35ページ:ジャイアントアント・ユニコーン・正体不明
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鉱山への道を並んで進む我輩とジャイアントアント。
DL
あれから1週間ほど経ったが、我輩の刀の鑑定はまだ終わっていないらしく、採掘と鍛冶の技術を学ぶ作業をずっとやっているである。 ミラル殿の店で働く者達は皆面白く、毎日楽しく働かさせてもらっているである。 …実は言うと弥生が「授業料は輝はんの体(昼の肉体労働的な意味で)で払う。」なんて事を言ったおかげでこうして採掘までやっているわけであるが… 「うーん…今日も絶好の採掘日和だね!」 「それは良いのだが…何故今日は他の者を連れて来なかったのであるか?」 「体調を崩しちゃったみたいでね…風邪が1人、腰痛が1人、二日酔いが2人。」 体調が悪いのなら仕方がないが、二日酔いであるか… お酒と言う物はほどほどに飲むのが一番であるからな、潰れるほど飲むのは体に負担がかかるだけである。 「でも…そのおかげで輝さんと二人っきり……えへへ。」 「今日の採掘量は悲惨な事になりそうであるな…」 だがまぁ…ジャイアントアント殿が嬉しそうだからよしとしようか。 さらに歩く事数分、前方から何かがやってきた。 人目で魔物と分かる馬のような下半身…彼女の下半身は、清らかさを現しているかのような白く美しい体毛に覆われているな。、 何よりも特徴的なのは彼女の額にある一本の角だろう、ケンタウロス種の魔物で角がある魔物は我輩は2種類くらいしか知らん。 我輩の感が正しければ彼女はユニコーン…我輩が絶対に関わってはいけない魔物である。 「あっ、ユニコーンさんこんにちわ!」 「こんにちわ、これからお仕事?」 「はいっ!これから二人っきりで…えへへ…」 「二人?…もう一人の方はどちらにいらっしゃるので?」 「えっ?……なんで隠れてるの?」 「いや…我輩が近づくと悪影響が出そうなので…」 「ふふっ、気遣ってくれたのですね…大丈夫ですから出てきてください。」 ………いかん…彼女は本当に我輩が関わっていい相手じゃないである… これほどまでに何かを汚したくないと思ったのははじめてかも知れん…それほどまでに彼女の放つ雰囲気が清いである… 「自分で言うのもなんだが、我輩はユニコーン殿が思っている以上に汚れてるからな…気持ちは嬉しいが…」 「でしたらこちらから…」 「んなっ!?いやいや!そんな事をしたら……あっ…」 逃げようとしたのだが、草木が邪魔で思うように身動きが取れず、振り払っているうちに我輩の傍にユニコーン殿がやってきていた。 空を映しているかのような美しい瞳が、我輩の目をしっかりと見つめてくる… 「たしかに様々な魔物の匂いがしますね…」 「むぅ……」 「貴方には魔物を惹きつける何かがあるのかもしれませんね。」 「我輩はどこにでもいる普通の人間なのだが…」 「普通の人間だったら複数の魔物と関係を持つなんて出来ませんよ?」 そう言うものなのだろうか…我輩にとっての普通と周りの普通にはそんなにも差があるのだろうか… そもそも我輩は何なのだ?…我輩に出会う者は大体が我輩を変態だと言ってくる…魔物でも人間でも。 どこで道を踏み外したのだろう…むーん…? 「他の人間とは違うものを持っている…私達魔物からしてみれば、貴方の様な人間はとても魅力的に見えるのですよ。」 「そう言うものなのか?」 「一番重要なのは私達を心から愛してくださるかどうか…愛がなければ幸福な未来は訪れませんから。」 心から愛するか……我輩は琴音達を精一杯愛せているだろうか… ……今日は早めに帰るかな。 「では、私はそろそろ行きますね。」 「旦那様によろしくねー。」 「近い内にお店の方によらせてもらいますわ、明日が結婚記念日なので指輪を送ろうかと思ってるのですよ。」 「ミラル様の作る装飾品はいい物ばかりだからね、帰ったら伝えておくよ。」 「ありがとうございます…では。」 我輩達に軽く微笑むと、ユニコーン殿は町の方へと歩いて行った。 結婚か…今のところは我輩とは縁の無いもの…だと思いたい。 「ユニコーンさんいいなぁ…凄く幸せそう。」 「結婚とはそんなに良い物なのだろうか?」 「体験すれば分かると思うよ?」 「…何故我輩を見つめながら言う…こら抱きつくな!」 「えへへ…すりすりぃ…」 人目が無いとはいえ、こんなに甘えられると恥ずかしいである… しかし、突き放してしまうのも可愛そうであるし… 「…採掘はどうでもいいのであるか?」 「行くよ?でも…もう少しこのままでいたい気も…」 「はぁ…よいしょっと。」 「きゃっ!?」 我輩は、甘えてくるジャイアントアント殿を抱き上げた。 見た目よりは軽く、抱き上げていてもそれほど苦にはならないな。 「行きだけであるからな?しっかりつかまっているであるぞ。」 「……うん!」 より強く抱きついてくる…あんまり力を入れられると痛いからほどほどにして欲しいが… まあいい、残り半分駆け足で行くであるかな…! 無論、かっこつけたせいで腰が痛くなったがな… 見た目は老いないと言ってもあまり無理は出来んな… 「大丈夫?」 「…年は取りたくないもんであるな…」 「十分若く見えるけどなぁ…でも、疲れてるなら休んでても良いよ?」 「大丈夫である、いろいろと教えてもらっている以上、しっかりと働いて返さないといけないであるからな。」 