マスク
「あっ!マスクがもうない!」
外出時にはマスクを着用することが一般的になった現在、マスクは生活必需品となった。
布マスクに抵抗があった私は、使い捨ての紙マスクを箱買いしていたのだが、どうやら全て使い切ってしまっていたらしい。
「弱ったな…、マスクなしで外出するわけにもいかないしな…」
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
私が一人うなっていると、家の奥からジュルジュルと混沌が這い寄る音が聞こえた。
「それがな、マスクの補充をしておくのを忘れてしまってな。」
一見すれば不気味な容貌を視認しながらも、私は彼女を嫌うこともなく会話を続ける。当たり前だ、私の愛する妻なのだから。
ショゴスである彼女はゲル状の体を主と認めた夫を堕落させるために様々な形状に変化させる。現に私たちが住んでいるこの家も彼女の体で形成されていたりする。
「マスクですか?そういえば買い置きしていませんでしたね。」
「どうしたものか…何か代用できるものがあればいいのだが。」
最近ではキッチンペーパと輪ゴムで代用品を作れるらしい。見た目こそあれだが、今回ばかりは仕方ないか。
「私が用意しましょうか?」
買っておけばよかったと後悔の念に駆られていた私にとってその一言は救いの一手であった。
「ご主人様、私はショゴスですよ。マスクを作り出すなて簡単ですよ。」
「おぉ!それもそうだったな!」
目から鱗だった。彼女は家具や調理器具、衣類といった部類を錬成していることが多く、マスクなどの小物を生み出せることには盲点であった。
「早速で悪いが、マスクを作ってくれないか?」
「喜んで!」
マスクが作り出せるのであれば、毎回買い置きしておく必要もないな。とのんびり構えていると、頼られた彼女はスルスルとパンティーを脱いだ。
ん?パンティーを脱いだ?
目の前で行われている行為を理解するのに時間要した私は、ひどく混乱した。
「な、なぜ下着を脱ぐ必要がある!?」
「なぜって?ちょうどいい大きさの『私』がこれぐらいしかないからですよ」
当たり前のように脱ぎたてのそれを両手で広げると私の顔のあてがおうとする。
「ま、待ってくれ!いくら何でもそれを付けて仕事に行くのはマズい!」
「そうですか…」
顔に触れる直前で私の抗議に折れた彼女は悲しそうにうつむく。
こら、手に持ってるそれをいじけたようにビョンビョンするんじゃありません。ゴムが伸びるでしょ。
「わかりましたよ…作り替えますよ。」
「お、おう。」
ふてくされながらも下着をこねくり回すと、それはあっという間にマスクになった。私の好みを考慮して紙マスクにしてくれた点はさすが彼女というべきか。
「これならいいですよね?」
「まぁ、これなら…」
いくら見た目がマスクといえ元は先ほどまで履いていた使用済みホカホカパンティーだ。受け取った手には、ほのかに自分以外の肌のぬくもりが伝わる。
しかし、もう時間もなく、これ以上わがままを言ってしまったら彼女にも迷惑だろうと意識しないようにマスクを着けて鼻に形状を合わせる。
「ありがとう、それじゃあ行ってくるよ。」
顔中に彼女のにおいがびっしりと漂ってくるが、中学生じゃあるまし、いつものような態度を演じながら家を出る。
「えぇ、行ってらっしゃいませ。」
彼女もそれに追求することなく。両手を重ねお辞儀をして見送る。
だから、私は気づかなかった。
彼女がいたずらに色欲に歪んでいた表情をしていたことに…
異変に気付いたのは、通勤途中の電車の中だった。
やけにマスクが湿り気を帯び、私の顔にぴっちりと張り付く。車内のガラス越しに確認しても特に変わった様子もない。
内側だけ?そう私が疑問に思っと瞬間の出来事だった。
チュ。
何かが唇に触れた。
!!!!!
