読切小説
[TOP]
海岸前線X

「ゲートの場所を特定しただとっ!」

捜索班からの報告を受けて、作戦本部は希望と恐怖の対極的な雰囲気に包まれた。
無理もない、今までikaijuが出現する大まかな範囲しか認知されておらず、ピンポイントな地点はまるで闇に包まれたかのように姿を現さなかったからだ。
敵の居所を突き止めた彼らは、この長い戦いを終わらせることに対する安堵と発見された場所が過去に捜査済であることに得体の知れない不安を抱いた。

事の次第は瞬く間に各狩人のパイロットたちにも伝えられ関係者全員が指令室に集められた

「そんなもの速攻で破壊するべきだ!」

説明が終わるとやや食い気味で『クリムゾン=マントル』のパイロット<ソフト=ラヴ>は机を叩くとともに強気な発言をする。「まぁまぁ。」と妻をなだめる夫である<ライク>との間で、娘の<プリファー>は緊張で体をこわばらせていた。

「まぁそんな決断を焦るなって。」

パイロットを招集したオペレーターの<マイク>もいつもの冗談めいた口調ではなく、神妙な面持ちで説明を続ける。

「速攻で決着をつけたいのであればこんな集会などは開かない。この現状を知ったうえで、どう判断するかを実戦経験のある君たちに聞いたうえで上層部が決定するそうだ。」

「では、私たちから。」

率先して手を挙げたのは<サーキット=シェリー>と<マートン>、『ストライカーΣX』のパイロットである。

「今回発見された地点から推測するに、過去なかった場所に出現したということはゲートは移動していることが予想されます。以上のことから私たちもソフト家同様に、ゲートが再び移動する前の早期処理を提案します。」

「俺も、シェリーと同じ。」

シェリーの考察に夫のマートンが相槌を打つ。
「なるほど。」とマイクが一呼吸置くと、「他の夫婦は?」と発言を促した。

「俺たちは...」

次に口を開いたのは<ハード=ドム>、妻の<レム>と共に『メルキド=アルファ』に搭乗している。

「俺たちは迂闊に近づくべきではないと思う。」

「「「なっ!」」」

予想外の意見に指令室に一同の驚きの声が響き渡る。
「まぁ聞け。」とドムは周りを制すると、話を続けた。

「俺は今回の発見にいくつか不自然な点を感じた。今まで見つけられなかったものが向こうから突然現れたんだぞ。それを踏まえると俺たちを誘っているようにも感じないか?」

「つまり、罠だと言いたいのか?」

「あくまで可能性の話です。」

端的にまとめたマイクにレムが補足をする。

「私たちもハード家に近い考えかもしれません。」

一通りの意見を聞いた後<レジスト=アーマー>と『ホープ=デンジャー』を担当する<メイル>が意見を述べた。

「私たちはこの変化を何らかの予兆と捉えます。具体的に言えばikaiju関連かと予測します。」

「これまでのようにはいかないってことだよ。」

動揺を隠すようにアーマーがぶっきらぼうに言い放つ。
それぞれの意見を聞いた後マイクは確認作業を行い集会を解散させた。




「おじさん!」

集会で出た意見を上に報告したあと、マイクはプリファーに声をかけられた。

「どうしたプリファー?」

「いま大丈夫?」

「あぁ、少しくらいなら。」

ぎこちない姪の姿にやや困惑する独身男。
プリファーは壁に寄りかかって一息つくと静かに呟いた。

「おじさんはさ...どうしたいのかなって気になって。」

「どうって言うとゲートの件か?」

「そうその件。」

唐突に自分の意見を求められ対応にマイクは悩んだ。

「プリファーはどう思うんだ?」

「私が聞いてるのに普通私に聞く?」

「それもそうだな。」

お互いのやり取りに軽く笑いあう二人。
少し間を置いた後、シェリーは語りだした。

「私はね、安価な考えかもしれないけど早く終わらせたいと思ってるんだ。」

「それはどうしてだい?」

「それは...何というか...今はそこまでじゃないけどさ、少し前まではikaijuが出てくるともしかしたら死んじゃうんじゃないかってみんな怯えてる時期があったじゃん?」

