堕落者の覚醒
暗い森の中の道を一台の馬車が進んでいた。馬車は、黒馬に引かれ黒地に金で装飾された豪奢な馬車だ。暗鬱さを漂わせる馬車は、森の闇の中から出て来た様に見える。
馬車には一人の男が乗っていた。長身で骨太な堂々たる体躯の男であり、黒絹に金糸を縫い込んだ服を着ている。紅玉をはめ込んだ金の装身具で身を飾っており、男の富を誇示している。男は、黒色のビロードに覆われた馬車の中で陰鬱な表情で座っていた。
馬車は、馬のいななきと共に止まった。馬車の中の男は、怪訝そうに御者に問う。御者は、馬の前に少女が出て来た事を無機的に答える。男は、訝しげに馬車の外を見た。
少女は、馬車の前に静かに立っている。金色の髪と青い瞳が特徴的な、どこか少年を思わせる少女だ。村娘の着るような質素な服を着ながらも、存在感のある少女だ。
男は、驚愕を露わにした表情で少女を見つめる。死んだはずだという言葉が、男の口から洩れる。そのまま無言の対峙が続けられた。
男は、ようやく従者に少女を馬車の中に引き入れよと命ずる。少女は、逆らわずに馬車の中に乗る。馬車は、何事もなかったように進み始めた。
男は、自分の前に座る少女を暗い情熱のこもった目で見つめ続けた。
男と少女は、男の物である広壮な城へとたどり着いた。男は馬車から降りると、少女にも降りるように命じた。男の態度は傲然としていながらも、どこか少女に遠慮する所がある。
男の城の所々には、魔物の石像が置いてあった。蛇の魔物ラミア、蜘蛛の魔物アラクネ、鳥の羽を持つハーピー、蠅の王ベルゼブブ、そして大悪魔として知られるバフォメットの石像が置いてある。男のいる国は反魔物国であり、魔物の石像を置く事など本来ならばありえない。
二人は、広く豪奢な一室の中へ入った。壁は、金糸で縫い取られた緞帳や絹織物のタペストリーが掛けられ、金で縁取りされた鏡が置かれている。部屋の各所には、金銀の燭台が置かれている。床の所々に毛皮が敷かれ、置かれている椅子はビロード張りだ。
だが、この室内で目を見張るものは豪華さではないだろう。部屋の中に置かれたおびただしい数の蝋人形が、入室者の目を奪う。人形達は絹や毛皮の服をまとい、紅玉や青玉、金剛石を埋め込んだ金銀の装身具を身に着けている。顔は精巧に作られており、注意して見ないと本物の人間と勘違いするだろう。
男は皮肉っぽい目で少女を見るが、少女のほうは特に驚いた様子もなく部屋を見渡している。男はやや不審そうな目で少女を見ると、何も言わずに部屋の奥へと進む。金の燭台の置かれた大理石の台の前に行き、傍らにあるビロード張りの椅子の一つに座る。少女にも台の前の椅子に座るよう命じた。
少し待つと、従者の格好をした少年と少女達が食事を運んで来た。料理は肉が主体であり、豚、孔雀、白鳥などの肉がサフラン、黒胡椒、肉桂で調理されている。兎を煮込んだシチューにも香料が用いられている。鱒や八目鰻などの魚料理も出され、サラダは蒲公英と葵で作られた物だ。それらの料理は金銀の食器に盛られている。男の富と奇癖を誇示する食事だった。
男は薔薇の花びらを浮かべた水差しで手を洗い、少女にも手を洗わせる。男は、少女に食事を取るように命じた。食卓には銀のフォークが置いてあり、フォークは貴族の食卓には並ぶが庶民の食卓では使われない。
「手づかみで食べてもよいぞ。古代の皇帝や貴族は手づかみで食べたそうだ」
男は楽しげに言って、黒胡椒で味付けされた豚の乳房を自ら手づかみで食べて見せる。
少女は、ややぎこちないがフォークとナイフを使って食事を取る。男は、少女の手付きを面白そうに眺めながら自分は手づかみで食べ続けた。
二人が食事を続けていると、少年と少女がそれぞれ二十人ずつ入ってきた。彼らは、白地に金糸で聖具の形の文様を縫い取った服を着ている。少年少女は整列すると、男の方を無言で見つめ続ける。男が合図をすると、子ども特有の澄んだ高音で歌い始めた。
彼らが歌っているのは、神の使いとして戦う少女戦士の物語だ。神の声を聴き、祖国を救うために侵略者と戦う少女の聖戦を歌った物だ。男は、肉桂糖と巴旦杏と麝香を入れた酒を飲みながら、聖少女の歌を聴いていた。
少女は、兎肉のシチューを食べながら男と聖歌隊を見つめていた。
食事と聖歌隊の歌が終わると、男は人払いをさせて少女と向き合った。
「お前について聞きたいことがある。隠し立てせずに話せ」
男は、高圧的に少女の尋問を始めた。男は、傲然としていながらどこか戸惑う様子がある。
少女は素直に尋問に答えた。少女の名はリュネットと言い、森の近くにある農家の娘だ。薬草を取りに森の中に入ったところ、男に囚われたそうだ。
男は、苦笑しながら聞いている。この少女の言うことは本当の事だろう。ただの村娘に過ぎない。あの少女のはずがない。あの少女は死んだのだ。火で炙られ、嬲り殺しにされたのだ。男は、歯ぎしりをしながら思い出す。
「お前は、剣を手に取った事があるか?」
男は、馬鹿馬鹿しいと思いながらリュネットと名乗る少女に聞く。答えは予想通り否だ。
「お前は、神の声を聞いたことがあるか?」
最早ふざけた調子で、男はリュネットに聞く。これにもリュネットは否と答える。
楽しげに声をあげて笑う男を、リュネットは静かに見つめている。
「よかろう、お前は楽しませてくれそうだ。私が飽きるまでこの城にいる事を命ずる。おとなしくしていたら、農民が味わえない贅沢な生活をさせてやろう」
