が白濁液で染められていく姿を見て、僕は興奮して叫び声を上げてしまった。
僕は、軽く突かれて地面に尻もちをつく。ぼんやりと女性の方を見ると、女性は服の裾を上げて股を開いている。褐色の肌とピンク色の陰毛の中に、濡れ光るヴァギナが見えていた。
「さあ、今度はこちらを犯してくれ。出来るよな」
異形の体を持った女性は、僕の白濁液で汚れた顔に微笑みを浮かべた。
その後は、魔物の女性をひたすら犯し続けた。何度射精したのかは覚えていない。僕が萎えかけると、その女性は僕にピンク色の息を吹きかけるのだ。その甘い息を吹きかけられると、体の奥底から性欲が沸き上がってくるのだ。何度でも激しく精液をぶちまける事が出来た。
僕は、魔物の褐色の肌を白濁液で汚す事に夢中になった。顔を隅々まで白く汚し、胸にまんべんなく精液を塗りたくり、股の上に精のゼリーを重ねた。腋や腹、尻や背中も所々を精液でぬめらせた。
肌だけではなく、魔物娘の中も子種で汚した。口からも、ヴァギナからも、尻の穴からも精液が溢れ出している。口に出した時は、飲みきれない白濁液が鼻の穴から噴き出していた。彼女の中は、さぞ汚れきっているだろう。僕が精液を出し切った時は、彼女の体中は、白濁液で塗り重ねられた状態だった。僕の体のどこに、これほどまでの精液が貯蔵されていたのかと思うほどだ。
嗅いだことのないほど強烈な精液臭の中で、僕はすべての力が抜けて崩れ落ちていた。裸でだらしのない格好をしているのだが、僕にはどうにもできない。
彼女は少し疲れた表情をしているが、余裕のある表情で僕を見下ろしている。凌辱されたのに、平然とした顔をしている。
僕は凌辱したのだろうか?最初の内は僕が凌辱をしていた。だが途中から主導権は、彼女が握っていたのではないか?僕は、彼女の意のままになっていたのではないか?
「ずいぶんとやりたい放題やってくれたな。この責任はどう取るつもりだ?」
彼女は、僕の力を失ったペニスを愛撫しながら問いかけた。
僕は何も答えない。答える力は無いし、答える気にもならない。気が付いたら訳の分からない世界にいて、変な物を飲まされて正気を失い、その挙句に異形の魔物の女性を犯したのだ。どう答えればよいと言うのだ?
彼女は、僕のペニスをいじりながら傲然と僕を見下ろしている。僕を値踏みするような表情で、僕のだらしない姿を見つめている。
「情けない顔をするな、見苦しい。これが我が夫だと思うと、先が思いやられるわ」
僕は、彼女の言う意味が分からない。僕の事を夫と呼ぶとは、どういう事だ?
「だが、私に襲い掛かってくる様は悪くはなかった。獣じみた性欲も中々のものだ。これはこれで楽しむ事が出来るかもしれない」
僕は、次第に彼女の言っている事が飲み込めて来る。その異常な内容に、僕の中に戦慄が走り始める。
「我が夫よ、この先末永く頼むぞ」
白濁液まみれの魔物の女性は、僕に対して微笑んだ。
彼女の名はアデラと言い、ジャバウォックだそうだ。僕の持っていた本に載っている詩に登場するドラゴンだ。ドラゴンと言っても一般的にイメージされる巨大な爬虫類の怪物ではなく、人間に翼や角が生えたような存在だ。爬虫類の怪物の姿になる事も出来るが、あまりなる事は無いらしい。
この世界は、「不思議の国」と呼ばれており、「ハートの女王」と言う存在が治めているらしい。アデラは、ハートの女王からこの世界を守る任務を帯びているそうだ。もっとも最近のアデラは、自分の夫を探すために飛び回っていたらしい。
アデラ達ジャバウォックの夫となる条件は、並はずれて性欲が強い上にねらった「メス」に襲い掛かる積極性が必要なのだそうだ。その条件に、僕は当てはまったらしい。
この不思議の国は、一度入ったら出る事は無理らしい。ハートの女王が特別に許可しなければ出られないそうだ。
「つまり、お前はこの国から出られないわけだ。この国にいる以上は、私から逃れる事は出来ぬぞ」
アデラは、傲然と僕に言い放った。
僕の頭の中に、チェスの駒が置かれる姿が浮かび上がった。僕は、チェックを掛けられているのではないか?
僕は、この国から脱出する事を諦めたわけではない。脱出するには、この国の事を知る必要がある。それで僕は、アデラにこの国の事を教えてくれと頼み込んだ。アデラは実際に見た方が良いと言い、その結果、僕とアデラは旅をする事にしたのだ。
僕とアデラは、汽車で旅をする事にした。空を飛ぶよりも地面の上を旅した方が分かりやすいと、アデラに言われたからだ。僕も、空を飛ぶ事は危険だと考えて汽車の旅に同意した。取りあえずの目的地は、ハートの女王の城だ。
汽車の中は、様々な人間離れした者達が乗っていた。ウサギの耳を生やした者、ネズミの耳が付いた者、鳥の翼を生やした者、下半身が馬の姿の者などだ。このような者達を見ていると、僕は異世界に迷い込んだのだと実感する。
アデラは不愛想に見えるが中々面倒見が良く、僕の事をきちんと見ていて僕の手助けをしてくれる。慣れない所で戸惑っていた僕にはありがたい事だ。
僕は汽車の旅の中で、ヤギの角を生やした少女とよく話すようになった。彼女は、男性用の白いスリー・ピースのスーツを着ている。少女が大人の男性の格好をするのは、可愛らしく微笑ましいものだった。彼女はバフォメットと言う名であり、何でも魔王の側近らしい。ハートの女王は魔王の娘であり、これから魔王の言葉を伝えに行くのだそうだ。
その列車の旅の途中で、僕は彼女とチェスをしてみた。僕は先手必勝とばかりに攻めたところ、彼女は予想通りにキャスリングを行いキングを逃がした。僕は、あらかじめ配置したナイトで攻め立てた。これで勝つと思ったのだ。
ところがバフォメットは、僕のナイトの攻撃を難なくかわした。そして、攻めに失敗して体勢を崩した僕の陣営に的確に反撃したのだ。嫌味な事に、ナイトを使って反撃したのだ。僕は、あっさりとチェックメイトされてしまった。
「お主はチェスのやり方を分かっておらぬな。チェスは数学的なゲームだ。きちんと計算して計画を立てないと、簡単に負けるぞ」
憮然としている僕を、バフォメットは得意げに説教する。
いまいましい事に、アデラは笑いながら僕たちのゲームの結果を見ていた。
もしかしたら僕はゲームの駒で、誰かが僕を動かしているのかもしれない。僕の身には滅茶苦茶な事が起こっているが、それも誰かの計算と計画によるものかもしれない。
仮に誰かの計算によるものだとしたら、そいつはまともな計算の出来ない奴だろう。そうでなければ、あんな意味不明な事は起こらないはずだ。
汽車に乗っていたと思ったら、僕はいきなり木の下で立っていた。汽車から降りた覚えは全然無い。アデラも降りた覚えは無いそうだ。僕達は、どことも知れぬ場所で蚊に血を吸われながら立っていた。
いつまでも立っていても仕方がないので、僕達はハートの女王の城に向かって歩き始めた。アデラは、大雑把な方向を知っているので進む事が出来たのだ。
