落日が照らす中、男は歩いていた。街が朱色に輝く中、男は影のように見える。
　男は、なぜ自分は歩いているのか分からない。何処から来たのか、何処へ行こうとしているのか分からない。ただ、疲労に蝕まれた体を引きずるようにして歩いていた。
　男は、ぼんやりと街を見渡す。街は花崗岩で出来ており、白い建物は朱色に染まっている。このような街があるのかゆっくりと記憶を探ったが、男には分からない。そもそもどうやってこの街に来たのかすら分からない。
　ふと、自分が誰なのか分からないことに、男は気がついた。だが、あわてる気持ちは無い。頭に重いベールが掛かっている様だ。ただ、疲労だけがある。
　男は、自分が何処へ行こうとしているかも分からずに、足を動かし続けていた。

　男は、館の前に立っていた。なぜ、こんな所へたどり着いたのか、なぜ、ここへ立ち止まり続けているのか分からない。ただ、男はぼんやりと立っていた。
　すでに日は沈み、残照が辺りを薄っすらと浮かび上がらせている。朱色に染まっていた街は、藍色に飲み込まれようとしていた。
　男の前にある館は広壮だ。街の他の建物同様に、白い花崗岩で出来ている。外からでも、石造りの柱がいくつも並んでいるのが分かる。豪壮であると同時に、優雅さのある造りだ。
　男は、なぜここに立っているのか考える。男はかすかに首を振ると、その場から立ち去ろうとした。
　その時、館の中から一人の女が出て来た。男の前に歩いて来て、嫣然と微笑みかける。女は、古代のギリシア人やローマ人が着る様なデザインのチュニックを身に着けている。肌が透け、体の曲線を浮かび上がらせる黒いチュニックだ。紫の宝石のついた飾り紐をひざの上で締めている。女は若い娘であり、釣りあがった目の似合う整った細面をしている。顔の回りを豊かな赤い髪の毛が覆っていた。
「お待ちしておりました。ようこそ『夢の館』へ。お疲れでしょう。どうぞお入りください」
　若い娘とは思えない妖艶な笑みを浮かべる女に、男は困惑しながら答える。
「申し訳ないが、人違いではないのか？俺は、この建物には始めて来たんだ。『夢の館』と言ったかな？それも初めて聞く」
　男の戸惑った答えに、女は安心させるような笑みを浮かべた。
「ご心配は要りません。あなたの事は存じております。ここへはあなたのような方が来られます。始めてこの館の事をお聞きになったのも、当然の事でしょう。さあ。まずは中へお入り下さい」
　男は少しの間ためらったが、女の言うとおり館の中へ入る事にした。女の声は、男を落ち着かせるものがある。どうせ何処へ行く当ても無い。相手は自分の事を知っていると言うし、待っていたとまで言っている。だったら世話になればいいだろう。悪質な店だとしても、自分から取れる物など無いだろう。
「それではお世話になる」
　男の答えに女は微笑みを浮かべた。女が近づくと、香水のような甘い香りが男の鼻をくすぐる。女は男の手をとると、ゆっくりと館の中へと導いていった。

　男は、柱廊の中を女に導かれて歩いていた。館の中は大理石で出来ており、所々がモザイクになっている。高い天井により広々とした空間を、二人は規則正しく歩いて行く。
　男が歩きながら辺りを見渡すと、様々な彫像が目に入った。いずれもギリシア神話をモチーフとしたものだ。半人半馬のケンタウロス、鳥の羽と手足を持つ娘ハーピー、蛇の髪を持つ女人メデューサ。いずれも白く輝く大理石で出来ている。
　ずいぶん豪勢な造りの館だと、男は感心する。ふと、自分の姿を見下ろすと、着古した安物の紺のスーツを着ている。場違いだなと、男は苦笑した。取り合えず、上着のポケットのフラップを両方ともポケットの中に仕舞った。何も盗んでないし、盗むつもりも無いことを示すためだ。
　館の中には何人もの女達がいる。皆、導いてくれる女と同じようなチュニックを身に着けている。黒、紫、赤、黄の肌の透けるチュニックを翻して歩いている。女達は、男を見ると会釈をしたり意味ありげに微笑みかけた。
　男は、眉をしかめた。目がおかしくなったかと思ったからだ。女達の体の一部が人間とは違っている。下半身が馬の女、蛇の女がいた。手が鳥の羽のような女がいた。あたかも彫像が動き出したかのようだ。
