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「ここが今のところ一番安全な町か」 「今の僕達にとってはね」 リーデルから逃げ出して約6時間、途中でとらっくが大破するというハプニングに遭遇したが、皆無事にヨルムンガルドへと辿り着くことが出来た。 長時間の移動のためか、皆疲れきっているようだ。 「疲れたー、早く休みたいー。」 「・・・何処を見つめて言っているんだ。」 「あなた・・・私も休みたいわ・・・」 「アルト、何処かに休めるところは無いか?」 「うーん・・・僕もこの辺りのことはよく知らないんだ。」 「そうか、とりあえず宿屋か何かを探さないとな。」 もう休みたいと女性陣の非難の声が聞こえてくるが、その休む場所を探す為に歩き回らないといけないので、我慢してもらうしかないだろう。 そう思いながら歩き始めようとしたら、アルトが誰かに声を掛けられた。 「アルト!帰ってきておったのか!」 「今辿り着いたばかりなんだ。」 「半日ほどで行き来出来るとは、流石じゃの。」 「想定外の出来事が多発して、予定より少し遅くなってしまったけど。」 ジト目で此方を見つめている、私がなにをしたというのだ・・・ 「ところで、此方の者達は誰なのじゃ?」 「僕の家族だよ、前に住んでいた所が住めなくなったから引っ越してきたんだ。」 「ふむ、住む場所は既に決まっておるのかの?」 「決まってるの?」 「決まってないな。」 「ふむ・・・それは大変じゃのう・・・」 魔物の少女が、何かを考えるように額に手を当てている。 そして、何か名案を思いついたらしく、手をポンと叩いた。 「そうじゃ、ワシの家に住めばいいではないか。」 「それだと迷惑になりそうで心配なんだけど・・・」 「ただでは住まわせんよ、家事やワシの実験の手伝いをしてもらうぞ?」 「私たちはそれでもかまわない、迷惑を掛けるかもしれないがよろしく頼む」 私は、少女に礼を述べた。 気にすることは無いと言いながら、少女が家へと案内してくれる 私達は、少女の後を追って行った 「ここじゃ。」 「・・・予想外だ・・・」 「む?何がじゃ?」 「こんなに大きな屋敷だとは思っていなかった。」 「ふふん、ワシほどの実力者なら、これ位の屋敷を持っているのは当然のことじゃよ。」 そう言うと、アイリスは腰に手を当てて得意げに笑った。 「それぞれに部屋を用意させるとしようかの、お前達、彼らを部屋へと案内せよ。」 アイリスが魔女達を呼んで、指示をしている。 魔女達に案内されて、皆は広間から去っていった。 「さて・・・疲れたじゃろう、今日はゆっくりと休むのじゃ。」 「そうさせてもらうよ。」 あの日の夜以来、アイリスと僕は同じ部屋で、同じベッドで寝ている。 アイリス曰く、抱き心地がよくてよく眠れる、だそうだ。 そんなことを考えているうちに、寝室へと辿り着いた。 「はぁ〜・・・今日は疲れたのじゃ。」 「何かあったの?」 「ん、オリファーの奴が巨大な魔石を作れないか?とか言い出して来ての。」 「既存の魔石をくっつければいいんじゃないの?」 「それでもいいのじゃが・・・魔力の性質の違いで、予期せぬ事故が起こる可能性もあるからの。」 アイリスが言うには、人によって魔力の性質が違ったりするらしく、相性の悪い魔力を融合させると暴発したりするらしい。 リスクの高い魔石の融合をするよりは、一度の魔石作成で大きなものを作るほうが安全らしい。 「久々に魔石を作ったのじゃが、あまりいい出来ではなかったのじゃ・・・悔しいのう・・・」 「僕に手伝えることはあるかい?なんでも言ってよ。」 「ふむ・・・アルトは魔石を作れるのかの?」 「作れるよ、商品にしたり価値調節に使ったりしていたからね。」 「それなら、明日オリファーの所へ共に行こうかの。」 分かったと言いながら、僕はベッドの中へ入る。 アイリスも、ベッドの横に置かれたランプの火を消してから、ベッドの中に入ってきた。 「お休みなのじゃ。」 「お休みアイリス。」 気づかない内に、アイリスの頭を撫でていたようだ。 しかし、アイリスは嫌がる様子は無く、されるがままになっている。 そのままアイリスは、目を閉じて安らかな寝息をたて始めた。 アイリスの寝顔を見ながら、僕は静かに目を閉じた。 「・・・のじゃ、早く起きるのじゃ!」 