海岸前線
昔から俺は悩み事があると空を眺めた。
魔物娘と呼ばれる人ならざる者達と手を取り合い平和に生活しているこの世界、この星以外にも生命体は存在しているのだろうかと、そんな突拍子もない事を考えながら無限に広がる宇宙を見ていると自分の悩みなんかがとてもちっぽけな物に思えて気が楽になる。
しかし奴らは真逆の場所から襲来した。
最初に奴らが現れたのは今から約1年ほど前になる。反魔領の教団兵どもが魔物娘を根絶やしにするために異世界のゲートを海底に開いたのだ。
普通、異世界から送られてくるのはチート持ちの人間ばかりだったが(彼らは全員、魔王軍幹部に美味しくいただかれました)
今回ばかりは勝手が違かった。
教団が送り込んできたのは、とてつもなく巨大なバケモノだった。
奴らが出現した地帯は壊滅的な状況に追い込まれたが、魔王軍の迅速かつ適切な行動により死傷者は1人も出なかった。
人々は皆喜び、事態は終わったかのように思われた。
それが始まりに過ぎなかったことも知らずに。
一度開かれたゲートを異世界の住人が乗っ取ったのだ。彼らは自分たちの生活圏を広げるべくこの図鑑世界に侵攻した。
人々は悟った、この戦いは終わらないと。
そこで魔王軍は対策本部を設置し、奴らをこう呼んだ
Ikaijuと。
最初のIkaiju の残骸を研究すると奴らの体液は非常に有害で垂れ流しにすると環境に悪影響を与えることがわかった。そうなると今の剣や魔法では対応しきれない。
確実に奴らを仕留めることができる大型の兵器が必要となった。
魔王軍は試行錯誤の結果、物質系の魔物娘を大型化する結論に至った。
そこからが速かった。
条件に該当する魔物娘を募集し彼女たちと軍の最高技術を融合し、
巨大ロボットを完成させたのだ。
「狩人」と呼ばれるようになったロボットたちは成果を挙げ、Ikaiju 討伐は次第に見るものを魅了するスポーツになっていった。
だが同様に問題も起こった。
一度の出撃に使用する魔力が膨大であることだ。
募集条件の既婚の魔物娘であってもその供給が追いつかない。
では足りない魔力はどうするのか?
答えは簡単だ、旦那が精を出すのである。
とは言え相手は魔力が枯渇した魔物娘、インキュバスと言えども彼女たちを満足させるのに1発2発で済むわけがなく、最低でも3日は交わり続けないと復帰できないのである。
この間当然出撃できるわけもなく、戦力が大きく削がれてしまうのだ。
早急にこの問題に対処すべく魔王軍は画期的なシステムを開発したのだ。
ードリフトー
ドリフトとは、魔物娘とその旦那の神経をシンクロさせることによって個人への負担を軽減する。このことは狩人の長期稼働を可能にしたのだった。
さらに、二人が愛すれば愛するほどシンクロ率が高まり狩人の性能も向上する。
主に魔物娘側からの要望が高まり実用に至った。狩人もそれに伴うかのように
様々なバリエーション機体が生産されていった。
《Ikaiju 出現! Ikaiju 出現!