道中では、おかしな事ばかり起こった。双子らしき二人の少女に会ったら、いきなり詩を聞かされた。それも卑猥な言葉を連呼する詩だ。
その少女達からさっさと離れると、今度は羊の毛を手足に生やした女性の店に遭遇した。お腹がすいたので、そのワーシープとかいう種族の女性の店で食べ物を買おうとした。そうしたら、商品が片っ端から逃げ出したのだ。何とか卵を捕まえてワーシープの所に行ったら、その女性は気持ち良さそうに寝ている有様だ。
その女性を起こして卵を買うと、今度は卵が逃げだした。追いかけると、そいつはいつの間にかモーニング姿になって塀の上に乗っていた。呆れる僕の目の前で、頼みもしないのに詩の解釈について講釈を始める始末だ。その卵の態度が悪い上に、詩の講釈がさっぱり意味不明ときている。僕は我慢の限界を超えてしまい、卵を塀から落として叩き割ろうとした。卵は、さっさと逃げて行ってしまった。
アデラは、こんな事態になっても平然としている。アデラによると、こんな事は不思議の国では当たり前の事らしい。アデラもこの国の者達も、気が狂っているのではないか?とは言え、アデラのおかげでこのいかれた国を旅する事が出来るのは確かだ。
そんなこんなで、僕らは何とかハートの女王の城へとたどり着いた。
ハートの女王の城は、圧倒的な存在感を持っていた。巨大と言う言葉がむなしくなるほどの規模を持った城だ。僕は、これほど大きな城を見た事は無い。色彩も赤と白を基調としたものであり、目を引くものだ。しかも色の配置の仕方が尋常ではない。単純に屋根が赤で壁が白の所もあるが、屋根が赤と白の渦巻き模様で壁が赤と白の縦縞の所もある。赤と白がチェスの盤のように交互に配置された所もあれば、白地に赤で緻密な紋章が描かれている所もある。じっと見ていると、目の調子がおかしくなりそうだ。
アデラは、城の門の警備兵に紋章の刻まれた白金の薄い板を見せた。トランプの警備兵は敬礼すると、僕達を通してくれた。アデラは入城を許可されており、白金の板は身分証明書の様な物だ。
城の中は、様々の人々が行きかっている。赤い宮廷用の制服を着ている人もいれば、城門の警備兵と同じくトランプの形をした服を着る人もいる。燕尾服などの礼服を着ている人もいれば、スーツにネクタイ姿の人もいる。僕は女性の服の事は良く分からないが、様々な時代の多種多様なドレスを着ている人達がいた。
僕は、城下にある店で仕立ててもらった黒の燕尾服を着ている。アデラは、露出度の高い黒のドレスを着ていた。アデラは堂々としており、城の中で萎縮している僕を励ましてくれていた。
僕達は、宮廷の役人に控室に案内された。そこで謁見の順番を待つのだ。控室には、バフォメットが書類を見ながら椅子に座っている。
「ほう、無事についたようだな」
バフォメットは、僕達に気が付いて面白がるように言う。
「少しは分かったと思うが、この国はかなり狂っておるのだ。何せハートの女王は、奇矯な者ぞろいの魔王の娘の中でも特に頭がおかしいからな。その度外れて頭がパーな奴の造った国が、この不思議の国だ」
バフォメットは、赤と白の卑猥なモザイク模様で覆われた控室を見回しながら言う。
確かに、この控室からしてまともではない。壁や天井はモザイク模様となっており、童話をモチーフとした卑猥な絵が描かれている。床にも、子どもの落書きのような絵柄で様々な性技が描かれている。僕たちの座っている椅子は白い潜り椅子であり、バフォメットの座っている椅子は赤い潜り椅子だ。壁や天井の各所には鏡がはめ込まれており、卑猥なモザイク模様や潜り椅子に座った僕達を映し出していた。
宮廷の役人が入って来て、僕達とバフォメットの名を呼び出す。僕達は、謁見のために立ち上がった。
「さて、あのガイキチ娘がどこまで馬鹿の度合いがひどくなったか、見るとするか」
バフォメットは、楽しげにつぶやいた。
ハートの女王の待つ謁見の間は、混沌と秩序が入り混じった奇妙な空間だ。城の他の場所と同じく赤と白の色彩で覆われている。様々な遊びと性技が、壁と天井のモザイクと床のタイルで表現されている。
謁見の間中に大小のおもちゃが転がっており、女王の玉座の前に行くためには避けて歩かなくてはならない。おもちゃは、馬車や汽車、船を模した普通の物もある。だが、バイブやローター、アナルパールのなど「大人のおもちゃ」も転がっている。女王は、右手にガラガラ、左手にバイブを玩びながら光沢のある赤い玉座に座って僕らを眺めていた。
女王は、見た目は幼かった。僕の隣にいるバフォメット同様に、可愛らしい少女の外見をしている。だが、まともな少女でない事は一目でわかる。長く伸ばした髪は、様々な色に変化して落ち着きがない。赤く染まったかと思うと、紫色に変わり、青へと変貌する。銀色になったかと思うと、オレンジ色に変わる。着ている服は、銀色の地にピンクのハートを刺繍したフリルの多いドレスだ。ピンク色のハートは、せわしなく明滅していた。
「久しいのう、バフォメット卿。そなたが遊びに来てくれる事を待っていたのだぞ」
女王は、高く澄んだ声でバフォメットに話した。
「申し訳ありませぬ、陛下。ご挨拶に伺いたかったのですが、片づけねばならぬ事が多すぎましてな」
「よい、よい。母上の知恵袋たるそなたが時間の余裕が無い事くらい、わらわでも分かる。それよりも謁見まで待たせて悪かったな。先ほどまでアシハラ将軍と話しておったのじゃ。誰もが踊り遊ぶ事が出来る恩寵園の建設について話しておったところじゃ」
「ほう、恩寵園ですか。陛下の事ですから様々な趣向を凝らしているのでしょう」
「もちろんじゃ。様々な薬を飲みながら踊り、気鬱などいっぺんに吹っ飛ばす事が出来る所じゃ。アシハラ将軍は、様々な薬を調合しておる。あやつの薬を飲めば、主神教団のシスターでも大通りで踊りながら交わり始めるぞ。恩寵園の名は、マツザワ恩寵園と言うのじゃ」
僕は二人の会話をほとんど理解する事が出来なかったが、まともな内容では無い事は分かった。
「ところで、そなたは面白い者達を連れておるな。一人はわらわの以前からの臣民、もう一人はわらわの新しい臣民じゃな」
「おお、ご紹介が遅れました。このジャバウォックはアデラと申す者。陛下の国を守る任に就いておる者です」
「アデラの事はわらわもよく知っておる。男を捕まえて交われと命じた所だ。どうやら上手くいった様じゃ」
女王は、僕の方をじっと見つめる。
「そなたは、わらわが特別にわらわの国に招いたのじゃ。そなたは元の世界にいるよりも、この国にいた方が良いからな」
僕は、女王に名乗り挨拶をしながらも、ひどく困惑していた。女王の都合でこのわけの分からない世界へ引き込まれた事は分かったし、僕とアデラの関係が女王公認だという事もわかった。それで僕はどうなるのだ?