突然の出来事にマスクを外そうとする。しかし、耳にかかったゴムひもはがっちりと固定され外すことができない。その間にも…
チュ、ピチュ、プチュ、チュ。
何かがついばむように私の唇を触れたり、遠ざかったりする。
その行動に思い当たる節がある私は、確信した。
妻の口づけである。どうやらこのマスクを介して妻は私の体を好きにできるようだ。
情事をするときはいつも必ず、軽めのキスから始まる。ひとしきりキスをした後はいつも…
ブチュ、レロォー、ジュゾゾゾ。
噂をすればこれだ。先ほどまでとは打って変わって激しくむさぼるようなキス。普段の上品なイメージとかけ離れた。品のない獣のようなキス。
観念した私は彼女の舌遣いに合わせて舌を動かすと意図を察した彼女は大喜びで口内を蹂躙する。
ハム、ジュプ、グチュ、ベロォー、ズゾゾゾ。
互い唾液が入れ替わり、口内外がべっとべとになる。
私は周りに悟られないように、ただ一点を見つめ舌先を動かす。幸い音は漏れておらず、男一人マスク越しでディープキスをしているというチョベリバな状況はばれずに済んでいる。
降りる駅のアナウンスが流れると満足したのか、チュポンと最後に一気に吸い上げ、チュと頬に軽くキスをするとその後は何事もなかったかのように普通のマスクに戻った。
せめて口元をぬぐおうと改めてマスクを外そうとするがやはりというべきか、外すことができなかった。
今日一日このままかぁー。
私は、これからの起こるであろうことを想像し、いつも以上に重い足取りで職場へと向かった。
「主任、見積書の確認お願いします。」
「うむ、見せてみろ。」
通勤時の出来事を思い返す暇もない、せわしない職場で私は部下が作成した今回の企画の見積書に目を通す。
彼はまじめではあるが、詰めが甘く要所要所に誤りが見受けられる。
「この場所だが」
言いかけたとき、事件は起きた。
スリスリ、クチュクチュ。
「むぐ!」
「主任?どうかしましたか?」
口元に何かが押し付けられる。唇ではない別の何かが。
「な、何でもない。まずここの数値が…」
説明をしている間も得体のしれない何かが擦り付けられる。だんだん粘着性の高い液体も増えてきて会話が厳しくなる。
「そ、それとここの項目が足りてないっ」
「す、すみません!そ、それと本当に大丈夫ですか?」
流石にごまかし続けるのも困難になってきた。
「き、気にしないでくれ。それよりも早く修正してきなさい。」
「わ、わかりました!」
若干、追い払うようになってしまったがなんとかその場を乗り切ることができた。危なかった。
その間も押し付けられ続けた何かは動きが速くなると、ビクビクっと痙攣するとプシャーと液体が噴出した。
逃げ場もなく口元でそれをすべて受けきると、ツーンと鼻につくにおいが口いっぱいに広がった。しょっぱかった。
愛液と潮だったか…
他人事のように思いながら、口をゆすぐこともできないのでそのままに、自分の業務へと戻った。
今日は散々な一日だった。
帰りの電車の中で振り返る。
部下とのやり取りの後も、マスクが外せないので食事はマスク越しでの口移し、企画会議中の説明を聞いているときも口内を謎の触手で蹂躙されあまつさえ謎の液体を吐き出させられた。
これだけのことがありながらも周りにばれなかった。自分をほめてやりたいくらいだ。
疲労困憊のなか電車の程よい揺れが眠気を誘う。幸い降りる駅は終点だ。このままひと眠りしてしまおう。
そう思った時だった。
ぺチン、ぺチン。
頬に何か打ち付けられる。
またか。今日何度目か分からないイタズラにため息が出る。
形状的に程よく長くてしなやかである。
触手か。
どうせ口を閉じていてもねじ込んでくるだろう。
挑発的に入れろと言わんばかりに口を開けるとすぐにそれは口に入ってきた。
ん?触手じゃない?
口に入れてからいまでとは違うそれの存在に疑問を抱く。
しなやかだったそれはだんだんと芯を持ちはじめ硬くなり、熱を帯びてくる。ドクンドクンと力強く脈打ち始めた瞬間に私はその正体に気づいた。
まさか男根まで咥えさせるとはな。
普段、妻には男根は生えてはいないが形状を変化させる能力持ちだ。竿の一本や二本を生やすことなんて朝飯前だろう。
しかし、これは私のものよりも大きいのではないか?
客観的な立場に立ちながらしゃぶり続けていると、しゃぶられているだけでは満足できなくなったのか、私の口を上下にして扱き始めた。
ジュプ、ジュプ、ジュプ、ジュプ
ズンズンと喉の奥まで突かれると、息苦しくなり口全体で酸素を肺に取り込もうとするが吸い込めば吸い込む分、男根が喉の奥に突き刺さる。
呼吸も満足できない中、涙目になりながらしゃぶり続ける。
車内には人はおらず、自分自身ののどにオエェっとつかえる音だけが響き渡る。
打ち付けるスピードは次第早くなり、ついに
ドピュ、ドピュ、ドプドプ
成人男性であっても出せないであろう量の精液が口内に射精される。
あまりの量に吐き出しそうになるが、即座に口を押さえらえそれも叶わない。
いくらか鼻から噴き出しながらも必死の思いで飲み込み、それを証明するかのように私は口を大きく開いた。
彼女は舌を引っ張った。口内を確認したのだろうか。
しばらくして解放されると「よくできました」といわんばかりに頬を撫で、優しく口づけをした。
時同じくしてに電車はホームは到着し、私はまだ熱が冷めぬままおぼつかない足取りで帰路へと着いた。
家についたと同時に興奮した妻にこれでも絞り取られたのは当然のことだ。
その日以降我が家にマスクが買い足されることはなかった。
21/01/25 23:04更新 / 甘党大工さん