男は従者を呼びつけると、少女を住まわせる部屋へと案内するよう命ずる。
退出する前に、少女は男を見つめて尋ねる。
「貴方のお名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
男はつまらなそうに少女を眺めると、ぞんざいに答えた。
「私の事は閣下と呼べ。一応、私は元帥だからな」
男は、手を振って少女を退出させた。
元帥とリュネットの奇妙な生活は続いた。元帥の生活は陰鬱で退廃的なものであり、その生活にリュネットは否応無しに付き合わされた。
元帥は、魔物の石像や人に似すぎた蝋人形と戯れた。聖歌隊の少年少女の美声に聞きほれ、夜になると彼らの体を貪っている。元帥は、半裸の姿で少年少女達に体を舐めさせながら、リュネットに自分の集めている古代の物や東洋の品を自慢した。
リュネットは、堕落と退廃を体現したような元帥を見てもほとんど表情を変えることはなかった。ただ、時折悲しげな顔をする時がある。その表情は、ある時は元帥を面白がらせ、ある時は苛立たせた。
元帥の感情は一定せず、どこか憑かれた様なところがある。リュネットを見ながら別の誰かを見ている様であり、その様には狂おしささえあった。
元帥の狂気を浴びながら、リュネットの城での生活は続いた。
「お前が失敗するのはこれで何度目だ?プレラティよ」
「申し訳ございません。金の生成は困難を極めますゆえ」
「その言い訳も聞き飽きたな。無能者を飼うつもりは無いと、何度言ったらわかるのだ?」
「今少しお待ちください。次こそは金をお目にかけます」
様々な器具の置かれた部屋で、元帥は這い蹲る一人の男を見下ろしている。元帥は軍人であると共に、錬金術の研究者だ。金を生成することに情熱を注いでいる。元帥は王をしのぐ財を持っているが、それだけでは満足できず大陸最大の富豪になる事を夢見ている。錬金術は、元帥の夢をかなえる手段だ。元帥の前に這い蹲っているのは、元帥配下の錬金術師だ。
「お前を相手にするよりは、黒魔術の研究をしたほうが良いかも知れんな。富を手にするには、悪魔を呼び出したほうが手っ取り早いかもしれぬ」
「錬金術は、黒魔術よりも知的な研究でございます。諦める事無く研究を続ければ、富と真理を手にする事が出来ます」
「無能者が軽々しく真理などと口にするな!」
元帥は激昂し、薬品の入った陶器をプレラティと呼ばれた錬金術師の前に叩き付ける。地面に叩き付けられた陶器から飛び散った薬品が顔に飛び散り、プレラティは悲鳴を上げる。
「お前の前任者は、無能の罪により斧で叩き殺した。死体を細切れにして塩漬けにし、樽の中に放り込んだ。お前も同じ目に遭いたいのか?」
元帥の陰惨なまなざしを浴びながら、プレラティは顔を抑えながら平伏する。
「もう一度だけ機会をお与えください。次に失敗したら死を覚悟いたします」
「その言葉を忘れるなよ。戦場での失敗は、即座に死を意味する。お前達錬金術師のような甘さは許されない世界だ。私は、これ以上お前達を甘やかすつもりは無い」
元帥は床の上の男を刺すように一瞥し、足音高く部屋を出ていった。
元帥は書斎へ戻ると、苛立たしげに扉を閉めた。すべてが上手く行かない。金が出て行くばかりで、財産を手に入れられない。
元帥は軽く笑う。今更財産を手に入れてどうするのだ?全ては空しい。もはは自身の栄達も、祖国の繁栄も意味はない。王をしのぐ財産を傾けて行った事は、全て無駄になった。あの少女の死と共に。元帥は苦く笑い続ける。
元帥は、森で拾った少女の事を思い出す。聖少女とそっくりの容姿を持つ少女だ。容姿だけではなく、立ち振る舞いや雰囲気も似ている。リュネットを見ていると、かつて元帥と共に戦場を駆け巡った少女戦士の記憶がよみがえる。
あの少女は、聖少女と言うのが相応しい者だった。王でさえ見下していた私が、本気で仕える気になった。あの聖少女と共に、侵略者を駆逐して祖国を救いたかった。
微笑みを浮かべていた元帥の表情が、次第に陰惨なものへと変貌する。
あの愚王は、聖少女を見殺しにした。売国奴どもが敵国に聖少女を売り渡すのを、のんびりと眺めていた。あの聖少女が焼殺されて以来、私は生きる意味を失った。人は私を堕落したと非難するだろう。だが、それがどうしたと言うのだ?貴様ら如きに尽くす必要などはない。貴様らに称賛されるよりは、魔王に称賛されることを望む。聖少女は、神の声に導かれて戦った。だが、神は聖少女を救わなかった。私は、神よりは魔王の配下となりたい。
元帥は、憎悪に顔を歪めながら部屋に立ち尽くしていた。
元帥の寝室に一人の少女が呼び寄せられていた。いつものように、元帥は少女の体を貪っているのだ。元帥は少女の未成熟な体を組み敷き、蹂躙している。少女の体に、繰り返し汚精を浴びせている。
元帥は、いくら少女を嬲っても満たされる事は無い。元帥の中に苛立ちが募っていく。
元帥は、少女の首に手をかけた。ゆっくりと手に力を込めていく。少女は次第にもがき始める。
このまま力を籠め続ければ、少女は窒息して死ぬだろう。さらに力を籠めれば、首の骨が折れる。少女の顔を戦棍で殴ったらどうなるのだろうか?眼球は飛び出るのだろうか?頭を殴れば脳漿は飛び散るのだろうか?何度も精液を放った膣を切り開けば、血と共に精液が噴き出るのだろうか?子を孕む器官とは、いったいどの様な形をしているのだろうか?臓物に男根を埋め込むと、いかなる快楽を得られるのだろうか?
