読切小説
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卒業?進学?ファックだ!
 女が、仰向けに地面に倒れていた。女は、胸と股間をむき出しにした半裸の姿だ。胸と股間は、白濁液で汚れていた。あたりには生臭いにおいが漂っていた。
 男が、女の前に立っていた。少年と言っていいような若い男だ。虚ろなまなざしで女を見下ろしていた。
 くだらねえ、そう男はつぶやいた。

 健治は夜道を歩いていた。既に11時を過ぎている。散歩には遅すぎる時間だが、星ははっきりと見えており、快適な散歩になるはずだ。普通ならば。健治は、鬱々とした気分を紛らわす事ができなかった。歩いても歩いても気が滅入るばかりだ。
 健治は大学に落ちた。地元の国立大学の人文学部、県立大学の経済学部、共に落ちた。私大は、家の経済力では受けることはできない。そもそも県内にはろくな私大は無い。入っても金と時間の無駄だ。県外の私大に入る金など、どこを振っても出てこない。浪人するだけの金も無い。結局大学進学はあきらめて、住んでいる市にある経理の専門学校に進学した。
 俺は頭が悪い、家には金が無い。だったらろくな進学できるわけが無い。健治は嗤いながらはき捨てた。
 だが、これでいいのかもしれない。健治はため息をつきながら想った。中途半端に金があって浪人したら、金と時間の無駄使いになるだろう。俺みたいな馬鹿が浪人したって無駄なんだ。分をわきまえ専門学校に入り、まじめに勉強すればいい。あの専門学校も、地元の企業はそこそこ評価していると言うしな。
 健治は、父と母の事を思い浮かべた。2人は共稼ぎだ。共稼ぎでなくては生活できない。母は、フルタイムでコールセンターで働いていた。毎日、疲れきった様子で帰ってきた。そんな母を見ていれば、健治は無理を言う気が起こらなかった。
 何のために、俺は進学校に入ったんだろうな。健治は心の中でつぶやいた。専門学校に入るんだったら、商業高校にでも入ればよかった。進学校に入っても無駄なんだ。大学に入るために進学校に入ったんだ。猛勉強したわけではないが、それなりに高校で勉強をがんばったんだ。
 健治は嗤った。でも、馬鹿じゃがんばっても仕方が無いんだ。中学のときに気づくべきだったんだ。俺には大学に入る資格は無いって。そうすれば無駄な事をしなくて良かったんだ。
 俺は、それほどひどい状況というわけじゃない。世の中には進学できず、高校出たら働かなけりゃならない奴もいる。家に金が無くなって、高校中退する奴もいるって話だ。専門学校行かせてもらえるだけ、俺は恵まれている方なんだろうな。
 俺の将来はどうなる?健治は苦々しく考えた。貧乏暮らしだろうな。大卒でも正社員として就職するのは難しい。専門学校卒じゃ、非正規社員にしかなれないだろう。専門学校卒では、スキルを身につけてもだめだ。企業が必要としているのは、スキルがあり、良く働き、低賃金で使えて、いつでも首に出来る労働者だ。企業はどんどん正社員を減らし、非正規社員を増やしている。俺は、非正規でしか採用されないだろう。貧乏ぐらしは今から決まったようなものだ。だからと言って、スキルを身につけないわけには行かない。スキルが無ければ、非正規社員にもなれない。生きることすら出来ないんだ。
 健治は、安売りで知られる衣料品販売グループの会長の顔を思い出した。貧相な顔をしているくせに威張り腐っていた。新聞社の取材に対し、年収100万の労働者が出てもかまわないと得意げに言い放っていた。その男は、社員を使いつぶして日本屈指の資産家になっていた。ネズミみたいなツラしてるけど、ただのネズミじゃねえな。奇形化したネズミだ。健治はつまらなそうに笑った。
