妻殺し王の再婚
「余は、妻を娶ることにする」
王の言葉に、アイザックは溜息を辛うじてこらえた。これで何度目の結婚だろうか?王は、妻のうちの二人は死刑にしている。王の漁色は、繰り返し混乱をもたらしてきたのだ。アイザックは、いい加減にしてくれと叫びたかった。
もちろん王に怒鳴る事など出来ない。それどころか、不満の表情を浮かべただけで命取りだ。アイザックは、真面目腐った無表情を保つしかなかった。
王は、面白がるような表情でアイザックを見ている。
「お前達は、余が選んだ花嫁に驚くであろうな」
頼むから驚かせないでくれと喚きたかったが、アイザックは無表情を保ち続けた。
「陛下のお考えは、私ごときには推察出来ません」
アイザックは、無難な言葉を選びながら王の再婚相手について考えた。外国の王族は、王との婚姻を拒否するだろう。離婚と再婚を繰り返した挙句、妻殺しをやるような男に嫁がせるわけがない。外国の貴族の娘だったら、犠牲の羊として差し出す国もあるかもしれない。そうだとしても、娶った外国の貴族を離婚したり殺したりすれば国際問題になる。
国内の貴族の娘を娶るのだろうか?そうだとすれば、政治の混乱に拍車が掛かるだろう。殺しなどすれば反乱がおこるかもしれない。アイザックには、王の再婚はろくな結果にならないとしか考えられなかった。
王の答えは、アイザックの予想をはるかに超えた。
「余は、魔王の娘リリムを娶るつもりだ」
アイザックは最早無表情を保つ事が出来ず、首を締められた様な呻き声を上げる。最悪の答えとしか言いようがない。
「泣いていても始まらないぞ。お前には、婚礼の準備をやってもらわねばならない。余を失望させるなよ、アイザック」
王の言葉で、アイザックの中にわずかに残っていた王に対する義務感は砕け散った。
驚いた事に、魔王側は王の婚姻の申し入れを受け入れた。魔王が断ることを期待していたアイザックにとっては、悪夢のような結果だ。
これで大陸中の反魔物国を敵に回す。すでに敵にまわっている主神教団は、アイザックの国を亡ぼすことに執念を燃やすだろう。あるいは魔王に国を乗っ取られるかもしれない。王に反発した貴族達が反乱を起こすかもしれない。
困難を極めると思われた魔王側との折衝は、予想以上に円滑に進んだ。魔物達は愛想が良く、段取り良く事を進めた。事前に用意していたのが明らかな手際の良さだ。水面下で魔王側も王側も準備を進めていたのだと分かる。アイザックが知らなかっただけだ。
そして、魔王達はこの国をやすやすと乗っ取るわけだ。アイザックは皮肉に考えた。
婚礼の準備をしながら、アイザックはもう国の行く末を諦めていた。愚王に長年支配され続けているのだ。存在する価値の無い国なのかもしれない。自分も愚王を支え続けてきたのだから、自分の人生も諦めるべきかもしれない。そうアイザックは、諦観と共に思うしかない。
王に苦言を呈する有能な人々は、王によって死刑になるか投獄された。王の宮廷で残っているのは、王に媚びへつらうしか能の無い者達ばかりだ。わずかにいる有能な者は、佞臣としての能力がある者だ。
アイザックは、自分が媚びへつらう無能者だと自覚している。王の側近であることに嫌気がさし、王に辞職を願い出たが許されなかった。
なぜ自分が王の側近として用いられているか、アイザックは分かっている。道化として雇われているのだ。真面目で間抜けなアイザックは、王に取ってからかいがいのある者なのだ。だから王の傍にいる事を強要されている。
道化は王と共に滅びるべきだな、アイザックは嗤った。
王国最大の港で、アイザックは王の花嫁の到着を待っていた。すでに魔王の娘であるリリムの乗る黒い巨船が見えている。全体が黒塗りされており、帆も黒く染められている。帆には、魔王を表す紋章が銀色で染められている。どのような技術が用いられているのか、巨船であるにも関わらず異様なほど速く進んでいた。アイザックの国でもガレー船から帆船への切り替えが行われていたが、これほどまでに優れた帆船は持っていない。アイザック達は、力の差を見せ付けられていた。
船が港に係留されると、魔物達が静々と降りて来た。魔物達は皆美しかったが、その中でひときわ目を引く美女がいる。白銀の髪をそよがせ、真紅の目を持った美女だ。均整の取れた体に銀糸で縫い取られた黒色のドレスをまとい、しなやかな首や腕に金剛石をはめ込んだ白銀の装身具を身に着けている。だが、豪奢な衣装もその美貌の前には霞む。完全に近いほど整った顔でありながら冷たさは感じず、温かみと官能を感じさせる絶妙な美貌だ。誰の目にも彼女が魔王の息女だと分かった。
この場の王側の代表である大法官がリリムに挨拶をする。リリムの受け答えは優雅であり、この婚姻に反対の者達ですら感心させた。魔王の息女が美貌だけではなく礼儀作法も優れている事を、この場にいる者達は認めざるを得ない。
美女によってこの国は滅ぼされるのか。後世の歴史家や詩人は喜ぶかもしれない。アイザックは皮肉っぽく考えた。
「私は、王女殿下の侍女でサラ・コンスタンツォと申します。失礼ですが、アイザック・チェンバレン卿でしょうか?」
アイザックは、一人の魔物娘に声を掛けられた。黒髪から黒い角が生え、背には紫色の蝙蝠のような翼がある。豊かな胸とくびれた腰の目立つ肢体に、魔物娘でなければ着ない露出度の高い黒皮の服を着ている。官能的な格好が似合う肉感的な美貌に微笑みを浮かべている。けぶる様な紫色の瞳も、魔物娘の妖艶さを表している。姿かたちからサキュバスだと分かった。
アイザックは、サラ・コンスタンタンツォの名前は知っている。書簡を通して交渉していた魔物の一人だ。アイザックは、挨拶をしながらサラの様子を窺う。交渉相手が何を望んでいるのかは、まだはっきりとは分からない。組しやすいアイザックを標的にしている事ぐらいしか分からないのだから、アイザックとしては慎重になる。
「チェンバレン様とはこれから長いお付き合いになるでしょうね」
サラの言葉に、アイザックは笑顔を浮かべながら内心は顔をしかめていた。正直なところ人間とも魔物とも、交渉どころか一切の付き合いを辞めたい気分だ。アイザックは、不快感をこらえながらサラと会話を続けていた。
