36ページ:正体不明
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「ただいまぁー、先方にはちゃんと伝えてきたでー。」
DL
「すまんな…本来なら我輩が行かねばならんのだが…」 「気にせんでええよ、商談ついでやったしな。」 今日は、正体不明の魔物に教えてもらった迷宮へ挑むである。 弥生が伝えてきてくれたのは、今日は諸事情で行けなくなったと言う事だ。 日頃の礼の意味も含めていい物を持ち帰れるといいのだが… もちろん、琴音と桜花とアレクシアの分も探すである、普段から我輩を支えてくれているのだ…例の一つくらいしても罰はあたらんだろう。 「戦利品を入れる袋と自慢の発明品…ランプに囮用の等身大輝人形2体…罠解体道具一式と…後何がいるか?」 「魔法の地図は?アルラウネに貰ったって言ってたやつ。」 「おっと…これを忘れたら帰れなくなるところだったである。」 「…輝ちゃんって、私達と旅をする前にもダンジョンに潜ったりしてたのよね?」 「時々な、魔物の作る迷宮には普通に歩き回っているだけでは手に入らないような貴重な物が沢山あるから重宝していたである。」 「輝は重度の方向音痴ではなかったかの?」 「うむ…初めて潜ったときは出れなくて泣いた、見るに見かねた迷宮の主が外へ案内してくれたおかげで助かったが。」 「輝様の泣き顔……少しだけ見てみたい気もします。」 あの頃は不便だったな…地図を描こうにも、描いている途中でどっちがどっちだか分からなくなって結局迷うなんてことばかりだった… 妥協して冒険者を雇ったりもしたが、今度は報酬に金がかかって手に入れたお宝がほとんど手元に残らないという事に… しかし今は違う!この魔法の地図がある限り、我輩1人でも迷宮で迷う心配などないである! 「食料と水は行く前に買えばいいな…っと、刀も返してもらわないとな。」 「気をつけるのじゃぞ、帰ってきたら桜花式締め付けマッサージをしてやろう。」 「さくっと攻略して来るである、マッサージも楽しみにしているであるぞ。」 用意した道具を持ち、部屋を出る我輩。 久々の迷宮攻略だ…しかも、報酬を横取りする冒険者はいない…! 我が世の春が来た!今夜は大漁であるぞ! 「………」 わしは今凄く楽しい。 ここにダンジョンを作り出して何年になるか分からない… 今までに何人もの冒険者がここに挑み、配置した魔物に美味しく頂かれてきた… 1人、また1人と魔物は減っていき、最後に残ったのはわしだけ… 「………フフッ。」 わしは今凄く嬉しい。 冒険者を呼び寄せようと、宝を再配置し、噂まで流した… だが、今日この日までわしの元へたどり着いた者はいない。 構造も大分シンプルにした、罠も分かりやすく簡単な物へと変えた。 「…お主がわしの元へたどり着けるか…お手並み拝見といこうか…」 わしは今…凄く寂しい… 久々の山登りに多少苦戦はしたが、特に問題が起こる事も無く無事にたどり着けた。 我輩としては何か起こってほしいのであるがな…ここ最近大きな事件も何も無いので退屈であったし… 「入り口は……あれか?」 頂上付近を歩き回っていると、怪しさ満点の装飾が施された入り口を発見した。 分かりやすいと言えば分かりやすいが…こんなに目立っていると誰でも気づくのではないだろうか…? そうなるとお宝は期待出来んかも知れん…むぅん… 「…まあいい、あの魔物の正体だけでも暴くとしよう。」 持ってきたランプに灯りを点し、奥へと進んでいく。 ……うむ、地図もしっかり機能しているな、これで迷う心配も無いだろう。 …今思えば、地図を見ながら歩くのは危険だと言うことに気づくべきだったと思う… 「んっ?何か踏ん…」 瞬間、無数の矢が我輩に向かって放たれ、その内の1本が我輩の頬をかすめた。 ………… 「…いつも以上に慎重に行かねばならんか…」 使うつもりはあまり無かったのだが…早くも囮を使う必要が出てきたかも知れん… 「…あっ、罠の難易度を上げるの忘れておった…」 水晶玉の中に映し出された映像を見て呟く。 風の噂で聞いていたが、わしのトラップをかすり傷一つで耐えるとはな… 「まあいいか…これだけ手加減しているのだから、ここまで来てもらわないとわしが困る。」 他にも天井プレスやらテレポーターやらローリングストーンやら仕掛けているか…この程度のトラップでは足止めにもならんのだろう… 「フフ…お主がわしの……に相応しいか…しっかりと見させてもらうぞ…」 第一階層を突破して思った、罠の殺意が凄い。 いくら我輩でも、苔床 回転岩は死ねるぞ… と言うか、第一階層からこれか…先が思いやられる… 「…小部屋か…」 階段を下りて第二階層へ…そのまま道なりに進んでいると、やや狭い部屋に当たった。 部屋の中には何も無い…反対側に扉があるのも見えるな。 我輩は囮の人形を取り出し、部屋へと投げ入れた。 …が、反応が無い… 「……罠は無いか?」 警戒しながら部屋へと入るが、目立った罠も隠された罠もなさそうだ… 罠があると見せかけて設置してないとは…相手は相当な切れ者なのだろう。 そう考えながらドアを開けようとしたが… 「…開かない?……っ!?」 ドアはしっかり固定されていたようで開きそうになく、我輩がドアを調べた途端に部屋の入り口が硬く閉ざされてしまった。 我輩が気づいていない罠があったか…何が来る? すると、突然天井がゆっくりと下りてきた! 「わぁお、挽肉にされるのは勘弁であるぞ。」 周りを見てみるが、役に立ちそうな道具は落ちていないな… 我輩の道具の中にもつっかえ棒になりそうな物はない…あれ?これ詰んでね? ……いやいや…間違って味方が罠にかかる可能性もあるし、どこかに解除するための物があるに違いないだろう。 「とにかく落ち着こう…落ち着いて対処すれば問題ない。」 壁の確認!何も無い! 床の確認!何も無い! 天井の確認!結構近い! ………… 「……詰んだぁぁぁぁぁ!!!」 これは不味い!本気で洒落にならん! 解除出来ないとか酷すぎるぞ!責任者出て来い! ………来るわけないか… 「ざんねん!わがはいのぼうけんはここでおわってしまった!」 あぁ…もう目と鼻の先である…せめて、皆に礼を言ってから… ………ん? 「……あれ…軽い…」 迫ってきた天井を手で押してみると、思ったよりも簡単に押し返せた。 それに、触ったときの質感がおかしい……まるで木のような… 「あ、これ木だ。」 これなら斬れそうであるな…そうと分かったら早速実行しようか… しかし…なんでこんな罠を仕掛けたのだ?この程度なら罠を仕掛ける必要はない気がするのだが… 「くっ…こんな事ならもっと凶悪な罠を仕掛けるべきじゃった!」 と言うか、練習用に木の板にしたままじゃった…わしとしたことがうっかりしていたの… 何故わしは重要な場面で失敗をしてしまうのじゃろうか… 「…じ、じゃが!まだまだトラップはたくさんあるぞ!わしの元まで来れるものなら来てみるがいい!」 水晶玉に移る少年に向かってそう言い放つ…無論、わしの声は奴には届かない。 この程度で挫けている様では、わしの……にはなれんぞ… …鉄響の真の息子…鉄輝よ… 〜今日の観察記録〜 正体不明の魔物について、これ以上詳しく書けるほど情報が無いである…今回の分も含めて次項で記述するである。 と言うより、もう心が折れそうである…ただの人間の我輩に精神的なトラップ攻めは勘弁して欲しいである… …誰だ今お前の様なただの人間がいるかと言った奴は、次言ったら琴音を押し付けるであるぞ。 |