読切小説
[TOP]
彼と兎と薬草と
 何事も、訪れる瞬間というのは唐突だ。特に、別れというものはいつだって唐突だ。
 本当に、唐突に訪れる。

 例えば、祖父母との別れ。

 ある日、祖父母の住んでいる村の村長から便りが届き、その事実を知らされた。
 流行り病で、村の人間の半数ほどが帰らぬ人となったのだそうだ。祖父母は、その半数に入ってしまった。
 暫く塞ぎこんだが、両親とその頃出会った――親友に励まされて、何とか立ち直ったよ。
 この親友ってのがとんでもない弱虫でね。足は速いし、色々とスゴイ奴なんだが…なんというか、いじめられっ子体質なんだろうな。
 悪ガキどもに虐められていたところを偶然通りかかった俺と親父が助けたんだ。
 その親父は傭兵上がりでね、まだ子供の俺を『訓練』と称して大人げもなく叩きのめしたりするような人だったんだよ。
 もっとも、おかげで俺も子供にしてはそこそこ喧嘩が強かったんだがね。
 今? いやいや、今は見ての通りただの薬草屋のオヤジだよ。喧嘩なんてもう何十年もしてないね。

 まぁ、その親父との間にも暫くして別れが訪れた。

 隣の町に出かけていって、そのまま帰ってこなかったんだ。
 本当に忽然と姿を消してしまってね。探索隊も出たが何一つ手がかりを見つけられなかった。
 丁度その頃は十五になったあたりだったかな? 流石に悲しみに伏せることはなかったよ。
 あの人の場合、なんというか実感が沸かなかったんだよ。いつも飄々としていて、掴み所がなくて、強い人だったから。
 今でも『よぉ』とか言ってひょっこり帰ってくるんじゃないかと思うくらいさ。

 だが、まぁ――母さんはそうも行かなかった。

 親父が失踪した心労からかな…病がちになってしまって、それから二年と持たずに逝ってしまったよ。
 色々と必死に手を尽くしたんだがね。親友と一緒に薬草について学び、またそれを手に入れるために森に入ってみたりもした。
 天命だったんだろうな…何? 運命だの天命だのって言葉は信じないって?
 そりゃお前さんが運命でもなんでも捻じ伏せられるくらいに強いからだろ。
 俺のような一般人のために運命だの天命だのって落とし所があるのさ。大魔術師様には縁が無い言葉かもしらんがね。

