40ページ:ダンピール・稲荷(琴音)・リリム(アレクシア)
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「…………ここか。」
DL
そろそろ一般人が起き始めるかといった早朝、私は目的の町に着いた。 この町にいるのか…探すのが少しばかり面倒だ… それに……魔物がたくさんいる町らしいな…下手な行動をとると囲まれて面倒な事になるだろう…… 「まあいい…そうなったらまとめて始末すれば良いだろう。」 愛用の戦斧を担ぎ、歩を進める。 どんな奴が相手か…今から楽しみで仕方がない。 「………」 「…干乾びておるの…」 「輝はーん?大丈夫かー?」 「…返事がない、ただの搾りかすの様だ。」 「縁起でもない事を言わないでください…」 …我輩…ここまで搾り取られたのは初めてである… 10回を越えた辺りからの記憶がない…気がついた時には、フッサフサの八本の尻尾が目の前にあったである… まぁ、今日は休みだしゆっくりと… 「おはようございます師匠、今日から指導よろしくお願いします。」 …さようなら平穏な休日… と言うより師匠って何だ?我輩は弟子を取った覚えなんてないのだが… 「この子が輝ちゃんを気に入ったみたいでね、輝ちゃんの戦術や調教術を学びたいんですって。」 「自分で言っても悲しくなるだけだが、我輩の戦い方は卑怯極まりないものだからおすすめできんぞ?」 「正々堂々正面から戦うのも華があって良いと思います…ですが、私は師匠の様に不利な状況にも柔軟に対応できるようになりたいのです。」 眩しい位の笑顔で語る魔物の女性… 勝てる戦いをしたいならそれでも良いかも知れんが、彼女の様な綺麗な女性には似合わんと我輩には思えるである。 「しかしだなぁ…」 「…私には才能がないのでしょうか…?」 さっきまで明るかった彼女の表情が曇る。 次第に彼女の目が潤み始めてきた…今にも泣き出しそうだ。 「なんでもしますから…私の事…見捨てないで…」 一滴の涙が零れ落ち、それを皮切りに彼女の目から止め処なく溢れ出す。 「ぬぉっ!?お、落ち着くである!別に才能がないとかそう言うことじゃなくてだな…」 「でも…師匠は私に指導をしてくれないではないですか…」 「それは我輩が人に物を教えれるほど優れてるわけではないからで…」 「誤魔化さなくてもいいのです…師匠は私の事が嫌いだから冷たい態度をとるんです…」 我輩の説明に耳を貸す様子はなく、わんわんと泣き続ける女性… 「あぁわかった!教えれる範囲で良いなら教えるである!」 「本当ですか?ありがとうございます。」 我輩がそう言った瞬間に泣き止み、嬉しそうに跳ねはじめた… ……謀られた…今のは嘘泣きか… 「それじゃあ早速行きましょう。」 「私も行こうかしら。」 「そうはいかんで?」 不敵な笑みを浮かべるアレクシアを、桜花と弥生が左右から挟みこんだ。 「腰を痛めているのだから安静にしていないとな?なんならマッサージもしてやろう…ちょーっと痛いかも知れんが、我慢できるな?」 「良く効くお灸もありまっせ?ちょーっと熱いけど、アレクシアはんなら何てことないもんな?」 「あら?あらあら?お姉さん急に腰の調子が良くなって…」 「輝様の監視は私がします…アレクシア様はゆっっっくりお休みになっていてくださいね。」 魔物の女性と琴音に引きずられ部屋を出る我輩… 宿を出るとき、女性の悲鳴のようなものが聞こえてきた気がしたである… 「んー……ハッ!」 「ふむ、もう少し力を抜きつつ力を入れるといいであるな。」 「…どうやるんですか?」 「腕全体ばかりを使うのではなく、手首を上手く使ってだな…」 我輩も良く使う投げ物…彼女自身も多少は持っていたようだが、使ったことはあまりないらしい。 曰く、真っ直ぐ投げれないだとか、簡単に避けられてしまうだとか… 「大降りで投げれば、それだけ隙が出来て相手に避ける機会を与えてしまうぞ。」 「うーん…難しいですね…」 「コツさえつかめば簡単に出来るようになろう…焦る必要はないである。」 「輝様、リシェル様、お茶を用意しましたよ。」 「少し休憩をしようか。」 「わかりました。」 我輩と琴音の方に駆けてくるリシェル殿。 彼女自身、素の能力は我輩とは比べ物にならないほどの差があるのだが、少しばかり制御出来ていない部分があるようだ。 その証拠に、彼女が投げたナイフは的に当たらずに逸れ、周りの木や岩に根元まで深く突き刺さっている。 ある程度加減が出来るようになれば大分変わるだろう…先ずはそこからだな。 「不思議な味のお茶ですね?」 「私や輝様の故郷のお茶です…お口に合いませんでしたか?」 「いえ、とても美味しいです。」 「そうですか…よかったです。」 こうして見ていると、仲の良い姉妹のように見えるな。 …背丈や胸の大きさから言って琴音は妹だろうか? 「輝様、後でお仕置きですからね。」 「心を読むな。」 「…つまり、何かお仕置きをされるような事を考えたと。」 「…謀ったな!?」 「師匠をいじめないであげてください…」 「これは愛情表現の一つですから問題はありませんよ。」 「なら大丈夫ですね。」 なんてやり取りをしている所へ、何者かが近づいてきた。 背丈は我輩より大きくリシェル殿より少し背が高い、体の半分以上もの大きさのある戦斧も目を惹くな。 