1話:最終鬼畜兵器型行商人 NEXT

ベルメイト地方は山と海に囲まれた広く平和な地方です

おいしい魚介類と優しい住民達の笑顔が貴方をお持ちしております

ぜひ一度はベルメイト地方にお越しくださいませ




「・・・ずいぶんと懐かしいポスターだな」

このポスターはベルメイト地方に港町が出来たときに作られたポスターで推定200年ほど昔に製造されたものだ
まだ読めるのはすごいがずいぶんと痛んでいるようだ

「もう200年も経ったのか・・・ずいぶん短く感じるなぁ」

僕らの一家がここ、ベルメイト地方に来たのは約200年ほど前のことだ
その当時はお宝でも手に入れて一儲けをしようとしていたのだけど、その目的は父さん自身によって達成できなくなってしまった
父さんが古代文明の技術や魔法に興味を持ち始めたことによってお宝を見つけても売るのではなく分析を始めたからであった
古代の技術はとても不思議なものが多く、解明しているうちに僕も楽しく感じ始めていた
何よりも、解明した技術を自分の能力に出来たりするのがとても楽しいし商売にも役立てることがあるので僕もよく遺跡に行くようになった
兄さんや姉さんはさっぱり判らないらしいけど


え?何で200年も生きているのかって?


僕が200年も生きている理由・・・それはある事件がきっかけで父さんと母さんに掛かった魔法の効果が受け継がれたからである
父さんと母さんは28歳前後の容姿だが既に300年ほど生きている
若いころ、共に魔法の研究に力を入れていた二人だったが、時間の流れを遅くする魔法を研究していたときに魔力を流し込みすぎ、容器が耐えられなくなるほど溜まった魔力が暴走、暴発し、父さんと母さんはそれに巻き込まれた
幸いにも命に別状は無かったが強すぎる魔力を受けて二人の体質に変化が起きていた
二人に起きた変化・・・それは人間が誰もが一度くらい夢見るもの・・・[不老]・・・
人によって個人差があるが一定の年齢からまったく成長しなくなるというもので不老の状態になると年を取らなくなり、事実上寿命という概念から解き放たれる存在となる
しかし、不老であっても不死ではないので斬られたりすれば死んでしまうし、逆を言えば不死よりは脅威にもならず死なない限りは永久に生き続けられるようになると言うことである
それ以来、父さんと母さんは年を取ることなく今も元気にしている

父さんと母さんに起きた変化は子孫である僕らにもきちんと受け継がれている
家族の中では僕が一番幼く見える、外見年齢は13歳ほどだろうか
姉は20歳、兄は18歳で成長が止まっている、僕だけ早すぎるような気もするが個人差ということで諦めている
不老以外は似ている部分を上げるほうが難しいというほど能力にばらつきがあったそうだが年齢の時点で諦めているのでここの説明は省く、あまり長くてもモニターの前の読者の人が疲れてしまうだろう

・・・モニターというものがどんなものなのかは判らないけど・・・

説明が長くなったかもしれないけどこんな理由で僕は200年も生きている、なぜ不老の効果が消えないのかは気にしたら負けな気がする

「200年の間にこの辺りも随分と変わったなぁ」

僕がここをはじめて訪れたとき、町には一攫千金を夢見る冒険者や神の教えを説く神父や遠くから移住してきた魔物達で賑わっていたが、今では始めてくる人ではなく、町の住民やこの地方に住んでいる人たちで賑わっている
古代遺産の価値が薄れ始めてきたという噂が流れた途端に、この地方を訪れる冒険者の数が一気に減ってしまった
古代遺産の真価を知らないが故に噂や周りの評価に流されてしまい、お宝にありつくチャンスを逃してしまっているのだろう

そのほうがこちらとしてもお宝をめぐる争いが少なくなって助かるのだが

「もうそろそろか・・・今日はどれくらい売れるかな」

外見年齢からは想像できないかもしれないがこれでも行商人をやっている
薬の調合に使う薬草や武具の生産に使用される鉱石、後は自作の魔石とか手作りの小道具や護身用の武器などいろいろなものを扱っている
この商売は珍しいものや信頼性の高いものを用意しないとお客さんは買ってくれない、高くなっても買ってくれる人はいるので助かるけど・・・
最近では場所をめぐって競争状態になっている、お得意の客でもいない限り滅多な事では大儲け出来ないのでみんな必死になって走ることになる
資金に余裕があるときはそんな人たちに場所を譲ったりして客の側にまわる時もある
珍しいものがあったりして見ていて楽しかったりする、もちろん誰かに自慢の商品を買ってもらうのも楽しい
ちなみに僕にはお得意の客は今のところいない、足りないときはギルドで出されている依頼をこなしたりして資金を稼いでいる