元帥の手に力が入っていく。少女は必死にもがくが、屈強な元帥にとっては意味のない抵抗だ。少女の眼球が裏返り始める。
元帥の手に一人の少女の手が掛けられる。元帥は思わず手の力を抜き、手を掛けた者を見上げる。リュネットが、元帥の手を掴んでいた。
「おやめ下さい。貴方は取り返しのつかない一歩を踏み出そうとしているのですよ」
元帥は息を飲む。荒い息をつき、激しい感情を抑えるように呼吸を鎮めようとする。リュネットを驚愕の表情で見ていたが、次第に激怒の感情が顔を覆う。
「農民の小娘の分際で、この私に命令するつもりか?」
「貴方は自分を汚す行為を繰り返してきました。ですがこの少女を嬲り殺しにすれば、魔王様ですら救う事の出来ない者となるのですよ」
「無知な小娘が知った風な事を言うな!」
「貴方は、救国の英雄だったはずです。その貴方が堕ちる事を、あの少女が喜ぶと思うのですか?」
「知った風な事を言うなと言っているのが分からないのか!」
「知っています。私は、彼女と貴方から生まれたのですから」
元帥は、まじまじと少女を見る。最早戯言には耐えられず、傍らの剣へと手を伸ばそうとする。だが、出来ない。リュネットがあの少女と繋がりがあると信じなければ、城へと連れて来たりはしない。
「私は、あの少女と貴方の影というべき存在です。だからあの少女の事も、貴方の事も知っています。貴方の想いも、苦しみも憎悪も私を作ったものの一部なのです」
元帥は、逆らう気も無く少女を見つめ続ける。見つめながら、これまでの人生を思い出していた。
男は、大貴族の息子として生まれた。国内でも屈指の力と富を誇る貴族の嫡男として生まれたのだ。
男は、両親についてはよく知らない。二人とも少年が幼い時に死んだからだ。少年は、母方の祖父によって育てられた。祖父は強欲で悪辣な男であり、この祖父の手により男の家は王をしのぐ財産を築く事が出来た。同時に、男の家は祖父によって牛耳られた。
祖父は退廃に染まった男であり、男に悪影響ばかり与えた。まだ精通する前から、男は祖父の導きにより女と男の味を覚えていた。祖父は気に食わない者をしばしば殺していたが、自分の孫にやらせる事もあった。男は、剣や斧、戦棍で虐殺を楽しんだ後は、祖父と共に自由になる男女で性欲を満たすのが常だ。
男の幼いころから、国は戦争の最中であった。隣国の侵略により国土の半分は荒廃し、残り半分も蹂躙されるのを待つばかりだ。男は、笑いながら滅びを待ち受けようとしていた。退廃の生活の果てに男は人生に倦み、国と自身の滅びを受け入れようとしていた。
その滅びへと向かう生活を変えたのは、一人の少女だった。少女は、神から祖国を救えと命じられたと称して軍を集めていた。その少女が、男に軍に参加するよう要請してきたのだ。
初めは追い払うつもりだったが、男は気まぐれで軍に参加することにした。どうせ滅びるのならば、神がかりの狂女に従って戦争に参加して滅びるのも面白いと思ったからだ。男は、戦争に参加するために家を傾けるほどの金を投じた。祖父は反対したが、男はこれを機会に祖父から実権を奪い暴力で納得させた。
少女は軍事については無知であり、実際に戦略や戦術を立てたのは男だ。男は退廃に染まりながらも知的好奇心は旺盛であり、軍事について豊富な知識を持っている。また、頑健な体に恵まれていたため、武術の訓練も楽しみながら積み重ねていた。男は少女の下で武勲をたてる事が出来、王から軍の最高位である元帥の位を与えられた。
少女の役割は、軍を鼓舞することだ。少女は奇妙な影響力があり、やる気のなかった兵士達が少女の下では勇猛に戦うのだ。その為に元帥は、本来ならば立てられない戦略や戦術を立てられた。
やがて元帥も、少女の影響力を受け始める。元帥は、少女が本物の聖少女なのではないかと思うようになったのだ。元帥は、無知無学な将兵の多い中で例外的に博識な男だ。迷信を笑い、神よりも知識を信用する男だ。その元帥が、少女を信じ始めたのだ。
少なくとも少女が祖国を救おうとしている事は、元帥は信じた。元帥には、祖国など何の価値もない。だが、祖国を救おうとする少女の美しさは信じた。もしかしたら少女を通して神が見えるのではないかとさえ信じ始めた。
聖少女の軍は、敵に対して連戦連勝であった。敵国を祖国から排除できるのは時間の問題だと思えるほどだ。聖少女とその軍は栄光のただ中にあった。
だが、聖少女も元帥もうかつだった。敵は、侵略してきた敵国だけではなかったのだ。王は、小心で猜疑心が強く狡猾な男であり、聖少女を次第に危険視し始めた。聖少女の軍に対する援助を渋り始め、やがて露骨に妨害を始める。聖少女の軍は、次第に弱体化していった。
そこへ売国奴達がつけ込んで来た。聖少女を捕えると、敵国へと売り飛ばした。元帥は必死に聖少女を救おうと画策するが、ことごとく王に妨害された。
やがて元帥の下に、放っていた密偵が報告に現れた。密偵によると、聖少女は敵国の者と売国奴達により拷問にかけられ輪姦された挙句、魔女として火炙りにされた。
この時に、元帥にとって全てのものは何の価値の無いものとなった。祖国も、世界も、人間も、神も、自分自身も何の価値の無いものとなった。残ったのは暴力と退廃だ。
元帥は領地に戻ると、祖父を幽閉して剣で切り刻んで殺す。祖父の死を病死と発表すると、完全に家の実権を握る。あとはかつての生活に輪をかけた退廃的な生活と、黒魔術、錬金術に耽溺する日々だ。元帥は、奈落へと沈みつつあった。
元帥とリュネットは対峙し続けていた。元帥の顔からはすべての表情が欠落し、リュネットは静謐さを湛えた表情で元帥を見つめている。
「お前は魔物なのか?」
「はい、魔界の魔力と貴方の聖少女への想いと記憶が結びついて、私は生まれたのです」
「所詮は影か」
元帥は苦く呟く。
「確かに私は影です。ですが私は彼女の影です。貴方が聖少女を見る事を通して見ていたものは、私にも受け継がれています。この世界は影のようなものです。映った影を通して崇高なものを見るしかありません」
「夢や理想を語る者には受け入れられそうな説教だな」
「貴方が手で触れる事しか信じないというのならば、私は何も言いません。ですが貴方はそうでは無いはずです。貴方はかつて聖少女と共に戦い、同じ目標を目指したはずです。聖少女を見る事で、崇高なるものを見たはずです。だからこそ貴方は英雄の高みに登れました。その貴方が殺人鬼に身を落とすのですか?」
元帥は何も答えない。直に触れて感じる事が出来るものしか信じないと言うのならば、快楽に耽溺した生活を送ればよい。だが、元帥はその生活に虚ろなものを見て取った。だからこそ聖少女と共に戦う日々に身を投じ、聖少女を見る事を通して聖性を見ていたのだ。
「この国は、残酷な権力者達に支配されています。敵国はこの国を犯したままであり、売国奴達は安寧の中にいます。民は飢えに苦しみ、凌辱され、虐殺されています。それはあの少女が望んだ事だったのですか?」
元帥は暗い想念に沈む。あの少女は農民の娘だ。食料を奪われた飢えに苦しむ民、敵味方双方に凌辱される民、そして敵味方の意のままに虐殺される民を見て来た。だからこそ少女は立ち上がり、敵を駆逐し戦争を終わらせようとした。少女は嬲り殺しにされ、戦争はいまだに終わらない。
たとえ戦争が終わっても、圧制者とその犬は残る。民は収奪され、凌辱され、虐殺される。あの聖少女の本当の敵は何だ?私の本当の敵は何だ?
