読切小説
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淫魔に堕ちたシスター
 神父の目の前には、一冊の日記がある。この日記は、シスター失踪事件を解く重要な手がかりとなるはずだ。
 ここは田舎町にある、教会の一室だ。この教会を管轄していたシスターが、護衛の教会兵と共に失踪した。神父は、シスター失踪について調べるために派遣されて来た。神父は、教会の地下にある千年も前に使われていた地下聖堂を調べた時に、この日記を見つけた。教会兵がつけていた日記だ。
 たかが下っ端の教会兵がなぜ字の読み書きができるのかと神父はいぶかしんだが、教会兵についての記録を思い出して納得した。失踪した教会兵は孤児であり、ある神父によって育てられた。その神父が字の読み書きを教えたそうだ。
 神父は日記を手に取りながら、ため息を吐いた。正直なところ気が進まない仕事だ。シスターは、さる有力貴族の娘だ。このシスターの失踪は、政治的な醜聞になる可能性がある。しかも、異端審問までがこの事件には絡んでいた。シスター失踪の直前に、この町で異端審問が行われたらしい。面倒な要素が絡み合っていた。そうは言っても、仕事である以上やるしかない。
 神父は、首を横に振りながら日記を開いた。


2月1日
 新任地の教会についた。田舎の教会らしく、味も素っ気もねえ建物だ。まあ、この町の建物の中では上等の部類か。
 早速シスターとともに、荷物をおろして運び込む。このシスターは働き者らしい。結構な事だ。つまらねえ女であることには変わらないけどな。

2月2日
 シスターは、早速町の有力者にあいさつ回りを始めた。俺もお供をしている。田舎の権力者は、表面的には明るいがどこか陰気なところがある。気にくわねえ。
 シスターは、形式的な礼儀を守って受け答えをしている。ご苦労なこった。

2月3日
 寒くてやってらんねえ。おまけに雪だ。これだから北には来たくなかったんだ。教会の中を掃除していると、寒さがこたえる。
 シスターも俺と掃除をしている。弱音を吐かねえでまじめにやっている。お嬢さん育ちなのにがんばるもんだ。かわいげはまったくないがな。

2月4日
 教会に人が来始めた。陰気な連中だ。露骨にこちらを観察してやがる。
 シスターは、早速連中の話を聞き始めた。その後で説教している。聞いている連中の反応は鈍い。まあ、優等生の小娘の説教だから当たり前か。

2月5日
 このシスターはだめだ。まじめ以外に取得がねえ。
 石像みたいな女だ。温かみの欠片もねえ。誰に対しても、形通りの対応をそっけなくこなしている。俺の事も物としか見ていない。
 このシスターが力不足と言うのなら我慢する。所詮は若い娘だ。だが、冷血だと言うのなら話は別だ。
 俺を育てた神父様は、厳しかったが温かみがあった。この女のように、人を物として見る様なことはしなかった。いくらこの女がきれいでも、欠片ほども好感は持てねえ。


 神父はため息を吐いた。このシスターについての報告書どおりだ。対人関係に問題がある。
 もっとも、この日記をつけている教会兵の粗野なところも不快だが。
 神父は、日記を読み進めた。


3月11日
 シスターは相変わらずだ。形式的な説教をしている。当然町の人の反応は鈍い。
 このシスターは、町の人とうまく付き合えていない。シスターは、人から聞くべき事は聞くし、話すべきことは話す。だが、話し方や話の内容が形式的なんだ。おまけにそっけない。それじゃあ、町のやつらの反応も鈍くなるだろう。
 俺も人付き合いは苦手だが、このシスターは俺よりもひどい。俺がシスターの代わりに、町のやつらの相手をしなくてはならないほどだ。

3月12日
 この町にはおかしなところがある。ただ陰気と言うだけでなく、やたらと隠し事が多い。よそ者を露骨に警戒する。話をしていると、はぐらかされる事がよくある。町を歩いていると、監視されているような気がする。
 教会にある記録を読んでみたが、前任者の神父もその事を気にしていたらしい。町役場に行ってこの町の記録を読もうとしたが、関係者以外は読む事ができないと断られた。シスターに口を利いてもらって、やっと読む事ができた。
 まだ少ししか読んでいないが、怪しげな所がある。書かれている事に裏がありそうな所が多いのだ。この町は厄介なところだ。