アイザックは、葡萄酒を飲みながら陰鬱な思考に落ち込んでいた。つまらない事など考えたくもないが、アイザックの中に次々と浮かび上がってくる。
アイザックが考えている事は、王の事だ。愚王、悪王、暴君、暗君、いずれも当てはまる王がアイザックの主君だ。歴史に悪名を残す事が確かな君主だ。
王は無能どころか、能力に恵まれすぎている者だ。学識と教養は、歴代の王の中でも最も優れているだろう。膨大な本を読破し、自分でも本を書いているくらいだ。芸術の才能にも恵まれ、パイプオルガンを弾き作曲が出来る。運動能力も優れており、馬上試合を盛んに行っている。また、恵まれているのは能力だけではない。今でこそ肥満体だが、若いころは神話の青年神を思わせる堂々たる美青年だった。これほど恵まれている者は珍しいだろう。
だが、王は自分の良い素質を国と民のために使おうとしない。王の君主としての行動は、劣悪としか言いようが無いものだ。浪費を繰り返した挙句、無意味な戦争を行い国と王室の財政を欠乏させた。その財政の困窮を貨幣の質を下げることで乗り越えようとしたために、異常なまでの物価上昇を引き起こした。その上、主神教団に戦いを挑み、国内の教会の財産を奪い取った。せっかく奪い取った財産も、浪費を続けた為に消え去った。
王の漁色も、国内どころか大陸中に混乱を引き起こした。王は離婚と再婚を繰り返した挙句、二人の妻を殺害した。しかも妻に近親相姦の濡れ衣を着せて死刑にしたのだ。主神教団の教皇が王を非難すると、王は自分が国内の主神教団の首長であることを宣言し、邪魔な聖職者たちを粛清した。聖職者以外にも王の暴挙を批判した者がいたが、王によって抹殺された。その代表格である著述家として知られる元大法官は、斬首された。
恵まれた者は他者のために能力を使わない、自分のために使う。その程度の事は、アイザックにも分かっている。分かってはいても、嫌悪を抑える事は出来ない。
その嫌悪を催す者に自分は仕えているのだと、アイザックは繰り返し思い知らされてきた。自分の意に反する事でも、結果として愚王を支えてきたのだ。
アイザックは、自分の人生を思い返した。アイザックは平凡な貴族の息子として生まれ、平凡な貴族として育ってきた。宮廷の隅を、他の貴族達に埋もれながら歩き回るだけの者だと自覚していた。
それが、王の気まぐれで側近に取り立てられた事から苦渋の日々が始まった。王の傍で仕えた者は多いが、長続きする者は少ない。左遷されるのはまだ良い方で、投獄される者や死刑にされる者も多い。アイザックは、自分の身を危険に晒されながら王の暴政を傍らで支えた。アイザックの気が休まる事は無く、王の側近になって以来まともに眠る事が出来なくなった。
アイザックが生き延びる事が出来たのは、王にとって嬲りがいのある道化だからだ。頭の回転の遅いアイザックのずれた返答を、王は大笑いしながら聞く。不眠症でふらつきながら王の傍に立つアイザックの顔に、王は葡萄酒を楽しげに浴びせる。ただ、アイザックは間抜けだが、度が過ぎた間抜けではない。そして馬鹿でも無いために生き残る事が出来た。
アイザックは苦痛と屈辱の日々に耐えられずに何度も辞職を願い出たが、王は許さなかった。王は、おもちゃは飽きるまでは手放さないつもりだ。
それももうすぐ終わる、王とこの国と共に終わる。自身の終焉を、アイザックは微笑みを浮かべながら待ち望んだ。
宮廷は、婚礼の準備で慌ただしかった。だが、慌ただしいのは婚礼の準備のためだけでは無い。水面下で様々な勢力が暗躍している。王側の者、魔物、主神教団の者、王の臣下の者、彼らが暗闘を続けている。その中で面白い動きをしているのは、王の臣下の者達だ。彼らは、すでに王の破滅を予測して行動に移っていた。ある者は魔物と手を組み反乱を起こそうとしている、ある者は主神教団と手を組んで反乱を起こそうとしている、そしてある者は国から逃げ出そうとしていた。
アイザックは、これらの動きのいくつかを見る事が出来た。初めはこれらの動きを楽しみながら傍観していたが、自分も動きに加わる事にした。まず、魔物と手を組んで反乱を起こそうとする者達に、自分の知る限りの王に関する情報を与える。自分を嬲ってきた王に対するささやかな復讐だ。次に、主神教団と手を組んで反乱を起こそうとする者達に、自分の知る限りの王と魔物の情報を与える。魔物は、所詮は侵略者だ。喜んで迎えるつもりなど無く、ささやかな嫌がらせをしようという訳だ。
両者は共にうまく乗ってくれ、宮廷を舞台に踊っている。アイザックは、冷笑しながら道化達の踊りを眺めていた。喜劇は閉幕を迎えようとしている。幕が下りると同時に、道化を自認するアイザックは毒を飲むつもりだ。
廷臣達を冷笑しながら見ているアイザックの所に、サラが現れた。相変わらず扇情的な格好をして妖艶な笑みを浮かべている。
アイザックは、取り繕った笑みを浮かべながらサラを応対する。この国の新たな主人となるリリムの下で働く魔物を、没落する王の使い走りとして受け応えようとした。
「婚礼は、いよいよ三日後です。貴国の人々は、この婚礼を機会に多くの魔物娘と結ばれるでしょう」
「それは楽しみですな。我が国も新しい時代を迎えるというわけです」
そんな物に私は付き合うつもりは無いがと、アイザックは内心嗤う。
「王女殿下に付き添ってきた魔物娘のほとんどは未婚です。貴国の人々と結ばれる事を楽しみにして来たのですよ」
サラは、アイザックの肩に手を掛けて撫でる。サラから漂う香水の甘い香りが、アイザックの鼻をくすぐる。
「私も、貴国の殿方と結ばれるつもりです」
サラの朱を塗った唇が、艶めかしく蠢きながら言葉を紡ぐ。
「それは良い心がけですな。我が国の未来のある貴族達が喜ぶでしょう。私も、心からコンスタンツォ殿の幸せを願っております」
アイザックは、微笑みを浮かべながらサラから離れる。そのまま一礼し、サラに背を向けて歩き去った。
婚礼前夜に、謀略の渦は完全に表面化した。宮殿の中では荒々しい足音が響いている。魔物と組んだ者達が反乱を起こしているのだ。剣や槍を持った兵士達が、宮殿中を走り回っている。