直ちに配備についてください!》
無機質な館内アナウンスに叩き起こされる。
緊急事態なのにも関わらず覚醒しきらない脳をフルに回転させて周囲の状況を確認する。ベットの側には愛する妻〈レジスト=メイル〉が呆れた顔をしている。
「出撃よ。早く準備して。」
「はいはい、分かってますよ。」
「返事は一回でいい。」
感情をあまり出さない彼女が珍しいなと思いながらも、
急いでパイロットスーツに着替える。
2人で部屋を出ると、早足でスタンバイルームに向かった。
「おはよう!レジスト夫妻!今朝の調子はいかがかな?」
「午前2時に起こされて気分がいいやつがいるかよ。」
俺〈レジスト=アーマー〉は、オペレーターであるマイクに悪態を吐く。
「そうか、おふたりさんはお楽しみ中だったか?なら申し訳ないなぁ」
「っ...」
「あ、マジだった?ごめんごめん。」
「マイク、あまりアーマーをいじめないで。」
メイルがやんわりと釘を刺し説明を促す。
「そうだな、海岸から2キロ離れたところからIkaiju反応があった。」
さっきまでのふざけた調子がなくなり真面目な雰囲気が漂う。
「おそらくカテゴリ2だ。司令官から出撃命令が出た。準備はいいか?」
「いつでも大丈夫だ。」
「私もよ。」
夫婦は戦士となった。
「OK それじゃ、スタンバイモードに入ってくれ。」
「了解」
リビングアーマーであるメイルが頷くと、彼女の纏っている鎧が展開する。
展開した鎧は組み換えられていき、夫婦2人が入る巨大な頭部に変形した。
「スタンバイ完了。」
「スタンバイ完了確認。降下。」
マイクがハッチを開くと頭部は素早く降下していく。
10メートルほど下には頭のない巨大な機体がセッティングされている。
2人が搭乗した頭部が胴体と結合するとバイザーが光り、モニターが出る。
「接続確認。ドリフト準備。」
慣れた手つき2人はでスイッチを入れていく。
「準備完了。ドリフト開始。」
互いに目を見つめ合ってから同時に最後のスイッチを入れる。
強い魔力とともにそれぞれの記憶が通りすぎていく。
過去の記憶に囚われないように気を保つ。
「ドリフト完了。シンクロ率90パーセントで安定。」
まだ90か悔しいな。メイルの感情が流れてくる。
大丈夫だよ。と心の中で思うと霊体の彼女の顔が安らぐ。
「こちら司令塔、シンクロを確認した。」
マイクの声がヘットギア越しに届く。
「了解。動作確認入ります。」
2人で腕を前に伸ばし手の開閉を繰り返す。
機体も同じ動きをする。
ゆっくりと肘を曲げ、右手を開き左手の握り拳を軽めに打ち込む。
ガツンと鉄の塊がぶつかる音が心地よい。
いつからだったかこのルーティンを始めたのは、と思いながら作業を進める。
「動作確認完了。機体に異常なし。」
「了解。出現準備完了。いつでもいいぞ。」
マイクがゴーサインを出す。
この瞬間が一番力が入る。
「メイル」
言わなくともシンクロしているため互いに理解できるが、あえて口に出す。
「何?アーマー。」
メイルも既に言いたいことを把握しているがあえて聞く。
「みんなを守るぞ!」
「もちろん。」
2人で呼吸を置いて真っ直ぐと前を見据える。
「「レジスト夫妻!ホープ=デンジャー!出ます!」」
俺たちの機体〈ホープ=デンジャー〉と共に海に出た。
「Ikaiju 反応地点から200メートル付近に到着。まだ目視出来ません。」
「了解。警戒怠るなよ。」
5分ほどで目的の場所に到達した2人の緊張感はマックスだった。
「左!大きな影が動いたわ!」
メイルが叫び急いで機体の正面に合わせる。
巨大な影対して機体が垂直になったとき目の前の海が割れた。
「来るぞ!」
重心低く落とし衝撃に備える。
ギャャャャャオォ
耳をつんざくような気味の悪い鳴き声と一緒にIkaijuが突っ込んでくる。
「抑え込むわ!はぁぁぁ!」
メイルの動きに合わせて両腕が動き、Ikaijuの上顎と下顎をガッチリ掴む。
ミシミシッ!
一瞬だけIkaijuの動きを封じる。Ikaijuは空いている鋭い爪で機体の脇腹を狙う。
「その程度お見通しだぜ!」
Ikaijuの爪が届く前にアーマーがすかさず背負い投げの要領で放り投げた。
パイロットの技術と機体の性能があってできる荒技である。
激しい水しぶきの中海面に打ちつけられたIkaijuはたちまちひるむ。
2人はその隙を見逃さなかった。
「喰らえぇ!」
Ikaijuの顔面に右ストレート、勢いそのままに左フックをお見舞いし、ふらついたところに頭の上で組んだ両手を振り下ろし、脳天に直撃させる。
ギェェェェェ
Ikaijuはたちまち海の底に沈み浮かび上がってこなかった。
「やったか?」
機体が確認のために残骸に近づいた。
突然のことだった。仕留めたと思っていたIkaijuが体当たりをしてきたのだ。
「何ぃ!」
「キャァ!」
急な出来事に対応しきれずに、海に転倒する。
追い討ちをかけるようにIkaijuが胴体に噛み付く。
《機体の損傷を確認。注意してください。》
ギチギチィ!