 健治の知っている限り、ろくな企業経営者はいなかった。健治の学校に来た経営者からして、ろくでもなかった。2年生のとき、IT企業の経営者という肩書きの男が講演来た。その男は、得意げな調子でわめき散らした。今の世の中は厳しい事、甘えが許されない事、にもかかわらず世の中の厳しさをわかっていない者が多い事、心構えがなっていない者はどこの企業も採用しない事、世の中が厳しくてもきちんとしたものは採用される事、失業者はだらしないから就職できない事、今は生活保護を受ける事は難しい事、ホームレスになっても自己責任であること。このような事を、発狂した猿の様にわめき散らした。猿は、ブランド物のスーツを得意げに着ながら、つばを飛ばしながらわめき散らした。プライドを捨てろ!と絶叫して、猿は演説を終えた。
 3年生のときは、人材派遣会社の経営者だという中年女が講演に来た。その中年女は、小太りで厚化粧をしていた。その女経営者は、この世に苦しい事も悲しい事も無いと言った様子で喋り散らした。身振り手振りを交えながら、踊る様な調子で喋り散らした。皆さん、あいさつで始まりあいさつで終わります、笑顔が何よりも大事です。そんな中身の無い事を得意げに喋り散らした。その人材派遣会社の経営者とやらは、贅肉のついた顔に張り付いたような笑顔を浮かべていた。豚が人間のまねをして笑っているようだった。その雌豚は、得意げに喋り散らした。コミュニケーションスキルが何よりも大事です、身につけなければ就職すら出来ません、コミュニケーションスキルを身につけることは今を生きる全ての人間の義務です、コミュニケーションスキルの無い人が苦しい生活をする事は当然のことです。そんな事を、馬鹿にしたような笑顔を浮かべながら喋り散らした。
 俺は、あんな連中の支配する企業で働かなければならないわけだ。背筋を伸ばし、笑顔を浮かべて、明るくあいさつして面接を受けなくてはならないわけだ。わざとらしい敬語を使いながら、自分にスキルがあること、そのスキルは「御社」の業務に役立つ事をプレゼンしなければならないわけだ。非正規社員として雇ってもらうために、プレゼンしなければならないわけだ。低賃金で働き、いつでも辞めさせることができる使い捨ての道具になるために、笑顔で話さなければならないわけだ。それが出来なければ無職になり、餓死するか自殺するか選ばなければならないわけだ。
 くだらねえ、くだらなすぎる。健治は笑うしかなかった。
 健治は、卒業式のことを思い浮かべた。盛り上がりの欠ける、どうでもいい卒業式だった。3年生は、受験の事で頭がいっぱいだった。卒業する事が決まっていれば良い、卒業式などどうでもよかった。大半の者が、いらいらと落ち着かない様子だった。1部の者は、今は卒業式が大事だというポーズを取っていた。そんなものは虚勢だという事はわかりきっていた。内心は受験の事で頭がいっぱいなのが、見え見えだった。推薦で合格した者も、大学入学後のことばかり考えていた。受験の事などどうでもいいと考えている者もいたが、彼らは既に人生をあきらめている者だった。そんな3年生を、下級生達はつまらなそうに見ていた。教師達は、何とか形式だけでも保とうと努力していた。
 俺自身、受験の事しか考えていなかった。卒業さえ出来れば、卒業式などどうでもよかった。健治は苦笑した。結局、受験には失敗したけどな。
 健治は歩き続けた。なぜ歩いているのか、自分にも良くわからなくなった。

 「おーい、なに辛気臭い顔をしているんだ、少年?」
 健治はいきなり声をかけられた。1人の若い女が近づいてきた。スーツを着て、その上にコートを羽織っていた。会社帰りらしい姿だ。1杯やったらしく酒臭かった。よく見ると、丸っこい耳とふさふさした尻尾が女についていた。人間ではなく魔物だと、健治にはわかった。
 なんだこいつは?健治は、うんざりしながら見た。おかしな奴に付き合う気は無かった。健治は、無視して歩き続ける事にした。
 「無視しなくてもいいだろ。私が、時間と労力を割いてやろうと言うんだから」