確かにプリファーの言う通り今ではikaiju退治はスポーツ観戦に近いようなものになっている。しかし、ほんの少し前までは死と隣り合わせの恐るべき脅威でもあった。

「それでもさ、やっぱりikaijuが存在する限り不安は残ると思うんだよね。」

「だからみんなの不安を取り除くために終わらせたいと。」

「そゆこと。」

彼女なりの戦う理由、優しさの由来を知ったマイクはしばらく考えたあと、一つの答えにたどり着いた。

「それも立派な理由じゃないのか?」

「え?」

「誰かを守りたい、笑顔にしたいっていうのは十分な理由だよ。そこに安価も高価もないさ。」

マイクの心からの本音は素直にプリファーに届き、彼女は顔をほころばせた。

「それじゃ、行ってくるか!」

「え、どこに?」

「お偉いさん方に交渉してくるんだよ。」

突然の決意に今度はプリファーが困惑した。

「なーに、ただ自分の意見を主張してくるだけだよ。」

「でも、パイロットたちですらまとまってないのに...」

「「「「話は聞かせてもらったよ(わ)!!」」」」

突如として近くの部屋の扉が開きそれぞれのパイロットたちが姿を現した。

「え!!いつから聞いてたの!!」

「いやーな。あの後、俺たちパイロットだけで話し合ってたら、笑い声が聞こえてな。」

「いくら非常時でも魔物であれば推しの尊い姿は見たいでしょ?」

各々がプリファーのまっすぐな気持ちに胸打たれ、各々が推しの年の差カップルもどきを見てはしゃいでいた。

「せっかくのチャンスだ。多少のリスクがあってもやるべきだ。」

「そこに守るモノがあるならばなおさらよ。」

「しかも、一人じゃない。みんながいる。」

「これほど心強いものはないだろう。」

「マイプリまじてぇてぇ。」

それぞれの決意を胸に最終決戦の幕は上がったのだった。




作戦決行当日
まだ日は高く風向きも良好なこの穏やかな海に、狩人たちは進行していった。

「こちらホープ、アルファと共に目標コースを移動中。予定時刻までには到着可能です。」

「こちら本部了解。ストライカー、クリムゾンそっちはどうだ。」

「こちらはもう目的地に到着しています。異常はありません。」

「了解。引き続き警戒を頼む。」

狩人たちは二つの編隊に分かれ着実にゲートに近づいて行った。

「目標確認。ゲート見えました。」

ホープからの連絡に全員に緊張が走る。

「了解。あとは予定通りに爆弾を...

《ikaiju反応あり。ikaiju反応あり。》

「やっぱりうまくはいかねーか。みんな聞こえたか!来るぞ!」

戦闘態勢をとり出現に備える。通常とは異なることにすぐ気づいた。

「なんて数だ,,,」

ギャオォォォォォ

ゲートから無数のikaijuが這い出てくる。
本来ikaijuの出現は1体か多くても2体同時がメジャーであったがそんなものの比ではなかった。

「軽く50体近くはいるぞ。」

迫りくるikaijuたちに立ち向かう狩人たち、手慣れた彼らにとって恐れるに足りなかった。

「数は多いが1体ずつは雑魚だ。いけるぞ!」

それぞれが自慢の技をぶつけ合い多少苦戦しながらも、数を削っていく。

「残りわずかだ押し切れ!!」

マイクの喝が狩人たちを鼓舞し形勢を逆転させる。

「こっちは粗方片付いた!あとは任せる!」

目の前の雑魚を蹴散らしたストライカーがゲートに近づき爆弾を設置する。
それに続いて遅れてきた仲間たちも作業を進める。

「設置完了。残すは起爆するのみだ。」

図鑑仕様で人体、環境には影響はないクリーン・ボム。
いざ起爆といったときにマイクが叫んだ。

「今までで一番でかいikaiju反応だ!!急げ!!」

「了解。起爆まで5,4,3,2,1、」

それぞれが距離を取り爆破を見守る。

ドッカーン!!

