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「ここが奴の家か…」 「そのようですね。」 二匹の、黒い鱗と大きな翼を持つドラゴンが大きめな屋敷の前に立っている。 どうやら、彼女達はこの家にいる人に用があるようだ。 「よし、乗り込むぞ。」 「お姉様、一箇所だけ色の違う壁がありますよ。」 「む、少し離れていろ…ハッ!」 気合を籠めて放たれた一撃が、ドアを正確に打ち抜いた。 轟音と共に、打ち抜かれたドアが無残な姿となって床の上に散らばった。 「流石お姉様、無機物相手でも容赦無いですね。」 「私の行く手を遮るものは全て破壊するだけだ。」 得意げに笑う大きなドラゴン、尊敬の眼差しで大きなドラゴンを見つめる小さなドラゴン。 いざ、屋敷へと入ろうとした時、奥から小さな魔物の少女…もとい幼女が走ってきた。 「一体なんじゃ!?今の騒音は!?」 「む?お前はこの前の…」 「お主は大会の…人の屋敷のドアを木端微塵にしてどういうつもりかの?」 「ふむ…壁ではなかったのか…それは失礼なことをした。」 「…まあよい、要件を聞こうかの。」 「アルトという男は今いるか?」 「この前の試合に納得がいかなくて、再戦を申し込みに来ましたの。」 「ふむ、アルトなら今出かけておるぞ。」 アイリスの言葉を聞き、ゆっくりと振られていた二人の尻尾が、ガックリと垂れ下がった。 「そういえば…道具屋に行くと言っていた気がするの。」 「ほ、本当か!?情報感謝する!」 「お姉様!急ぎましょう!」 「あ、待つのじゃ…行ってしまったか…」 一気に元気を取り戻した二人のドラゴンは、ドアが無くなり大きく開いたままの入り口をさらに広くしながら走って行く。 壊れたドアと、さらに広がった入り口を見て、アイリスは静かに涙を流した。 「アルト?…あぁ、あの小さな子供か。」 「何処にいるか知らないか?」 「さっきまで商品の宣伝とかしてたけど、少し前に出て行ったよ。」 「そうですか…」 店主の言葉を聞いてガックリとうなだれるドラゴン姉妹。 ちなみに、今度はドアを粉砕せずに、窓を粉砕して入ったみたいです。 「どこに行ったか知りませんか?」 「うーん…鍛冶屋でも探してみたらどうだ?いるかどうかはわからんが。」 「そうか…迷惑を掛けたな、失礼した。」 そういうと、入ってきた窓とは別の窓を突き破って飛び出していく。 ドラゴンの飛び出していった窓を眺めながら、店主は静かに涙を流した。 「アルトか?さっきまでいたぞ。」 「またか…」 「お姉様…今日はもう諦めませんか?」 「ここまで来て引き下がれというのか…?」 親方の話を聞いて落胆するドラゴン姉妹、そこの人、ワンパターンとか言わない。 今回は壊すドアも窓も無く、ごく普通に入ってきたらしいです。 「あんた等そんなにアルトに会いたいのか?」 「うむ、どうしても再戦したくてな。」 「なにがあったか知らないが…酒場で待っていれば来るんじゃないか?」 「酒場…ですか?」 「ああ、アルトはワインが好きだとか行ってたからな。」 「でも、確実にいるという保障は…」 「外出した時はいつも寄っているらしいぞ?」 「むぅ…行ってみるか。」 「情報ありがとうございました。」 「また何かあったらいつでもきな、力になるぜ。」 ガハハハ!と豪快に笑って、ドラゴン姉妹を見送る親方。 その笑い声は、店内にいた客が耳を塞ぐ程、豪快に響き渡っていた。 「あ〜…やっぱり、売り込み後のワインは格別だねぇ♪」 「ふふふ、お疲れ様。」 今日は、朝早くから自分で仕入れた商品を道具屋などに売って回ったりしてたから、凄く疲れた… その分、大好きなワインがもっと美味しく感じるんだけどね。 「ルイスさんのところのワインって凄く美味しいよね、どこで仕入れてるの?」 「企業秘密だから教えられないわ、その代わり、アルト君にはお安く提供してあげるわ。」 「ありがとうございます、何か必要なものがあるときはいつでも言って下さいね。」 