8話:白熱!闘技大会 前編 BACK NEXT

「人が一杯・・・魔物も一杯・・・」
「他方から腕に覚えのある者達が集まってきてるおるからの、ここを制覇すると言うのは冒険者としての名を広めるのに十分すぎる働きをしてくれるからの。」
「そうなんだ・・・なんだかすごく帰りたくなってきたよ。」
「何を言っておる、今こそ遺跡での修行の成果を見せるときじゃ!」
「修行じゃなくて、拷問に近かったけどね」

アイリスの無茶振りから約一週間、とうとう僕の意見が受け入れられないまま、闘技大会の日が来てしまった。
入り口には人だかりが出来、この蒸し暑さと圧迫感だけでノックアウトされそうになっている。

「さて、受付を済ませて来るのじゃ。」
「はぁ・・・やっぱり行かないといけないか・・・」

意気消沈しつつも、受付へと歩み寄り、登録をしてもらう。

「登録完了いたしました、ルールの方については開会式にて会長より説明がありますので、それまでお待ちください。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「選手控え室は向こうの廊下の突き当りです、開会式が始まるまでそちらでお休みください」

受付を済ませて、控え室の方へ歩いていく。
すると突然、誰かに服を引っ張られた。
振り返ってみると、妹のクリスが僕の服を引っ張っていた。

「・・・お兄様・・・」
「クリスか、どうしたんだい?」
「・・・私も・・・出るの・・・」
「・・・なんだって?」
「・・・負けないから・・・」

そう言うと、クリスは反対側へと歩いて行ってしまった
予想外の所から強敵が・・・優勝は諦めた方がいいのだろうか・・・
不安に駆られながら、控え室の中へと入っていった。
















「えー皆さん、本日はお日柄もよく、絶好の大会日和となりました。
 皆さんお待ちかねの、[第29回 ヨルムンガルド大闘技大会]の開催を、ここに宣言いたします。」

会長の開催宣言に、観客からの歓声が上がる。
会長は、手を上げて観客達を制すると、さらに話し始めた。

「それでは、選手の皆さんにルールの説明をします。
 1.最大3VS3のトーナメント制チームマッチ、一人の場合はアイテムの使用を許可します。
 2.先に相手チームを全員気絶させるか、リング下の地面に触れさせれば勝利となります。
 3.相手を死亡させた場合、反則負けとし、無期限の大会出場停止となります。
 4.武器の使用については、自立起動型古代兵器のみ、使用禁止となります。
 5.戦闘中に色事は行わないでください。
 以上の5つが主なルールとなります、違反した場合反則負けになりますので、注意してください。」

チームマッチだって?そんなこと聞いてないぞ?
・・・あぁ、嵌められたのか・・・

「それでは、選手の皆さんは控え室でお待ちになってください。
 トーナメント表が完成次第、各控え室の方に配られますので、各自確認をお願いします。
 なお、控え室内には、試合の様子を確認できる魔道鏡を設置しているので、対戦相手の試合を見たりするのに使ってください。」

会長の長い話が終わり、選手が控え室へと戻っていく。
僕も、彼らの後を追うように、控え室へと向かった。
















「さて・・・」

控え室に戻った僕は、持ち込んだ袋の中から複数の商品を取り出して、並べ始めた。
選手相手に商売をすれば、いくらか売れるだろう。
怪しまれそうな気もするけど・・・

「そこのお前、何をやっている。」
「見たとおり商品を並べているんだよ、欲しい物があったら言ってね。」
「・・・呆れて何も言えん。」
「品質は保証するよ、値段も・・・まあ気にしないでくれ。」
「一つ聞くが・・・飲み物や食べ物はあるのか・・・?」
「一応あるよ、必要なときは言ってね。」

怪しまれてはいるものの、問題ない程度のようだ。
他の選手相手に商売を始めようとしたとき、控え室のドアが開いた。

「トーナメント表が完成しました、ここに貼っておきますので各自でご確認ください。」

そう言って、係員の人は壁に一枚の紙を張り付け、控え室を出て行った。
その紙の前へ行き、内容を確認してみる。

「僕は2戦目か・・・」
「俺様たちとお前が当たるのか・・・お前も運がねえな。」

突然、後ろの方から威勢のいい声が聞こえてくる。
振り返ると、筋肉隆々のいかにも戦士ですと言わんばかりの男が3人立っていた。

「貴方達が僕と当たる人ですか、よろしくお願いします。」
「ちゃんと挨拶が出来るとは利口なガキだな。」
「褒美に、なるべく苦しまないように速攻でケリをつけてやるよ。」
「まあ、俺達に当たったのが運の尽きだと思って諦めるんだな。」
「「「ガハハハハハ!!!」」」

