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先日の事故から早くも一週間が経った。 怪我の具合も良くなってきて、今ではすっかり元の生活を送れるまでに回復した。 闘技大会の準決勝と決勝戦は、事故の影響で一週間延期になった。 つまり、今日が残りの試合がある日だ。 「アルトよ、絶対に無理をしてはいかんぞ?」 「大丈夫だよ、今度は危険になったら棄権するから。」 「それは洒落か?」 「ち、違うよ!僕が駄洒落を言うとでも思ったのかい?」 「フハハハ!言って見ただけじゃよ、それよりもアルトの赤くなった顔、なかなか可愛らしいぞ?」 そう言ってさらに笑うアイリス、自分の表情は見えないからわからないけど、多分耳まで真っ赤になっているだろう。 そんな他愛もない話をしているうちに、いつの間にかクリスが起きて来ていたようだ。 「・・・お兄様・・・大丈夫?・・・」 「おはようクリス、体の方は大丈夫だよ。」 「・・・手加減・・・しよっか?・・・」 「本気の方が嬉しいかな、クリスの強さを知りたいし。」 「・・・わかった・・・一緒に行く?・・・」 「そうだね、兄妹仲良く一緒に行くのもいいかもしれないね。」 「ふむ、ワシも行くかの。」 「え?アイリスも出てたの?」 「密かにな、アルトが勝ち進んだ上でワシも勝ち進めば戦うことになるの。」 ・・・本当に棄権したほうがいい気がしてきた・・・ クリスの時点で大分辛いのに、アイリスまで出てくるなんて・・・勝ち目がなさ過ぎる。 「さあいくぞ!誰でもいいから優勝を目指すのじゃ!」 「・・・うん・・・」 「どうしてこうなったの・・・」 アイリスとクリスが楽しそうに走っていくなか、僕だけはガックリとうなだれながら歩いていった。 『さあ!皆さんお待ちかねの準決勝・決勝戦が、今まさに始まろうとしています!』 観客席から大きな歓声が上がった。 一週間も待たされたのだから無理もないだろうけど。 『それでは!準決勝第一回戦!選手の発表です! 奇跡の復活を遂げた走る古代兵器!アルト=V=ラグナロック!』 芸も無くお辞儀をする、それだけでも歓声が上がる。 ・・・もう少し何かしたほうがいいのかな? 『続いては! 小さな体で破壊の限りを尽くす最終鬼畜兵器少女!クリス=V=ファーレンハイツ!』 クリスが観客席に向かって手を振ると、観客席からより大きな歓声が聞こえてきた 流石に妹には負けれないよなぁ・・・でも強さがわからないし・・・ 『準決勝一戦目・・・始め!』 一際大きな歓声が辺りに響き渡り、少し耳が痛くなってくる。 とりあえず槍を構えて様子を伺う、クリスも大剣を構えて様子を伺っている。 騒がしかった会場が、少しずつ静まっていき、やがて何も聞こえなくなった。 僕とクリスは、互いの目を見詰め合ったまま動かない。 少しでも気を抜いたら、一瞬で勝負が付いてしまうだろう・・・それくらいに、クリスから発せられる威圧感は、強大なものだった・・・ 額から汗が流れ落ち、地面に触れた瞬間、僕は地面を蹴ってクリスとの距離を一気に詰めた! クリスが大剣を振るって来るが、瞬時にかわし、素早く背後に回って槍を振るう。 しかし、いつの間にか後ろを向いていたクリスの大剣の一振りで、あっさりと弾かれてしまう。 そして槍を弾いた勢いのまま、僕に向かって大剣を振るってくる。 反応が遅れ、回避出来ずに槍で防ぐも、凄まじい勢いの前になすすべも無く、槍が弾かれてしまう。 弾かれた槍が、回転しながらリングの下の地面に突き刺さる。 「・・・降参・・・する・・・?」 