「また何かあったらお願いするわ、ふふふ♪」 ほろ酔い気分で雑談をしていると、入り口から誰かが入ってきた。 二人組みの魔物のようで、僕から三席ほど離れたところに腰掛けた。 あれ…?どこかで見たような…? 「いらっしゃい、なににする?」 「ワインを頼む…」 「私も同じ物を…」 「分かったわ、少し待ってて。」 ルイスさんがグラスにワインを注いでいる間、彼女達は疲れ切った表情でグラスを見つめていた。 うーん…何処で会ったのかいまいち思い出せない… 「お待たせしたわね。」 「それほど待ってない。」 「ありがとうございます。」 そう言って、ワインを飲み始める二人組み。 黒い鱗に大きな翼…鋭い爪がある手足に長い尻尾… 「元気が無いわね、悩みがあるなら聞いてあげるわ。」 「む…実はある男を探していてな…」 「一日中探したんですけど見つからなくて…」 「なんていう名前の人かしら?」 「アルトという少年だ、どこかで見かけなかったか?」 「あら、アルトならさっきからそこで飲んでるわよ?」 「「え!?」」 二人が同時に此方を振り向く。 …思い出した! 「やあ、大会以来だね。」 「やっと見つけたぞ!私たちと勝負しろ!」 「今は無理なんだ…武器も持ってきてないし。」 「それなら早く武器を取ってきてください、これ以上待てません。」 「そんな無茶な…」 「ふふふ、アイリスちゃんがいるのによくモテるのね♪」 詰め寄るドラゴン姉妹、それを面白そうに眺めているルイスさん、巻き込まれる僕… ………僕、泣いてもいいよね? 「よし…始め…うっぷ…」 「お姉様…大丈夫ですか…うぅ…」 「だから今日はやりたくなかったんだ…あぅ…」 はい、見事に酔いが回ってます。 軽い頭痛もあるし吐き気も少し…もう休みたい… 「また今度にしないかい?今日はもう休みたいんだけど。」 「一日中焦らされたんだ、これ以上我慢出来ない…休みたいのも少しはあるが…」 「私ももう我慢出来ません…少し休みたいですけど、それ以上に体が疼いて仕方がないんです…」 何とかして戦闘を回避できないだろうか… 「…何これ…」 「調理師になるならこれ位の知識はあって当然だ、気合で覚えろ。」 「だからといって、こんな無駄に分厚くて重い本を読ませなくてもいいだろ!」 「何を言っている、その本には基礎的な知識から様々な応用術、果ては役立つか分からない無駄な知識がたっぷり詰まっているんだ、しっかり読んで勉強しろ。」 「まったく…」 自室でゆっくり昼寝をしていたら、突然姉さんが分厚い本を持って部屋に入ってきた。 使い方次第では武器にも使えそうな本の表紙には、[調理師の調理による調理師のための本]という胡散臭い名前が書かれていた。 片手で持てないほど分厚い…そして重い… これを読めって言われたら新手の拷問かと思ってしまいそうだ…事実、俺もそう思っている。 「まぁ、読むには読むか…」 「私も一緒に読むぞ、暇だしな。」 表紙をめくり、最初のページを見て俺は驚いた。 そこには、大きく、丁寧な文字でこう書かれていた… 『この本は魔物娘を美味しく(性的に)頂く方法が沢山載っています。 この本内では、魔物娘を美味しく頂く技術を持っている人を調理師と呼びます。 実在する調理師とはまったく関係ありません。』 「こんなもん誰が読むか!」 「せっかく買ってきたものを投げるな!」 凄まじい怒りがこみ上げてきて、俺は持っていた本を思いっきり投げ捨てた、 ガシャーン!!! 「む?何の音だ?」 「上から聞こえ…」 そう言って上を見た僕が見たものは、割れた窓と光を浴びて輝く窓の破片… そして窓を突き破って僕に向かって落ちてくる、謎の大きな塊だった… 僕が目を開けた時には、見慣れた天井と心配そうに覗き込むドラゴンの姉妹と両親と妹とその母が僕を迎えてくれた。 大丈夫かと訊ねてくる大きいドラゴンに、大丈夫だと返事をし、上体を起こす。 「何が起こったのか思い出せない…」 「突然、上から分厚いものが落ちてきて、それがアルトの頭に当たったのだ。」 