　男は、自分を導いてくれている女を見た。いつのまにか下半身が蛇体へと変わっている。髪と同じく赤い色をした蛇体を、くねらせながら男を導いている。女は振り向いて、男に微笑んだ。
　本来ならば、男は驚愕するべきだろう。なぜか男に驚きは湧き上がらなかった。街を歩いていた時と同様に、頭の中をベールが覆っている様だ。強い感情が湧き上がらない。
　男は、一室に案内された。大理石とモザイクで作られた部屋だ。大理石の椅子があり、女に座るように勧められる。男は椅子に腰掛け、スーツの前のボタンをはずす。男が座るのを確認すると、女は装飾の施された金の酒壷から金の杯に赤い酒を注ぐ。女は、杯を男に手渡した。男は、ぼんやりと杯を見つめる。ケンタウロスが浮き彫りにされた杯だ。ゆっくりとすすると、よく冷えた葡萄酒が喉を通っていった。
　葡萄酒を飲み終わると、蛇の下半身を持った女は男に擦り寄ってきた。
「気を張らなくてよろしいのですよ。ここは、あなたが以前いた所とは違うのですから」
　女は、襟元まできちんと締められた男のネクタイを緩める。男のスーツは着古した物だが、プレスされている。スラックスには几帳面に折り目がついている。靴も履き古した物だが、磨いてある黒のストレートチップだ。
　女は、男の体を愛撫する。女の手が男の体を擦るごとに、男は疲れが和らぐ気がした。男は、愛撫されながら女を見て思う。蛇の下半身を持つ女か、ラミアとか言ったな。神話で伝えられるラミアと違い、目の前の女からは陰惨さは感じない。男の中に浸食する様な艶を感じる。
　飲んだ酒がまわって来たのか、男の頭はベールがさらに重ねられていく様な感じがした。

　男は、ラミアに部屋から連れ出されていた。風呂へ入るのだそうだ。確かにここへ来る途中に汗をかいたらしく、体には不快感を感じる。風呂に入って着替えたかった。
　案内された風呂は、広さのある物だ。十人は楽に入れるだろう。大理石張りで、円柱や彫像が立ち並んでいる。彫像の一つを見ると、裸のメデューサが男に絡み付いている官能的なものだ。裸のセイレーンと裸の男が戯れている彫像もある。
　ラミアは微笑みながら、男の服に手を掛けて脱がし始める。スーツの上着を脱がすと、裏側に付いている物が目に留まった。バンドでホルダーが留めてあり、ナイフが収納されている。折り畳んで収納できるジャックナイフだ。
「このような物は、ここでは必要ありませんよ」
　ラミアはナイフを取り出すと、台の上の置く。続けて男の服を脱がしていき、畳んでかごの中へと入れていく。男は抵抗しようとせず、服を脱がされるままになっていた。
　男の服を脱がすと、ラミアは自分の服も脱ぎだした。チュニックの上からも分かったが、女は官能的な肢体を持っている。引き締まった体に、豊かな胸を持っている。光を反射する白い肌が、体に艶を与えていた。下半身のぬめり光る蛇の体も、女の官能性を増している。ラミアは、恥ずかしがる様子も無く胸の赤い突起と鈍く光るヴァギナをさらした。
　ラミアは、男を大理石の椅子に座らせる。男の体にゆっくりと湯を掛けた。湯が体を滑り落ちるたびに、汗による不快感が消えていき体に圧し掛かる疲れが和らぐ気がする。男は、軽くうめき声を上げた。
　湯を掛け終わると、ラミアは瑠璃色の容器を取り出た。中の紫色の溶液を手にたらす。溶液を乗せた手を、男の頭に這わせる。男の髪が泡立ち始める。泡からは、ラベンダーの香りが漂ってきた。髪を泡立たせながら擦る手は、男の頭にマッサージを受けるような快楽を与えた。
　頭を洗い流すとラミアはいったん手を止め、自分の体に湯を掛け、溶液をたらす。胸を中心に体に溶液を塗り広げると、男の背に体をこすり付けた。柔らかく弾力のある体が、男の背を這い回る。ラミアは腕を男の体の前に回し、男の胸や腹を擦る。ラミアの豊かな胸は、形を変えながら男の背を愛撫した。
　ラミアは体の隅々まで、丁寧に手を這わせる。首筋を、肩を、腕を、腋をゆっくりと泡立てていく。首筋や肩は、揉み解すように洗った。凝り固まった肩が、少しずつほぐれていく様な気がする。溶液を塗りつけた尾で、肩と同様に硬くなっている足をこする。男はうめき声を抑えられなかった。