「まさか、槍が無ければ鞭を・・・」 そういって鞭を取り出した瞬間、クリスの振るった大剣によって鞭も弾かれてしまった。 鞭は、綺麗な放物線を描きながらリング下へと落ちていった・・・ ゆっくりとクリスの方へ向き直ると、クリスはほんの少しだけ笑みを浮かべながら、 「・・・降参・・・する・・・?」 と聞いてきたのだ。 僕の答えは・・・既に決まっている。 「もちろん・・・NOだ!」 そう言うと同時に後ろへと飛び、複数のナイフを投げつける。 しかし、あっさりと切り払われてしまい、クリスには届かない。 もちろん当てるつもりは無い、クリスがナイフに気を取られている間に、魔力をチャージしながらクリスの背後に回り込む。 ある程度溜まった魔力を解き放とうとした瞬間、クリスの頭上から蒼い弾が大量に飛んできた! 突然のことで避けきれず、何発か被弾してしまったが、後ろへと飛んでクリスとの距離を離した。 「・・・お兄様・・・無理はしないほうがいいよ・・・?」 「・・・兄としても負けを認めたくないからね、悪いけど即効で決めさせてもらうよ!」 ポーチの中からアラクネの糸を取り出し、クリスに向かって思いっきり投げつけた! 空中で解れて拡散した糸が、クリスを包み込み、動けなくする。 クリスが糸に絡まっている間に、再度魔力を溜める。 今度は、十分距離が離れているため、ポッドからの攻撃を回避することが出来た。 そして、クリスが糸から脱出したとき、クリスとの距離を一気に詰め、 「よい子はお昼寝をする時間だ、少し痛いかもしれないがゆっくりと眠るがいい。」 クリスに向かって、魔力を解き放った! 複数の弾が交差するようにクリスを挟み込み、襲い掛かる。 着弾と同時に炸裂し、クリスがリング外に向かって吹き飛ばされる。 しかし、クリスはギリギリのところで踏み止まった、少し狙いが浅かったか・・・ でも、大分ダメージは与えたはずだ・・・そう思っていると、クリスにある変化が訪れた。 その時、クリスは笑っていた。 下を向いていてわかりにくいが、普段無口で無表情なクリスからは想像出来ない、愉悦に満ちた笑みを浮かべている。 「・・・凄い・・・やっぱりお兄様は凄いよ・・・」 普段のクリスと違う雰囲気を感じ取り、即座にクリスから離れる。 「実はね・・・お兄様が休んでいる間に・・・私も遺跡に行ったの・・・」 そういいながら、クリスは自分の大剣を後ろへと抛る。 「お兄様が強くなったって聞いて・・・私も強くなりたいって思ったの・・・」 投げられた大剣が、大きな音を立てて地面に転がった。 「お兄様を守るために・・・お兄様に認められるために得た力・・・」 クリスがゆっくりと顔を上げ・・・ 「私の力・・・お兄様に見せてあげる!」 美しく、艶かしく、狂気に満ちた笑みを僕に見せてくれた。 何処からか、二つに折り畳まれた謎の兵器を二つ取り出し、勢い良く振るった。 謎の兵器が、振るわれた勢いで折り畳まれていた状態から、本来の凶悪な姿へと変わった。 銃をベースに作られたような外見だが、二つの大きな砲身に複数の小さな穴の開いたでっぱりが見える。 兵器が本来の姿に戻ると同時に、クリスの周囲にこの兵器と似たような兵器が現れ、僕の方に凶悪な砲身を向けてくる。 「よい子の時間はお仕舞い・・・ここからは楽しいパーティの時間・・・」 クリスの持っている兵器と、クリスの周囲の兵器の砲身が少しずつ加速しながら回転していく。 「私と一緒に踊りましょう!」 クリスがそう言い終わった瞬間!砲身から数え切れないほどの弾が、滅茶苦茶にばら撒かれ始めた! 一つ一つの威力はとても小さいが、避けきることが出来ない為に、少しずつ追い詰められていく。 「アハハハハハ!いいわお兄様!