読切小説
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堕落者の手記
 下記の資料は、新教皇の資料調査の命によって発掘された物である。この調査は、近年の教団の混乱により未整理状態であった資料を整理する事を目的としたものである。
 下記の資料は、十一年前の聖騎士失踪に関わる資料である。失踪した聖騎士は戦乙女の指導の下におり、戦乙女と共に失踪したために教団本部でも問題となった。発掘された資料は三点あり、いずれも聖騎士本人が書いた物と見られる。資料の裏付けが取れれば、聖騎士失踪の真相について多くが解明されるだろう。
 以下に、資料を発掘した順に提示する。


第一の手記
 私は堕落した。もはや取り返しが付かない。私は神の戦士たる資格を失った。
 堕落したのは私だけではない。私を導いてくれた戦乙女も堕落した。もはや彼女は乙女ではない。
 私達は、肉欲に負けたのだ。私達は、互いを貪りあった。獣に堕ちたのだ。いや、獣でさえも私達ほど身を汚していないだろう。
 私達は、主神に使える資格は無い。私達を受け入れてくれるのは、堕落神くらいだろう。 私を導いてくれた戦乙女ランドグリーズは、すでに堕落神の配下となっている。これから私達は、堕落神のおわす万魔殿へ向けて旅立つところだ。
 彼女は、今も私を見守っている。この手記を書いている私を微笑みながら見守っている。彼女の浮かべている微笑は淫猥だ。唇をこれ見よがしに舐めている。先ほど貪った私の男根と精液を反芻しているかのように。
 私と彼女は、つい先ほど淫らな行為にのめり込んだ。彼女は私の前にひざまずき、私の男根を舐めしゃぶった。愛おしい物であるかの様に、頬ずりをしながら舐めしゃぶった。私の放つ精液を、喉を鳴らしながらおいしそうに飲み干したのだ。
 彼女が舐めしゃぶったのは、男根だけではない。私の足を、不浄の穴を舐めしゃぶった。執拗に舐めしゃぶった後、犬のように這い蹲ってむき出しの尻を掲げた。私は、雌犬と成り果てた彼女を後ろから犯した。女陰だけではなく不浄の穴も、繰り返し繰り返し犯した。
 これだけ書けば、私達がどれだけ穢れて堕落したか分かるだろう。もう、私達は数え切れないほどお互いを汚し合ったのだ。
 私が堕落したのは、当然のことかもしれない。所詮は、私は落ちこぼれ騎士だったのだ。卑俗な田舎騎士、「戦争の犬」になり損ねた騎士もどきに過ぎなかったのだ。神に使える聖騎士などになった事が間違いだったのだ。
 だが、彼女が堕落したのは間違いだ。彼女は、かつては清浄な光を放つ乙女だった。日の光を思わせる黄金色の髪、乳白色の清潔な肌、純白の輝く翼、空を切り取ったような青い鎧。かつての彼女は、神の戦士にふさわしい姿をしていた。 
 今の彼女は、もはや清浄な光を放たない。青みかかった銀髪、青い肌、漆黒の翼、闇そのものの様な黒い鎧。今の彼女は、堕天使か悪魔の様な姿だ。
 それでも彼女は素晴らしい。今の私には、堕落した彼女のほうが魅力的だ。彼女の淫らな笑みを見ると、彼女の方へと無意識に引き寄せられる。
 私達は堕ちよう。どこまでも堕ちよう。それが、私達にとっては幸福な事なのだ。
 主神よ、あなたは残酷な方だ。あなたは、諦念を知る私に夢を見させた。遅まきながら私を引き上げた。そして試練を与えた。後は、高みから冷ややかに見下ろすだけだ。あなたは、御自分の残酷さを自覚しているのだろうか?
 堕落神は優しい方だ。私を苦しみから解き放とうとしてくださる。私達を受け入れてくださる。
 主神よ、私は永久にあなたを拒否する。私は堕落神のものだ。私達は、堕落神の御許へ行く。主神よ、あなたは私にとって永遠の他者だ。


第二の手記
 私は、試練に耐えられるのだろうか?なぜ、このような試練が必要なのだろうか?
