10ページ:ゆきおんな姉妹・ぬれおなご
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「山登りしたい…」
DL
「突然何を言い出すんですか。」 「特に意味はないであるが、無性に山を登りたい気分である。」 皆もこういう時ってあるであるよな? と言う訳で、今日は山を登るである。 「でも…」 「止めてくれるな琴音よ…男とは常に新しい刺激を求めてしまう生き物なのである…」 「いえ、今日は酷く雪が降ってるので山に入れないと思いますよ?」 …最近やけに冷え込むと思ったら、雪が降っていたのであるか… 部屋に引きk…実験と研究に夢中になり過ぎていて気づかなかったである。 とはいえ…一度登ると決めたからには、最後まで遣り通さないと気が済まないであるからな… 「そうか…雪であるか…」 「えぇ、ですから…」 「そう言えば、雪女に遭遇したことが無かったであるな。」 「輝様…」 琴音が呆れた様な目で我輩を見てくる。 そんな目で我輩を見るなである…抱きしめながら尻尾をモフり倒すであるぞ。 「こうなった輝様には何を言っても無駄ですね…」 「我輩を心配して言ってくれているのは分かっている…だが…」 「それ以上は言わないでください…私は、お昼寝をしていて気がつかなかったと言う事にしておきますから。」 「…すまない、礼は必ずするである。」 琴音の頭を軽く撫でてやると、琴音が抱きついてきた。 なるほど、寒い時には琴音を抱いて眠ればよく眠れそうであるな…出来れば、もう少しこのままでいたいが… 名残惜しむように、ゆっくりと体を離す。 静かに出口へと向かう琴音…一瞬、立ち止まって此方へと視線を向けたが、にっこりと微笑み部屋を後にした。 さて…我輩も準備に取り掛かるであるか。 「うぅむ…思ってた以上に積もっているであるな…」 山頂へと向かう道…と思われる場所を歩いて行くが、雪に蔽われていて非常に歩きにくい。 やはり、防寒着の一つでも着て来た方が良かっただろうか… え?準備の時に着たんじゃないかって? 我輩が持って来たのは、取って置きの酒とそれによく合う肴だけである。 「うぅ…足が冷たいである…」 持ち物以外はいつも通りで来たのがいけなかった… 我輩は!雪山をなめていたっ! 「やはり止めておくべきだったか…む…?」 面倒になって引き返そうかと思い始めた矢先、大きな岩の様な物が道の真ん中に置いてあった。 何でこんなところに…まあいい、これをどかしてもう少し先の様子見て帰ろう… 動かし易くする為に雪を掃った瞬間、ありえないものを見てしまった。 「…えっ…これって…」 我輩が岩だと思っていたもの…雪を掃って見て分かったが、これは岩ではない。 これは確か…ぬれおなごと言う、ジパング特有のスライム種の妖怪だったか… …いやいや、何でこんな所で凍ってるのか…そもそも、スライム種って凍るものなのであるか…? 「どうしようこれ…」 状況的に考えて、こんな所で凍ってるなんておかしいである… もしかして…凍った振りをしてるとか…無いとは言い切れないであるが… うむ、こういうのにはかかわらないほうが良いであるな。 しかし…振りとか関係無しに純粋に凍っていたらどうしよう… 「…………押すか…」 持ち上げるて運ぶことは面倒なので出来ないが、押す位なら出来そうである。 苦労はしそうだが、これなら足が雪に埋もれることは無いだろう。 どこかに山小屋か何かがあれば、そこに押し込んでおけば大丈夫であろうしな… …何故か急に、金属製の樽を押したくなってきたである… 凍ったぬれおなごを押す事十数分…手が痛くなってきたである… 「うぅ…手が…」 冷え切った手に息を吐きかけ、手同士を擦り合わせて暖める。 効果は実感出来ない…が、気分的にはさっきよりましになった気がするである… しかし…これを押し込めれそうな場所を早く見つけないと… 「…ん?」 ふと森の方へ視線を向けると、小屋の様なものが見えた気がした。 