連載小説
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敗走
ここはエルフが住む森。一人の男が迷い込んでいた。
髪は黒髪の長髪、筋肉質ではあるが痩せており、左肘から下がなく隻腕、腰には東洋の刀を携えているだけで他には動きやすそうな服を着ているだけだった。刀には教会からの神聖文字が刻まれていたが、度重なる戦いで所々削れてしまっている。

(・・・・追っ手は・・・居るみたいだが遠いし気付いていないな・・・暫くこの森に潜むか・・)

そう呟くと彼は傷だらけの体を擦る。失った腕に焼き鏝を当てて止血した箇所は酷い状態だったが、それ以外の箇所も決して浅い傷ではない。並の兵士なら既に意識不明になっていてもおかしくない状態だった。

(くそ・・・まさか本当に消耗品扱いされるとは・・)

彼は三日ほど前、味方の撤退支援のため、殿を務めろと命令された。

敵の追撃部隊を倒し、回収地点に着いたが、半刻を過ぎても回収するドラゴンは来なかった。

まだ敵に制空権を奪われたようには見えないし、快晴だったこともあり
約束の時間を過ぎても味方が現れないのは、明らかに妙だった。すぐに気がつき、行動するべきだったが、心の何処かで認めたくなかった。

仲間はざわめき、途方にくれているいると、敵の放火が回収地点に降り注いだ。放火が辺り一面を覆い、隣に居た奴が粉々に吹き飛び、自分の腕が無くなってから、よくやく頭が働いた。


(捨てられた)


その後のことはよく覚えていない。意識がはっきりしてきたころには、全身ボロボロでたった一人道なき道を全速力で走っていた。

(しかし・・・やけに青々とした森だ・・・もしかしてエルフの領土か?
中に入る訳にはいかないが・・この先に行かないと港に着かない・・・だとしたら森の端にそって進むしかないか・・・)

異常に生命あふれる森だった。しかしこの森も、戦場になった場所なのだろう・・周囲に矢や剣の跡が木を傷つけている。

エルフ達は戦闘に参加しなかったと聞いているが、それでも戦闘の被害は受けているのだろう。仮にエルフが居た場合、下手したら警告無しで攻撃を受ける可能性だってありうる。

(しかし・・・どこで・・・休まないと・・・このままだと・・・・エルフに殺される前に俺がくたばっちまう・・・)

木の木陰に座り少し休憩してから隠れる場所を探すつもりだったが・・・想像以上に疲弊した体がそれを許さず。その場で気絶するように眠ってしまった。

誰かに担架で担がれ動かされているのを感じたが、体が全く動かなかった。

「生・・・・?」

誰かの声が聞こえる。でも何を言ってるのか分からない。

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それから三日間眠り続け、気がついたのは昼過ぎだった。

「っ!?」

覚醒した瞬間にベッドから飛び起きようとする。

(くそ!一体どれくらい寝てた!?敵は!?武器は!?ここはどこだ!?)

上半身を起こそうとした瞬間に首と右手に違和感が生じる。

その瞬間に全てを悟った。

(あぁ・・捕まったか・・)

手首に付いた手錠はベッドに固定されていた。手錠には何か文字が刻まれている。どうやら物質の強化が施されているようだ。そのせいか木製の手錠は鋼のように硬かった。

捕まったことを悟ると焦っていた頭は段々と冷静になり、ベットに再度横たわった。どうせ捕まったなら焦ってガタガタしても無駄だと思い天井を見上げ、逃げる計画を考え始めた。

(独房じゃないところをみると軍じゃないなぁ、PMCでもないし、エルフかな?あんな森のはずれで捕まるとはついてない・・・軍に身柄を渡せば報奨金がもらえるだろうから・・・逃げるチャンスは引渡しの際・・・)