 私は聖騎士だ。神のために戦う者だ。その為に、戦乙女の指導の下で訓練を重ねている。その戦乙女が私を苦しめるとは。今さらこのような苦しみを味わうとは。
 私は、二年前に戦乙女と出会った。その当時、私は田舎領主同士の領地争いに加わっていた。戦場で、敵に備えている時に戦乙女と出会った。
 彼女は、天から舞い降りてきた。白い翼を広げて、青い鎧をまとった戦乙女が舞い降りてきた。彼女はランドグリーズと名乗ると、私を神の為に戦う戦士として育てると言い出した。
 私は呆然として、彼女を見つめるばかりだった。その時の私の姿は、神の戦士にはふさわしくないものだろう。何日も体を洗っておらず、垢まみれの体をしていた。服は、泥と垢で汚れていた。肝心の鎧も、傷だらけの上に泥に塗れていた。汚らしく、見苦しい姿だ。
 私は何かの間違いではないかと思い、彼女に確認をした。ランドグリーズと名乗った戦乙女は、私で間違いないと繰り返した。私は、馬鹿みたいに呆然とするばかりだった。
 私の元に戦乙女が現れた事は、すぐに広まった。主神教団に呼び出され、戦乙女と共に司教と面談した。その結果、私と戦乙女は王都にある主神教団の施設で暮らすことになった。そこで、私は戦乙女の訓練を受けるのだ。
 私の身分も変わった。主神教団の聖騎士となった。もはや田舎領主に仕える下級の騎士ではない。戦乙女に指導される聖騎士だ。異例の出世だ。
 私は、戦乙女になぜ自分を選んだのかを尋ねた。その答えは、私が戦場経験が長いためだそうだ。
 私としては苦笑するしかない。不愉快ながら、私は戦場経験はそれなりにある。くだらない人生を歩まなければならなかった結果だ。

 私は、王都から離れた田舎で暮す騎士の長男として生まれた。その時点で、私の人生は閉ざされていた。華やかさの欠片も無い田舎で騎士などしていて、どうなると言うのだろうか?
 加えて騎士は時代遅れになりつつあった。長年の魔物との戦いで、諸侯と騎士は没落してきた。王の権力が強化されつつある事も、我々騎士の没落を促した。騎士は、王や諸侯と契約によって結ばれている。王は騎士と契約を結ぶことをやめ、自分の兵を整えつつある。騎士などもはや必要ないわけだ。
 要領のいい者なら、生き残る術はある。王や諸侯の兵となればよい。私の弟は、生まれ育った地方を支配する領主の側仕えとなっている。残念ながら、私は弟のように要領は良くない。人一倍不器用な人間だ。王も領主も、私を必要としない。
 その結果、家督は弟に奪われた。父としては将来のある弟に家を継がせ、将来のない私は排除したいと考えるのは当然だろう。領主も、弟の家督争奪を助けた。私の立場はなくなった。
 私は、領主の使い捨ての道具にされる事となった。当時も今も、領主の間では領地争いが起こっている。没落しつつある諸侯達は、生き残りを賭けて領地争いをしている。我らが田舎領主様も、それにならっている訳だ。おまけに領主様は、王や他の領主に私を貸した。私は、愛する田舎領主様の命令でいくつもの戦場を渡り歩く事となった。
 私は、戦場の現実を体に叩き込まれた。例えば、私が戦場で長年戦い続けてきた敵は、蚤と虱だ。戦場では、ろくに体を洗えず服も洗えない。当然、蚤と虱が繁殖する。あまりに体がかゆいので、早春や晩秋の凍りつくような水で体を洗った事がある。蚤が付き過ぎた服は、洗っても蚤が落ちない。服を燃やすしかない。こんな生活をしているうちに、私の全身はかきむしった痕が層を成す様になった。
 こんな事を書くと、読んでいる人は呆れるかもしれない。だが戦場では敵よりも先に、蚤と虱と戦わなくてはならない。それが現実だ。
 人間の敵と戦う前に、戦わなければいけない事は他にもある。飢えと寒さだ。戦場では、食料の欠乏は当然の事とされる。私は人間の敵と戦う前に、農家から豚を盗んできて食った。もし盗まなければ、私は飢え死にしていただろう。寒さもつらいものだ。マントを羽織っていても、足元から体が凍りつく。私は、飢えと寒さで衰弱して死んでいった者を数多く見てきた。彼らの体は、私の体と同様にかきむしった痕が全身にあった。
 こんな事を書き連ねていくと、早く人間同士の戦いの事を書けと言う者がいるだろう。そういう物が読みたい者は、他の書き手の書いた物を読めばよい。
 代わりに、ある小屋の事を書くとする。その小屋は、負傷兵を手術する小屋だ。その小屋からは、四六時中泣き喚く声がする。ある時、その小屋に入ったことがあった。床は、血と小便の海だ。
