24ページ:ミノタウロス・オーガ・形部狸
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無事に鍵を見つけ、すばらしいものを手に入れた我輩は、やや大きめの扉の前に立っていた。
DL
えっ?入らないのかって? 我輩は直ぐにも入りたいのだが…… 「早くせんか、おいて行くぞ?」 「ぜぇ…ぜぇ……もう少しゆっくり…」 「最近の若者は鍛え方が足りないであるな、ほら!座ってないで行くぞ!ハリィ!ハリィ!!」 「くっ…後で覚えていろよ…」 とにかくこの男の足が遅いこと遅いこと… まだその辺の子供の方が早い位である… 自分で案内すると言った手前放って置く事も出来ず、大幅に進行速度が遅れる事になってしまった… まあいい、さっさと中に入ろう。 「突撃であ……る…?」 勢い良く扉を開け、中へ入ろうとした瞬間、我輩はその場で固まった。 「どうした?……」 動かなくなった我輩を不審に思ったのか、男が中を覗き込み我輩と同じように固まった。 「どうした?最近だらしねぇな?」 「あれか?見せ掛けだけで超びびってるな?」 ……何この濃厚な空間。 「ん?何だお前らは?」 「乱入してくるとはとんでもない奴らだ。」 「こ、こいつらがこの部屋を守っているのか!?」 「そうらしいであるな。」 「こんな所で足止めを食らうわけには行かない!」 そう言って鞭を取り出し、勇ましく突っ込んでいく男。 …貴殿の犠牲…無駄にはしないぞ。 「闇に帰r」 「お前が帰れ!」 「ヴァーーーー!!」 「大きな古時計だっ!」 「へぶっ!!?」 我輩が奥の扉に手をかけようとした時には、情けないほどあっさりとやられてしまっていた… ちなみに、何が起こったのかを説明すると… 1.男が鞭を振り上げ、オーガに向かって突撃。 2.目にも留まらぬ速さでオーガがサマーソルトキックを男の顎に叩き込む、この時点でミノタウロスが時計を持ち上げて大きく飛び上がる。 3.吹き飛ばされ、宙を舞っている男をミノタウロスが上から時計で押しつぶしにかかる。 4.男、再起不能(リタイア) この間、僅か10秒である。 「何だ、もう終わりか?」 「歯ごたえの無い奴だな…」 …急いで先に進んでしまおう………んっ? 「あ、開かない…」 「素通りなんてさせねぇぞ?」 「先に進みたいなら、私達を満足させてからにしな。」 むぅ…困ったことになったぞ… 我輩では、たとえ幸運の女神が溺愛してくれたとしても彼女達には勝てんだろうな… 体力的にも、我輩の方が先に音を上げることになるだろうし…… ……通じるか分からんがやってみるか…… 「いいだろう…どんな手を使ってでも満足させてやるである!」 「そうこなくちゃ面白くない!」 「久しぶりに大暴れさせてもらおうか!」 こちらへ向かってくる二人を満足させるべく… 懐から、調理器具を取り出した。 「ふーっ…食った食った。」 「こんなに食ったのも久しぶりだな。」 「味は大丈夫だったか?久々に料理をしたから腕が鈍ってたかも知れん…」 「美味かったぞ?」 「確かに美味かったな。」 よかった、腕前はまだまだ現役だったようだ。 一時はどうなるかと思ったである…思い付きばかりで行動するもんじゃないであるな… 「腹いっぱい食ったら眠くなってきた…」 「満足してもらえたかな?」 「んー…私は満足したな。」 「右に同じ…ほら、持ってきな。」 オーガが我輩に何かを投げてよこしてきた…これは鍵だろうか? 「先に進みたいんだろ?その鍵で開くよ。」 「すまんな。」 「あんたと戦えなかったのがちょっと残念だが…まあ仕方ないな。」 「ふむ…今度会ったときにでも手合わせ願えるであるか?」 「いつでも来な、こいつ共々相手してやるよ。」 「むにゃむにゃ……もう眠れねぇよ…うへへへ……」 オーガ殿に見送られながら、扉を開いて部屋を後にする。 今度は力比べか…しっかりと体を鍛えないといけないであるな。 あ、ついでにさっき返してしまった鞭も持っていこう。 「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!お財布の軽い方でも大歓迎!本日限りの商品もぎょうさんありまっせー!」 何だかまた変なのが… 太くてふわふわした見た目の尻尾…やや丸味のある獣の耳…足にある体毛はとても触り心地が良さそうに見えるであるな… 琴音から聞いた事があるが…刑部狸と呼ばれる魔物だったか? そんなことより、こんな所で商売してて客なんて来るのであろうか… あ、客って我輩のことか。 「そこのにーさん!うちの自慢の品見ていかへんか?」 「ふむ…そうしていきたいのは山々なのだが…先を急いでいるのである。」 「つまり、買い物してってくれるんやな?まいどおおきに!」 「………まさか、鍵を売ってるとかでは…」 「ふっふっふっ…そのまさかやで!」 そう言って簡易テーブルを取り出し、その上に3つの箱を並べた。 