読切小説
[TOP]
Compressor
 私は脚を折り曲げ配偶者に覆いかぶさられる体位――俗に言うところの種付けプレスが大好きである。
 魔術研究を行う傍ら消費した魔力を夫の精を搾って補給する日々だが、私はこの体位を最も好む。そのためにわざわざ幼い体躯をとっている。魔力行使に都合が良いという点もあるがそんなものはおまけだ。自慢ではないがその辺のバフォメットなぞには負けないほどの超ぷにぷにボディである。
 ところが私の夫はなかなかそれをしてくれない。そもそもそういうところに惚れて私が求愛したのだが、夫は私の研究を慮ってか性行為のアプローチさえも控えめなのだ。私が種付けプレスを好むようになったのもプレイの一環として夫にかけた魔法が暴走して襲われてしまったからだ。
 もちろんやろうと思えばできないわけではない。行為の際に私が頼めば彼は喜んでそれをしてくれるだろう。あるいは劣情を増幅させる魔法をかけてもいい。しかしそれは違うのだ。
 私は自然な流れで欲情した彼に押し倒されて種付けプレスされたいのだ。
 しかし彼は行為に対して基本的に受け身である。繰り返すがそういう奥ゆかしさに惹かれて彼と夫婦になったのだが。そういう人物が時折見せる荒々しさが私の心を惑わせて仕方がないのである。
 普段は自分を襲わないような人に襲われたいが、襲わせるのは何か違う。我ながら難儀な拘りようだ。