そんなことを考えていると、金ボタンの目立つ赤い制服を着たウサギの耳を生やした女が駈け込んで来た。
「申し上げます!城下でユニコーンとスフィンクスが乱闘をしており、混乱が起こっております!」
「なんじゃ、また乱闘か。元気な者達が多いのう」
女王は、やれやれと言いながら立ち上がり、僕の方を見る。
「そなた達も来るがよい。この国について少し学ぶ事が出来るだろう」
女王は、そう言い放ちながら玉座から立った。
僕は、女王達と一緒に城下町へ行った。騒ぎの起こっている場所は、人だかりが出来ているためにすぐに分かった。
人だかりの中には、問題となっている二人が乱闘をしている。一人は、人間の上半身に白馬の下半身を持った女だ。金モールの付いた青い軍服を着て、サーベルを振り回している。もう一人は、ライオンと言うよりは猫のような耳と尻尾を付けた褐色の肌の女だ。金モールの付いた赤い軍服を着て、サーベルを振り回している。二人とも乱闘のせいで、服や髪は乱れて汚れている。たいした傷ではないようだが、サーベルが当たって血が出ている所もあった。
「これ、やめんか!こんな往来で騒ぐとは見苦しいぞ!」
ハートの女王が叱責するが、二人とも耳を貸さずに乱闘を続けている。ハートの女王は溜息をつき、伝令のウサギ女からパイをもらって食べ始めた。
「まったく、男が絡むとわらわの命令も聞かなくなる」
僕は、乱闘する二人を呆れながら見る。恋愛が絡むと見境がなくなる者がいるとは分かるが、女王の命令すら無視するほどひどい例はあまり聞かない。
女王はしばらくの間パイを食べながら見物していたが、やがて側に控えている者に合図をした。彼女が飛び出して少しすると、太鼓のような轟音が響き渡った。「太鼓のような」と記したのは、あまりにもひどい音なので太鼓かどうか分からないからだ。耳を、頭を殴られたような衝撃に、立て続けに襲われたのだ。
僕は、しばらくの間呆然として立っていた。アデラに声を掛けられて気が付き、辺りを見回すと乱闘は収まっていた。僕同様に呆然として立ち尽くしている者、気を失って倒れている者、泡を食って逃げ出している者などがいた。乱闘の主人公であるユニコーンは、涎を垂らしながら地面に座り込んでいる。もう一方の主人公であるスフィンクスは、耳を抑えながら地面を転げまわっている。この様子では、乱闘を続ける事は出来ないだろう。
「これで、わらわが外の世界から人間を呼び寄せる理由は分かっただろう。外から男を呼び寄せてあてがってやらねば、この国中で乱闘が起きるのじゃ。魔物娘は、男の事になると見境が無くなるのじゃ」
女王は溜息をついた後、僕に向かって微笑みを浮かべた。
「じゃが、この国は悪い国ではないぞ。戦争は今のところないし、凶悪な犯罪もほとんどない。貧しい者はいるが、他の国に比べればひどくは無い。何よりも、お祭り騒ぎ、馬鹿騒ぎが毎日の様にあるのじゃ。そなたにとっては過ごし易いと思うぞ」
確かに、女王の言う事は正しいのかもしれない。僕は、この国を気に入り始めている。呆れる事は多いし狂った世界かも知れないが、この世界が楽しい事は確かだ。狂ったお祭り騒ぎにのめり込めば、僕は幸せになれるかもしれない。
それに、僕は元いた世界は嫌いだ。僕は、常に人の顔色を見ながら行動していた。他人に怯えながら無難な行動をとろうとし、空気と世間に責め苛まれながら生きて来た。僕にとっては、元いた世界は何の価値も無いものだ。それだったら、この世界にいた方がいい。
それに、アデラと言う女性と会う事も出来た。元いた世界では、僕には不釣り合いと見なされるほどの力のある美女だ。僕は旅の道中に、その事を繰り返し思い知って来た。しかもその美女と、僕は数えきれないほど体の関係を結んだのだ。この世界に来た事は、僕にとっては思いもよらぬ幸運な事ではないだろうか?
僕は、しばらくこの世界にいようと思う。ただ、この世界とアデラを完全に信用したわけではない。脱出経路は、引き続き探るつもりだ。
僕は、アデラの背に乗って空を飛ぶ事になった。ハートの女王の城を辞した後、今度は空からこの世界を見て回る事にしたのだ。アデラは、旧魔王時代のドラゴンの姿になる事が出来る。つまり、ドラゴンの姿として普通に想像する姿になれるのだ。
アデラの背には、僕を乗せるための鞍がつけられた。僕をベルトで鞍に固定し、鞍をベルトでアデラの体に固定するのだ。そうすれば、僕を乗せて空を飛べる。
ドラゴンの姿になったアデラは、迫力のある姿だ。片側が三十フィートもある翼を広げ、角を生やした頭を掲げている。牙をむき出しにした口からは、激しい息遣いが聞こえる。光沢のある黒い鱗が全身を覆い、角や眼、翼の内側、爪などは赤く光っている。禍々しさと美しさの混ざりあった姿だ。
僕は、彼女の背に乗り眼下を見下ろす。地に降り立っている時点でも壮観だが、空へ飛び立ったアデラの背から見下ろす光景は自分の認識すら揺るがすほどのものだ。空の高さに恐怖を覚えるが、それ以上に世界を見下ろす快感に僕は酔いしれた。
僕は風に当たりながら、バフォメットの言葉を思い出していた。彼女は、別れ際に僕に忠告をしていた。
「滅茶苦茶に見えても、お主に起こっている事は何らかの計算に基づくものかも知れぬぞ」
僕も、その事を旅の途中にふと思った事がある。あまりにも滅茶苦茶な事が起こり続けたために忘れていたのだ。でも計算者は、最終的にどうするつもりなのだろうか?
僕は、今の状況について考えてみた。僕は、アデラの背に乗って空を飛んでいる。アデラの意思に反しては、僕はどこへ行く事も出来ない。アデラは、僕を望む所に連れて行く事が出来る。
僕は、なぜアデラの背に乗る事にしたのだ?僕は、次々と起こる事態にまともに考える事が出来なくなっていた。旅をするうちにアデラに対する警戒が薄れていった。この世界に対する抵抗も無くなっていった。僕は、アデラの背に乗る事に警戒を抱かなくなり、こうして乗ったのだ。今の僕は、非常にまずい事態になっているのではないのか?