もう直ぐで自由市場が開かれる時間だ、中心に近い場所程お客がよく来るので行商人はそこを狙って全力で走っている
なかにはあえて中間くらいの位置をキープして商売をする商人もいる、確実な方法を取るという意味ではある意味正解である
もっとも僕はそんなことはしない、常に中心めがけて全力疾走している

「これより自由市場を開く、好きなように店を開き、品物を売るといい」

警備兵の合図と共に商人たちが一斉に走り出す、無論僕も全力で走る
地を蹴る度にどんどん加速していき他の商人との距離を一気に突き放していく、目的地を目指してさらに加速していく
目的地に着いた僕はすぐさま旗を立てる、自分が取った場所だと宣言するための目印である
少し遅れて他の商人が走ってくる、中には走りすぎて極度の疲労で倒れるものもいるが、それだけ皆必死なのだ
一通り場所取りが終わった後倒れた者が警備兵によって医療所へと運ばれていく、もう見慣れた光景だ

さて・・・今日は何を売ろうかな・・・







「ふむ・・・珍しいものがおいてあるの」
「ナイフなんてそこまで珍しくないと思いますけどね」

露店を開いて約1時間、今日は客入りは少ないほうだがそこそこ売れているおかげでしばらく生活していけるだけの資金が溜まった
今目の前にいるのは僕よりも微妙に低いくらいの背の少女、幼女という表現のほうが合っているかも知れないが幼女ダメ!絶対!という声が聞こえたので少女のままにしておく
魔物図鑑というものを持っていないため種族がわからないのが残念だ

「む?どうしたのじゃ?ワシの顔に何かついてるのか?」
「あ、すみません、何でもないです」
「?そうか」

気がつくと少女の顔をみつめていたようだ、無意識だったとはいえ赤面してしまう

「ふむ、もしかしてワシのことが気になるのかの?」
「そ、そういうわけじゃないですけど」
「ほれほれ、素直になったほうが楽じゃぞ?」

モフモフの手で頬をツンツンと突かれる、あ・・・結構気持ちいいかも・・・ってそうじゃなくて

「は・・・恥ずかしいのでやめてほしいのですが・・・」
「正直に言えば直ぐにでもやめてやるぞ?」
「判りました、判りましたからプニプニしないでくだしぁ」

危うくプニプニされて蕩けてしまうところだった・・・最近の少女ってすごい

「それではなぜワシの顔を見つめておったのかいってもらおうかの?」
「実は貴方の種族が気になりまして・・・」
「なんじゃそんなことか、ワシに一目ぼれしたのかと思ったのだがのう・・・」
「なぜそんなに残念そうに言うのかも気になりますが」
「いいじゃろう教えてやろう、ワシは誇り高き魔界の覇王バフォメットであるぞ!」

少女は腰に手を当て、誇らしげに種族を説明してくれる
バフォメット・・・聞いたことはあるけどこんなに小さい魔物なのか

「お主・・・いま何か失礼なことを考えておらんか?」
「そんなこと無いですよ」

・・・バフォメットは心を読めるのだろうか・・・そうだとしたらバフォメットの前ではあまり考え事をしないほうがよさそうだ

「うむ、これが気に入ったぞ、いくらになるかの?」
「銀貨3枚・・・といいたいところだけど特別に2枚でいいですよ」
「それはありがたいのじゃが・・・お主の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、しばらく生活できるだけの資金は稼げたのでこれくらいならサービスできますよ」
「すまぬの、ではお言葉に甘えさせてもらうぞ」

少女から銀貨を2枚受け取る、そして彼女に包装したナイフを渡す

「うむ、ありがとうなのじゃ」
「またのご来店をお待ちしております」
「こちらこそまたよろしくなのじゃ」

可愛らしい笑みを浮かべて走っていく少女・・・バフォメットってこんなに可愛いのか・・・
・・・ってこれだと僕がロリコンに見えるじゃないか
あれ?でも外見年齢的には同い年くらいだし・・・でも・・・あれぇ・・・?
・・・まあいいか・・・そんなことより商売の続きだ



〜一時間後〜



そろそろ店をたたむ、あまり長い時間店を出してもこっちが疲れるだけなのでいつも1〜2時間で終わることにしている
集中力があまり無いので長時間商売をするのには向いていない、だからこそ行商人になったわけだけど

店をたたんだ途端に他の商人が走ってくる、そんなにこの位置がほしいのか・・・
商売が終わった後だからどうでもいいけど
さて・・・買出しにでも行こうか・・・今日は何を作ろうか・・・
ん?・・・人だかりが出来ている、何かあったのだろうか?

