6.少年期
「ぐっ…ああぁ……っ!」
激しい痛みが襲う
胸部には大きな切り傷。白魚のような肌はもちろん、鱗まで斬り裂かれている
人間ならば間違いなく即死の重症だ
なにが起きた
少年との距離を見誤った?幻術をかけられた?
違う、私がそんなことに気づかないわけがない
「………!………なるほど」
闘気を器用に操るやつだと思ったが、これほどとは
少年の持つ短剣が淡く闘気を帯びていることに私は気付いた
信じられないことに、少年は闘気で短剣の射程を伸ばしたのだ
射程だけではない
なんせ私の鱗まで斬ったのだ。威力も相当上がっている
私が戦いに身を置いて数百年、そんな芸当ができる人間は一人しか知らなかった
軽くため息を付き少年に語りかける
「お前には驚かされてばかりだな、少年」
素直に賞賛する
少なくとも私にはそんな器用な真似はできない
「(面白い…面白いぞこの少年は…)」
素晴らしき才を持つ少年、興味が湧かないわけがない
痛む体に鞭を打ち、胸を張って私は名乗った
「私の名はドラク・D・ファフニール。誇り高き魔王軍の将の一人。少年、名前を聞かせてもらえないだろうか」
少年がこちらをじっと見つめている
無理をしたのであろう、一切の攻撃を負っていないのにもかかわらず手足は震えており、立つのがやっとのようだった
強大な闘気にはそれ相応に器も伴っていなければ自壊する。闘気を扱う者ならば誰もが知る、基本中の基本だ
まあ、自壊するほど凄まじい闘気を持つものなど、少なくとも私は初めて見たがな
「………………」
「………だんまりか?魔物と話す口は持ち合わせていないと?つれないな、少しくらい話しても、罰は当たらないぞ」
少年は一度視線を外し、なにか考えるような素振りを見せたあと、観念したように話しだした
「………レイ。レイ・ファランクスだ。覚えなくていい」
「レイ…レイか。ふふ、覚えたぞ」
あからさまに嫌な顔を浮かべるレイ
「ではレイ。ここで見たことを忘れ、早々にここから立ち去るがいい」
嫌な顔を浮かべていたレイの表情が驚きに変わる
続いて頭に?が浮かんでいそうな表情に変化する
コロコロと表情を変えて、歳相応に可愛いところもあるようだ
「………なぜだ?」
「興味が湧いた。レイ、お前の将来にな」
私はゆっくりと語る
「いずれ私と互角に戦うことができると思える人間に、私は初めて出会った。武人として興味が有る。…立場上は連れ帰らねばならないのだが、それなりに自由な身でな。適当に話は合わせるさ」
私の言葉を聞き、冷静によく吟味してるようだ
むしろあちらが魔物なのではないかと疑うほどに、少年とは思えぬ冷静さである
「………二つ聞きたい」
「なんだ?」
「一つ、魔物は皆、お前のような姿をしているのか?」
「そうだな、魔王様が代わってからは皆人間の雌に近い姿をしてる。常識ではないか」
「………常識、ね」
私の答えに皮肉めいた発言をするレイ
「で、もう一つは?」
「あの魔法陣…あれは転移魔法陣だよな」
「そうだ。まあ、少年に知られた時点でここを利用することはもうないがな。次、ここに来たところでなにもないぞ」
そりゃそうだよな…とレイがぼやく
なにに利用するかまでは話せないが、正直この地点を子供一人に知られたくらいならば大した問題ではない
「私も一つ聞きたい」
「………なんだ」
「どうやって結界を抜けた?人間に対してはかなり強力な結界だと聞いていたんだがな」
「…結界なんて見ていない。破った記憶もない」
レイの言葉に嘘はないようだ
つまり結界は消えていた?あとで確かめる必要があるな
「そうか、ではもういいだろう。それとも、まだ戦るか?」
「………いや、あんたにはまだ勝てそうにない」
「ふふ、まだ、ときたか。楽しみにしているぞ」
心から笑わせてくれる。本当に面白い少年だ
「おっと、最後にしておくことが残っていた」
そう言い終わるのが早いか、私は一瞬でレイの正面に移動する
「っ!?」
「ふふ、逃がさん」