「一時はどうなるかと思いましたが…大事に至らなくてよかったです。」 そう言って、安心したように微笑む二人。 …ち、ちょっとだけ可愛いかもって思ったのは内緒だからね! 「顔に出ているぞ。」 「ふぇ!?」 突然入り口の方から声がして変な声が出てしまった… 気を取り直して入り口の方を見ると、美味しそうなスープの入ったカップを持ったアイリスが立っていた。 「アルトは本当によく倒れるの…」 「仕方がないじゃないか、そういう意味では体が弱いんだから。」 「夜の方は逞しくて立派じゃがのう♪」 「アイリス!」 「冗談じゃよ、それよりも腹が減っているだろうと思ってスープを作ってきたぞ。」 そう言ってカップを僕に渡してくる。 カップからは、食欲をそそる温かい香りが漂ってくる。 「これアイリスが作ったの?」 「うむ、アルトに食べてもらいたくての。」 「「美味しそうだな(ですね)」」 「それじゃあ、いただきます。」 「ん?誰か鍋を使ったのか?」 倒れたアルトに栄養のあるものを作ろうとキッチンに入ると、スープの入った鍋が置いてあった。 ふむ、いい匂いだ。 「味見してみようか…」 「あ!!待ってください!!」 一口飲もうとしたら、後ろから大声で止められた。 びっくりして後ろを振り向くと…誰もいない…? 「下ですよ下!」 下から声が聞こえ、視線を下に落とす。 そこには、アイリスというバフォメットの部下である魔女が立っていた。 冷静なツッコミ具合からしてイルちゃんの方だろうか? 「イルちゃんか、どうしたんだい?」 「よく見分けがつきましたね…じゃなくて!その鍋の中身は危険ですから飲んじゃダメです!」 「危険?どういうことだい?」 「臭いからして、鍋の中に入っているのはアイリス様特製のスープだと思います。」 「それがどう危険なんだ?」 「アイリス様の料理は人を殺せるほどの代物ですから…一口飲めば手足が痺れ、二口飲めば意識を消し飛ばし、三口飲めば寿命を縮める…恐ろしいスープです…」 「そんな恐ろしいものが…でも何故そんな危険なスープがあるんだ?」 「もしかしてアルトさんに…?」 「アルトが危険だ!助けに行くぞ!」 そう言うや否や、俺は全速力で走り出していた。 アルト!無事でいてくれ! 「それにしても美味そうだ、一口貰おうか。」 お父さんが僕の持っていたスプーンをとってスープを飲み始めた。 二口、三口と飲んでいくが、途中でぴたりと動きが止まった。 まるで、時間が止まったかのように固まって… 「ごふっ!!!」 「「「吐血した!?」」」 突然、お父さんが口から血を吹き出して床に倒れた! もしかして…このスープ毒物入り!? 「アルトの父上も魔女達と同じ反応か!?そんなにワシの料理は不味いか!?」 「ふむ…」 スプーンでスープをすくって一口飲む、駄洒落ではないよ! 口の中でよく味わって… 「アルト!!!そのスープを飲むな!!!」 突然、ドアが壊れかねない勢いで開き、兄さんが部屋に飛び込んできた。 その後ろから、息を切らしたイルちゃんがフラフラな足取りで部屋に入ってきた。 「そのスープは危険だ!飲むと死ねるぞ!」 「え?別に何とも無いけど。」 「「「え!!?」」」 僕の返答に、アイリスも含め全員が一斉にこっちを振り向いた。 僕の感想はいたって普通、アイリスの手作りスープは美味しかった。 信じられないくらい甘いことを除いては… 「あぁ…守ってやれなくて済まない…俺がもっと傍にいてやればこんなことには…」 「…お兄様…壊れてしまっても大切にしてあげるから…」 「やっと見つけた強者がこの様な最後を迎えるとは…酷過ぎる…」 「あの時庇って差し上げればこんなことには…申し訳ありません…」 「あなた…私たちの子は精一杯頑張ったわ…うぅ…」 「クリス…悲しいのは分かるわ…でも泣いてはいけないわ…アルトは私たちの心の中で生き続けてるから…」 「すまぬ…もっと真剣に料理の腕を磨いておれば…本当にすまぬ…」 皆が口々に悲しみの言葉を述べている、と言うより勝手に殺さないでくれ。 「僕はいたって正常だ、廃人扱いしないでくれ。」 