木桶に張った冷水に、照りつける陽光が反射する。散らばる水しぶきに乱反射している。飛沫は、細く白く、小さな足が起こしている。
　板張りの縁側に腰掛ける少女は、待ちくたびれたように両足をばたつかせては、ぱしゃぱしゃと飛び散り、光る飛沫を退屈しのぎとしていた。
　蹴り上げられた水粒が庭先の花々に乗ると、それらは色とりどりの宝石で彩られたように見える。
　彼女には花たちの喜びの証のように思えたが、表情は晴れなかった。
　彼女は桶の、波打つ水面を見る。そこに映る自分もまた、ゆらゆらと波打って見える。
　彼のもとへ行くよりも、彼女は言いつけを守っている。「少し用があるから、縁側で待っていて」と言われてから、しばらく経ったように感じていた。
　後ろを向いてすぐの部屋の壁に掛けられた時計を見ると、まだ五分と経っていない。もう何度となく見ている。長くないはずなのに、退屈に負けてしまいそうだった。
　じりじりと蝉の声が耳の中に響き続ける。今にもどこかへ飛んで行ってしまいそうだった時、きし、きし、と規則正しく床板の軋む音が聞こえて、彼女はすぐさまその方向へ振り向いた。

「ごめん。待たせたね、マリア」
「セオドア！」

　彼の声を聞いて、所在なさげだった彼女の表情がぱぁっと明るくなる。
　ハートの尻尾が喜色をたたえるようにゆらいだ。紺色の魔道装束に身を包んだ彼は、間違いなく彼女の待ち人である。

「体の調子、どうかな。おかしいところとか、ない？」

　セオドアが尋ねる。マリアは言われた通りに自分の体調を顧みてみたが、これといった違和感はなかった。はずだった。

「なんだかね……いつもより、どきどきしてるみたい。暑いからかな……」

　それまで活発に動いていた足は止まり、飛沫も止んだ。
　体が妙に汗ばんでいるのに気付いて、マリアはこめかみの汗を拭う。セオドアに問われて初めて気付いた体の『変化』に、彼女は内心戸惑っている。まるでこれが、彼の言葉が引き金となって起こったようで。
　好きな人の傍にいるときはいつでも、胸が高鳴ってしまうもの。それにつけても、自分の心臓が痛いほど脈打っているのに彼女は俯いた。大好きな彼の顔も見るのもままならないのは、明らかな異変だった。

「暑い、か……そうだね」

　セオドアの語調が何かを察して変わる。彼女への穏やかさは崩さない反面、反応に明らかに興味を示してもいる。
　彼は時に、新しく開発した魔法薬の被験体に自分の伴侶を選ぶ。無論、彼女の安全には充分に配慮した上でのことだが、そもそも彼の実験に危険が伴うことは少ない。当のマリアでさえ「効果は飲んでからのお楽しみ」と言われても、何の疑いもなく服用したほどである。
　親魔物領の僻地に棲む魔術師は、気の赴くままに、彼女のための薬を作る。魔物の魔力を応用した、魔物の為の薬――媚薬を。

「きっと、効果はもう出ていると思うよ」
　
　そう言ってセオドアがマリアの隣に座ると、彼女は自分の体の違和感が強まったのに気づいた。鼓動が更に早くなる。
　セオドアに近い方の肌が、じりじりと焼かれるように疼いている。

「セオ……ドア……わたし、やっぱりヘンだよ……からだ、あつくて……」

　この気持ちをマリアは知っている。彼に気持ちよくしてもらうときの気持ちと同じだ。
　マリアは切なげな視線を彼に向ける。疼きを収めてほしいと……助けを求めるように。

「おいで、マリア」

　彼が誘い、手を差し伸べる。花に惹かれる蝶のように、マリアは彼に吸い込まれてゆく。
　彼に手を握られたとき、マリアは自分の体の異変をはっきりと感知した。

「ひゃっ！？」

　握られた手が熱く疼いて、じくじくとした快感をもたらしている。敏感なところを優しく撫でられているような、甘く、浮ついた気持ち良さが走る。
　思わず身を引こうとしたマリアを、セオドアはすかさず抱きしめる。

