8ページ:稲荷
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「まったく…人の話を聞かない奴は嫌いである。」
DL
数時間の拘束後、不審者ではないと認められて解放してもらえた。 おかげですっかり日は落ち、月明かりがぼんやりと周りを照らしている。 あいつ等には必ず仕返ししてやるである… 「…っと、あったである。」 随分と久しく感じる、我実家の門… 多少くたびれてはいるが、我輩が旅に出た時とほとんど変わらないである。 「そこのお前さん、その家には入らない方がいいぜ?」 「む?どうしてであるか?」 「昨日、武器を持ったおっかねぇ奴等が入り込んでな…人質をとって立て篭もってるんだわ。」 「ふむ…」 我輩が旅に出ている間に、強盗か何かに入られてたとは…それも、よりにもよって昨日とは… 人質と言うのも気になるが…まあ、何とかなるであろう。 「忠告したというのに行くのか…」 「危険だと分かってるほど、行きたくなってしまうものであるからな。」 「はぁ…あんたの首が晒されない事を願ってるよ。」 「ふっ…我輩を誰だと思っている?」 門の隙間に小太刀を刺し込み、閂を切り落とす。 やはり…父上の打った刀は、失敗作でもかなりの切れ味であるな…力み過ぎて折れてしまったであるが… まあ、相手の武器を適当に奪えば問題ないであるな。 開くようになった門に手をかけ、振り向いて言い放つ。 「鉄家五代目主の息子…鉄輝様であるぞ?」 …かっこよく入ったのはいいであるが… 「完璧な潜入だったのに…何故ばれたであるか!?」 「どこの世界に真正面から潜入する馬鹿がいるんだよ。」 見事に見つかってしまったである… 何がいけなかったのであろうか… 「武器を捨てて大人しくしろ!」 「今さっき折れたばかりである。」 相手は5人…力量を知らずに相手にするには辛い人数であるな… ここは一つ…賭けに出てみるであるか… 「まあ待つである、我輩はお主等の頭に会って話をしたいだけである。」 「何?どう言う事だ?」 「そのままの意味である、話をした上で互いに納得のいく方法をとる…それだけである。」 「小僧の癖に肝が据わってるじゃねぇか…ここで待ってろ。」 1人の男が家の中へと入っていく。 これが旨く行けば…此方の思うとおりに話を進めれるであるが… あ、さっきの男が戻って来たである。 「お会いになるそうだ…付いて来い。」 よしよし…順調である。 後は、話し合うだけであるな…無論、拳でな。 我輩は、男の後に続いて我が家の中へと入って行った… 「頭、連れて来ました。」 「入れ。」 賊の頭のいる部屋へと入る。 部屋の奥にいた男は、見た感じでは武士の様にも見えるが…どちらかと言うと、賊らしい格好であるな。 「…お前か、俺と話し合いたいって言う物好きな小僧は…」 「うむ、貴殿に一つ、物申したくてな。」 「何だ?」 息を大きく吸い、目の前の男に向かって大きな声で言い放つ。 「我輩は鉄家五代目主の息子、鉄輝!貴殿に一対一の決闘を申し込む!」 「…ほう。」 目を細め、意味深な笑みを浮かべる頭。 余程の自信があるのか…小僧の虚言と思っているのか… 「…いいだろう、その勝負受けて立つぞ。」 重い腰を上げるかのように、ゆっくりと立ち上がる頭。 当然の事だが、我輩よりも背が高く、しっかりとした身体つきをしている… 「刀を貸してやれ…それと、絶対に手を出すな。」 下っ端の男が、我輩と頭に刀を持ってくる。 背丈の小さい我輩では少し扱い辛いであるが…慣れるしかあるまい… 両者共に刀を抜き、決闘の準備は整った。 「…行くぞ!」 「…行くである!」 ほぼ同時に詰め寄り、刃を交える。 力では相手に敵わず、一気に体制を崩されてしまう。 