アイザックは、葡萄酒を飲みながら反乱軍を眺めている。この様子では、王はすでに殺されたか捕えられただろう。反乱の直前まで自分を害する動きを気付かなかったのだろう。愚王にふさわしい末路だと、アイザックは嗤う。
それにしても、リリムと王はまだ臥所を共にしていないはずだ。リリムは、よほど王と体を交えたくないらしい。わざわざ婚礼前に反乱を起こすのだから。王は手に入れたい女は全て手に入れて来たが、初めてお預けを食らったわけだ。アイザックは、笑いながら葡萄酒をすする。
さて、喜劇は終わりだ。道化は退場する事にしよう。アイザックは、懐から毒の入った小瓶を取り出す。盃に葡萄酒を注ぎ、毒を注ぐ。外を見ると月夜であり、月光が兵士たちの鎧や槍を鈍く照らしている。アイザックは舞台を眺める気持ちで眼下の光景を眺め、盃をあおろうとする。
アイザックの手は、女の手によって抑えられた。サラが、静かにアイザックを取り押さえている。サラの接近を全く気付かなかったアイザックは、驚きを隠せない。
「だめですよ、それでは責任を取る事にはなりません。あなたは裁きを受けなくてはならないのですから」
アイザックは振り解こうとするが、見かけによらずサラの力は強く引き離せない。もがくばかりで、アイザックは毒を飲む事が出来ない。
サラは、アイザックに息を吹きかける。サラの甘い香りを嗅いだとたんに、アイザックから力が抜ける。そのまま強い眠気に襲われ、崩れ落ちていく。
「今は眠りなさい。私は、あなたを逃がしたりはしませんよ」
意識を失う前にアイザックが見た物は、サラの妖艶な微笑みだった。
アイザックの国は、速やかに魔物派の反乱軍によって制圧された。魔物と反乱軍が事前に綿密な準備していたせいもあるが、王に対する反発が国内で強かったために反乱は成功した。王とその一派は、ほとんどが捕えられている。
主神教団側の反乱勢力は、反乱直後に魔物達によって制圧された。アイザックが主神教団側に情報を流すことを見越して、魔物達はアイザックに偽の情報を流したのだ。主神教団側は、まんまとそれに引っ掛かった。
魔物側は、国を魔王領に編入しようとせず親魔物国化した。反乱軍は、王の二人目の王妃の娘を新女王に推戴した。彼女の母は王によって殺され、彼女自身も幽閉されていた。彼女は逆境に耐えており、聡明で思慮深い事から反乱軍から推されたのだ。魔王を初めとする魔物達も、新女王を支持した。
周辺諸国は反乱後に軍を動かしたが、魔物側の動きが速いために傍観へと方針を変更した。周辺諸国の軍とにらみ合いは続いているが、取りあえず周辺諸国が攻め込んでくる事は無い。
親魔物国化した事で国民の動揺は大きかったが、新女王と魔物達は宣撫に努めて沈静化を図っている。魔物娘達は、積極的に人間との友好のために動いており、徐々にだが国民の動揺は収まりつつある。
新体制造りの最中に、王とその一派の裁判が行われている。すでに多くの者が裁判を終えて投獄されている。王都の名物である塔の形をした監獄は、受刑者で溢れていた。同時に、王によって投獄されていた者の多くは解放された。
アイザックも裁判にかけられて、判決を受けた。投獄は免れたが、貴族の地位は剥奪されて財産も没収された。
アイザックは、書類に書いてある橋の修復のための費用を確認していた。資材の単価と数が合っているかを照らし合わせ、問題なければ確認済みの印を押して工事を担当している部署へ返却する。細かい作業だが、アイザックにとってはそれほど苦痛ではない。
「次の書類が来たから確認をお願いね」
サラが書類の束を持って、アイザックの机の所へやって来た。役所の中なのに、光沢のある素材で出来た露出度の高い服を着ている。このような服は、人間だったら娼婦でも着る事をためらう。サラは恥ずかしげもなく扇情的な格好をして、アイザックにしな垂れかかる。
アイザックは、現在では国の北西部にある田舎町で下級役人として働いている。新政権に、罪滅ぼしのためにここで働くよう命じられたのだ。罪を犯した廷臣を地方の下級役人として働かせる事は、様々な国で行われている。アイザックもその例に倣ったのだ。
普通と違う事は、サキュバスであるサラが付いて来た事だ。名目上は、この地域並びにアイザックの監視が業務だ。ただ、王女の侍女がそのような業務を行うことは、アイザックの国では前例がない。サラによると、前例が無くても行われる事は魔王領ではいくらでも有るとの事だ。サラは、アイザックと共に仕事をしている。
「しっかり仕事をしなさいね。場合によっては、王都へ帰って重要な仕事に就けるかもしれないのだから」
サラの言うことは正しい。不正を犯した臣下の者を再び登用する可能性がある場合、地方に流して働かせる事は多い。アイザックも、場合によっては王都に復帰できるのだ。
最もアイザックは、王都に帰る事はそれほど望んでいない。暴君から解放された事によって、久しぶりに味わう安らぎと共に仕事をして生活しているのだ。華やかさのない質素な生活をしなくてはならないが、得られた安らぎは贅沢な暮らしに勝る価値がある。今のアイザックは、ゆっくりと夜眠る事が出来る。
それに悦楽まで手に入れる事が出来た。
「早く仕事を終えましょうよ。じっくりと楽しみたいからね」
サラは、弾力のある体を押し付けながら囁いた。
アイザックは、サラの匂いに包まれていた。香水、汗、唾液、愛液、肉、服の素材である皮、それらの匂いが混ざり合ってアイザックを侵食する。
サラは、裸に剥いたアイザックの体に自分の体を擦り付けて匂いを染み付けている。首や胸に舌を這わせ、唾液を塗りこむ。豊かな胸で腕を挟んで、胸の谷間の汗を塗り付ける。愛液で濡れそぼった陰毛を擦り付けて、太腿にチーズを思わせる匂いを染み込ませる。サラは、飽きもせずに自分の匂いをアイザックに付け、アイザックの臭いで自分の体を染めていく。
「そろそろこちらも気持ち良くしてあげるわね」
サラは跪くと、アイザックのペニスに口付けをする。朱を塗った唇は唾液で濡れ光り、柔らかい感触と共にペニスに押し付けられる。透明な液を先端からあふれ出させているペニスに、微笑みを浮かべながら頬ずりをする。サラの乳白色の頬が、アイザックの液で濡れ光っていく。サラは口付けと頬ずりを繰り返した後、桃色の舌を見せ付けながらペニスを舐め始めた。