もっと激しく踊ってよ!」 「くっ!」 これが・・・あのクリスなのか? あまりの変貌振りに、動揺を隠し切ることが出来ずに、回避が疎かになってしまう。 とりあえず、この状況を少しでも何とかしなければ・・・ 「クロックアウト!」 僕の目の前に迫った弾幕が、寸前のところで止まる。 「弾を止めれたとしても、私を止めることは出来ないよ?!」 クリスが僕に向かって飛び掛ってくる。 それを高く飛んで回避し、先ほどまでクリスのいた所に着地する 「ダンスの次は鬼ごっこ?いいよ!私が鬼になってあげる!」 「残念だけど鬼ごっこは始まって直ぐに終わりだ。」 「どういうこと?お兄様。」 「今の自分の位置を見ればわかるよ・・・」 「・・・え?」 先ほどまで僕のいた場所にはクリスがいる、それの意味することは一つ。 「・・・そして時は動き出す。」 時が動き出すと同時に、止まっていた弾がクリスに向かって降り注いだ! 「きゃあっ!」 避けきれずに、多くの弾がクリスに突き刺さっていく。 自分のばら撒いた弾に、自分が晒される事になったのだ。 弾が全て消えた後には、所々服が破れ、肩で息をしているクリスが立っていた。 「やっぱりお兄様は凄い・・・賢くて、強くて、可愛い・・・」 「・・・クリス・・・」 「でも・・・最後に勝つのは私・・・その運命は変わらない!」 「・・・」 そう言うと、クリスは魔力を溜め始めた。 クリスの手に集まった魔力は、次第に強く光り輝いていき、 「私の力・・・お兄様の体で受け止めて!」 一際強く輝いた瞬間、複数の弾が僕を挟み込むように撃ち出された! 撃ち出された瞬間、僕は魔力を溜めながら、クリスに向かって走り出した! 複数の弾が僕を撃ち抜き、その度に激しい痛みが襲い掛かってくる。 強引に弾幕を突破し、クリスの前に手をかざすと、 「しっかりと受け止めたよ・・・でも、勝つのは僕だ。」 溜められた魔力をクリスに向かって撃ちだした。 一発の大きな弾が、クリスを吹き飛ばし、リングの外へと弾き出す。 しかし、下に落ちまいとリングの端に掴まり、必死によじ登ろうとしている。 「まだ・・・まだ終わってないよ・・・!」 ・・・何がここまでクリスを駆り立てるのか・・・ 僕は静かにため息を吐き、 「ほら、掴まって。」 「・・・え?」 クリスに向かって手を差し伸べた。 一瞬何が起こったかわからない様子のクリスだったが、直ぐに我に返ると僕の手を掴んだ。 「・・・なんで助けたの?・・・私はお兄様に酷いことを・・・」 「あれ位なら兄妹のスキンシップには調度いい位だよ、それに・・・」 クリスを引っ張り上げ、埃を払ってあげる。 良く考えたら、女性に対してはやらない方がよかったのかな? 「可愛い妹の、クリスの楽しそうな顔が見れたからね。」 自分で言っておいて急に恥ずかしくなり、頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる。 「・・・お兄様・・・」 元の無口なクリスに戻ってしまったが、その顔には何かが満ち足りたような、優しい笑みを浮かべていた。 「・・・私の・・・負け・・・」 クリスの口から、降伏の意思が伝えられた瞬間、 『勝負あり!勝者アルト=V=ラグナロック!』 観客達の大きな歓声が辺りを埋め尽くした。 準決勝はかなりギリギリで勝ち進むことが出来た。 心身共に疲れ切ってしまい、救護室で治療を受けているけどね。 「・・・お兄様・・・大丈夫?・・・」 「何とかnひぎゃい!?」 「治療中だから安静にしてろ!」 起き上がろうとしたら、強力な裏拳を叩き込まれた。 