3月13日
 シスターは、毎日仕事に励んでいる。今日も信者の応対をこなしながら、たまった雑用を片付けている。帝都の教会本部への連絡も、まめにやっているようだ。
 このシスターはまじめなだけではなく、それなりに誠実らしい。仕事をしている最中でも信徒がくれば、仕事を中断してきちんと応対する。一月以上見てわかってきた事だが、このシスターは必死に信徒の相手をしているようだ。良く見なければわからない事だが。
 まあ、そっけなく見えることは確かだ。

3月14日
 シスターは、帝都から来た神父の相手をしている。俺は、神父の応対のための雑用をやっていた。
 この話は最初からおかしかったんだ。シスターが、こんな田舎町に護衛一人で管轄を任されるなど普通ない。神父だったら分かるが。
 おまけにこのシスターは、よく見りゃ育ちが良さそうだ。それも、ちょっとしたお嬢さん育ちと言うわけではない。かなり良い家で育ったんじゃないのか?
 神父とは何を話しているんだろう?面倒な事にならなければ良いが。

3月15日
 俺は慎重に、注意深く行動しなけりゃならねえ。訳ありのシスターと、訳ありの町に来たんだ。下手をすればどうなるか分からない。
 町の記録を読み、前任の神父の記録と照らし合わせてみるにつけて怪しい所が出てくる。単なる不正程度じゃすまねえかも知れねえ。この町の連中は、影で人を殺していてもおかしくはない。町の連中は、俺達を監視している。話しかけても、露骨に隠し事をしながら答えている。
 シスターの態度もおかしい。俺が聞いても、自分のことを話そうとしない。町の連中以上に露骨に隠し事しているという態度だ。素直なので態度に出やすい。面倒な事になりやがった。


 神父は眉間にしわを寄せながら、日記を読んでいた。
 この日記を書いている教会兵の言うとおりだ。この町は、前から問題になっていた。閉鎖的な態度とそれに伴う秘密主義が目立っていた。町の住民やよそから来た者の失踪事件が何度もあった。教会関係者に手を出さないから大事にはならなかったが、教会はこの町を警戒していた。
 シスターもやはり訳ありだ。シスターは、この国の有力貴族の娘だ。父親は皇帝の側近だ。シスターは、お家騒動で修道院へ入れられた。このお家騒動には、教会もかかわっている。おまけにこのシスターは、政治を理解できない性質だ。教会は、政治的な立ち振る舞いを要求される所だ。それでこんな町に左遷された。今から考えれば、左遷したのは教会のミスだ。
 だから神父は、この仕事はやりたくなかった。今回の事は、面倒な事が絡み合っている。神父は、日記を書いている教会兵の気持ちはよく分かった。


4月7日
 教会にけが人が運ばれてきた。近くで馬車にはねられた者がいたんだ。幸い頭はそれほど打っていない。骨折もしていない。ただ、はねられたときに露店に突っ込んで、折れた露台の破片が腕に刺さった。破片を無理に抜いてしまったため、出血がひどい。
 シスターと俺は、応急処置をする事にした。消毒をして止血をし、薬を塗った。シスターは、必死に治療をしている。普段のそっけない態度がうそのようだ。
 医者の所にけが人が運ばれていった後も、シスターはけが人の事を気にしていた。このシスターは、冷血と言うわけではないらしい。

4月8日
 シスターは、朝の祈りで昨日のけが人の事を神に祈っていた。いつもの形式的な祈りではなく、必死に祈っていた。
 俺はどうやら間違っていたようだ。このシスターは冷血女ではない。ちゃんと温かみと良心があるらしい。俺は、このシスターを表面的に見ていただけのようだ。
 気のせいか、今日はシスターが慈悲深い女に見える。

4月9日
 シスターは教会の仕事をこなしながら、時間を作った。医者の所にけが人の様子を聞きに行くためだ。
 医者の話だとけが人に別状はなく、大して時間はかからずに直るそうだ。シスターは、安堵の息を吐いていた。
 このシスターは、不器用なんだろう。温かみがあるのに、それを出すことができない。冷たくそっけないように見える態度を取る。自分にとって不利になると分かりながら、どうにもできないのかもしれない。
 もっとうまく立ち回れば良いのに、呆れたシスターだ。

