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「ここがオリファーさんのいるところ?」 「うむ、早く行ってやるかの。」 そんなことを言いつつたどり着いた場所は、魔王軍指令本部と書かれた建物だった。 アイリスの後について、建物の中へと入る。 建物の中は、魔物や人間で一杯だった。 「それで、オリファーさんは何処にいるのかな?」 「奴なら一番奥にいるぞ。」 「え、それってもしかして・・・」 「奴はここの司令官じゃよ。」 驚きの新事実!でもなんとなく予想は出来てたけど。 アイリスと共に、奥へ奥へと進んでいく。 長い廊下の突き当たりの部屋の扉をノックすると、どうぞと声が聞こえてきた。 失礼するぞと言いながら部屋に入るアイリス、僕も失礼しますと言いながら部屋に入る 「よく来てくれたな、待っていたぞ」 「待たせた分、信頼の出来る者を連れて来てやったぞ。」 握手を交わしながら、司令官と親しげに話すアイリス。 「ふむ、此方のレディーが君の言っていたお気に入りか。」 「オリファー、アルトは男じゃ。」 「なん・・・失礼した、あまりにも美しくて女性かと思ってしまった。」 「よくある事ですよ・・・ハハハ・・・」 女性と間違われることはよくあるので慣れてしまった。 苦笑いをしつつ、オリファーさんが本題のことについて話し始めた。 「拠点の防衛任務についている者達から要望が届いたのだが、その内容が支給された魔石だけだと補給が追いつかない、と言うものだったのだ。」 「それで大き目の魔石を作って拠点に設置しようと?」 「そういうことだ、アイリスでは目標の大きさにするまでに、1時間もかかってしまったのでな。」 「たわけ、いくらワシでもあのサイズは骨が折れるわ。」 「・・・どれくらいの大きさなんですか?」 「高さ3mの物を作りたいのだが、時間が掛かりすぎるのだ。」 「アルトから凄まじい量の魔力を感じての、出来るかも知れんと思って連れて来たのじゃ。」 「なるほど、分かりました、やってみます。」 「引き受けてくれるか、では私についてきてくれ。」 オリファーさんの後を追って長い廊下を歩いていく。 歩きながら、普段作っているサイズの魔石を、練習気味に作ってみる。 掌が淡い光に包まれ、次の瞬間には小指サイズの小さな魔石が出来ていた。 「なかなか旨いの。」 「最初はこれだけを作るのにも苦労していたけど、今ではそこまで意識しないでも作れるようになったよ。」 「練習するのはいいが、作成に支障がない程度に留めてもらえるかな?」 「大丈夫ですよ、これ位なら直ぐに補充できますから。」 「それは頼もしい限りだ、だが無理はしないでくれよ?」 そんな会話をしながら外へと出る。 室内では作れないので、屋外で作って欲しいとの事らしい。 本部の隣には、何かを支えるような土台が3つ作られており、ここに魔石を設置するようだ。 「完成した魔石はそこの土台に載せてくれ。」 「3つ作ればいいんですか?」 「うむ、でも無理はしなくていい、出来るところまでで結構だ。」 「分かりました、出来る限り早めに作りますね。」 そう言うと僕は、3つの土台に魔力を送り始めた。 本当は一つずつ作ったほうがいいのだけれど、早めに終わらせたいのでまとめて作ることにしてしまった。 「おいおい、まとめて作って大丈夫なのか?」 「アルトなら大丈夫じゃ、多分。」 「さて、書類の整理をしなければ。」 「ワシも手伝ってやろう、感謝するのじゃ。」 「すまないな、礼の変わりに紅茶の一杯でも奢ろう。」 「それならレモンティーを貰おうかの。」 そんな話をしながら二人が本部の中に入っていく。 戻ってくるまでに終わらせよう。 とんとんと、書類を束ねる音が部屋に響き渡る。 結構時間が掛かってしまったが、何とか処理できた、これもアイリスが手伝ってくれたおかげであろう。 