その隙に追撃をされたが、紙一重でかわして距離をとる。 真正面からぶつかり合ったら敵わないであるな…何か…策は無いであるか… 「でりゃぁ!!」 掛け声と共に、一気に詰め寄って斬りかかって来る。 その一撃を軽く避け、鍔際に刀を叩き付けた。 「その程度では、俺の手から刀を落とす事は出来んぞ?」 此方の意図は知られてないようだ…これならいけるかも知れないであるな。 続け様に、同じ所に向かって打ち込む。 「っ…何度やっても同じだ!」 回避が困難な角度からの一撃を避けきれず、刀の先端が頬をかすめる。 あまり続けて狙うのは不味いであるな…少し様子を見るであるか… そんな感じに振ったが、手元が狂って、また同じ所に当ててしまったである。 「さっきから同じ場所を……同じ場所…?」 もしかして…やっちまったであるか…? せめて後一発…当てておきたかったであるが… こうなったら…一か八か…! 「…まあいい…次で終わるからな。」 そう言って、刀を鞘に納めた… 下手に近づくのは危険であるが…逆に考えれば、今が狙い時である! 「貰ったである!」 「一閃……」 その瞬間、一筋の光が我輩の体を切り裂く… 「居合ぎ……これは…」 はずだったが、男の放った一閃は、我輩が床に刺した刀によって受け止められていた。 かわすだけなら刀を使う必要は無いが、我輩がやりたかった事は別にある。 「鉄流奥義…」 「上っ!?」 やりたかった事…それは、相手の注意を刀に向けさせる事。 注意をそらしている間に必殺の間合いに入り込み、確実に一撃を当てる…! 「…刃崩し!!」 空中で一回転し、勢いを増して鞘を叩きつける。 甲高い音を響かせて、男の持っていた刀が根元から折れた。 …となるはずだったのだが… 「ぐふっ!!」 「あっ……」 跳ぶ時の勢いが強すぎて前に出過ぎたためか、誤って男の頭に鞘を叩きつけてしまった… 脳天に鞘を叩き込まれた男は、白目を剥き泡を吹いて倒れてしまった… 「……と見せかけて頭蓋割り!」 ま…まあ、倒した事に変わりはないである!終わり良ければ全て良しである! …父上に知られたら不味い……まぁ、知られる事は無いであろうがな… 「さて…お主等の頭は倒した!命が惜しければこの男を連れて去れ!」 「ば…化け物だ…」 「に、逃げろぉ!!」 頭の男を引きずって逃げて行く男達。 一時はどうなるかと思ったが…何とかなったである。 「む?…鍵か……どこの鍵であろうか…」 男達が去った後には、古ぼけた鍵が残されていた。 この家で鍵がある部屋は、倉庫か主の間かくらいのものだが… 探していればその内に分かるであろう…人質もそこにいるやも知れん。 探し回る事数分、家の中はあらかた探し終わり、後は倉庫だけになった。 主の間の鍵穴とは合わなかったので、多分倉庫の鍵で間違いはないだろう。 鍵を差し込んでゆっくりと捻ると、カチリと錠が外れる音が聞こえた。 扉を開けると、倉庫内に風が入り込み、埃が舞い上がった。 ……掃除はしっかりやるように父上は言っていた筈であるが…守られていないようだ… 「誰かいるであるかー?」 …………… 物音一つしない…他をあたるであるか… そう思って立ち去ろうとした時、微かに物音が聞こえた…様な気がした。 「…奥の方からであるな…」 倉庫の奥へと入っていくが、思った以上に入り組んでおり、細々した物や埃のせいで凄く歩きづらい。 しかし…最奥まで行って、何も無かったなんてことになったら悲しいであるな。 ……まさかな… 「着いたな……おっ?」 乱雑に置かれた複数の木箱の一つの蓋がずれているである。 こういうのは凄く気になる、ちゃんと戻して…… えっ?何これ、人が入って… 「お、おい!大丈夫であるか!?」 「うぅ……あれ…ここは…?」 