でも僕は、それほど恐怖は感じなかった。アデラにも、この世界にも恐れが湧いてこないのだ。アデラに任せて置けばいいという、普通に考えたら危ない事を思っているのだ。
「目指す場所が見えて来たぞ」
アデラの言葉に、僕は前方に目を凝らす。紫色の空に、黄色い巨大な岩が浮かんでいる。その岩の上には庭園と家があった。
アデラは、岩の上の庭園に降り立つ。庭園には、水色の葉の木が生えてオレンジ色の草が生えている。庭園の中に立つ家は、赤い色の屋根とピンク色の壁で出来ている。壁や屋根には、黒い色のハートやダイヤの模様が付いている。アデラは、家を指して得意げに言った。
「ここは私の家だ。これからお前が住む場所だ。つまり、ここが旅の終着点だ」
僕は家を見た後、岩の縁まで行って眼下を見下ろす。地面までは千フィート、いや二千フィートはあるのではないだろうか?僕単独では、この岩から何処へも行く事は出来ない。
後ろを見ると、アデラが微笑んでいる。自分の思惑通りに事が進んだ事を満足しているような、そんな笑みだ。
僕は、チェックメイトされた事を知った。
こうしてこの国に来た時の事を思い出すと、苦笑したくなる事が次々と思い浮かぶ。僕は、わけの分からないまま舞台に上げられた道化の様なものだろう。
僕は、その後はアデラと共に暮らすしかなかった。脱出しようにも、翼の無い僕には空中に浮かぶ岩から出る事は出来ない。アデラは、僕を岩の上に閉じ込め続けた。たまに岩から出してくれる事はあったが、常に僕のそばにいた。
僕は、仕方なくアデラと暮らし続けた。アデラはこの国の警護の仕事をしており、空中に浮遊する岩を根拠地にして管轄地域の巡回をしていた。僕は、アデラの補佐をする事になった。アデラは面倒見が良く、手取り足取り仕事を教えてくれた。もっとも、仕事を教えている最中に僕とセックスをしようとするのはどうかと思うが。
今もアデラは、僕のペニスを胸ではさみながら舐め回している。褐色の顔と胸を白濁液で汚しながら、僕のペニスを貪り続けている。先ほどピンク色の雲からピンク色の媚薬の雨が降り注ぎ、僕とアデラはそれを浴びたのだ。僕達は、欲情を抑える事は出来ないし抑えるつもりも無い。
僕のペニスに体を摺り寄せるアデラの頭を撫でてやると、アデラは機嫌の良さそうな声を上げる。僕は、こうしてアデラと生活する事を楽しむようになってきた。監禁されている生活だが、前よりも楽しい事は確かだ。
アデラは僕のペニスにピンク色の息を吹きかけると、四つん這いになって尻を向けた。アデラの息で官能が高まった僕は、四つん這い姿のアデラを我慢する事は出来ない。尻を振るアデラのヴァギナに、僕のペニスを埋め込んだ。
アデラは、喜びの声を上げながら腰を激しく振る。アデラのヴァギナからは、愛液が次々の湧いてきて僕を喜ばせる。
「私の中に子種汁をたっぷりと注ぐのだぞ。お前の子を孕みたいからな」
アデラの言葉に、僕はアデラのお腹を撫で回しながら腰を突き動かして応える。前の世界にいた時は、結婚して子供を作るなどおぞましい事だと僕は考えていた。だが、この世界でアデラと子供を作る事は、魅力のある事かもしれないと思う。
僕は、僕とアデラの子供の事を思い浮かべながら七色の空の下で快楽を貪っていた。
別に僕は、寝ぼけているわけではない。夢から覚めたら猫と戯れていた、なんて事は無い。仮に夢を見ているのだとしたら、今も夢を見ているのだ。
僕は、その日は自室にいた。休みの日に自室に閉じこもって、陰鬱な考えに浸っていた。そこへいきなり、前述した二人の少女が飛び込んで来たのだ。猫の耳を生やした少女を、エプロンドレスの女の子が追いかけていた。そして二人は鏡に向かって突っ込んでいき、ぶつかるかと思うと鏡の中へ吸い込まれたのだ。
鏡の所へ行って触れてみると、僕は鏡の中へ吸い込まれてしまった。鏡の中は薄暗い屋敷の中であり、僕には覚えのない所だ。僕は混乱した状態でさ迷った後、やっとのことで屋敷から出る事が出来た。そして出た所は、七色に変化している空の下にある紫色の草の生えた庭だ。
僕は馬鹿みたいに立ち尽くしたが、それは当然の事ではないだろうか?
庭をさ迷い歩くと、オレンジ色のテーブルとイスがある場所に出た。テーブルの上にはティーセットが置かれており、お茶会が出来る状態となっている。テーブルの周りは花園となっており、青いバラや緑色のユリ、赤いスミレが咲き誇っていた。
椅子には、緑色の燕尾服を着て同色のシルクハットをかぶった若い女性がいた。彼女は静かにお茶を飲んでいたが、僕を見つけると微笑みながら話しかけて来た。
「やあ、僕はウィルマと言う者だ。よそから来た人には説明しないと分からないだろうが、僕はマッドハッターと言う種族の者さ。良かったらお茶を飲まないかね?」
僕は、彼女の誘いに乗った。状況を把握するためにも、誰かと話す必要があるからだ。僕が席に着こうとしたら、突然後ろから声がした。
「無粋そうな男だけど、お茶会に誘うのはよしたら」
僕は、振り返って話し手を確認しようとしたが、誰もいない。ただ花園があるだけだ。
「ほら、お馬鹿さん丸出しの顔をしているわ」
僕は、危うく飛び上がるところだった。バラの花が喋っているのだ。
「そんな事を言うものではないわ、失礼よ」
今度はユリが喋り出した。
「驚いているようだね。外の世界から来た人は、この世界の花には慣れない者が多い」
ウィルマと名乗ったシルクハットの女性は、面白がるように言った。
驚くなと言う方が無理な話だ。バラの花弁が青くユリの花弁が緑なのも驚くが、花が喋る事は異常事態だ。僕は、震える手でお茶の入ったカップを持つ。お茶はやけに甘ったるく、そして酒でも入っているかの様に酔う物だった。
「君は本を持っているね。良かったら見せてくれないか?」
ウィルマの言葉に、僕は本を持っている事に気が付く。僕は、屋敷の中をさ迷っているうちに本を持ち出して来たらしい。ウィルマに指摘されるまで気が付かなかった。僕は、言われるままにウィルマに本を差し出した。
「これはジャバウォックを詠んだ詩だね」
首をかしげる僕に、ウィルマは説明する。
「ジャバウォックと言うのは、この不思議の国に住むドラゴンさ。淫乱メストカゲと呼ぶ人もいるけどね。男を探して空を飛び回っているのさ」
ウィルマの説明を聞いている内に、僕は強い欲望を感じ始める。体が熱くなり、下半身に力が入る。目の前にいる女であるウィルマに襲い掛かりたくなる。もしかして、あのお茶には何か入っていたのか?