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

「起きろー! ほらほら、今日は良い天気だから仕事日和だよ!」
 ゆさゆさと揺すられてまどろみの中から引きずり出される。ああ、これは他の誰でもない。俺の親友――シスカの声だ。
「朝起こしに来てくれる幼馴染…あぁ、コレで――」
 目をうっすらと開いて俺を起こした人物を観察する。好奇心の強そうな、くりっとした赤い目、綺麗な若草色の髪の毛、そのてっぺんからはトレードマークの長い耳…
「――お前が女なら嫁にするのに」
「なにバカなこと言ってるんだよ…今日は仕事日和なんだから、寝ぼけてないで早く起きなよ」
「あいあい、わかったよぉ…」
 まだぼんやりとする頭をバリバリと掻きながら欠伸を一つ。少しはっきりしてきた目に拗ねたような困り顔(本人曰く怒り顔)をしたシスカが映る。
 上半身は人間に近い姿形をしている。大きく違う点といえば、頭のてっぺんについている長いウサギ耳くらいだろうか。
 下半身は…しこたま獣人らしい姿形だ。まぁ、所謂ウサギの下半身そのものなのだが。
 身体の大きさに比べてかなり大きな…というか発達した足腰だ。この足腰のおかげで俺の相棒であるこいつは素晴らしく逃げ足が速い。
「しかしまぁ、今日もウッサウサだな。お前が女なら押し倒すのに」
「ウッサウサってなんだよそれ…バカな事いってないで早く顔洗ってきなよ」
「へーい」
 あまりからかっていても仕方ないので素直に寝床から抜け出し、顔を洗いに行く。
 ざぶざぶと顔を洗い、塩をつけた歯ブラシで歯を磨き終えると、流石の俺もパッチリと目が覚めた。
 食卓に向かいがてら外の様子を窺ってみる…窓から差し込む眩しい日差しを見る限り、確かに今日はシスカの言っていた通り仕事日和らしい。
「目、覚めた?」
「ああ、バッチリな」
 食卓につき、既に用意されていたサラダをつつき始める。本日の朝食は生野菜のサラダと昨晩作ったポトフの余り物。それとちょっと固くなったパン。質素だが、野菜多目の健康的なメニューだ。
「それにしても最近欲求不満なんじゃないの? 朝からボクの事を嫁にしたいとか血迷っちゃってさ」
「そうかもなぁ…いや、この際お前が男でも…」
「うえぇ!? 何言って――あー…もしかして、夢見が良くなかった?」
 俺の些細な血迷い加減から敏感にこういうことを感じ取る辺り、流石は幼馴染の親友といったところか。
「まぁ、ちょっとなぁ。じーちゃんばーちゃんが死んだ辺りからズラーっと」
「それで朝から変なこと言ってたのか…ホント、君は見かけによらず寂しがりやだよねぇ。ま、簡単に吹っ切れることじゃないだろうけどさ」
 自分用に作ったニンジンのスティックをポリポリとやりながらシスカが複雑な表情をする。
 シスカも、既に両親を亡くしている。それも俺と出会うよりも前に、だ。
 孤児で、その上ワーラビットである彼は小さい頃はよく同年代の子供達に虐められていた。
 子供達にとって自分と違う存在、しかも親のいない存在というのは格好の虐めの的だったんだろう。人間というのは、自分と違うものを排斥したがるものだ。
「元気だしなよ、ってのも酷だけどさ。ママさんにパパさんもあんまり君に落ち込まれると悲しいんじゃない? 日々健やかに、ってのが口癖だったしさ」
「そうだな…ありがとよ」
「気にしないでよ。ボクと君の仲だろ」
 そう言ってシスカは得意げに微笑んだ。ああ――こいつが本当に女だったら良かったのに。

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

 身支度を整えた俺達は早朝の街中を歩いていた。朝日が夜の間に冷え切った空気を暖め始めてはいたが、まだ若干肌寒い…もうじき秋だ。
「今日はどこに行く?」
 横に並んで歩くシスカがこちらの顔を覗き込んでくる。耳がぴょこぴょこと動いているのは機嫌が良い時のクセだ。
「これから少しずつ寒くなるからなぁ。南の森で風邪に効くのを採ろう」
「ん、了解」
 俺達の仕事、それは薬草摘みだ。
 元々は病気がちになった母さんのために始めたことだったが、母さんが亡くなって俺とシスカの二人だけになった今、それは俺達二人の生活を支える術となった。
 方々を頼って書物を読み漁り、独学と実地で薬草の見分け方を覚え、それを二人で摘んで街の薬師や医者、市場の商人に売る。
 最初はなかなか上手く行かなかったが、二年近く続けるうちに少しずつ各方面からの信用も上がってきた。
 最近では生活に困らない程度に稼げるようになり、売り上げのいくらかをシスカの育った孤児院にも入れられるようになってきた。
「孤児院の方は最近どうだ?」
「ん、まぁいつも通り余裕は無いみたいだけど、いくらかはボク達も役に立ててるみたい」
「そっか…そういやサイモンの奴、城の衛兵に採用されそうなんだって?」
「そうそう! 城勤めで一生懸命頑張れば、騎士にもなれるかもしれないってさ! そうなったらうちの孤児院の出世頭だね!」
 興奮した様子でそうまくし立てながらシスカが目をキラキラと輝かせる。こいつにしてみれば孤児院で一緒に育った子供達は家族も同然なのだ。
「あいつならうまくやるだろ。人一倍努力家だしな」
 緑色の鱗に覆われたサイモンの顔を思い出す。彼はリザードマンの孤児で、生真面目を絵に描いたような奴だ。
 文武両道を地で行く上に、世渡り上手。きっと出世するだろう。ここの領主は人間ながらに『魔物』びいきだしな。
「僕たちも最近名が売れてきたよね。たまに薬草採取の依頼も入るようになったしさ」
「お前の営業活動の賜物かもなぁ。俺はどうも向かねぇみたいだし」
「君が無愛想すぎるだけだと思うけどね…」
 シスカが苦笑いをする。無愛想か…別に意識してそうしているわけでないんだがなぁ。