　ラミアは男の前に回ると、今度は胸や腹に体をこすり付けてきた。乳房が男の胸を撫で擦り、腹を愛撫する。半立ちだった男のペニスは、ラミアの腹を突きながら屹立した。ラミアはいたずらっぽい表情を浮かべながら、腹でペニスをくすぐる。硬い肉の棒は、柔らかい肉の平原に翻弄された。尻をくすぐる尾も、肉の棒に力を与えた。
　ラミアは体を離すと、笑いながらペニスを手でくすぐる。そのままペニスを洗うかと思うと、体を意地悪く離した。男の右足に抱きつき、太股を胸の谷間に挟んでマッサージを始めた。音を響かせながら、太股と胸が泡立つ。ラミアは男の足を持ち上げ、ふくらはぎを胸で揉んでいく。さらには足の裏を胸で揉み始めた。革靴と靴下で圧迫された足が、柔らかい刺激で癒されていく。胸をこすりつけながら、足のつぼを手や乳首で押していく。足の先の快感は、頭の頂点まで達した。
　左足も同じように揉み洗いすると、やっとラミアは股間に手を添えた。男の疲れと汚れが溜まった所を、丁寧に手を這わせる。天を突くペニスに奉仕するように、擦りながら洗う。泡立つ手が亀頭やくびれ、さお、陰嚢、会陰、肛門を愛撫しながら汚れを落としていく。男は疲れが取れていく感覚と共に、解される様な快感を堪能していた。
　女は股間から手を離すと、胸に溶液をたらす。手を自分の胸に添えると、ペニスを胸の谷間に挟み込んだ。始めはゆっくりと、次第に速くペニスを胸で扱く。胸が溶液で泡立ち、滑りが良くなる。白い胸の谷間を、赤黒い亀頭が顔を出したり引っ込めたりする。柔らかい乳脂肪の快感と共に、目の前の光景は男に興奮を与えた。
　男は限界を超え、ペニスを弾けさせた。白濁した液が、女の顔や胸に飛び散る。ペニスの先端から、間欠泉のように精液が吹き上がり続ける。次第に精液は出る量を減らし、ペニスの痙攣と共に収まっていった。
　ラミアは、痙攣が治まっても胸でペニスのマッサージを続けた。ラミアは上目遣いに微笑みながら、口の回りに付いた精を舐め取った。

　男は、ラベンダーの花の浮いた風呂の中に入っている。風呂には段差があり、ラミアは一段高いところに座り、男を後ろから支えている。ラミアは男の頭を胸で支えながら、肩を撫で回している。ラミアの蛇体は、男の腰や足に絡みつきながら愛撫していた。
　男はラミアの胸で支えられながら、うつらうつらとしている。ラミアは笑みを浮かべながら男の寝顔を見ていたが、軽く肩を叩いた。
「そろそろ上がりましょう。のぼせてしまいますよ」
　男は目を開け、ラミアに手を引かれ支えられながら風呂から上がった。風呂から上がると、ラミアは男の体をタオルで拭き始める。自分の体も拭き終わると、ラミアは男を寝台のような所へ案内した。ラミアはそこへ男をうつぶせに寝かせ、縞瑪瑙の容器に入っているオイルを手にたらす。オイルを手で男の肩から背へ、背から腰へと塗り付けていく。
　オイルを塗ると、ラミアは男の体をマッサージし始めた。首筋と肩を揉み、愛撫する。風呂の中でいくらか解されたとは言え、肩は硬くなっており男に苦痛を与えていた。ラミアは肩を強く、だが痛みを与えないように慎重に揉んでいく。男は心地良さそうに、ため息をついたりうめいたりしている。
　首筋と肩のマッサージが終わると、ラミアは背中を揉み解し始める。鉄板のように張った背中を、ラミアは強く丁寧に揉んでいく。男は、快感の只中にいた。男に強く圧し掛かっていた疲労は消えていき、疲労が強かった分だけ癒される様な気持ちの良さが体を覆っていく。男は何も言うことは出来ず、声を抑える事も出来ずあえぎ続けている。
　腰を揉み始めると、男のペニスは再び力を取り戻してきた。腰の奥から陰嚢に、さおにと力があふれてくる。ペニスは硬くなってくる。
　ラミアはそのまま手を下半身へと移して行き、太股をマッサージしていく。もはやペニスの怒張は抑えられなくなった。ラミアは焦らす様に、手を足の先へと移していく。オイルを塗りながらふくらはぎを揉み、足の先を揉み解していく。男は、このまま足の快感を味わい続けたいという気持ちと、股間に快感を味わいたいという気持ちと戦っていた。頭の中まで、快感と快感の戦いが侵食していった。
