7ページ:アカオニ・アオオニ・ウシオニ
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「や、やったぞ!生きてジパングにたどり着けたぞ!」
DL
「思ってたより早く着いたであるな。」 太陽が沈んで浮かぶ…到着までに、3回くらい見たである。 要するに3日であるな、3日でたどり着けたのだからまだ早い方である。 こうして無事にたどり着けたのも、彼女のおかげである。 魚を取ってきてくれ、魔物を追い払い、話し相手になってくれたおかげでここまで来れたのである。 彼女との約束通り、ちゃんと礼をせねばな… 「ねぇ…ジパングに着けたんだからさ…その…」 「分かってるである、約束通りその男を好きにするである。」 「えっ!?ど、どう言う事だよそれ!」 彼女との約束…我輩が無事にジパングへたどり着けたら、一緒にいた男を好きなようにしていいと言うものだ。 彼には可愛そうだが、我輩の野望の為の礎となってくれ… むしろ、ご褒美になるかも知れんであるな…夜もあんなに激しかったであるし… 「ではさらばである…末永く幸せにな。」 「おい待て!どう言う事か説明しろ!」 「そんな事はいいからさ…早く宿に行こ?もう我慢できないの…」 「お前も落ち着けって!顔が近い!やめっ…んむぅっ!?」 後ろから何かが聞こえるが気にしないである。 ここまで着たからには、実家に着いたも同然である。 後は、さくっと歩いて行けば……… ……実家ってどっちの方角だったであるか…? まぁ…適当に歩いていれば、その内にたどり着くであろう… そう思っていた時期が、我輩にもありました。 「…出口はどこだぁぁぁ!!!」 我輩の叫び声が空しくこだまする… たしか、我輩はちゃんとした道を歩いていたはずである… 絶対に迷わない様に、位置の確認も小まめにしながら歩いていたのである… それなのに…何故、我輩は森の中で迷っているのであるか… 「人か妖怪が通れば何とかなりそうではあるが…」 周りには道らしきものは見えず、人の気配すらない。 何とも絶望的な状況であるな…このままでは日が暮れてしまうである… ……ん?今微かに、誰かの声が聞こえたである… 「おーい!誰かいるであるかー!?」 話し声が止まる…気づいてもらえたのであろうか… しばらくして、前方の茂みから2人の女性…もとい、妖怪が出てきた。 2人とも頭部に立派な角が生えており、片方は赤い肌、もう片方は青い肌をしている。 みんな大好きアカオニとアオオニであるな、昔はよく一緒に酒を飲み交わしたものである… その度に父上に怒られて、泣いてた所を慰められて酒を飲み交わす…いい思い出であるな。 「ん?迷子か………っ!?ま、まさか!?」 「鉄輝…行方不明になったと聞いてたけど、帰ってきてたのね。」 「久しぶりであるな、元気にしてたであるか?」 「もちろんさぁ!今から宴会するんだが、お前も来るか?」 「後で、町まで送ってもらえるなら…」 「貴方…まだ、方向音痴直ってないの?」 「ちまい姿にされてしまって、頭の方も小さくなってしまったであるからな…さらに磨きがかかったである。」 他愛も無い話の中に、草木の揺れる音が入り込む。 音のした方へ視線を向けると、そこに妖怪が1人いた。 頭部には、鬼の様な牛の様な立派な角が2本生えている。 下半身は蜘蛛の様な構造をしており、非常に逞しく、薄い毛に覆われている。 手には獣の様な鋭利な爪が生え、こちらも薄い毛に覆われている。 彼女は鬼の名を持つが、鬼とは異なる者…ウシオニである。 …ちょうどいいであるな。 「貴殿も宴会に参加するであるか?」 「えっ!?」 我輩の提案に、驚きを隠せない様子のウシオニ殿。 …我輩…変な事を言ったであろうか? 「遠慮する事はないよ、宴会は人数が多いほど楽しいもんだからね。」 「いや…あの…」 「無理強いはしないが…興味があったら参加してほしい…どうかな?」 「えっと…その…わ、わかった…私も行く…」 随分と戸惑ってるであるな…何故であろうか? とりあえず、飲み仲間が増えた事だし、宴会に行くであるか! 「んぐっんぐっ…ぷはぁ!酒が美味いねぇ!」 「うむ、いくらでも飲めるであるな。」 「…焼酎5本空けておいて何で素面でいられるのさ…」 アカオニ殿とアオオニ殿の住処で、盛大な宴会を満喫中である。 何が盛大かって?もちろん、酒の量である。 「…美味い…もぐもぐ…」 「あんたもお酒飲みなよ、美味いぞ?」 「いや…お酒は苦手なの…」 「つべこべ言わずに飲めぇ!」 「んんっ!?」 強引に酒を飲まされているウシオニ殿… 我輩の知ってる限りでは、ウシオニは凶暴な性格だったはずであるが…例外もいるものであるな… 「アオオニ殿は飲まぬのか?」 「あ…私が飲むと…ね?」 「あぁ…我輩は特に気にしないであるぞ?」 「…いいの?酔っちゃってもいいの?」 「そんな事気にしないで飲めばいいである、楽しく飲めればそれでいい。」 「ありがとう…では早速…」 言うや否や、瓶のまま一気に飲み干していくアオオニ殿。 後が大変そうであるが…何とかなるであろう。 「はふぅ♪…美味し♪」 頬を赤く染め、色っぽく微笑むアオオニ殿。 貞操を守る作業の幕開けであるか… 「輝…お前が悪いんだぞ?