サラは亀頭を弾く様に舐め回したかと思うと、裏筋をねっとりと舌を這わせる。鈴口に唇を付けて吸い付き、くびれに丁寧に舌を這わせて掃除をする。舌を根元にゆっくりと這わせて行き、袋を口に含みながら舌で玉を転がせる。サラは、ペニスの隅々まで自分の唾液を染み込ませた。
サラは、皮の服をはだけた胸をアイザックの股間に寄せる。サラの唾液で濡れ光るアイザックのペニスを、白く光る胸で挟み込む。サラの胸の谷間は汗で濡れて、柔らかさと共にしっとりとした感触がある。サラは、マッサージをするようにペニスを胸で揉み込んだ。
サラは、胸を上下に左右に動かしながらペニスを愛撫する。固くなった桃色の乳首を、ペニスの先端、裏筋、竿に擦り付ける。擦り付けるたびに鈴口からは透明な液があふれて来て、胸とペニスの滑りを良くする。サラはペニスの先端に繰り返し口付け、舌で愛撫しながらねっとりとした唾液を垂らす。
胸で奉仕するサラの体からは体臭の混ざった香水の香りが立ち上り、アイザックの体を包む。サラの首や肩は汗で濡れ、胸の谷間は唾液と先走り汁で濡れて白く光っている。
「さあ。出したくなったら遠慮なく出してね。好きな場所にかけていいからね」
サラの笑いを含んだ言葉の直後に、ペニスの先端からは白濁液が噴出した。サラの鼻や唇、頬、そして胸の谷間をむせかえる様な臭いを放つ液が汚す。サラのきめ細かい肌の上を、白く濁った粘液がゆっくりと垂れ落ちて行く。
サラは、顔を汚す液を黒皮の手袋をはめた指で拭い取り、丁寧に舐め取る。アイザックの股間に顔をうずめると、精液で汚れたペニスを口に含んでゆっくりとしゃぶる。サラが繰り返ししゃぶりながら啜り上げると、アイザックのペニスは回復してそそり立った。
サラはアイザックに馬乗りになると、桃色に濡れ光るヴァギナをペニスに擦り付ける。そのままヴァギナの中にペニスを飲み込んだ。サラは、羽と尻尾を震わせながらアイザックの上で踊る。黒髪はそれ独自に生命を持つかのように蠢き、乳白色の肌は汗で濡れて輝く。
サラは、体を倒してアイザックに抱き付く。アイザックの顔にサラの髪がかかり、重いほど甘い香りがアイザックの顔を包む。
「さあ、あなた。今日もじっくりと楽しみましょうね。お互いの体が溶けて重なるくらいにね」
サラは、アイザックの耳たぶを甘噛みしながら囁いた。
アイザックとサラは、汗で濡れた体を寝台に横たえていた。サラはアイザックの左腕を抱きしめながら、アイザックの胸に顔を寄せている。サラの体からは、情交後の濃密な臭いが漂ってくる。体の部分により匂いは違い、アイザックの胸をくすぐる髪からは甘酸っぱい匂いがした。
アイザックは、サラを抱きながら前王の事を考えていた。王の裁判はまだ続いている。死刑にするか終身刑にするかで、人間と魔物の判事が争っているそうだ。アイザックは、愚王が斬首される事を心から願っている。
サラは、前王は死刑になろうが終身刑になろうが同じ事だと言っている。サラによると、リリムの命令で魔物達は監獄の中の前王の食事に不能になる薬を混ぜたそうだ。牢の中の前王の所にリリムがやって来て誘惑したそうだが、前王の股間は全く反応しなかったらしい。それ以来前王の気力は失われ、生ける屍の様な有様だと言う。どうせなら前王を去勢すればよいのにと、アイザックは思っている。
前王時代に比べれば、この国は良くなったとアイザックは認めざるを得ない。予想外に、魔物達の行動が穏健で誠実だからだ。アイザックはこの国は魔物達によって収奪され、虐殺が荒れ狂うと考えていた。魔物の支配が穏健だとの情報は得ていたが、所詮は侵略者だ。侵略者が寛大に支配すると考える者は、低能以外の何でも無い。だが、魔物達の支配は今のところ良心的なものであり、アイザックとしても例外的な事が起こっていると認めるしかない。
現在この国は、魔物の手を借りて再建と改革が進められている。最大の懸念は財政の枯渇だが、会計制度が変えられて権力者による浪費が出来なくなった。税制も改革され、特権階級から税が取れる仕組みとなった。王とその一派から没収した財産も、国庫の再建に充てられている。無意味な軍事行動は控える方針が立てられた事も、財政支出を抑えている。貨幣は一定の質が保たれ、物価上昇は抑えられた。貧しい事には変わりないが、改善へと進んでいる。
現在、この国は魔王から金を借りて船の建造と港湾の整備に取り掛かっている。島国であるこの国は、海洋国家として生きて行く事が適しているからだ。魔王領との貿易協定も次々と結ばれている。新しい時代の幕開けは船と共に始まると、女王は宣言している。
魔物のおかげでこの国は良くなるのか、まあ悪い事ではないのだろうとアイザックは笑う。
「何を笑っているの?」
「いや、別に何でも無いさ」
「何も無くて笑うわけ無いでしょ。変な事を考えていたのね」
サラは、アイザックの太腿を軽くつねる。サラはアイザックの上に伸し掛かり、アイザックのペニスに体を擦り付けながら耳を舐める。
「明日はやる事があるからもう搾り取るのは止めようと思ったけれど、やっぱり搾り取ったほうが良さそうね」
「明日何をやるつもりだ?」
サラは、アイザックの耳に舌を這わせて熱い息を吹きかける。
「私と貴方の婚姻を証明する書類を役所に提出するのよ。書類なんて私達魔物には単なる紙切れだけれど、あなた達にとっては大切な物だからね。もう私の署名は済んでいるわよ」
答えるべき言葉を探すアイザックの口を、サラの口が塞ぐ。二人は、それ以上何も言わずに口を重ね続けた。
アイザックとサラは、仕事を終えて帰路についていた。サラは、いつものようにアイザックにしな垂れかかっている。サラから漂う花の様な香りが、アイザックを包んでいる。
アイザックは、サラの香りと感触を味わいながら現在の奇妙な結果について思う。あの妻殺し王の再婚話のおかげで、私は妻を得られたのだ。愚王はろくな結果を出さなかったが、最後は少し良い結果を出してくれた。
思わず笑うアイザックを、サラは少し不満げに尻をつねる。アイザックが宥める様にサラの腰を撫でると、サラは笑いながら体を押し付けてくる。
夕暮れの中、二人は寄り添いながら家へと歩いていた。