 魔物娘は、笑いながら健治について来た。女は、健治の顔をのぞきこんだ。
 「少しは笑いなよ。笑って損は無いって。今の時期、陰気な顔をしたくなる子が多い事はわかるけど、そんな顔しても得にはならんよ。仕事やってりゃ、いやでも笑顔でいなけりゃならない時もあるんだから」
 この女うっとうしいな。いきなり説教かよ。健治は、問答無用で女を殴りたくなった。
 「まあ、そうは言っても今は無理かもしれないな。話してみなよ。話すだけでも、少しは気が楽になるんだよ。大丈夫、守秘義務は守るから」
 健治は、何も言う気が無かった。1秒でも早く、女と離れたかった。だが、女はしつこく付きまとった。
 「コミュニケーションは大切だよ。この先、特に大切になる。コミュニケーションの拒否はろくな結果にならんよ」
 健治は、もう女の話を聞いてなかった。深夜の徘徊を始めた時から、暴力衝動が健治の中で渦をまいていた。女が説教を始めたことで、健治は爆発寸前になった。
 「まあ、口では何とでも言えるか。あんたのために、具体的にどうしてやったらいいのかな?」
 健治と女は、雑木林に通りかかった。この辺は住宅の分譲から洩れており、学校の敷地くらいの広さの雑木林が残っていた。健治の沸騰状態の頭は、急に冷めた。冷静に女に害を与える事ができた。健治は、無言で女を雑木林の中に押し倒した。かぶっていたニット帽を、女の口に押し込んだ。暴れる女を押さえ込み、馬乗りになった。コートをはだけ、スーツの前も荒々しく開いた。シャツを引きちぎるようにはだけた。ブラをむしり取った。服の上からではわからなかったが、胸はそこそこの大きさをしていた。健治は、女の胸に馬乗りになった。
 健治は女の胸をつかみ、自分のペニスをはさんでしごき出した。健治は目の前の女を痛めつけ、快楽をむさぼりたかった。荒々しく胸をつかみ、ペニスを擦り付けた。興奮とあせりで、うまく快楽を味わえなかった。にもかかわらず、絶頂はすぐに来た。精液を女の胸にぶちまけた。あせったためか精液はうまく飛ばず、胸を汚しただけだった。健治は、ペニスで乱暴に白濁液を胸に塗りたくった。健治の鼻を、刺激臭が突き刺した。
 健治は女のスカートを捲り上げ、ショーツを引き下げた。濃い陰毛がむき出しになった。健治は、ペニスを女の股に擦り付けた。回復すると、乱暴に突き入れた。女のうめき声に、健治の暴力衝動は高まった。そのまま乱暴に出し入れした。中をえぐるようにペニスを動かした。再び絶頂が襲ってきた。ためらうことなく中へぶちまけた。奥へ注ぎ込み終わると、中から引き抜いた。ヴァギナからは、白い汚液があふれ出てきた。
 健治は、ペニスについている精液を女の服でぬぐった。立ち上がって女を見下ろした。終わってしまえば、惨めさとむなしさしか残らなかった。後悔は無い。楽しさもなかった。

 健治は、女に背を向けた。俺の行き着いたところは強姦かよ。健治は笑った。もういい、何もかも馬鹿馬鹿しくなった。ケリをつけよう。健治は、冗談半分で買った七輪と練炭を思い浮かべた。健治の親は、日中家にいない。1人で部屋を締め切って練炭を炊く事は可能だ。練炭を炊いたら、睡眠補助剤を飲みながら酒でも飲もう。いや、どうせ死ぬのならクソみたいな奴らを殺してから死ぬのもいい。クソ経営者を殺すか?それが無理なら、クソ経営者の犬に成り下がった奴らを殺すか?健治は、ミリタリーナイフを持っていた。きちんと手入れはしてある。健治は、腹の底から力が回復してくるような気がした。
 健治の首筋に、刺す様な痛みが走った。健治は振り向いた。女の顔があった。女に殴りかかろうとしたが、足がもつれて健治は倒れた。起き上がろうとしたが力が入らなかった。
 「思ったよりよく効くな。高い金出して買った甲斐があったよ」
 女は注射器をしまうと、健治の上に馬乗りになった。笑いながら、健治のジーンズとトランクスを脱がした。