三人そろって大笑いしている、余程腕に自信があるのだろう。
こういうのをかませナントカって言うって聞いたけど・・・何だったっけ?思い出せないや。

『さあ!第一回戦始まりました!』

魔道鏡から、声が聞こえてくる。
どうやら一回戦が始まったらしい、僕も次に備えて準備をしよう。
自立起動はダメって言ってたし・・・どうしよう・・・
とりあえず毛玉には店番でもしてもらおうか。
あ、そういえばフォトンって名前だったっけ?この毛玉。
フォトンに店番をさせている間に準備でもしようか。
槍と鞭、手投げアイテム等を取り出して、一つ一つ点検をしていく。
自分の命を預ける武器だからこそ、沢山あっても一つ一つ丁寧に整備することが大切だと思う。

「これはいくらだ?」
「ジーッ(口の部分から、色付けされた数字が書かれた紙が出てきた)」
「む?・・・銅貨三枚・・・と言うことか?」
「コクッ」

意外なことに、フォトンはちゃんと店番が出来ているようだ。
この分なら安心して戦えるかな。

『勝負あり!勝者チーム・エル!』

魔道鏡から、大きな歓声と共に司会者の声が聞こえてくる。
僕も一回戦を無事に突破できるように頑張ろう。
僕は自分の武器を背負い、控え室の扉を開けた
















『さあ!第一回戦二戦目!選手入場です!』

凄まじい歓声が響き渡ると同時に、闘技場の門が開かれた。
こんなに盛り上がるのか・・・みっともない試合だけはしないようにしよう・・・

『二戦目対戦選手の発表です!
 荒野の暴れ牛 ブルファイターズ!』

対戦相手が、自らの筋肉をアピールするようなポーズを取ると、観客席から歓声が上がった。

『続きましては、
 走る古代兵器 アルト=V=ラグナロック!』

僕も何かをした方がいいだろうか・・・とりあえずお辞儀でもしようか。
歓声は・・・あまり聞こえてこない、無理もないか・・・グスン・・・

『それでは!第一回戦二戦目・・・始め!!』

試合開始宣言と共に、より一層大きな歓声が闘技場内を埋め尽くした。
背負っていた槍を構え、様子を伺う。

「うぅおらぁぁぁ!!」

巨大な斧を高く掲げ、相手の一人が突っ込んできた!
それに続くように、残りの二人も突っ込んでくる。
こんな単調な動き・・・しかも一列に・・・あれをやるしかないね!

「よっと!」
「なにぃ!?飛んだ!?」
「ふぐっ!俺を踏み台にしただと!?」
「畜生!なんて身軽さだ!」

最も手前の敵を踏み台にし、高く飛び上がる。
すぐさま後ろに向き直り、下に向かってバルカンをばら撒く。

「S.N.バルカン!」
「ぐっ!防ぎきれねぇ!」
「こいつ・・・当たると弾けるぞ!?」

うまく混乱させることが出来たようだ。
綺麗に一列に並んでくれてるんだし、有効活用しないとね!
着地すると同時に斜めに武器を振り回しながら、敵に向かって走り出した!

「そらそら!天高く吹き飛べ!」

当たっているのにあまり手ごたえを感じない、この武器は相手の重さに関係なく吹き飛ばせるのだろうか?
大の男三人が振り回された槍になぎ払われ、場外へと叩き落されていく。
一人だけ、リーダー格であろう男はギリギリの所に落ちたようだが。