　ラミアは男の尻に顔を寄せると、尻の穴に舌を這わせ始めた。唾液を舌に溜め、尻の穴に塗りつける。二股の舌を皺の一本一本に這わせていき、丹念に唾液を塗りこめる。尻の穴の表面を解すと、尻の穴の中に舌を挿入し始めた。ゆっくりと中へと舌を滑り込ませ、穴の中を丁寧に舐め回す。人間ではありえない長い舌は、穴の中も徐々に解していく。舌は次第に奥へと進んで行く。奥を舐め回しながら、唾液を塗りつけた。
　男はあえぎ声を抑えられない。マッサージとは違う快感が男を襲っていた。男は、思わず尻に力を入れる。ラミアはなだめるように、ゆっくりと舌を動かし続けた。
　ラミアは、尻の穴から舌を抜いた。オイルを右手の人差し指に塗りつけると、舌で解された尻の中へとゆっくりと埋め込んで行った。男は、腰を上げようとする。ラミアは男の尻を押さえつけ、落ち着かせるように撫で回す。
「大丈夫ですよ。お尻の穴を解すだけです。体を動かさないでくださいね」
　男が落ち着くのを待ち、指による尻の穴のマッサージを再開した。
　尻の穴へのマッサージが終わるころには、男は体を震わせ続けていた。ラミアは優しく尻を愛撫し、揉み込んだ。
　ラミアは、男の体に手をかけてゆっくりと体をひっくり返す。仰向けになった男は、ペニスを天へ向かって突き出している。手にオイルをたらすと、足の付け根に塗りこんだ。
「足の付け根には、つぼがいっぱいあるのですよ。おちんちんが元気になりますからね」
　ラミアは始めは弱く、次第に力を入れながら足の付け根をマッサージしていく。ラミアが言うとおり、指で揉まれるたびにペニスに力が湧いていく。快感と共に、力が湧き上がって来た。ペニスは左右に揺れながら怒張し、わなないている。先端の溝からは、透明な液が溢れ出していた。
　ラミアはマッサージを止めると、男の上にまたがった。ラミアの蛇体の部分が男の体の下に滑り込み、男の体に巻きついていく。蛇体は、優しく男の体を締め付ける。ラミアのヴァギナは、男のペニスと同様にすでに濡れている。男の赤黒いペニスは、ラミアの赤く濡れたヴァギナに飲み込まれていった。
　男のペニスは、肉の渦に引き込まれていく。肉の渦は粘液をたたえ、男のペニスを濡らし、ふやけさせようとする。強く絞るかと思うと、優しく愛撫する。ヴァギナでペニスをマッサージするかのようだ。　男は一度出したにも関わらず、長くは耐えられなかった。ラミアに、出していいかとうめきながら尋ねる。ラミアは男の顔を覗き込み、笑みを浮かべながら中で出して下さいとささやきかけた。
　男は、ラミアの中で精液を放出した。二度目なのにも関わらず、激しい放出する。男は痙攣しながら、精を出している。ラミアも、震えながら精を受け止めていた。
　精を出し終えると、男は目をつぶって荒い息を吐いている。ラミアは、男同様荒い息を付きながら男を見下ろしていた。

　男は風呂から上がった後、ラミアから食事を振舞われていた。
　男が案内された部屋は、貴賓室の様な所だ。球状の造りの部屋であり、部屋そのものがゆっくりと回っている。部屋の中は金箔で張り巡らされ、所々に真珠を始めとする宝石が埋め込まれている。天井は象牙で出来た鏡版となっている。天井には仕掛けがあり、室内にいる人々に花を落としたり香水を吹きかける。室内には、何処から竪琴の奏でる曲が流れてくる。
　もし、男は頭がまともに働く状態だったら、あまりにもの贅沢な造りに部屋の中で立っている事はできなかっただろう。男は、ぼんやりとしながらこの部屋の豪奢を楽しんでいた。
　男は、テーブルの前にある寝椅子に横たわるよう勧められた。寝転んだまま食事を楽しむのだそうだ。男は素直に従い、絹で覆われた寝椅子に横たわる。手を檸檬水で洗い、手づかみで食事を始めた。ラミアにそうする様に勧められたからだ。
　前菜は、卵料理と魚貝類、サラダだ。卵料理は、鴨や孔雀の卵を使っている。牡蠣や海胆は生で食せる様になっており、蝸牛は煮込んである。サラダは香辛料で味付けしてある。料理を盛った皿は、いずれも銀製だ。