元帥は笑うと、リュネットに手を掛ける。
「お前は、私の聖少女への想いから生まれたと言ったな。ならば私の聖少女への欲望は分かるはずだ」
リュネットは、青い瞳を揺るがせることなく元帥を見つめる。
「分かっています。貴方のお好きになさい」
「では好きにさせてもらおう」
元帥は、リュネットを抱き寄せた。
元帥は、震える手でリュネットの服を脱がしていく。数多の女を抱いてきた元帥だが、聖少女の影ともいうべき存在を抱くことに緊張を抑えられない。
ようやく服を脱がすと、元帥はリュネットの裸体を見つめる。成熟した女と比べると胸は小さく肉付きは悪いが、少女特有の不完全な魅力がある。健康な体でありながら、どこか儚げな所がある。
元帥は、荒い息を抑えられない。密かに繰り返し思い浮かべた聖少女の裸体だ。性に倦んだ自分がこれほどまで興奮する事になるとは思わなかったと、元帥は頭の中を駆け巡る血の音を聞きながら思う。
元帥は、リュネットと口を重ねる。初めは恐れるようにゆっくりと、次第に激しく口を吸う。繰り返し夢見た聖少女との口づけに、元帥の思念は引き裂かれようとしている。正気を失っている元帥は、少女の感触が正確には分からない。
ふと気が付いたように元帥は身を離そうとする。
「私は、女を犯したばかりで体が汚れている。体を洗ってから交わったほうがよかろう」
リュネットは小さく笑う。
「貴方はもう待てそうに無いでしょう。このまま交わりましょう」
リュネットは、元帥の前に跪いて男根を口付ける。
元帥は、聖なるものを汚す背徳感に背を震わせる。
「貴方は、聖少女に自分の穢れた物を奉仕させる妄想を持っていたわね」
リュネットは、元帥の物を含み舌で愛撫する。汚れた男根を、手で、唇で、舌で奉仕する。
元帥は、汚してはならない者を汚す事に恐れおののく。同時に、何度も夢見た背徳の行為に全身の血が沸騰する感触を覚える。元帥は、童貞の男の様にこらえる事が出来ずに上り詰める。元帥は止めさせようとするが、聖少女の顔を持つ少女は淫らな奉仕を続ける。元帥は、呻き声と共に汚精を少女の口に放った。
元帥は、大量の精を長く放ち続けた。緊張と興奮が混ざり合う中、少女の口に精を放ち続ける。元帥の背に戦慄が繰り返し走る。少女は、元帥の精を繰り返し喉の音と共に飲み干していくのだ。目を逸らす事も出来ずに、元帥は聖なる者が汚れる光景を見続ける。
リュネットは、元帥の男根から口を離して微笑みを浮かべる。元帥はこの微笑みを見て、聖性と淫猥さは同居する事が可能だと知った。
元帥はリュネットを立たせ、自分は跪く。元帥の目の前には、少女の金色の恥毛に覆われた女陰が見える。薄い桃色の女陰は、透明な液で濡れて光っている。元帥は、女陰に恭しく口付ける。そのままゆっくりと舌を這わせ、次第に舌の動きを速めた。
元帥は、リュネットを寝台に横たわらせる。元帥はリュネットの体に覆いかぶさり、回復して屹立している男根を女陰に押し当てる。そのままリュネットを見つめた。
リュネットは、微笑みながら女陰を男根に擦り付けてくる。元帥を悪戯っぽく誘っていた。
元帥は、こらえられずに男根を女陰の中に押し入れる。ゆっくりと入れたかったが、押し留める事は出来ない。
リュネットは、わずかに顔を歪めながら元帥を受け入れる。苦痛を感じているようだが、元帥の動きを止めさせようとはしない。
元帥は、留める事が出来ずにリュネットの中を蹂躙する。精を放ったばかりなのに、再び精を放とうとする。元帥は、リュネットを見つめる。今度こそ聖少女を決定的に汚してしまうのだ。
リュネットは、元帥を見つめながら体を動かして精を受け入れようとする。リュネットの笑みは、清らかでありながら淫らだ。
元帥は、聖少女の中に自分の精を放った。少女の生涯汚されてはならない所に、汚精を注ぎ込む。元帥の体は震え続ける。背徳、汚辱、堕落、淫楽、様々な観念が元帥の中で嵐を起こす。元帥は、嵐に翻弄されて自身を律する事が出来ない。
気が付いた時、自分がリュネットの上に伸し掛かっている事に元帥は気が付いた。泣き笑いを浮かべるリュネットを見ながら、元帥は一つの事だけを確信した。
自分は、汚してはならないものを汚したのだと。
突然元帥は身を起こすと、寝台から飛び降りて剣を手に取る。そのまま部屋の壁を覆う緞帳の所まで走りよると、剣を抜いて一閃した。同時に絶叫が部屋の中に響き渡り、緞帳の影から男が転がり出る。再び剣をふるうと血が飛び散り、壁にかかっている聖具を汚した。
蠢いている男に止めを刺そうとすると、リュネットに止められる。
「その男を殺してはなりません!尋問して誰の手の者か調べなくてはなりません」
蠢いている男を見ると、錬金術師のプレラティだ。手に小型のクロスボウを持っている。緞帳の後ろを調べると、壁の石が抜かれていて人一人が潜り抜けられた。
「大方、矢には毒を塗っているのだろう。王かその犬の手の者だろうな」
「この者は、私が来た当時からおかしな動きをしていました」
「錬金術師として潜り込んで、私の財産を散在させる。ばれそうになった時は、私を殺すわけか。下らぬことをしてくれる」
元帥は吐き捨てると、そのまま黙り込んだ。しばらく沈黙したのち、リュネットを正面から見据える。今までとは別の種類の狂おしい熱のこもった眼差しだ。
「お前は、魔王軍と連絡を取る事が出来るか?」
「はい、出来ます」
「では、魔王軍と連絡を取ってくれ。私は王を倒し、この国を私の物にする。そして敵国と売国奴どもを、この国から殲滅する。そのためには魔王軍の力が必要なのだ。魔王に加担する事は、神に背くことだ。だが私は、人を救わぬ神などいらぬ。聖少女は、神の名のもとに魔女として殺されたのだ。私は魔王に魂を売る。人間などやめてやる!リュネットよ、私にはお前の力が必要なのだ」