王の言葉に、アイザックは溜息を辛うじてこらえた。これで何度目の結婚だろうか?王は、妻のうちの二人は死刑にしている。王の漁色は、繰り返し混乱をもたらしてきたのだ。アイザックは、いい加減にしてくれと叫びたかった。
もちろん王に怒鳴る事など出来ない。それどころか、不満の表情を浮かべただけで命取りだ。アイザックは、真面目腐った無表情を保つしかなかった。
王は、面白がるような表情でアイザックを見ている。
「お前達は、余が選んだ花嫁に驚くであろうな」
頼むから驚かせないでくれと喚きたかったが、アイザックは無表情を保ち続けた。
「陛下のお考えは、私ごときには推察出来ません」
アイザックは、無難な言葉を選びながら王の再婚相手について考えた。外国の王族は、王との婚姻を拒否するだろう。離婚と再婚を繰り返した挙句、妻殺しをやるような男に嫁がせるわけがない。外国の貴族の娘だったら、犠牲の羊として差し出す国もあるかもしれない。そうだとしても、娶った外国の貴族を離婚したり殺したりすれば国際問題になる。
国内の貴族の娘を娶るのだろうか?そうだとすれば、政治の混乱に拍車が掛かるだろう。殺しなどすれば反乱がおこるかもしれない。アイザックには、王の再婚はろくな結果にならないとしか考えられなかった。
王の答えは、アイザックの予想をはるかに超えた。
「余は、魔王の娘リリムを娶るつもりだ」
アイザックは最早無表情を保つ事が出来ず、首を締められた様な呻き声を上げる。最悪の答えとしか言いようがない。
「泣いていても始まらないぞ。お前には、婚礼の準備をやってもらわねばならない。余を失望させるなよ、アイザック」
王の言葉で、アイザックの中にわずかに残っていた王に対する義務感は砕け散った。
驚いた事に、魔王側は王の婚姻の申し入れを受け入れた。魔王が断ることを期待していたアイザックにとっては、悪夢のような結果だ。
これで大陸中の反魔物国を敵に回す。すでに敵にまわっている主神教団は、アイザックの国を亡ぼすことに執念を燃やすだろう。あるいは魔王に国を乗っ取られるかもしれない。王に反発した貴族達が反乱を起こすかもしれない。
困難を極めると思われた魔王側との折衝は、予想以上に円滑に進んだ。魔物達は愛想が良く、段取り良く事を進めた。事前に用意していたのが明らかな手際の良さだ。水面下で魔王側も王側も準備を進めていたのだと分かる。アイザックが知らなかっただけだ。
そして、魔王達はこの国をやすやすと乗っ取るわけだ。アイザックは皮肉に考えた。
婚礼の準備をしながら、アイザックはもう国の行く末を諦めていた。愚王に長年支配され続けているのだ。存在する価値の無い国なのかもしれない。自分も愚王を支え続けてきたのだから、自分の人生も諦めるべきかもしれない。そうアイザックは、諦観と共に思うしかない。
王に苦言を呈する有能な人々は、王によって死刑になるか投獄された。王の宮廷で残っているのは、王に媚びへつらうしか能の無い者達ばかりだ。わずかにいる有能な者は、佞臣としての能力がある者だ。
アイザックは、自分が媚びへつらう無能者だと自覚している。王の側近であることに嫌気がさし、王に辞職を願い出たが許されなかった。
なぜ自分が王の側近として用いられているか、アイザックは分かっている。道化として雇われているのだ。真面目で間抜けなアイザックは、王に取ってからかいがいのある者なのだ。だから王の傍にいる事を強要されている。
道化は王と共に滅びるべきだな、アイザックは嗤った。
王国最大の港で、アイザックは王の花嫁の到着を待っていた。すでに魔王の娘であるリリムの乗る黒い巨船が見えている。全体が黒塗りされており、帆も黒く染められている。帆には、魔王を表す紋章が銀色で染められている。どのような技術が用いられているのか、巨船であるにも関わらず異様なほど速く進んでいた。アイザックの国でもガレー船から帆船への切り替えが行われていたが、これほどまでに優れた帆船は持っていない。アイザック達は、力の差を見せ付けられていた。
船が港に係留されると、魔物達が静々と降りて来た。魔物達は皆美しかったが、その中でひときわ目を引く美女がいる。白銀の髪をそよがせ、真紅の目を持った美女だ。均整の取れた体に銀糸で縫い取られた黒色のドレスをまとい、しなやかな首や腕に金剛石をはめ込んだ白銀の装身具を身に着けている。だが、豪奢な衣装もその美貌の前には霞む。完全に近いほど整った顔でありながら冷たさは感じず、温かみと官能を感じさせる絶妙な美貌だ。誰の目にも彼女が魔王の息女だと分かった。
この場の王側の代表である大法官がリリムに挨拶をする。リリムの受け答えは優雅であり、この婚姻に反対の者達ですら感心させた。魔王の息女が美貌だけではなく礼儀作法も優れている事を、この場にいる者達は認めざるを得ない。
美女によってこの国は滅ぼされるのか。後世の歴史家や詩人は喜ぶかもしれない。アイザックは皮肉っぽく考えた。
「私は、王女殿下の侍女でサラ・コンスタンツォと申します。失礼ですが、アイザック・チェンバレン卿でしょうか?」
アイザックは、一人の魔物娘に声を掛けられた。黒髪から黒い角が生え、背には紫色の蝙蝠のような翼がある。豊かな胸とくびれた腰の目立つ肢体に、魔物娘でなければ着ない露出度の高い黒皮の服を着ている。官能的な格好が似合う肉感的な美貌に微笑みを浮かべている。けぶる様な紫色の瞳も、魔物娘の妖艶さを表している。姿かたちからサキュバスだと分かった。
アイザックは、サラ・コンスタンタンツォの名前は知っている。書簡を通して交渉していた魔物の一人だ。アイザックは、挨拶をしながらサラの様子を窺う。交渉相手が何を望んでいるのかは、まだはっきりとは分からない。組しやすいアイザックを標的にしている事ぐらいしか分からないのだから、アイザックとしては慎重になる。
「チェンバレン様とはこれから長いお付き合いになるでしょうね」
サラの言葉に、アイザックは笑顔を浮かべながら内心は顔をしかめていた。正直なところ人間とも魔物とも、交渉どころか一切の付き合いを辞めたい気分だ。アイザックは、不快感をこらえながらサラと会話を続けていた。
