連載小説
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敗走2
「以上の点から、我が国の議会は貴方達の協力を要請しております。つきましては、この森で捜索を行いたいのですが・・・・」

ギザ国軍の中隊長である男が、里の最高司祭と話をしていた。内容はここに逃げ込んだと思われる敗残兵の捜索。

「貴国とは友好的な立場にあります。敵国の兵士の捜索でしたら協力致しましょう」

司祭はにこやかに中隊の面々に笑顔を見せる。エルフというのは皆美しい顔立ちな為か、隊の面々には彼女の笑顔はまぶしく見えた。しかし中隊長一人だけ真剣な顔つきで話を聞いていた。何しろ再三共闘を申し出ても断り続け、結局戦争に参加しなかった里だ。しかも里の方針を決めている最高司祭が相手なのだから何を吹っ掛けられるか分かったものではない。

そのまま司祭は話を続けた

「実はその兵が何処にいるのか検討はついているのですよ。その居場所を教えますが、一つ条件が」

「ほう・・・それで?条件とは?」

やっときたと隊長は思いながら、司祭の話に耳を傾ける。そもそもエルフの支配する森に無条件で入れる筈がないのだ

「恐らくあなた方が探している兵は、この里から10kmほど離れた集落に居ると思われます。里の兵が、血の跡を辿って調べました。それで条件ですが、その集落に居る者たちを、この森から追い出して頂きたいのです」

「・・・・・理由は?」

「邪魔だからです」

「・・・・追い出す・・・といいますと・・・土地を捨てろと忠告してこいと?それなら貴方達が行えばいいのでは?」

「我々ではなく、貴方達だからこそ可能なこともあるでしょう」

・・・ようは、どんな手段を使っても森から追い出せということらしい。だがその後の話だと血で森を汚さないように努力してくれとも要求された。つまり捕虜にして後は好きにしろということだそうだ。自分達の手を汚したくないから、軍の手を使って邪魔な者達を排除する。これが里の方針なのか、それともこの司祭が仕組んだことなのか定かではないが。

「了解しました・・・ではこちらでは、敵兵を匿った疑いがあるとして逮捕致します。」

本来の任務は敵兵の首を獲ることにあった。戦争で国土が疲弊している今、無駄に民を処罰するような暇はない。匿っていたとしても無視しようと隊長自身は思っていたのだが・・・・森の長がそういうのでは仕方ない。恐らく兵士の玩具にされた後は娼館にでも売り飛ばされるのだろう。最悪だ。

「そこまでして同胞を毛嫌いする理由を詳しくお聞きしたいのですが・・・・・・いやぁ・・個人的に興味がありましてね・・・何しろ無神論者なもんで」

エルフの里に勝手に入ってくる魔物は少ない。森に住み着いている魔物ならば、どう考えてもサキュバス化した同胞だろう。同胞だった者が悲惨な目に会うのが分かっていないことはあるまい。

「・・・・・・我々が信じる神の為・・・・我々が住む森の為・・・神託を承った以上それを遂行するのが信ずる者の務めです。」

彼女は真顔で隊長を見つめる。彼女の目からは一点の曇りもない。
この里のエルフは自然を神として崇める風習があるらしい。神木から神託を受け、それを遂行する。信者はこの森を愛し、守ることに執着する。だが、彼女は魔物化しかけている同胞を嫌う感情を混同させて、彼らを「森を汚す者達」にしてしまった。

(神のために鬼となる・・・神を守りたいという気持ちも人一倍強いのは立派だが狂ってるな・・・・まぁ皆狂ってるが・・・)

そんなことを思いながら司祭との話を終えて、その目標となる集落へと進む。
司祭の部下も3名ほど部隊に加わっていた。案内役だそうだが、恐らく監視が目的だろう。

「命令だ。北東約7kmのところに駐留していた部隊が居ただろう。状況を報告し、速やかに合流せよと伝えろ。さっさとこの仕事を終わらせて、首都に戻るぞ。」

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ハスケルは荷物を運んでいた。

軍が来るまでの間、荷物運びやら、何やら仕事をしようと思った。
主に、周辺を把握するのが目的である。

手錠もかなり甘い状態で繋がれている。さっさと逃げてもいいのだが
少し、罪の意識が残っているのか、逃げるのは彼女に申し訳がないと感じ、ずるずると逃げるのを後回しにしていた。

(まぁ・・・引渡しの際に報奨金の前払いがもらえるだろうし・・・彼女達の懐が暖かくなった後でも・・・)

「あのー・・・・・・・」

とりあえず荷物を運ぶ。ここ二日間ずっとこれだ。まぁ役立つならそれに越したことはないが・・・俺は・・そんなに・・・

「大丈夫ですか?」

(なんつう重いものを・・・)

バタン

「傷もまだ癒えてないし・・・無理しなくても・・・」

彼女は苦笑いしながら、倒れたハスケルを覗き込む。

体力は確かに自身ない。それでも普通の人よりはあるつもりだが

(あの華奢な体のどこにこの荷物を持てる力が?)