4月10日
 シスターは、いつもどおり仕事をしている。平常どおりの態度に戻った。形式的な、そっけない態度を取っている。
 俺は、そんな態度も気にならない。不器用なだけだと分かると、別に腹も立たない。
 前から知ってはいたが、シスターは美人だ。若くて顔立ちが良い。いくら美人でも冷たければうんざりするが、情があって美人なら心が躍る。

4月11日
 仕事の内容はいつもどおりだ。この町に来てから2月は過ぎている。仕事の内容は、大体決まりきったものになってきた。やりやすくて助かる。
 この町の怪しいところは相変わらずだ。記録を読んだり町の中を歩き回っているが、疑惑は深まるばかりだ。
 まあ、今はそれはいい。俺は毎日が楽しくなってきた。一緒い働いている奴が、魅力がある奴だと分かったからだ。シスターは魅力的だ。美人で情がある。そっけない態度も不器用なせいだとわかると、かわいげがある。シスターという書き方もそっけないな。シスター・エリザベートと書こう。
 俺は、気がつくとシスター・エリザベートを眼で追っている。まるで思春期のガキみたいだ。
 雪が解けて春になれば、この町もなかなか良いじゃねえか。幸先は良いかもしれない。


 神父は、冷笑しながら読んでいた。そろそろ話が怪しくなってきたな。シスターと教会兵の駆け落ちか。前にもこんな事があった。慎重に、確実に二人を捕らえねばならない。シスターは名家の出身だ。醜聞になる事は避けねばならない。


5月14日
 昨日の晩に町で火事が起こった。町の中程度の住民の住む住宅街で起こった。十数件焼け、二十人以上死んだ。まだ、死者は増えるだろう。
 医者では手が足りずに、俺とシスター・エリザベートも治療に狩り出された。二人とも、少しばかり医療の知識と技術があるからだ。ひどい有様だ。全身大やけどの人が十人以上いる。手の施しようがない。泣いている元気のある人はいいほうで、うめき声を上げることすらできない人がいる。
 俺もシスターも疲れきっている。日記を書くのもつらい。

5月15日
 昨日の晩に、やけどを負った人のうち五人が死んだ。ひどい死に方だ。まだ死人は出るだろう。亡くなった人を早く埋葬してやらなくてはならない。
 いやな噂が流れている。この火事は放火のせいだと言うのだ。町に済むはぐれ物がやった、異端者がやったと噂が流れている。
 火事が起こってすぐに噂が流れた。根拠なんてありはしない。それなのに町の有力者は、その噂を信じているらしい。
 シスターは死んだように寝ている。疲れきっているんだ。俺もそうだ。まともに物を考えることができない。

5月16日
 忙しい上にいまいましい日だ。いやな仕事ばかりだ。
 俺とシスターはけが人の治療と、死者の葬儀、埋葬で目の回る忙しさだ。泣いたりうめいていた人が次々と死んでいる。彼らに祈りを捧げ、埋葬しているのだ。子供が死んで半狂乱の母親を取り押さえなければならない。泣いて死体にすがりつく子を引き離さなければならない。
 やらなければいけないことはわかっている。だが、うんざりする仕事だ。
 俺は疲れている。何も考えたくない。

5月17日
 また二人も死んだ。もだえ苦しんで死んだ。火事が起こった時に焼け死んだほうが楽だっただろう。
 死んだほうがいい人は他にもいる。一人の若い娘が治療を受けている。顔の半分に大やけどを負っている。命は助かると言うが、それが何になると言うのだ?化け物じみた顔で生きていかなければならないのだ。シスター・エリザベートも何を言っていいかわからないらしい。無言で治療を行っている。
 神は何をやっているんだ?信徒が苦しんでいるんだぞ。

5月18日
 今、町の人間は犯人探しに大わらわだ。火事を放火だと決め付けている。ろくな証拠もないのにこのざまだ。
 町の連中はいけにえを欲しているんだ。悲惨な火事を誰かのせいにしたいんだ。そうすれば自分は楽になるんだろう。
 いけにえにされるのは弱い人たちだ。貧民屈の者、よそ者、この町の者でもつま弾きにされていた者。そういった人達が標的にされている。
 クソだ!この町も、この町の連中もクソだ!八つ当たりするしか能がない連中だ!
 シスター・エリザベートは、疲れた体に鞭打って必死に彼らをなだめている。だが、やつらは耳を貸そうともしない。