あんな所に小屋があったのか…知らなかったである… とりあえず、あの小屋にこれを押し込んでこよう。 「ふぅ…ぬぅぉぉぉおおお!!」 持ち易そうなところをつかみ、気合を入れて持ち上げた。 そのまま、少しふらつきながら小屋の方へと進んでいく… 「も…もう少し……っ!?」 雪に隠れていた小石を踏んだらしく、体重をかけて前に進もうとした瞬間に小石が滑り、頭から小屋の壁に激突した。 さらに、持ち上げていた凍ったぬれおなごが滑り落ち、我輩の背中の上に落ちてきた。 さらにさらに、頭をぶつけた衝撃で小屋の屋根に積もっていた雪が我輩とぬれおなごの上に降り注ぎ、覆い隠してしまった。 こ…こういう時はなんて言うのだったか…えっと……フルコンボだどん!もう一回遊べるどん! …いやいやいやいや…ふざけてる場合じゃないである…何とかしてここから抜け出さねば… しかし…雪 氷(?)の重みは凄まじく、そこまで力の強くない我輩ではどうすることも出来ない… こんな事になると分かっていたなら…琴音の言うことを聞いて琴音で遊んでいればよかったであるな… あ……なんだか眠く…なっ……て………… ………暖かい……全身を微温湯に浸してる様な感覚だ… …んんっ? 「ぬ…ここは…」 「あら、お目覚めですか?」 上体を起こし、声のした方へと視線を向ける。 そこには、白い着物を着た美しい妖怪がいた。 え?何で妖怪だってわかったかって? 簡単である、彼女の肌の色が青いからである。 …それ以外に判別方法分からないだけなのであるがな… 「驚きましたわ、突然家が揺れたと思ったら、貴方が雪に埋もれてたのですもの。」 「驚かせてしまったか…すまないな……あ、そう言えば…」 「お連れの方なら、すっかり良くなって貴方を介抱してますよ?」 「いや、連れとかそういうのではなくて…介抱…?」 そう言えば、さっきから妙に生暖かい感覚が… この感覚の正体を知るべく、かけ布団を剥ぐ。 そこには、我輩の一物を入れようと照準を合わせているぬれおなご殿が… 「うおぉぉぉぉい!?なにしてるであるか!?」 瞬間的に後ずさり、ぬれおなご殿から離れる。 「もう少しだったのに…残念…」 「いやいや!寝てる間に襲うとかだめであるぞ!?」 「そうなの?」 「ふふふ、楽しい御方達ですね。」 「わーい、褒められたー♪」 「いやいや…褒められてないであるぞそれ…」 …どうやら、ぬれおなご殿は非常に単純な性格の様だ… って、のんきに考えている場合ではないな…人生最大の危機に直面してるかもしれないのに… 「ただいま…っと、随分と賑やかだな。」 「お帰りなさいませ姉上。」 ん?あのゆきおんな殿に姉がいたのか… 姉と言われた方は…随分と凛々しい感じであるな。 「お邪魔しているである、このぬれおなご殿を押し付けに来たのだが…」 「…夫婦ではないのか?」 「夫婦…私の旦那様?」 「ち、違う!断じて違うであるぞ!こら!お主も何で?って顔をするんじゃない!」 そうこうしている内に、我輩の上にぬれおなご殿が覆い被さって来る。 「いやいや、隠すことは無いぞ?夫婦仲が良いことに悪いところなんて無いじゃないか。」 「いや…我輩の話を…」 「私の…旦那様になってくれないの?」 「あらあら…妻を泣かせてはいけませんよ?」 「………」 その時、我輩の涙腺は限界に達した。 「すまない…ちょっとからかいすぎた…」 「………」 「どうしましょう…泣き止まないですよ…」 我輩が…この様な醜態を晒す破目になるとは… こうなったら…この場にいる全員の記憶が飛ぶ程度に火薬を使って…フフフ… 「…泣かないで…いいこいいこ…」 突然ぬれおなご殿が、我輩の頭を撫で始めた。 吾輩の頭を撫でながら、指で涙の流れた場所をなぞって行く…少しくすぐったいである… 「…すまん、取り乱してしまったであるな…」 「悪いのは私たちの方だ…詫びの気持ち…と言っては何だが、私の胸の中で泣くといい。」 そう言って、腕を広げるゆき姉殿。 