 今こうして寝室で彼といちゃいちゃしているがまるで襲ってくる気配がない。ベッドの中で私の体を包み込んでくる彼の腕は優しい。思わず相好を崩す私に心底愛おしそうな微笑みを穏やかに向けてくる。私を襲ったあの日の表情とは似ても似つかない。
 そもそももう押し倒されてない。至極穏便にベッドインしてしまっている。ここまで来たらもうあとは次第にいちゃいちゃがヒートアップしていつも通りえっちする流れである。
 「今日はリードしてほしい」と頼むことはできるだろうが、恐らく種付けプレスにはならない。大方正常位か対面座位といったところだろう。いや、好きではある。抱きかかえられて口づけされながら奥の方を小突かれるの、大好きである。大好きなのだが今、私は猛烈に種付けプレスされたい。
「……ナナ?」
 彼が私の名前を呼びながら顔を覗き込む。二人でベッドの中に入っているので当たり前だが顔が近い。彼と夫婦になって久しいが未だにどぎまぎしてしまう。
「あ……私、変だった?」
「いや、何か落ち着かなさそうだったから」
 しまった、思考が態度に出過ぎてしまっていたかもしれない。自分でも表情の変化に乏しいことは自覚しているが、彼はそんな私の些細な変化も鋭敏に感じ取ってくる。そんなところも大好きだ。大好きなのだが今回は裏目に出ている。まずい、彼に思考を悟られてはならないのだ。強調するが襲われるのが良いのであって襲わせてはいけないのだ。
「ごめんなさい、なんでもないの」
「そう? なら、良いんだけど」
 どうやら凌いだようだ。しかしどうすれば彼に襲ってもらえるのだろう。いっそデビルやインプのように蠱惑に彼を煽るか。いや、誘い受けは私の管轄ではない。というか普通に恥ずかしくてできない。仕方がないが、ここは次回に持ち越すか――
「ねぇ」
「え?」
「今日は、僕が攻めてみてもいいかな」
 一瞬、我が耳を疑った。私が彼に攻めてほしいと頼むことはあっても、彼が自分から攻めたいというのは今まで滅多にないことだった。
「あ、うん」
「そっか、ありがとう」
 呆気にとられながらも頷くと、彼はいそいそと準備を始めた。ともあれこれから始まる行為のことを思うと体が疼く。どうして今日に限って彼がこんなことを言い出したのかは判らないが、結果オーライとして愉しむことにしよう。
 彼は股を開くとその間に私を座らせた。白いショーツ越しの臀部に彼のモノの感触が伝わる。既にガチガチにいきり立っていると思うとどうしようもなく自分の中の雌が刺激され、下腹部がかぁっと熱くなった。
 肌に彼の手指が伸びる。キャミソールの肩紐がずり下ろされ、小ぶりな乳房がぷるんとまろび出た。肌の柔らかさを楽しむように揉み込まれ、悩ましい吐息が零れる。
「日がな一日研究ばかりしてるアンデッドとは思えない肌だよね」
「んぅ……ちょっと失礼じゃない?」
 頬を膨らますと「ごめんごめん」と宥めるように指で乳首を転がしてくる。
「あんっ」
 喉から艶やかな声が飛び出た。喘ぎもお構いなしに彼は執拗に敏感な突起を弄り回す。弾かれ、摘ままれ、押し潰され、彼の愛撫に喜ぶようにそこがどんどん硬くなる。
 血の気のない青白い肌がどんどん高揚し、熱くなっていくのが判る。愛撫が高揚を齎せど、下腹部の疼きはひどくなるばかりで収まるところを知らない。
 とうとう耐えられなくなって未だ愛撫を止めない彼の腕を掴み、上気した上目遣いで彼を見つめた。
 彼もそれを察してか腕を別の場所へ伸ばす。布越しだというのに、既にベッドのシーツに零れるほど濡れていた。
「下着の意味、ないね」
「っ、言わないで……」
 囁く彼の言葉で耳朶にぞくぞくと血が上る。消え入りそうな声で返した。
 股布を横にずらして、そこに彼の指が入り込んでくる。濡れそぼった蜜壺は愛しい人の指をいとも簡単に迎え入れると喜びに震えた。
「あっ、あ、んっ、はぁ……」
 指でも容易く最奥に到達してしまう小さなそれを彼の骨ばった指が掻き回す。彼の指が膣壁の敏感な部分を擦るたびに軽い絶頂を覚え、頭の中までかき混ぜられているような快感が喘ぎとともに全身を突き抜けていく。
 どれだけ快感を得ても満たされぬ子宮が雌の本能を刺激し、気付くと自分の尻をしきりに動かして彼の股座に媚びを売っていた。
 そうしてようやっと彼は私を仰向けに寝かせて、ズボンからいきり立つ男根を露わにする。天を衝き反り返るその形を見るや、否応なく盛りの付いた獣のように呼吸が荒くなり、彼に掻き回されてどろどろになった秘所が期待に蜜をごぷりと吐き出す。
「なんとなくさ」
「……え?」
「今日はこうして欲しいんじゃないかな、って思ったんだ」
 挿入への期待で支配された思考の中に彼の言葉が滑り込んでくる。彼の方から攻めたいと申し出るなど珍しいと思っていたがやはり……いや、彼は私の予想を超えて――
「……そうだよね?」
 彼は私の脚を掴んで持ち上げると、そのまま覆いかぶさってきて、そう訊いた。彼の宵闇のような藍の瞳が私を覗き込む。この体位は、そして全身に感じるこの重みは。それを感じ取った瞬間、完全にスイッチが入ってしまった。
「ま、待っ……」
「待たない」
「あっ、あああああああっ♥」
 これから受けるであろう快感に逡巡して制止したがそれも虚しく、彼の逸物が雌肉をぬぷぬぷと掻き分けてきた。
 幼女のそれは彼を受け止めるに小さすぎるが、彼は気にすることなく腰を更に進める。幼女であり、魔物でもあるそれは構わず進んでくる彼を咥え込み、歓喜に打ち震える。
「し、しきゅう、おしつぶされてる……」
「苦しいかもしれないけど、我慢してね」
「くるしくないっ♥ きもちいいっ♥」
「僕も」
 彼は口づけすると、舌で私の口をこね回す。腰をくねらせ、亀頭で子宮口をこね回す。上下の口を好き勝手に蹂躙され、自分の中の雌が咽び泣きながら悦んでいる。
 ぬるぅ……。ぬとぉ……。ぬるぅ……。ぬとぉ……。
 彼は錆びついたメトロノームのようなひどく緩慢な抽送で私の膣を攻めている。今まで漁ってきた書物や資料に無い攻めだ。自分の形を教え込むようなゆっくりとした種付けプレス。行きで子宮はじんわりと押し潰され、戻りでカリが膣壁をねっとりと引っかく。焦れったさよりも弱点をねちっこく擦られる気持ち良さの方が大きい。
「あっあ♥ これしらないっ♥ きもちいい♥ もっとしてっ♥」
「そう? よかった」
 私を敷く彼の顔にかつて見た荒々しさは無く、穏やかなままだ。けれど私はそんな彼に、自分だけの雌を支配するという法悦に耽溺する確かな雄の貌を見た。
「すきっ♥ すきっ♥ たねつけぷれすっ♥ きもちいいっ♥」
「はッ、はッ、それじゃ、種付けするからねッ」
「して♥ してッ♥ たねつけしてっ♥ ぜんぶしゃせーしてっ♥」
 彼が腰のストロークを早める。自分の雌を孕ませるためのピストン運動。雄の衝動のままに行われる抽送は感じるところ全てをごりごりと擦り上げ、その小さな最奥をどちゅどちゅと乱れ突く。
 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!
 肉と肉が弾け合い、男根と女陰とが融けて一つになるかというとき、彼は一際深く口づけしながら一際深く私を突くと――