 神父は、緊張を隠せずにいた。いよいよ異端審問の記述が始まった。
 この町で起こった異端審問については、まだ教会もきちんと把握していなかった。この町を担当しているシスターが失踪したからだ。この町の人々は、異端審問について話そうとしない。町の外の人々は、噂程度でしか異端審問について知らなかった。
 神父は深呼吸すると、日記を読む事を再開した。


5月19日
 一人の女が魔女呼ばわりされている。その女が放火をしたと言うのだ。
 その女は、町外れに住んでいる若い女だ。以前から町の者から嫌がらせを受けていた女だ。くわしくは知らないが、親の代からいじめられていたらしい。町の連中は、自分達が虐げてきた女を放火犯に仕立て上げやがった。よりによって魔女呼ばわりして。
 今、その女は逃げ回っている。町の連中は狩りを楽しんでいる。つくづく町の連中はクソだと思い知らされる。

5月20日
 町の有力者が何人か教会に来た。やつらは、シスター・エリザベートに異端審問を行う事を要求してきた。
 この火事は、異端者の放火だから異端審問が必要だとの事だ。今、魔女が逃げ回っているから、探し出しているところだそうだ。
 シスター・エリザベートは断った。明確な証拠がない。異端審問を軽々しく行う事はできない。そうはっきりと言った。やっぱりシスター・エリザベートは真っ当な人だ。
 町の連中はシスターエリザベートを小娘となめてかかり、居丈高に異端審問を要求してきた。怒鳴りながら強要してきた。
 俺は剣に手をかけ、シスターエリザベートの前に立った。やつらも剣に手をかけた。シスター・エリザベートは止めようとしたが、俺は引かなかった。こういうクソどもには力で分からせるしかない。
 町長が、他の者に手を引くように言った。教会と揉めればまずいと考えたんだろう。異端審問しなければこの町でシスターは務まらないと、町長は捨て台詞を残して他の者を引き連れて去った。
 事は、これでは済まないだろう。厄介な事になった。

5月21日
 魔女呼ばわりされて追われている女が、教会に逃げてきた。女はシスター・エリザベートにすがり付いてきた。シスター・エリザベートは女をなだめて教会の中に入れた。
 女はみじめな有様だった。服と体は汚れ、脅えきっていた。食事を与えると、むさぼるように食べた。かわいそうに、ろくに飯を食わずに逃げ回っていたのだろう。シスター・エリザベートは女の体を洗ってやり、服を与えて寝台に寝かしつけた。
 俺とシスター・エリザベートは今後の事を相談した。女をかくまい、異端審問は拒否する事を決めた。二人だけでは混乱に対処できないから、近くにある市の教会に救援を求める事にした。市の教会には、この教会で下働きをしている男を行かせる事にした。前の神父のころから働いている男で、信用できる男だ。
 もう、俺達だけではどうにもならない所まで事態は進んでいる。

5月22日
 俺達は殺されるかもしれない。この町の連中は腐っている上に狂っている。
 町の連中は、教会に押しかけてきた。女を出せ、異端審問を行えとわめき散らしている。やつらは女がこの教会に逃げ込んだ事を知っていた。
 町のやつらは、シスター・エリザベートの話に耳を貸さなかった。ただ、一方的に要求してきた。その挙句、教会に殴りこんできた。
 俺とシスター・エリザベートは、女を連れて地下聖堂に隠れた。この教会の地下には、千年も前に作られた地下聖堂がある。その当時は主神教は迫害されていた。信徒は地下聖堂を作り、ひそかに信仰を守っていた。この教会はその地下聖堂の上に建てられたものだ。
 地下聖堂の入り口は分かりづらいところにある。中から鍵をかける事ができる。これで少しは持ちこたえる事ができる。この地下聖堂には、町の地下を通っている通路がある。それを使えば町外れに出られる。俺達はその通路を使って町の外に出た。
 俺達は、近くの市に行くことにした。そこの教会にかくまってもらうつもりだ。俺とシスター・エリザベートは、教会兵とシスターの制服を脱いで普通の服に着替えた。まだ、敵の近くにいるのだ。捕まえられる危険がある。見つかったら、女だけではなく俺やシスター・エリザベートも殺されるかもしれない。