部屋には、洒落た木製の家具が置かれ、女物の服が置かれている。
しかし、木製の家具はどれも加工を施された痕跡はなく、木が成長過程で
家具のようだった。

(エルフって木を自在にコントロールできるのかな?・・地味に便利だなぁ・・・・森で戦ったらやばそうだな。もしも戦うことになったらどうしようなぁ・・・木に火をつけて・・煙に隠れて・・・)

そう考えていると清楚な雰囲気を漂わせるエルフが一人、木の実の入った籠を抱えて入ってきた。

「・・・・起きましたか。今果物剥きます。」

そういうとエルフはテーブルに籠を置きナイフを片手に果物を剥き始めた。

(とりあえず・・・騙せるか試してみるか)

「私はギザの兵士です。貴方は私をエルドの兵士だと思っているのかもしれませんが、それは間違いです。貴方は刑法15条「監禁罪」に抵触している恐れがあります。戦時下特例により、敵国の兵士と間違えたとして、忠告前なら抵触いたしませんが、忠告後も監禁した場合、適用される恐れがあります。すみやかに手錠を外しなさい。」

エルフは果物を向きながら、動揺することもなく

「刑法15条は「通貨偽造」です。それに、ギザの兵士は最初に氏名と階級を述べるのが義務になってます。」

「ぇ・・・・うそ?敵国の資料に不備が・・」

「もちろんうそです」

にこやかに、微笑んだ。

(不覚・・・・)

アホな自分が憎い

「ボロボロになって森をウロウロしていたら誰がどう見ても、敵国の兵士ですよ。仮に味方だったとしても、身分を明かさない以上、手錠を外すわけありません。」

果物を剥きながらエルフは笑顔で喋ってきた。顔では笑顔を作っていたが目からは冷たいものを感じた。

「果物が剥けましたよ。捕虜に果物を差し上げるのもなんだか変ですけど」

彼女が剥いてくれた果物を食べる。数日ぶりに食べるマトモな飯は美味しい・・・・その前は死体から奪った血塗れのカンパンや、トカゲ、虫を敵の血で煮込んだ・・・・・思い出すだけで吐き気がする・・・・果物の味がしなくなってきた・・・・・話題を作って頭を切り替えよう。

「美味しいですね・・・まぁ、とりあえず自己紹介から。名前はハスケル・フレーゲ。階級は・・・・・少尉です」

「私の名前はエミリアと言います。この森に住むエルフです。このあと貴方を軍に突き出しますが、よろしいですね?」

「構いませんよ。一つ質問いいですか?」

「なんでしょう」

「貴方エルフじゃないでしょ?姿形は確かにエルフだけど、中身は明らかに別物だ」

彼女の表情は驚きに変わり、先ほどまであった笑みが消え、目は更に冷たくなった。

(あれ?・・・なんかまずいこと聞いた?)

逆鱗に触れた気がする。

「何故分かったのですか?」

「貴方の周囲の空気から魔物の匂いがしたってだけなんですが・・・・・・・エルフであると偽ったのだけは疑問があっただけで・・・別に他意は・・」

「偽ってません」

彼女が静かにこちらを睨む。その目からは悔しさと憎しみが込められているように見えた。

「私だって好きでこうなった訳じゃありません・・・・」

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それから暫くの間エミリアから話を聞いた。どうやら彼女は、元々この森に住むエルフだったが、サキュバスから魔力を浴びせられて以来、里を追われ、森の近辺で住んでいるそうだ。ここはそういったエルフの集落であると彼女は話した。

「私達は決して自らサキュバスになろうとした訳ではありません・・・でも・・・」

エルフの里から離れて森を歩いていた際、エルドとギザの部隊同士が争う戦場に迷い込んだらしい。
エルドの国軍にはエルフも加わっている。それでギザの部隊は彼女を敵と間違えたそうだ。結局彼女はギザの部隊に居たサキュバスから呪いをかけられ、半サキュバスとなってしまったというわけだ。そこから彼女の歩んだ道は酷いものだった。呪いをかけられ、なんとか戦場を逃げ延び里へ戻ったが、里は掟に従い、彼女を追放。当ても無く彷徨った挙句、この集落に保護されたそうだ