元帥は、暗い情熱のこもった眼差しで言葉を発し続けた。リュネットに全てを叩き付ける様に、言葉と眼差しを放った。
リュネットは、かの聖少女と同じ青い瞳で受け止め、答える。
「私の全てをかけて、貴方と共に戦います。貴方と共に、残酷な世界を覆します」
二人は手を取り、誓いの口付けをかわす。血に濡れた金の聖具が、聖少女の影と堕ちた英雄を映し出していた。
馬車には一人の男が乗っていた。長身で骨太な堂々たる体躯の男であり、黒絹に金糸を縫い込んだ服を着ている。紅玉をはめ込んだ金の装身具で身を飾っており、男の富を誇示している。男は、黒色のビロードに覆われた馬車の中で陰鬱な表情で座っていた。
馬車は、馬のいななきと共に止まった。馬車の中の男は、怪訝そうに御者に問う。御者は、馬の前に少女が出て来た事を無機的に答える。男は、訝しげに馬車の外を見た。
少女は、馬車の前に静かに立っている。金色の髪と青い瞳が特徴的な、どこか少年を思わせる少女だ。村娘の着るような質素な服を着ながらも、存在感のある少女だ。
男は、驚愕を露わにした表情で少女を見つめる。死んだはずだという言葉が、男の口から洩れる。そのまま無言の対峙が続けられた。
男は、ようやく従者に少女を馬車の中に引き入れよと命ずる。少女は、逆らわずに馬車の中に乗る。馬車は、何事もなかったように進み始めた。
男は、自分の前に座る少女を暗い情熱のこもった目で見つめ続けた。
男と少女は、男の物である広壮な城へとたどり着いた。男は馬車から降りると、少女にも降りるように命じた。男の態度は傲然としていながらも、どこか少女に遠慮する所がある。
男の城の所々には、魔物の石像が置いてあった。蛇の魔物ラミア、蜘蛛の魔物アラクネ、鳥の羽を持つハーピー、蠅の王ベルゼブブ、そして大悪魔として知られるバフォメットの石像が置いてある。男のいる国は反魔物国であり、魔物の石像を置く事など本来ならばありえない。
二人は、広く豪奢な一室の中へ入った。壁は、金糸で縫い取られた緞帳や絹織物のタペストリーが掛けられ、金で縁取りされた鏡が置かれている。部屋の各所には、金銀の燭台が置かれている。床の所々に毛皮が敷かれ、置かれている椅子はビロード張りだ。
だが、この室内で目を見張るものは豪華さではないだろう。部屋の中に置かれたおびただしい数の蝋人形が、入室者の目を奪う。人形達は絹や毛皮の服をまとい、紅玉や青玉、金剛石を埋め込んだ金銀の装身具を身に着けている。顔は精巧に作られており、注意して見ないと本物の人間と勘違いするだろう。
男は皮肉っぽい目で少女を見るが、少女のほうは特に驚いた様子もなく部屋を見渡している。男はやや不審そうな目で少女を見ると、何も言わずに部屋の奥へと進む。金の燭台の置かれた大理石の台の前に行き、傍らにあるビロード張りの椅子の一つに座る。少女にも台の前の椅子に座るよう命じた。
少し待つと、従者の格好をした少年と少女達が食事を運んで来た。料理は肉が主体であり、豚、孔雀、白鳥などの肉がサフラン、黒胡椒、肉桂で調理されている。兎を煮込んだシチューにも香料が用いられている。鱒や八目鰻などの魚料理も出され、サラダは蒲公英と葵で作られた物だ。それらの料理は金銀の食器に盛られている。男の富と奇癖を誇示する食事だった。
男は薔薇の花びらを浮かべた水差しで手を洗い、少女にも手を洗わせる。男は、少女に食事を取るように命じた。食卓には銀のフォークが置いてあり、フォークは貴族の食卓には並ぶが庶民の食卓では使われない。
「手づかみで食べてもよいぞ。古代の皇帝や貴族は手づかみで食べたそうだ」
男は楽しげに言って、黒胡椒で味付けされた豚の乳房を自ら手づかみで食べて見せる。
少女は、ややぎこちないがフォークとナイフを使って食事を取る。男は、少女の手付きを面白そうに眺めながら自分は手づかみで食べ続けた。
二人が食事を続けていると、少年と少女がそれぞれ二十人ずつ入ってきた。彼らは、白地に金糸で聖具の形の文様を縫い取った服を着ている。少年少女は整列すると、男の方を無言で見つめ続ける。男が合図をすると、子ども特有の澄んだ高音で歌い始めた。
彼らが歌っているのは、神の使いとして戦う少女戦士の物語だ。神の声を聴き、祖国を救うために侵略者と戦う少女の聖戦を歌った物だ。男は、肉桂糖と巴旦杏と麝香を入れた酒を飲みながら、聖少女の歌を聴いていた。
少女は、兎肉のシチューを食べながら男と聖歌隊を見つめていた。
食事と聖歌隊の歌が終わると、男は人払いをさせて少女と向き合った。
「お前について聞きたいことがある。隠し立てせずに話せ」
男は、高圧的に少女の尋問を始めた。男は、傲然としていながらどこか戸惑う様子がある。
少女は素直に尋問に答えた。少女の名はリュネットと言い、森の近くにある農家の娘だ。薬草を取りに森の中に入ったところ、男に囚われたそうだ。
男は、苦笑しながら聞いている。この少女の言うことは本当の事だろう。ただの村娘に過ぎない。あの少女のはずがない。あの少女は死んだのだ。火で炙られ、嬲り殺しにされたのだ。男は、歯ぎしりをしながら思い出す。
「お前は、剣を手に取った事があるか?」
男は、馬鹿馬鹿しいと思いながらリュネットと名乗る少女に聞く。答えは予想通り否だ。
「お前は、神の声を聞いたことがあるか?」
最早ふざけた調子で、男はリュネットに聞く。これにもリュネットは否と答える。
楽しげに声をあげて笑う男を、リュネットは静かに見つめている。