胸は琴音よりも大き…これ以上言ったらまた搾り取られそうだからやめよう… 美しく整った顔立ちではあるが、眼光は鋭く、見るものを圧倒するかのような威圧感を感じる。 身に着けている物は軽い物が中心のようだ…女性の身で大きな戦斧を使うのだから重装備は無理なのだろう。 何者かは分からない…だが、我輩達とお話しをしに来たわけではないだろうな。 「…お前が鉄輝か?」 「そうであるが…我輩に何か用であるか?」 「そうか…貴様が輝か…」 小さくそう呟くと、戦斧の刃先をこちらに向けてきた。 「抵抗して死ぬか抵抗せず死ぬか…どちらか選べ!」 「っ!?輝様!」 何者かが送った刺客か…我輩、何か恨まれるような事をしただろうか? ………うむ、思い当たるものがいくつもあるな。 「二人とも離れていてくれ…」 「師匠…」 「これが終わったら指導の続きをするであるぞ、それまでゆっくりと休んでおくである。」 二人が十分離れたのを確認して刀を抜く。 何を使うか分からない以上慎重に行動しないとな…あんなのでバッサリ斬られたら大変な事になりそうだ… 「自ら苦しむ死を望むか…いいだろう。」 「・・・・凄い威圧感だ。」 「直ぐに壊れるなよ?…いくぞ!」 戦斧を構え、我輩に斬りかかってくる。 間合いを取る意味合いもかねて後方へと回避するが… 「縮こまってんじゃないわよ!」 「ぬぉわ!?」 直後に我輩の後ろ辺りを中心に大小様々な火球が降り注ぎ、辺りが凄まじい熱気に包まれた。 直撃はしなかったのが幸いか……これじゃあ下手に下がれんな… 「どうした!その程度か!?」 「………」 先ほどの攻撃の前後…魔法を使う瞬間…どれをとっても隙がないか。 至近距離で攻撃を避けれれば強引に隙を作れるのだが… 「微塵に砕けろ!」 「っ!今か!」 振り下ろされた斧を回避し、そのままの勢いで背後に回りこむ。 そして、隙だらけになっている背中に蹴りを加える……筈だった。 「私の背後に…立つんじゃない!!」 突然頭を鷲づかみにされ、思いっきり投げ飛ばされた。 方角も悪く、その辺に生えていた木に背中がぶつかり、激しい痛みが襲い掛かってくる。 子供と変わらぬ小さな体のせいもあるが、相当な力の持ち主か…勝ち目がない…というか、もう勝負はついてるな… 彼女が手に戦斧を握り締め、ゆっくりと近づいてくるのが辛うじて見える…ぼやけて詳しくはわからないが… 「…弱い…弱すぎる…」 「輝様!しっかりして下さい!」 「師匠…よくも師匠を…!」 琴音とリシェル殿の声が聞こえるが……だんだんと視界のぼやけが酷く… 「……今日の私は淑女的だ…運が良かったな。」 意識を手放す瞬間…そんな声が聞こえた気がした… 「………んっ…?」 目が覚めると宿屋の天井が目に入った。 何とか生き残れたか……っ!?琴音とリシェル殿は!? 「二人なら無事よ。」 「アレクシア…」 「…輝ちゃん、何であんな無茶をしたのかしら?」 「さてな…慢心し過ぎた結果だとでも思って蔑むといい。」 「……輝ちゃんが死んだらみんな悲しむのよ?」 我輩が死んだら…か…あんまり考えたこともないな。 我輩のために涙を流してくれるものはいるのだろうか… 「今度無茶をしたら三日三晩休まずに搾り取るから覚悟しなさいよ?」 「それだけで終わりそうにない気がするが…まぁ、努力はしよう。」 「努力だけではだめよ、ちゃんと結果として示しなさい。」 「むぅ…」 これだけ言われてしまったらもう無茶は出来んな… ……まぁ、どの辺りからどの辺りまでが無茶なのかが曖昧なのだが… …んん?何かが布団の中に… 「…何をしているであるか…」 「今日は私と寝なさい。」 「いやしかし…」 「貴方が怪我をして運び込まれたとき…私がどれだけ心配したか…どれだけ苦しんだか…貴方に分かるのかしら?」 「………」 「…お願い…今日だけは一緒にいさせて…」 「いつも我輩の布団に潜り込んだりしているではないか…」 ゆっくりと頭を撫でると、我輩の服を強く握り締め、さらに体を密着させてくる。 いつもなら疲れているからなどと言って引き離すが、今日くらいは良いだろう。 「…この場面を誰かに見られていたらいらぬ誤解をされそうだ…」 「それでも良いじゃない、むしろ誤解じゃなくしてしまえばいいのよ。」 「うむ………うむ?」 「と言うわけで……いっただっきまーす!」 「ちょっ!?我輩今気がついたばかりで…アッー!!」 …たまには一人でゆっくり寝たい… 〜今日の観察記録〜 種族:ダンピール ヴァンパイアがインキュバスになる前の男性と交わり、子を宿すことで稀に生まれてくる魔物である。 分類上は完全に魔物であるが、人間に極めてよく似た容姿と似た気配の魔力を持つために半人半魔ともされているである。 魔物としては珍しく、魔物の価値観と常識的な人間の価値観を併せ持っているようだな。 仲魔:琴音 尻尾が八本に増え、そのせいか我輩でも手に負えないほどに強くなってしまったである… 強くなったと言っても、彼女が戦うことはないし絶対に戦わせないである。 琴音を傷付けたくないからな…………という建前もあるが、対峙した相手がかわいそうだからな… 仲魔:アレクシア 彼女が我輩と共に旅をする理由は未だによく分からないである。 曰く、輝ちゃんの事を気に入っているからだとか、他の娘がいなければ拉致って毎日エッチして過ごすとか言っているが… 我輩よりも優れた者は世界に五万といるだろうに……その辺りがどうにも解せぬである… |