どう見ても、病人に対してすることじゃないよねこれ・・・ 「今の裏拳の方が痛かtt」 「もう一発食らっておくか?」 「何でもありません、ごめんなさい。」 今度食らったら不味い、決勝戦に出れなくなってしまう・・・ アマゾネスって怖い・・・ そんなやり取りをしていると、救護室のドアが開いた。 「食事を持ってきましたよ。」 「あ、ありがとうございます。」 「もちろん私の分もあるだろうな?」 「マジェルダの分は後で作るから待っててね」 ドアの方には、やや小柄で小麦色の肌の男の人が立っていた。 ・・・裸エプロンと言われる格好で 「ジック、何で裸エプロンなんだ。」 「なんていうんだろうか・・・この姿だと・・・凄くドキドキして来るんだ・・・」 「・・・世界って・・・広いね・・・」 「クリス、目を合わせてはいけない。」 そんなやり取りをしていると、また救護室のドアが開いた 「ん?また怪我人か。」 「そんなに慌てて運ぶでない!あいたたた・・・」 「ア、アイリス!?」 僕の隣のベッドに寝かされるアイリス、その体の数箇所には軽い切り傷が出来ていた。 「ふむ、アルトも負けてしまったのか。」 「僕は何とか勝ち進んだよ、でもちょっと疲れちゃったから休んでるんだ。」 「そうか・・・残念じゃが、アルトと戦うことが出来なくなってしもうた・・・」 そう言って苦笑するアイリス。 アイリスを倒すほどの対戦相手か・・・どんな人なんだろう・・・ 「アルトよ、一つだけ忠告しておくぞ。」 「なんだい?」 「対戦相手はドラゴンじゃ、しかも姉妹のな。」 姉妹のドラゴン!?つまり二匹のドラゴンと戦わないといけないのか!? 「そんな・・・勝ち目がないよ・・・」 「落ち着くのじゃ、アルトは一人で戦うということを忘れているのか?」 「一人だから無理なんだよ・・・流石に二匹のドラゴン相手に一人で挑むなんて無謀だよ・・・」 「むしろ一人だからこそ、アルトにも勝機があるのじゃ。」 アイリスの言っている意味がよくわからない、二対一に有利に戦えるなんてことはないだろうに・・・ 「分かっておらんようじゃな・・・アルトはこの大会で何かアイテムを使ったか?」 「アイテム?普通に使ったよ。」 「一人で出場した時のみアイテムが使える、それをうまく利用するのじゃ。」 「アイテムか・・・ドラゴンに効きそうなアイテムは無いよ・・・」 「・・・お兄様お兄様・・・」 「ん?」 クリスの方を向くと、一枚の紙を僕に差し出してきた。 これはなんだろうか? 「これは?」 「・・・魔石の・・・メモ・・・」 「魔石・・・ふむ・・・」 メモに目を通してみる。 一般的な魔石の作り方や使い方が書かれているが、隅の方に気になることが書かれていた。 「魔力の解放?なんだろうかこれは?」 さらにメモを読んでいく。 メモによると、魔石の魔力と使用者の魔力の一部を解き放つことで、魔石の色に応じた属性魔法が使えるらしい。 解放後の魔法の強さは、使用者の魔力に比例して強くなるらしく、魔力次第では強力な魔法をガンガン使えるような状況になるようだ。 だけど、このメモ書きには肝心な部分が欠けていた・・・ 「・・・どうやって魔力を解放するの?」 「・・・気合・・・」 ・・・この能力は無いものとして考えた方がよさそうだ。 「アルト選手、まもなく決勝戦が始まるので付いてきてください。」 「アルト、お主なら勝てる、自分を信じるのじゃ。」 「・・・お兄様・・・頑張って・・・」 他人事だと思ってこの二人は・・・ 僕は、まだ痛む体に鞭をうち、リングへと向かっていった。 『ついにやってまいりました決勝戦! 最強を決める戦いが、今まさに始まろうとしています!』 これまでに無いほどの歓声が会場を埋め尽くす。 