金属が歪む音が響き渡る。
「それ以上は、機体が持たない。早く振りほどけ!」
マイクも焦りを含めた命令が飛ぶ。
「そんなこと分かってらぁ!!」
アーマーが怒鳴りながらIkaijuの鳩尾の膝蹴りを入れる。
あまりの苦痛にIkaijuが距離を置く。
何とか2人は体勢を立て直して対峙する。
しばらくして痺れを切らした息絶え絶えになったIkaijuが一直線に飛び掛かってくる。
「同じ手は通じないわよ!」
メイルが左手で喉元を掴み拘束する。
気管を塞がれたIkaijuは手を解こうと機体の腕にダメージを与えていく。
「今のうちに!早く!」
メイルの意図を察したアーマーは力いっぱいに叫んで右手を振りかざす。
「ロケットパーンチ!!」
《ロケットパンチを音声認識しました。》
アナウンスとともに右肘についているバーニアが火を噴き、瞬く間に青い巨大な炎となった。
ロケットエンジンによる爆発的なエネルギーをそのままにIkaijuの顔に撃ち込む。
あまりの衝撃に喉元を抑えていた左手ごと吹き飛ばした。
ギヤァァァァァ
Ikaiju はそのままの勢いで海に沈み今度こそ浮き上がってくることはなかった。
「Ikaiju の残骸の回収完了しました。」
「あいよー。あとこっちでやっとくから、上がっていいよ。」
「了解。」
残骸を規定の解体業者に受け渡し事務手続きを済ます。
今回は変に苦戦してしまった。慣れとはやはり恐ろしいものだ。
負の念にかられると不意に手が繋がれる。
視線を向けるとそこには愛する妻がいた。
「お疲れ様。」
「あぁ、お疲れ。」
「油断したこと気にしてるの?」
「まぁな。俺のせいでメイルを危険な目に合わせてしまった。」
「私は鎧だよ。そんなこと気にしないで。」
「メイル...メイルは俺にとって鎧なんかじゃないんだ。」
「えっ?」
「メイルは俺にとって一番大切な人なんだ。だから傷ついて欲しくない。」
「アーマー...。じゃあさ..。証明して欲しいな。」
「えっ、今からか?」
「当たり前よ。いくらドリフトで負担を減らせても、魔力は消費するから。」
「おっ、おう。」
こうして今日もまた図鑑世界の平和は守られたのであった。
めでたしめでたし。
魔物娘と呼ばれる人ならざる者達と手を取り合い平和に生活しているこの世界、この星以外にも生命体は存在しているのだろうかと、そんな突拍子もない事を考えながら無限に広がる宇宙を見ていると自分の悩みなんかがとてもちっぽけな物に思えて気が楽になる。
しかし奴らは真逆の場所から襲来した。
最初に奴らが現れたのは今から約1年ほど前になる。反魔領の教団兵どもが魔物娘を根絶やしにするために異世界のゲートを海底に開いたのだ。
普通、異世界から送られてくるのはチート持ちの人間ばかりだったが(彼らは全員、魔王軍幹部に美味しくいただかれました)
今回ばかりは勝手が違かった。
教団が送り込んできたのは、とてつもなく巨大なバケモノだった。
奴らが出現した地帯は壊滅的な状況に追い込まれたが、魔王軍の迅速かつ適切な行動により死傷者は1人も出なかった。
人々は皆喜び、事態は終わったかのように思われた。
それが始まりに過ぎなかったことも知らずに。
一度開かれたゲートを異世界の住人が乗っ取ったのだ。彼らは自分たちの生活圏を広げるべくこの図鑑世界に侵攻した。
人々は悟った、この戦いは終わらないと。
そこで魔王軍は対策本部を設置し、奴らをこう呼んだ
Ikaijuと。
最初のIkaiju の残骸を研究すると奴らの体液は非常に有害で垂れ流しにすると環境に悪影響を与えることがわかった。そうなると今の剣や魔法では対応しきれない。
確実に奴らを仕留めることができる大型の兵器が必要となった。
魔王軍は試行錯誤の結果、物質系の魔物娘を大型化する結論に至った。
そこからが速かった。
条件に該当する魔物娘を募集し彼女たちと軍の最高技術を融合し、
巨大ロボットを完成させたのだ。
「狩人」と呼ばれるようになったロボットたちは成果を挙げ、Ikaiju 討伐は次第に見るものを魅了するスポーツになっていった。
だが同様に問題も起こった。
一度の出撃に使用する魔力が膨大であることだ。
募集条件の既婚の魔物娘であってもその供給が追いつかない。
では足りない魔力はどうするのか?