「クソッ!こんな一人のガキに・・・!」
「よそ見している暇はないと思うけど?」
「な・・・何処だ!?」
「チェックメイトだ!」

上空から、男に向かって突撃を仕掛ける。
寸でのところで気づかれて防がれたが、防いだときの衝撃で、場外へと落ちてしまったようだ。

『勝負あり!勝者アルト=V=ラグナロック!』
「強いかと思ったけど・・・期待外れだったかな。」

周囲から大きな歓声が沸き、場内がさらに騒がしくなった。
僕は、槍を背負って控え室へと向かった。
















「よう、一回戦勝ち抜いたんだってな。」

武器の整備をしていると、突然声を掛けられた。
声のした方を見上げると、一人の青年とリザードマンが目の前に立っていた。

「貴方達は・・・チーム・エルの人たちでしたっけ?」
「ああ、第二回戦で戦うことになるが、まあよろしく頼む。」
「・・・ふん」

リザードマンの方はそっぽを向いてしまった、あまりよく思われていないようだ。

「珍しい槍を持ってるな、ちょっと見せてくれないか?」
「かまいませんよ、どうぞ。」
「ありがt!?」

槍を渡し、手を離した瞬間、青年は槍を落としてしまった。

「何だこれ、重すぎる。」
「貸してみろ・・・うぐぐ・・・」

じれったそうに見ていたリザードマンが、痺れを切らして青年を押しのけた。
それでも持ち上げれてないけど。

「何をどうしたらこんなに重くなるんだ?」
「うーん・・・遺跡で手に入れたものだから、詳しいことは僕もわからないんだ、ごめんね。」
「いやいや、謝らなくてもいいって。」

青年と僕が話している間も、リザードマンは槍を持ち上げようと奮闘している。
あ、少しだけ持ち上がった。

「リン、もう諦めたらどうだ?」
「五月蝿い!ここまで来て引き下がれるか!ぬおおぉぉぉ!」
「持ち上がった!?」

リザードマンの底力とはこんなにすごいものなのか・・・彼でも持てなかった槍を気合一つで持ち上げてしまった。
とは言っても、持つだけで精一杯のようで、足がプルプル震えているけど。

「フ、フフフ、この私にかかればこれくらい・・・!」
「・・・ニヤリ」
「エル?どうしたんだ?」
「くすぐったらどうなるのかなーと・・・ね・・・」
「!?まて!今は不味い!」
「わかった・・・と見せかけてほれほれ〜(コチョコチョ」
「ひゃぅ!?やめっ・・・くすぐっtあはははひゃ!」

エルと呼ばれた青年が、隙を見てリンさんをくすぐり始めた。
不意を突かれ、重い槍を持っているリンさんは、抵抗できずにされるがままになっている。
・・・なんだか、すごく嫌な予感がしてきた・・・

「ひゃはははは!あ、後で覚えtあひゃひゃひゃ!」
「それは大変だ、今の内にやれるだけやっておかないと(コチョコチョ」
「そ、そんなにくすぐったら・・・も、もうだめあひゃひゃひゃ(ポロッ」
「え?」
「ガンッ)ヨコハマ!!!」

無茶しやがって・・・
くすぐられすぎて、手の力が緩んだ結果、持っていた槍がリンさんの足に落ちた。
意味不明な叫び声を上げ、足を押さえながら悶絶している・・・すごくいい音がしたなぁ・・・

「あ・・・その・・・すまん。」
「貴様・・・今ここで血祭りに上げてやる!!」
「ちょ!?まて落ち着k」
「ミンチにしてくれるわぁぁぁ!!!」

・・・係員を呼んだほうがよさそうだ・・・




『えー、大変申し訳ありませんが、トラブルが発生しチーム・エルが棄権したため、アルト選手が不戦勝となりました。』

係員を呼んで戻って来た時には既に遅く、リンさんが意識を失ったエルを笑顔で踏み躙っている光景を目撃することとなった。
本当にリザードマンって怖い。
リンさんは足を負傷、エルさんは筆舌し難い重症を負って、二人仲良く救護室へと運ばれていった。
その結果、対戦相手のいない僕は、戦わずに二回戦を突破することとなった。
・・・なんだろう・・・このやりきれない気持ちは。
















「まいどありー」
「どうも。」

相変わらず、控え室内の選手相手に商売をしている。
今のところ、飲み物や食べ物の売り上げが凄いことになっている。
外に買いに行かなくても、気軽に買えるのがいいらしい。

「そういえば、あんたも三回戦出るんだったな。」
「はい、三回戦の相手のことはよくわからないですが。」
「グレイって奴だったか・・・あいつは危険な香りがプンプンするぜ。」