「すみません、何かあったんでしょうか?」
「ん?あぁ、幼い魔物ががらの悪い連中に絡まれているみたいでな」
「助けたほうがいいのでは・・・」
「そんなにいうんだったらお前さんが助けてやったらどうだ?」
「とりあえずどうなっているか確認してからじゃないと・・・すみません、ちょっと通してください」

人混みを掻き分けて中心へと向かう、人混みの中心部では男三人が少女を囲んでいるというけしからん状態になっていた
あの少女・・・さっき会ったバフォメットだろうか・・・なんとなく似ている気がするが
男達のほうは重厚な鎧を着て教団のエンブレムがついたマントを羽織っているところからして教団の騎士だろうか

「お主等もしつこいのう、ワシは買い物に来ただけじゃと言っておるじゃろう」
「そんな嘘に騙されると思ったのか!人様を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「まったくだ、そんな理由でわざわざこの町までバフォメットのような上位に位置する魔物くるわけが無いだろう!」
「まったく・・・これだから教団の連中は好きになれん、人の話をろくに聞きもしないで自分達の考えだけで決め付ける・・・悲しいことじゃのう」
「黙れ!魔物の分際で我らを愚弄するつもりか!」
「あのー・・・」
「む?・・・おぉ、お主はさっきの」
「やはり貴方でしたか、どうかされたんですか?」
「どうしたもこうしたもこのロリコン共が五月蝿くてのう」
「貴様ぁ・・・黙っていればいい気になりやがって!」
「でもどう見てもあなた達に非があるようにしか見えませんよ?」
「黙れ!その魔物に加担すると言うなら貴様も叩き切ってくれるわ!」
「うーん・・・少しくらい痛い目に遭ってもらったほうがいいですかね?」
「遠慮はいらん、お主の力を見せてもらおうかの」

少女の了解を得たので少し痛い目に遭ってもらうことにした
目を瞑り、頭の中で魔法のイメージを描いていく・・・

「その首もらったぁ!」
「・・・時よ止まれ!」

集中し、描いたイメージ通りに魔力を解き放つ
その瞬間・・・この世界に流れる時が止まった・・・

「これが・・・僕の世界・・・と言っても貴方には見ることも感じることも出来ないけどね」

そういいつつポーチから投げ用に作ったナイフを数本取り出す
この魔法はかなりの量の魔力を消費するが、回避にも攻撃にも応用できる便利な魔法だ
消費が多すぎて何度も使えないけど

「それ故に何が起きたとしても貴方には何が起こったのかわからない・・・避けることも出来ない・・・」

取り出したナイフを腕と足に向かって投げる、当たるギリギリのところでナイフが止まる
剣の当たらない位置へと移動して、僕は一言つぶやいた

「・・・そして時は動き出す・・・」

僕の宣言により止まっていた時が動き出す、男は先ほどまで僕のいた場所を斬り裂き、それと同時に腕と足に投げておいたナイフが突き刺さった

「うがぁ!」

男の足と腕にナイフが深々と突き刺さり、男は手にしていた剣を取り落としてしまう

「これでもまだ斬りかかって来ますか?」
「く・・・くそ・・・」
「まだやるというなら止めはしませんが・・・次は頭を狙いますよ?」
「き、今日のところはこれ位にしておいてやる!覚えていろ!」

男達は怪我をした男を担いで逃げていく、なんとも情けない姿だ
一回深呼吸をしてから少女のほうを向く、少女はなにやら考え込んでいるような素振りを見せているが構わずに話しかける

「怪我は無いですか?」
「ん?あぁ、何とも無いぞ?」
「ご無事で何よりです」
「ふむ・・・なかなかの力を持っておるの・・・顔立ちも整っておるし・・・ぶつぶつ・・・」

なにやら独り言を言っているようだが気にしない方向で行く、いちいち突っ込みを入れるのも面倒だ

「それでは僕はこの辺で失礼しますね」
「あ・・・ちょっと待つのじゃ」
「どうかしましたか?」
「お主の名を教えて欲しいのじゃが・・・駄目かの?」

上目遣いで訊ねてくる少女・・・可愛すぎる・・・
・・・っとそんなことを考えている場合じゃなかったか
一呼吸おいて・・・僕は口を開く



「僕の名はアルト、アルト=V=ラグナロック・・・何処にでもいるただの行商人です」


10/06/16 14:22 up
記念すべき第一話、そして終盤へ差し掛かるころには黒歴史になる存在です

魔法と言う一言で何でもできる気がして主人公を強くしすぎた気がしないでもないですが魔法の力だから仕方が無いです
そのうちに登場人物や地域等の設定集を書くかもしれません、気長にお待ちください

読んでみた感想や指摘などがありましたら感想のほうにお願いします

追記:感想にて指摘してもらった箇所を修正いたしました、rr様ご指摘ありがとうございます
白い黒猫
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