私はレイの抵抗する手をあっさりと払いのけ、頬に両手を添える。そして…
「ん……」
「ぐむっ!??」
拒むレイを無視し、その唇に貪り付いた
レイは必死で抵抗しているが、その手に力はない
先ほどの出した自身の闘気のダメージが残っているようだ
反面、私の胸の傷はもう癒えてきている
「ん………ん?」
その時私はレイの異常な、なにかに気付いた
「………ふぅ。なるほど、そういうことか」
そういって接吻を終え、レイを離すと、弾丸のように距離を離すレイ
剣呑な表情で口を拭い、唾を吐き捨てる
「………なんの真似だ」
「ふふ、文字通り、唾を付けておいたのさ。目的は半分達せられた」
「…半分?」
そう、半分である。まあ良い
「今度こそ話しは終わりだ。早々に街に引き返すがいい。ここのこと話してもいいが、無駄だと思え」
「………次は負けない」
「そうか、楽しみしている」
そう言い残し、少年は森に消えていった
少年が消えた方向をじっと見つめる
「(最後まで面白い少年だったな)」
最後、接吻をした理由は魔力を流し込み、他の魔物に襲われないようにするためでもあった
魔王軍の将であるドラクのお手つきに手を出す者など、よほどの実力者か、よほどの馬鹿しかいない
だが、レイに魔力を流すことはできなかった
「(魔法の才能はなくても、魔力の器がないものを見たのは初めてだ)」
どんな非才にも、魔力を容れる器は存在する
そこに淫魔力などを注ぎ込み、男を虜にするのが魔物の常套手段だ
だが、彼には器そのものが存在しなかった
「(結界もそれが原因か…)」
彼の数年後の姿を思い描き、心を熱くする
「………いずれ、必ず、私が倒す」
ドラクの心にあるのは情愛でも友愛でもない
闘争、ただ強くなることに貪欲であり、それだけであった
「さて…カプリにどう説明するかな」
彼女の呟きは、誰の耳にも入ることなく、静かに森に消えていった
激しい痛みが襲う
胸部には大きな切り傷。白魚のような肌はもちろん、鱗まで斬り裂かれている
人間ならば間違いなく即死の重症だ
なにが起きた
少年との距離を見誤った?幻術をかけられた?
違う、私がそんなことに気づかないわけがない
「………!………なるほど」
闘気を器用に操るやつだと思ったが、これほどとは
少年の持つ短剣が淡く闘気を帯びていることに私は気付いた
信じられないことに、少年は闘気で短剣の射程を伸ばしたのだ
射程だけではない
なんせ私の鱗まで斬ったのだ。威力も相当上がっている
私が戦いに身を置いて数百年、そんな芸当ができる人間は一人しか知らなかった
軽くため息を付き少年に語りかける
「お前には驚かされてばかりだな、少年」
素直に賞賛する
少なくとも私にはそんな器用な真似はできない
「(面白い…面白いぞこの少年は…)」
素晴らしき才を持つ少年、興味が湧かないわけがない
痛む体に鞭を打ち、胸を張って私は名乗った
「私の名はドラク・D・ファフニール。誇り高き魔王軍の将の一人。少年、名前を聞かせてもらえないだろうか」
少年がこちらをじっと見つめている
無理をしたのであろう、一切の攻撃を負っていないのにもかかわらず手足は震えており、立つのがやっとのようだった
強大な闘気にはそれ相応に器も伴っていなければ自壊する。闘気を扱う者ならば誰もが知る、基本中の基本だ
まあ、自壊するほど凄まじい闘気を持つものなど、少なくとも私は初めて見たがな
「………………」
「………だんまりか?魔物と話す口は持ち合わせていないと?つれないな、少しくらい話しても、罰は当たらないぞ」
少年は一度視線を外し、なにか考えるような素振りを見せたあと、観念したように話しだした
「………レイ。レイ・ファランクスだ。覚えなくていい」
「レイ…レイか。ふふ、覚えたぞ」
あからさまに嫌な顔を浮かべるレイ
「ではレイ。ここで見たことを忘れ、早々にここから立ち去るがいい」
嫌な顔を浮かべていたレイの表情が驚きに変わる
