18ページ:スライム・レッドスライム
朝日がテントの中へ差し込み、雀の鳴き声が外から聞こえてくる。
昨夜は激しかったであるな…紅茶に合う菓子論争…
ゆっくりと起き上がって体を伸ばしていると、外から声が聞こえてきた。

「む…困った…」

テントの外に出ると、腕を組み難しい顔をして唸っている桜花がいた。
彼女が悩む所を見た事がないのだが…それほど重要な悩みなのだろうか?

「どうしたのであるか?」
「輝か…今日の食事当番はわっちなのだが…いつの間にか食材が無くなっていた様なのだ…」
「食材が無い?5日はもつ様に買い込んだはずであるが…」
「…一人旅が染み付いていたのではないか?」

あー…そう言われてみれば、いつも通りの5日分で買っていたかもしれん…

「仕方が無い、食えそうな物を探してくるである。」
「大丈夫か?重度の方向音痴と聞いたのじゃが…」
「大丈夫だ、問題ない。」
「…急に不安になってきたのじゃが…」

むぅ…そんな事を言われたら我輩まで不安になるではないか…
食材を手に入れても、真っ直ぐ戻って来れそうな気がしない…どうしたものか…

「お困りの様ね?」

声のした方に振り向くと、少し眠そうな表情のアレクシアが立っていた。

…下着姿で。

「なっ!?なんと言う格好をしているのだ!」
「輝ちゃんの寝顔を見てたらムラムラしちゃってつい…ね?」
「答えになってないだろう!あと輝にナニをした!?」
「やぁね、寝込みを襲ったりなんかしてないわよ?ちょっと一人遊びが過ぎて寝衣が汚れちゃっただけよ。」

我輩が寝ている間にそんな事が…我輩とした事が…

良い子の諸君も、たまには夜更かしをするのもいいと思うぞ。

「まぁ…手伝ってくれるのはありがたいが、ちゃんと服は着て欲しいであるぞ。」
「着るに決まってるじゃない、私はそんな性癖は無いわよ。」
「えっ!?そ、そうだったのであるか!」
「うわぁぁぁん!輝ちゃんが苛めるわぁぁぁ!」
「よしよし…輝、あんまり苛めないでやってくれないか?アレクシアのカリスマはとっくに0じゃ。」
「何気に桜花ちゃんも酷いっ!」

嘘みたいだろう?リリムなんだぜこれ。
普段の余裕のある雰囲気が欠片ほども感じられない…
なんと言うか…うん、何とも言えんである。



そんなこんなで道なりに進むこと数分、特に食料らしき物は見つかっていない。

「何で森の中を探さないのよ?」
「我輩に遭難しろと言うのか?」
「そうじゃないけど…こんな所に食べ物なんて…」
「奇跡的にパンとか握り飯が落ちているかもしれんではないか。」
「…輝ちゃんの体が心配だわ…健康的な意味で。」

冗談のつもりで言ったのだが…真に受け易いのか天然なのか…
…ほ、本当に冗談であるぞ?いくら我輩でも、埃くらいはちゃんと払うである。

さらに歩く事数分、周囲に変化を感じて足を止める。

「…早速お出ましか?」
「そんなに身構えなくていいわ、スライムとレッドスライムよ。」
「いくら凄い魔物とはいえそこまで分かるはずが…」

最後まで言い終わらない内に、木陰から女性の形をした青色と赤色の半液状の物体が出てきた。

…流石はリリム、こんなのでも能力は一流か…

「こんなのなんて言う悪いお口は塞いじゃった方がいいかしら?」
「見られながらする趣味は無い、後心を読むなである。」
「輝ちゃんは表情に出しすぎよ?」

むぅ…そう言われると反論出来ん…
もう少し、考えを表情に出さないようにする練習をせねばならんな…

「それで、貴方達は何か用があって出てきたのでしょう?言ってみなさい。」
「えっと…最近、男の人がこの辺りを通らなくて…」
「ご飯になりそうな物も無いの…」
「お腹が空いてるのね…でも、輝ちゃんを貸すわけにはいかないし…」
「我輩達も空腹であるからな…どうしたものか…」