耳をつんざくような轟音と共に爆心地付近から水が消える。

「衝撃にそなえろ!!」

次の瞬間背後から迫りくる海水が狩人たちの体に打ち付けられる。

《機体損傷50%以上直ちに帰還してください。》

警告音が鳴り響き、狩人の動きに制限がかかる。

「こちらマイク、爆破を確認。ゲートはどうなった!」

「こちらアルファ、ほかの狩人と比べ損傷が軽いため確認いけます。」

海底の砂が巻き上げられ見通しの悪いなか進むアルファ。

「目標確認。ゲートは...破壊されています!!」

無線から送られてくる報告から目標達成が告げられると一同は歓喜に包まれた。

「任務完了。直ちに帰還しm...!」

グシャグシャ

「どうしたアルファ!何があった!」

盛り上がった雰囲気が一転し恐怖の渦に飲み込まれる。

「はぁはぁ...こちらアルファ...ikaijuの攻撃を受けた、繰り返す攻撃を受けた。」

まさかの報告に一同が唖然とする。

「馬鹿な反応はないぞ!」

マイクの焦りにも似た怒号が飛ぶ。

「爆破の勢いでセンサーが損傷したようです。」

「なんだと!!」

まさかの事態に現場が混乱する。

「本部からは現場の様子は分からない!一度引いて体制を整える!」

「命令を拒否します。」

「なに!」

ホープからの連絡はこの混乱をさらに上書きさせた。

「聞いてください本部!アルファからの様子を見るにikaijuは1体。このままでも対応できます。」

「その損傷じゃ無理だ!戻ってこい!」

無線で言い争っている間にも刻々と危機は迫ってくる。
そのことは互いに察していた。

「このままじゃ大切なものが守れない!信じてください!」

ホープからの強い覚悟が伝わりついにマイクが折れる。

「...分かった。ただし...死ぬなよ!」

「...!了解!ストライカー、アルファ、クリムゾン動けますか!」

「おう!もちろんよ!」

ホープの思いに応えるため狩人を奮い立たせる。

「3機の残りのエネルギーを分けてくれ!」

「あとは頼んだ!」

「信じています!」

「任せるぞ!」

遠くから咆哮が近づいてくる。こちらの気配を察知したのだろう。
同時にエネルギーの補充が終わり、さらにみんなの思いも合わさってホープが金色に光り輝く。
舞い上がる砂ぼこりをかき分けて現れた巨大なikaijuにむかって叫ぶ。

「ブレストファイヤー!!」

胸部に備え付けられた巨大ビーム口から最大出力のエネルギーが解き放たれる。あまりの威力に機体は退き、発射口は焼きただれている。そんな攻撃を直に受けたikaijuは断末魔を叫ぶこともなく跡形もなく消し飛んだのであった。




「センサー復旧、反応なし。ikaiju完全に消滅しました!」

今度こそ本当に終わりを迎え人魔共に喜びあった。
この事実はあっという間に世界中に広まり、あまりにも長かった侵略者との戦いの幕は閉じた。
対策本部も解散しパイロットたちもばらばらになったが今では最愛の家族と幸せな日々を過ごしている。これからもずっと。

20/02/25 03:05更新 / 甘党大工さん

■作者メッセージ
1年後


「ほら、遅れるぞ。」

「わかってるって。」

「まさか本当に結婚するなんてな。」

「娘と弟、複雑だ。」

「愛があるからいいのよ。」

「「永遠の愛を誓います。」」

「マイプリまじてぇてぇ。」




ということで海岸前線シリーズはここで一区切りします。
また機会があれば彼ら、彼女らに関して何か書きたいです。
映画も続編あるしねw

最後まで読んでくれてありがとうございます。それでは。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33