アイザックは、葡萄酒を飲みながら陰鬱な思考に落ち込んでいた。つまらない事など考えたくもないが、アイザックの中に次々と浮かび上がってくる。
アイザックが考えている事は、王の事だ。愚王、悪王、暴君、暗君、いずれも当てはまる王がアイザックの主君だ。歴史に悪名を残す事が確かな君主だ。
王は無能どころか、能力に恵まれすぎている者だ。学識と教養は、歴代の王の中でも最も優れているだろう。膨大な本を読破し、自分でも本を書いているくらいだ。芸術の才能にも恵まれ、パイプオルガンを弾き作曲が出来る。運動能力も優れており、馬上試合を盛んに行っている。また、恵まれているのは能力だけではない。今でこそ肥満体だが、若いころは神話の青年神を思わせる堂々たる美青年だった。これほど恵まれている者は珍しいだろう。
だが、王は自分の良い素質を国と民のために使おうとしない。王の君主としての行動は、劣悪としか言いようが無いものだ。浪費を繰り返した挙句、無意味な戦争を行い国と王室の財政を欠乏させた。その財政の困窮を貨幣の質を下げることで乗り越えようとしたために、異常なまでの物価上昇を引き起こした。その上、主神教団に戦いを挑み、国内の教会の財産を奪い取った。せっかく奪い取った財産も、浪費を続けた為に消え去った。
王の漁色も、国内どころか大陸中に混乱を引き起こした。王は離婚と再婚を繰り返した挙句、二人の妻を殺害した。しかも妻に近親相姦の濡れ衣を着せて死刑にしたのだ。主神教団の教皇が王を非難すると、王は自分が国内の主神教団の首長であることを宣言し、邪魔な聖職者たちを粛清した。聖職者以外にも王の暴挙を批判した者がいたが、王によって抹殺された。その代表格である著述家として知られる元大法官は、斬首された。
恵まれた者は他者のために能力を使わない、自分のために使う。その程度の事は、アイザックにも分かっている。分かってはいても、嫌悪を抑える事は出来ない。
その嫌悪を催す者に自分は仕えているのだと、アイザックは繰り返し思い知らされてきた。自分の意に反する事でも、結果として愚王を支えてきたのだ。
アイザックは、自分の人生を思い返した。アイザックは平凡な貴族の息子として生まれ、平凡な貴族として育ってきた。宮廷の隅を、他の貴族達に埋もれながら歩き回るだけの者だと自覚していた。
それが、王の気まぐれで側近に取り立てられた事から苦渋の日々が始まった。王の傍で仕えた者は多いが、長続きする者は少ない。左遷されるのはまだ良い方で、投獄される者や死刑にされる者も多い。アイザックは、自分の身を危険に晒されながら王の暴政を傍らで支えた。アイザックの気が休まる事は無く、王の側近になって以来まともに眠る事が出来なくなった。
アイザックが生き延びる事が出来たのは、王にとって嬲りがいのある道化だからだ。頭の回転の遅いアイザックのずれた返答を、王は大笑いしながら聞く。不眠症でふらつきながら王の傍に立つアイザックの顔に、王は葡萄酒を楽しげに浴びせる。ただ、アイザックは間抜けだが、度が過ぎた間抜けではない。そして馬鹿でも無いために生き残る事が出来た。
アイザックは苦痛と屈辱の日々に耐えられずに何度も辞職を願い出たが、王は許さなかった。王は、おもちゃは飽きるまでは手放さないつもりだ。
それももうすぐ終わる、王とこの国と共に終わる。自身の終焉を、アイザックは微笑みを浮かべながら待ち望んだ。
宮廷は、婚礼の準備で慌ただしかった。だが、慌ただしいのは婚礼の準備のためだけでは無い。水面下で様々な勢力が暗躍している。王側の者、魔物、主神教団の者、王の臣下の者、彼らが暗闘を続けている。その中で面白い動きをしているのは、王の臣下の者達だ。彼らは、すでに王の破滅を予測して行動に移っていた。ある者は魔物と手を組み反乱を起こそうとしている、ある者は主神教団と手を組んで反乱を起こそうとしている、そしてある者は国から逃げ出そうとしていた。
アイザックは、これらの動きのいくつかを見る事が出来た。初めはこれらの動きを楽しみながら傍観していたが、自分も動きに加わる事にした。まず、魔物と手を組んで反乱を起こそうとする者達に、自分の知る限りの王に関する情報を与える。自分を嬲ってきた王に対するささやかな復讐だ。次に、主神教団と手を組んで反乱を起こそうとする者達に、自分の知る限りの王と魔物の情報を与える。魔物は、所詮は侵略者だ。喜んで迎えるつもりなど無く、ささやかな嫌がらせをしようという訳だ。
両者は共にうまく乗ってくれ、宮廷を舞台に踊っている。アイザックは、冷笑しながら道化達の踊りを眺めていた。喜劇は閉幕を迎えようとしている。幕が下りると同時に、道化を自認するアイザックは毒を飲むつもりだ。
廷臣達を冷笑しながら見ているアイザックの所に、サラが現れた。相変わらず扇情的な格好をして妖艶な笑みを浮かべている。
アイザックは、取り繕った笑みを浮かべながらサラを応対する。この国の新たな主人となるリリムの下で働く魔物を、没落する王の使い走りとして受け応えようとした。
「婚礼は、いよいよ三日後です。貴国の人々は、この婚礼を機会に多くの魔物娘と結ばれるでしょう」
「それは楽しみですな。我が国も新しい時代を迎えるというわけです」
そんな物に私は付き合うつもりは無いがと、アイザックは内心嗤う。
「王女殿下に付き添ってきた魔物娘のほとんどは未婚です。貴国の人々と結ばれる事を楽しみにして来たのですよ」
サラは、アイザックの肩に手を掛けて撫でる。サラから漂う香水の甘い香りが、アイザックの鼻をくすぐる。
「私も、貴国の殿方と結ばれるつもりです」
サラの朱を塗った唇が、艶めかしく蠢きながら言葉を紡ぐ。
「それは良い心がけですな。我が国の未来のある貴族達が喜ぶでしょう。私も、心からコンスタンツォ殿の幸せを願っております」
アイザックは、微笑みを浮かべながらサラから離れる。そのまま一礼し、サラに背を向けて歩き去った。
婚礼前夜に、謀略の渦は完全に表面化した。宮殿の中では荒々しい足音が響いている。魔物と組んだ者達が反乱を起こしているのだ。剣や槍を持った兵士達が、宮殿中を走り回っている。
アイザックは、葡萄酒を飲みながら反乱軍を眺めている。この様子では、王はすでに殺されたか捕えられただろう。反乱の直前まで自分を害する動きを気付かなかったのだろう。愚王にふさわしい末路だと、アイザックは嗤う。