「よかろう、お前は楽しませてくれそうだ。私が飽きるまでこの城にいる事を命ずる。おとなしくしていたら、農民が味わえない贅沢な生活をさせてやろう」
男は従者を呼びつけると、少女を住まわせる部屋へと案内するよう命ずる。
退出する前に、少女は男を見つめて尋ねる。
「貴方のお名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
男はつまらなそうに少女を眺めると、ぞんざいに答えた。
「私の事は閣下と呼べ。一応、私は元帥だからな」
男は、手を振って少女を退出させた。
元帥とリュネットの奇妙な生活は続いた。元帥の生活は陰鬱で退廃的なものであり、その生活にリュネットは否応無しに付き合わされた。
元帥は、魔物の石像や人に似すぎた蝋人形と戯れた。聖歌隊の少年少女の美声に聞きほれ、夜になると彼らの体を貪っている。元帥は、半裸の姿で少年少女達に体を舐めさせながら、リュネットに自分の集めている古代の物や東洋の品を自慢した。
リュネットは、堕落と退廃を体現したような元帥を見てもほとんど表情を変えることはなかった。ただ、時折悲しげな顔をする時がある。その表情は、ある時は元帥を面白がらせ、ある時は苛立たせた。
元帥の感情は一定せず、どこか憑かれた様なところがある。リュネットを見ながら別の誰かを見ている様であり、その様には狂おしささえあった。
元帥の狂気を浴びながら、リュネットの城での生活は続いた。
「お前が失敗するのはこれで何度目だ?プレラティよ」
「申し訳ございません。金の生成は困難を極めますゆえ」
「その言い訳も聞き飽きたな。無能者を飼うつもりは無いと、何度言ったらわかるのだ?」
「今少しお待ちください。次こそは金をお目にかけます」
様々な器具の置かれた部屋で、元帥は這い蹲る一人の男を見下ろしている。元帥は軍人であると共に、錬金術の研究者だ。金を生成することに情熱を注いでいる。元帥は王をしのぐ財を持っているが、それだけでは満足できず大陸最大の富豪になる事を夢見ている。錬金術は、元帥の夢をかなえる手段だ。元帥の前に這い蹲っているのは、元帥配下の錬金術師だ。
「お前を相手にするよりは、黒魔術の研究をしたほうが良いかも知れんな。富を手にするには、悪魔を呼び出したほうが手っ取り早いかもしれぬ」
「錬金術は、黒魔術よりも知的な研究でございます。諦める事無く研究を続ければ、富と真理を手にする事が出来ます」
「無能者が軽々しく真理などと口にするな!」
元帥は激昂し、薬品の入った陶器をプレラティと呼ばれた錬金術師の前に叩き付ける。地面に叩き付けられた陶器から飛び散った薬品が顔に飛び散り、プレラティは悲鳴を上げる。
「お前の前任者は、無能の罪により斧で叩き殺した。死体を細切れにして塩漬けにし、樽の中に放り込んだ。お前も同じ目に遭いたいのか?」
元帥の陰惨なまなざしを浴びながら、プレラティは顔を抑えながら平伏する。
「もう一度だけ機会をお与えください。次に失敗したら死を覚悟いたします」
「その言葉を忘れるなよ。戦場での失敗は、即座に死を意味する。お前達錬金術師のような甘さは許されない世界だ。私は、これ以上お前達を甘やかすつもりは無い」
元帥は床の上の男を刺すように一瞥し、足音高く部屋を出ていった。
元帥は書斎へ戻ると、苛立たしげに扉を閉めた。すべてが上手く行かない。金が出て行くばかりで、財産を手に入れられない。
元帥は軽く笑う。今更財産を手に入れてどうするのだ?全ては空しい。もはは自身の栄達も、祖国の繁栄も意味はない。王をしのぐ財産を傾けて行った事は、全て無駄になった。あの少女の死と共に。元帥は苦く笑い続ける。
元帥は、森で拾った少女の事を思い出す。聖少女とそっくりの容姿を持つ少女だ。容姿だけではなく、立ち振る舞いや雰囲気も似ている。リュネットを見ていると、かつて元帥と共に戦場を駆け巡った少女戦士の記憶がよみがえる。
あの少女は、聖少女と言うのが相応しい者だった。王でさえ見下していた私が、本気で仕える気になった。あの聖少女と共に、侵略者を駆逐して祖国を救いたかった。
微笑みを浮かべていた元帥の表情が、次第に陰惨なものへと変貌する。
あの愚王は、聖少女を見殺しにした。売国奴どもが敵国に聖少女を売り渡すのを、のんびりと眺めていた。あの聖少女が焼殺されて以来、私は生きる意味を失った。人は私を堕落したと非難するだろう。だが、それがどうしたと言うのだ?貴様ら如きに尽くす必要などはない。貴様らに称賛されるよりは、魔王に称賛されることを望む。聖少女は、神の声に導かれて戦った。だが、神は聖少女を救わなかった。私は、神よりは魔王の配下となりたい。
元帥は、憎悪に顔を歪めながら部屋に立ち尽くしていた。
元帥の寝室に一人の少女が呼び寄せられていた。いつものように、元帥は少女の体を貪っているのだ。元帥は少女の未成熟な体を組み敷き、蹂躙している。少女の体に、繰り返し汚精を浴びせている。
元帥は、いくら少女を嬲っても満たされる事は無い。元帥の中に苛立ちが募っていく。
元帥は、少女の首に手をかけた。ゆっくりと手に力を込めていく。少女は次第にもがき始める。
このまま力を籠め続ければ、少女は窒息して死ぬだろう。さらに力を籠めれば、首の骨が折れる。少女の顔を戦棍で殴ったらどうなるのだろうか?眼球は飛び出るのだろうか?頭を殴れば脳漿は飛び散るのだろうか?何度も精液を放った膣を切り開けば、血と共に精液が噴き出るのだろうか?子を孕む器官とは、いったいどの様な形をしているのだろうか?臓物に男根を埋め込むと、いかなる快楽を得られるのだろうか?