　前菜を食べ終わり少しすると、主となる食事が運ばれてきた。運ばれてきた料理は、豚肉料理と鵞鳥料理だ。豚肉料理は普通の部位はもちろん、雌の乳房や子宮が使われている。鵞鳥料理は、肥大した肝臓を使用した物が出て来た。いずれも入念に調理されている。これらの料理を、蜂蜜入りの葡萄酒を飲みながら楽しむのだ。男は、男性用の動きやすいチュニックを着て、寝椅子に横たわりながら手づかみで食事を続ける。天井からは、薔薇の花びらが舞い降りてくる。薔薇の花びらの乗った豚の乳房を、男は手に取り口へと運んだ。
　男は、なぜ自分がこのような贅沢が出来るのかわからない。自分の名も、過去も分からない身では分かりようがない。ただ、勧められるまま贅沢を楽しんでいる。異常な状況なのは分かるが、頭がまともに働かず抗しようという気力が湧かなかった。
　主となる食事が終わると、デザートとなった。蜂蜜につけたケーキと冷えた柘榴とナツメヤシが出て来た。男は手づかみで食しながら、ラミアを眺める。ラミアは、食事の間中給仕をしてくれた。肌の透けるチュニックをまとった体を摺り寄せ、男に奉仕を続ける。この魔物の娘は何者なのだろうか？なぜ、俺に奉仕する？男は思ったが、それ以上詮索することは止める。今の俺の状態で詮索するだけ無駄だ。男の頭は、酒と飽食のためますます頭が霞んで来る。
　ラミアは、微笑みながら男を見つめていた。

　食事の後、眠気をも押した男は寝所へ連れて来られた。寝所は大理石とモザイクと壁画で覆われ、寝台は絹張りであった。壁画は、様々な魔物娘と人間の男の交合が描かれている。ラミアが、男の体を蛇体を巻きつけながら交合する姿。男が、ケンタウロス娘を後ろから攻め立てる姿。ハーピーと男が、空を飛びながら交わる姿。このような事が描かれている。寝台の傍らには、ミノタウロスの彫像がある。そのミノタウロスは女で、裸の状態で男にまたがっている。
　男は、寝台に仰向けに寝かしつけられながら部屋の中を見渡した。官能に彩られた部屋だ。ラミアに愛撫されながら横たわっていると、何もかもがどうでも良くなる。ただ、肉欲はいまだ衰えなかった。
　ラミアは男の腹を圧迫しないようにしながら、男の下半身に覆いかぶさる。男のチュニックをはだけ、ペニスを露出させる。ペニスを愛撫しながら口に含む。
　男はくつろぎながら、ラミアの奉仕を受けている。男に圧し掛かっていた疲れは取れかけている。たぶん今の自分なら良く眠れるだろう。眠りに落ちれば余計なことは思い出さずに済む。男はそう思う。
　男の頭に、何時の事か誰の事か分からない事が浮かび上がる。緊張に苛まれながら仕事をする日々。不安定な毎日にさらされる日々。貧しさに苦しむ日々。自分の能力を上回る要求をされる日々。そして自分を否定され淘汰される結末。未来の無い現実。
　男の頭を苦痛が襲う。服の裏にホルダーを付け、ナイフを入れる。そして向かう先は…。その後どうなった？
「何も考えなくてもいいのですよ。ここには、あなたを責め苛む者はおりません」
　ラミアは安心させるように微笑むと、口と手の奉仕を続ける。快楽が絶え間なく男を襲う。
　そうだ、考えるな。あれは終わったことだ。もう関係ない。
　男は、浮かび上がるものを押しやる。押しやられたものは、何処かへと流され消えて行く。後には思念を鈍らせるベールと、体を癒す快楽が残る。
　男は、ラミアの口の中に精を放つ。体から余計な力が抜けていくような気がする。穏やかな疲れと眠気が襲う。
「さあ、ゆっくりとお休み下さい。疲れは過去のものです。安らかな眠りがあなたを待っています」
　男は目を閉じた。睡魔が体の奥から男を覆っていく。苦痛、不安、疲労は押し流されて行く。余計な考えは浮かばなくなる。
　男は沈んでいった。

　ラミアは、眠りに落ちた男を見下ろしている。いとおしげに微笑みながら見下ろしている。ラミアは、男の髪を愛撫した。
「眠りなさい。あなたを責め立てる者はいません。あなたは、魔王様に守られています。私もあなたを守ります」
　ラミアは愛撫を続ける。男の顔に自分の顔を寄せ、耳元でささやく。
「あなたは私のもの。私とずっと一緒よ」