こんな具合に、情報収集も出来る。
あぁ、行商人ってすばらしい・・・

「奴の魔法は今まで見たことのないような、不思議な魔法ばかりだった。」
「対峙したんですか?」
「魔道鏡を見てそう思った。」
「・・・どんな感じの魔法ですか?」
「なんて言うんだろうな・・・確実に相手を仕留めようとするような殺気に包まれた・・・とにかくもの凄く曲がるぞ。」
「曲がる・・・ふむ、情報ありがとうございます。」
「いいってことよ、ただしドリンクをよこs」
「お礼と言ってはなんですが、ドリンクとサンドイッチをどうぞ。」
「・・・どうも。」

何かを言い掛けていた様だけど、それを遮ってドリンクとサンドイッチを押し付ける。
突然のことで戸惑っているようだけど、気にしない、気にしたら負けな気がする。

「お?第二回戦の全試合が終わったようだぞ。」
「第三回戦の始めですからね、そろそろ行かないと。」
「気ぃつけろよ。」
















『さあ!皆さんお待ちかねの第三回戦!一試合目の出場者の発表です!』

ドアの前には、対戦者と思われる男が立っていた。
僕は、男の隣に立ち、試合が始まるのを待っていた。

「・・・貴様が俺様の対戦相手か?」
「はい、よろしくお願いします。」
「俺を楽しませることだな、さもなくば容赦無く斬る。」
「・・・善処しますよ。」

・・・少し感じ悪い人だな・・・
勝つなら勝つで早めに終わらせたい。

『大変お待たせいたしました!選手の入場です!』

一際大きな歓声と共に、ドアが開く。
僕は、ゆっくりとリングへと上がった。




『さあ!第二回戦を勝ち上がってきた選手による熱い戦いが今まさに始まろうとしています!
 まずは、走る古代兵器!アルト=V=ラグナロック!』

僕は、静かにお辞儀をする。
歓声の上がるようなパフォーマンスでもないのに、歓声が上がる、少し恥ずかしいかな・・・

『続きましては!
 漆黒の破壊王!グレイ=ノルマン!』

特に何もするような素振りはないが、大きな歓声が上がった。

『それでは!第三回戦一試合目・・・始め!』

一際大きな歓声が上がる、あまり聞き慣れるようなものではないね・・・
槍を構えようと後ろに手を回すと、相手がいきなり攻撃をしてきた!
寸でのところで避けることが出来たが、少し遅かったら先制攻撃を食らっていただろう。

「いきなり何するんだ!危ないじゃないか!」
「隙を作ったお前が悪い、どんな手を使ってでも勝てばいいのだ!」
「くっ!?」

相手の掌から黒い塊が飛び出し、僕の方に向かって飛んでくる。
素早く横に飛び避ける。

「なっ!?」
「どうした?その程度の動きでは俺様の魔法からは逃げれんぞ?」

塊の速度はそこまで速くない、見てからでも十分回避できる速さだ。
でも、誘導の仕方がおかしい、どんな動きで避けてもこちらに向かって直進してくる。
回避することを諦め、塊に向かってナイフを投げつける。
凄まじい速さで投げられたナイフは、塊を切り裂き飛散させつつ、相手に向かって一直線に飛んでいく。
しかし、あっさりと避けられ、また黒い塊を撃ちだす。
数え切れないほどに。

「ククク、貴様では俺には勝てん、諦めろ。」
「くっ・・・このままでは・・・」

何とか防いでいるが、このままでは場外に落ちてしまう・・・
何か・・・何か有効な手立ては・・・
闘技場のよく見ると、綺麗な円になっているようだ。
この方法ならできるか?・・・失敗したら即失格だが・・・

「・・・一か八か・・・やるしかないか。」

僕は武器を振り回しながら、少しずつ前進する。
少しでも、闘技場の壁が斜めになっていることを願うしかない。

「つまらん・・・落ちろ!」

そう言うと、より大きな塊を撃ちだしてきた!
それを合図に、全速力で場外へ向かって走り出した!

「ふん、場外に落ちて逃げるつもりか?」
「場外には出るね、惜しいのは落ちることは無いってことかな!」

リングの端ギリギリまで走り、そのままの勢いで壁に向かって飛んだ!

「な、なんだと!?」
「うおおぉぉ!!」

驚いたような声が聞こえたが、今はそんなことを考える余裕は無い。
何故なら・・・僕は今、壁を走っているからだ!