 「さっきのは先行投資だよ。あんたを慰めるためにな。これからは回収だ。」
 女は、丸い耳を揺すり動かしてニヤついた。
 「やり逃げ出来るとでも思ったのかな?甘いよ」
 女は、健治のペニスをしごき始めた。2度も出したにもかかわらず、健治のペニスは大きくなった。
 「若いねえ、感心感心。薬のせいもあるけどね」
 魔物娘は、ペニスをヴァギナの中に飲み込んだ。奥まで飲み込むと、激しく腰を動かした。尻尾を激しく振った。
 「いいねえ、セックスは。いやな事を忘れるには1番いいよ」
 健治は、すぐに上り詰めた。2度出したにもかかわらず、もたなかった。精液を魔物娘の中に放出した。健治は、自分の精力を搾り取られている気がした。放出は1度目、2度目より長かった。やっと収まると、疲労が健治を襲い掛かった。魔物娘は、ニヤニヤしながら健治を見下ろしていた。
 「これで終わりだと思っているのかな?まだまだやり足りないね」
 魔物娘は、笑いながら腰を動かし始めた。

 その後、健治は2回搾り取られた。健治は、疲れきって動けなくなった。魔物娘は健治から立ち上がると、悠然と身づくろいをはじめた。自分の処理が終わると、健治の後始末を丁寧に行った。魔物娘は、コートのポケットからケースのようなものを取り出した。ケースに口をつけ、健治に口移しで飲ませた。甘いゼリーのようなものだ。
 「5分もすれば起きられる様になる。風邪を引かないうちに帰るんだね」
 魔物娘は、健治を見下ろしニヤリとした。健治のポケットから財布を抜き出した。中に入っていた、卒業した高校の学生証を見た。中山健治君ね、と楽しげにつぶやいた。学生証を財布に戻し、財布を健治のポケットに戻した。
 「投資の回収はまだ終わってないよ。末永く付き合うことになるね」
 魔物娘は、健治の懐に袋を入れた。カイロだった。
 「これはサービスだよ。じゃあね」
 魔物娘は、鼻歌を歌いながら去っていった。尻尾を軽快に振っていた。
 魔物娘の言葉通り、5分後に健治は動けるようになった。何だったんだあいつ?健治は力なくつぶやいた。アホくせえ、帰ろう。健治はその場を後にした。馬鹿馬鹿しさが健治の中に残った。ただ、なぜか自殺する気もテロを起こす気もなくなっていた。

 健治は専門学校へ向かっていた。今日は入学式だ。入りたかった所ではないが、親が無理をして入れてくれた以上サボる気は無かった。まあ、せいぜいがんばるか。勉強は嫌いじゃないし、スキルを身につけたいしな。健治は笑った。
 歩きながら、あの夜のことを思い出した。あの女は、刑部狸だったかもしれない。商売に長けているとされる魔物だ。あの女は、先行投資だの回収だのと言っていた。耳は丸く、尻尾も丸っぽかった。今から思えば狸に見えた。俺は、狸女に絡まれたわけかよ。健治としては笑うほか無かった。
 まあ、この先会っても仕方が無い。こちらは狸女に用は無い。向こうは投資の回収とやらをするつもりかもしれないが、俺の知ったことじゃない。俺と狸女は赤の他人、この先も無関係だ。健治は鼻で笑った。会えない事を少し残念に思っている自分を、認めるつもりは無かった。
 入学式は1時間ほどで終わり、すぐに授業が始まった。1分1秒も無駄にするなというのが、この専門学校の方針だ。
 健治は、教室に入ってきた講師を見てあきれた。あの狸女だった。
 「エー、私は君達に商業簿記を教える穂波静流だ。公認会計士をしながら、この学校で講師をしている。よろしく頼む」
 狸女は、ニヤニヤしながら健治を見た。
 「特に中山健治君、これからはよろしく頼む。君とは何かと縁がありそうだ」
 健治は天を仰ぎながら思った。やっぱり俺の人生はアホくせえ。
14/03/08 00:08更新 / 鬼畜軍曹

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