 神父は首をかしげた。この日記を書いた教会兵は、記述によると地下聖堂から脱出して町の外へ出たそうだ。にもかかわらず、なぜこの日記は地下聖堂にあるのだ?
 神父は険しい顔で、日記を読み続けた。


5月23日
 俺達は木の陰で休んでいる。早く逃げたいが、女二人がいては休まなくてはいけない。
 魔女呼ばわりされた女は、苦しそうな表情で寝ている。ここ数日、ろくに休めなかったのだ。いつ倒れてもおかしくない状態だったんだ。
 俺は、女が寝ている間に馬鹿な事をした。シスター・エリザベートに告白したのだ。俺は、もういつ殺されてもおかしくはない。その前に、シスター・エリザベートに自分の気持ちを伝えたかったのだ。
 俺は、自分とシスター・エリザベートの立場をわきまえている。俺は教会兵だ。相手はシスターだ。結ばれてはならない間だ。それに俺は孤児なのに対して、相手はお嬢様だ。身分が違いすぎる。俺のやっている事は馬鹿な事以外のなんでもない。
 それでも、俺の気持ちを伝えたかった。死ぬか生きるかの状況にいるんだ。言いたい事は言いたい。シスター・エリザベートの反応が知りたい。
 結果は予想通りだ。シスター・エリザベートは困った顔をしていた。しばらく沈黙した後、あなたの気持ちは受け取れないとはっきりと言った。
 その後、俺達は沈黙し続けた。何も言えなかった。予想していたとはいえ、痛い言葉と反応だった。俺は内心笑った。俺という人間は、馬鹿な事だと分かりながら馬鹿な事をする人間なのだな、と。
 その時、女の笑い声が聞こえた。俺は弾かれたように顔を上げた。シスター・エリザベートが笑っているのか?シスター・エリザベートは、驚いたような顔をしていた。俺は、寝ているはずの女を見た。女はきちんと寝息を立てている。では、誰が笑ったのか?
 俺は立ち上がり、剣を抜いた。辺りを見回した。
 一人の女が微笑みながら立っていた。その女は人間じゃない。頭から角が生え、背には翼を持ち、尻には尾がついていた。神父様から聞いた魔物そのものの格好だ。女は笑いながら話し始めた。
「いつまで自分の気持ちを偽り続けるつもりなの?あなたは彼に気があるんでしょ。しかも性欲を満たしたいのよね。シスターだからって、欲望を抑えているだけなんでしょ」
 俺は、剣を手に魔物に迫った。魔物のたわごとに惑わされるわけにはいかない。その時、俺は後から抱きしめられた。柔らかい感触だった。女の感触だ。俺は、とたんに動けなくなった。剣を取り落とした。魔物は一人ではなかったのだ。
「おとなしくしてなさいな。あなたにとってもいい事なのだから」
 魔物は俺の耳元でささやいた。俺達と逃げてきた女は、目を覚まして震えていた。逃げる事もできないらしい。
「彼は、ここまで追い込まれてあなたに告白した。それなのにあなたは、この期に及んで自分を隠そうとしている。もう、シスターとか教会兵とか関係あるのかしら?困った子ね」
 魔性の者は微笑んだ。魔にふさわしい微笑だった。
「仕方のない子ね。私が手伝ってあげるわ」
 魔物は、シスター・エリザベートを抱きしめた。シスター・エリザベートは激しく身もだえしたが、魔物を振りほどく事はできない。魔物の体から紫色の光があふれ出し、シスター・エリザベートを包んだ。
 シスター・エリザベートの体は変貌していった。今でもこの時の事は、目に焼きついている。シスター・エリザベートは、赤い髪を振り乱して喘いでいた。その髪から、白い角が生えてきた。魔物は、シスター・エリザベートの服を脱がしていった。その体は人間のものではなくなっていた。体の所々に紫色の体毛が生えていた。背には翼が生えていた。魔物と同じような羽だ。尻からは尾がはえている。シスター・エリザベートは魔物の体に変わっていた。
「さあ、これであなたはもう人間じゃないわ。私達と同じ魔物よ。もう、自分を抑えなくていいの。体が熱いんじゃないかしら?彼を見なさい。彼ならあなたの飢えを満たしてくれるわ」
 魔物は、シスター・エリザベートを解放した。シスター・エリザベートは、ふらふらしながら俺に向かって歩いてくる。顔にはほてったような表情を浮かべ、口を軽くあけている。見た事がないほどいやらしい表情だ。