私に酒を飲んでもいいなんて言うから…」 「大丈夫である、逃げ足には自信があるであるからな。」 ゆっくりとこちらに近づいてくる… 何時襲い掛かられても避けれる様に、意識を集中させ、身構えた。 しかし、突然後ろから誰かに抱きしめられ、我輩は呆気なく捕まってしまった。 「えへへー♪すりすり♪」 「ぬおぉ!?は、放すである!」 もふもふした手に包まれ、頬ずりをされる。 抱きしめられるのは嬉しいであるが…状況が悪すぎるである… 「杯に一杯程度の酒で酔っちまったよ…しかも、甘え上戸だったらしい。」 「そうなんだ…でも、これだと輝をつまみに出来ないね…」 「んー?あたしはあんたでも十分いけるよ?」 「いや…そうじゃなくて私が……今…なんて?」 「あぁもう辛抱堪らん!いただきまーす!」 「やぁっ!?そこは…あぁん!」 なんだか、向こうは大変な事になってるであるな… …そんな事を言ってられない状況であるな…ウシオニ殿を何とかせねば… 「ねぇ…私の旦那さんになって?」 「魅力的な提案ではあるが…すまぬ…」 「えぇー!?減るもんじゃないしいいでしょ別に!」 「…すまない…我輩はやるべき事があるのである…」 「うぅ…じゃあ…私の話を聞いてくれる?」 「それくらいなら構わないである。」 彼女の隣に座り、彼女の頭を優しく撫でる。 恥ずかしそうに頬を染めながら、彼女はゆっくりと話し始めた… 「私…仲間の中でも力が弱くてさ…人間の一人も捕まえられないんだ…」 「…死活問題であるな…」 「うん…なんでこんなに弱いんだろう…泣きたくなってくる…」 しばらく話を聞いていたが、ここらでまとめておこうと思う。 彼女は、同属の中でも弱く、人間を捕らえられないせいで馬鹿にされているらしい。 かと言って、不意打ちをしようにも、彼女の大きな下半身を隠しきれる場所がなく、どうしようもないとのことだ。 我輩としては、彼女には是非とも男を捕まえられるようになって欲しいである。 彼女の幸せのためにも…我輩の貞操のためにも… 「心配ならあたし等が面倒見てやろうか?」 突然、アオオニ殿を襲っていたアカオニ殿がそう提案してくる。 傍らには、虚ろな瞳で横たわるアオオニ殿の姿が見える… 「えっ?…でも…」 「一人くらい増えても問題ないよ…それに、あんた言い飲みっぷりだったからね♪」 そう言って、満面の笑みを浮かべるアカオニ殿。 彼女のこの笑顔に救われる者は多い…我輩もその1人だったである。 「…本当に…いいの?」 「いいっていいって、これからよろしくな!」 「…うん!」 暗い表情が消え、アカオニ殿に負けずとも劣らない笑みを浮かべるウシオニ殿。 我輩の出る幕はなかったであるな…まぁ、気にしてないであるが。 「よーし!新しい飲み仲間誕生を祝ってもっと飲むぞぉ!」 「おー♪」 「うむ。」 妖怪の宴は夜遅くまで続く…楽しい笑い声を響かせながら… …何かを忘れている気がするであるが…うーむ…? 「も…もうらめ…きゅぅ…」 「ここまで来れば、流石のお前でも迷ったりはしないだろう。」 「近くの町まででよかったのであるが…すまんな。」 宴会の翌日…つまり今日のこと。 近くの町まで送ってもらう予定だったのであるが、彼女達は我輩の実家のある町まで送ってくれたのである。 少し馬鹿にされた様な気がするが、聞かなかったことにするのである。 「でも…この前行った時誰もいなかったが…」 「重々承知である…留守にした期間があまりにも長すぎたであるからな…」 「…一人ぼっちなの?」 「孤独にはもう慣れたであるからな、特に問題は無いである。」 ウシオニ殿もずっと孤独だったのであろうな…まあ、これからは心強い仲間がいるから大丈夫であろう。 さて…そろそろ行くであるか。 「また宴会やろうな!楽しみにしてるぜ!」 「次も、いい酒を用意して待っているぞ。」 「色々と…ありがとうございました!」 「うむ、またな。」 我輩は、森の方へ歩いて行く彼女達を、姿が見えなくなるまで見つめていた。 次までには、美味い酒を用意して置きたいであるな…次の宴会が楽しみである。 何はともあれ、我輩は帰ってきた… 「…随分と待たせたであるな…我輩はついに帰って来たであるぞ…」 我輩の先祖と父が、五代に亘って治めてきた我故郷… 小さな村ではあるが…その全てが、我輩が愛した物なのである。 「さぁ!我輩を歓迎するである!鉄家五代目主の息子!鉄輝様の帰還であるぞ!!」 「いや、我輩は鉄家の五代目の息子であって決して不審者などでは…あ!やめるである!どこへ連れて行くである!?」 〜今日の観察記録〜 種族:アカオニ 力が強く、とてもお酒が大好きな妖怪である。 凶暴だと思われがちだが、本当は気さくで面白い者達である。 彼女達が宴会に混じれば、大いに盛り上がる事であろう。 種族:アオオニ アカオニと同じく、お酒が大好きな妖怪である。 普段は割と大人しく、逃げ出すのも容易であろう。 一度酒を口にすると、性格が変わったかのように乱れ、積極的に襲い掛かられる事となるので注意してもらいたい。 種族:ウシオニ 妖怪の中でも特に危険で、怪物と呼ばれている妖怪である。 圧倒的な力強さと打たれ強さを持っており、安易に手を出すと返り討ちに遭うであろう。 捕まると解放される事はないが、全身全霊を掛けて愛してくれるので、案外幸せになれるかも知れないである。 |