1つは宝箱を思わせるような小奇麗な箱、1つはどこにでもあるような普通の箱、1つは禍々しいものを感じる黒い箱… この中のどれかに、先へ進むための鍵が入ってるのか… 「どれにします?なんやったらうちに質問とかしてもええで?」 「箱についての…であるか?」 「それでもええし、他の商品も見たいんやったら遠慮なく言ってな。」 「………物々交換って出来るであるか?」 ふむ…と、我輩の質問を受けて考え始める刑部狸。 暫く考えていたようだが、徐に顔を上げて我輩を見つめてきた。 「うちはそれでもええで…むしろ、良いもん持ってるんやったらどんどん見せてもらえるとありがたいわ。」 「ふむ、では交渉を始めるであるか。」 発明品を入れた袋を取り出し、テーブルの上に置きながら言い放つ。 どこから出した?企業秘密である。 「我輩からはこれとこれを…」 「うちからはこれとこれと…これもつけてどうや?」 「我輩はそれでかまわんであるぞ。」 「交渉成立やな、おおきに!」 硬い握手を交わし、互いの持ち物を交換する。 鍵の事などすっかり忘れて… 「話の分かる客で助かるわぁ…こっちに来て随分と長く商売させてもらっとるけど、我侭な客が多くて苦労しますわ…」 「まぁ、これだけいい物を扱っていれば粘ってでも欲しいと思うであろうな。」 「そ、そうか?なんや恥ずかしいな…」 「我輩なら粘る、必要とあればその辺の冒険者からぬs…コホンッ…貰ってでもな。」 「あー…うん…こんな時どんな顔すればええのかわからんわ…」 「素直に喜んで良いと思うであるぞ。」 「…えへへ…」 頬の辺りを掻きながら、嬉しそうな笑みを浮かべる刑部狸。 我輩が知る限りでは刑部狸は酷く意地悪だと聞いたのだが…目の前の彼女からはそんなものは感じないであるな。 「……よっしゃ!今日は気分がええから大サービスしたるで!好きな箱もってってええよ。」 「むっ?それは商品なのではないか?」 「今回は特別や、今後ともうちの店を御贔屓にして貰うための撒き餌とも言うな。」 「そうであるか…なら我輩は、せっかくだからこの黒い箱を選ぶである。」 我輩が黒い箱を手に取ると、途端に刑部狸が慌てた様子で止めに入った。 「ちょ、ちょっと待ってや!その箱だけはあかん!」 「とは言っても…我輩の直感がこっちの箱を選べと言っているのだ。」 「やめるなら今の内やで…?にーさんと会えなくなるんはいやや…」 目に涙を浮かべ、我輩に抱きついてくる刑部狸… この鍵を使った先には相当危険なものが待ち構えているのか… ククク…それなら尚更こちらを選びたくなってしまうではないか。 「何を心配しているかは知らんが、我輩とていくつもの修羅場を潜り抜けてきた男…そう簡単にはくたばらんである。」 「……絶対に無理はしないって約束してくれるか?」 「もちろんである、勝てないと分かったらちゃんと逃げるである。」 「…にーさんの為に、特別な品物用意して待っとるから…絶対に…」 「……あぁ、少しばかりだが礼をしないといけないであるな。」 懐から袋を取り出し、簡易テーブルの上に静かに置く。 「これはなんや?」 「お菓子である、中々に美味いから後で食べて欲しいである。」 「おぉ!ありがとな!」 「ではさらばである、もう一人の方にもよろしく言っておいてほしいである。」 箱から鍵を取り出し、同じ色の扉を開ける。 瞬間、背筋が凍り付いたかのような悪寒を感じ、一歩後ろに下がってしまう。 やっぱり普通の箱を選べばよかっただろうか… ……よそう、いまさら後悔しても遅い。 我輩は覚悟を決め、前へと歩き始めた。 「…行ってしもうた…こんな事になるんやったら、最初から出さなければよかった…」 「……任務内容に含まれてた事ゆえ致し方なし事…主殿が気に病むことはない。」 「せやけど…」 「あの者は私の存在にも気づいていた…少なくとも、いきなり殴りかかって返り討ち…なんて事にはならんだろう。」 「…うち等が悩んでもしゃーないな…菓子でも食おうか。」 「………なるほど…うちの大好きな山吹色の菓子か…してやられたわ。」 〜今日の観察記録〜 種族:ミノタウロス 面倒くさがりやな彼女達を動かす原動力となってるものは、食欲・性欲・睡眠欲の三つである。 これらの事が絡む場合は積極的に行動するが、そうでない場合は面倒くさがってやろうとしない事が多いである。 まぁ、興味を持たないであろう事に積極的になられても、どう反応すればいいのか分からないであるが… 種族:オーガ 非常に高い戦闘力と凶暴性を持つ、鬼の特徴を持つ魔物である。 人間と魔物の戦いの中で見かける事が出来る上、戦況をひっくり返すが如く大暴れしている事が多い。 とにかく見かけたら逃げる事をお勧めする…暴れている彼女達を止められるのは、それこそ勇者と呼ばれる者達位だろう… 種族:刑部狸 狸の特徴を持つ魔物で、稲荷と並べて語られるほどの大妖怪である。 自分の姿を人間のものに変える人化の術や幻術等の様々な術を使って人間を惑わせるであろう。 特に人化の術は、匂いや魔力の気配まで人間のものに変わるため、多少魔術に長けている程度では勇者どころか魔物でも気づけないらしい。 |