 私自身、手術を受けたことがある。左肩に矢が刺さり、抜いたときに体の中に鏃が残ったのだ。それを手術で抜いてもらった。私は、この時に何度も気絶した。気絶した正確な数は覚えていない。
 私は、まだましだろう。手術の際に、騎士である為いくらかの葡萄酒を飲ませてもらったのだから。一般の兵は、物資が不足しているという事で酒を飲ませてもらえずに手術を受ける事が多い。彼らの手術の際の絶叫は、今でも耳に残っている。
 戦場の現実と言えば、騎士が時代遅れという現実も目の当たりにした。戦場の主役は、傭兵となっていた。奴らに騎士道は通じない。奴らは何でもやる。虐殺、陵辱、略奪、放火、何でもありだ。私は、奴らの暴虐を見て見ぬふりをするしかなかった。奴らを止めようとしたら、私は殺されていただろう。
 もっとも、私は奴らを責める事は出来ないかもしれない。私は、兵士相手の娼館に娼婦を抱きに行った事がある。そこで出てきたのは、以前傭兵達に輪姦されていた村娘だ。おおかた犯された後、売春宿の主に売り飛ばされたのだろう。私は、その少女を貪る様に犯した。戦場では、女を抱くか酒を飲むかくらいしか楽しみはない。女を抱けなければ、私は狂っていただろう。
 こんな生活を、私は十年続けた。十年も生きていられたのは、運が良かったからだ。私より優秀な者が、次々と死んでいった。
 ただ付け加えると、騎士道をさっさと捨てた事が私が生き延びれた理由の一つかもしれない。私は、落ちこぼれ騎士だ。騎士道にそれほど執着はない。そのため、戦場の掟を受け入れる事ができた。だから、生き延びる事ができたのかもしれない。
 私は、戦場慣れしていた。戦場が人生の学校だった。そんな私を、ある時傭兵が仲間にならないかと誘ってきた。
「騎士様は、戦争の事を良く分かってらっしゃる。良かったら、俺達の仲間になりませんか?くだらない領主に仕えるよりも、楽しく生きられますぜ」
 私は、彼らの誘いに乗ろうとしていた。私のような落ちこぼれは、「戦争の犬」になるしかないのではないか?そのほうが楽になれるのではないか?私は、自分の人生をあきらめようとしていた。
 そんな時に彼女が、戦乙女ランドグリーズが私の前に舞い降りた。彼女は、私の人生を変えた。

 私は、主神教団の聖騎士となった。ただの聖騎士ではない。戦乙女に指導される聖騎士だ。私は、もはや田舎領主の使い捨ての騎士ではない。勇者候補とも肩を並べる立場だ。
 生活は変わった。王都に在る立派な宿舎に住み、絹服をまとい、美食を楽しむ事ができるようになった。一流の職人の作った美々しい鎧をまとい、特注の剣を腰にさす。その様な贅沢も出来た。
 人々の私に対する態度も変わった。王や大臣、将軍、大司教と謁見できるようになった。人々は私に丁寧に挨拶し、道を譲った。田舎領主の取り巻きに馬鹿にされ、無視されていたころとは大違いだ。
 私の出世を知って、媚びて来た者達もいる。私の家族がその典型だ。父も母も弟も、私を戦場に叩き込んだ後は無視してきた。それが、いきなり私の出世を喜ぶ手紙を送ってきた。私はその手紙を破り捨て、返事は出さなかった。私が使えていた田舎領主は、恩着せがましい態度の文面で私の出世を評価する手紙を送り付けてきた。こちらも破り捨てて、返事は出さなかった。無視しても、田舎領主ごときでは今の私には手を出せない。私の家族が制裁を受けるかもしれないが、奴らがどうなろうと知った事ではない。
 もちろん、出世した自分の身を楽しんでいただけではない。私は、戦乙女の指導の下で訓練を受けていた。戦乙女には、感嘆することばかりだ。ずば抜けた剣術、弓術、馬術を持ってる。兵法に関しても、目を見張る者がある。私は、毎日圧倒されながら戦乙女の指導を受けていた。学ぶ事の多い有意義な毎日だ。
 ただ、気になる事もある。武術も兵法も、どこか生硬な所があるのだ。優れている事は確かだが、実戦ではズレが生じそうな所がある。私は思い切って、戦乙女に実戦経験はあるのかを尋ねた。答えは、ないとの事だ。彼女は天界で訓練を受けてきただけで、下界に降りることは初めてだそうだ。
 私は、彼女が自分の教師になった事を訝った。新人の教師を、経験のある生徒に付ける事は下策だ。生徒は教師を馬鹿にしてまともに相手をしなくなり、教育は成り立たなくなる。なぜ天界は、このような失策を犯すのだろうか?