「まったく、どれだけ放置すればこんなに書類が溜まるのか知りたいわ。」 「前線を守っている者達を、激励しに行ったりしていて、整理する暇がないのだ。」 「たわけ、優先するものが違うであろう。」 「両立できれば問題はないのだがな、何しろ部下が多すぎる。」 「贅沢な悩みじゃのう、それだけお前を慕っている者がいると言うことではないか。」 他愛もない雑談をしていると、部下の一人が息を切らして入ってきた。 「オリファー指令!大変です!」 「落ち着け、ゆっくりでいいから何があったのか説明してくれ。」 「はい、本部の直ぐ横に、突如として巨大な魔石が大量に出現しました!」 「・・・しまった!忘れていた!」 「急いで行くぞ!アルトのことが心配じゃ!」 「言われなくてもわかっている!」 大急ぎで外へと飛び出し、アルトのいた場所へ走っていくと、私はとんでもない光景を目の当たりにした。 3mほどの巨大な魔石がある、そこまではいいのだが数が問題だった。 目の前には無造作に積まれ、山のようになった魔石の塊が出来ていた。 指令本部よりも高く積まれた魔石の山に、アルトの姿は見当たらなかった。 「大至急本部内の者を全員呼べ!アルトを探すぞ!」 「了解しました!」 「どうしてこうなるまで放っておいたのじゃ!」 「おーい、こっちも引っ張ってくれ。」 「崩れるぞぉ!」 「あぶねえじゃねえか!気をつけやがれ!」 「喧嘩してないでこっちも手伝ってくれ。」 隊員達によって魔石の山が少しずつ小さくなっていく。 それでも、まだアルトの姿は見えない。 「アルト・・・無事でいてくれ・・・」 「すまない、私が書類の整理を頼んでいなければこんなことには・・・」 「それはいい、とにかくアルトが無事かどうかが心配じゃ・・・」 こんなに心配そうなアイリスの顔を見るのは初めてだ、よほどアルトという少年のことが気に入っているのだろう。 「手だ!手が見えたぞ!」 「この上のやつをどかせ!もう少しで引っ張り出せそうだ!」 「頼む・・・無事でいてくれ・・・」 しばらくして、魔石が全て撤去され、アルトが助け出された。 衛生隊員によると、命に別状は無いが、しばらく安静にしていた方がいいとのことらしい。 アルトを救護室へ運ぶように指示を出すと、アルトが数名の隊員によって運ばれて行った。 「・・・アルト・・・」 「本当にすまない・・・」 「命に別状は無かったのじゃろう?それならば問題は無い。」 「先に見舞いに行っててくれ、私は少しやらねばならんことが出来たので、後から向かう。」 分かったと言いながら、救護室へと歩いていくアイリス。 あんなに寂しそうなアイリスは始めてみるな。 ・・・なるべく時間を掛けて用事を済ませるとしようか。 これから起こるであろう事を想像した時、私は何故か笑っていた。 ・・・・・・ううん?ここは何処だろう。 僕は確か魔石を作っていたはずだけど・・・だめだ、なにが起こったのか思い出せない。 「・・・!?目を覚ましたのか!」 「ひぅ!?いきなり大声を出さないでよ、びっくりするじゃないか。」 「アルト、何故あんな無茶をしたのじゃ?」 「それがよく思い出せないんだ、何で此処にいるのかもわからないんだ」 僕がそう言うと、アイリスは事情を説明してくれた。 「そんなことがあったのか・・・」 「もしかしたら死んでしまっていたかもしれないのじゃぞ!」 「その時はその時だよ、むしろ今の今まで生き残っていることのほうが不思議なくらいだからね。」 僕がそう言い終えた瞬間、アイリスに頬を叩かれた。 「この大馬鹿者!もっとその命を大切にせんか!」 「・・・」 「・・・また一人になるのはいやじゃ・・・もう、あの孤独感は味わいたくないのじゃ・・・」 アイリスの目には、微かに涙が溜まっていた・・・ 「1000年もの間、誰一人としてワシの目に適う者はいなかった、ただひたすらに・・・孤独じゃった。」 