これが決勝戦か・・・まさかここまで来れるとは、微塵も思ってなかった。 これが見ているだけなら良かったかも知れない・・・しかし、実際にリングの上に立ってみると、感動を一瞬で粉々に打ち砕く絶望感に包まれる。 何故なら、対戦相手が最強と名高いドラゴン・・・それを二匹同時に相手にしないといけないのだ。 『優勝を争うのはこの二組です! 持ち前の知識と速さで勝ち進んだ小さな戦士!アルト=V=ラグナロック!』 特に目立ちたいわけでもないので、普通にお辞儀をする。 それだけでも歓声が上がる、嬉しいやら恥ずかしいやら・・・ 『続きましては! 抜群のチームワークと火力で突き進む美しき姉妹!グランドール姉妹!』 目の前の二匹・・・二人のドラゴンは上に向かってブレスを吐いた。 観客からは大きな歓声が上がるが、対戦相手の僕からしてみれば、恐ろしいことこの上ない。 あのブレスに焼かれるのだけは嫌だな・・・あの爪や尻尾で薙ぎ払われるのも嫌だけど。 『それでは!ヨルムンガルド大闘技大会決勝戦・・・始め!!』 一際大きな歓声と共に、運命の一戦が始まった 槍では無く、ナイフを取り出す。 ドラゴン相手に接近戦は避けたほうがいいだろう・・・近づいたら一瞬で終わりそうだ・・・ 「流石にここまで来ただけあって肝が据わっているな。」 「彼なら私たちも楽しめそうですね、お姉さま。」 相手は油断している・・・訳でもないが、凄く落ち着いている。 体格でも、実力でも、相手に比べて大幅に劣っている僕に勝ち目はあるのだろうか・・・ 「どれくらい強いか・・・実力を見せてもらいますね」 「油断はするな、小さくともここまで勝ち進んできたんだ。」 小柄なドラゴンが一歩前に出る。 体格は小柄に見えるが、内に秘められた力の強さは計り知れない。 「まずは私がお相手します、よろしくお願いしますね。」 「え?あ、よろしくお願いします。」 とても礼儀正しく丁寧な挨拶をされ、先ほどまでの緊張感が一気に崩れてしまった。 その一瞬の隙を彼女が逃すわけもなく、こちらに向かって素早く近づいてくる。 素早く懐に潜り込むと、その勢いのままアッパーを繰り出してくる。 彼女を中心に円を描く様に横へ飛んで避けるが、今度は尻尾を振り回してなぎ払おうとしてくる。 なんて動きだ・・・動きといい、追撃の速さといい、今までの比じゃない。 「なかなかやりますね、ですが避けているだけでは勝てませんよ?」 僕の方はこれだけでも息が上がっているというのに・・・どんな体力をしているんだドラゴンというのは・・・ ナイフを取り出してドラゴンに向かって投げつける、とにかく大量にばら撒いていく。 撫でられたナイフがドラゴンに当たっているが、突き刺さらずに弾かれてしまった。 無論、ドラゴンは痛がる様子もなく、くすぐったそうにしている。 「まだまだ、貴方の力はこれだけではないでしょう?」 「うぅ・・・どう見ても無理だろうこれ・・・」 「貴方がここで諦めてしまうなら、早々に勝負を付けさせてもらいますが。」 笑顔で恐ろしいことを言ってくる・・・ドラゴン恐怖症になりそうだ・・・ 僕は、槍をを取り出して構えた、こうなったらやけだ、近距離で戦ってやる。 とはいっても、いきなり近づくのは無謀すぎるな・・・牽制しながら隙を探そうか・・・ 片手を正面にかざし、魔力を弾にして広範囲にばら撒く。 最初は何ともなさそうだったが、次第にドラゴンの表情から余裕が消え始めていた。 弾をばら撒きながら、もう片方の手に魔力を溜め始める。 「させませんよ!」 魔力を溜めるのを阻止しようと、ドラゴンが突っ込んでくる。 どうやら、此方の思惑どうりに動いてくれたようだ。 