 俺を捕らえていた魔物は、俺の体を離した。俺を、シスター・エリザベートの方へ軽く突いた。俺とシスターエリザベートは抱き合った。
 シスター・エリザベート、いや、もうエリザベートと言ったらいいだろう。エリザベートは、激しく俺の口に吸い付いた。俺の口に舌を入れて舐め回した。魔物の言うとおり飢えている様だ。
 エリザベートは俺の口をむさぼり終わると、次は俺のチンポをしゃぶり始めた。チンポを喰らうつもりなのかと思うほど、激しくむしゃぶりついてきた。俺は、好きな女が俺のチンポをしゃぶっている事に興奮した。
「口に唾液を溜めなさい。技がつたない内は、口の中に唾液を溜めながらやったほうがいいわ。それで彼は気持ちが良くなるから」
 魔物は、エリザベートに性の技について指導を始めた。エリザベートは魔物に従い、口の中によだれを溜めてしゃぶり始める。チンポに与えられる快感が増した。
「胸も使いなさい。せっかく大きな胸をしているのだから」
 魔物はエリザベートの胸をつかみ、俺のチンポを挟み込ませた。そして、エリザベートの胸で俺のチンポを揉み始めた。
「唾液を胸に垂らしなさい。すべりがよくなるからね」
 エリザベートは、胸の谷間によだれを垂らした。胸と俺のチンポは、唾液でまぶされていく。快感が増していった。
「胸でしごきながら、先端を舐めなさい。彼が喜ぶわよ」
 エリザベートは、魔物に素直に従っている。胸でしごく速さをあげながら、先端を強く舐め回した。俺は、思わず喘ぎ声を出してしまった。俺は、どんどん追い込まれていく。長くは持たなかった。出そうだと言うと、魔物は笑いながら言った。
「精液を飲んであげなさい。おいしいわよ」
 俺は精を放った。我慢することはできなかった。エリザベートの口の中に、俺の精液が飲み込まれていく。俺は震えを押さえられなかった。出し終わっても、エリザベートはチンポから口を離さない。激しく吸いたて続けている。俺は情けなく喘ぎ続けた。
 エリザベートがチンポから口を離すと、俺を捕らえていた魔物が俺を地面に寝かしつけた。
「さあ、彼のものを下の口で飲み込んであげなさい。あなたは気持ちよくなれるし、彼は今以上の快楽を味わえるわ。あなたの味わう快楽は、やみつきになるほどのものよ」
 エリザベートは、俺にまたがった。顔にはとろけそうな表情を浮かべていた。白い液の突いた口を舐めまわし、翼を震わせていた。エリザベートは、ぬるぬるした股を俺のチンポに擦り付けている。
「ゆっくりと入れなさい。あせらなくてもいいのよ」
 魔物はそう言ったが、エリザベートは待ちきれないようだ。すぐに温かい下の口の中に、俺のチンポを飲み込んだ。エリザベトは俺にのしかかってくる。エリザベートの股は、血で汚れていた。
「少しずつ腰の動きを早くしなさい。始めてでもあまり痛くないでしょ。気持ちいいでしょ。それが魔物娘の体よ。あなたは、私たちサキュバスと同じになったのよ」
 エリザベートは、初めから激しく腰を動かした。まるで獣だ。髪を振り乱し、汗を飛ばしながら腰を動かしている。エリザベートの中は俺を翻弄した。俺は、以前に隠れて娼婦を抱いた事がある。あの時とは段違いの気持ちのよさだ。俺は一度出したにもかかわらず、すぐに追い込まれていった。出すぞと俺が言うと、エリザベートはいっそう激しく腰を動かした。
 俺は、エリザベートの中で果てた。止める事はできない。俺はエリザベートの処女を奪い、中で出したのだ。シスターであり、育ちのいいお嬢様のエリザベートの中で出したのだ。俺は興奮を抑え切れなかった。
 こうして、俺とエリザベートは堕ちた。魔物の話によると、俺は近いうちにインキュバスという魔物になるそうだ。俺は後悔しない。人間なんてクソくらえだ。あの町の連中を見れば、それが分かる。俺は、エリザベートと結ばれる事ができたんだ。魔物になってかまわない。
 俺とエリザベート、そして魔女呼ばわりされた女は、サキュバスという魔物達に導かれていく事になった。俺達を受け入れてくれる所があるらしい。