答えは簡単だ、旦那が精を出すのである。
とは言え相手は魔力が枯渇した魔物娘、インキュバスと言えども彼女たちを満足させるのに1発2発で済むわけがなく、最低でも3日は交わり続けないと復帰できないのである。
この間当然出撃できるわけもなく、戦力が大きく削がれてしまうのだ。
早急にこの問題に対処すべく魔王軍は画期的なシステムを開発したのだ。
ードリフトー
ドリフトとは、魔物娘とその旦那の神経をシンクロさせることによって個人への負担を軽減する。このことは狩人の長期稼働を可能にしたのだった。
さらに、二人が愛すれば愛するほどシンクロ率が高まり狩人の性能も向上する。
主に魔物娘側からの要望が高まり実用に至った。狩人もそれに伴うかのように
様々なバリエーション機体が生産されていった。
《Ikaiju 出現! Ikaiju 出現!
直ちに配備についてください!》
無機質な館内アナウンスに叩き起こされる。
緊急事態なのにも関わらず覚醒しきらない脳をフルに回転させて周囲の状況を確認する。ベットの側には愛する妻〈レジスト=メイル〉が呆れた顔をしている。
「出撃よ。早く準備して。」
「はいはい、分かってますよ。」
「返事は一回でいい。」
感情をあまり出さない彼女が珍しいなと思いながらも、
急いでパイロットスーツに着替える。
2人で部屋を出ると、早足でスタンバイルームに向かった。
「おはよう!レジスト夫妻!今朝の調子はいかがかな?」
「午前2時に起こされて気分がいいやつがいるかよ。」
俺〈レジスト=アーマー〉は、オペレーターであるマイクに悪態を吐く。
「そうか、おふたりさんはお楽しみ中だったか?なら申し訳ないなぁ」
「っ...」
「あ、マジだった?ごめんごめん。」
「マイク、あまりアーマーをいじめないで。」
メイルがやんわりと釘を刺し説明を促す。
「そうだな、海岸から2キロ離れたところからIkaiju反応があった。」
さっきまでのふざけた調子がなくなり真面目な雰囲気が漂う。
「おそらくカテゴリ2だ。司令官から出撃命令が出た。準備はいいか?」
「いつでも大丈夫だ。」
「私もよ。」
夫婦は戦士となった。
「OK それじゃ、スタンバイモードに入ってくれ。」
「了解」
リビングアーマーであるメイルが頷くと、彼女の纏っている鎧が展開する。
展開した鎧は組み換えられていき、夫婦2人が入る巨大な頭部に変形した。
「スタンバイ完了。」
「スタンバイ完了確認。降下。」
マイクがハッチを開くと頭部は素早く降下していく。
10メートルほど下には頭のない巨大な機体がセッティングされている。
2人が搭乗した頭部が胴体と結合するとバイザーが光り、モニターが出る。
「接続確認。ドリフト準備。」
慣れた手つき2人はでスイッチを入れていく。
「準備完了。ドリフト開始。」
互いに目を見つめ合ってから同時に最後のスイッチを入れる。
強い魔力とともにそれぞれの記憶が通りすぎていく。
過去の記憶に囚われないように気を保つ。
「ドリフト完了。シンクロ率90パーセントで安定。」
まだ90か悔しいな。メイルの感情が流れてくる。
大丈夫だよ。と心の中で思うと霊体の彼女の顔が安らぐ。
「こちら司令塔、シンクロを確認した。」
マイクの声がヘットギア越しに届く。
「了解。動作確認入ります。」
2人で腕を前に伸ばし手の開閉を繰り返す。
機体も同じ動きをする。
ゆっくりと肘を曲げ、右手を開き左手の握り拳を軽めに打ち込む。
ガツンと鉄の塊がぶつかる音が心地よい。
いつからだったかこのルーティンを始めたのは、と思いながら作業を進める。
「動作確認完了。機体に異常なし。」
「了解。出現準備完了。いつでもいいぞ。」
マイクがゴーサインを出す。
この瞬間が一番力が入る。
「メイル」
言わなくともシンクロしているため互いに理解できるが、あえて口に出す。
「何?アーマー。」
メイルも既に言いたいことを把握しているがあえて聞く。
「みんなを守るぞ!」
「もちろん。」
2人で呼吸を置いて真っ直ぐと前を見据える。
「「レジスト夫妻!ホープ=デンジャー!出ます!」」
俺たちの機体〈ホープ=デンジャー〉と共に海に出た。
「Ikaiju 反応地点から200メートル付近に到着。まだ目視出来ません。」
「了解。警戒怠るなよ。」
5分ほどで目的の場所に到達した2人の緊張感はマックスだった。
「左!大きな影が動いたわ!」
メイルが叫び急いで機体の正面に合わせる。
巨大な影対して機体が垂直になったとき目の前の海が割れた。
「来るぞ!」
重心低く落とし衝撃に備える。
ギャャャャャオォ
耳をつんざくような気味の悪い鳴き声と一緒にIkaijuが突っ込んでくる。
「抑え込むわ!はぁぁぁ!」
メイルの動きに合わせて両腕が動き、Ikaijuの上顎と下顎をガッチリ掴む。
ミシミシッ!