「掛かったな!」 「なっ!?」 素早く魔力を止め、槍を突き立てる! 突き出された槍は、ドラゴンの鱗を貫き、効果的なダメージを与えてくれた。 ドラゴンが素早く後ろへと飛びのく、追撃がしたかったけど・・・仕方ない。 「なかなかやりますね・・・そんな切り札を持っているとは思いませんでしたよ。」 「大丈夫か?ミーヤ。」 「これ位の傷は傷の内に入りませんよ、まだまだいけます。」 「ここからは私も加勢しよう、流石に一人では骨が折れるだろう。」 「ありがとうございます、リーラお姉さま。」 一人でも危なっかしいのにもう一人増えるというのか!? そんなことを考えていると、突然ドラゴンが左右から迫ってきた! 上に飛び上がって避けようとするも、下からブレスが迫ってくる。 急速な勢いで魔力を練り、引力の空間を作り出す。 ブレスが目の前まで迫ってきたが、寸前の所で曲がり、回避が出来た。 「ほう、避けることに関しては予想以上に優れているようだな。」 「お姉さま、私が特攻するので援護をお願いします。」 「任せろ、私たちのチームワークの前に敵などいない!」 そう言うや否や、小柄なドラゴンが突っ込んでくる。 飛び越すように回避した途端、目の前にもう一人のドラゴンが迫っていた。 「ぴょんぴょんと目障りだ、落ちろ!」 直後、彼女の尻尾が勢い良く叩きつけられた。 槍で防ごうとするも、防ぎきれずに尻尾の先端部分が頬を裂き、地面に叩きつけられた。 「どうした?その程度なのか?」 「期待はずれですね・・・本当にこの程度で終わりなら。」 「ぐぅ・・・」 槍を支えにして立ち上がる、正直言ってもう無理かもしれない・・・ こうなったら一か八かやってみるか・・・ 僕は青い魔石を取り出し、強く念じながら握り締めた。 「何をするつもりかは知らんが・・・下らない事だったら容赦はしないぞ?」 魔力が魔石に流れ込んでいく・・・これだけでは何も起こらないのか? しかし、突然魔石が輝きだし、驚くほど冷たくなり始めた! 慌てて魔石を手放そうとして上に抛り投げる。 すると、魔石は粉々に砕け散って、青空の中へと熔けていくように消えていった。 心なしか、周囲の空気が冷えた気がするが・・・それだけだった。 「・・・何がしたいかは知らんが、私たちも暇ではないのでな。」 「残念ですがここでお別れです、それではおやすみなさい。」 二人のドラゴンが僕に飛びかかろうとしたが、何故か踏みとどまってしまった。 どうして踏みとどまったのか不思議に思っていると、僕の周囲に変化が訪れた。 凄く寒い・・・さっきまでは温かかった会場を、肌を突き刺すような鋭い寒さが包み込んでいた。 それと、ほんの僅かだけど、風が吹いてきてる。 僅かだった風は、次第に強くなり、僕の前で旋風のようになり始めた。 強風で目がかすみ、開けていられなくなって目を瞑る。 風が吹いてしばらくすると、さっきまでの寒さが嘘のように無くなり、次第に温かくなっていく。 やがて風が止み、恐る恐る目を開けてみると、目の前に細長い槍のようなものが浮いていた。 槍からは、ひんやりとした空気が流れ、触ってみると、驚くほど冷たかった。 目の前の槍を手にとって見る、冷たいけど痛いと感じるほどではない・・・ それにこの槍を握っていると・・・何故か知らないけど、無性に投げたくなってくる・・・ 「そんなものを隠し持っていたとはな、だがお遊びはここまでだ!」 ドラゴン二人が此方に向かって突進してくる。 僕は必要以上に強く地面を蹴って、高く高く飛び上がった。 手に持った槍を構え、大きく振りかぶってリングに向かって投げつける! 