元帥の手に力が入っていく。少女は必死にもがくが、屈強な元帥にとっては意味のない抵抗だ。少女の眼球が裏返り始める。
元帥の手に一人の少女の手が掛けられる。元帥は思わず手の力を抜き、手を掛けた者を見上げる。リュネットが、元帥の手を掴んでいた。
「おやめ下さい。貴方は取り返しのつかない一歩を踏み出そうとしているのですよ」
元帥は息を飲む。荒い息をつき、激しい感情を抑えるように呼吸を鎮めようとする。リュネットを驚愕の表情で見ていたが、次第に激怒の感情が顔を覆う。
「農民の小娘の分際で、この私に命令するつもりか?」
「貴方は自分を汚す行為を繰り返してきました。ですがこの少女を嬲り殺しにすれば、魔王様ですら救う事の出来ない者となるのですよ」
「無知な小娘が知った風な事を言うな!」
「貴方は、救国の英雄だったはずです。その貴方が堕ちる事を、あの少女が喜ぶと思うのですか?」
「知った風な事を言うなと言っているのが分からないのか!」
「知っています。私は、彼女と貴方から生まれたのですから」
元帥は、まじまじと少女を見る。最早戯言には耐えられず、傍らの剣へと手を伸ばそうとする。だが、出来ない。リュネットがあの少女と繋がりがあると信じなければ、城へと連れて来たりはしない。
「私は、あの少女と貴方の影というべき存在です。だからあの少女の事も、貴方の事も知っています。貴方の想いも、苦しみも憎悪も私を作ったものの一部なのです」
元帥は、逆らう気も無く少女を見つめ続ける。見つめながら、これまでの人生を思い出していた。
男は、大貴族の息子として生まれた。国内でも屈指の力と富を誇る貴族の嫡男として生まれたのだ。
男は、両親についてはよく知らない。二人とも少年が幼い時に死んだからだ。少年は、母方の祖父によって育てられた。祖父は強欲で悪辣な男であり、この祖父の手により男の家は王をしのぐ財産を築く事が出来た。同時に、男の家は祖父によって牛耳られた。
祖父は退廃に染まった男であり、男に悪影響ばかり与えた。まだ精通する前から、男は祖父の導きにより女と男の味を覚えていた。祖父は気に食わない者をしばしば殺していたが、自分の孫にやらせる事もあった。男は、剣や斧、戦棍で虐殺を楽しんだ後は、祖父と共に自由になる男女で性欲を満たすのが常だ。
男の幼いころから、国は戦争の最中であった。隣国の侵略により国土の半分は荒廃し、残り半分も蹂躙されるのを待つばかりだ。男は、笑いながら滅びを待ち受けようとしていた。退廃の生活の果てに男は人生に倦み、国と自身の滅びを受け入れようとしていた。
その滅びへと向かう生活を変えたのは、一人の少女だった。少女は、神から祖国を救えと命じられたと称して軍を集めていた。その少女が、男に軍に参加するよう要請してきたのだ。
初めは追い払うつもりだったが、男は気まぐれで軍に参加することにした。どうせ滅びるのならば、神がかりの狂女に従って戦争に参加して滅びるのも面白いと思ったからだ。男は、戦争に参加するために家を傾けるほどの金を投じた。祖父は反対したが、男はこれを機会に祖父から実権を奪い暴力で納得させた。
少女は軍事については無知であり、実際に戦略や戦術を立てたのは男だ。男は退廃に染まりながらも知的好奇心は旺盛であり、軍事について豊富な知識を持っている。また、頑健な体に恵まれていたため、武術の訓練も楽しみながら積み重ねていた。男は少女の下で武勲をたてる事が出来、王から軍の最高位である元帥の位を与えられた。
少女の役割は、軍を鼓舞することだ。少女は奇妙な影響力があり、やる気のなかった兵士達が少女の下では勇猛に戦うのだ。その為に元帥は、本来ならば立てられない戦略や戦術を立てられた。
やがて元帥も、少女の影響力を受け始める。元帥は、少女が本物の聖少女なのではないかと思うようになったのだ。元帥は、無知無学な将兵の多い中で例外的に博識な男だ。迷信を笑い、神よりも知識を信用する男だ。その元帥が、少女を信じ始めたのだ。
少なくとも少女が祖国を救おうとしている事は、元帥は信じた。元帥には、祖国など何の価値もない。だが、祖国を救おうとする少女の美しさは信じた。もしかしたら少女を通して神が見えるのではないかとさえ信じ始めた。
聖少女の軍は、敵に対して連戦連勝であった。敵国を祖国から排除できるのは時間の問題だと思えるほどだ。聖少女とその軍は栄光のただ中にあった。
だが、聖少女も元帥もうかつだった。敵は、侵略してきた敵国だけではなかったのだ。王は、小心で猜疑心が強く狡猾な男であり、聖少女を次第に危険視し始めた。聖少女の軍に対する援助を渋り始め、やがて露骨に妨害を始める。聖少女の軍は、次第に弱体化していった。
そこへ売国奴達がつけ込んで来た。聖少女を捕えると、敵国へと売り飛ばした。元帥は必死に聖少女を救おうと画策するが、ことごとく王に妨害された。
やがて元帥の下に、放っていた密偵が報告に現れた。密偵によると、聖少女は敵国の者と売国奴達により拷問にかけられ輪姦された挙句、魔女として火炙りにされた。
この時に、元帥にとって全てのものは何の価値の無いものとなった。祖国も、世界も、人間も、神も、自分自身も何の価値の無いものとなった。残ったのは暴力と退廃だ。
元帥は領地に戻ると、祖父を幽閉して剣で切り刻んで殺す。祖父の死を病死と発表すると、完全に家の実権を握る。あとはかつての生活に輪をかけた退廃的な生活と、黒魔術、錬金術に耽溺する日々だ。元帥は、奈落へと沈みつつあった。
元帥とリュネットは対峙し続けていた。元帥の顔からはすべての表情が欠落し、リュネットは静謐さを湛えた表情で元帥を見つめている。
「お前は魔物なのか?」
「はい、魔界の魔力と貴方の聖少女への想いと記憶が結びついて、私は生まれたのです」
「所詮は影か」
元帥は苦く呟く。
「確かに私は影です。ですが私は彼女の影です。貴方が聖少女を見る事を通して見ていたものは、私にも受け継がれています。この世界は影のようなものです。映った影を通して崇高なものを見るしかありません」
「夢や理想を語る者には受け入れられそうな説教だな」
「貴方が手で触れる事しか信じないというのならば、私は何も言いません。ですが貴方はそうでは無いはずです。貴方はかつて聖少女と共に戦い、同じ目標を目指したはずです。聖少女を見る事で、崇高なるものを見たはずです。だからこそ貴方は英雄の高みに登れました。その貴方が殺人鬼に身を落とすのですか?」
元帥は何も答えない。直に触れて感じる事が出来るものしか信じないと言うのならば、快楽に耽溺した生活を送ればよい。だが、元帥はその生活に虚ろなものを見て取った。だからこそ聖少女と共に戦う日々に身を投じ、聖少女を見る事を通して聖性を見ていたのだ。
「この国は、残酷な権力者達に支配されています。敵国はこの国を犯したままであり、売国奴達は安寧の中にいます。民は飢えに苦しみ、凌辱され、虐殺されています。それはあの少女が望んだ事だったのですか?」
元帥は暗い想念に沈む。あの少女は農民の娘だ。食料を奪われた飢えに苦しむ民、敵味方双方に凌辱される民、そして敵味方の意のままに虐殺される民を見て来た。だからこそ少女は立ち上がり、敵を駆逐し戦争を終わらせようとした。少女は嬲り殺しにされ、戦争はいまだに終わらない。
たとえ戦争が終わっても、圧制者とその犬は残る。民は収奪され、凌辱され、虐殺される。あの聖少女の本当の敵は何だ?私の本当の敵は何だ?