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

「うーっし、こんなもんか」
「こっちもいっぱいになったよー」
 刈り取った薬草でいっぱいになった鞄を持ってシスカがぴょんぴょん跳ねてくる。なかなかの収穫量だ。
 街を出てから二時間弱。お目当ての薬草の群生地に到着した俺達は順調に収穫を終えていた。
「根こそぎはやってないだろうな?」
「大丈夫だよ。全部採ったら来年採れなくなっちゃうしね」
「ん、ならよし。とっとと帰るぞ」
 帰ったら今回収穫した薬草を早速干さなければならない。この薬草は生のままよりも乾燥させておいたほうが高く売れるのだ。
「了解…うん?」
 突然シスカが耳をピーンと立てて辺りを見回す。
「どうした? 何かヤバいもんでも察知したか?」
 シスカは耳も鼻も利く。こいつの耳と鼻のおかげで今までに何度も危険を回避してきた。
「いや、そうじゃないんだけど…なんだか、変な感じが」
 シスカが自分でもよくわからないといった風に眉をしかめる。何が原因かはわからないが、早く帰った方が良さそうだ。
「戻るぞ、先導よろしく」
「わかった」
 ぴょんぴょんと俺がついていける程度のペースでシスカが駆け出す。ついていく俺は実は結構必死なのだが、シスカにしてみれば随分手加減しているのだそうな。
 前に一度本気で走らせてみたが、十秒と経たずに姿を見失ってしまった。走るスピードもそうなのだが、跳躍力が半端じゃない。十メートルくらいはひとっとびしてるんじゃないかと思う。
「はーやくこーい」
「こっちは結構必死だっつうの!」
 ぴょんぴょんと跳ねていくシスカを追って駆け足を始める。
 街の外に出たシスカは普段よりもずっと活動的だ。もしかしたら野生の本能をくすぐられるのかもしれない、獣人なだけに

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

「て…てめっ――ぜぇ、はぁ…結局街まで…走り通しかよ…」
 あの勢いのまま街までランニングさせられた俺は息も絶え絶えになってしまっていた。
 体力には自信があるが、荷物を背負ったまま一時間近くも走れば流石にこうもなる。
「だらしないなぁ」
 一方シスカは息も切らさず余裕綽綽でピンピンしていた。いくら昔いじめられていたとは言え、身体の成長した今では獣人であるシスカの方が体力は上だ。
 単純な力比べや掴み合いの喧嘩ということであれば話は別だが、脚力や持久力に関しては全く敵わない。
「な、何ぼなんでもお前と一緒にすんな――」
 何度か深呼吸して息を整える。
「はぁ、ふぅ…よし、一回帰って干すぞ。終わったら買い出しだ」
「ニンジンジュース買っていい?」
「許可しよう。ついでにメシも調達するぞ」
 グッとガッツポーズを取るシスカを伴って家路を急ぐ。
「あっ…」
「あん?」
 後をついてくると思ったシスカが急に立ち止まったので、何事かと後ろを振り向いた。何かと思えば、また耳をピンと立てて辺りを見回している。
「どうしたんだよ?」
「いや、なんだろ…またさっきみたいに変な感じが」
 辺りをきょろきょろと見回し、鼻をひくつかせる。どうも『変な感じ』とやらの発生源がよくわからないらしい。
「何やって――ん? 空の色なんかおかしくね?」
「え? 空?」
 二人で空を見上げると、確かに何か空の色がおかしかった。まだ昼間だというのに薄紫――というよりは、ピンク色に近い色になっている。
「変な空だね。まだお昼なのに」
「それもそうだが、こんな色見たことねぇぞ」
 異様な雰囲気を醸し出す空を見上げて二人で唸る。気がつけば街を往く人々も足を止めて空を見上げ、この異常事態に動揺しているようだ。
「なんかイヤな感じだな…家に戻ろう」
「うん、そうしよう」