太陽の光を受け美しく輝く槍は、空気を切り裂きながら、リングへと突き刺さった! その直後、巨大な冷たい爆風が広がり、リング全体をすっぽりと包み込んだ! 爆風が消え、リングの上へと着地する。 先ほどまでとは違い、リングの表面が凍りに覆われて、良くすべるようになっていた。 「くっ・・・油断したか・・・まさかこんな攻撃をしてくるとはな。」 「私たちの弱点を突いてくるとは・・・貴方を見くびっていましたよ。」 どうやら、寒さのせいでうまく動けないらしい。 今しかない!そう思って強く地面を蹴り、走り出した! そして走る勢いのまま槍を構え・・・!? 突然、体を支える力を失い、強く地面に叩きつけられた! 足元の氷が少し解けて、滑りやすくなっていたようで、その場所を踏んでしまい転倒してしまったらしい。 転倒しながら滑っていく僕、止まりたくてもツルツル滑って止まれない。 自分の放った技の効果が仇となって、こんな情けない負け方をするなんて・・・ 抵抗むなしく、僕の姿はリングの下へと消えていった・・・ 「何か言いたいことはあるかの?」 「何で縛られているのかを聞きたいのだけど。」 大会が終わって屋敷に帰ってきた途端、後頭部に鋭い痛みを感じ、気がついた時には縛られた状態で正座させられていた。 何でこんなことに・・・大会だって全力で戦ったのに・・・ もしかして、アイリスの楽しみにしていたアイスを食べたのがばれたのだろうか? 「何で正座させられているか・・・言わずともわかるな?」 「ごめんなさい、あまりにもおいしそうで・・・ほんの出来心だったんです!」 「む?おいしそう?」 「え?アイスのことじゃないの?」 「ワシが言っているのは闘技大会のことなのじゃが、そんなことよりアルトが食べたのか!」 「(しまった・・・)ごめんなさい」 アイスのことじゃなかったのか・・・無駄に怒られる原因を一つ増やしてしまった・・・ 「大会なら僕頑張ったよね!決勝までいったんだよ!」 「うむ、確かに大会は頑張っておったな。」 「なら怒られることは・・・」 「あんなしょうも無いことで自滅をしたことに機嫌が悪いのじゃ!」 「あぅ・・・」 「まったく・・・魔石の解放の仕方を自力で見つけ出したのはいいが、自分の魔法で自滅してどうする。」 「・・・グスン」 「ま、まあ頑張っておったしの、そのことに関しては良く頑張ったのじゃ。」 僕だって怒られたら泣いてしまうこともある、今みたいに。 僕の泣き顔をみて、アイリスは焦った様に態度を変えてしまう。 ちょっと悪いことをしちゃったかな・・・ 「アルトの実力がわかったからよしとするかの。」 「アイリス・・・」 「とにかくご飯を食べてゆっくり休むとしよう・・・ところで一つ聞きたいのだが?」 「なんだい?」 「アイスはおいしかったかの?」 アイリスの顔は笑っているが、目がまったく笑ってない・・・返答次第では只では済まないだろう・・・ 僕はアイリスの目を見つめ、はっきりと答えた。 「とってもおいしかtt」 言い終わる前に、フカモフプニな手が顔面を直撃した。 今度からは良く確認してから食べよう・・・そう思いながら、僕は意識を手放した。
10/09/07 23:53 up
今回はネタを少なめに・・・って思っていたら酷いオチに・・・どうしてこうなった。 そんなこんなで8話の後編です。 過去最長(行商内)です、それでも後編です。 クリスさんがややヤンデレに目覚めてしまった気もしますが・・・気のせいにしてください。 オチは・・・ギャグを無くしたら反動でやってしまいました、ごめんなさい 白い黒猫
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