6話:家族が増えて忙しさ倍増?前編 BACK NEXT

「ここが今のところ一番安全な町か」
「今の僕達にとってはね」

リーデルから逃げ出して約6時間、途中でとらっくが大破するというハプニングに遭遇したが、皆無事にヨルムンガルドへと辿り着くことが出来た。
長時間の移動のためか、皆疲れきっているようだ。

「疲れたー、早く休みたいー。」
「・・・何処を見つめて言っているんだ。」
「あなた・・・私も休みたいわ・・・」
「アルト、何処かに休めるところは無いか?」
「うーん・・・僕もこの辺りのことはよく知らないんだ。」
「そうか、とりあえず宿屋か何かを探さないとな。」

もう休みたいと女性陣の非難の声が聞こえてくるが、その休む場所を探す為に歩き回らないといけないので、我慢してもらうしかないだろう。
そう思いながら歩き始めようとしたら、アルトが誰かに声を掛けられた。

「アルト!帰ってきておったのか!」
「今辿り着いたばかりなんだ。」
「半日ほどで行き来出来るとは、流石じゃの。」
「想定外の出来事が多発して、予定より少し遅くなってしまったけど。」

ジト目で此方を見つめている、私がなにをしたというのだ・・・

「ところで、此方の者達は誰なのじゃ?」
「僕の家族だよ、前に住んでいた所が住めなくなったから引っ越してきたんだ。」
「ふむ、住む場所は既に決まっておるのかの?」
「決まってるの?」
「決まってないな。」
「ふむ・・・それは大変じゃのう・・・」

魔物の少女が、何かを考えるように額に手を当てている。
そして、何か名案を思いついたらしく、手をポンと叩いた。

「そうじゃ、ワシの家に住めばいいではないか。」
「それだと迷惑になりそうで心配なんだけど・・・」
「ただでは住まわせんよ、家事やワシの実験の手伝いをしてもらうぞ?」
「私たちはそれでもかまわない、迷惑を掛けるかもしれないがよろしく頼む」

私は、少女に礼を述べた。
気にすることは無いと言いながら、少女が家へと案内してくれる
私達は、少女の後を追って行った
















「ここじゃ。」
「・・・予想外だ・・・」
「む?何がじゃ?」
「こんなに大きな屋敷だとは思っていなかった。」
「ふふん、ワシほどの実力者なら、これ位の屋敷を持っているのは当然のことじゃよ。」

そう言うと、アイリスは腰に手を当てて得意げに笑った。

「それぞれに部屋を用意させるとしようかの、お前達、彼らを部屋へと案内せよ。」

アイリスが魔女達を呼んで、指示をしている。
魔女達に案内されて、皆は広間から去っていった。

「さて・・・疲れたじゃろう、今日はゆっくりと休むのじゃ。」
「そうさせてもらうよ。」

あの日の夜以来、アイリスと僕は同じ部屋で、同じベッドで寝ている。
アイリス曰く、抱き心地がよくてよく眠れる、だそうだ。

そんなことを考えているうちに、寝室へと辿り着いた。

「はぁ〜・・・今日は疲れたのじゃ。」
「何かあったの?」
「ん、オリファーの奴が巨大な魔石を作れないか?とか言い出して来ての。」
「既存の魔石をくっつければいいんじゃないの?」
「それでもいいのじゃが・・・魔力の性質の違いで、予期せぬ事故が起こる可能性もあるからの。」

アイリスが言うには、人によって魔力の性質が違ったりするらしく、相性の悪い魔力を融合させると暴発したりするらしい。
リスクの高い魔石の融合をするよりは、一度の魔石作成で大きなものを作るほうが安全らしい。

「久々に魔石を作ったのじゃが、あまりいい出来ではなかったのじゃ・・・悔しいのう・・・」
「僕に手伝えることはあるかい?なんでも言ってよ。」
「ふむ・・・アルトは魔石を作れるのかの?」
「作れるよ、商品にしたり価値調節に使ったりしていたからね。」
「それなら、明日オリファーの所へ共に行こうかの。」

分かったと言いながら、僕はベッドの中へ入る。
アイリスも、ベッドの横に置かれたランプの火を消してから、ベッドの中に入ってきた。

「お休みなのじゃ。」
「お休みアイリス。」

気づかない内に、アイリスの頭を撫でていたようだ。
しかし、アイリスは嫌がる様子は無く、されるがままになっている。
そのままアイリスは、目を閉じて安らかな寝息をたて始めた。