 いや、所詮は私は人間だ。天界の戦士とは格が違う。新人の戦乙女でも問題ないかもしれない。現に彼女は優れた力量を持っており、私を圧倒している。私ごときに舐められる戦乙女ではないという事だろう。それに、経験のある者の側にいさせる事で、新人の戦乙女を学ばせようという事かもしれない。
 これらの事は、単なる私の推測だ。確認は取っていない。結局の所、天界が何を考えているのか分からない。ただ、私は彼女を軽んじる気はない。私は、彼女から学べるだけ学びたい。この輝ける戦乙女から学べる事は、大きな喜びだ。
 私は、喜びの只中にいた。幼いころの夢が、今になって叶い掛けているのだ。私は幼いころ、勇者や聖騎士になる事を夢見ていた。英雄として戦い、後世に伝説を残すことを夢見た。いかにも幼い子供の見る夢だ。その夢は、幼い内に打ち砕かれた。私を取り巻く環境と、私の能力が夢を見る事を許さなかった。そして、いつしか幼いころの夢は忘却の彼方へと流されて行きつつあった。
 もう若くもなく、人生に希望を見出すのを断念しようとしている矢先に、幼いころの夢をかなえる存在が現れた。私の喜びは尋常なものではない。自分の人生を断念しようとした時に叶う夢、この夢がもたらす喜びをこの手記を読んでいる人々は理解できるだろうか?
 思えば、悪魔はこの時を狙っていたのだ。底に沈もうとしている時に、突然引き上げる。引き上げられた者が絶頂感を味わっている時に、どん底へ叩き落す。悪魔は、それを狙っていたのだ。悪魔は、あるいは神は私を嬲る段取りを組んでいたのだ。
 私と戦乙女との生活に、陥穽が仕掛けられていた。私はその日、いつものように戦乙女の稽古を受けていた。私と彼女は、模擬剣を打ち合わせていた。剣を合わせ彼女の脇をすり抜けた時に、ふと彼女の汗の臭いを嗅いだ。私の下半身に力が入っていく。性の欲望が湧き上がる。
 私は、彼女を性の対象として見た事はそれまでにはない。彼女は人間味がない。冷たく整った顔、彫像の様に均整のとれた体、何よりも人間離れした雰囲気。そういう女性に、性的な欲望は感じなかった。
 それなのに彼女の汗の臭いを嗅いだ時、私は彼女へ肉欲を感じた。それ以来、彼女を見るたびに欲望を掻き立てられた。彼女とは、週一度の休みを除けば毎日訓練に励んでいる。休みの日でも、彼女とは会う。彼女と会わない日はない。そのたびに、肉欲を掻き立てられるのだ。
 彼女の濡れた唇、彼女の存在感のある胸、彼女のむき出しの肩、腋、そして太もも。それらが、彼女の匂いと共に私に迫ってくる。私の男根は、いつも勃ちそうになる。
 私の欲望を彼女に、他人に知られるわけにはいかない。私は夜に密かに宿舎を抜け出し、娼婦を買いに行った。今の私はかなりの金を自由にでき、女を買う金は十分にあった。戦乙女への欲望を紛らわす為に、娼婦達を貪った。だが、それでも収まらなかった。そのうち娼婦を買うのを止めた。娼婦に欲望を感じなくなったからだ。彼女を、戦乙女ランドグリーズ以外に欲望を感じられなくなったのだ。私は、彼女の痴態を妄想しながら自慰に励んだ。私は、妄想の中で繰り返し繰り返し彼女を犯した。
 なぜ、このような欲望に駆られるのか、私には分からない。私は、性欲を覚えたての少年ではない。性欲の激しい青年期も過ぎた。もう、それなりに欲望を制する事のできる年台だ。まるで、魔術をかけられた様だ。
 私が欲望のままに行動したらどうなるのだろうか?決まっている、私は破滅する。私は、戦乙女に選ばれた聖騎士だ。その私が戦乙女に手を出したら、破滅以外の道はない。天界を、教団を、国を敵に回す。堕落した聖騎士、神の戦士でありながら神を裏切った者として、後世においても非難され、嘲り笑われる。