 神父は、体の震えを押さえきれない。
 シスターと教会兵は、魔物達の手に落ちた。魔物へと堕落してしまった。想定していた以上のおぞましい事態だ。
 それに、神父は冷たい汗を流しながら思った.この日記を書いた奴は、この町から去ったはずだ。5月23日には、既にこの町の外にいたはずだ。なぜ、この日記がこの教会にあるのだ?


6月26日
 この町の占領は完了した。もう魔物の支配下にある。
 あっさりと事は済んだ。魔物達は、前からこの町を占領するために準備を行っていた。俺達が町に来た時には、既に多くの魔物が町に潜入していた。
 うまくいった理由の一つは、この町の権力者どもがクズだからだ。弱い者いじめ以外に何もできない連中だ。魔物の侵略に対して、何一つ手を打てなかった。
 この町は、調べれば調べるほどひどい町だ。弱者を犠牲にして成り立っていた町だ。弱者を虐げていたやつらの中心は、この町の中間層の連中だ。上に媚びへつらい、下を虐げて自分の利益を守っていた。この間の火事は、中間層の連中が住むところで起こった。自分達がいじめをやっていたもんだから、仕返しされたと思ったんだろう。
 この町の支配者どもは、中間層の連中のいじめをあおり立てていた。はっきりとは指示せず、思わせぶりの態度や言葉でいじめを指示していた。そうする事により、町をうまく支配できるからだ。上には向かわずに下に向かえば、支配者どもには都合がよい。
 今、取調べが行われている。虐待を行った者達を裁きにかけようというのだ。魔物達の調査能力は、人間よりもはるかに優れている。法も人間のものと違って公正だ。きちんとクソどもを裁いてくれるだろう。
 エリザベートは、完全に魔物になった。今までは魔物になる途中の状態だった。レッサーサキュバスと言うらしい。それが今では完全なサキュバスとなった。紫色の毛は落ち、翼が立派なものとなった。誰が見ても立派な魔物だ。
 俺は、エリザベートと交わり続けた事でインキュバスとなった。俺も魔物になった。魔物になると快適だ。体が丈夫になった気がする。エリザベートと何度でも交われる。毎日快楽を味わっている。
 この町の人間は、次々と魔物になっている。男は侵略してきた魔物に犯されることで、女はエリザベートと同じように魔物の魔力を浴びる事で、魔物へと変貌している。それでいい。クソみたいな町のクソみたいな人間は、人間なんて辞めたほうがいい。魔物になる事でましなものになるだろう。実際に、この町は魔物に支配されてからよい方に向かっている。
 そういえば、教会の本部から神父が派遣されてくるらしい。今更のこのこと、何をしに来るのやら。まあ、魔物達が歓迎してくれるだろう。


 神父は、後を振り向きたくなかった。おぞましいものがいることが分かるからだ。その者はゆっくりと近づいてきた。かすかな笑い声が聞こえた。
 神父の背にやわらかい感触が襲った。神父は抱きしめられた。その者は神父に顔を寄せて、小声で笑っている。
「歓迎しますわ、神父様。その日記にあるように、堕して差し上げます」
 神父は震えを押さえようとした。体は強張り、まともに動かない。
「私から離れろ、魔物よ。私は堕落するつもりはない」
 震えを押さえながら、やっとそれだけ言った。
 魔物は、神父の耳元でささやいた。耳元がくすぐられるようだ。魔物の息は甘い。
「時間をかけて堕して差し上げます。私達は気が長いのですよ。神父様と私は、長い付き合いになりますね」
 魔物は笑いながらささやいた。魔物のささやきは甘かった。
14/05/18 15:50更新 / 鬼畜軍曹

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