木箱の中にいた人影には見覚えがあった。 月明かり照らされて輝く金色の髪、本物の様だと言ったら嬉しそうに抱きついてきてたであるな… 頭頂部にはふさふさした獣の耳、悪戯半分で触ったら抱きしめられて布団に連れ込まれかけたな… 腰の部分には思わず触りたくなってしまうような尻尾が六本…前に見た時は三本だったが、彼女が成長した証なのだろう。 同世代の同属よりも胸が小さい事と背丈が伸びない事を嘆いていたが、今ではすっかり………うん……変わってない。 目の前にいる彼女の名は琴音…鉄家に仕える稲荷という妖怪である。 「…琴音…?」 「あれ?…私は夢でも見ているのでしょうか…行方不明になられたはずの輝様が見えますが…」 「夢ではないである、我輩はちゃんとここにいるである。」 「夢でないなら…死後の世界でしょうか……輝様はとっくに死んでしまっているほどの年月が過ぎてしまいましたし…」 話が通じないであるな…よし… 琴音の頬をつまみ、横に強く引っ張る。 「いたたたっ!痛いです!夢でも死後の世界でも無いって分かったので放してくださいぃぃ!」 我輩が手を放すと、琴音は目に涙を浮かべながら、赤くなってしまった頬をさすっていた。 涙を浮かべる琴音の顔はとても可愛いであるから…ついついいじめたくなってしまうである… …彼女が変わって無くてよかった…それが分かっただけでも、帰って来た甲斐があった… 「本当に…輝様なのですね?」 「もちろんだ…随分と待たせてしまったであるな…琴音。」 「まるで夢のようです…会えなくなったはずの輝様に…生きて会うことが出来るなんて…」 「呪いとやらのおかげで、今日まで生きて来れたである…複雑な気持ちではあるが、奴には感謝しないといけないであるな…」 抱き付いてくる琴音の頭を、優しく撫でてやる。 泣いてる時は何時にも増して甘えてくる…彼女の仕草の懐かしさと嬉しさに、目尻に熱い物が溜まってくる。、 な、泣いてる訳ではないぞ!こ、これは心の汗である! 「輝様は…覚えていらっしゃいますか?」 「…何の事であるか?」 「もし、無事に帰ってきたら…」 「互いの初物を捧げ合う…であるか?」 「覚えていて下さったのですね…よかった…」 「…すまん、正直に言うと忘れていたである。」 そう言った後の琴音の目に、一瞬だけ黒い光が灯った気がしたが…気のせいであってほしい… 「だ、だが!我輩はまだ体を許すような事はしてないであるぞ!唇は琴音に奪われたから大目に見てください…」 「まぁそれくらいなら…では早速まいりましょうか。」 「まいるって…どこへであるか?」 「私の部屋以外にどこがありましょうか…それとも…ここでなさりたいのですか?」 「それは勘弁願いたいである…立てるであるか?」 旨く力を入れれない様子の琴音に手を差し伸べる。 そっと重ねられた琴音の手をしっかりと握って引っ張った。 「ありがとうございます…それと…」 「む?どうしたであるか?」 「お帰りなさいませ、輝様。」 「ただいまである、琴音。」 「そこの不審者!家の倉庫で何をしている!」 「いや…我輩は不審者ではなくて、鉄家の…」 「む?…こ、琴音!?まさか…!」 「ご、誤解である!我輩達はまだ何も…あっ…」 「何も…という事は……ゆ、許さん…絶対に許さんぞ!」 「何でいつもこうなるであるか!?たまにははっぴーえんどとやらで終わりたいであるのに!!」 「輝様…何とかわいそうなお方なのでしょうか…」 〜今日の観察記録〜 種族:稲荷 ふさふさした尻尾と、かわいらしい獣耳が特徴的な妖怪である。 彼女達の能力の強さは尻尾に現れ、強い力を持つ者ほど尻尾の数が増えていくのである。 また、彼女達はとても献身的で、身の回りの世話から夜の世話までいろいろ出来るため、非常に人気が高いようである。 |