それにしても、リリムと王はまだ臥所を共にしていないはずだ。リリムは、よほど王と体を交えたくないらしい。わざわざ婚礼前に反乱を起こすのだから。王は手に入れたい女は全て手に入れて来たが、初めてお預けを食らったわけだ。アイザックは、笑いながら葡萄酒をすする。
さて、喜劇は終わりだ。道化は退場する事にしよう。アイザックは、懐から毒の入った小瓶を取り出す。盃に葡萄酒を注ぎ、毒を注ぐ。外を見ると月夜であり、月光が兵士たちの鎧や槍を鈍く照らしている。アイザックは舞台を眺める気持ちで眼下の光景を眺め、盃をあおろうとする。
アイザックの手は、女の手によって抑えられた。サラが、静かにアイザックを取り押さえている。サラの接近を全く気付かなかったアイザックは、驚きを隠せない。
「だめですよ、それでは責任を取る事にはなりません。あなたは裁きを受けなくてはならないのですから」
アイザックは振り解こうとするが、見かけによらずサラの力は強く引き離せない。もがくばかりで、アイザックは毒を飲む事が出来ない。
サラは、アイザックに息を吹きかける。サラの甘い香りを嗅いだとたんに、アイザックから力が抜ける。そのまま強い眠気に襲われ、崩れ落ちていく。
「今は眠りなさい。私は、あなたを逃がしたりはしませんよ」
意識を失う前にアイザックが見た物は、サラの妖艶な微笑みだった。
アイザックの国は、速やかに魔物派の反乱軍によって制圧された。魔物と反乱軍が事前に綿密な準備していたせいもあるが、王に対する反発が国内で強かったために反乱は成功した。王とその一派は、ほとんどが捕えられている。
主神教団側の反乱勢力は、反乱直後に魔物達によって制圧された。アイザックが主神教団側に情報を流すことを見越して、魔物達はアイザックに偽の情報を流したのだ。主神教団側は、まんまとそれに引っ掛かった。
魔物側は、国を魔王領に編入しようとせず親魔物国化した。反乱軍は、王の二人目の王妃の娘を新女王に推戴した。彼女の母は王によって殺され、彼女自身も幽閉されていた。彼女は逆境に耐えており、聡明で思慮深い事から反乱軍から推されたのだ。魔王を初めとする魔物達も、新女王を支持した。
周辺諸国は反乱後に軍を動かしたが、魔物側の動きが速いために傍観へと方針を変更した。周辺諸国の軍とにらみ合いは続いているが、取りあえず周辺諸国が攻め込んでくる事は無い。
親魔物国化した事で国民の動揺は大きかったが、新女王と魔物達は宣撫に努めて沈静化を図っている。魔物娘達は、積極的に人間との友好のために動いており、徐々にだが国民の動揺は収まりつつある。
新体制造りの最中に、王とその一派の裁判が行われている。すでに多くの者が裁判を終えて投獄されている。王都の名物である塔の形をした監獄は、受刑者で溢れていた。同時に、王によって投獄されていた者の多くは解放された。
アイザックも裁判にかけられて、判決を受けた。投獄は免れたが、貴族の地位は剥奪されて財産も没収された。
アイザックは、書類に書いてある橋の修復のための費用を確認していた。資材の単価と数が合っているかを照らし合わせ、問題なければ確認済みの印を押して工事を担当している部署へ返却する。細かい作業だが、アイザックにとってはそれほど苦痛ではない。
「次の書類が来たから確認をお願いね」
サラが書類の束を持って、アイザックの机の所へやって来た。役所の中なのに、光沢のある素材で出来た露出度の高い服を着ている。このような服は、人間だったら娼婦でも着る事をためらう。サラは恥ずかしげもなく扇情的な格好をして、アイザックにしな垂れかかる。
アイザックは、現在では国の北西部にある田舎町で下級役人として働いている。新政権に、罪滅ぼしのためにここで働くよう命じられたのだ。罪を犯した廷臣を地方の下級役人として働かせる事は、様々な国で行われている。アイザックもその例に倣ったのだ。
普通と違う事は、サキュバスであるサラが付いて来た事だ。名目上は、この地域並びにアイザックの監視が業務だ。ただ、王女の侍女がそのような業務を行うことは、アイザックの国では前例がない。サラによると、前例が無くても行われる事は魔王領ではいくらでも有るとの事だ。サラは、アイザックと共に仕事をしている。
「しっかり仕事をしなさいね。場合によっては、王都へ帰って重要な仕事に就けるかもしれないのだから」
サラの言うことは正しい。不正を犯した臣下の者を再び登用する可能性がある場合、地方に流して働かせる事は多い。アイザックも、場合によっては王都に復帰できるのだ。
最もアイザックは、王都に帰る事はそれほど望んでいない。暴君から解放された事によって、久しぶりに味わう安らぎと共に仕事をして生活しているのだ。華やかさのない質素な生活をしなくてはならないが、得られた安らぎは贅沢な暮らしに勝る価値がある。今のアイザックは、ゆっくりと夜眠る事が出来る。
それに悦楽まで手に入れる事が出来た。
「早く仕事を終えましょうよ。じっくりと楽しみたいからね」
サラは、弾力のある体を押し付けながら囁いた。
アイザックは、サラの匂いに包まれていた。香水、汗、唾液、愛液、肉、服の素材である皮、それらの匂いが混ざり合ってアイザックを侵食する。
サラは、裸に剥いたアイザックの体に自分の体を擦り付けて匂いを染み付けている。首や胸に舌を這わせ、唾液を塗りこむ。豊かな胸で腕を挟んで、胸の谷間の汗を塗り付ける。愛液で濡れそぼった陰毛を擦り付けて、太腿にチーズを思わせる匂いを染み込ませる。サラは、飽きもせずに自分の匂いをアイザックに付け、アイザックの臭いで自分の体を染めていく。
「そろそろこちらも気持ち良くしてあげるわね」
サラは跪くと、アイザックのペニスに口付けをする。朱を塗った唇は唾液で濡れ光り、柔らかい感触と共にペニスに押し付けられる。透明な液を先端からあふれ出させているペニスに、微笑みを浮かべながら頬ずりをする。サラの乳白色の頬が、アイザックの液で濡れ光っていく。サラは口付けと頬ずりを繰り返した後、桃色の舌を見せ付けながらペニスを舐め始めた。