スライムの食べ物はどんな物だろうか…是非とも知りたいであるな。
教団発行の魔物図鑑は、大体の種族が人間の血肉を喰らうとか書いてあって参考にならん。

まぁ、観察をするにしても生贄…もとい、快く手伝ってくれる人がいないであるからな…

「っ!輝ちゃん隠れて!」
「うわっぷ!いきなり何を…」
「静かに…見つかっちゃうわよ?」

アレクシアの指差した方へ視線を向けると、1台の馬車がこちらへと向かって進んで来ていた。
奴らの装備を見る限りでは、教団の騎士の様であるな…
…護衛を含めても2人しかいない…片方は少しだけ老け始めてきた感じの青年、もう片方は…我輩より少し大きいくらいの少年だ。

んっ?話し声が聞こえてくるな…

「ごめんなさい…僕のせいで…」
「気に病む事はありませんよ、物資の輸送も我々の仕事の一つですから。」
「でも…僕が失敗をしなければこんな事には…」
「君は失敗すると分かった後でも何とかしようと努力していました、そんな貴方を誰が責められましょうか?」
「…ありがとうございます!」

うーん…正直に言って、あれを襲うのは流石に気が引ける…
だが、我輩の野望のための犠牲となってもらうであるか。

「輝ちゃん…無理はしちゃダメよ?」
「なに、無傷で捕らえるだけだから心配しなくていい。」

そう言いながら弓を引き、車輪の根元に向かって矢を放つ。
が、狙いが外れ、根元を少し削って何処かへと飛んで行ってしまった。

「て、敵ですか!?」
「恐らくそうでしょう…ですが、平静を失ってはいけませんよ。」

…面倒な事になったであるな…

「さて、どうするのかしら?」
「面倒だから突っ込む。」
「強引ね、そんな輝ちゃんも大好きよ。」

懐から液体の入った瓶と細い針を2本取り出し、針の先端を液体に浸らせる。
狙うのは…血管のある場所がいいか…
奴らが顔を見合わせるのと同時に、奴ら目掛けて飛び掛った。

「っ!?危ないっ!」
「えっ?ぐっ…」

少年騎士の方の首に浅く針を刺し、通り抜けるように距離を離す。
少年騎士は刺された箇所を手で押さえ、その場に蹲っている。

大事に至らない程度に加減したつもりだが…見誤ったか…?

「大丈夫ですか!?」
「これくらい何とも…ない…で…」

そう言いながら倒れる少年騎士…幸いにも、ほとんど血は流れていない。

「何者かは知りませんが、よくもやってくれましたね…」

むぅ…相手は随分と気が立っている様であるな…
狙う順番を変えた方がよかったか…いまさらどうにもならんが。

「必ず…必ず敵はとりますよ!」
「あー…かっこよく宣言しているところで申し訳ないが、そいつは寝てるだけであるぞ。」
「…なんですって?」

少年騎士の方に視線を向けると、気持ち良さそうに眠っている姿が目に入る。
青年騎士はそれを見て一瞬安心したかのような表情をしたが、すぐに我輩に視線を戻した。

「何であろうと、貴方を野放しにするわけにはいきません!」
「真面目に戦ってやってもいいが…面倒である。」

……おっと、戦うまでも無いであるな。

「勝敗は既に決まってるような物であるしな。」
「なっ!それはどういう…」
「はぁい、良い子はおねむの時間よ。」
「しまっ…くぅ…」

彼もまた、少年騎士と同じように蹲り、そのままゆっくりと倒れこんだ。
彼の立っていた所の後ろには、何故か白衣姿のアレクシアが立っていた。

「凄い効き目ね…大丈夫なのこれ?」
「心配はいらん、疲れが吹き飛ぶ程度にぐっすり寝れるだけである。」
「効果が効果だから何か他の事にも使えそうね…夜這いを確実に成功させたりとか。」

ふむ…そういう使い方もあるのか…メモしておこう。
いつも変態的なことしか考えてないようだが、それだからこそ我輩では思いつかないような閃きを持っているな…羨ましいが羨ましくないである…

しかし…何かを忘れているような気がするのは何故であろうか…?