アイリスの寝顔を見ながら、僕は静かに目を閉じた。
















「・・・のじゃ、早く起きるのじゃ!」

アイリスの声で目が覚める、耳元で大声を出されるとびっくりするのでやめて欲しいのだけど。

「もう少し寝たい、後五分・・・」
「何を言っておる、早起きは三文の得と言う言葉があるであろう、早く起きるのじゃ。」
「その前に、三文って何?」
「む・・・さ、三文は三文じゃ!いいから早く起きんか!」

顔を真っ赤にして、手をバタバタと振りながら叫んでいる。
アイリスを弄るのはこれ位にして、そろそろ起きることにしよう。

「あ、着替えるから向こうを向いてくれるかい?」
「分かったのじゃ。」

そう言うと、アイリスは向こう側を向いてくれた。
その間に僕は、寝巻きから普段着に着替える。

「お待たせ。」
「うむってなんじゃ、何も変わっておらぬじゃないか。」
「失敬な、同じに見えてもちゃんと分けてるんだよ。」
「違いがないと区別がつかんぞ。」
「ちなみに同じのが30着ほどあるよ。」
「そんなにあるのか!?」

すごく驚いているようだけど、実際に30着あるのだから仕方がない。
お母さんが、全部30分で作ってくれました、どう見ても作りすぎです。

「まあよい、早く朝食を食べて出かけるぞ。」
「オリファーって言う人の所に行くんだっけ?」
「うむ。」

今日の予定を確認しつつ、食堂へと向かう。
今日の朝食はなんだろうか・・・楽しみだ。
















食堂へ入ると、食欲をそそる良い匂いが漂ってきた。
厨房の方に目を向けると、ウィルがもの凄い勢いで野菜を滅多切りにしていた。
・・・今のは見なかったことにしよう。

「おはよう、随分と遅い目覚めのようだな。」
「お父さんは随分と早起きなんだね。」
「何時までも寝ていると二人に襲われかねないのでな。」
「「二人って誰のことかしら?」」
「・・・何でもない。」

お母さん達の威圧感に押されたのか、お父さんはまた静かに本を読み始めてしまった。
・・・女の人の強さの片鱗を垣間見た気がする。
そう思いつつ、妙に騒がしい厨房を背にして、席についた。

「・・・おはよう・・・お兄様。」
「おはようクリス、よく眠れたかい?」
「・・・うん。」
「そういえば、姉さんが見当たらないけど。」
「ミネルバは謎の腰痛に見舞われて、部屋で安静にしている。」

・・・なんとなく原因が分かった気がする・・・

「皆さんお待ちかねの朝食が出来たぞー。」
「どんな料理か楽しみじゃの♪」
「厨房から聞こえていたありえない騒音は無視ですか。」
「大丈夫ですよー、一応形にはなってますから。」
「そうですよ、途中経過は別としておいしく出来ましたから。」
「ウィルさんの包丁・・・もとい、刀捌きはかなりのものでしたよ。」
「その言い方だと、不安しか残らないのだが・・・」

そんなやり取りをしているうちに、完成した朝食がテーブルへと運ばれてくる。
なるほど、確かに美味しそうだ。

「俺に捌けない食材は多分無い!」
「・・・何故多分?」
「細かいことはいいのじゃ、早く食べようぞ。」
「そうだね、何かあったら兄さんのせいにすればいいし。」

そう言うと、兄さんは苦笑いを浮かべつつ、そろそろ食べようかと言った。
兄さんの一言を聞いて、皆は手を合わせた。

「「「いただきまーす。」」」

スープを一口啜る・・・

「・・・・・・」
「お味のほうはどうかな?」
「・・・ぎる。」
「ん?」
「美味すぎる!」
「そうかそうか、まだたくさんあるから食べてくれよ。」

手が勝手に口の中へと料理を運んでしまう、それくらいに美味い。
皆も同じ状態らしく、特にクリスは、普段のクリスからは想像できない速さで食べている

余っていた分の朝食が、あっという間に無くなってしまった。
皆は、満足した様子で手を合わせた。

「「「ごちそうさまー。」」」

朝食を食べ終えて、ウィルと三姉妹が食器を片付け始める
三姉妹が言ったとおり味に問題は無く、あの謎の騒音の中で作られたとは思えないほど美味しかった。
程よくお腹が膨れて、食後の昼寝を楽しもうとしたとき、アイリスに無理やり起こされてしまった。

「何をしておる、オリファーのところへ行くぞ。」
「むぅ、もう少しで眠れそうだったのに。」
「帰ってきてから寝ればいいだろう、とにかく行くぞ。」
「分かったよ、それじゃあ行って来るね。」
「気をつけて行ってくるのよ。」

お母さんに見送られて、僕とアイリスは屋敷を出た
10/07/30 00:36 up
やや長めになりそうなので、前後で分けることにしました。

後編は近いうちに・・・
白い黒猫
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