サラは亀頭を弾く様に舐め回したかと思うと、裏筋をねっとりと舌を這わせる。鈴口に唇を付けて吸い付き、くびれに丁寧に舌を這わせて掃除をする。舌を根元にゆっくりと這わせて行き、袋を口に含みながら舌で玉を転がせる。サラは、ペニスの隅々まで自分の唾液を染み込ませた。
サラは、皮の服をはだけた胸をアイザックの股間に寄せる。サラの唾液で濡れ光るアイザックのペニスを、白く光る胸で挟み込む。サラの胸の谷間は汗で濡れて、柔らかさと共にしっとりとした感触がある。サラは、マッサージをするようにペニスを胸で揉み込んだ。
サラは、胸を上下に左右に動かしながらペニスを愛撫する。固くなった桃色の乳首を、ペニスの先端、裏筋、竿に擦り付ける。擦り付けるたびに鈴口からは透明な液があふれて来て、胸とペニスの滑りを良くする。サラはペニスの先端に繰り返し口付け、舌で愛撫しながらねっとりとした唾液を垂らす。
胸で奉仕するサラの体からは体臭の混ざった香水の香りが立ち上り、アイザックの体を包む。サラの首や肩は汗で濡れ、胸の谷間は唾液と先走り汁で濡れて白く光っている。
「さあ。出したくなったら遠慮なく出してね。好きな場所にかけていいからね」
サラの笑いを含んだ言葉の直後に、ペニスの先端からは白濁液が噴出した。サラの鼻や唇、頬、そして胸の谷間をむせかえる様な臭いを放つ液が汚す。サラのきめ細かい肌の上を、白く濁った粘液がゆっくりと垂れ落ちて行く。
サラは、顔を汚す液を黒皮の手袋をはめた指で拭い取り、丁寧に舐め取る。アイザックの股間に顔をうずめると、精液で汚れたペニスを口に含んでゆっくりとしゃぶる。サラが繰り返ししゃぶりながら啜り上げると、アイザックのペニスは回復してそそり立った。
サラはアイザックに馬乗りになると、桃色に濡れ光るヴァギナをペニスに擦り付ける。そのままヴァギナの中にペニスを飲み込んだ。サラは、羽と尻尾を震わせながらアイザックの上で踊る。黒髪はそれ独自に生命を持つかのように蠢き、乳白色の肌は汗で濡れて輝く。
サラは、体を倒してアイザックに抱き付く。アイザックの顔にサラの髪がかかり、重いほど甘い香りがアイザックの顔を包む。
「さあ、あなた。今日もじっくりと楽しみましょうね。お互いの体が溶けて重なるくらいにね」
サラは、アイザックの耳たぶを甘噛みしながら囁いた。
アイザックとサラは、汗で濡れた体を寝台に横たえていた。サラはアイザックの左腕を抱きしめながら、アイザックの胸に顔を寄せている。サラの体からは、情交後の濃密な臭いが漂ってくる。体の部分により匂いは違い、アイザックの胸をくすぐる髪からは甘酸っぱい匂いがした。
アイザックは、サラを抱きながら前王の事を考えていた。王の裁判はまだ続いている。死刑にするか終身刑にするかで、人間と魔物の判事が争っているそうだ。アイザックは、愚王が斬首される事を心から願っている。
サラは、前王は死刑になろうが終身刑になろうが同じ事だと言っている。サラによると、リリムの命令で魔物達は監獄の中の前王の食事に不能になる薬を混ぜたそうだ。牢の中の前王の所にリリムがやって来て誘惑したそうだが、前王の股間は全く反応しなかったらしい。それ以来前王の気力は失われ、生ける屍の様な有様だと言う。どうせなら前王を去勢すればよいのにと、アイザックは思っている。
前王時代に比べれば、この国は良くなったとアイザックは認めざるを得ない。予想外に、魔物達の行動が穏健で誠実だからだ。アイザックはこの国は魔物達によって収奪され、虐殺が荒れ狂うと考えていた。魔物の支配が穏健だとの情報は得ていたが、所詮は侵略者だ。侵略者が寛大に支配すると考える者は、低能以外の何でも無い。だが、魔物達の支配は今のところ良心的なものであり、アイザックとしても例外的な事が起こっていると認めるしかない。
現在この国は、魔物の手を借りて再建と改革が進められている。最大の懸念は財政の枯渇だが、会計制度が変えられて権力者による浪費が出来なくなった。税制も改革され、特権階級から税が取れる仕組みとなった。王とその一派から没収した財産も、国庫の再建に充てられている。無意味な軍事行動は控える方針が立てられた事も、財政支出を抑えている。貨幣は一定の質が保たれ、物価上昇は抑えられた。貧しい事には変わりないが、改善へと進んでいる。
現在、この国は魔王から金を借りて船の建造と港湾の整備に取り掛かっている。島国であるこの国は、海洋国家として生きて行く事が適しているからだ。魔王領との貿易協定も次々と結ばれている。新しい時代の幕開けは船と共に始まると、女王は宣言している。
魔物のおかげでこの国は良くなるのか、まあ悪い事ではないのだろうとアイザックは笑う。
「何を笑っているの?」
「いや、別に何でも無いさ」
「何も無くて笑うわけ無いでしょ。変な事を考えていたのね」
サラは、アイザックの太腿を軽くつねる。サラはアイザックの上に伸し掛かり、アイザックのペニスに体を擦り付けながら耳を舐める。
「明日はやる事があるからもう搾り取るのは止めようと思ったけれど、やっぱり搾り取ったほうが良さそうね」
「明日何をやるつもりだ?」
サラは、アイザックの耳に舌を這わせて熱い息を吹きかける。
「私と貴方の婚姻を証明する書類を役所に提出するのよ。書類なんて私達魔物には単なる紙切れだけれど、あなた達にとっては大切な物だからね。もう私の署名は済んでいるわよ」
答えるべき言葉を探すアイザックの口を、サラの口が塞ぐ。二人は、それ以上何も言わずに口を重ね続けた。
アイザックとサラは、仕事を終えて帰路についていた。サラは、いつものようにアイザックにしな垂れかかっている。サラから漂う花の様な香りが、アイザックを包んでいる。
アイザックは、サラの香りと感触を味わいながら現在の奇妙な結果について思う。あの妻殺し王の再婚話のおかげで、私は妻を得られたのだ。愚王はろくな結果を出さなかったが、最後は少し良い結果を出してくれた。
思わず笑うアイザックを、サラは少し不満げに尻をつねる。アイザックが宥める様にサラの腰を撫でると、サラは笑いながら体を押し付けてくる。
夕暮れの中、二人は寄り添いながら家へと歩いていた。
14/09/30 00:12更新 / 鬼畜軍曹