アイリスの声で目が覚める、耳元で大声を出されるとびっくりするのでやめて欲しいのだけど。 「もう少し寝たい、後五分・・・」 「何を言っておる、早起きは三文の得と言う言葉があるであろう、早く起きるのじゃ。」 「その前に、三文って何?」 「む・・・さ、三文は三文じゃ!いいから早く起きんか!」 顔を真っ赤にして、手をバタバタと振りながら叫んでいる。 アイリスを弄るのはこれ位にして、そろそろ起きることにしよう。 「あ、着替えるから向こうを向いてくれるかい?」 「分かったのじゃ。」 そう言うと、アイリスは向こう側を向いてくれた。 その間に僕は、寝巻きから普段着に着替える。 「お待たせ。」 「うむってなんじゃ、何も変わっておらぬじゃないか。」 「失敬な、同じに見えてもちゃんと分けてるんだよ。」 「違いがないと区別がつかんぞ。」 「ちなみに同じのが30着ほどあるよ。」 「そんなにあるのか!?」 すごく驚いているようだけど、実際に30着あるのだから仕方がない。 お母さんが、全部30分で作ってくれました、どう見ても作りすぎです。 「まあよい、早く朝食を食べて出かけるぞ。」 「オリファーって言う人の所に行くんだっけ?」 「うむ。」 今日の予定を確認しつつ、食堂へと向かう。 今日の朝食はなんだろうか・・・楽しみだ。 食堂へ入ると、食欲をそそる良い匂いが漂ってきた。 厨房の方に目を向けると、ウィルがもの凄い勢いで野菜を滅多切りにしていた。 ・・・今のは見なかったことにしよう。 「おはよう、随分と遅い目覚めのようだな。」 「お父さんは随分と早起きなんだね。」 「何時までも寝ていると二人に襲われかねないのでな。」 「「二人って誰のことかしら?」」 「・・・何でもない。」 お母さん達の威圧感に押されたのか、お父さんはまた静かに本を読み始めてしまった。 ・・・女の人の強さの片鱗を垣間見た気がする。 そう思いつつ、妙に騒がしい厨房を背にして、席についた。 「・・・おはよう・・・お兄様。」 「おはようクリス、よく眠れたかい?」 「・・・うん。」 「そういえば、姉さんが見当たらないけど。」 「ミネルバは謎の腰痛に見舞われて、部屋で安静にしている。」 ・・・なんとなく原因が分かった気がする・・・ 「皆さんお待ちかねの朝食が出来たぞー。」 「どんな料理か楽しみじゃの♪」 「厨房から聞こえていたありえない騒音は無視ですか。」 「大丈夫ですよー、一応形にはなってますから。」 「そうですよ、途中経過は別としておいしく出来ましたから。」 「ウィルさんの包丁・・・もとい、刀捌きはかなりのものでしたよ。」 「その言い方だと、不安しか残らないのだが・・・」 そんなやり取りをしているうちに、完成した朝食がテーブルへと運ばれてくる。 なるほど、確かに美味しそうだ。 「俺に捌けない食材は多分無い!」 「・・・何故多分?」 「細かいことはいいのじゃ、早く食べようぞ。」 「そうだね、何かあったら兄さんのせいにすればいいし。」 そう言うと、兄さんは苦笑いを浮かべつつ、そろそろ食べようかと言った。 兄さんの一言を聞いて、皆は手を合わせた。 「「「いただきまーす。」」」 スープを一口啜る・・・ 「・・・・・・」 「お味のほうはどうかな?」 「・・・ぎる。」 「ん?」 「美味すぎる!」 「そうかそうか、まだたくさんあるから食べてくれよ。」 手が勝手に口の中へと料理を運んでしまう、それくらいに美味い。 皆も同じ状態らしく、特にクリスは、普段のクリスからは想像できない速さで食べている 余っていた分の朝食が、あっという間に無くなってしまった。 皆は、満足した様子で手を合わせた。 「「「ごちそうさまー。」」」 朝食を食べ終えて、ウィルと三姉妹が食器を片付け始める 三姉妹が言ったとおり味に問題は無く、あの謎の騒音の中で作られたとは思えないほど美味しかった。 程よくお腹が膨れて、食後の昼寝を楽しもうとしたとき、アイリスに無理やり起こされてしまった。 「何をしておる、オリファーのところへ行くぞ。」 「むぅ、もう少しで眠れそうだったのに。」 「帰ってきてから寝ればいいだろう、とにかく行くぞ。」 「分かったよ、それじゃあ行って来るね。」 「気をつけて行ってくるのよ。」 お母さんに見送られて、僕とアイリスは屋敷を出た
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