そう言いつつつるはしを握りしめ、採掘を始める我輩。 初めてドワーフ殿と来た時はどう掘れば良いかも分からないような状態だったのだが、親切丁寧に教えてもらった甲斐もあって人並みには掘れるようになったである。 ちなみに、ここで掘れる鉱石はなかなか質が良いので我輩も幾つか欲しいくらいであるが、持って行く代わりに体で払うと言う条件付だったので諦めたである… 「フンフンフーン♪」 「ブン……ブン……」 「テンポが悪い!もっと早く!」 「これが我輩の限界である…」 なんて事をしながら採掘すること数分後… 「フンフン…ん?」 「どうしたであるか?」 「んー…何か硬い物にぶつかったみたい。」 彼女の掘っていた所を見ると、緑っぽい何かがちらっと見えていた。 「ふむ…もう少し回りを掘ってみればこれが何なのか分かるかも知れん。」 「じゃあささっと掘るね。」 そう言ってさくさく掘り広げていくジャイアントアント殿… 種族的にも職業的にも掘ることに関して彼女達には勝てそうにないであるな…見事な掘りっぷりだ。 そんな事を考えている内に、彼女が掘り当てた物が何なのかが少しずつ見えてきた。 「これは…壁か?」 「みたいだね…人工物っぽいね。」 彼女が掘り当てたのは、何者かが作ったであろう石造りの壁だった。 こんな山の中にあるくらいだから、もしかしなくても遺跡か迷宮のどちらかだろう。 「どうするこれ?」 「むーん……ちょっとだけ中を覗いてみるであるか?」 「どうやって覗くの?手応えからして生半可な力じゃ崩せないよ?」 「ククク…こんな事もあろうかと、新しい発明品を作っておいたのである!」 そう言いながら、懐から導火線の付いた玉を取り出す。 「爆弾?」 「ただの爆弾ではないぞ、寝て起きたら出来ていた我輩のとっておきである!」 「大丈夫なのそれ!?」 「設置したら逃げれば良いだろう、先に行っててくれ。」 ジャイアントアント殿が非難したのを確認し、導火線に火を点ける。 我輩はそれを壁に向かって投げつけ、物陰へと隠れた。 暫くして、あまり大きくない爆発音と共に、何かが割れるような音が採掘場内に響き渡った。 「…不発だったのか?」 がっかりしつつ壁の方を見ると、そこにあった壁が崩れており、土煙の中から咳き込みながら何者かが現れた。 外見は凄く幼いであるな…ミラル殿の様なドワーフと比べるとそうでもないが… 頭の部分には、大きくて立派な角があるな…山羊の角を連想させるようだ。 後、手足がモフモフした毛に覆われているのが分かる…凄く触り心地が良さそうである… 体にはタオルを巻きつけているな、入浴中だったのだろうか? …ここまで特徴が出ているのだが、何という名の魔物かが分からないである…帰ったら少し調べるであるか。 「げほっげほっ……人が気持ち良く湯に浸かっている時になんて事をするのじゃ!」 「今のは一種の事故である…すまない。」 「けほっ…しかし、壊れないように魔法で補強したと言うのに…直すのに時間がかかりそうじゃ…」 「壁は我輩が直そう…本当にすまなかった…」 「これに懲りたら……む?」 何かを言いかけていたが、それを中断して我輩の顔を覗き込んでくる。 我輩の顔に何か付いているだろうか? 「…お主、鉄輝じゃな?」 「っ!?何故我輩の名を!?」 「やはりそうか…クククッ、面白いことになりそうじゃ。」 「む?」 「……この山の頂上にダンジョンの入り口がある、来るか来ないかはお主次第じゃがな。」 やはり迷宮だったか…お宝があるかも知れないであるし、準備をしてから挑むであるかな。 …でも、この魔物は一体何なのだろうか… 「壁はわしが直しておく、お主が来るのを楽しみにしているぞ…」 「ちょっと待て…ぬお!?」 謎の幼女を止めかけた所で目が眩むような光が辺りを包み、治まった頃には壁は元通りになっていた。 彼女は何者なのだろうか…むぅ… 「…大丈夫ですか?」 「むっ?そう言えばいたであるな…」 「酷い!私が逃げた後に出てこなかったから心配して見に来たのに!」 「すまん…今日はそろそろ引き上げた方が良さそうだ。」 「え?どうしてですか?」 「この壁について報告したほうがいいであるし、準備もしないといけないからな。」 「んー?…分かりました、戻りましょうか。」 採掘道具を拾い、入り口へと歩き進める。 ふと後ろを振り向いたその時、先程の幼女が意味深な笑みを浮かべて見送っているのが見えた…ような気がした… 〜今日の観察記録〜 種族:ジャイアントアント 働き蟻と呼ばれるだけあって、彼女達は皆働くことが大好きなようである。 目が覚めると直ぐに仕事を始め、日中の間は真面目に仕事をこなしているである。、 後、彼女達は疲労するほど性欲が高まるようで、仕事帰りの彼女達はいろいろと危険であるため注意してもらいたい。 種族:ユニコーン 額にある1本の角と白く美しい毛並みが特徴的なケンタウロス種の魔物である。 魔物であるが純潔の象徴とも言われ、彼女達が夫として選ぶのも女性や魔物と交わったことの無い童貞のみだと言われている。 しかし、彼女達も他のケンタウロス種同様好色らしく、夫となった者は彼女達が疲れ果てるまで激しく交わる羽目になるだろう… 種族:正体不明 山羊のような角とモフモフした手足を持つ魔物である。 詳細な事は我輩も分からないのだが、かなりの実力を持った魔物だと言うことは分かるな。 それにしても…あの肉球、凄く触り心地が良さそうだったである… |