「あっセオドア、だめ……！」

　青年の体格で彼女を包み込むのはたやすい。体と体が密着すると、さっきの手を握られたときの快感が全身を駆け抜けた。
　熱い風呂に浸かったときのような、けれどその何倍も強い快楽が襲ってくる。
　大好きな彼に抱きしめられる幸福と、薬の効果による望外の快感にマリアはそれ以上声を上げることもできず、体を強張らせながら震えて、なすがまま。頭の中が白く塗り潰されていって、何も考えられなくなる。
　やがて全身が弛緩するのを見て、セオドアは説明する。

「効果があってよかったよ。マリアが飲んだのは、熱に弱くなる薬。大好きな人の体温にとても弱くなってしまう薬だ。
　こうやって抱きしめられただけでイッてしまうくらい……弱くなるんだ」

　おぼろげな思考の中に彼の言葉が滑り込んでくる。抱きしめられただけで絶頂してしまったのは、その薬のせいだった。

「んむっ！？」

　セオドアは自分の腕の中で惚けるマリアに口付けをする。
　絶頂の後で虚脱していた意識が快楽で引き戻された。彼の口の中の熱が、混ざり合う舌と唾液を通して伝わってくる。抱きしめられるのもキスをするのも、いつもしていることなのに、いつもとは比べものにならないほど気持ちがいい。
　じゅるじゅるちゅるり。唾液が混ざって胃へ落ちる。焼けつくような気持ち良さ。彼の大きな舌が、小さな口の中を縦横無尽にのたうち回る。
　舌と唾液の温かさを感じる度に絶頂しているような気がして、頭の奥がびりびりと痺れる。

「……っは……は、ひ……っ」

　口と口とがやっと離れる頃、もうマリアは自分が彼の体温で何回絶頂したかわからなかった。全身が弛緩しきって、彼の両腕に抱かれていなければ頽れるしかないほど。
　けれど彼は呆けている暇はないと行動で示す。力強く抱いた両腕の片方が次第に下へ向かっていくのを、彼女は力無く抵抗する。

「あ、ぅ……だ……め」
「駄目じゃない。そうだよね」

　マリアの小さな手は、彼の手首を弱々しく掴んで、それまでだった。ドレスの下の純白のショーツは、既に下着としての役割を放棄して淫靡に濡れている。

「ひぁぁっ！？」

　当然、彼の指はいとも簡単にそこへ進入する。抱擁と口付けでじっくりと蕩かされ、どろどろの淫蜜を垂れ流す、幼い肉壺へ。
　セオドアは自分の体温をしっかりと馴染ませるようにゆっくり、ねちっこく彼女の中をかき混ぜる。
　ときおり彼の長い指が弱点に当たると彼女は強く震えて、そうでなくても全身を小刻みに痙攣させては撹拌されて白く泡立った愛液を、夢見心地のような嬌声とともに零し続ける。
　くちゅくちゅ、ずくずく。彼の温かさを感じれば感じるほど、彼女の体はそれに融かされていくかのような快感に蝕まれていく。それでいて一番大事な部分の疼きはひどくなるばかり。

「ん……ちゅ……ちゅるっ」

　セオドアの指が一旦止まると、マリアはせがむように彼に口付けした。気持ちいいのを止めたくない。既に熱がもたらす快楽の虜となっていた。
　指がぬるりと抜けると、彼女はそれにまた絶頂すると同時に、たまらない寂寞のようなものを感じた。けれどもそれは一瞬のこと。