「発情したサルみたいね」
スミレが僕を嘲り笑う。
ウィルマは立ち上がり、優雅に一礼する。
「君の相手をしてあげたいけれど、僕にはパートナーがいるのでね。これで失礼するよ。心配せずとも君のパートナーはすぐに見つかるさ」
ウィルマは、素早く花園の中に身を躍らせて消える。
僕は、ウィルマを追いかけて駆け出した。
花園を抜けるとオレンジ色の葉の茂る森があった。僕は、その森の中を発情しながらさ迷い歩いた。発情するのは恥ずかしいと分かっているが、それでもこの時は自分を抑えられなかったのだ。
「おや、見事に出来上がっているねえ」
艶やかな女性の声に、僕は激しい身振りと共に女性の姿を探す。女性は、木の枝の上でニヤニヤしながら僕を見下ろしていた。女性の頭には猫のような耳があり、お尻からは猫のようなしっぽが生えている。僕が誰何すると、口の端を釣り上げながら答える。
「あたしはチェシャ猫さ。この国の、いやこの世界と言ったほうがいいかな?案内者さ」
僕は、このチェシャ猫と名乗る猫耳の生えた女性に襲い掛かりたくなっていた。僕のその時の状態は、発情したサルの様なものだ。
「でも、あんたを案内するのは私の役目じゃないねえ。まあ、森を抜けると案内人が見つかるさ」
チェシャ猫は、いやらしい笑いを浮かべると森の中へ消えた。
僕は、チェシャ猫を追いかけて森の中を駆け巡った。
森を抜けると、黄色い草の生えた草原に出た。空は、相変わらずせわしなく変化している。オレンジから赤へ、赤からピンクへと変わっている。
僕の欲情は限界に達しそうになり、狂ったように辺りを見回していた。すると、空の一角に黒いものが見える。その黒いものは次第に大きくなり、僕の方へ向ってくる。その黒いものは、翼を持った人の姿だと分かって来た。
多分、その時の僕の目は血走っていただろう。こちらへ向って来る翼を持ったものが女性だと分かったからだ。
その女性は、僕の目の前に風を巻き起こしながら降り立った。人間ではなく怪物だと一目で分かる姿だ。背には大きな黒い翼を広げ、爬虫類の様な黒い鱗の生えた手足を持っていた。頭からは赤と黒の角が生え、尻には黒いしっぽが生えている。それらの禍々しいものをその女性は持っていた。
ただ、同時にその女性は妖艶でもあった。ピンク色と紫色の輝く髪をしており、彫りの深い整った顔をしていた。人間の姿をしている体の部分は官能的な褐色の肌をしており、引き締まっていながら豊かな胸をしている。胸を初めとする魅力的な体を強調する露出度の高い服を、当たり前のように着こなしている。女性は、禍々しさと淫猥さの混じり合った体を堂々と晒して屹立していた。
「ほう、面白い獲物が見つかったな」
その女性は、面白がるように僕を見ていた。その表情は、獲物を前にした肉食の動物のものでありながら余裕を持っていた。
本来ならば僕は、おびえるか思考が止まるかのどちらかだろう。だが僕は、獣欲に支配されていてその時はまともな状態ではなかった。僕は、すぐさまその女性に飛び掛かった。
「貴様は正気か!この獣が!」
女性は叫びながら抵抗するが、僕は構わずに押し倒した。僕は女性の顔を舐め回し、髪に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。服を掴んで胸をさらけ出させて、胸に顔を押し付けて感触と匂い、味を貪る。その女性は大柄であり怪物の体を持っているから、僕よりも力が強いはずだ。だが、僕はその女性を押し倒して、その女性を貪る事が出来た。
女性の匂いを嗅いでいる内に、僕の腰の熱は高まり続ける。僕はズボンと下着をむしり取るように脱ぎ、ペニスを女性の顔の前にさらけ出した。そのまま怒張したペニスを、凛々しく整った顔に擦り付ける。目を、鼻を、口を、額を、頬を肉の凶器で蹂躙する。僕のやっている事は、凌辱以外の何でもない。
僕はすぐに上りつめて、女性の顔に精液をぶちまけた。自分でも驚くほどの量の白濁液が、褐色の麗貌を汚していく。長い睫のかかった瞼が、形の良い鼻が、滑らかな頬が汚液で汚れていく。僕は、射精を続けるペニスで精液を顔に塗りたくった。
僕は、刺激臭を嗅ぎながら汚れた顔を見下ろす。まだだ、まだ足りない。もっと、この褐色の肌を汚したい。僕は萎える事の無いペニスを、女性の張りのある胸の谷間に挟み込んだ。
僕は、ペニスで胸を蹂躙しながら快楽に呻き声を上げた。最早僕は、自分が強姦魔となっている事を気にしていない。胸を犯しながら、ペニスの先端で鼻や頬を突いていた。
ふと女性を見下ろすと、女性は微笑みを浮かべていた。強姦されている者とは思えないほど余裕のある表情だ。女性は口を開き、顔に付いた白濁液を舐め取る。そして胸の谷間から出たり引っ込んだりしているペニスに、ピンク色の息を吹きかけた。
その瞬間に、僕のペニスにしびれるような快感が走った。快感は腰を襲い、背を駆け上がり、頭に直撃する。僕は快感の嵐に翻弄されながら、より強烈な快感を求める。僕は女性の胸を揉みしだきながら、ペニスを激しく胸の谷間でしごき上げる。僕のその時の有様は、獣じみたといえば獣に失礼なほどだっただろう。
僕の獣以下の姿を見ながら、女性はペニスを舐め上げた。その女性の首飾りには舌が付いていて、口から伸ばした舌と共に僕の亀頭を、くびれを、竿を舐め上げる。僕の尻からも舐られる感触がする。女性の背からは尻尾のような、触手の様な物が二本生えていて、先端には口が付いている。その口に着いた二本の舌が、僕の尻の穴を舐め上げるのだ。
僕は、この常軌を逸した快楽に耐えられない。僕は、女性の胸と顔に精液を叩き付けた。二度目とは思えないほどの激しい射精だ。褐色の肌が白濁液で染められていく姿を見て、僕は興奮して叫び声を上げてしまった。
僕は、軽く突かれて地面に尻もちをつく。ぼんやりと女性の方を見ると、女性は服の裾を上げて股を開いている。褐色の肌とピンク色の陰毛の中に、濡れ光るヴァギナが見えていた。
「さあ、今度はこちらを犯してくれ。出来るよな」
異形の体を持った女性は、僕の白濁液で汚れた顔に微笑みを浮かべた。
その後は、魔物の女性をひたすら犯し続けた。何度射精したのかは覚えていない。僕が萎えかけると、その女性は僕にピンク色の息を吹きかけるのだ。その甘い息を吹きかけられると、体の奥底から性欲が沸き上がってくるのだ。何度でも激しく精液をぶちまける事が出来た。
僕は、魔物の褐色の肌を白濁液で汚す事に夢中になった。顔を隅々まで白く汚し、胸にまんべんなく精液を塗りたくり、股の上に精のゼリーを重ねた。腋や腹、尻や背中も所々を精液でぬめらせた。
肌だけではなく、魔物娘の中も子種で汚した。口からも、ヴァギナからも、尻の穴からも精液が溢れ出している。口に出した時は、飲みきれない白濁液が鼻の穴から噴き出していた。彼女の中は、さぞ汚れきっているだろう。僕が精液を出し切った時は、彼女の体中は、白濁液で塗り重ねられた状態だった。僕の体のどこに、これほどまでの精液が貯蔵されていたのかと思うほどだ。
嗅いだことのないほど強烈な精液臭の中で、僕はすべての力が抜けて崩れ落ちていた。裸でだらしのない格好をしているのだが、僕にはどうにもできない。
彼女は少し疲れた表情をしているが、余裕のある表情で僕を見下ろしている。凌辱されたのに、平然とした顔をしている。
僕は凌辱したのだろうか?最初の内は僕が凌辱をしていた。だが途中から主導権は、彼女が握っていたのではないか?僕は、彼女の意のままになっていたのではないか?
「ずいぶんとやりたい放題やってくれたな。この責任はどう取るつもりだ?」
彼女は、僕の力を失ったペニスを愛撫しながら問いかけた。
僕は何も答えない。答える力は無いし、答える気にもならない。気が付いたら訳の分からない世界にいて、変な物を飲まされて正気を失い、その挙句に異形の魔物の女性を犯したのだ。どう答えればよいと言うのだ?