「なんつう体してやが・・(ry」

あれ?走馬灯が・・・

「なんかいいました?」

「・・・・いえなんでも」

「冗談ですよ!私達は、風のエレメントを操作できますので、ある程度の重さのものなら、重み調節ができるんですよ」

羨ましい能力だ。それが本当なら本当に敵に回さなくてよかったと心から思っていた。物の重みが変わるというのなら、目の前で振ってる剣の重みがいきなり変わることもあるのだろう、太刀筋を読むなんて不可能に近い。

「いい能力だなぁ〜自分が貧弱に見えてしょうがない」

彼女と共に木陰で休むことにした。そよ風が心地よい。とても敵地とは思えなかった。

「この間はごめんなさいね」

唐突に彼女が話しかけてきた。

「はて?・・なんかありましたっけ?」

「花瓶投げちゃって・・・貴方も傷だらけだったのに」

「HAHAHA!敵兵に情けなんて無用ですよ。本当だったらここで殺されてても文句言えませんから」

彼女のほうを見ながら、笑いかける。冗談で言ったつもりだったが、結構マジになっている。

「そんな・・・もうすぐ死ぬかもしれないのに・・・怖くないのですか?」

「ん〜〜〜まぁ〜〜どうでしょうね。もしかしたら逃げるかも」

なんともいえない答え方だ。まぁどっちでもいいのかもしれない。そんなことを考えながら、彼女を眺めていたら、ある点に疑問を持った。

「・・・・?・・・・その傷どうしたんですか?」

「あ・・・これですか?・・・」

彼女の袖から包帯が見え隠れする。見たところ新しい傷のようだし、決して浅い傷ではない。

「・・・この間・・・ちょっと里を眺めたくて・・・遠目から見てたら・・」

矢で肩を射抜かれた。

「・・・・・」
「・・・・・」

しばらくの間嫌な沈黙があたりを包み込む。それを壊すようにハスケルが話しかけた。

「・・・・・この森はいいところですね。とても綺麗で、でも・・・これ以上に綺麗な森も沢山見てきました」

嘘である。彼は旅をするような趣味はない。

「もっと良い森に移り住むことも・・・」

「・・・・・・」

彼女は黙ったままだ。顔も伏せている。

(・・・・・また・・・俺・・・まずい事聞いた?)

意識を集中し、肩の力を抜き、何が起きても対処できるようにしていた。

(ま・・・まてよ・・その大荷物をまさか・・俺に投げてくるんじゃ・・・死?・・・・)

どうみても、砲弾10個分くらいにはなるかと思う彼女の荷物が目に止まる。

あぁ・・・俺の人生はここで終わるのか・・・・・

妄想にふけってるところに彼女の返答が帰ってきた。

「それもいいですね・・・でも・・・」

ハスケルを見ずに独り言のように喋りだした。彼女自身も迷っているのだろう。

「私は、生まれて一度も外に出たことが無いんです・・・どうすればいいか・・・」

彼女はそのまま押し黙ってしまった。そこに彼のフォローが入る。

「まぁ・・そう堅く考える必要は無いと思いますよ。気の合う友達と一緒に遊びに出ることから始めればいいんですよ。ちょっと最近は物騒ですけど、貴方なら追いはぎの1つ、2つは屠れるぐらいは・・・あべし!」

「私だって乙女です。怪力の化け物みたいに言わないでください」

「でも・・いいですね・・・だれかと一緒に外にでるのは・・・」

そんな会話をしながら、荷物を家に置く。中身が気になって見てみたら蒔きだったことに驚いた。この森の薪は恐ろしく重い。生命あふれる木は重くなるのだろうか・・??

「貴方のオススメとか・・ありますか?やっぱり祖国?」

俺の国?・・・あんなに変な国をオススメするのも・・・

「なんだかなぁ・・・あの国がいいかといわれれば・・・まぁ・・・教団からの支援で結構面白い技術はありますね。たとえばこれとか」

そういうと彼女に自分がつけていたイヤリングを渡す。クリスタルのようだ。

「これは?普通のイヤリングにしか見えませんが」

「これは兵士のログを取るクリスタルです。通信機能は壊れちゃったけど」

エルドが圧倒的な力を誇った理由のひとつである。兵士一人一人とコンタクトが可能であり、戦況を逐次報告することが出来た。これによって作戦立案、実行が恐ろしい速さで行われていった。

「へぇ・・・面白そうですね・・・行ってみたいなぁ・・」

「まぁ敗戦国ですから・・・やめたほうがいいと思いますよ?それなら隣国のバルトとか・・ヴァーレンとかも・・」

「貴方なら・・どこに行きますか?」

「・・・・?」

(まともに他の国なんて行ったことの無い人間に聞かれても・・)

悩んでいるその時だった、木が擦れる音の中に甲冑同士がぶつかる金属音が聞こえた。風上から鉄の匂いもする。それは彼女も感づいたようだった。

「・・・・」
「・・・・さてと・・・・行きますか・・・」

非常に良い場所だった。名残惜しいさを我慢しながら集落の外へと向かった。
(そろそろ本番だ・・・問題は何時の段階で逃げるか・・・)