「貴様!それは反則だぞ!」
「確かにリングの下に落ちたら失格だね、だが壁を走るのが失格とは言われてない!」

屁理屈にしか聞こえないだろうが、本当に壁の事は何も言われていない。
落ちないようにどんどん加速していく、大分安定してきたな。

「舐めやがって・・・くたばれ!」

そう言うと、次々と黒い塊を乱射してくる。
撃ちだされた塊が、僕の後を追う様に長い列を作り出している。
この塊をうまく活用できないか・・・誘導が強いし難しいだろうか・・・
誘導が強い?・・・なるほど・・・

「そろそろ反撃させてもらおうか!」
「クズが!やれるものならやってみろ!」

壁を蹴り、リングへと戻りながら僕は叫んだ!

「クロックアウト!」

僕を追っていた塊も、対戦相手も、何もかもが止まった。
素早くグレイの目の前に、引力のトラップを仕掛ける。

「G.トラップ!」

後はグレイの後ろに立つだけだ、それだけでいい。

「そして時は動き出す。」

周囲の時が動き出すと同時に、仕掛けたトラップにグレイが引き寄せられていく。

「ぐ!?動けんだと!?」
「自分の魔法に随分と自信があったんだね、一度ご自慢の魔法に焼かれるといい。」

僕を直線的に追う軌道、たとえ目の前に何があろうとも。
その軌道を利用すれば、使用者にぶつける事も出来る。

「クソがぁぁぁぁ!!!」
「チェックメイト・・・だ。」

黒い塊が、次々とグレイに直撃していく。
自分の魔法に自分で焼かれるとは・・・皮肉な話だ。
勝負あり・・・かな?

「クソガ・・・コノオレヲコケニシヤガッテ・・・!」

・・・どうやらまだ終わりではないらしい。
少し様子が変だな・・・何が来るのやら・・・

「キサマダケハユルサン・・・コロスコロスコロスゥ!!!」

突然、グレイに顔を掴まれ、体が宙に浮いた!
これってまさか・・・

「シネ!」

そんな声が聞こえた後、お腹に凄まじい痛みが走った。
顔から手が離されても、体は浮いたままだ。
ゆっくりと下を見ると、僕のお腹に深々と黒い剣が突き刺さっていた。
グレイが剣を振るい、僕をリング上に捨てるように放った。
力無くリングの上に横たわる・・・血が滲み出し、少しずつ血溜まりが広がっていく・・・

「サラバダ・・・アワレナニンゲン。」

グレイが剣を振り上げるのが見える・・・
あぁ・・・僕はここで死ぬのか・・・
不思議な浮遊感に包まれ、体が宙に浮く感覚を感じながら、僕は意識を手放した・・・





     

     

   


     


「・・・ん、アルトさん!」

体を揺すられる感覚と、誰かに呼ばれる声で、目を覚ます。
僕は・・・助かったのか・・・?

「一体何が・・・ぐぅ!」
「動かないでください!重症なんですよ!」

体を起こそうとすると、腹部に激しい痛みがはしった。
・・・そういえば対戦者はどうなったのだろうか・・・

「対戦者の・・・グレイさんはどうなったんですか?」
「グレイさんは、貴方に止めを刺そうとしましたが、貴方の攻撃で場外に吹き飛ばされたため、失格となりました。」
「吹っ飛ばした・・・?」
「宙に浮いて閃光を放ったじゃないですか、覚えてないんですか?」
「うーん・・・よく覚えていないや・・・」
「とにかく、今回の事件の影響で、準決勝と決勝戦の開催日が延期になりました。」
「・・・ごめんなさい。」
「謝ることではないですよ、それよりも家が見えてきましたよ。」

どうやら、今の今まで運ばれていたらしい。
屋敷に着くなり、目に涙を溜めたアイリスに抱き付かれて、反対側からもクリスに抱き付かれて、大泣きされたのは言うまでもない。
心配させてしまったのは申し訳ないけど、抱き付かれて嬉しく感じてしまった・・・
・・・僕は何時からこんな変態になってしまったんだ・・・
僕は、寝室へと運ばれながら、激しい痛みと幸福感に身を委ねていた
10/09/15 12:06 up
これだけでも十分長いですが、前後に分けての更新です。
大怪我を負っても幸せなアルトさん、マゾではないよ!

後編はもう少し先になりそうですが、期待せずにお待ちください。
白い黒猫
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