彼女は、僕のペニスをいじりながら傲然と僕を見下ろしている。僕を値踏みするような表情で、僕のだらしない姿を見つめている。
「情けない顔をするな、見苦しい。これが我が夫だと思うと、先が思いやられるわ」
僕は、彼女の言う意味が分からない。僕の事を夫と呼ぶとは、どういう事だ?
「だが、私に襲い掛かってくる様は悪くはなかった。獣じみた性欲も中々のものだ。これはこれで楽しむ事が出来るかもしれない」
僕は、次第に彼女の言っている事が飲み込めて来る。その異常な内容に、僕の中に戦慄が走り始める。
「我が夫よ、この先末永く頼むぞ」
白濁液まみれの魔物の女性は、僕に対して微笑んだ。
彼女の名はアデラと言い、ジャバウォックだそうだ。僕の持っていた本に載っている詩に登場するドラゴンだ。ドラゴンと言っても一般的にイメージされる巨大な爬虫類の怪物ではなく、人間に翼や角が生えたような存在だ。爬虫類の怪物の姿になる事も出来るが、あまりなる事は無いらしい。
この世界は、「不思議の国」と呼ばれており、「ハートの女王」と言う存在が治めているらしい。アデラは、ハートの女王からこの世界を守る任務を帯びているそうだ。もっとも最近のアデラは、自分の夫を探すために飛び回っていたらしい。
アデラ達ジャバウォックの夫となる条件は、並はずれて性欲が強い上にねらった「メス」に襲い掛かる積極性が必要なのだそうだ。その条件に、僕は当てはまったらしい。
この不思議の国は、一度入ったら出る事は無理らしい。ハートの女王が特別に許可しなければ出られないそうだ。
「つまり、お前はこの国から出られないわけだ。この国にいる以上は、私から逃れる事は出来ぬぞ」
アデラは、傲然と僕に言い放った。
僕の頭の中に、チェスの駒が置かれる姿が浮かび上がった。僕は、チェックを掛けられているのではないか?
僕は、この国から脱出する事を諦めたわけではない。脱出するには、この国の事を知る必要がある。それで僕は、アデラにこの国の事を教えてくれと頼み込んだ。アデラは実際に見た方が良いと言い、その結果、僕とアデラは旅をする事にしたのだ。
僕とアデラは、汽車で旅をする事にした。空を飛ぶよりも地面の上を旅した方が分かりやすいと、アデラに言われたからだ。僕も、空を飛ぶ事は危険だと考えて汽車の旅に同意した。取りあえずの目的地は、ハートの女王の城だ。
汽車の中は、様々な人間離れした者達が乗っていた。ウサギの耳を生やした者、ネズミの耳が付いた者、鳥の翼を生やした者、下半身が馬の姿の者などだ。このような者達を見ていると、僕は異世界に迷い込んだのだと実感する。
アデラは不愛想に見えるが中々面倒見が良く、僕の事をきちんと見ていて僕の手助けをしてくれる。慣れない所で戸惑っていた僕にはありがたい事だ。
僕は汽車の旅の中で、ヤギの角を生やした少女とよく話すようになった。彼女は、男性用の白いスリー・ピースのスーツを着ている。少女が大人の男性の格好をするのは、可愛らしく微笑ましいものだった。彼女はバフォメットと言う名であり、何でも魔王の側近らしい。ハートの女王は魔王の娘であり、これから魔王の言葉を伝えに行くのだそうだ。
その列車の旅の途中で、僕は彼女とチェスをしてみた。僕は先手必勝とばかりに攻めたところ、彼女は予想通りにキャスリングを行いキングを逃がした。僕は、あらかじめ配置したナイトで攻め立てた。これで勝つと思ったのだ。
ところがバフォメットは、僕のナイトの攻撃を難なくかわした。そして、攻めに失敗して体勢を崩した僕の陣営に的確に反撃したのだ。嫌味な事に、ナイトを使って反撃したのだ。僕は、あっさりとチェックメイトされてしまった。
「お主はチェスのやり方を分かっておらぬな。チェスは数学的なゲームだ。きちんと計算して計画を立てないと、簡単に負けるぞ」
憮然としている僕を、バフォメットは得意げに説教する。
いまいましい事に、アデラは笑いながら僕たちのゲームの結果を見ていた。
もしかしたら僕はゲームの駒で、誰かが僕を動かしているのかもしれない。僕の身には滅茶苦茶な事が起こっているが、それも誰かの計算と計画によるものかもしれない。
仮に誰かの計算によるものだとしたら、そいつはまともな計算の出来ない奴だろう。そうでなければ、あんな意味不明な事は起こらないはずだ。
汽車に乗っていたと思ったら、僕はいきなり木の下で立っていた。汽車から降りた覚えは全然無い。アデラも降りた覚えは無いそうだ。僕達は、どことも知れぬ場所で蚊に血を吸われながら立っていた。
いつまでも立っていても仕方がないので、僕達はハートの女王の城に向かって歩き始めた。アデラは、大雑把な方向を知っているので進む事が出来たのだ。
道中では、おかしな事ばかり起こった。双子らしき二人の少女に会ったら、いきなり詩を聞かされた。それも卑猥な言葉を連呼する詩だ。
その少女達からさっさと離れると、今度は羊の毛を手足に生やした女性の店に遭遇した。お腹がすいたので、そのワーシープとかいう種族の女性の店で食べ物を買おうとした。そうしたら、商品が片っ端から逃げ出したのだ。何とか卵を捕まえてワーシープの所に行ったら、その女性は気持ち良さそうに寝ている有様だ。
その女性を起こして卵を買うと、今度は卵が逃げだした。追いかけると、そいつはいつの間にかモーニング姿になって塀の上に乗っていた。呆れる僕の目の前で、頼みもしないのに詩の解釈について講釈を始める始末だ。その卵の態度が悪い上に、詩の講釈がさっぱり意味不明ときている。僕は我慢の限界を超えてしまい、卵を塀から落として叩き割ろうとした。卵は、さっさと逃げて行ってしまった。
アデラは、こんな事態になっても平然としている。アデラによると、こんな事は不思議の国では当たり前の事らしい。アデラもこの国の者達も、気が狂っているのではないか?とは言え、アデラのおかげでこのいかれた国を旅する事が出来るのは確かだ。
そんなこんなで、僕らは何とかハートの女王の城へとたどり着いた。
ハートの女王の城は、圧倒的な存在感を持っていた。巨大と言う言葉がむなしくなるほどの規模を持った城だ。僕は、これほど大きな城を見た事は無い。色彩も赤と白を基調としたものであり、目を引くものだ。しかも色の配置の仕方が尋常ではない。単純に屋根が赤で壁が白の所もあるが、屋根が赤と白の渦巻き模様で壁が赤と白の縦縞の所もある。赤と白がチェスの盤のように交互に配置された所もあれば、白地に赤で緻密な紋章が描かれている所もある。じっと見ていると、目の調子がおかしくなりそうだ。
アデラは、城の門の警備兵に紋章の刻まれた白金の薄い板を見せた。トランプの警備兵は敬礼すると、僕達を通してくれた。アデラは入城を許可されており、白金の板は身分証明書の様な物だ。
城の中は、様々の人々が行きかっている。赤い宮廷用の制服を着ている人もいれば、城門の警備兵と同じくトランプの形をした服を着る人もいる。燕尾服などの礼服を着ている人もいれば、スーツにネクタイ姿の人もいる。僕は女性の服の事は良く分からないが、様々な時代の多種多様なドレスを着ている人達がいた。
僕は、城下にある店で仕立ててもらった黒の燕尾服を着ている。アデラは、露出度の高い黒のドレスを着ていた。アデラは堂々としており、城の中で萎縮している僕を励ましてくれていた。
僕達は、宮廷の役人に控室に案内された。そこで謁見の順番を待つのだ。控室には、バフォメットが書類を見ながら椅子に座っている。
「ほう、無事についたようだな」
バフォメットは、僕達に気が付いて面白がるように言う。