 その破滅への道を、私は踏み出してしまった。私は、その日に彼女と隣り合って座っていた。訓練がひと段落して、休憩を取っていた。離れて座ればよいのに、彼女は私のすぐ隣に座った。横目で見ると、彼女の胸は息を吸うたびに動いている。彼女の頬、口元、首、肩は汗で濡れている。少しだけ見えた腋も、汗で濡れている。彼女の匂いが漂ってくる。
 気がつくと、私は彼女の手をつかみ引き寄せていた。驚きの表情を浮かべる彼女を、私は抱きしめた。彼女の体の感触を、匂いを味わう。
 私は、自分のした事に驚愕しながら彼女の体を感じた。同時に、彼女に突き放され、手ひどく拒絶される事を期待した。それが正しい反応なのだ。私は、正気に返る事が出来る。
 彼女は、私を突き放さなかった。黙って私に抱かれている。ただ、じっと私を見つめている。
 どちらから離れたかは分からない。彼女は、離れてからも私を見つめ続けている。私は、彼女と目を合わせることができない。
 なぜ、彼女は私を突き放さない?なぜ、黙って抱かれていたのだ?じっと私を見つめているのはなぜだ?
 もはや、私と彼女は欲望への道を歩き始めている。私にこらえる事は出来そうにない。私は弱い人間だ。繰り返し繰り返し、人生の上で思い知らされてきた。聖騎士に引き上げられても、私の本質は変わらない。
 あれ以来、彼女と私の距離は近づいている。彼女は、微笑すら浮かべて私の側にいる。まだ、私と彼女は過ちを犯していない。だが、私と彼女が交わるのは時間の問題かもしれない。
 主神よ、これがあなたの与える試練なのですか?戦乙女を遣わせて、神の戦士として私を育てながら誘惑するのですか?戦乙女の誘惑に耐えることが、神の戦士になる条件なのですか?
 主神よ、あなたは残酷な方だ。一度与えたものを、取り上げて喜んでいる。私は、諦念を知っていた人間だ。幼いころの夢を記憶の彼方に押し流そうとし、自分の人生も諦めようとしていた。このまま下級騎士として戦場で死ぬか、「戦争の犬」と成り果てるか、そういう諦めができていた。それなのにわざわざ戦乙女を遣わせて、私を引き上げる。私に、子供のころの夢である神の戦士へと導く。英雄の夢を見させる。そして喜びの頂点にいる私を、どん底へ叩き落そうとしている。私を嬲りながら、「試練」と言う言葉で自己正当化するのですか?
 主神よ、私を滅ぼしてください。今すぐ、雷で私を打ってください。せめて私に夢を見させたまま滅ぼしてください。


第三の手記
 主神よ、感謝します。あなたは私の夢をかなえて下さろうとしている。私を聖騎士へと、神の戦士へと、英雄へと引き上げて下さろうとしている。
 私は明日、教団の聖騎士となります。全てあなたのおかげです。
 あなたは、戦乙女を私に遣わしてくださった。彼女に私の指導を命じてくださった。あなたの遣わした戦乙女ランドグリーズは素晴らしい。神々しく輝く、まさに神の戦士だ。
 私は、人生に希望を持つことが出来ました。諦念に蝕まれた私に、あなたは輝ける道を示してくださいました。
 私は自分の全てをかけて戦います。あなたの遣わしてくださった戦乙女の指導を私は受け、神の戦士としての戦いに私の全てをささげます。
 主神よ、あなたの栄光が世界を照らさんことを。
14/06/13 21:39更新 / 鬼畜軍曹

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