「アイリス・・・」 「可愛い魔女達や憎たらしい狐が、少しは孤独感を忘れさせてくれた、それでも完全に消えることは無かった。」 「・・・」 「そんな時、ワシの前にお主が現れたのじゃ。」 「僕が・・・?」 「アルトはワシのことを助けてくれた、ワシのことを優しく撫でてくれた、ワシの孤独感を取り払ってくれた。」 アイリスの目に溜まった涙が、零れ落ちて、シーツに染みを作った。 「それなのに、お主はまたワシを孤独にさせるつもりなのか!またワシに孤独と言う苦しみを味わえと言うのか!」 抑えきれなくなった感情が爆発し、アイリスの目からは涙が止め処無く溢れている 「もう孤独は嫌なのじゃ・・・もう苦しみを味わいたくないのじゃ・・・」 「・・・」 僕は、何も言わずにアイリスを抱きしめた。 優しく頭を撫でると、ぎゅっと抱きついてくる。 「・・・これからも、ワシの傍にいてくれぬか?」 「うん。」 「ワシのことを毎日撫でてくれぬか?」 「うん。」 「毎日ケーキを食べさせてくれぬか?」 「一日一切れね。」 「次で最後じゃ・・・」 「ワシのことを・・・愛してくれるか?」 僕は、静かに唇を奪った、これが僕なりの答えだ。 唇を離すと、アイリスはもっとして欲しそうに見つめてきた。 もう一度、アイリスに口付けをしようとした時。 「失礼するぞ・・・っと、お楽しみ中だったか。」 「・・・オ〜リ〜ファ〜?今日と言う今日は許さんのじゃ・・・」 「まて、暴力はよくない、話し合いで解決しよう。」 「問答無用!」 「うぼぁぁぁぁぁぁ!!!」 ・・・雰囲気ぶち壊しだよ・・・ 「とにかく、アルト君に怪我が無くてよかったよ。」 「オリファーさんは重症みたいですが。」 「いい雰囲気をぶち壊した報いじゃ、これ位で済ましてやったワシに感謝するんじゃな。」 あの後、オリファーさんを部屋の隅まで追い詰めたアイリスは、暗転無し瞬極殺を見事に決めて、オリファーさんをフルボッコにしていた。 「それよりも、依頼の件について話そうか。」 「露骨に話題を変えおった・・・」 「魔石の数を確認した結果、予定の15倍の量出来ていた」 「どんな魔力をしておるのじゃアルトは・・・」 「報酬もその分増やして渡そう、また機会があったら頼むよ、無理の無い程度でな。」 「分かりました、僕が無理をすると、オリファーさんがミンチにされてしまいますからね。」 「こやつはミンチにしても、スライムの如く再生するから手に負えん。」 「それじゃあ、そろそろ帰りますね。」 「うむ、またいつでも来てくれ、美味い紅茶を用意して待っているぞ。」 オリファーさんは、本部の外まで見送りに来てくれた、それほど気に入ってもらえたのだろうか? オリファーさんにお礼を言い、僕達は本部を後にした 「・・・のう、アルトよ。」 「うん?」 「その・・・さっきは邪魔が入ってしまったが、帰ったら・・・その・・・」 「・・・可愛いなぁもう」 そう言いつつ、アイリスの頭を撫でる。 「むぅ・・・」 「分かってるよ、帰ったら・・・ね?」 「・・・何をするのか分かっておるのか?」 アイリスの問いに、僕は胸を張って言った。 「もちろん昼寝だ!」 「・・・アルトにもちょっとお仕置きが必要なようじゃな?」 「!?い、いやいらないから、ってなんで腕を振り上げているんですか!?」 「腕を振り上げなければ殴れぬじゃろう?」 「いやぁぁぁ!!!」 悲鳴を上げて逃げ出す僕、不気味な笑みを浮かべて殴りかかってくるアイリス。 笑っているアイリスの眼に、孤独の色は見えなかった
10/07/31 14:29 up
あんまり長くならなかったけど、後編です 珍しくシリアスに、そして直後に何時もののギャグに。 エッチなのは書くのが苦手なので、イチャイチャする程度の話が多くなりそうです。 白い黒猫
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