「少しは分かったと思うが、この国はかなり狂っておるのだ。何せハートの女王は、奇矯な者ぞろいの魔王の娘の中でも特に頭がおかしいからな。その度外れて頭がパーな奴の造った国が、この不思議の国だ」
バフォメットは、赤と白の卑猥なモザイク模様で覆われた控室を見回しながら言う。
確かに、この控室からしてまともではない。壁や天井はモザイク模様となっており、童話をモチーフとした卑猥な絵が描かれている。床にも、子どもの落書きのような絵柄で様々な性技が描かれている。僕たちの座っている椅子は白い潜り椅子であり、バフォメットの座っている椅子は赤い潜り椅子だ。壁や天井の各所には鏡がはめ込まれており、卑猥なモザイク模様や潜り椅子に座った僕達を映し出していた。
宮廷の役人が入って来て、僕達とバフォメットの名を呼び出す。僕達は、謁見のために立ち上がった。
「さて、あのガイキチ娘がどこまで馬鹿の度合いがひどくなったか、見るとするか」
バフォメットは、楽しげにつぶやいた。
ハートの女王の待つ謁見の間は、混沌と秩序が入り混じった奇妙な空間だ。城の他の場所と同じく赤と白の色彩で覆われている。様々な遊びと性技が、壁と天井のモザイクと床のタイルで表現されている。
謁見の間中に大小のおもちゃが転がっており、女王の玉座の前に行くためには避けて歩かなくてはならない。おもちゃは、馬車や汽車、船を模した普通の物もある。だが、バイブやローター、アナルパールのなど「大人のおもちゃ」も転がっている。女王は、右手にガラガラ、左手にバイブを玩びながら光沢のある赤い玉座に座って僕らを眺めていた。
女王は、見た目は幼かった。僕の隣にいるバフォメット同様に、可愛らしい少女の外見をしている。だが、まともな少女でない事は一目でわかる。長く伸ばした髪は、様々な色に変化して落ち着きがない。赤く染まったかと思うと、紫色に変わり、青へと変貌する。銀色になったかと思うと、オレンジ色に変わる。着ている服は、銀色の地にピンクのハートを刺繍したフリルの多いドレスだ。ピンク色のハートは、せわしなく明滅していた。
「久しいのう、バフォメット卿。そなたが遊びに来てくれる事を待っていたのだぞ」
女王は、高く澄んだ声でバフォメットに話した。
「申し訳ありませぬ、陛下。ご挨拶に伺いたかったのですが、片づけねばならぬ事が多すぎましてな」
「よい、よい。母上の知恵袋たるそなたが時間の余裕が無い事くらい、わらわでも分かる。それよりも謁見まで待たせて悪かったな。先ほどまでアシハラ将軍と話しておったのじゃ。誰もが踊り遊ぶ事が出来る恩寵園の建設について話しておったところじゃ」
「ほう、恩寵園ですか。陛下の事ですから様々な趣向を凝らしているのでしょう」
「もちろんじゃ。様々な薬を飲みながら踊り、気鬱などいっぺんに吹っ飛ばす事が出来る所じゃ。アシハラ将軍は、様々な薬を調合しておる。あやつの薬を飲めば、主神教団のシスターでも大通りで踊りながら交わり始めるぞ。恩寵園の名は、マツザワ恩寵園と言うのじゃ」
僕は二人の会話をほとんど理解する事が出来なかったが、まともな内容では無い事は分かった。
「ところで、そなたは面白い者達を連れておるな。一人はわらわの以前からの臣民、もう一人はわらわの新しい臣民じゃな」
「おお、ご紹介が遅れました。このジャバウォックはアデラと申す者。陛下の国を守る任に就いておる者です」
「アデラの事はわらわもよく知っておる。男を捕まえて交われと命じた所だ。どうやら上手くいった様じゃ」
女王は、僕の方をじっと見つめる。
「そなたは、わらわが特別にわらわの国に招いたのじゃ。そなたは元の世界にいるよりも、この国にいた方が良いからな」
僕は、女王に名乗り挨拶をしながらも、ひどく困惑していた。女王の都合でこのわけの分からない世界へ引き込まれた事は分かったし、僕とアデラの関係が女王公認だという事もわかった。それで僕はどうなるのだ?
そんなことを考えていると、金ボタンの目立つ赤い制服を着たウサギの耳を生やした女が駈け込んで来た。
「申し上げます!城下でユニコーンとスフィンクスが乱闘をしており、混乱が起こっております!」
「なんじゃ、また乱闘か。元気な者達が多いのう」
女王は、やれやれと言いながら立ち上がり、僕の方を見る。
「そなた達も来るがよい。この国について少し学ぶ事が出来るだろう」
女王は、そう言い放ちながら玉座から立った。
僕は、女王達と一緒に城下町へ行った。騒ぎの起こっている場所は、人だかりが出来ているためにすぐに分かった。
人だかりの中には、問題となっている二人が乱闘をしている。一人は、人間の上半身に白馬の下半身を持った女だ。金モールの付いた青い軍服を着て、サーベルを振り回している。もう一人は、ライオンと言うよりは猫のような耳と尻尾を付けた褐色の肌の女だ。金モールの付いた赤い軍服を着て、サーベルを振り回している。二人とも乱闘のせいで、服や髪は乱れて汚れている。たいした傷ではないようだが、サーベルが当たって血が出ている所もあった。
「これ、やめんか!こんな往来で騒ぐとは見苦しいぞ!」
ハートの女王が叱責するが、二人とも耳を貸さずに乱闘を続けている。ハートの女王は溜息をつき、伝令のウサギ女からパイをもらって食べ始めた。
「まったく、男が絡むとわらわの命令も聞かなくなる」
僕は、乱闘する二人を呆れながら見る。恋愛が絡むと見境がなくなる者がいるとは分かるが、女王の命令すら無視するほどひどい例はあまり聞かない。
女王はしばらくの間パイを食べながら見物していたが、やがて側に控えている者に合図をした。彼女が飛び出して少しすると、太鼓のような轟音が響き渡った。「太鼓のような」と記したのは、あまりにもひどい音なので太鼓かどうか分からないからだ。耳を、頭を殴られたような衝撃に、立て続けに襲われたのだ。
僕は、しばらくの間呆然として立っていた。アデラに声を掛けられて気が付き、辺りを見回すと乱闘は収まっていた。僕同様に呆然として立ち尽くしている者、気を失って倒れている者、泡を食って逃げ出している者などがいた。乱闘の主人公であるユニコーンは、涎を垂らしながら地面に座り込んでいる。もう一方の主人公であるスフィンクスは、耳を抑えながら地面を転げまわっている。この様子では、乱闘を続ける事は出来ないだろう。
「これで、わらわが外の世界から人間を呼び寄せる理由は分かっただろう。外から男を呼び寄せてあてがってやらねば、この国中で乱闘が起きるのじゃ。魔物娘は、男の事になると見境が無くなるのじゃ」
女王は溜息をついた後、僕に向かって微笑みを浮かべた。
「じゃが、この国は悪い国ではないぞ。戦争は今のところないし、凶悪な犯罪もほとんどない。貧しい者はいるが、他の国に比べればひどくは無い。何よりも、お祭り騒ぎ、馬鹿騒ぎが毎日の様にあるのじゃ。そなたにとっては過ごし易いと思うぞ」
確かに、女王の言う事は正しいのかもしれない。僕は、この国を気に入り始めている。呆れる事は多いし狂った世界かも知れないが、この世界が楽しい事は確かだ。狂ったお祭り騒ぎにのめり込めば、僕は幸せになれるかもしれない。
それに、僕は元いた世界は嫌いだ。僕は、常に人の顔色を見ながら行動していた。他人に怯えながら無難な行動をとろうとし、空気と世間に責め苛まれながら生きて来た。僕にとっては、元いた世界は何の価値も無いものだ。それだったら、この世界にいた方がいい。
それに、アデラと言う女性と会う事も出来た。元いた世界では、僕には不釣り合いと見なされるほどの力のある美女だ。僕は旅の道中に、その事を繰り返し思い知って来た。しかもその美女と、僕は数えきれないほど体の関係を結んだのだ。この世界に来た事は、僕にとっては思いもよらぬ幸運な事ではないだろうか?