元帥は笑うと、リュネットに手を掛ける。
「お前は、私の聖少女への想いから生まれたと言ったな。ならば私の聖少女への欲望は分かるはずだ」
リュネットは、青い瞳を揺るがせることなく元帥を見つめる。
「分かっています。貴方のお好きになさい」
「では好きにさせてもらおう」
元帥は、リュネットを抱き寄せた。
元帥は、震える手でリュネットの服を脱がしていく。数多の女を抱いてきた元帥だが、聖少女の影ともいうべき存在を抱くことに緊張を抑えられない。
ようやく服を脱がすと、元帥はリュネットの裸体を見つめる。成熟した女と比べると胸は小さく肉付きは悪いが、少女特有の不完全な魅力がある。健康な体でありながら、どこか儚げな所がある。
元帥は、荒い息を抑えられない。密かに繰り返し思い浮かべた聖少女の裸体だ。性に倦んだ自分がこれほどまで興奮する事になるとは思わなかったと、元帥は頭の中を駆け巡る血の音を聞きながら思う。
元帥は、リュネットと口を重ねる。初めは恐れるようにゆっくりと、次第に激しく口を吸う。繰り返し夢見た聖少女との口づけに、元帥の思念は引き裂かれようとしている。正気を失っている元帥は、少女の感触が正確には分からない。
ふと気が付いたように元帥は身を離そうとする。
「私は、女を犯したばかりで体が汚れている。体を洗ってから交わったほうがよかろう」
リュネットは小さく笑う。
「貴方はもう待てそうに無いでしょう。このまま交わりましょう」
リュネットは、元帥の前に跪いて男根を口付ける。
元帥は、聖なるものを汚す背徳感に背を震わせる。
「貴方は、聖少女に自分の穢れた物を奉仕させる妄想を持っていたわね」
リュネットは、元帥の物を含み舌で愛撫する。汚れた男根を、手で、唇で、舌で奉仕する。
元帥は、汚してはならない者を汚す事に恐れおののく。同時に、何度も夢見た背徳の行為に全身の血が沸騰する感触を覚える。元帥は、童貞の男の様にこらえる事が出来ずに上り詰める。元帥は止めさせようとするが、聖少女の顔を持つ少女は淫らな奉仕を続ける。元帥は、呻き声と共に汚精を少女の口に放った。
元帥は、大量の精を長く放ち続けた。緊張と興奮が混ざり合う中、少女の口に精を放ち続ける。元帥の背に戦慄が繰り返し走る。少女は、元帥の精を繰り返し喉の音と共に飲み干していくのだ。目を逸らす事も出来ずに、元帥は聖なる者が汚れる光景を見続ける。
リュネットは、元帥の男根から口を離して微笑みを浮かべる。元帥はこの微笑みを見て、聖性と淫猥さは同居する事が可能だと知った。
元帥はリュネットを立たせ、自分は跪く。元帥の目の前には、少女の金色の恥毛に覆われた女陰が見える。薄い桃色の女陰は、透明な液で濡れて光っている。元帥は、女陰に恭しく口付ける。そのままゆっくりと舌を這わせ、次第に舌の動きを速めた。
元帥は、リュネットを寝台に横たわらせる。元帥はリュネットの体に覆いかぶさり、回復して屹立している男根を女陰に押し当てる。そのままリュネットを見つめた。
リュネットは、微笑みながら女陰を男根に擦り付けてくる。元帥を悪戯っぽく誘っていた。
元帥は、こらえられずに男根を女陰の中に押し入れる。ゆっくりと入れたかったが、押し留める事は出来ない。
リュネットは、わずかに顔を歪めながら元帥を受け入れる。苦痛を感じているようだが、元帥の動きを止めさせようとはしない。
元帥は、留める事が出来ずにリュネットの中を蹂躙する。精を放ったばかりなのに、再び精を放とうとする。元帥は、リュネットを見つめる。今度こそ聖少女を決定的に汚してしまうのだ。
リュネットは、元帥を見つめながら体を動かして精を受け入れようとする。リュネットの笑みは、清らかでありながら淫らだ。
元帥は、聖少女の中に自分の精を放った。少女の生涯汚されてはならない所に、汚精を注ぎ込む。元帥の体は震え続ける。背徳、汚辱、堕落、淫楽、様々な観念が元帥の中で嵐を起こす。元帥は、嵐に翻弄されて自身を律する事が出来ない。
気が付いた時、自分がリュネットの上に伸し掛かっている事に元帥は気が付いた。泣き笑いを浮かべるリュネットを見ながら、元帥は一つの事だけを確信した。
自分は、汚してはならないものを汚したのだと。
突然元帥は身を起こすと、寝台から飛び降りて剣を手に取る。そのまま部屋の壁を覆う緞帳の所まで走りよると、剣を抜いて一閃した。同時に絶叫が部屋の中に響き渡り、緞帳の影から男が転がり出る。再び剣をふるうと血が飛び散り、壁にかかっている聖具を汚した。
蠢いている男に止めを刺そうとすると、リュネットに止められる。
「その男を殺してはなりません!尋問して誰の手の者か調べなくてはなりません」
蠢いている男を見ると、錬金術師のプレラティだ。手に小型のクロスボウを持っている。緞帳の後ろを調べると、壁の石が抜かれていて人一人が潜り抜けられた。
「大方、矢には毒を塗っているのだろう。王かその犬の手の者だろうな」
「この者は、私が来た当時からおかしな動きをしていました」
「錬金術師として潜り込んで、私の財産を散在させる。ばれそうになった時は、私を殺すわけか。下らぬことをしてくれる」
元帥は吐き捨てると、そのまま黙り込んだ。しばらく沈黙したのち、リュネットを正面から見据える。今までとは別の種類の狂おしい熱のこもった眼差しだ。
「お前は、魔王軍と連絡を取る事が出来るか?」
「はい、出来ます」
「では、魔王軍と連絡を取ってくれ。私は王を倒し、この国を私の物にする。そして敵国と売国奴どもを、この国から殲滅する。そのためには魔王軍の力が必要なのだ。魔王に加担する事は、神に背くことだ。だが私は、人を救わぬ神などいらぬ。聖少女は、神の名のもとに魔女として殺されたのだ。私は魔王に魂を売る。人間などやめてやる!リュネットよ、私にはお前の力が必要なのだ」
元帥は、暗い情熱のこもった眼差しで言葉を発し続けた。リュネットに全てを叩き付ける様に、言葉と眼差しを放った。
リュネットは、かの聖少女と同じ青い瞳で受け止め、答える。
「私の全てをかけて、貴方と共に戦います。貴方と共に、残酷な世界を覆します」
二人は手を取り、誓いの口付けをかわす。血に濡れた金の聖具が、聖少女の影と堕ちた英雄を映し出していた。
14/09/25 06:24更新 / 鬼畜軍曹