一瞬だけIkaijuの動きを封じる。Ikaijuは空いている鋭い爪で機体の脇腹を狙う。
「その程度お見通しだぜ!」
Ikaijuの爪が届く前にアーマーがすかさず背負い投げの要領で放り投げた。
パイロットの技術と機体の性能があってできる荒技である。
激しい水しぶきの中海面に打ちつけられたIkaijuはたちまちひるむ。
2人はその隙を見逃さなかった。
「喰らえぇ!」
Ikaijuの顔面に右ストレート、勢いそのままに左フックをお見舞いし、ふらついたところに頭の上で組んだ両手を振り下ろし、脳天に直撃させる。
ギェェェェェ
Ikaijuはたちまち海の底に沈み浮かび上がってこなかった。
「やったか?」
機体が確認のために残骸に近づいた。
突然のことだった。仕留めたと思っていたIkaijuが体当たりをしてきたのだ。
「何ぃ!」
「キャァ!」
急な出来事に対応しきれずに、海に転倒する。
追い討ちをかけるようにIkaijuが胴体に噛み付く。
《機体の損傷を確認。注意してください。》
ギチギチィ!
金属が歪む音が響き渡る。
「それ以上は、機体が持たない。早く振りほどけ!」
マイクも焦りを含めた命令が飛ぶ。
「そんなこと分かってらぁ!!」
アーマーが怒鳴りながらIkaijuの鳩尾の膝蹴りを入れる。
あまりの苦痛にIkaijuが距離を置く。
何とか2人は体勢を立て直して対峙する。
しばらくして痺れを切らした息絶え絶えになったIkaijuが一直線に飛び掛かってくる。
「同じ手は通じないわよ!」
メイルが左手で喉元を掴み拘束する。
気管を塞がれたIkaijuは手を解こうと機体の腕にダメージを与えていく。
「今のうちに!早く!」
メイルの意図を察したアーマーは力いっぱいに叫んで右手を振りかざす。
「ロケットパーンチ!!」
《ロケットパンチを音声認識しました。》
アナウンスとともに右肘についているバーニアが火を噴き、瞬く間に青い巨大な炎となった。
ロケットエンジンによる爆発的なエネルギーをそのままにIkaijuの顔に撃ち込む。
あまりの衝撃に喉元を抑えていた左手ごと吹き飛ばした。
ギヤァァァァァ
Ikaiju はそのままの勢いで海に沈み今度こそ浮き上がってくることはなかった。
「Ikaiju の残骸の回収完了しました。」
「あいよー。あとこっちでやっとくから、上がっていいよ。」
「了解。」
残骸を規定の解体業者に受け渡し事務手続きを済ます。
今回は変に苦戦してしまった。慣れとはやはり恐ろしいものだ。
負の念にかられると不意に手が繋がれる。
視線を向けるとそこには愛する妻がいた。
「お疲れ様。」
「あぁ、お疲れ。」
「油断したこと気にしてるの?」
「まぁな。俺のせいでメイルを危険な目に合わせてしまった。」
「私は鎧だよ。そんなこと気にしないで。」
「メイル...メイルは俺にとって鎧なんかじゃないんだ。」
「えっ?」
「メイルは俺にとって一番大切な人なんだ。だから傷ついて欲しくない。」
「アーマー...。じゃあさ..。証明して欲しいな。」
「えっ、今からか?」
「当たり前よ。いくらドリフトで負担を減らせても、魔力は消費するから。」
「おっ、おう。」
こうして今日もまた図鑑世界の平和は守られたのであった。
めでたしめでたし。
19/09/25 18:56更新 / 甘党大工さん