僕は、しばらくこの世界にいようと思う。ただ、この世界とアデラを完全に信用したわけではない。脱出経路は、引き続き探るつもりだ。
僕は、アデラの背に乗って空を飛ぶ事になった。ハートの女王の城を辞した後、今度は空からこの世界を見て回る事にしたのだ。アデラは、旧魔王時代のドラゴンの姿になる事が出来る。つまり、ドラゴンの姿として普通に想像する姿になれるのだ。
アデラの背には、僕を乗せるための鞍がつけられた。僕をベルトで鞍に固定し、鞍をベルトでアデラの体に固定するのだ。そうすれば、僕を乗せて空を飛べる。
ドラゴンの姿になったアデラは、迫力のある姿だ。片側が三十フィートもある翼を広げ、角を生やした頭を掲げている。牙をむき出しにした口からは、激しい息遣いが聞こえる。光沢のある黒い鱗が全身を覆い、角や眼、翼の内側、爪などは赤く光っている。禍々しさと美しさの混ざりあった姿だ。
僕は、彼女の背に乗り眼下を見下ろす。地に降り立っている時点でも壮観だが、空へ飛び立ったアデラの背から見下ろす光景は自分の認識すら揺るがすほどのものだ。空の高さに恐怖を覚えるが、それ以上に世界を見下ろす快感に僕は酔いしれた。
僕は風に当たりながら、バフォメットの言葉を思い出していた。彼女は、別れ際に僕に忠告をしていた。
「滅茶苦茶に見えても、お主に起こっている事は何らかの計算に基づくものかも知れぬぞ」
僕も、その事を旅の途中にふと思った事がある。あまりにも滅茶苦茶な事が起こり続けたために忘れていたのだ。でも計算者は、最終的にどうするつもりなのだろうか?
僕は、今の状況について考えてみた。僕は、アデラの背に乗って空を飛んでいる。アデラの意思に反しては、僕はどこへ行く事も出来ない。アデラは、僕を望む所に連れて行く事が出来る。
僕は、なぜアデラの背に乗る事にしたのだ?僕は、次々と起こる事態にまともに考える事が出来なくなっていた。旅をするうちにアデラに対する警戒が薄れていった。この世界に対する抵抗も無くなっていった。僕は、アデラの背に乗る事に警戒を抱かなくなり、こうして乗ったのだ。今の僕は、非常にまずい事態になっているのではないのか?
でも僕は、それほど恐怖は感じなかった。アデラにも、この世界にも恐れが湧いてこないのだ。アデラに任せて置けばいいという、普通に考えたら危ない事を思っているのだ。
「目指す場所が見えて来たぞ」
アデラの言葉に、僕は前方に目を凝らす。紫色の空に、黄色い巨大な岩が浮かんでいる。その岩の上には庭園と家があった。
アデラは、岩の上の庭園に降り立つ。庭園には、水色の葉の木が生えてオレンジ色の草が生えている。庭園の中に立つ家は、赤い色の屋根とピンク色の壁で出来ている。壁や屋根には、黒い色のハートやダイヤの模様が付いている。アデラは、家を指して得意げに言った。
「ここは私の家だ。これからお前が住む場所だ。つまり、ここが旅の終着点だ」
僕は家を見た後、岩の縁まで行って眼下を見下ろす。地面までは千フィート、いや二千フィートはあるのではないだろうか?僕単独では、この岩から何処へも行く事は出来ない。
後ろを見ると、アデラが微笑んでいる。自分の思惑通りに事が進んだ事を満足しているような、そんな笑みだ。
僕は、チェックメイトされた事を知った。
こうしてこの国に来た時の事を思い出すと、苦笑したくなる事が次々と思い浮かぶ。僕は、わけの分からないまま舞台に上げられた道化の様なものだろう。
僕は、その後はアデラと共に暮らすしかなかった。脱出しようにも、翼の無い僕には空中に浮かぶ岩から出る事は出来ない。アデラは、僕を岩の上に閉じ込め続けた。たまに岩から出してくれる事はあったが、常に僕のそばにいた。
僕は、仕方なくアデラと暮らし続けた。アデラはこの国の警護の仕事をしており、空中に浮遊する岩を根拠地にして管轄地域の巡回をしていた。僕は、アデラの補佐をする事になった。アデラは面倒見が良く、手取り足取り仕事を教えてくれた。もっとも、仕事を教えている最中に僕とセックスをしようとするのはどうかと思うが。
今もアデラは、僕のペニスを胸ではさみながら舐め回している。褐色の顔と胸を白濁液で汚しながら、僕のペニスを貪り続けている。先ほどピンク色の雲からピンク色の媚薬の雨が降り注ぎ、僕とアデラはそれを浴びたのだ。僕達は、欲情を抑える事は出来ないし抑えるつもりも無い。
僕のペニスに体を摺り寄せるアデラの頭を撫でてやると、アデラは機嫌の良さそうな声を上げる。僕は、こうしてアデラと生活する事を楽しむようになってきた。監禁されている生活だが、前よりも楽しい事は確かだ。
アデラは僕のペニスにピンク色の息を吹きかけると、四つん這いになって尻を向けた。アデラの息で官能が高まった僕は、四つん這い姿のアデラを我慢する事は出来ない。尻を振るアデラのヴァギナに、僕のペニスを埋め込んだ。
アデラは、喜びの声を上げながら腰を激しく振る。アデラのヴァギナからは、愛液が次々の湧いてきて僕を喜ばせる。
「私の中に子種汁をたっぷりと注ぐのだぞ。お前の子を孕みたいからな」
アデラの言葉に、僕はアデラのお腹を撫で回しながら腰を突き動かして応える。前の世界にいた時は、結婚して子供を作るなどおぞましい事だと僕は考えていた。だが、この世界でアデラと子供を作る事は、魅力のある事かもしれないと思う。
僕は、僕とアデラの子供の事を思い浮かべながら七色の空の下で快楽を貪っていた。
14/10/17 21:15更新 / 鬼畜軍曹