「私が何をしたんですか?・・・・何か皆さんに迷惑をかけたんですか?・・・なんで私が酷い扱いを受けないといけないのですか?・・・・貴方達さえ来なければ・・・・私は・・・」

彼女は心の底から搾り出すように問いかけてきた。それは怒りよりも絶望と諦めに近いものを感じた。

「私に聞きたい・・・・・貴方達はこの国で何がしたかったのですか?私たちを苦しめて楽しむためですか?」

ハスケルは黙っている。この人にどう答えていいのか分からない。そもそもあの戦争はギザに居た人間至上主義者を守るための派兵だった。だが彼女からすれば・・・いや・・・ハスケルから見てもこの戦争はエルドの侵略戦争にしか見えなかった。その侵略戦争に加担した人間が彼女に何と言えばいいのだろう。

「・・・・・分かりません・・・上の命令に従ったから・・としか・・・ごめんなさい」

「ふざけないでください!気休めなんか要りません!自分が間違ってるって思ったのなら何で直ぐにやめなかったんですか!自分の腕すら賭けて戦う理由があるんでしょう!?何の理由もなく私たちを苦しめたんですか!私の生活を返してください!私の幸せを返して!」

「・・・・・・・」

このエルフを直視できない・・・・どう答えていいか分からない・・・・

「そんな・・・卑怯ですよ・・・・自分の都合が悪いことは皆人のせいにして・・・・・・っぐ・・・・」

急に体を縮め彼女が苦しみだした。顔から大粒の汗を流し、顔も赤い。ハスケルがその様子を見て、おそるおそる手を差し伸べる。

「・・・・?・・・・どこか具合が?」

「・・・・・・魔力を浴びてから時々こうなるんです・・・・やめて・・・触らないで!・・・・・私を・・・・さらに苦しめないでください・・・・」

その台詞を聞いてハスケルもようやく気がつく。サキュバスになりかけているエルフは、サキュバスの本能に抗い、ひたすら耐えようとすると聞く。きっと自分が居るために彼女が苦しんでいるのだろう予想がつくとハスケルはすぐに手を引っ込めた

「ごめんなさい」

自分が出来る精一杯の礼儀だった。一刻も早くこの場から逃げたかった。後ろから彼女の泣き声と憎しみの篭った言葉が聞こえる。

「・・・皆・・・優しかったのに・・・・・私たちが・・なぜ・・・・」

(・・・・何か励ませないかなぁ・・・そ・・・そうだ!)

「と・・・とりあえず・・・戦争は終わりましたし・・・町はパレードをしてると思いますよ!せっかくですから、綺麗な服を買っていらしたらどうでしょう!きっとよく似合うと・・・が!!」

エミリアは花瓶を投げつけると、走って外に出て行ってしまった。

(・・・・ほんと・・・女性の扱いを知らないなぁ・・俺は・・・いや・・人間としてさっきのはありえない発言・・か?)

そんなことを考えながら体についた水を拭う。水が包帯の下に入りこみ、傷が鈍い痛みを放った。

(どうしてこんなことになったのかな・・・)

小さいころから剣技が好きだった。

ただひたすらそれに没頭し、自分の剣技が人の役に立てないか考えた。

考えた末、軍隊に入った。入った当初は自分が鍛えた技が役に立てると意気込んでいた。

役に立ちたいという気持ちは、戦う度に薄れていった。

誰も褒めてはくれなかった。

(・・・・俺は人の役に立てないなぁ・・・まぁもう慣れたけどさ)

部屋には、彼女が身に着けていた香水の残り香と花の香りが残っていた。
10/05/16 00:19更新 / DORIDORI
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■作者メッセージ
ども2回目の投稿です。

今回は戦争直後の話です。

図鑑のエルフがサキュバス化するってのからアイディアを頂きました。

ん〜いつも技術文書ばっかり読んでる身なので、物語書くのは結構新鮮ですね。(・・・文章になってるかどうか心配ですが)

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