 気を取り直してお互いに早足で歩き始めたその時だった。

 薄紫ともピンク色ともつかない暴風――いや、衝撃波に近いモノが街を駆け抜けた。
 街中は一瞬で阿鼻叫喚の巷と化す。
「ぐっ、おぉ…いってぇ」
 衝撃波に吹っ飛ばされた俺は派手に転がって雑貨店の軒先に置いてあった何かの樽に思いっきり頭をぶつけていた。
 苦痛に呻きながら辺りを見回すと、どうも周りの人達も同じように衝撃波を味わったらしい。アレだけの衝撃であったのにも関わらず、不思議なことに建物等が崩れたりはしていないようだ。
「くぅ…おい、シスカ! どこだー!?」
「ここ、だよ…」
 すぐ近くでやはり俺と同様に吹き飛ばされたらしいシスカを見つけた。見たところ外傷はかすり傷程度のもののようだが、どうも様子がおかしい。
「おい、大丈夫か!」
「傷はなんでもないけど、身体がだるくて…熱い」
 よろよろと立ち上がったシスカが胸元を押さえ、苦しげに息を吐く。先ほどの衝撃波が何か影響を与えているのだろうか?
「掴まれ、俺の家に急ぐぞ!」
「うん…」
 苦しげなシスカに肩を貸し、家へと急ぐ。
「うっ、くぅ…熱い」
「気をしっかり持て、もう家に着くから」
 大通りから一つ曲がり、三件目にある俺の家に転がり込む。荷物を居間に放り投げ、更にシスカの分の荷物も放り投げて俺の寝室へと向かった。
 この家でベッドがあるのは俺の部屋と、今はもう使っていない親父と母さんの寝室だけだ。あっちは片付けないと今すぐには使えない。
「身体が熱いのとダルいの以外に自覚症状はあるか? 頭痛や吐き気は?」
「はぁ、熱い、だけ…」
「わかった。解熱の薬草を煎じてくるからベッドで大人しくしてろ」
「うん、ごめん」
 シスカがベッドに倒れこむのを確認して、俺は採ってきた薬草を干してある倉庫兼乾燥室へと駆け込む。
「解熱、解熱…こいつよりはこっちのが効果が高いか」
 解熱作用をもつ薬草のうち、単体で一番効果の高いものを在庫から選んで持ち出す。
 薬師ならば幾つかの薬草を混ぜ合わせてもっと効果の高いモノを作れるのだろうが、残念ながら俺にそこまでの技術はない。
「これでよし、と。あと水と手ぬぐいか」
 乾燥させた適量の薬草と水を鍋に放り込み、火にかけた俺はそのまま家の裏手にある井戸へと足を運んだ。手早く桶に水を汲み、手ぬぐいを浸してシスカの待つ俺の寝室へと取って返す。
「調子はどうだ? 落ち着いたか?」
「はぁ、はぁ…大丈夫」
「ぜんっぜん大丈夫そうに見えねぇ」
 水に浸した手ぬぐいを絞って顔に浮かんだ汗を拭き取ってやると、シスカの苦しげな表情が少し和らいだ。
 額に手を当ててみると、やはりかなり体温が上がっているらしい。
「なるほど、こりゃ熱いわけだ。今薬草を煎じてるからな、我慢しろよ」
「うん…苦くない?」
「知らん。俺飲んだことねぇし、味まではどの書物にも載ってなかったからな」
「そこは気休めでも大丈夫だ、とか言うところだよ…」
 ボヤくシスカを無視して再び手ぬぐいを水に浸し、絞ってから額に置いてやる。
「何かあったら呼べ、俺は薬草の様子を見てくる」
「ん、わかった…」
 素直に頷いたシスカの頭をぽんぽん、と軽く撫でて煎じている薬草の様子を見に戻る。
 そろそろ沸いてきたようだが、煮詰まるまではまだ少し時間がかかりそうだ。今のうちに収穫してきた薬草を干しておくことにしよう。