「この人達生きてるのかな?」
「眠ってるだけ…だと思うよ。」

あぁ…そう言えばいるんだったな…
我輩達は、積荷の中に食料になりそうな物があればそれを貰っていくだけだし、騎士達はやってもいいか。

ついでに観察も出来そうだしな。

「私この子ー♪」
「じゃあ私は…この人で。」
「それじゃあ早速…」
「っ!だめよ!」

突然アレクシアが止めに入り、唖然とするスライム2人と我輩。
えっ?何故止めるのかが分からないのであるが…

「反応の無い相手を襲っても面白くも気持ちよくも無いわ!双方が心も体も満たされてこそ意味があるのよ!」

変な所で拘りがあるな…流石は魔物と言ったところか…
……さっき、夜這いがどうのとか言ってたのは聞かなかったことにしておこうか…我輩のメモには何もない。

「そうなんだ…私そんな事全然考えて無かったよ…」
「…一杯抱き締めてあげたら、抱き締め返してくれるようになってくれるのでしょうか…?」
「そこは貴方達次第よ…自分の能力を最大限に活用して、彼等の硬く引き締まった表情をとろとろに蕩けさせてあげなさい。」
「はい!」

面倒な事になってきたであるな…
まぁ乗りかかった船だ…最後まで面倒を見ようか。

「さて…先ずは準備を…」
「これでいいであるか?」
「輝ちゃん仕事が速いわね、ご褒美にキスしてあげるわ。」
「キスだけで終わりそうに無いから遠慮しておくである。」
「んもぅ…この恥ずかしがりやさん…」

見られながらするのは…我輩にはまだ早い気がするである…

…おっ?目が覚めたようであるな…

「…うぅ…ここ…は…?」
「おはよう、ぐっすりと眠れたであるか?」
「貴方は…私をどうするつもりですか。」
「正確には貴方達二人ね…貴方達は、何故魔物が人間を欲しがるか分かるかしら?」
「そんなの、人を喰らうからでしょう!」
「30点と言ったところかしら、正解にはまだ遠いわね。」

…ストレートに言った方がいいと思うのであるがなぁ…
アレクシアなりの考えがあるのだろうから口出しはしないが。

「私達魔物は、人間の男性が必要不可欠なの。」
「…どう言う事ですか?」
「私の様に人間の男性の精を得る事で生きる娘もいるし、私たち魔物には男がいないのよ。」
「……」
「そして何よりも、私達は人間を深く愛しているの…私の場合はこの子だけど♪」
「こらっ、人前で抱きつくなである!」

ほんの少しかっこいいと思っていたらすぐにこれだ…
もう少し空気を読んで貰いたいものだ…

まぁ…抱き締められるのは悪くは無いが…

「そんな事はいいからさっさと交わるである。」
「うわっ!」

青年騎士を無理やり立たせて、レッドスライム殿の方に向かって突き飛ばす。
逃げられないように手足を縛っているので、青年騎士はどうする事も出来ないままレッドスライム殿の上に倒れこんだ。

「だ、大丈夫ですか?」
「あっ…す、すみません。」
「私は大丈夫ですから…縄解きますね。」
「えっ?」
「えっ?」
「いえ…逃げれない様に縛っているのでは?」
「縛ったのはあの人ですし…このままだと抱き締めてもらえないですから…」
「えっと…その……えー…?」

おー熱い熱い、見てるこっちが熱くなってくるである。
アレクシアはアレクシアで満足げな表情であるし…

スライム殿の方はどうなったであろうか?