「……マリア、いい？」
「！！」

　次に彼が服の股から覗かせたのは、彼の一番熱いところ。赤黒く腫れ、彼女の体を焼かんばかりの剛直。
　マリアは収まりかけた息を一気に荒くしてそれを凝視する。ぴっちり閉じているはずの秘裂から愛液がぼたぼた垂れる。抱擁と、口付けと、手淫でぐずぐずにされてはもうどうしようもない。
　彼の問いかけに彼女は答えることができない。意味のある言葉を発せずに、ただ……凡そその幼い外見には似つかわしくない淫猥な、媚びた目を彼に向ける。
　焦らしてもいい。けれど、今はもっと快楽に溺れさせたい。実験の成功に彼は会心の笑みを浮かべる。
　あとは、進むだけ。両腕の力は緩めない。飽くまでも自分の熱を味わってもらう。対面座位は、そうするのに最も適した体位。

「！　ぃぅ゛っ……！！」

　ぬぷぬぷと、男根が幼い肉の割れ目をゆっくりかき分けていく。
　今までとは段違いの熱の塊が、ヒダのひとつひとつを擦るたびに絶頂へ導かれる。暴力的な快楽が幾重にも襲ってきても、彼の腕の中ではそれを逃がすことはできず、ただ果て続けるしかない。

「気持ち良いね……」

　セオドアは挿入したまま動かない。動く必要がない。
　マリアに摂取させた薬の「伴侶の体温に弱くなる」という性質上、彼女は彼が挿入している限り、全く動かなくとも焼けるような快楽を享受し続ける。
　彼はただ動かず、両腕の中で快楽に翻弄される少女を、いとおしげな目で見つめる。とがった耳の先まで真っ赤にして、快感の熱に浸かる自分の妻を。

「マリア、聞こえるかな。これはきっと、女の子だけが味わえる効果だと思うけど」

　彼女は何回達したのだろう。間近で見ている彼でさえももう判らない。ただ、淫蜜を分泌し続けながら肉棒を締め付ける幼い膣を感じるに、彼女が味わっている快楽は幸せに満ち満ちたものだろう。
　聞けているかはそんな彼女を見る限り定かではない。それでも彼は続ける。

「大好きな人の熱いモノから出る、白くて熱いもの……この状態で出されたら、どうなるんだろうね」
「！！」

　彼の言葉がずくんと下腹部に響く。マリアはただでさえ火照った体の奥がかぁっと急激な熱をもって膨張するような感覚に襲われた。

「ら、め……ま、まっひぇ……」
「ま、待てないや……！」

　想像してしまったマリアは弱々しく首を横に振りながらも懸命にその先を拒む。
　けれども彼女の舌っ足らずの言葉とは裏腹に彼女の膣はその先をねだるように締め付けを強くする。
　待てるようにはできていない。彼も彼女の虜なのだから。

　どくん。

　セオドアはその瞬間、マリアの体をがっちりと抱きながら唇を奪い、灼熱と紛うばかりの精を吐き出した。
　焼けた白濁が小さな子宮を征服し、ひときわ強い快楽電流が少女の全身を駆け巡る。
　愛しい夫の熱で全身くまなく覆われ、思考もたやすく溶解する。強すぎる絶頂に声にならない悲鳴も彼の口の中で蒸発するばかり。

「！！　〜〜〜〜〜っ！！」
「……っ、しっかり、『栓』しておかないとね」

　やがてセオドアの吐精が終わり、絶頂の波が引いても、マリアはそこから降りてはこられない。
　吐き出された精が熱を失わない限りは。……彼と繋がって、彼の温かさを感じている限りは。

「うっ、また……！」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ！！！」

　魔性の膣は、絶頂すればしただけ蠕動して彼の精を搾り取る。
　彼はまた精を、熱を、吐き出す。そして熱は、彼女を苛んで絶頂へ導く。



　――薬の効果は、いつ切れるのだろう？　栓をしているのに、吐き出した精はどろどろこぼれていく。
　ふたりは途切れかけた意識の中で考えようとしたが、ついに叶わなかった。
　ふたりを冒していたはずの夏の日差しは、もはや意味をなさない。
　ただただふたりで溶け合う、酷暑の昼下がり。
　

■作者メッセージ
お読みいただきありがとうございます。
次回はお尻でします。おそらく。