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

「ふぅ、はぁ、んっ…」
 絞った手ぬぐいをシスカの額に置いてやる。
「解熱の薬草が効かないか」
「そ、みた、い…」
 掠れた声を上げるシスカの頬に手の甲で触れる。かなり熱い。このまま高熱が続けば命に関わりそうだが…薬草も効かないとなるとどうしたものだろうか。
 やはり医者なり薬師なりにもっと強力な解熱剤を調合してもらう他ないか。
「だいじょ、ぶ…なんだか、わかる」
「わかるって何がだよ?」
 俺の問いに答えず、シスカはそのまま眠ってしまったようだった。むしろ意識を失ったと言った方が正しいのだろうか。
「…仕方ねぇな」
 本人は大丈夫だと言っていたが、もう少し様子を見て事態が改善の方向に向かわないようであれば医者を呼びに行こう。幸い医者に見せるくらいの蓄えはある。
「寝てるうちにシャツだけでも替えとくか」
 窓際に干してあった俺のシャツを下ろし、シスカの布団を捲ってシャツを脱がせる。
「…なぬ?」
 脱がせてからとあることに気がついた。いや、有り得ないだろう。
「疲れてるのか、幻覚が見えるぜ…」
 目を瞑り、目頭をぐしぐしと揉んでからもう一度シャツを脱がせたシスカの上半身を見る。変わらない現実がそこにあった。
「どう見てもこりゃおっぱいだよなぁ…」
 シスカの胸が膨らんでいた。なんというか、女性特有のそれだ。所謂おっぱい様である。試しに揉んでみると、素晴らしく柔らかかった。
「…はっ!? いかんいかん」
 いつの間にかムニムニと揉みまくっていた俺だが、なんとか我に返ってシスカにシャツを着せることに成功した。
 しかしこれはどうしたことだろうか? 確かにシスカは男だったはずなのだが。
「三日前にうちで風呂に入ってたときは…間違いなく男だったよな?」
 つい三日前。採取中に雨に降られてびしょ濡れになった俺達は家に帰ってすぐに風呂に入った。勿論別々に入ったわけだが、その時風呂場に石鹸が無くて台所から風呂場へと俺が持って行ったのだ。
「確かに男だった、間違いない」
 ベッドの上で未だ苦しげな息を吐くシスカを見て俺は呟く。何が起こっているかよくわからないが、シスカが苦しんでいるのはこれが原因なのだろうか。
 もし、仮にシスカの身体が男から女に変わっていっているのだとすれば…原因は何だ? なにか良くないものでも拾い食いしたのだろうか。
 魔術師の作った魔法の薬とか?
「まさかさっきの衝撃波か?」
 シスカがこうなったのはあの衝撃波の直後からだ。あれが原因だとすれば…いや、それなら俺も女にならないとおかしいか。
「んー…わかんねぇな」
 健全な男である以上シスカの身体に対する興味は尽きないが、病人の寝込みを襲うような真似は流石にできないのでやめておく。
 まぁ、なるようになるだろう。シスカが起きた時の反応が非常に楽しみだ。
「うーむ…朝に冗談で言ったつもりの嫁にする発言が一気に現実味を帯び始めたな」
 今後シスカとどうやって付き合っていくべきか、それを考えながら俺は看病を再開した。

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

 ああ、シスカの奴が突然女になったのはお前さんの予想通りだよ。俺も後で知った話だがね、あの日が丁度魔王の世代交代の日だったのさ。
 あの衝撃波は新しい魔王の鬨の声だったんだろうな。
 あれから世界はガラリと変わった。俺の周りの環境もな。
 どう変わったか予想がつくって? そりゃお前…なぁ? そうなるだろうよ。
 今となっちゃアレだが、冷静に考えればすげぇよなぁ。だって朝まで男だったんだぜ?
 それがいきなり女になったのもそうだが、それにコロっとやられちまう俺もどうなのよ。

 元からあっちのケがあったわけじゃねぇよ! 俺は一貫してノーマルだ!