「だが…アルトの父君がそのスープを飲んで…」 「あ〜…苦しかった…」 「「「!!!!???」」」 突然、何事も無かったかの様にお父さんが立ち上がった。 あまりにも突然すぎる出来事に、皆驚きを隠せないようだ。 「…なんだ、その化け物を見るような目は…」 「え?…今倒れて…えぇ?」 「アイリスさん、スープの中に大量のアイスを放り込んだりしてないかい?」 「む?何故分かったのじゃ?」 「…もしかして吐血したのって…甘すぎたのがが原因なのかしら?」 「うむ、私は甘いものを食べ過ぎると吐血してしまうのだ。」 そう言って、愉快そうに笑うお父さん。 お母さん達の目はまったく笑ってないけど。 「アイリス…今度料理の練習しようか。」 「うむ…流石にこれはなんとかせんといかんの…」 「しかし…よくこんなものが食えるな…こんなもの食べたら本当に死に兼ねんぞ?」 「こんなもの言うでない!ワシだって一生懸命に作ったのじゃ!」 「流石に私達でもこれは…やはりアルトさんは凄いですね。」 「そんな…別に褒められるようなことじゃないよ。」 「お姉様…」 「うむ…」 ドラゴン姉妹が隅の方に行き、なにやらひそひそと話している。 何を話しているのかは、ここからでは聞きとることが出来ないのでわからないけど。 「アルトよ…嫌な予感がするのはワシだけか?」 「奇遇だね、僕も嫌な予感がしたよ。」 話しているうちに、向こうも話が終わったらしく、真剣な表情をして僕の方に歩み寄ってくる。 そして、二人同時に僕の手を取ると、口をそろえてこう言ってきた。 「「私たちをアルトの(アルト様の)側に居させてくれ(ください)!!」」 突然の告白に固まる僕と回りの皆…今、この二人なんて言った…? 「え?…それって…」 「言葉通りの意味だ、私達は一度ならず二度も敗北したのだ。」 「一度目は大会の時…アルト様が転ばなければ私達は負けていました。」 「二度目は先ほどのスープ、私達は一口でダメだったのにアルトはまったく持って平気だった。」 なんという超理論…できれば丁重に断りたいけど… 「で、でも一度目は僕が負けて…」 「あの時点で私達は負けを覚悟していました、既に負けを認めていたと言った方が正しいかもしれません。」 「に…二度目はそもそも勝ち負けは…」 「勝敗を決するに十分過ぎる味だと思うぞ?」 「さりげなく酷い事を言っておらぬか?」 「他に言いたいことは?」 「あうぅ…」 断りたいけど…理由がわかりやすくて的確…だけど… 「それにな。」 「?」 「私達は…その…アルトのことを気に入ったのだ…///」 「アルト様のことを考えると…ドキドキして…///」 …はい、見事に落とされました。 こんな可愛らしい姿を見せられて断れるわけがなかった… 試合に勝って勝負に負けると言うのはこの事を言うのだろうか… 「…よろしくね。」 「え?」 「よろしくって言ったんだよ、ここに住むんだよね?」 「…いいのか?」 「アイリスが了承してくれればね。」 「ワシはかまわんぞ?賑やかなのはいいことじゃ。」 「ありがとうございます、これからもよろしくお願いしますね。」 こうして、ドラゴンの姉妹が家族として加わることになった。 うーん…何かを忘れているような…まあいいか。 今日は疲れたし…速いけどもう寝てしまおうか… 様々な声が聞こえる中、心地よい眠気と脱力感に身をゆだね、僕は眠りについた。
10/10/02 01:48 up
更新遅いよ!なにやってんの! って言われそうな10話です。 スランプと実習に挟まれ、二週間以上も更新できないなんて…遅れてしまい、申し訳ありません。 バトルにしようとしたらいつの間にかギャグに…どうしてこうなった… 最初に考えていたストーリーから見事に脱線して明後日の方向に突き進んでいます…これでは不味い… おかしい所があったらどんどん指摘してくださいです。 白い黒猫
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