「えへへ…気持ちいい?」
「あうぅ…」
「ほら見て?君の可愛いおちんちんが私の中でもみくちゃにされて、ビクビクッて喜んじゃってるんだよ?」
「やだぁ…言わなっ……」
「あれぇ?君のおちんちん、さっきよりも大きくなってるよ?君って一方的に犯されて気持ちよくなっちゃう変態さんだったんだ?」
「そんな…こと……うぁ…」
「だけど…私は君が変態さんでもいいよ、だって君の事が大好きだもん。」
「ぐすっ…本当…?」
「うん…だからね…もっともっと私で気持ちよくなって?子供が増えちゃうくらいいっぱい出してね?」

やはり魔物と言うべきか…男をおとす事に関しては人間では敵いそうに無いであるな…
自分達の体の特徴を生かす術もなかなか…すばらしい。
さて…レッドスライム殿の方は…

…熱々過ぎて直視が出来ん…堅物だった青年騎士があんなことに…
アレクシアも手で顔を覆ってわけの分からない事を言いながら悶えている…指の隙間からしっかりと見ているようだが…

「あー…食料も確保したし、観察も終わったから戻るであるぞ…ここにいると自然発火しそうである…」
「あ…輝ちゃん…その…」

俯き、耳まで真っ赤になりながらもじもじしている…

何となく、何を言いたいのか分かった気が…

「えっと…私達も…あんな風にしたいな…なんて…」

………男か…何とも悲しい生き物であるな。







「むっ、遅かったな。」
「…た、ただいま…」

…気まずい…

「こ、琴音は?」
「ぐっすり眠っておる、中々に可愛らしい寝顔じゃな。」
「そう…食材…ここに置いておくわね…」
「大量じゃが…二人ともどうした?随分と顔が赤いが…」
「な、何でもないである…少し休ませてもらうである…」
「分かった、出来たら呼ぶからそれまで休んでおれ。」

そう言うと、鼻歌交じりで調理を始める桜花。
我輩とアレクシアはテントの中へ入り、少し距離を開けて座る。

何と言うか…むぅ……言葉が思いつかん…

「…あの娘達…大丈夫かしら…」
「問題ないであろう…その…凄かったであるし…」

チラッとアレクシアの方を見るが、膝を抱え、耳まで真っ赤にして俯いてしまっている。

我輩は、その姿を見ている内に堪えきれなくなり、噴出してしまった。

「な、何よ!何がそんなに可笑しいのよ!」
「だ、だって…普段のアレクシアと天と地ほどの差があって…くふっ…」
「私だって乙女心くらいあるわよ!あんなに熱々なエッチを見せられたら我慢出来るはずがないじゃない!」
「アレクシアには乙女心なんて言葉は似合わんである。」
「うぅぅ…」

やっと落ち着いてきた…危うく笑い死ぬところだったである…

「でもまぁ…偶には恥らうアレクシアを見るのも悪くはない…であるな。」
「もう…輝ちゃんの馬鹿…」

我輩の隣に寄ってきて、我輩の頭の上に頭を預けてくる。
…まぁ、こういうのも偶になら…



「話は聞かせてもらいました、輝様には山ほど説教があるので覚悟してくださいね。」
「…なんでいつもこうなるのであるか…」
「輝ちゃん…がんばって。」
「救いは…救いはどこに…」

その後、食事の時間になっても琴音の説教は終わらず、冷え切った朝食を食べる羽目になったのは言うまでもない…



〜今日の観察記録〜

種族:スライム
半液状の魔物で、自由自在に形を変えれる魔物である。
思考その物は単純な物で、本能に任せて人間の男性に襲い掛かり、動きを封じてから犯してしまう。
精を得ると姿を形作っている部分意外が足元へと溜まり、一定以上溜まると自分とそっくりの小さなスライムが生まれるようだ。

種族:レッドスライム
上記のスライム同様半液状の体を持つ魔物で、赤い色が特徴的な魔物である。
スライムよりも身体能力や知能が高く、固体によっては人間と同じくらいの豊かな感情を有する。
スライムとは違って男性をえり好みをしたり、男性を前に恥らったりして逃がしてしまう事もあるようだ…
12/01/26 19:39 up
シリアスそうな雰囲気を悪い意味でぶち壊す、それが輝クオリティ。

アレクシアさんとの絡みは省略されました、続きを見るには気合で想像してください
白い黒猫
DL