 …なるほど、魔王の魔力の影響か。サキュバスだっけか?
 確かに、もしかしたらヤられたのかもしれねぇなぁ。

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 ベッドの上を見てみるとそこにはまだちゃんとシスカが寝ていた。
 こちらに背を向けて何やらもぞもぞしている所を見ると、どうやら起きているようだ。
「よう、調子は良くなったか?」
 ビクッ、とこちらに背を向けたままシスカが身体を震わせた。何やらピクピクと痙攣しているが、返事をしない。
「おい? 大丈夫か?」
 シスカの肩に手をかけてこちらに向かせようとするが、シスカは言葉を発さずにそれに抵抗した。
「おーい? どうしたんだよ?」
「くっ…ふぅぅっ…!」
 くぐもった呻き声をあげたかと思うとシスカの身体が急に弛緩した。こてん、と仰向けになる。
「お、おい…大丈夫か?」
 焦点の合っていない赤い瞳が俺を捉えた。俺が居眠りする前よりも紅潮して見える頬によだれが垂れている。
「ぼ、ぼく…おんなのこに、なっちゃったぁ…」
「お、おう。そうみたいだな」
 様子のおかしいシスカに若干戸惑いながら手ぬぐいで口元を拭ってやる。汗に濡れて頬に張り付いた髪の毛がなんとなく色っぽく…いやいや、落ち着け俺。
「よ、よし。ちょっと桶の水を替えてくる」
 このままでは何か色々マズい予感がした俺は咄嗟に立ち上がってこの場から離れようとした。
 が、服の裾をシスカに掴まれてしまう。
「ねぇ…」
「なんだよ?」
「ぼくのからだ、どこかおかしくないかみてくれる…?」
「なっ!?」
 唐突な言葉に驚いて振り向くと、そこには布団をまくって下半身を露にしているシスカの姿があった。
 下着は既に取り払われ、何も隠すモノのない秘部は既に蜜でテラテラと濡れている。
「お、お前…!?」
「このふとん、きみのにおいがしみついてて…なんだか、においをかいでいたら…がまんできなくなっちゃった」
 見られて更に興奮してきたのか、シスカはそのまま秘所を自らの手で弄り始めた。彼――いや、彼女の指がその上を滑るたびにクチュクチュと淫靡な音が鳴る。
「はぁっ…はぁっ…ねぇ、おかしくない? ぼくのここ」
 息を荒げながらそう聞いてくるシスカを見て、俺の喉がゴクリと生唾を呑む音を立てる。
「もっと、もっとちかくでみてよ」
「あ、あぁ」
 誘われるままにベッドにふらふらと近寄り、シスカの秘所に顔を寄せる。
「ふっ、あぁっ! いきがあたって――ひっ!? あぁぁっ!?」
 気がつけば、俺はシスカの秘所の甘酸っぱい匂いに釣られてソレにむしゃぶりついていた。頭の芯がクラクラとして何がなんだかよくわからない。
「あっ、あっ、あっ!?」
 舌でシスカの秘所を舐めまわしているうちに何やら硬くしこった豆を見つけた俺は、無意識にソレに吸い付く。
「そ、それっ!? っ――!!!!!??」
 シスカが俺の後頭部を強く押さえつけ、腰をビクビクと跳ねさせた。俺はそれに構わずに吸い付くのを止め、今度は舌先で転がすようにソレを弄る。
「ひっ!? いぃっ! だめっ、それらめっ――!!!!」
 シスカが甲高い声を上げたかと思うと、俺の口に何か熱い飛沫が浴びせられた。一瞬小便かとも思ったが、どうも違うようだ。
「あ、あぁぁ…」
 シスカの身体がぐったりと弛緩し、ピクピクと小刻みに震える。絶頂に至ったらしい。
 俺はシスカの秘所から口を離すと膝立ちになって、ズボンごと下着を下ろして自らも既に最高潮に勃起している息子を露にした。
 それを見たシスカが期待と不安の入り混じった表情をする。
「ここまできたらもう…いまさらもう、やめられないよね?」
 そう言いながら自らの手で自らの秘所を広げて見せるシスカを見て、俺の理性は完全に吹っ飛んだ。
 獣のような声を上げながらシスカに圧し掛かり、自らの息子をシスカの秘所に宛がう。
「ひっ!? くるっ? きちゃう? ぼくのあそこに――っ!? き、きたぁぁっ!」
 ずるり、と一気に奥まで挿入し、その快感で俺はすぐさま射精してしまった。
 自分でするのとは比べ物にならない熱さと、締め付けの中シスカの最奥に自らの先端を押し付けたまま射精を続ける。
「や、やけどしそ――んっ…はぁ」
 シスカが俺の背中に手を回し、抱きついてくる。暫く余韻に浸った後、俺は再び腰を動かし始めた。
「えっ? んっ! あっ、あぁっ!」
 何故か全く収まらない自らの息子に従って獣のようにシスカを犯し始める。
「あっ、きゃっ!? すごっ、おかされてるっ! ぼくおかされてるぅっ! これっ、これすごいっ!」
 シスカが焦点の合わない目のまま、だらしなく口を開けて叫ぶ。
「すごっ! すごいっ! ちんぽすごいっ! もっとおかして! ぼくをおかしてぇぇ!」

 ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ―――― ――――

「二人そろってバッチリ魔王の魔力にヤられてたってわけか…で、その結果がソレと」
 店主の膝の上に座っているワーラビットの子供を見て俺様は苦笑いを浮かべる。
「うむ…あ、ルネ! その薬草は干さずに生のまま保存だぞ!」
「はーいパパ」
「パパー、西区のクラインさんから解熱と鎮痛の注文の問い合わせが…」
「ママとサーシャがもう届けに向かってる、そう伝えとけ…あー、どこまで話したっけ?」
「もう惚気話は腹一杯だよ。というか、何人居るんだ」
「十三人だ。あと一人くらいは欲しいな」
「よくやるもんだな…」
 ここは俺様の住んでいる街でもっとも大きな薬草専門店だ。十三人いる娘達のうち何人かは既に自立して、他の街で同じく薬草屋をやっているらしい。
 この店は品揃えが良く、また品質も高いので俺様も愛用しているのだ。
「さて、なかなか有意義な時間だったな。久々に落ち着けた気がするぞ」
「あんたも最近大変らしいなぁ」
「やめろ、思い出させるな」
 脳裏に二人の女王の顔がよぎって気が滅入る。
「お、噂をすればだ」
 ドバン、と大きな音を立てながら薬屋の扉が開かれて二人の女が突入してくる。
「ぐは、嗅ぎつけられたか! すまんが店主、約束のモノは調合するのに手間がかかるんでな、三日ほど待ってくれ」
「了解、頑張れよー」
 大魔術師を名乗る少年が近くの窓を開きその身を外へと躍らせ、その後を背中に透明な羽を生やした二人の美女が追いかけてゆく。
「ぱぱー? わたしにもいもうとができるの?」
「そうだなー…」
 遠くで炸裂音が聞こえる。ここ最近、毎日繰り広げられている空中ショーが今日も開演したらしい。
「大魔術師様次第、かな」
 
 今日も街は平和…とは言い難いようだった。
09/12/23 04:24更新 / R

■作者メッセージ
久々の執筆なのでなんだか元よりアレだったのが更に退化している気がします。
精進します(´・ω・`)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33