誘われるままに彼女の胸に顔をうずめると、やさしく抱きしめられた。 「泣く事は恥ではない…泣きたい時は思いっきり泣くといい。」 「……すまない…」 冷たさの中にほのかな暖かさを感じながら、声を押し殺して泣いた。 …そのせいか、彼女の荒い息遣いが良く聞こえる… …と言うか、服の中に手を入れようとされてるであるか…? 「も、もう大丈夫である。」 「そうか…もう少しだったのに…」 「姉上…まだ、その性癖は直ってなかったのですね…」 「なっ!?人を異常者の様に言うな!私は小さくて可愛い男が好きなだけだ!!」 握り拳を作り、真剣な表情で言い放つゆき姉殿… …いや…言い方を変えても、異常なことには変わりは無いと思うのだが… 「そ、そんなことよりも、迷惑をかけたお詫びに取って置きの酒をプレゼントするである。」 「取って置きの酒?」 「うむ、本当は頂上についてから飲む予定だったであるが…今日はもう帰るである。」 酒の入ったビンを取り出し、彼女達の前に置く。 その瞬間、彼女達の表情が驚きの色に包まれた。 「こ、これって…」 「なに、気にせずに貰って欲しいである。」 「ですが…」 「何も言わずに受け取って貰えると嬉しいである。」 「わかった、ありがとー♪」 うむ、喜んでくれたみたいであるな。 さて…我輩は帰るであるか…巻き込まれないうちにな… 「では失礼する…」 「なんだ?もう帰るのか…もう少しゆっくりして行ってもいいのだぞ?なんなら私の布団で…」 「姉上………」 「…………冗談だぞ?」 「顔色悪いよ?大丈夫?」 「私の顔色は元からこうだ。」 さて…今の内に… 「あれ?いつの間にかいなくなってる…」 「しまった…結構好みだったのに…」 「姉上、そろそろ怒りますよ?」 「…満面の笑みでそういうことを言わないでくれ…」 「このお酒飲んでみよ?ね?」 「そうですね…せっかくですから、頂きましょうか。」 「ふぅ…今日は疲れたであるな…」 山頂にも着けず…酒も飲めず…家で琴音とイチャイチャしていた方が良かったであるな… …まぁ、ぬれおなごとゆきおんなに会えただけでも良しとするであるか。 「…しかし、少し勿体無い事をしてしまったであろうか…」 彼女達に渡した酒…割と高価な物だったのだが… ……まあいいか、家にまだあるし、帰ってから琴音と飲もう。 「ふふっ…楽しみであるな。」 帰ってからの予定を考えながら、山を降りて行く。 今夜は雪見酒と行くか…楽しみであるなぁ。 〜今日の観察記録〜 種族:ぬれおなご ジパング固有のスライム種の妖怪で、とても献身的な妖怪である。 雨の日などに人里に現れると言われ、彼女に微笑まれた者がそれに微笑み返してしまうと、彼女に夫として認識されてしまうのだとか… …ところで、スライム種とは凍るものなのだろうか…今後とも観察をして行った方がいいであるな。 種族:ゆきおんな 冷たそうな外見とは裏腹に、暖かくて優しい心を持った妖怪である。 雪山で迷った時、彼女達の家に辿り着く事が出来れば、命は助かるであるな…そうなったら、いろいろとおめでとうと言っておこう。 幼少時代はゆきわらしと呼ばれ、人間の子供に混じって遊ぶこともあると言う…将来の婿探しとも言われているが、詳細は不明である。 「今宵も月が綺麗であるな。」 「そうですね…嫉妬してしまう位に綺麗ですね。」 「琴音には敵わないであるがな。」 「輝様…恥ずかしいですよ…」 「素直な気持ちを言っただけである…それにしても寒いであるな…」 「今日は一段と寒いですね…」 「…い、一緒に寝るであるか?」 「いいのですか?」 「う…うむ…」 「…では、身を寄せ合って寝ましょうか。」 「…うむ…さぁ、もう寝よう…明日も早いであるからな。」 「はい…ふふふ。」 「む?どうしたであるか?」 「いえ…こうして、輝様と寝るのも随分と久しいなと…」 「そうであるな…ふふっ。」 「では…参りましょう。」 翌日、輝を起こしに来た女中に誤解されて八代目に追い回されることになるが、それはまた別のお話… |