 ずんっ! びゅるるるるるるっ! ぶびゅうううううううっ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ♥♥♥♥♥」
 その睾丸に散々溜め込んだ迸りを子宮へ一滴残らずぶちまけた。
 ディープキスされながらの射精。全身が弾け飛ぶような絶頂。意識は混濁し、それでも本能が相手を求めて口づけを続ける。

 やがて射精が終わり絶頂の波が引いてくると、確かめるようにもう一度軽くキスした。
 全身を虚脱感が包むなか、彼が私を抱き起す。彼の重みがなくなって寂しさに襲われたが、それも彼の抱擁ですぐに消えた。
「……はぁ。結局襲わせちゃった」
「え?」
「種付けプレス。してもらったのは嬉しかったけど、それって私がしてほしいってのを汲み取ったからしてくれたんでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「そうじゃないのよ。もっとこう……自発的にされたいのよ」
「えぇ……」
 彼が苦笑する。自分でも無茶を言っていると思う。
「でも、まぁ……そうだね。思えばいつもナナの方から誘ってたし、僕の方からも誘うようにするよ」
「ほんとにぃ?」
「ほんとさ。早速お願いしようかな」
 結合部で膨らんできた彼の男根が再び最奥にキスする。夜はまだ明けなさそうだ。
「あッ……♥ じゃあ、今度は……アレ、開けてシたいな……」
「ああ、アレ……」
 ここまで彼との行為を言語で表現できたのは言うまでもなく“アレ”のおかげだ。これを無くして夫との行為に臨んでは並の魔物ではろくな言葉を話すことさえも叶わないだろう。
 無論、“アレ”と経箱のことである。この体は既にえっちのための魔術で雁字搦めにされているのだ。そこで思考を失わないために経箱に魂を移している。
「それから……思いっきり、激しく、されたい。止めても、止めてくれないくらい……」
「……そう。それじゃ、お風呂場に行かないとね。どれだけ汚れてもいいように」
 頼みを聞いてくれた彼が私を浴室へ抱え行く。
「……ッ♥」
 
 経箱は開かれた。
 これは経箱を開けて体を重ねる度に思うことなのだが。
 覚えていないのだ。次に意識を取り戻した時、どれほどの行為がなされたのか。
 ただ、全身を覆う強い疼きと、これが経箱を開けて何度目のえっちなのかもう数えられないことから、これから始まることについてはある程度想像がつく。
 記録はここまでとしておこう。
21/04/15 22:41更新 / 香橋

■作者メッセージ
お読みいただきありがとうございます。
世に種付けプレスは多くあれど、そこにいちゃラブしているという要素を加えるだけで数が激減するのは個人的に難儀であると思います。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33