続いて頭に?が浮かんでいそうな表情に変化する
コロコロと表情を変えて、歳相応に可愛いところもあるようだ
「………なぜだ?」
「興味が湧いた。レイ、お前の将来にな」
私はゆっくりと語る
「いずれ私と互角に戦うことができると思える人間に、私は初めて出会った。武人として興味が有る。…立場上は連れ帰らねばならないのだが、それなりに自由な身でな。適当に話は合わせるさ」
私の言葉を聞き、冷静によく吟味してるようだ
むしろあちらが魔物なのではないかと疑うほどに、少年とは思えぬ冷静さである
「………二つ聞きたい」
「なんだ?」
「一つ、魔物は皆、お前のような姿をしているのか?」
「そうだな、魔王様が代わってからは皆人間の雌に近い姿をしてる。常識ではないか」
「………常識、ね」
私の答えに皮肉めいた発言をするレイ
「で、もう一つは?」
「あの魔法陣…あれは転移魔法陣だよな」
「そうだ。まあ、少年に知られた時点でここを利用することはもうないがな。次、ここに来たところでなにもないぞ」
そりゃそうだよな…とレイがぼやく
なにに利用するかまでは話せないが、正直この地点を子供一人に知られたくらいならば大した問題ではない
「私も一つ聞きたい」
「………なんだ」
「どうやって結界を抜けた?人間に対してはかなり強力な結界だと聞いていたんだがな」
「…結界なんて見ていない。破った記憶もない」
レイの言葉に嘘はないようだ
つまり結界は消えていた?あとで確かめる必要があるな
「そうか、ではもういいだろう。それとも、まだ戦るか?」
「………いや、あんたにはまだ勝てそうにない」
「ふふ、まだ、ときたか。楽しみにしているぞ」
心から笑わせてくれる。本当に面白い少年だ
「おっと、最後にしておくことが残っていた」
そう言い終わるのが早いか、私は一瞬でレイの正面に移動する
「っ!?」
「ふふ、逃がさん」
私はレイの抵抗する手をあっさりと払いのけ、頬に両手を添える。そして…
「ん……」
「ぐむっ!??」
拒むレイを無視し、その唇に貪り付いた
レイは必死で抵抗しているが、その手に力はない
先ほどの出した自身の闘気のダメージが残っているようだ
反面、私の胸の傷はもう癒えてきている
「ん………ん?」
その時私はレイの異常な、なにかに気付いた
「………ふぅ。なるほど、そういうことか」
そういって接吻を終え、レイを離すと、弾丸のように距離を離すレイ
剣呑な表情で口を拭い、唾を吐き捨てる
「………なんの真似だ」
「ふふ、文字通り、唾を付けておいたのさ。目的は半分達せられた」
「…半分?」
そう、半分である。まあ良い
「今度こそ話しは終わりだ。早々に街に引き返すがいい。ここのこと話してもいいが、無駄だと思え」
「………次は負けない」
「そうか、楽しみしている」
そう言い残し、少年は森に消えていった
少年が消えた方向をじっと見つめる
「(最後まで面白い少年だったな)」
最後、接吻をした理由は魔力を流し込み、他の魔物に襲われないようにするためでもあった
魔王軍の将であるドラクのお手つきに手を出す者など、よほどの実力者か、よほどの馬鹿しかいない
だが、レイに魔力を流すことはできなかった
「(魔法の才能はなくても、魔力の器がないものを見たのは初めてだ)」
どんな非才にも、魔力を容れる器は存在する
そこに淫魔力などを注ぎ込み、男を虜にするのが魔物の常套手段だ
だが、彼には器そのものが存在しなかった
「(結界もそれが原因か…)」
彼の数年後の姿を思い描き、心を熱くする
「………いずれ、必ず、私が倒す」
ドラクの心にあるのは情愛でも友愛でもない
闘争、ただ強くなることに貪欲であり、それだけであった
「さて…カプリにどう説明するかな」
彼女の呟きは、誰の耳にも入ることなく、静かに森に消えていった
15/08/30 06:36更新 / S.wf
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