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集落の外れには、兵士が20名ほど待機していた。
いずれも若く、装備している甲冑も傷が少ない。

「なんだ・・・新米兵ばかりじゃないか・・・たいしたことないな・・」

少なくとも俺がしてきたことを知ってるのならもっと増やしてもいい。
そんなことを思いながら、エミリアがハスケルの持っていた装備を兵士に渡すのを眺めていた。

「これがこの人の持ってた武装です」

「はい・・・やたらと軽装だな・・・・・まぁいい・・そいつを連行しろ」

刀を受け取った兵士がそういうと、ハスケルの手錠を引き、近くの木に縛ろうとしていた。

「さてと・・・では次は報酬ですね」

「はい・・・・・」

先ほどまで普通に話をしてた人を引き渡し、利益を得るのは決して良い気分ではない。そんな顔を彼女はしていた。

兵士は金貨が入った袋を右手に持ち、左手で彼女の手をつかみ、手のひらに袋を落とす。

瞬間

兵士は右手の平に隠していた布で彼女の鼻と口をふさいだ。最初は驚きでエミリアは兵士の右手を離そうとしたがすぐに体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

「さてと・・・さっさと縛ってやっちまうぞ。村に突入しろ。このまま他のエルフも捕らえぞ。」

何人かの男達がエミリアを取り囲み、服を脱がそうとする。全員村に突入するのを後回しにしている様は兵隊というよりも盗賊だった。

「け・・・さっさとこいつを縛って俺達もお楽しみと行こうぜ・・・」
「あぁ・・まったくだ・・こんな損な役回りを押し付けられたままじゃぁたまんねぇよ」

俺の手に繋がれた鎖を引っ張り、俺と、俺の荷物を馬車に入れようとしていた。

(なるほどな・・・理由はよく分からないがこいつら集落にいるエルフたちを慰み者にしようって魂胆か・・・)

「お前は繋がれたままで残念だなぁ〜。まぁお前の分も俺達が楽しんでやるからよ!」

俺の鎖を引っ張っている男が、俺の肩を叩きながら呟いてきた。

(・・・・手薄になったら逃げようかと思ったが・・いいやぁ〜行きかけの駄賃だ!)

「あぁ気にするな・・・俺も「俺なりに」楽しむから問題ないよ」

「は?」





男が瞬きをして、初めて見た光景は





首の無い体2つと、宙を舞う血のついた鎖、そして薄笑いを浮かべ自分の腕についた手錠とその先にある鎖を振るう隻腕の男だった。


頭部が消えた体はその場に倒れこむ。その直後に、ハスケルはエミリアの周りに居た男達目掛けて、鎖で繋がれた先にある死体を思い切り投げた。

80kgを超える甲冑を来た男の体が宙を舞う。

投げた体勢からハスケルは地面に落ちた愛刀を握り、投げた死体の方へ特攻していった。

大半の兵士は突入前だった為事態に気付かず、5〜6名は女を囲んでいる。
それでも一人で特攻するには無謀な数に見えるが・・・

「HA! HA! HA!」

戦いというよりも一方的な殺戮に近い状態だった。

背を低くして走りながら、目の前に居る兵士達を斬り殺していく。刀を持った右手を鞭のように撓らせ、刀とは思えないような軌道を描かせながら、手の届く範囲に居る兵士達の首を斬り致命傷を負わせていく。

投げた甲冑が兵士に直撃し、4〜5m吹っ飛んだ頃に兵士全員がようやく気付いた。だが、その頃には半数近くの兵士が自らの血で作った海の中で悶えることになっていた。

「はぁ!?」

兵士全員が刀剣を構えるが、あまりに理解できない状況に浮き足立っていた。

ハスケルは、手錠に繋がれた死体を鉄球のように振るい、樹木の幹を蹴りながら縦横無尽に飛び跳ねていく。甲冑を纏い、動きづらく、また視界の悪い状態の兵士達は、戦いと呼べるような行動は一切とることは不可能に近かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・・・・

あたり一面に広がる血と肉片、ところどころで聞こえるうめき声、その地獄の中で血まみれになって肉塊を引きずる隻腕の男。この世のものとは思えない凄惨な光景とむせ返る血の匂いがあたり一面に広がっていた。

2分とかからずに終わった。

(さて・・・・増援をどう料理するか・・・・・その前に彼女に事情説明したいけど・・・)

体中血まみれで肉塊引きずった状態で何を説明できるのか。幸いまだ寝てる途中だから起こすのも面倒だとため息を漏らす。

(とりあえず集落の中に逃げ込むか・・・・・)

「ぐ・・・」

体に走る鈍い痛みに、ハスケルの視界がぼやける。

(・・・・ちょっとはしゃぎ過ぎか・・・こいつは無理できないぞ・・・)
11/04/28 02:45更新 / DORIDORI
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ども3回目の投稿です。

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